ついにホシノ兄さんとラピスが再会しました。
浮かれた雰囲気の中、見つめ合う二人。
そしてそれを見つめるユリ姉さん。
三人は万感の想いをその表情にたたえています。
ここまでたどり着ければきっとハッピーエンドです、ぜったい。
敵はめっちゃいっぱいいますけど、ホシノ兄さんの実力があれば守り切れるはず。

何より、ホシノ兄さんは16216回のどの『テンカワアキト』よりも味方が多いんです。
不本意ながら私の因子が入ったことで、全世界の注目の的になってしまったみたいなので。
だからホシノ兄さんを殺すとデメリットの方が多い状況になりつつあります。
私にしては楽観的ですけど、これくらいはいいでしょう。
こんなかわいげのない私だって良い未来を夢見たいんです、たまには。

それにしてもジャックがいい仕事してくれました。
ラピスの中に未来のユリカ姉さんの人格が存在しているなら、
間違いなくドンピシャのシチュエーションです。
最高のプレゼントを準備してくれました。
あとで褒めてあげないと。

…ま、そ~~~んなわけで、今日も行ってみよー。

アバン担当するの久しぶりのルリでした。
今回は、前話の当日、別視点で時刻を追いかけながら続いていくそうよ。

では、本番よーい、ドン。



















『機動戦艦ナデシコD』
第七十一話:Dance!-舞踏会-その3



















【時刻─13:30】
〇地球・ピースランド・街道──リョーコ
オレたちはパレードに参加させられて、
パイロットスーツでお立ち台の上に乗りながら街中を進んでいた。

は…はは…なんでこうなっちまったんだよ…。
映画の影響なんて大したことねえと思ってたんだけどな、
実家の道場にも入門希望者がまた増えて、三十人も集まっちまったらしい…。
殺到してるってほどじゃないが、かなり繁盛してる部類だよな。

ホシノアキトに関わる、ナデシコ、PMCマルスの全員が注目されてる。
どうも本当に戦争を終結させることができた英雄たちと言われてるとかな。
ほ、ホシノだけにしてほしかったぜ…。

「ほらほらリョーコぉ!
 ちょっとくらい手を振ったりサービスしなよぉ!
 イズミちゃんだってもう少し愛想がいいよぉ?」

「…うるせー。
 こっちゃアキトたちほどは戦えなくてへこんでんだ」

「そんなの分かり切ったことじゃない。
 さすがにあの二人でも私達が欠けたら危なかったんだから」

…そりゃそうだけどよぉ。
さすがにオレも腐るぜ、ちくしょーめ。


「「「生きて帰ったかー!この熱血バカ!!」」」


「ぬぁ~~~~~はっはっはっは!!

 このダイゴウジガイ様は不死身で不滅だぜぇ!!」


「ヤマダ君ってばフィクションより現実のほうがしぶといから不思議だよね~」

「生きて帰った結果は褒められるんじゃない、ヒカル」

……もうなんも言うまいってやつだな。
ま、ナデシコもPMCマルスも、ほとんどの連中が浮かれてるわけだ。
水を差さないように手くらいは振ってやるか…。


















【時刻─14:35】
〇地球・ピースランド・王城・王室──ルリ
私とピースランドの家族と、ユリカ姉さんとテンカワ兄さんで、
火星での戦いの顛末、そして詳細について話していました。
火星軌道上での激戦の様子は、ある程度編集され…。
ブラックサレナ二機による最後の死闘に関しては入念にカットして、ネルガル経由で全国放映されました。
アキト兄さんズ的にはあんまり放映されたくなかったようですが、
なんでも下手に秘匿するとかえって怪しまれるとかで。
フクベ提督と白鳥さんにも最初木連側のスパイじゃないかって疑われたそうなので、
地球にも戦いの様子くらいは流すべきなんでしょうね。

色々と火星でもトラブル続きだったのも話しましたが、
遺跡ユリカさんのことは話すわけにはいきませんし。

ほどほどに武勇伝と和平のことを話した後、
話題は地球の方に移り、まあ御多分に漏れず…。

「私達も『ダイヤモンドプリンセス』の映画にはずいぶん助けられてるぞ。
 実はピースランドも来場者数が三倍ほどに膨れ上がってな。
 ユーチャリスの活躍で、
 国際便が運航できる程度には情勢が良くなったこともあって、な」

「は、はは…すごいっすね…」

私達は父の喜びように冷や汗を流しました。
何しろ『世紀末の魔術師』も『ダイヤモンドプリンセス』もアトラクションがたくさんあります。
需要が増えすぎて半日待つのはザラ、新たに大人数で使えるアトラクションも作っているとか。
それだけならまだしも、一日だけ本当にピースランドを『ダイヤモンドプリンセス』作中の、
『ダイヤモンドランド』にする企画をやったこともあるとかで…。
……ますます現実とフィクションが分けがたくなってます。
勘弁して。

そういえば私の養父母、ホシノ夫妻(ホシノ兄さんたちではありません。念のため)も、
金のために引き取った割に私を放任気味にした罰として、
『世紀末の魔術師』のアトラクションで私をさらった悪役を演じてます。
……こうなると過労になってそうですね、あとでちょっと様子を見にいってあげますか。
親切心とあてつけのコンビネーションです。

「…そういえばラピスちゃんはもう、体の方は大丈夫なんですか?」

「ええ、もちろんです。
 一昨日も精密検査を受けていただきましたが後遺症もなく、
 元の体力を取り戻しております」

「ほ…」

「一安心だね」

…本当に良かった。
一応重子さんに途中経過を聞いては居たんですが、
ユーチャリスを降りたあとのことは、秘密を守るために知ることができなかったんです。
ここまで来れたらなんの心配もないでしょうけど。
この王城のセキュリティのすごさは身をもって体験済みですし。
あとは世界最強の護衛とともに佐世保まで帰還して今後のことを考えるだけです。
本当にここまでが長かった…。
ハッピーエンドです、マジで。

「時にルリ。
 ホシノアキト君とユリ君はまだ結婚式を挙げていないという噂があるが、
 本当か?」

「あ、はい。
 起業するまでにだいぶ無理をしていたそうで」

「なら近々、盛大に執り行おうではないか。
 これまでの大変さからすればそんな暇もなかったろうが、
 地球に戻ってこれて木連とも和解となれば、もう何も止める理由はないだろう。
 トカゲの掃討に関しても、連合軍に後を託してしまう予定なんだろう?」

「おお、それはとてもいいアイディアですな」

…父とミスマルお父さんが勝手にずんずん話を進めてしまってますね。
確かに事情を知らなければそう思うでしょうね。
とはいえ、まだラピスの件も決着がつけられてないですし、気持ちの整理も間に合わないでしょう。
どう断りましょうか…。

「お父様!
 アキト君とユリちゃん抜きでそんな話を進めちゃダメです!」

「ん?
 あ、まあそうだが…」

「それに私とアキトのこともまだ認めてもらってないです!」

「そ、それは関係ないだろう」

「あります!」

「おいおい…」

……ユリカ姉さん、気を遣ってるつもりなんでしょうが、半分は本当に自分のためですね。
テンカワ兄さんもあきれ顔です。
便乗する形になっていますが、ユリ姉さんだけ積極的に結婚式を挙げるのを進められては、
ユリカ姉さんから見るとズルいって気持ちになるんでしょう。
ミスマルお父さんはタジタジです。
そんな中、父は少し考え込んで口を開きました。

「なら同時に挙式するというのはどうだろう、ユリカ嬢。
 もちろんルリの身内であるし、私たちも親戚のようなものだ。
 我々も数えきれないほどの恩が公私ともにある。
 無料で式を挙げさせてもらいたい。
 
