〇地球・西欧地方・シャクヤク・格納庫──アリサ

「ふぅっ…」

私は出撃から帰還して格納庫に降り立った。
もう西欧地方はかなりチューリップを撃破出来て…あと数か月もあれば、
完全に平和を取り戻せるかもしれないところまで来た。
…ほんと、ここまで長かったけどシャクヤクが来てからは早かったわ。
エステバリスを導入してからかなり押し返せるようにはなってきてたけど、
さすがに数で圧倒的に劣るし、チューリップの撃破は大変だからまだ時間はかかりそう。
それに、木星トカゲの連中とも和解できるかもしれないって話にもなってるし…。
…やっぱり戦争になるような状態じゃ、あっちに人間がいないわけないわよね。

とはいえ、戦力を奪ったヤマサキって危険な科学者の事も気になる。
一人で木星を制圧した手腕といい…油断できない。
もっともそれ自体が木星の罠かもしれないっていうのは未だにあるけどね。

「アリサちゃん、お疲れー!
 これ俺のおごりねー!」

「サンキュ、ごちそうさま」

整備員の一人…確かサイトーって言ったかしら。
彼は私に缶ジュースを投げると、さっさと整備に戻っていった。
何度か口説こうとしてきたから肘鉄砲で押し返してやったけど、
まだあきらめてないんじゃないかしらね。


ぴっ!



『アリサ中尉、グラシス中将より連絡だ。
 何でも、至急の連絡だそうだ』

「はっ!ただいま出頭いたします!」

私はシュン艦長に返事をすると、さっきもらった缶ジュースを一息で飲み干して、
くずかごに投げてブリッジに向かった。

そしてブリッジでおじい様に聞かされたことに私はひどく驚いた。

「ホシノアキトの専用機のテストパイロットを!?
 それも実戦で扱って欲しいと!?」

『そうだ。
 お前の戦果、パイロットの訓練カリキュラム構築の功績から、
 彼の専用機のテストパイロットを任せられるのはお前しかないと判断された。
 ネルガルからの依頼だ』

おじい様の言いようから、私の実力がかなり買われてるのが分かった。
この間昇進もしたし、連合軍のエステバリスライダーの中で一番戦ったという自負はある。
でも…。

「しっ、しかし、実戦でテストですか…」

『実戦でだ。
 あまりに高性能な機体のため、通常のテストが難しく、
 信頼できる人間に預ける必要があるということらしい。
 本来、ホシノアキトに匹敵する実力を持っているのは、
 ネルガルのアカツキ会長と噂されているが、
 彼も立場上、戦地に出ることはできない。
 かといってPMCマルスのパイロットたちではまだ経験・実力不足と判断された。
 
 お前以外に、この機体を預けられる人間は居ないのだ』

「こ、光栄です」

とは言ったものの、慣れた機体から降りるというのは心地がよくない。
例のブラックサレナという機体の頑丈さから言えば撃墜される可能性はほとんどないけど…。
逆に元の機体に戻した時に、うっかり被弾するような癖がつかないとは言い切れないから。

『…それに、お前でないといざというときに困るのだ』

「は?」

『この機体なんだが…。

 名を、"Winged dragon knight"…という』

「…!?
 つ、翼の龍王騎士!?」

『ああ…。
 ホシノアキトも映画のことで浮かれてるのかどうなのか知らないが、
 どうやらあの噂の映画の…それ、そのものらしくてな…』

私は頭を抱えた。
今、地球で公開後三ヶ月経過していても常に映画館で満員御礼、立ち見が普通の映画、
『ダイヤモンドプリンセス』三部作に登場する機動兵器…いや、『甲冑騎士』。
純白の装甲に、中世の騎士を思わせる外装、金色の装飾、そして剣…。
あ、あれを現実に持ち込んだっていうんですか!?

「………冗談ですよね?」

『………冗談であってほしいが現実だ』

…顔から血の気が引くのが分かった。
私が選ばれたのは実力的なところの評価もあるんだろうけど…。
でも現実的なところ『龍王騎士が現実で戦っていた』という噂が、
ホシノアキト帰還前にささやかれた場合、それを訂正・広報する必要がある。
そういう場合、西欧方面軍の司令官であるおじい様の孫の私だったらしやすいからなんだろうけど…。
すぐにでも公表してもいいんじゃないかしら…。

「……最初っからテストが行われてると公表してはいけないんですか?」

『できないな…。
 あと十日ほどで戻るとはいえ、スパイが入り込むのを一日でも遅らせる必要がある。
 機体の性質上、できるだけ内密にしたいのだ…バレるまでは公表するのを避けたい。
 ホシノアキトが戻ってきたと騒ぎになるのもな。
 …この十日間は人の少ないところで出撃してもらうし、
 すまんが、我慢してくれないか…』

「は、はははは…」

もはや乾いた笑いしか出なかった。
ば、バレてもバレなくても結局恥ずかしい目に遭うのは決まってしまった…。
ホシノアキトと映画のの影響は戦争を和平に傾けるだけではなく、
街の若者が髪を白く染めてカラーコンタクトをつけるのは序の口で、
いたるところで権利を持つアクアの手によってイベントが開催、展開されている。

さらに世間のみならず連合軍内でも好評で、
ミスマル提督の提案で配信された映画の再生回数は9000万回と言われている。
これは地球圏の兵士2000万人が、全三部作を少なくとも一周以上見ていることになる回数で…。
さらに女子パイロット志望者を前年比で400%超えにまで伸ばしているとかで…。

………そういうことを起こした人の、その映画を再現した機体を預かる意味が分からないわけじゃない。

それはいろんな意味で人に口外できない内容なのよね…。
たぶんフォローはできるけど……なんていうか……変な噂が再燃しそうで…。
ホシノアキトと密接な関係にあるとかどうとうか言われたり…。

ああ!神様!

私、何か悪いことしましたか!?

一生懸命戦って、木星トカゲに怯える人を助けて、その挙句がこの有様ですか!?



あんまりですよぅっ!!



















『機動戦艦ナデシコD』
第六十六話:Diamond bullet-ダイヤモンドの弾丸-






















〇地球・東京都・ネルガル本社・会長室──エリナ

『…というわけで『翼の龍王騎士』が完成しました。
 早速、西欧方面に向けて運ぶため、ユーチャリスに受け取ってもらいます』

「ええ、分かったわ。
 彼らなら安心して届けてくれるでしょう。
 ……ただし、写真を撮ったり外部に流すのだけは許可しないで」

『……はっ』

開発チームのチーフは冷や汗をかいてる様子で通信を切った。
まあ、テストで扱うにしてもかなり目立つ機体だし、
アキト君のファンの子ばっかり乗ってるユーチャリスではそういう注意も必要なのよね。
……ナデシコが、あと十日で戻る段階になってようやくね。
十日のテストののち…アキト君たちに届ける予定。
そのテストの成果を持って、さらにテンカワ君専用機『ブローディア』もナデシコに届ける。
片方で実地テストさえすれば、もう片方がそのままフィードバックして整備、導入できるもの。
かなり値段は高くついたけど、それだけの戦果をあげることもできる…。
でも、連合軍、世間の合意でアキト君が戦いを降りることになったので、
片方はアキト君たちと互角という例の影守姉妹に任せることになる。
DFSの件もあったし、二人乗りにしちゃったけど…。

……一機でよかったかしらね、これは。

アキト君の身を守るっていう意味でPMCマルスに置いておくというのもありえるけど。
色々と難儀するわね、アキト君の事は。

「…これで戦力的には万全かな。
 木星と和解する以上、こんな強力な兵器はいらないかもしれないけどね」

「まったくよ。
 単なる道楽にならなきゃいいけど」

「それはそれで面白いじゃないか。
 製作費はホシノ君につけといていい状態だし」

ナガレ君はちょっとへらへらしながら冗談めかしている。
……お気楽トンボが能天気トンボに悪化してるわね。

「…そんなことにならないようにちょっとくらい頭を使いなさいよ。
 そんなだったらエステバリスに張りボテの装甲付けてモックアップの龍王騎士にした方がマシじゃない」

「それはすでにピースランドでショーに使ってるやつだね」

も、もうショーに導入してるの?
相変わらずプレミア国王、抜け目ないのね…。

「それより君の妹のレイナ君だけど…。
 腕は確かなようだけど、女だてらに整備員っていうのは結構大変そうだけど」

「本人は苦労してるみたいだけど、実力でねじ伏せてるわ。
 技術屋同士じゃ腕が勝ったら引っ込むしかないから」

「さすがだね。
 エリナ君顔負けじゃないか」

「そうじゃなきゃ大事な機体のテストを任せないわよ。
 コネだけで仕事を任せるほど私は愚かじゃないわ。
 実力が伴わない相手に仕事を任せるなんて、自殺行為じゃない」

大事な機体を壊すような妹だったらそもそも任せないわよ。
確かに『翼の龍王騎士』は、理論上ナデシコ以上のディストーションフィールドを張れる。
だから最悪新兵が乗ったところで、攻撃できないだけで撃墜される可能性は低い。
けど、整備が不完全だったらどうなるか分からないわ。
エステバリスの導入後にメカニックとして前線に出始めたレイナだったら、
十二分に『翼の龍王騎士』を仕上げてくれる。
データの集積だって余念なくやってくれるはずだわ。
それに……。

「…それにあの子、アキト君のファンなのよ。
 『翼の龍王騎士』を任せるって話をしたら二つ返事で頷いたし、
 このテストの報酬の話もしたんだけど、アキト君と食事をさせてくれれば要らないって…。
 さすがにそれじゃなんだから、報酬はそのままで、
 データの取れ高でボーナスを出してあげることにしたの。
 アキト君の手料理を食べさせてあげるわって」

「……あ、あはははは。
 君の妹も年頃の娘って感じだよね」

……ちょっとだけ頭が痛くなってきたけどね、私も。
レイナには言えないわね…アキト君との関係も、未来のアキト君の事も…。
…元々言いふらすような内容じゃないけど。



















〇地球・神奈川県・とある漫画家の住宅
とある女性漫画家は膝を抱えてうつむいて目に涙を浮かべていた。
家財道具はほとんどなく、仕事用の机だけが残っているような状態だった。

「し、仕事がこない…」

連載の仕事が途切れ、アシスタントの仕事もなく絶望の淵に立たされいる。
この漫画家こそ、アクアに誘拐されかかった漫画家であり、
アクアが自分を主人公にした漫画を描いてもらおうとした人物だった。
この誘拐は未遂に終わったものの、その直後に打ち切りが決定してしまった。
仕事を失ってアルバイトで食いつなぎながら再度持ち込みをかけていたが、
それもうまくいかず、挙句にアルバイトの方も正社員の採用で人員削減を食らってしまう。
そして今月。
この部屋の家賃を支払って、完全な無一文になってしまった。

「あ、アクアに誘拐されてた方がましだったかも…」

未来は誰にも読めない。
だが結果としてアクアに誘拐されてそのまま打ち切りになってしまっていた方が、
何かしら報酬を得られていたかもしれないとよぎってしまうあたり、
この漫画家が限界に追い込まれているのが良く分かった。
パスタとインスタント麺の袋の山が、それを物語っていた。


プルルルルル…。



絶滅寸前の置き電話が鳴った。
昼間にかかってくるのは大概勧誘や営業の電話しかない。
それでも一抹の可能性にかけて、その受話器を取るしかなかった。

「も、もしもし…」

『もしもし、アクアクリムゾンですわ♪
 ご無沙汰しております。
 今、あなたが連載を持ってないということでお仕事をお願いしたく…』


「はっ!?

 はいはいはいはいはい!!

 なんでもします!

 何でも書きますッ!

 

 神様、仏様、アクア大明神様~~~~ッ!!」



『あら、嬉しいお言葉ですわね♪
 でも重大なお仕事ですから、心して取り組んでくださいませ♪
 
 ……『ダイヤモンドプリンセス』のスピンオフ作品、
 

 作中のホシノアキト様の前日譚を描く『プラチナ・ナイト』の連載をお願いしたいんです♪』


「………えっ!?

 ええええええええええええっ!?
 
 わ、私がそんな、世間の注目を集める作品を!?

 
 

 っていうかアクア様、
 ホシノアキト様の作品を本人が居ない時に書き始めていいんですか!?」
 


『いいんですのよ?
 何しろ『ダイヤモンドプリンセス』の版権は私が持ってますし、
 契約書にも作品の権利の行使と、行使時の肖像権の委任も受けてます。
 現在地球に居るラピスラズリさんにも二か月前に一応許可取ってますし』

「こ…光栄です!!
 アクア様、以前あなたのご依頼をお断りした自分の愚かさを反省してますッ!!
 ごめんなさい、すみません、申し訳ございません、お許しください~~~~!」

『あらあら…そんなにかしこまらないでくださいな。
 私はあなたの素敵な漫画に惹かれてお声をかけさせていただいたんですから♪
 ……それに、無理矢理人を引き込んだりすると嫌われちゃうって怒られて、
 私も反省しましたの…』

「は…」

漫画家はアクアの話し方から、その相手がホシノアキトだったと察した。
ホシノアキトという人間を映画の世界に引きずり込むという奇跡を起こしたが、
どのような交渉をしたかが謎のままだった。
それが、アクアのいつもの強引な手口によるものだと、同じ被害者としては察せざるを得なかった。

『それでは、外でお待ちしておりますから支度してお越しくださいな♪
 打ち合わせをしましょう?』


「はい!
 お任せ下さい!」



──こうして一人の少女漫画家のカムバックが決まった。

『世紀末の魔術師』映像ディスクの特典付録漫画は急造かつヒカルを中心としたアマチュア作だったが、
『プラチナ・ナイト』はホシノアキト関係作品初の、単体企画コミカライズ作品として世に出ることになった。
この漫画家はかつて連載時に雇っていたアシスタントを招集、それに加え、
『うるるん』編集部から強力なバックアップがあり、名うての漫画家・アシスタントをかき集めて、
なんと一週間で単行本一冊分の超ボリュームの原稿を完成させ、ナデシコ帰還に合わせて発刊するという荒業を成し遂げた。
これは集めた漫画家たちの技術もさることながら、『ダイヤモンドプリンセス』を見ていない作家が一人もおらず、
さらに漫画家・アシスタントのほとんどがファンアートとしてホシノアキトを描いたことがあり、
イメージが固まっていたこともあって、とてつもなく早かった。
連載の始まったばかりの漫画ではなく、企画のまとまったアニメもかくや、
というスピードでまとまったこの単行本が世に出てしまい、
新たなるホシノアキトのイメージが本人の知らぬところで構築されてしまったのだった…。






















〇地球・ピースランド・王城・大広間──五人の王子の一人・ジャック
ラピスお姉様が来てからすでに三週間ほどが経過していて…。
僕たちはラピスお姉様と一緒にダンスの練習を行っていた。
ラピスお姉様は一週間ほど一人で休暇を過ごした後、僕たちの家庭教師の手伝いをしてくれるようになった。
最初はお父様も客人であるラピスさんにそんなことをさせられないと断っていたんだけど、
『ここにいるのを悟られないように籠っているのに、何もできないのは辛いです』と言われて、
ルリお姉様のこともあって、頷いてくれた。
いっしょにダンスの練習をしたり、軍事関係の話をしてくれたり、コンピューターのことも、
アキトお兄様の活躍のことも日本の芸能界のことも教えてくれたり。
…家庭教師の先生もたじたじになるくらいすごい。

ラピスお姉様は、この間のピースランドの一件の首謀者として厳しい態度だったのが嘘のように優しくて…。
いえ、根は優しいって知ってましたけど。
でも、一瞬影武者で別人なんじゃないかって思っちゃうくらいには、全然違う感じがしました。
違う明るさとやさしさを持ってるような、そんな感じです。
…だけどこんなラピスお姉様も素敵だなぁ。