 ぜひとも、この城で結婚式を挙げてしまおうではないか」

テンカワ兄さんとユリカ姉さん、そしてミスマルお父さんの動きがぴたっと止まりました。
確かに父たちはホシノ兄さんたちに恩を返せますし、文句なしの会場です。
しかもこのセキュリティなら警護も容易、マスコミ対策すら可能です。
さらに呼びたい人もかぶってます。
挙式費用も同時なら恐らく多少なりとも抑えられますし…。
何より挙式する四人はめちゃくちゃ喜びますね。間違いなく。

最初はちょっと難色を示すでしょうけど、
テンカワ兄さんはPMCマルス、ナデシコで連戦を続けて貯金があるとはいえ、
さすがにピースランドで結婚式を挙げるほどはありません。出店資金を残しておきたいでしょう。
ホシノ兄さんとユリ姉さんは間違いなくユリカ姉さんのウエディングドレス姿を身近で見たいと思ってます。
絶対に反対しないでしょう。
ユリカ姉さんは言うまでもありません、ロマンチックなのに弱いですし。
それにホシノ兄さんとユリ姉さんの二人に対する思い入れを考えれば…。
マジで一石二鳥どころじゃないです。
…ラピスの件を除けば、完璧としか言いようがないです。

「ちょ、ちょっと待っていただけないだろうか、国王…。
 わ、私はまだテンカワ君を認めてはいない…」

「……うむ。
 心中察するぞ、ミスマル提督。
 愛娘を嫁に出す、胸が張り裂けそうになるだろう…」

…父はちょっと考え込んで深く頷きました。
母まで深く深く頷いています。
バカ?
…いえ、親バカ?


「ちょっと待ってよ!!

 私もうハタチなんだよ、お父様!!

 さすがに過保護すぎるよ!!

 アキト君とユリちゃんのことはすぐに許した癖に!」



「む、むぅ…それはそうなんだが…」

…さすがにユリカ姉さんもキレてますね。
ミスマルお父さんもこういう時にはガンコな振りをしそうですけど、
テンカワ兄さんも条件がすでに整っている状態ですし、
何よりユリ姉さんが先行して結婚してる事実がありますから言い淀んでいます。
…ああ、ユリカ姉さんもちょっと頭に血が上ってユリ姉さんへの気遣いを欠いてますね。

「ゆ、ユリカ…。
 俺もちょっと早いと思うんだよ…」

「アキトまで!?」

「ほ、ほら…。
 俺って料理人としてはまだ一人前かどうか怪しいし、
 成人だってしてないだろ…?」

「そ、そうだろう!?
 テンカワ君は分かってるな!!」

「そんなのアキト君とユリちゃんだってそうじゃない!!」

「そう言うなって、落ち着けってば。
 ほら…まだちゃんとしたプロポーズだってしてないだろ…。
 火星でプロポーズみたいなこと言ったし…俺もお前のこと…だけど…。
 給料三ヶ月分の指輪を買って…ごにょごにょ…」

「そ、そうだけど!
 だって婚約くらいしないと、
 お父様ったら、すぐ逃げ腰になるんだからアキトも協力してよぅ!」

……この後、思い出話もそこそこのまま、ジャックが主催した舞踏会の開始時間ギリギリまで、
ユリカ姉さんとミスマルお父さんの攻防が続いてしまって、結局決着しませんでした。
テンカワ兄さんは二人をなだめつつ、ミスマルお父さんの条件を満たして、
交際条件をクリアした上で、改めてプロポーズする、というなんとも茶番じみた、
単なる嫌がらせか、牛歩戦術のような条件をのむことになってしまいました。

どう考えても今のテンカワ兄さんだったらあっさりクリアされてしまう程度のことです。
それにもはや、テンカワ兄さんとユリカ姉さんが結ばれるのは運命的にも因果律的にも確定です。
その先の話を何とかするためにも、私達は離れられませんし。

……はぁ。久しぶりに言わせてください。




バカばっか。




















【時刻─15:03】
〇地球・ピースランド・王城・大広間──ユリカ
私とお父様は微妙な距離感で、大広間に向かった。
アキトも肝心なところで意気地がないのはちょっと悔しいけど、
そんな奥ゆかしいアキトも私好きだから困っちゃうなぁ。
お父様の条件はアキトなら簡単にクリアしちゃうだろうから安心だけど。

…でも私が焦ってた本当の理由は、
ラピスちゃんの語った未来に怯えていたからだった。

アキト君が遺跡の前で控え目に話してくれたこと…。
ラピスちゃんが、オモイカネダッシュに託していたビデオメッセージで語ったこと…。

アキト君とラピスちゃんが私達だった頃…。
きっと二人は、トカゲ戦争の中で、たくさんの苦難を乗り越えて結ばれたんだと思う。
でもアキトや私が、アキト君やユリちゃんと出会うことが無ければ、
きっと結婚するまで進展はほとんどなかったんだと思う。

私達は『ダイヤモンドプリンセス』の映画に感情移入して、
死地に行く前に後悔しないようにお互いの気持ちを一晩中確かめ合ったけど…。
…あれが無かったらお父様を裏切るような真似、私にはできないもん…。

だからアキト君たちはようやく結婚してラブラブ生活って時に、
火星の後継者につかまって、乱暴されたって…。
そしてアキト君が私を奪われて狂った。その一部分を私は見てしまった。
ラピスちゃんもあんな顔になって、アキト君のために死のうと考えたのを、知ってしまった。

もうあんな未来はないって分かっていても…。
自分があんな風になるなんて想像できなかった。したくなかった。
オモイカネダッシュが見せたラピスちゃんの言葉に、
心をバラバラにされたような気分になって、
ユリちゃんにとぼけたフリをしてたけど、あの日は全然寝付けなかった。

アキト君が、ユリちゃんが、ラピスちゃんが、
どんな気持ちで私達を見てくれていたのか、どれだけ苦しんだのか。
そう考えるだけで、私は胸が張り裂けそうで、ずぅっと泣いてしまった。

でも…。

舞踏会が始まってすぐに、
そんなこと、もう私が考えるまでもないのかもって思った。
二人だけの舞踏会で足を踏み鳴らしている二人の姿を見て…。
アキト君の優しい笑みと、ラピスちゃんの幸せそうな笑顔を見て…。

……報われるってこういうことなんだって、涙がこぼれた。

16216回の繰り返し…時間にして四万六年という気の遠くなる時間の中に生きた、
遺跡の中に残った私のコピーが導き出した、最適解。

その中で、ついにアキト君とラピスちゃんは報われたんだ。
絶対に叶うはずの無かった、狂うか死ぬかしかなかったはずの二人が幸せをかみしめてる。
もう二度と誰にも奪わせないと誓うように、ラピスちゃんの手を強く握りしめるアキト君の姿…。
ラピスちゃんは自分の弾けそうな心を抑えて、ダンスを壊さないように、
でもアキト君から目を離さずに、踊り続けていた。

二人だけの世界がそこにあった。

これだけの大人数に見守れているにも関わらず、誰もそこに立ち入れない。
私も、ユリちゃんも、ルリちゃんも、事情を知ってる人たちは全員、
目の前にある、奇跡に…涙を流している。
決して結ばれることが許されなかった、二人が手を取り合う光景に…。

アキト君は…。
未来のアキトは、奇跡を起こし続け、世界すら革命したんだ。
もう二度と戦争のために、ボソンジャンプのために傷つかない未来を創った…。
……きっと、私達のためにも。

「…ユリカ」

ぼそっと、アキトが小さく私に話しかけた。
私は少しだけ近づいてアキトの声を聞こうとした。

「…俺たちはあの二人に比べればずっと容易い道を歩いてきたよな。
 助けられて、鍛えられて、危険を受け持ってもらって。
 これからは俺たちが力になろうな。
 それで…お前も、必ず守り抜いて見せる…!
 だから、その…俺の臆病さに呆れないで付き合ってくれる、か…?」

「…うん」

私はアキト君とラピスちゃんから目を離さないまま、小さく頷いた。
アキトの『付き合ってくれるか』という言葉には、たぶん『一生』って頭についてる。
…そうだよね、アキト君たちは私達をくっつけるためにいっぱい気を遣ってくれたもん。
きっとあの三人が願っていたことは…『まっとうに幸せになるアキトとユリカ』だったんだもん。

でもね、それだけじゃダメなの。

アキト君は二股かけていっぱいいろんな人に怒られちゃうんだもん。
だから、私達が支えてあげないと…。
あれ?アキトが言ってるのとちょっと違うかな?