そして今日のレッスンが終わり、ラピスお姉様は汗をハンカチで拭うとほっと息を吐いた。
ちょうど僕たちと体格が近いので、ダンスレッスンの相手として最適ってことで引き受けてくれたけど…。
でも僕たちが五人も居るので、ラピスお姉様は一人だけ疲れていた。
それから僕らは、シャワーで汗を流した後また集まって、ティータイムに移行した。
今日の勉強はもう終わりなので、この後は各自の時間を過ごした後に夕食。

お父様とお母様はまた忙しく出かけているけれど、
ラピスお姉様が居るとその寂しさも半分くらいになってくれる。
でもその前から比べると、さらに半分くらい。
ルリお姉様の一件があってから、僕たちはより家族というものを意識し始めて…。
お父様とお母様がどれだけ僕たちを、そしてルリお姉様を愛してくれているのか、
これまで以上に分かったんだ。だから…。
ルリお姉様と義姉妹の、ラピスお姉様も、ルリお姉様と同じくらい家族のように過ごしたいって…。
…でも、ラピスお姉様のこと考えると僕はドキドキしちゃって…こ、これが恋ってやつかなぁ…。

「あと十日ですね、ラピスお姉様」

「うん…」

僕たちの問いに、ラピスお姉様はどこか上の空と言うか、
嬉しいことが待ってるって分かってるけど、困ってるように見えた。
どうしたんだろう。

「ラピスお姉様?」

「あ、うん…大丈夫だよ、ジャック君。
 ……嬉しいの。
 嬉しいけど、私っていつも…アキトにもユリちゃ…ユリにもすごい迷惑かけててね。
 私がアキトを好きだと、困らせちゃうって分かってるのに…。
 ……でも二人はそんなこと全然気にしないって言ってくれそうで、
 それでも、そんなことよくないことだって思う私も居てね…。
 
 ……私、二人にとって足手まといかなぁ…って」


「そんなことないです!!」



僕が声を上げて、みんなびっくりして肩を震わせた。
…そんなことない、そんなことがあるはずがない、だって…!

「ユリお姉様はそんな風に思うわけないです!
 ラピスお姉様が好きだって思う気持ちをあの優しいアキトさんが粗末にするはずがありません!
 だってこんなに綺麗で、優しくて、何でもできて、
 素敵な人じゃないですか、ラピスお姉様は!」

「ジャック君…くす…」

「え?あ、あれ?」

ラピスお姉様…僕が励ましたのを、どこか嬉しそうにくすりと笑って…。
年相応じゃない、お母様の優しい微笑みにも似たその笑顔に、僕はぼうっと顔が赤くなってしまった。

「ありがと、ジャック君。
 励ましてくれて。
 私、嬉しい。
 本物の王子様にそんな心配されることなんてめったにないもん」

「え、えっと、あの…」

「ジャック君もとっても素敵だよ。
 …アキトが好きじゃなかったら惚れちゃったかも。
 そんな風に言ってくれるなんて生まれて初めてかも」

ラピスお姉様は僕の手を取ってくれて…ドキッとした。
でも…なぜかそれでも絶対に手の届かないような気持ちもした。
またお母様に、いたずらをそっと怒られた時の…諭された時のような、優しい言葉に…。
僕は動けなくなってしまって…。

「……私、ちょっと疲れちゃったから夕食まで休んでくるね」

「「「「「あ、はい…」」」」」

ラピスお姉様はしずしずと部屋を出て行った。
…微笑んでくれてるけど、どこか寂しそうにも見えた…。


がしっ!



「ほわ?」

「この!この!
 抜け駆けしやがって、このバカジャック!」

「うわわっ!?やめろよキング!」

兄弟のキングが僕を羽交い絞めにしてきた。
な、なんでそんなことするんだよ!?

「ラピスお姉様を口説くなんて百年早いんだよ!」

「エース!?お前もか?!」

「おらー、グラウンドにもってけ!
 抜け駆けの罰!くすぐり刑からの!サブミッションの刑だ!」

「や、やめろクラブっ!
 うわぁ!?」


どさぁ!こしょこしょこしょ…。



「どうだ!どうだ!」

「わはははははは!
 やっ、やめっ…きゃははははは!
 す、スペードぉ、そこはっ!?
 ぎゃははははははは…!!」

……結局、僕は兄弟たち四人のくすぐり攻撃と関節技の交互繰り返しで夕食まで拷問されてしまった。
くすぐりもかなりしんどかったけど、関節技は両腕に腕十字、足に四の字、顔面につねりと、
かなり痛いし苦しいしで、大変な目に遭った…。
従者の人が来てくれなかったら本当に入院か死ぬかしてたかもってくらい…。

や、やっかみにしてはちょっと危なかったよ…はは…。




「……さっさとアキトを諦められてれば、
 こういう恋だってしてもいいはずなのに…。
 
 私ってホント……バカな上にしつこいよね…」
















〇地球・西欧地区・アリサの生まれ故郷──サラ

「えーと、ここじゃない…。
 連合軍基地ってどっちかしら…端末の地図だとこっちみたいだけど…」

私は連合軍の基地を探して歩き回っていた。
私の妹、アリサが珍しく故郷の近くの基地に戻ってくるっていうので、
たまには話に行きたいと思って、誘いに行こうと思ったんだけど…。
木星トカゲ…いえ木連との和平交渉が成立しそうな段階に来てる事、
それに世論が戦争放棄に動いてることもあって、
いつもはパイロットを辞めてほしいって説得しても渋い顔をしてたのに、
最近は結構前向きに別の事を今から始めてもいいかなって言ってくれてる。

私はこのチャンスを何としてもつかまないといけないと思った。

このままで何年も軍に居続けたら人生的に方向転換できなくなる。取り返しがつかないもの…。
そうじゃなくても人員整理で職を失うかもしれないっていうのに。
だったら今からでも大学に通えるように、一刻も早く説得しないと…!

「おっかしいなぁ…こっちじゃないのかしら。
 連合軍の基地って…」

「あら、連合軍の基地をお探しですか?」

私が方向音痴な自分にいら立ってるところで、
おかっぱのジャパニーズかチャイニーズの人が話しかけてきた。
人の好さそうな女性で、連合軍のパイロットの制服を着ている。
私はこれ幸いにと乗っかることにした。

「すみません、案内してもらって構いませんか?
 妹に会いに…」

「あ!シルバーバレッツ小隊のアリサさんにそっくりですね。
 それじゃもしかして…」

「はい、双子の姉です。
 サラって言います」

「やっぱり!
 私も西欧方面軍に今日配属になりました、イツキカザマです!
 ご案内しますよ」

「ありがとうございます、助かります」

…ちょっと複雑だけど、妹が有名人だったのが幸いだったわ。
そのまま案内してもらうことになった…。



















〇地球・西欧地区・アリサの生まれ故郷・連合軍基地・食堂──サラ
私はイツキさんに付き添ってもらって基地内に入った。
もっともイツキさんが居なくても入れてもらえるだろうけどここまでたどり着けなかったから…。
そして、アリサの到着は三時間後になるっていうのが分かった。
だいぶかかるので一度外出して待とうかと思ったんだけど…。
イツキさんに食事に誘われて、ご相伴に預かることにした。
また迷子になっても困るので逆に助かったかも。

「それで『ダイヤモンドプリンセス』の配信が結構好評なんですよ、
 連合軍の基地でも」

「へー、それは聞いてませんでした」

私達はすっかり意気投合して話し込んでしまっていた。
食事が半分くらい残ってるのに、一時間半も話してしまって…。
イツキさんは配属の挨拶は明日になるので自由時間だったそう。
ちょうどよかったわ…。

「あ、そういえばグリーンカレーって珍しいですね。
 ここの食堂、意外とメニューが豊富なんですね」

「タイ料理なんですよ。
 よかったら一口食べてみますか?」

「ぜひ!」


ぱくっ。



私はグリーンカレーのスープにご飯をくぐらせて、スプーンですくって口に運んだ。
…が、すさまじい辛さと、猛烈な後悔が私を襲ってきた。


「かっ!?

 からあぁぁっっ!

 あふっ!?あふぃっ!?いたい!いはい!

 くふしぃぃいい!?」



「さ、サラさん!?」

私は自分のコップをひっつかんで水を飲んで、それでも足りなくてウォーターサーバーに縋り付いた。
こんな激辛料理を涼しい顔をして食べてたんですか!?イツキさんは!!

「あ、ご、ごめんなさい…。
 うっかり20倍の激辛だったのを言い忘れてしまって…」

「ひろい!ひろいれすよぉ!!」

舌がしびれてほとんどしゃべれなくなってしまって、もんどりうちながらも、
私はイツキさんに抗議を続けていた。
でも、意識がもうろうとして立ち上がっているのも精一杯の状態だった。

「い、医務室に…」

「ら、らいりょぶれす…あいしゃがふるまれ…やしゅんでましゅ…」

私はアリサが来るまでこの食堂で休んでることを伝えて、
涙が止まらないし、鼻水まで出そうになってても、そんなことで医務室に行くのはためらっていた。
私は食券を買いに行って、アイスクリームでも頼めば何とかマシになるかと思っていた。


ぴぴっ!



「あ…す、すみません、召集がかかってしまいました。
 こ、これ私の端末の番号です。
 後で必ずお詫びしますので!」

「ひゃい…」

私は疲れ切ってしまってそれ以上問い詰められず、
イツキさんを見送ることしかできなかった。


・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


「アリサさーーーーん!!
 いらっしゃいませんかーーーーーっ!!」



それから数分経って…。
血相変えた、たぶんメカニックの女の子が食堂に飛び込んでくるのが見えた。
味がしなくなったバニラアイスをちびちび食べてる私を見て、にっこり笑った。

「アリサさん、こんなところにいたの!
 さあ、さっさと行きましょう!!」

「へ!?
 りょ、りょっろ…」

「時間がないんです、早く早く!!」

「ひゃーーーーっ!?」

私は腕を引かれ、いえ、体を担がれて拉致される形で食堂から出て行かされました。
抵抗しようにもまだ辛さにやられてて力が入りません。
よく見ると食堂にもほとんど人が居なくて、何か起こってるっていうのだけはよくわかりました…。
め、メカニックの人ってこんな力持ちなんですか!?
















〇地球・西欧地区・アリサの生まれ故郷・連合軍基地・小ドック──サラ
私はメカニックの女の子に連れられて小さなドックにやってきた…。
自販機を見つけたので、水を二本買ってごぶごぶのみながらついてきた。
私をアリサと間違えてるみたいだけど、舌が回らなくて喋れなかったし、
ここまで抱えられて連れ来られたから止められなかったけど…。
や、やっとちょっとしゃべれるようになってきたかも。

「えっと…」

「レイナよ、私はレイナ・キンジョウ・ウォン。
 ちょっとワケあってアリサさんをここに連れて来なきゃいけなくなったの。
 
 …でも間に合ってよかったぁ~~~~~!!
 
 アリサさんも人が悪いわよねぇ!
 到着はあと一時間以上かかるって言われてたのに、ちゃんといてくれるんだもの!」

「あ、あの…」

「この基地を木星トカゲの連中が襲ってきてるの!
 戦力もまとまってきたし各自出撃してるけど、
 グラビティブラストを撃てるシャクヤクは一時間以上かかるっていうし!
 
 

 この『翼の龍王騎士』の出番ってわけよね!!」



ばさっ!



レイナさんがエステバリス…いえ、さっき行きがけに見かけたのよりだいぶ大きい!?
この機動兵器と思しき機体を覆っていたカバーを取ると、そこにあったのは…!?

『ダイヤモンドプリンセス』の映画に出てきた龍王騎士…に瓜二つの!?

いえ、『翼の龍王騎士』って…最終決戦のあの姿の事をいってるの!?

「こ、こ、こ、これって!?」

「ふっふ~~ん。
 これこそ、我らがホシノアキト様専用機『翼の龍王騎士』!
 ここに運び入れられたことは極秘のまま、
 テスト段階だけど私がばっちし点検、整備した逸品よ。
 テストパイロットの予定だったアリサさん!
 あなたならこの龍王騎士を使って木星トカゲを蹴散らして…!?」

レイナさんは私がペットボトルを抱えてる姿を見て、手元を見て、驚愕した。

「あ、IFSはどうしたんですか!?」

「あ、あの…だから私はアリサじゃなくて…。
 アリサと話に来ただけの姉のサラなの…」


……………どかーん!



しぃんと私達の間の空気が凍り付いた後、
このドックの近くにミサイルが直撃したような音がした。
イツキさんが召集されたのと、レイナさんが焦っていた様子だったのは、
この敵襲があったからだと今、悟った。
そしてこの龍王騎士のパイロットとしてアリサが必要だった理由も分かった。

…このドックの中が爆発したような気持になった。


「ど、ど、どうしてぇ!?」



「だからアリサはシャクヤクに乗ってるの!
 一時間以上かかるって言った通りで…」


「嘘でしょ!?
 この基地に迫ってる敵が…もう空を覆いつつあるっていうのに!」


「ええっ!?」



私はレイナさんのコミュニケーターの映像を見ると…そこには本当に雲霞のようなバッタの大群…。
映画の風景に勝るとも劣らないくらいの大群が…!

「…!?
 ま、街は!?」

「ま、まだ大丈夫ですけど…。
 この大群じゃ、連合軍の戦力だってどれだけ持つか…!」

……!
このままじゃ、お父さんもお母さんも…友達もみんな危ないの…!?
小康状態で数か月が経過してるこのあたりの戦いに安心してたけど……。


そんなの許せない!
もうすぐ戦争が終わるかもしれないのに!

私の大切な人たちを、大切な故郷を失いたくない!!



「……レイナさん!」

「はい!?」

「IFSの注射、ありませんか!?」

「えっ!?」

「アリサが来れないなら──私が代わりにやります!」

私は真剣にレイナさんに話したけど…心の底ではちょっとおかしくて笑いそうになっていた。
アリサにパイロットを辞めろ辞めろって言い続けていたのに…。
自分の目の前で大切な街が、大切な人たちが無くなろうとしてたら、こんな簡単に決意できちゃうんだから。

でも、この一回きり。

私はこの街を守るためだけに、戦うんだから!















〇地球・西欧地区・シャクヤク・格納庫・エステバリスアサルトピット内──アリサ

「隊長っ!まだですか!?
 早くしないと…っ!」

『焦るなアリサ中尉!
 連合軍の基地もまだ持っている!
 俺たちが到着するまでは持ちこたえてくれるはずだ!』

「で、ですが──」

私は焦る気持ちを抑えきれなかった。
まさか…こんな大勢力で木星トカゲが攻めてくるなんて…!
しかも『翼の龍王騎士』を受け取る前のタイミングで!私の故郷を!
絶望的な気持ちが胸を締め付けてくる。
サラ姉さんも…お父さんもお母さんも居るのに…!

どうして?!どうしてこんなことになっちゃうのよぉ!?

せめて私が『翼の龍王騎士』を持っていたら、単騎で向かったのに!!

私達が到着してからだったらこんなことにはならなかったのに!!




















〇地球・西欧地区・アリサの生まれ故郷・市街地上空──イツキカザマ


ががががが…!



「くっ!?
 こっちは戦力補充で到着したばっかりだっていうのに!
 統率が取れてないうちに襲ってくるなんて!」

私はラピッドライフルを乱射しながら敵を蹴散らして体制を整えようと必死だった。
呼び出されてすぐに、挨拶もそこそこにエステバリスに乗り込まざるを得なかった。
でも多勢に無勢で味方もすぐに中破、脱出しないといけないような状態になってしまったりで…。
このままじゃ死人が出るわ…民間人も、軍人も…。
今となってはサラさんをそのままにしてしまったのだけが心残りだわ。
基地の中の方が安全かもしれないけれど…。
でも出撃命令以降、司令部からの指示がなく、隊長も居ないままの戦闘に、
私達エステバリスのパイロットたちは浮足立っていた。
敵の戦艦が少しずつ出現して、真綿で首を締めるように私達は追い込まれている。
まだ圧倒されてる感じではないけど艦砲射撃や援護が期待できない状態では、限度がある…。
どうすれば…!