ま、いいや!成せばなるもん!

「…ユリカ、ユリ、ルリ君まで…なんで泣いてるんだ?」

「ぐすん…お父さん空気読んで下さい。
 ラピスがどれだけ辛かったか分からないんですか…」

「い、いや…。
 それは分かるんだが、なんだか…」

……お父様、ちょっとアキト君とラピスちゃんの様子に気付いちゃった?
そうだよね、普通に義妹と思ってるだけだったらあんなに情熱的にならないもん。
じゃあ…。


ぎゅっ。



「ゆ、ユリカ?」

「アキト…好きだよ。
 次は私達が踊ろっか?」


「~~~~~ッッッ!!!」



私はアキトの腕にぎゅっとしがみついた。
それでお父様にわざと聞こえるようにアキトに好きだって言っちゃった。
お父様の視線がこっちに向いたと思う。
声にならない声が聞こえた気もする。
えへへ、こうすればアキトに抱き着けるし、
お父様の目をアキト君とラピスちゃんからそらしてもらえるし、一石二鳥!


お父様だってアキトとのラブラブを止める権利はないも~~~ん!



「「…バカ」」















【時刻─15:05】
〇地球・ピースランド・王城・大広間──ラピス
──私は夢のような時の中で、この時が永遠に続いてくれるならと願い続けていた。
永遠に続かないからこそ、ステップを踏み間違えてはいけないと、
泣いてはいけないと、自分に何度も言い聞かせながらそう思わずにはいられなかった。

二度とこの手を離してほしくない。

ずうぅっと、アキトを見つめていたい。

いますぐにでも、アキトの唇が欲しい。

…そんなことは叶えてはいけない。
ユリちゃんのためにいつかはダンスを代わらないといけない。
分かっているからこそ、そう思わずにいられなかった。

アキトをユリちゃんから奪っちゃいけない。
それだけは絶対にダメ。
分かってる、これだけは変わらない。だけど…。

私の手を取って、幸せにしてくれようとしてくれるアキト。
こんな風に、最高の舞台で、アキトに抱きしめられる権利を分けてくれた、
世界一の王子様を一人占めできる時間をくれた大事な大事な、優しいユリちゃん。

ここまでしてくれる二人に、世界一幸せになってほしい。

でも誰にも付け入る隙が無いくらい完璧に結ばれてる二人が、
私に居てほしいと、幸せになってほしいと、
そうしたほうが自分たちも幸せだって言ってくれる。
完璧より、少し傷がついたとしても私と一緒に幸せになりたいと願ってくれている。
二人の言葉には、一点の曇りも感じなかった。

だから私は…この時を、粗末にしない。
この幸せを受け入れて、噛みしめて、
再び辛い未来があったとしても後悔しないように…!
自分に嘘をつかないで、一生懸命にアキトの気持ちに応えるんだから…!

目の前に見える、アキトの眩しい笑顔。

こんな眩しい笑顔、昔は見せてくれなかった。
アキトの新しい一面に、私は何度も何度もときめいて、心を奪われてしまっている。

ああ…幸せ…。

名残惜しいことに…舞踏曲はラストに向かってしまうけど…。
もう二度と離れるなんて考えられないくらい、私の心は満たされていた。

私のすべてを否定された未来で、消えるはずだった私の命…。
こんな形でも、ラピスちゃんに寄生するようにでも、
私は生きていてよかったと心から思えた。

二人が、私のすべてを受け入れて肯定してくれた…。

アキト、ユリちゃん、ありがとう。


ぎゅっ!



「あ…」

「ユリカ…。
 二度と離さないからな…」

舞踏曲が終わると同時に私を強く抱きしめて、耳元で小さくささやくアキト…。
アキトの誓いの言葉に、私は小さく頷いて答えることしかできなかった。
大声を上げて泣きたい。喜びたい。キスしたい。
でも、今はできないの…。
誰にも、アキトと私のことを気付かれちゃいけない。
少なくとも、良い年頃になるまでは。
これ以上何かあって、誰かにバレたら悪い噂じゃすまないもん…。

それでも、いい。
だって私、幸せなんだもん。
アキトは二度と私を離さないから。
どこにも逃がしてくれないんだから…。

「アキトさん、ラピス、綺麗でしたよ」

「…うん、ありがと」

「あ、あのユリちゃん…ありがと、ね…」

「良いんです。
 生きて待ってくれてたんですから、ご褒美です。
 これくらい安いもんです」

私たちがユリちゃんのところに戻ってくると、ユリちゃんはうんうんと深く頷いていた。
…ユリちゃんってば、相変わらず言い回しがきついよね。
でも、とっても優しいんだよね、この言い回しが実は…。
あ、ユリちゃんまで私に抱き着いて…う、嬉しいっ。


・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


それから、私達はタイムスケジュールに従って立食パーティになだれ込んだ。
久しぶりに会う、大切な家族と過ごす…二度と来ないはずだった、大事な時間をかみしめた。
私は何度も泣きそうになりながら、楽しく話し込んでしまった。

「…本当によかったな。
 こうして家族で再び会えた。
 
 ユリカ、ユリ、アキト君、ルリ君…あんな苛烈な戦いを生き抜き、この地に戻ってきてくれた。
 ラピスは危険に陥りながらも死の淵から帰ってきてくれた。
 
 誰かを欠くようなことがあったら、私は…」

「お父様ったら、そろそろお酒を止めないと倒れちゃいますよ」

「どうぞ、お父さん。お水です」

「おお、すまんな、ユリ」

お父様、感極まって様子で、珍しくすごい酔ってる。
立食パーティなのにふらふらしながら、こんな風に泥酔寸前まで酔うなんて。

…アキトのこと、本当に信頼して、安心してるんだね。

それに、私達が無事だったことを本当に喜んでくれて…。

そういえば和平会談の時に襲われたお父様の重傷、
昴氣っていう二人のアキトが魔法みたいな力で治してくれたって話して…。
…どこまですごくなっちゃうのかなぁ、アキトは。

『それでは、舞踏会の第二幕を開始します。
 すでにパートナーの居る方、そしてこの会場でパートナーを見つけた方、
 ぜひともご参加下さいませ』

従者の人のアナウンスが聞こえた。
あ、今度は私とアキトだけじゃなくてみんなが踊る舞踏会が始まるんだ。
て、ことは…。

「ユリちゃん、行こうか」

「…はいっ」

「ゆ、ユリカ…」

「あ、アキト…踊ってくれるの?」

今度は…。
アキトとユリちゃん…この世界のアキトとユリカの番、だね。
ユリカは白いシンプルなドレスを、ユリちゃんの育ての親、
お義母さんが準備してくれたチャイナドレスを着ていた。
この場にはふさわしくないはずなのに、その美しさと堂々たる態度で突き通している。