私は味方のエステバリスを助けるためにライフルを撃ったけど、今度は私が弾切れ!?
空戦フレームのエステバリスに積んである弾薬をほぼ使い切って…。
補充に戻るにも、基地が危険にさらされてしまう…!

「……特攻覚悟でいくしかないわね」

こんな状況じゃ生き延びれる可能性も薄い…。
かといってディストーションフィールドアタックではバッタは倒せても駆逐艦クラスには…。
だったら!一匹でも多く道連れにしてやるわ!


どひゅっ……!



私が覚悟を決めた時、私のエステバリスの横を通り過ぎた白い影に動きが止まった。
その白い影は多数のバッタを紙吹雪のように吹き飛ばしながら、
敵の駆逐艦クラスすらも十隻巻き込んで爆発させた。


どどどどどど………!!



景気よく爆発していく木星トカゲの戦力。
私も、他のエステバリスも、木星トカゲたちでさえも…時が止まったように固まっている。

『お、おい…』

『うそ…?』

『冗談だろ…!?』

各機から信じられないものを見た、と言わんばかりの声が、表情が出てくる…。
私も全く同じ感想だった。
敵を蹴散らして、私達の前に降り立ったその機体は…。


あの映画『ダイヤモンドプリンセス』の劇中に登場した、
龍王騎士の姿そのものだったのだから!!



そしてその先にある…パイロットの姿は、おそらくホシノアキト…。
でも彼は地球に戻ってきていないはず!

では、誰が!?

…そして龍王騎士からの通信が入ってきて、半分目を回しかかっている女性が二人見えた。

『す、すみません!
 操縦初めてなものでうまくできませんでしたが、
 敵をひきつけることはできましたか!?』

………は?
私は目の前に移ったウインドウの、先ほど会ったばかりの人物に再び凍り付いた。
IFSを入れてないはずだった…アリサ中尉を辞めさせたがっていたはずの人物…。
サラさんが、メカニックと思しき女性と一緒に二人乗りのアサルトピットに乗っていた。

……マジ、ですか?
















〇地球・西欧地区・アリサの生まれ故郷・市街地上空──レイナ
私達の乗り込んだ『翼の龍王騎士』は…。
丁寧に飛ばしてもらったはずなのに、音速ですっとんで敵を蹴散らした。
すごい…!
通常のエステバリスの十数倍以上のディストーションフィールド強度とは聞いていたけど、
本当に敵の攻撃が全く通用しない!
……で、なんで私が同乗してるかって言うと。
サラさんがIFSを導入してまで助けてくれようとしたけど、
性能やらなんやらは知らないままでは戦いようがないからと一緒に乗り込まざるを得なかった。
わ、私も操縦の事はてんでわかんないからふわっとした説明しかできないけど…。

ああ…せめて一人でも基地にパイロットが残ってればこんなことにはならなかったのに。

でもサラさんが無茶を押して出撃しなかったら危ない状況だったみたいで良かった。
味方からの歓声が聞こえてくる…。
できるのはせいぜい体当たりだけで…主武装たるディストーションフィールドソードは、
それなりに集中して、止まった状態でしか出せないから無理…。
でも相転移エンジンを積んでるから事実上エネルギー切れはあり得ないっていうのは心強い。
剣もあるけど、基本的にぶん殴る用途でしか使えないし、半ば飾りだし。
こっちにディストーションフィールドをまとわせる方法もあるっていうけど、
どっちみちディストーションフィールドの制御をある程度できないと意味ないし…。

「わわわっ!?
 レイナさん、私はどうすれば!?」

「落ち着いて!
 敵の攻撃は無効にできるからうまくおとりになって!
 敵も困惑してるみたいだし、コントロールすればなんとかなるわ!
 基地周辺に敵を誘導しながら逃げるのよ!」

『レイナさんの言う通りです!
 寄り付く敵を蹴散らしていけばこちらも勝機があります!
 全機、聞いたわね!?
 サラさんを援護して!
 あの龍王騎に気を取られた敵を片っ端から撃ち落とすのよ!
 
 …サラさん、借りは返します!』

イツキさんの言う通りで、この『翼の龍王騎士』に攻撃が集中する限りは、
連合軍の機体には被害が及ばない。
しかもナデシコ級戦艦以上のディストーションフィールドを張れるから、
集中砲火を浴びようと、グラビティブラストが直撃しようと無傷。
その上、大柄な癖に最高速はマッハ2以上…DFS以外に対した武装はないけど…。
さすがにとんでもない機体だわ!

…そしてその後は一方的な展開になった。
敵は龍王騎士の攻撃力の高さ、ディストーションフィールドの頑強さに脅威を感じて攻撃を集中したけど…。
スピードに翻弄されて、直撃することはほぼなく、
それどころか体当たりで一方的に戦艦すら轟沈させる破壊力。
…アリサさんの姉とはいえ、初の操縦で、右も左もわからないままで、
この戦果を挙げられる機体なんて…驚異的すぎるわ…。
一時間後のシャクヤク到着よりも早く、敵は撤退していった。
私達はホッとして帰還した…。
エステバリス隊もかなりボロボロだったので命拾いしたと口々に話していた。
た、助かったわ…。


















〇地球・西欧地区・アリサの生まれ故郷・連合軍基地・小ドック──レイナ
…で、基地に戻って再度龍王騎士の点検を始めたんだけど…。
案の定というかなんというか、遅れて到着したアリサさんがサラさんに喰ってかかった。


「姉さんってば!

 私の預かる機体を使って、壊したらどうするつもりだったの!?

 龍王騎士は特注品だから値段がエステバリス十台分じゃ効かないのよ!?」


「しょうがないじゃない!

 勘違いで連れてこられたのよ!

 それに私達の街を守るために仕方なかったの!」


「それはお礼を言いたいけど、他に代わってくれる人だっていたでしょ!?

 しかもIFSまで入れて!お父さんとお母さんが卒倒しちゃうわよ!

 まったく私にパイロット辞めろってしつこかった癖に!

 なんでそういうところで怖いものしらずなのかしら!」



「何よぉ!」


「姉さんこそ何よ!」



「ま、まあまあ…二人とも落ち着いてくれ…。
 …本来なら逮捕されても仕方ない内容ではあるが、事情が事情だ。
 街は無事に守れた。
 二人とも生きて会えた。
 
 今回はそれでいいじゃないか、なあアリサ中尉、サラさん。
 
 ……もっとも、この基地の司令官が真っ先に逃げだして、
 命令系がズタズタだったせいもある。
 もし的確な指示が出来たら、もう少しましな結果になったろう」

……ついでに極秘裏に龍王騎士を基地に置いといたせいで、
乗れるはずのパイロットたちが気付けなかったのもあるかしらね。
アリサさんとサラさんを、シャクヤクのシュン艦長がなだめた。
そしてシュン艦長は、逃げ出した司令官の人柄の悪さは知っていたが、
市街地が近いのに逃げ出すとなると軍法会議で済むかどうかも怖いなとぼやいていた。
二人はまだぷりぷり怒ってる様子だけど…すぐに仲直りできる気がするわ、なんとなく。


「た、隊長!?」



「なんだカズシ。
 敵でもまた現れたような顔をして」


「敵襲ですよ!?」


「なぁにぃ!?」
「「「ええっ!?」」」


「敵はさっきの龍王騎士の戦いぶりを見て一度撤退しましたが、
 増援を引き連れてきたみたいです!
 さ、先ほどの兵力の三倍!
 チューリップ十基が随伴しています!
 この基地を包囲する形で接近してきています!」


「十基だと!?
 …木連の情報提供から、チューリップは一種のワームホールだって説明があったよな。
 ってことは…撃破しない限りは…」

「む、無限に敵が…」

嘘でしょ!?
いくらシャクヤクが強いって言っても、そんな戦力が相手じゃ…!