アキトはダイヤモンドプリンセス作中の衣装だけど、
この世界のアキトはタキシードを着てて…あんなガッチリしてたっけ?
…みんな素敵。
ユリカのことはちょっと自画自賛入っちゃうけど。

「エリナ君、おいでよ」

「ちょ、ちょっと…分かったわよぉ」

「ヤマダ君!
 踊ろっ!」

「ま、待てって!
 お、俺はダンスなんてできねぇって!」

「いいのいいの!適当でおっけー!
 付き合ってよ!」

「あんた!
 たまにはツケを返してくれなくちゃ、いい加減別れるよ!」

「あ~~~~~~ったく!
 しょうがねえな!
 誰だようちの家族招待したのは!?」

大広間の真ん中に集まって…エリナさんもアカツキさんと一緒に来てる。
ヤマダさん…とアマノさんも…。
あ、あれはウリバタケさんと奥さんも?
……あのウリバタケさんが?珍しいなぁ。

そして…今一度、舞踏会は始まった。
さっきよりは少しだけ明るいけど、再びロマンチックな星空の舞踏会。
…ほんと、綺麗。

でも…。
アキトとユリちゃんのことを見ていると、胸が痛む…。
アキトがメグミちゃんとナデシコを降りた時と同じような、心の痛みのような…。
届かない場所に行ってしまうように思う、切ない気持ちに胸を押さえた。

「…ラピス、大丈夫ですか?」

「ルリちゃん、ごめん…。
 嬉しいんだけど、やっぱりちょっとだけ辛くて…」

……私って、本当に醜い。
あんな最高の舞台で、幸せに踊った後なのに、
ユリちゃんにアキトを取られたような気持ちになって嫉妬してる。
ユリちゃんは一番最初に踊るのを許してくれたのに、胸が苦しい。

きっと…私は、心のどこかで分かってるの。
私では、少なくとも今の私では、踊るとかキスするとかが限界で…。
ユリちゃんみたいに大人になり切れてないから。
……これから数年、こんな風にずっとお預け。
でもユリちゃんがルリちゃんだった頃、こんな風に…しかも気付かれない、叶わない恋心を抱いていた。
ユリちゃんだけじゃない、ラピスちゃんだってそうだった。

それでも辛くても、アキトと居られるから幸せがある。
だから二人は耐えられた。
私は、二人に比べると報われると分かってるだけずっと楽なはず。
それなのに、私だけ我慢できないなんて…本当に醜いと思う。

…自虐的になるのがアキトのせいって言われても、そう思っちゃうんだから仕方ないじゃない。

「…ちょっと、風に当たってくるね」

「一緒に行きますよ」

「ううん、本当に大丈夫。
 この王城って世界で一番安全な場所でしょ?」

「それは、そうですけど…」

「ラピス、お父さんも行こうか。
 …病み上がりだろう、体に障る」

「くすっ、お父様だって病み上がりの癖に。
 ユ…ラピスはもうお医者さんに太鼓判押してもらってます。
 本当にちょっとだけですから」

「ふ、そうか…。
 女の子の成長は早いものなぁ…」

お父様はうんうんと深く頷いて、私を見送ってくれた。
嫉妬心を自覚して、でも我慢できないから気持ちを落ち着かせたいだけって思ってくれたみたい。
ルリちゃんも事情を知ってくれてるから、すぐに頷いてくれた。
……うん、大丈夫。
ちょっと風に当たってくれば、きっと…。
























【時刻─15:30】
〇地球・ピースランド・王城・テラス──ラピス
……びっくりしちゃった。
私はテラスで頭を冷やしていたところにジュン君が来たから、
さっきまでちょっと話し込んでたけど…。

…ジュン君って私が好きだったんだ。

全然気が付かなかった…。
私をいつも手伝ってくれるし、一番の友達だと思ってたけど…。
単にすごくいい人だと思ってたけど…。
……考えてみるとすっごい、めんどくさいことまでしてくれたよね。
副長やってもらう前からずっと…。
…私、ジュン君居なかったら士官学校落第してたかもしれないもん。
そうだよね、好きじゃなかったらあんなにしてくれないよね、当たり前だよね…。

……ジュン君が言った通り、私が勝手に動揺して同情しちゃったんだろうけど、
ジュン君と踊ってみようかなってちょっとだけ思っちゃった…。
それくらいじゃとても返しきれない恩だし、ラピスちゃんの姿じゃあんまり喜んでくれないもんね。
メグミちゃんと幸せになってくれれ、ば…。

……今、余計なこと、考えちゃった。
もし、私がジュン君の好意に気付いてくっついていたら…。
…もしかしたら、私、あの先々で起こしたトラブル、全部起こさないで済んだのかも。
ナデシコにそもそも乗ってなかったかもしれないし、乗ってたとしても、
拿捕されかかった時に、ナデシコのマスターキーを渡して、火星には飛ばなかったかも。
ナデシコで地球をすぐに転戦することになってたと思う。

そうなったら、火星の人たちも見殺しで死んじゃうけど…。
ボソンジャンプの研究は大幅に遅れて、私もアキトも、無事だったかもしれない。
結局、私の人生的にはどう考えたってそっちの方がずっとマシじゃない…。
木星の人たちは黙殺されて、全滅しちゃうって知ってたらそんなことできないけど…。
私が相転移砲で虐殺しちゃう未来も、ないよね…。

…相変わらず、ひどいことを考えてるなぁ、私って。
そんなの結果が出ないと分からないことだって、分かってるくせに。
でも、考えずにはいられなかった。

120%の幸せを取って、一日も享受できないより、
50%以下の幸せでも末永くいられた方が、マシだもん……。
アキトとジュン君、どっちと居たら幸せなのはどっちなのか、言うまでもなくアキトだけどね…。

それだけじゃない…もし火星に向かっていたとしても、
火星でアキトを追いかけて、避難民の人たちを押しつぶすことは少なくともなかったはずだし…。
北極でアキトのことで悩んでグラビティブラストを撃って不利をこうむることもなくて…。

…は、はは。
私、とんでもない選択をしてたのかも…。
私がアキトにとって負担が大きいのは自覚してたけど…アキトを狂わせた原因だって分かってたけど…。
16216回の繰り返しとか、因果律とか因子とかの件を考えても…。

…も、もしかしなくても、私の運命にとってもアキトって、相性最悪なの…?



……ああ、もう!




なんで私ってこうバカなことしか考えないの!?
こんな打算的な、変な後悔の仕方したって、何もいいことなんてあるわけないじゃない!
良いじゃない、もう黙ってアキトとユリちゃんと幸せになれば!


それが一番幸せで!

私が心の底から望んでる事で!

二人を一番幸せにできる方法で!

そうするって決めたんだから、いいの!


バカバカバカユリカッ!



…はぁっ、こんなんじゃまたラピスちゃんに怒られちゃうよ。
ジュン君に惹かれてるわけでもないのに、あんなこと言ったことも、
こんなこと考えてることも、すっごい怒られちゃう。

…でも、まずは戻ってきてくれないかな、ラピスちゃん…。

…。
そろそろ、戻ろうかな。
自分のバカさ加減思い出してたら、考えるだけ無駄な気がしてきちゃった。
やけ食いでもして、気持ちを落ち着けた方がずぅっとマシだもんね…そうしよっと。

「失礼します」

…?
私が大広間に戻ろうとしたところで、一人の給仕さんがクロスのかかったワゴンをもって現れた。
そこにはワインが一本と、グラスが一つだけ…。
でもこのテラスには私しかいない。
誰へのワインなんだろう…。

…!

ちょ、ちょっと待って…!?


「あ、あなたっ…!?
 その目、まさかっ!?
 アキトを撃った…!」



「…まさか気づくなんてね。
 噂通り、テレパシーで通じているっていのもあながち嘘じゃないわけか…。
 大声出さないで、撃つわよ。
 もっとも、このテラスの入り口は締めさせてもらったから、
 そうそう気づかれるとは思わないけどね」

給仕さんは困ったように笑いながら、銃を抜いた。
私はテラスの柵に背を向けて寄りかかってる状態。
…ここは五階くらいの高さがあるし、変な落ち方をしたら助からない…。
ど、どうして!?この人、どうやって!?

「どうやってって顔をしてるわね。
 たしかにこの城はセキュリティはすごいけど…。
 光学迷彩くらいで目をくらませるとは思わなかったわ。
 調べてみたらアナログの塊、
 つまり人の目を介しているから光学迷彩じゃ見破れないわけ。
 もっとも、潜入ルートの開拓にはかなり時間を要したけどね」

…!
ルリちゃんを助けに来た時のアキト達と同じ手口を使ってたの!?

「…私をどうするつもり?
 すぐに殺さないってなると…人質?」

「物分かりが良くて助かるわ」

給仕さんはゆっくりこちらに近づいてきた。
…この人、私を人質にしてアキトを陥れようと考えてるんだ。
もし、そうなったら…。
…。

………ごめん、アキト、ユリちゃん。

私って、本当にバカだよね。運悪いし。
アキトとユリちゃんが踊ってるのを見てられないからってひとりになって。
さっさと戻ってればなにも起きなかったかもしれないのに。
……バカだよ、救いがたいバカ。

…今、私が出来ることって言えば、これしかない。
こう、しなきゃ…。

「!」

私は柵に寄りかかって、飛び降りようとした。
頭から落ちて、確実に死ねるように。
でも──。


ぎしっ!



「…まさか自害してまでこっちの計画を阻止しようとするなんてね。
 やってくれる…でも良いものつけててくれたわね。
 いい命綱になってくれたじゃない」

「…あぁっ」

私は、給仕さんに胸につけていたペンダント通信機をつかまれて、
ペンダントのボールチェーンがかなり頑丈だったのが災いして…。
あと一歩で落ちそうになってた体を抑えられてしまった。
だったらせめて、アキトを呼ばないと──。

「アキっ…むぐっ」

「喋らないで、撃つわよ。
 はい、深呼吸して」

給仕さんは、私の鼻と口を布で覆って来た。
薬物のにおい、クロロホルムみたいな、何か…。
喋るなとは言ってるけど、その一呼吸だけで昏倒しそうな強烈な薬…。
私は最初にアキトを呼んで通話をつないでおかなかったのを後悔した。
判断ミス、また…!

「うぐぐぐぐ~~~~~っ!
 ぅ…ぅ…う……」

私は何とか耐えようとしてたけど、呼吸不足と、
呼吸しなくても分かる強烈な薬のにおいに意識がもうろうとして…ついに呼吸をしてしまった。
ぐらん、と視界が暗転した。

「はい、お疲れ様。
 …幸せな時間はおしまい。
 ホシノアキトがあれだけ思い入れのありそうな顔をするんだから、
 効果は抜群でしょうね。
 来世に期待して、いい夢見なさいよ?」

私は意識が、闇に落ちる中…。
ほんの少しだけ、切れていたはずのリンクが、つながって…。
アキトとユリちゃんの、愛を語らう言葉を聞いて…。

……そのまま、気絶してしまった。
















【時刻─16:00】
〇地球・ピースランド・王城・大広間──ルリ

「お父さん…遅くないですか、ラピス」

「ああ…ちょっとおかしいな」

ラピスがここから出て行って一時間近く経過していますが、戻ってきません。
気分がすぐれないとはいえ体調のことではないですし、中身はユリカ姉さんなので大人ですから。
心配かけると思ってすぐに戻ってくるはずです。
この大広間以外で解放されているのは中庭と、テラス…。
中庭の方にはいかなかったので、多分テラスでしょう。
私とミスマルお父さんは、テラスに向かって見ましたがやはりいません。

「…これはワイン?
 しかし封は開いてないし、なぜ一人前だけここに?」

「ラピスが頼んだとも思えませんし、不自然ですね…」

そこにはぽつんとワインとグラスの乗ったワゴンがたたずんでいるだけで、誰もいませんでした。
…いえ!

「こ、これは!?」

「ラピスの履いていたヒール!?」

私達はテラスの柵の前に落ちていた、ラピスのヒールを発見して驚愕しました。
片方だけですが、確かにこのサイズのヒールは私とラピスくらいしか履かないサイズです。
ま、まさか…!?
…一応、テラスの外をのぞき込んでみましたが、下にラピスは居ません。
飛び降りたとか、事故で落ちたとか…そういうことではないようですが…。

「誘拐、された、とでもいうのか…?」

「まさか、そんな…」

この城のセキュリティの厳しさを鑑みればそんなことはあり得ないはずです。
…でも、誘拐以外でこんなことが起こるでしょうか。
ラピスが、未来のユリカ姉さんの人格ではなくて、ラピス本人だったらいたずらしないとは言いませんが…。
こういうジョークにならないジョークをするラピスじゃありません。
…そういえば!

「ラピス!どうしたんです、ラピス!」

私はペンダント型通信機で話しかけてみました。
ピースランドの一件で使ったこの通信機、さっき父と母に返してもらったのが良かったです。
この通信機、一人きりの状態じゃないとつながらないものですが…。
私のペンダント型通信機はすでに多人数がそばに居ても通話できるようにしてあります。
ミスマルお父さんが横に居ても大丈夫です。

…。つながりませんね。

「…つながらないということは、ラピスが意識を失っているか…。
 ラピスの通信機は周囲に多人数が居る状況での通信を許可してませんから、
 誰か同行していると考えるべきでしょう」

「…やはり、誘拐、か」

……そう考えるしかありませんね。
でも、まだ遠くには行ってないはずです。
この国の中であればそう遠くに行くことも難しいです。
父に話して捜索してもらいましょう。
ホシノ兄さんとユリ姉さん、テンカワ兄さん、ナオさんなら…。


がんっ!



「お、とうさん…」

「……無理にでもついていくべきだった。
 このピースランドの王城でさえ、油断できる状況ではなかった…!
 娘を守れなかったなどと…一生の不覚だ…ッ!」


ミスマルお父さんは、床に拳をたたきつけて苦渋に満ちた表情を浮かべていました。
でもすぐに立ち上がって、私の手を取って足早にパーティ会場に戻ろうと走り出しました。
さすがに頭の切り替えが早いですが、表情は硬いです。

……最悪です。
ラピスをこの場でさらわれるなんて、誰も考えてませんでした。
このピースランドの王城のセキュリティの強固さは世界でも有数のはずなのに。
せめて一人にしないであげれば良かった…私が居ても同じことではあるんですけど。
ラピスは、テロリストにあえて狙われるように装ったことがあるように…。
別の敵に狙われる可能性はゼロじゃなかったのに…!