「……各員、出撃準備!
 基地のエステバリス隊も、俺の…シャクヤクの指揮下に入れ!
 命を懸けることになるだろう!
 まだシェルターに避難している人達が居る!
 この基地の周りに敵をひきつけてから迎撃するぞ!」


『『『『『「「はっ!」」』』』』』



その場のほぼ全員が返事をして、出撃準備に走っていった。
私も、龍王騎士のチェックを行っていたけど…後ろではまだ姉妹喧嘩が続いていた。

「アリサ!
 一人で行くなんて許さないわよ!」

「二人乗りだからってついてくることないでしょ!?
 いいから基地内のシェルターにでも隠れててよ!」

「だったら龍王騎士の方が安全でしょ!?
 ここより安全な所なんてそうそうないんだから!」

「それでも万が一撃墜されたら!?
 お父さんとお母さんを残して二人で死んだらどうなっちゃうか分からないでしょ!?」

「冗談じゃないわ!
 私が後ろに乗ってたら無茶できないわ!
 一緒に居た方がマシよ!」

……二人の会話はああ言えばこう言うで、話は全く進展しなかった。
でも私が龍王騎士のチェックを終えるとにらみ合いながら二人はしっかり機体に乗った。
お互いの発言の正当性は認めながらも、結局アリサさんの方が折れたらしい。
…この絶体絶命の状況じゃ、安全性の観点でもそりゃそうなるわよね…。
っていうか、やっぱ本当は仲いいんじゃない…。

「…それじゃ二人とも。
 あとは特別サポートOSのブロスちゃんに任せておくから。
 さっきはインストールが終わってなかったから私がサポートしたけど、
 細かいことはブロスに聞いて下さい」

『ぱんぱかぱーん!
 僕がブロスです!
 オモイカネOSの簡易版みたいなもんで、
 機密情報の多い龍王騎士の自衛機能や、
 外部流出しちゃいけないマニュアルの代わりにサポートする役割でご一緒しまーす!』

『な、なんかノリが軽いのね…。
 音声ボイス付きでずいぶん可愛らしい…』

『あれ?アリサさんお目が高い。
 ほらほらこれが僕の自画像。
 僕の人格デザインした人は五歳児くらいのイメージだって』

そしてブロスはウインドウにちょっとちびっこい白髪の男の子の画像を描いた。
…ちょっとホシノアキトに寄せたわね、ブロス。

「いいからささっと発進しなさいってば」

『はーい!』

『レイナさん、それじゃ!』

そしてホシノアキトとテンカワアキトみたいにそっくりの二人が乗った龍王騎士は…。
再び空に舞い上がった。
飛び立つその陶磁器のように白い装甲が、傾き始めた日のオレンジの光に染まって、
映画さながらの美しさがより一層際立って見えた。

……うっとりしちゃうなぁ、乗ってるのが違う人だって分かってても。
現実にあの龍王騎士があって、しかも私が整備したのが飛び立ってるんだもん…。
写真、いっぱい取っといてよかった♪




















〇地球・西欧地区・アリサの生まれ故郷・基地地上空──アリサ
私は龍王騎士の前部座席に乗り込んで、姉さんを奥の座席に押し込んで…。
ちょっとくらいは安全な場所に姉さんを置いときたかったからなんだけど…。
……!?
分かっては居たけど、こんなピーキーな機体なの!?
空戦エステバリスなんて比較にならないわ!
最高速が早いくせに、スラスターの性能のせいでターンしっかりできちゃうから、
下手するとGでつぶれちゃうわ!

「くぅっ!?
 あ、アリサ、無茶し過ぎよ!」

「だ、だから降りてればよかったのに!」

『気を付けて、アリサさん!
 Gキャンセラーがついてるけど、急制動には弱いよ!』

「わかってるけど……!」

私達は強烈なGに苛まれていたけど、動きを止めるわけにもいかなかった。
何しろ、この龍王騎士を集中的に攻撃しようと集まってくるバッタの大群は、
雲霞のごとく私達を責め立ててくる。
ディストーションフィールドによる体当たりで一方的に蹴散らせてはいるものの、
フィールドが回復しきらないうちに攻撃されたら危ないわ!
テストパイロットのつもりが、本当にこんな事態に巻き込まれちゃうなんて…!

『アリサさん、ディストーションフィールドソードを試してみて!
 じゃないとこの敵の量はさばけないよ!
 チューリップの撃破だって不可能じゃないんだからさ!
 ディストーションフィールドをまとめて剣をつくるイメージで…』

「ブロス君、いうほど容易くないわよ!?」

必死に回避行動をとりながら、ぶち抜けるところでは体当たりを繰り返している。
けど、敵戦艦がシャクヤクを放置して私達の龍王騎士にグラビティブラストを集中させて来る。
敵戦力を巻き込みながら連射してくるので、こっちは軌道が読めないから…!
あまりに火力が集中すると、このディストーションフィールドの厚さでも危険だわ!
特にレールガンが危ない。
質量攻撃はディストーションフィールドとは相性が最悪だもの。
普段はエステバリス隊の機動力に押されて撃てない駆逐艦達の攻撃も…。
100隻以上まとまってこの連打してくるとどうにも…!



「し、しまった!」



龍王騎士のターンに合わせて、敵のバッタが龍王騎士のフィールドに密集し始めた。
さすがに射線が集中してしまって速度が落ち始めたところを狙われた。
そしてこちらの視界を遮るように…。
まるで外敵を蒸し殺すために集まったミツバチのように、
団子状にまとまって龍王騎士の動きを封じてしまった。
本来はディストーションフィールドに弾き飛ばされるけど、質量が大きくて…!
こ、このままじゃ!

そして───。


















〇地球・西欧地区・アリサの生まれ故郷・シェルター──アリサの父親
私達は避難所にかろうじて避難できていた。
先ほどの敵の第一波の際は逃げ切れず、妻と大きな建物に逃げ込むしかなかったが…。
一時解除されつつあった避難勧告が、第二波が来ると分かった再度発令され、
今度はシェルターに逃げ切れた。
サラはアリサと合流できていただろうか…。
それにしても…。

「あなた…アリサが…」

「ああ…あの機体に乗ってくれてるようだが…」

先ほど父さんが連絡してくれた通り、アリサはあの映画そのままのエステバリスに乗っているらしい。
避難しそびれた時に少し姿が見えた時は夢かと思ったが…。
…まさかあれで本当に敵を撃退してくれるとは思わなかったよ、アリサ…。

「うわぁ!?映画よりすごいんじゃねーか!?」

「こんな戦力差じゃ龍王騎士だって…」

「負けるなー!」


わー!わーーーっ!



避難している人たちがネットで流れている、
街中のライブカメラの映像を動画サイトで見ながら叫んでいる。
突如出現した龍王騎士の姿にあっけにとられながらも、戦っている姿を見守って応援している。
映画さながらの戦いぶりを…とはいっても体当たりぐらいしかできないが、
それでも敵を一騎当千の活躍で敵をまとめて蹴散らす姿に心を躍らせている。
……む、娘がパイロットになったのは止めたかったが、こんなことになるとは思わなった…。


ざわっ!?



!?
りゅ、龍王騎士が敵につかまった…!?
そしてグラビティブラストのチャージが十隻以上の敵艦で始まり…。
その閃光が龍王騎士に集中した!