…ブーステッドマンの人たちの甘っちょろい爆弾騒ぎの方がよっぽどマシでした。
あの時はどこに行くべきか、どうするべきかが分かってましたから。
今回は敵の考えが分からないだけ、楽観できないです。

……でもこの場合、ホシノ兄さんとユリ姉さんがどんなことになってしまうかの方が不安です。

この場で取り乱すだけならまだいい方で…。
…ラピスが死んだとしたら、『黒い皇子』が完全復活しかねないです。
過去と違って、明らかにホシノ兄さんのせいでラピスが殺害されたと思うはずですから…。

そんなことに、なったら…!












【時刻─16:25】
〇地球・ピースランド・王城・大広間──ユリ
私はアキトさんとの舞踏会を満喫していました。
私達の場合、ずっと隣に居る状態でしたから、
さすがにラピス…ユリカさんのダンスほどは感動的って感じじゃありませんけど…。

でも、胸いっぱいです。
ユリカさんに性質が近い、今の私には結構ぐっと来るシチュエーションです。
すごい胸がきゅんとします。

いえ、これはホシノユリとしての、母心みたいなところもちょっとありますね。
こんなに立派に成長して、みたいな感じもあります。

もちろん、どっちかって言うとアキトさんに惹かれてる気持ちが勝ってるんですけどね。
ふふふ。

「ユリちゃん、綺麗だよ」

「…照れちゃいます」

アキトさんはさっきと明らかに違う、手慣れた、安心するダンスをしてくれてます。
いっしょに練習したっていうのもあるんですけど、やっぱり夫婦生活長くなってるからですね。
新婚気分なんて、ほとんどないくらいで、ちょっと損してるところありますけどね。
…戦いから降りられたら、そんな気分になるのかな。

「…アキトさんも素敵です。
 惚れ直しちゃいます」

「あ、あはは、ありがと」

私達、動揺しているようで全く動きに変化がありません。
本当にお互いが近くに居るだけで安心できるんです。
…地球じゃなんだかんだ離れてる事も多かったですから。
ナデシコに乗ってる日々も、特訓漬けでコミュニケーションがちょっと足りなかったです。

…いっぱい、これから甘やかしてもらいましょう。
ユリカさんと、ラピスと一緒に。

「!
 ユリちゃん、ちょっと…」

「え?どうしました?」

「…この舞踏曲の締めが終わったら行くよ。
 ちょっと衛兵の人の空気がおかしい」

私は気付きませんでしたが、
よく見るとプレミア国王とルリとお父さんが話しあってるそばで、
衛兵の人たちが集まっててすぐにどこかに出て行ってます。
…これは!?

「ほら、フィニッシュ!」

「は、はいっ!」

私達は抱き合ってフィニッシュをびしっと決めると、
足早にルリたちのところに歩いて行きました。

……そこで何が起こっているのか聞いた時、叫びたい気持ちを抑えて息をのみました。

「…ラピスが!?」

「…まだ誘拐とは決まっていないが、見つかっていない。
 ラピスのヒールだけがテラスに残されていた」

アキトさんと私は、ただ震えることしかできませんでした。
この鉄壁のピースランドの王城の中で、ラピスをさらうことなどできないと思ってましたが、
一人になったところを狙われてしまったみたいで…。

「…ッッッ!」

「あ、アキトさん、しっかり…」

私は自分がめまいでぶっ倒れそうになるのを抑えつつ、
アキトさんをかろうじて支えました…お互いに足が震えているのが分かります。

「……ルリちゃん、ペンダント型通信機も応答がないんだね?」

「…はい」

「…分かった。
 さらわれたとしても、まだ遠くには逃げ切れてないはずだ。
 国境を固めて、おけば、なんとか…」

「もちろんそうしている。
 …だが、捕らえられたとしても、もしかしたら…」

「…分かってます、プレミア国王。
 ……ある程度、捜索が終わるまでは黙ってましょう。
 楽しい席を、台無しにするには、まだ早いです…」

アキトさんはふらつきながらも、大広間を出ていきました。
ラピスを探しに出かけるんでしょうけど…。
…最悪の事態があり得ると、予感しています。
私達もそう考えるしかないくらいの、最悪の状況です。
……私はどうしていいか分からず、ただ立ち尽くして泣いてることしかできない。
もし私が探しに出ても、銃を持たれていたらどうしようもないですから…。
ここで、不安を抱えて黙ってるしかできないんです…。

「ユリ姉さん…」

「…情けないですね。
 こんな時、どうすればいいのか…」

「信じてほしい、ユリ君。
 …敵はそうそうこのピースランドからは出れない。
 捕まるはずだ…」

国王は自分の失態とばかりに沈痛な面持ちをしながらも、私を安心させようとしてくれています。
……しかし、この鉄壁のピースランド王城を突破するような相手です。
楽観的には、とてもなれませんね…。
私は従者の人に手渡された水を飲んで、座って呼吸を整えるしかできませんでした…。
…テンカワさんも踊り終わったら声をかけてお願いしましょう…。



























【時刻─16:40】
〇地球・ピースランド・浜辺沿い──ライザ
私はラピスラズリに潜水服を着せ、私自身もダイビングの装備を着て、海に潜った。
ピースランドからの監視も、このあたりはかなり薄い。
潜水艦、船舶、飛行機類であればあっさりレーダーに引っ掛かるけど…。
テツヤが手配した最新式の小型潜水艦なら、レーダーにかからず脱出できる。
もっとも、この潜水艦を操作するのも私なので、結構大変なんだけど…。

…そして、潜水艦に入ってラピスをトランクに押し込んだ。
意識はまだ戻らないでしょうけど、呼吸路を確保して、
クッションを挟んで意識を覚醒させないようにしつつ、
万一潜水艦が衝撃を受けても死亡しないように気を付けてしまい込んだ。
はぁ、と一息ついて、トランクをさらにクッションのあるコンテナに入れたうえでベルトで固定、
潜水艦が沈没しない限りは安心な状態に追い込んだ。

「…テツヤ様、拉致に成功しました。
 これより作戦ポイントに向かいます」

『ご苦労。
 時間通りだな』

「しかし、テツヤ様…。
 作戦変更でこんな潜水艦まで準備するなんて、
 良く予算が足りましたね…」

『なんだ?意外か?』

「いえ…」

…この最新式の小型潜水艦が必要な任務であるというのは、事情を鑑みてもよく分かるけど、
テツヤの好む作戦は、最低限で最大の効果を得るもので…。
特に証拠や痕跡を残さないために、機材の類をあらかじめ準備する必要がないようにするのが鉄則だし、
証人を作らないために、人すらも削って、私一人で行えるようなものを考えることが多いのに…。
こんな、足がつきやすいものを準備するなんて…。

『確かに奴を追い込むだけならラピスラズリを殺すだけでいいんだがな。
 今回はあくまでラピスラズリを生贄…もしくはエサにするのが目的だ。
 お前だって作戦を聞いたんだから分かってんだろうがよ』

「はあ」

『分かったらさっさと来い。
 時間がねェからな』

私は気の抜けた返事しかできなかったが、
直後、テツヤは傍受を恐れてすぐに通話を切った。
…ほとんど鉄砲玉やらされてるのは分かってるけど、無謀極まりなかったわ。
ここまでは何とかなったけど…嫌味の一つもいいたくなるわよ、これじゃ。

この潜水艦、直線なら時速で言うと音速くらいまで出せるそうだけど、
ほとんどミサイルみたいな感じになるからぶつかったら助からないし…。
その速度で作戦ポイントを目指す必要があるだけに、生きた心地がしないわ…。
鯨とか魚をよけるための超音波装置もついてるから大丈夫とは言ってるけど。

…死んだら恨むわよ、テツヤ。













【時刻─18:30】
〇地球・ピースランド・森林地帯──ホシノアキト
…俺は闇雲に走り回ることしかできなかった。
アテなどまったくないまま、ただひたすらに。
ラピスの行方不明を聞いてからすでに二時間は経ったか…。
…この森林地帯にはほとんど人の気配はない。
だが、国境沿いにまだ引っ掛かってる様子がない以上、まだ国内にいると考えるべきだろう。
この国のレーダーは最新式だ。
二人くらいしか乗れないモーターボートであっても発見できるはずだ。
…だとすればどこだ!?