「「あっ…アリサーーーッ!!」



私と妻は叫ぶしかなかった。
あの機体に乗っている娘が死ぬ姿をまざまざと見せつけられて…。
こんなことなら…父さんを殴ってでも止めるべきだった…!
後悔しても、もう遅い……だが…。

「……アリサ…。
 だが…お前ひとりじゃない…私達も…」

この状況でアリサが死ぬ…。
それはこの町の消滅を意味する。
あのシャクヤクだって、これほどの敵を相手にしては…。

「ま、まって!あなた!」

妻の張り上げた声に、私は顔を上げた。
その先に龍王騎士が消滅する様子があったかもしれないというのに…。
だが、そんな予想はあっさりと覆された。

「……天使!?」

まばゆい白い光の繭…いや、翼に包まれたような龍王騎士がそこには居た。
そして翼をぶわっと広げて、羽ばたいて空を飛んだ。

「きれい…」

「こ、これは…!?」

「最終決戦のあの姿だ!
 嘘だろ!?」

「俺たちの気持ちが届いたんだよ!
 映画とおんなじに、龍王騎士を強くしたんだ!」

──いや、そんなことはないだろう。

だが、声には出なかった。
だが、そう思いたくなるのも理解できた。
目の前に起こった奇跡を、受け入れるためにはそうするほかなかった。

グラビティブラストという必殺兵器。

これを防ぐ方法はディストーションフィールドしかない。それも限度がある。
あれほどの連射を受けて無事でいられるはずがないのに、
龍王騎士は光の翼に包まれて無傷で現れた。
天使を目の当たりにしたような神々しさすら感じる…。
膝をついて祈っているシスターもいる…なんていうか。

──しかしずいぶん俗っぽい天使を遣わしたものだな、神様は。

……私は奇跡のど真ん中に居る我が娘に、別の心配を抱くしかなかった。


















〇地球・西欧地区・アリサの生まれ故郷・基地地上空──アリサ
絶体絶命だった。
不覚にもバッタに囲まれて身動きが取れなくなって、次に起こることに怯えて、
私は思わず、目をつぶってしまった。
パイロットとしてあるまじき怯え方だったけど、
現役のパイロットだからこそ直後に起こる攻撃の嵐が想像できた。
もう終わりだと…。


きゅぃぃぃぃぃいいいんっ!ぱきぃぃぃぃんっ!



しかし、聞いたことのない高音が聞こえて、目を開いた直後…。
エステバリスのウインドウを包む、白い光の繭に驚いた。
私達だけどこかの別世界にワープしてしまったか、
それとも龍王騎士ごと天国に行っちゃったのかと思った。

でも、それはちがった。

ぼうっとした光を体中から放ち、その中でも一層強く光るIFSのタトゥーがまばゆく光っている…。
姉さんの姿がそこにあったからだ。

「ね、姉さん!?」

「はっ…はっ…で、できた!
 アリサ、私を置いて来なくてよかったでしょ!」


『す…すごい!

 嘘みたいだ!?

 多重に鳥の翼のようにディストーションフィールドの板を無数に張り巡らせて、
 
 龍王騎士を守るように包んだ!?

 こんな複雑な形をディストーションフィールド収束装置で再現するなんて!?

 本当にまるっきり映画の通りじゃないか!?』


私にはブロス君の驚愕が分かった。
出撃前にDFSの生成を試してみたけど…全然うまくいかなかった。
なまじ、私は『動かすための』IFSの使い方しか知らない。
集中力を必要とするっていうのはあるんだけど…。
素人のサラ姉さんだからこそ…フィールドをまとめるイメージをしやすかったの…?

いえ、違う。
サラ姉さんは昔っからぼうっとしてるところがあるけど、天才型だった。

私が自転車を四苦八苦して乗れるようになってるそばで10秒で乗りこなす。
運動神経の違いかと思ってたけど、運動は私のほうがよっぽどできた。
でも見ただけでできる、聞いただけでできる、そういうイメージの力のすごさは人一倍どころじゃない。
トランプタワーだって、カップ・スタックだってその場で全国で五本指に入れるスピードでくみ上げた。

姉さんは、自分の中にだけその理論を持っている、自分の中にだけその才能を隠している。
そんなふうに思った私は、姉さんをズルいって子供の頃に問い詰めて困らせていたっけ…。
…久しぶりに言いたくなるわね。

「…姉さん、ズルいわよ。
 そんなの、どこで覚えてきたのよ」

「わ、分かんないわよぅ…。
 何とかしないとって必死だったから…」

……これだもの。

『さ、サラさん!?アリサさん!?
 無事なんですか!?』

『うそ…DFSってホシノアキトさんでさえ剣の形で作るのが精いっぱいだって聞いたのに!?
 こんな風に分厚い繭みたいに生成するだなんて!?』

イツキさんとレイナの声が…どこか非現実な中にいる私を現実に引き戻してくれた。
…そう、まだ危機は去ってないんだもの!


「…姉さん、最高のプレゼントをくれたわね!
 これならこの街を救えるわ!
 それどころじゃなくて、早く戦争を終わらせて普通の女の子に戻れるかもね!


 ……一緒に戦って!
 
 サラ姉さん!」

「ずいぶん調子のいい事言っちゃうのね、アリサ…。

 ……でも乗ったわ!

 
 戦って平和を取り戻すなんてごめんだと思ってたけど…。
 
 

 これも大事なことだって今日、思い知ったもの!
 
 
 アリサ!あなたは私が守る!
 
 
 あなたはその剣をふるって敵を倒すの!
 
 
 お父さんとお母さんを!
 
 
 この街を!
 
 
 この、地球をッ!

 
 

 私達の手で救うのよ!」


「うんっ!


 ──行くわよッ!」



そして…。
私達の龍王騎士は、光の繭を破って、空を舞った。

姉さんはもう一度ディストーションフィールドを変化させて、
分厚いディストーションフィールドの鎧を再構築して、
ただの飾り同然だった剣に鋭いディストーションフィールドの刃で包み、
エステバリスの五倍以上はある巨剣に変化させた。
そして、羽ばたくだけで敵を切り裂く大きな翼を構築して…。

「アリサも映画見たでしょ!
 龍王騎士、最終決戦バージョンよ!
 これなら負けっこないわ!
 

 …やっつけちゃいなさい!
 
 
 アリサッ!」


「任せてっ!」


ザンッ!……どごぉぉおおん!!


私は龍王騎士をそのまま移動させてくるりと横に回転させて剣をふるった。
その刃は、軽々と駆逐艦クラスの敵を真っ二つに切り裂いてしまった。

「……なんて威力!?」

「すっごいわね、これ!」

『す、すごすぎるよ!?』

『アリサさん、サラさん!
 敵は呆気に取られてます!
 
 蹴散らすなら今です!』


「「分かったわ!」」



私は、自分たちの息がぴったり合うのを感じた。
こんなに姉さんと一緒に居られて嬉しいのはいつぶりだろう。
こんなに同じ気持ちになれたのは、いつごろぶりだろう。
戦士として…ホシノアキト以上の力を手にしたことより…。

……そんな小さなことの方がずっと嬉しかった。

そして、この大切な街を、大切な家族を失わずに済むことが。
とても嬉しかった。
私達は次々に敵を蹴散らしていった。
敵はもう特攻覚悟で向かってきたけど、その程度で止められる龍王騎士じゃない。
襲い来る敵を全部なます切りにして蹴散らし続けた。
無敵じゃない、こんなの!

『アリサ中尉!?
 どこまでやるつもりだ!?』

そして五つ目のチューリップをあっさり切り刻んで…。
夢中になってた私達を、シュン艦長が案じて通信をしてくれた。
…でもそんなこと、決まってるわ。

「「どこまでもやります!」」

『全部一人でやっつけるつもりか!?』

「「もちろんです!」」

『ま、待って!?
 まだ龍王騎士はテスト中なのよ!?
 ほどほどで戻ってきて!
 空中分解するような整備はしてないけど、DFSの耐久度だってまだ未知数だし…』

「だったらチューリップを撃破して、打ち止めにしてやるわよ!
 それから帰るわ!
 姉さん、ランスの形を作って!」

「任せて!」


ぎゅおおおお…。



姉さんがイメージをすると、手元の剣の大きな刀身が変化して、
背の大きな翼が引っ込んで刀身の方に回って大きなランスの形を作った。
その大きさは、長さは50メートルに至り、太さは20メートルに近かった。


『『『うそぉっ!?』』』



「「いっけええええええええっ!!」」


どこぉんっ!どこぉんっ!どこぉんっ!どこぉんっ!どこぉんっ!



DFSのランスを掲げた龍王騎士は、
もはや音速で突撃していく巨大な弾丸と化して、
チューリップを撃破というより体積をほぼ消滅させる形でぶち抜いていった。

……私達が基地の方に戻る段階では、敵はもうほとんど残っては居なかった。

『や、やりすぎだよ二人とも…』

「あ、あのままだと危ないとは思ったけど、
 ちょっと調子乗っちゃったかしらね…」

「いいじゃない、みんな無事だったもの!」

……姉さんだけが能天気だった。
この威力…色んな勢力が放っておかないかもしれないわ。
私達だって、戦争が終わってももしかしたら…。

でも、いい。

まずは…。


ぴぴぴぴ…。



『アリサ!?
 サラもそっちにいるのか!?』

『無事でよかった!
 すごかったわねぇっ!』

避難所に残ったままとお父さんとお母さんが端末で連絡してくれた。
…そう。私の大事な人達が助かった。
大事な街も、大事な人たちも…それだけで命を張った甲斐がある。
生き残れたからこそ、喜びをかみしめていられる。

…今はそれでいいの。
そして…。

「…私ね、嬉しかったの。
 姉さんが手伝ってくれて…。
 背中を守ってくれて…。
 
 ……今までで一番心強かった。
 
 ありがとね、姉さん…」

「ううん、私こそ…。
 こんな風に…アリサはずっと戦ってくれてたのに。
 私、全然わかってなかったのね。
 
 命を懸けてみんなのために戦ってたんだって…」

「何しんみりしてるのよぅ!
 今日は最高だったわっ!
 
 

 …最高最強の、姉妹パイロット誕生なんだからっ!」

 
 
私は立ち上がって後部座席の姉さんを抱きしめた。
姉さんもにこにこして抱きしめ返してくれた。

──沸きに沸き立つ連合軍基地のみんなも。
そして連合軍基地の周りで大歓声を上げる、避難してたはずのみんなも…。

……ううん、この人たちは私たちだけが守ったんじゃない。


この…龍王騎士。


あの映画を作った人たち…。


そして…。


あのホシノアキトのおかげ、なんだよね…。


変なの。


この機体は結局返さないといけないかもしれないけど。


でも、嬉しかった。


その夜、久しぶりに育った我が家で、私達は食事を共にした。
サラ姉さんはIFSを勝手に入れて戦い始めたことを怒られた。
めったに悪さをしなかったサラ姉さんがこんなに怒られたのは初めてかもしれない。
でも最後は守ってくれてありがとってお礼をいって褒めてくれた。
そのうち、おじい様まで駆けつけて礼を言ってくれた。

……きっとこんな日も、今日限りなのかもしれない。

ホシノアキトが帰ってきたのではなく、
私達が龍王騎士を操ったと知ったら、みんな黙っていないかも。
連合軍の希望の星とか言われちゃうのかもね…。
そうしたら姉さんも…。

それでも、いい。
こんな温かい時間を失わずにすんだんだから…。

姉さんも…。

「アリサ、あの、もし…。
 私が必要ならついてくから…」

「…うん。
 ありがと」

寝る前に…。
子供の頃のように、一つの布団で眠ろうとした時、
姉さんは私を手伝ってくれると言ってくれて…嬉しかった。
そうならないでいいならいいんだけど…。
…今は考えないようにしよう。


パイロットになった私のせいで顔を合わせる度に不穏な空気だった我が家が…。
こんな風に笑いあえる日が来てくれたんだから…後悔なんてない…。

この日、私はとてもよく眠れた。
半年の間、連戦に次ぐ連戦で緊張しきっていたのかもしれない。
……これから新たに続く激闘の日々を予感しながら、深く眠りに落ちていた…。

























〇作者あとがき
どうもこんばんわ、武説草です。
外伝的に、というか『時の流れに』の外伝を踏襲した、
ナデD版『漆黒の戦神』的な話になりました。
この話の意味はまたじわじわ出してくるとは思いますが、
アキトが居ないでアキトの力だけ(ブローディア=龍王騎士なので)、
西欧に到着しちゃったらどーなんの、というシナリオで描いてました。
今回ここにはテツヤも居ませんし、割と堂々と出て来ちゃってますしw
あるいは女の子が主人公の新ナデシコみたいなノリですかね。
女の子追いかけてったら巻き込まれ、臨まないまま戦い始める、ナデシコ第一話っぽさ。

そしてイツキさんをここで出す予定はなかったんですが、
彼女ってゲーム版からして、どこでも出していいなぁって思ったのと、
時ナデ設定の辛いもの好きなのを生かして、
サラをアリサに誤認させるネタが使えるなぁって思った結果こうなっちゃいましたw

って、サラはそれでいーんかって気がしないでもない展開ですw
でもこのサラがDFSを扱えるってネタはタンデムアサルトピットを思いついたあたりで考えたもので、
非戦闘員だけどDFSオペレーターとして乗り込むっていうアイディアに転じました。
ホシノアキト×テンカワアキトだとそれぞれブラックサレナに乗った方がいいけど、
アリサだけだとDFS不可、サラも普通のパイロットとしてはダメダメなので、二人そろって一人前と。

ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!













〇代理人様への感想
>喫煙者死すべしジヒはない。
>吸うなら喫煙所で吸え!
近年の価値観や設定にアップデートしてる部分があるわりに、
たまに90年代っぽい設定は残ってたりするナデシコD。
アカツキはTV版後期の悪キャラからちょい悪になってるのでこういう描写になりました。
言うこと言う割に、矛盾があるこというよなぁこういう男は…。
二枚目半だった当時と違って、割とエリナを手玉に取る感じの時もたまにある。




>>20世紀の銃のコピー
>だがそれでもAKなら・・・AKならきっと何とかしてくれる・・・(ぉ
AKの各所の人気、コピーがある率、性能から考えると秘伝のタレが残るがごとく、
こう残っているはず…そのように私は思っている!!
ラピスのとばっちりでつかまっちゃう彼らに幸あれ。




>幕間的な話はぶっちゃけ感想に困る(ぉ
書かなきゃいけないと思ったら書いちゃいますが、
前回と会わせて一話で済ませるべき内容だった気はしますね…。
も、もうちょっと省略しないと…。
伏線もあるにはありますが地味ッ。
今回はそこそこ動いてます、いろいろと。ってことで一つ。












~次回予告~
ユリです。
ついに地球に戻って来れました。
とりあえずラピス、そしてユリカさんは無事みたいで何よりです。
ナデシコからそろそろ降りなきゃいけないかもしれないっていうのはちょっと寂しいですが、
いつかは降りないといけないので仕方ないとしましょうか。
それよりユリカさんをしっかり捕まえて、ちゃんとリハビリを受けてもらいましょう。
カウンセリングとかも必要でしょう…それでも完治するか怪しいほどの傷ですから。

でも、私は勝ち目のない戦いをする主義じゃありません。
アキトさんにはビシッと決めてもらいましょう、ええ。

複雑なことは抜きです。
まず、ラピスごととっ捕まえてから考えましょう。
そこまでたどり着くのもちょっと手間がありそうですし。
…はぁ、人並みの幸せで落ち着きたいもんです。本当に。


ルリはなんだかんだ苦労人だよなぁと思う、〇〇タイの棒ラーメンに地味にハマる作者が贈る、
元気があれば何でもできる系ナデシコ二次創作、時の流れに成分があるのでそう考えると三次創作、









『機動戦艦ナデシコD』
第六十七話:darner-ほころびを繕う人-









をみんなで見よー。















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代理人の感想
うーんwww
まあなんというか、これだけの機体が作れて今まで何で押されまくってたのかなあとw
それを言っちゃあおしめえよ、ではありますが。

しかしアクア有能だなほんとw


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