冷静さを欠かないように一度止まり、呼吸を落ち着けて気配を探るが…。
この一キロ圏内には俺以外いないらしい。

……なぜ、あの王城の鉄壁の警備に引っ掛からなかったんだ?

考えろ…考えるんだ…。
…待て。

俺はそれをかいくぐった経験がある。
ルリちゃんを助けに来た時に使った、警備をかいくぐるための準備…。

…光学迷彩か!
だが、一般的に人間サイズで携行できるものはウリバタケさんくらいしか作れない。
…インならできるかもしれんが、あいつは会場内に居た。
それに自分自身を隠すことはできるが、誰かを隠すことはできん。
動機もないだろう、クリムゾンとはもはや手が切れているはずだ。

…そうなると、インの研究成果を元に個人向けの光学迷彩を作った、
クリムゾンの関係者ということになるか。
そこまでして俺を殺したいか、クリムゾン…!


…相変わらず、反吐の出る連中だ!
今度こそ根絶やしにしてやろうか…!



『テンカワさん、落ち着いて!とまって!
 このままじゃラピスちゃんが見つかっても、助ける体力がなくなるよ!』

「ッ!」

『それにもう殺さないって誓ったでしょ!?
 ラピスちゃんを助けられる可能性があるうちにそんなこと考えてちゃダメだよっ!』

俺は、怒りをやり過ごすために走っていたのを、
ホシノアキトに注意されて踏みとどまった。
……悪い癖だ。
気持ちが先走るといつもこうだ。ゴートに何度注意されたことか…。

それと同時に、俺が焦るあまりホシノアキトと分離していることに気付いた。
何度も深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。

「……悪いな、坊や。
 これじゃどっちが坊やか分からんな」

呼吸が落ち着いてきて…ドス黒い怒りが少しずつ静まって…。
……よし。戻った。

焦るな…。
まずは城に戻って、みんなに協力を仰ごう。
誰か、最後にラピスの姿を目撃した人が居ないかを確認する。
国境のことも、何か続報があるかもしれないし…。

……それからだ、すべては。

俺は体力を温存しながら軽く走って、周囲を警戒して王城に向かった…。













【時刻─19:00】
〇地球・ピースランド・王城・大広間──メグミ
…良かった、ジュンさんと仲直り出来て。
ジュンさんも必死に悩んでくれてたんだって、分かった。

あのラピスちゃんの件があって、
戦うってこと…誰かを守るってこと、
本当にどういうことなのかって考えざるを得なかった。

…戦争って本当、バカバカしいよ。
ボソンジャンプの取り合いで戦争するのも馬鹿げてるし。

そもそも、やっぱり人を殺すっていうのはやっちゃいけないことだと思う。
人の命ってかけがえのない大事なもの…報復の繰り返しが起こるっていうのもあるし。

でもどんな風に生きても、そういうことが起こっちゃう可能性もあるって、私だって本当は分かってた。

…だけどジュンさんみたいな優しい人が人を殺すなんて、やっぱり間違ってるよ。

ホシノアキト…テンカワさんだって、優しいのに艦長を奪われてあんな風になっちゃうんだから。
ラピスちゃんだって…あんなボロボロになってひどい方法で自分の愛する人を助けようとしちゃうし。

…でも最後はハッピーエンドになってくれたんだから、いいの!

戦いの無い世の中が、もうすぐ来るかもしれない。
ナチュラルライチみたいな、明るい世界が来ちゃうのかもしれないんだから!


ざわざわ…。



「なんか騒がしいね」

「どうしたのかな…」

私とジュンさんは、他愛なく話していたけど…。
会場内がざわめき始めて、何かあったのかな…。


「ラピスがどこに行ったか知らないか!?
 王城のどこにも姿が見当たらないんだ!!」


ざわっ!?



会場はホシノアキトさんの叫びに驚いていた。
舞踏会の第二部も終わって、宴もたけなわって感じになりつつあったけど、
それでもまだまだ飲み足りない、騒ぎ足りないって人ばっかりだったから…。
会場内のにぎやかな空気を切り裂いて、悲痛な叫びが響き渡った。

「誰か、ラピスを最後に見た人は居ないか!?」

「あ、僕…テラスで見かけたよ」

「ジュンさん?」

ホシノアキトさんはすぐさま近寄ってきた。
…それでジュンさんは詳しく話してくれた。

ダンスパーティーに一人で居るのを躊躇って、
ジュンさんは一人テラスで私のことを考えてようとしたところで、
ラピスちゃんと出会って、私と喧嘩したことを悩んでいたことを聞いてもらって、
それから私にちゃんと話をしに来たって…。

…ラピスちゃんにその辺のこと話したなんて、ちょっとムッと来ちゃうけど。
今のラピスちゃんの中身、未来の艦長みたいだし、意外と聞き上手なのかも。
…ってそんなことは今はどうでもいいよね。

「それで、出ていくとき…メイドさんとすれ違ったんだ。
 金髪の、目のきついひとだったな…」

「…!!
 ジュン、この人に似てなかったか!?」

ホシノアキトさんは端末を出すと、連合軍の特殊部隊と戦った直後に、
暗殺されかかった時、銃を撃った女性の映像の拡大写真を見せた。

「こ、この人だっ!
 ま、まさか!?」

「そ、そんな…」

ホシノアキトさんは膝をついて愕然とした。
…この人はホシノアキトさんの隙をついて暗殺をするくらいの人ってことは…。
ラピスちゃんは、もしかしたら…もう…。

……絶望的すぎる状況に、大広間全体がしん、と静まり返った。


ぱぁぁぁあんっ!



時が止まったように静まり返った大広間の、
時間をもう一度進めたのは、平手打ちの音だった。
あれは確か、ネルガル会長秘書のエリナさん…?


「何を…ッ!!

 してンのよ、アンタはっ!」



「え、りな…?」


「あの子がどんな気持ちで、

 アキト君を助けようとしたか分かってるんでしょ!?
 
 アンタだってずっとそばに居てあげたいって思ったんでしょ!?

 だったらなんで、縛り付けてでも近くに置いとかないのよッ!!」



ホシノアキトさんはエリナさんに叩かれて赤くなった頬を抑えて、ただ震えているだけで…。
なんでエリナさんがそんなに怒ってるのか、私達は全然想像がつかなくて、
呆然と見ていることしかできなかった。

「ま、待って、エリナさんっ!
 ラピスは、二人に気を遣ってちょっと離れただけで!!」

「そ、そうです!
 アキトさんもラピスも落ち度はないでしょう!?
 止めて下さいって!」


「あああああっ!
 
 放しなさいっ!ユリ、ルリっ!
 
 もう一発引っぱたかないと気が済まないわっ!
 
 このバカはッ!」

 

今度はホシノアキトさんの胸倉をつかもうとしたエリナさんを、
ユリさんとルリちゃんが抑えてるけど、二人がかりでも止めきれないほどすごい力…。

「よしなよ、エリナ君」

アカツキ会長がエリナさんに注意すると、エリナさんは悔しそうにしながらうつむいて…。
冷静な表情のアカツキ会長はホシノアキトさんにつかつか近づいて…え?

「歯を食いしばれ、ホシノ君」


どすっ!



「ぐはっ!?」

でも、今度はアカツキ会長がホシノアキトさんの腹を思いっきり殴って…。
ホシノアキトさんは身構える間もなく、うめいてます。
は、歯を食いしばる場合って顔を叩くんじゃないんですか!?
それから、さrない胸倉をひっつかんで…睨みつけてます…。

「……あんまり失望させるなよ、ホシノアキト君。
 君がそうやってうろたえてたらラピスは絶対助からないだろ」

「だ…が…」

「…何度も言わせるなよ?
 次はその綺麗な顔が腫れるくらいのをお見舞いするよ?
 
 君は何度倒されても、どんな屈辱にも耐えて、立ち上がって彼女を助けようとしただろう。
 君があの頃、自分の夢も未来も諦めて、憎しみに囚われて戦おうとした時期があったからこそ、
 この戦争を生き抜けた。
 戦争を終わらせることが出来つつあるんだ。
 忘れちゃったのかい…英雄。
 僕らもあの頃の君に戻ってほしいなんて思っちゃいないが…。

 だけどね、敵に怒る前に、こんな風に絶望して動けなくなるほど腑抜けてる君は…!


 あの頃より最低だッ!


 こんな時にうろたえているような腑抜けのために、
 
 
 ラピスが命を賭けてここまで頑張ってきたのかと思うと、泣けてくるよ!
 
 
 この、甘ったれッ!」


「ッ!」


バキッ!!



アカツキ会長がもう一撃、ホシノアキトさんを殴ろうと振りかぶったけど、

ああっ!?
く、クロスカウンター!?


ホシノアキトさんとアカツキ会長の拳が交錯して、お互いを打った!?
二人はお互いに吹き飛ばされて、足元がぐらついてるけど、かろうじて立ってる。

「…悪いな。
 気合を入れてくれたな、ありがとう。
 アカツキ…」

「…ぐ。
 そりゃ、どう、も…」


がくっ…。



「あ、アカツキ君?!」

「き…効いたぁ…。
 ば、馬力が違うのを忘れてた…」

「…ばかっ!」

アカツキ会長は、ぐらっと体を崩すと、床に倒れた。
ホシノアキトさんは体を支えてたけど、エリナさんに突き飛ばされてアカツキ会長はエリナさんに抱きしめられた。
……そういえばアカツキ会長も未来から来たって言ってたっけ。
どうも立ち入れなさそうなくらい、深い仲なのかな…。
……なんか熱血って感じですね。


「くぅ~~~~~~っ!
 
 危機に立ち向かう前に男の友情で立ち直るってなぁ、燃えるねぇ~~~~!」



…ヤマダさん、なんか妙に感動してるけど。
木連の人たちの禊ぎ事件もそうだけど、なんでこういう痛み分けみたいなの好きなんだろ?
理解できないなぁ…男の人のこういうところって。

「「…バカばっか」」

ユリさんとルリちゃんが呆れてる。
呼吸も何もかもぴったり…。
……やっぱり同一人物だよね、この二人。


・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


「おほん。
 みんな、聞いてくれる?
 
 …ラピスちゃんがどこに連れ去られたのか、
 何のために連れ去られたのかは、まだわかりません。
 
 でも、まだ生きている可能性は十二分にあります。
 
 せっかくの楽しい席だったけど、
 ラピスちゃんを捜索・救助するためにみんなの力が必要です。
 
 お願いです、いつまでかかるか分からないけど、
 ラピスちゃんを助けるために力を貸してくれませんか」


「「「「「おおーーーーっ!!」」」」」



そして会場がひとまず落ち着きを取り戻すと、
艦長が協力者を募って、ラピスちゃん救出作戦を仕切り始めました。
この場にいる全員が反対しないあたり、ナデシコらしいし、PMCマルスの人たちらしいよね。

「でも、困ったことに、探す当てがないのもそうなんだけど。
 …ここにはブローディアくらいしか戦力がないの。
 どうしよっか?」


「だあああっ?!」


どどどどどど…。



…艦長のおとぼけ発言に、全員が完全に気が抜けてしまった。
艦長ぉ…ある意味じゃ気持ちはまとまりましたけど、そんなじゃ困るんですけどぉ…。

「アカツキさん、エステバリスを回しては貰えませんか?」

「ちょっと無理だねぇ、エステバリスは連合軍に向けたんで一般の販路を閉めちゃったから…。
 それに今って、ホシノ君の件で人体実験とかの裏の研究と一緒に、
 裏金とか企業活動の暗躍ってだいぶ制限されててね。会長権限でも稟議書なしには動かせないんだ。
 フレームどころかパーツだってすぐには回せないよ。 
 せめて一般ディーラーを構築しておけばよかったんだけど」

「ですよね…それに運搬だけでもかなり時間がかかってしまいますし、
 ことを表沙汰にするのは危険な段階ですし…」

「国用船のお供エステバリスであれば空戦エステバリスが三台程度あるぞ。
 ショー用の陸戦エステバリスも一台ある、合計で四台だ。
 国用船ともども貸しても構わないが」

「ありがとうございます、国王!」

「もっとも、銃火器の弾薬はあまり数がないがな。
 それに整備はしてるが、パイロットも正規の者ではない。
 変な癖がついているかもしれんが…」

「それで結構です!
 あとはこちらで何とかしますんで!」

「よぉ~~~~~し!野郎ども!
 エステバリスが手配され次第動くぞ!」

「「「「「うーーーっす!」」」」」

「では、エステバリス隊の皆さん、お願いします!
 アキトとアキト君は、ブローディアで待機!
 整備班のみなさんはエステバリスをチェック後に国用船に乗船、
 他のクルーと、協力してくれるみなさんは国用船に乗り込んでください!」


「「「「おーーーーっ!」」」」



「…はい」

「お、おう」

国王さんが助け舟を出してくれて、かろうじて何も準備せずにってことは避けられそう。
それで艦長の声掛けで景気よくちゃっちゃと次々に決まっていく配置…。
……でも出撃準備、必要かなぁ?
だって、ラピスちゃんの誘拐を探すのにエステバリスって必要じゃないと思うんだけど…。

「…メグミちゃん。
 このまま何もせず待機するよりは、
 いつも通りの仕事をして備えた方がみんな落ち着くんだよ。
 何もできないって焦りは、緊急時に判断を誤らせるから。
 どのみち最短最速で動くなら船は必要だし」

「あ、口に出ちゃってましたか…」

「うん。
 …それにね」

「え?」

艦長は目を細めて、いつものおとぼけが嘘のように鋭い表情で私を見た。

「…私達が戦力の大半を奪われてる状態で、
 この事件が起こったのって、おかしいと思わない?」

「あっ!?」

私はびっくりして口を手で覆ってしまった。
つい忘れがちだけど、ナデシコとユーチャリス、PMCマルスがそろえば…。
他のナデシコ級やシルバーバレッツ小隊のアリサさんを除けば、地球最強の戦力。
間違いなく艦隊以上の戦力を持っているっていうのは戦術の素人の私でも分かってる事。

それがナデシコのオーバーホールと、ユーチャリスの連合軍への貸し出しが重なって、
ブローディアだけしか持ってこれないまま、ここに呼ばれてしまった。
どんな緊急事態でも、私達は絶対に出撃出来ない状態になってしまって…。

……これって、私達が出撃できないほうが都合のいい人が居るってこと、だよね。

地球にも木星にも、私達が居ないほうがいいと思ってる人がいる。
和平会談の時にミスマル提督が暗殺されかかったことからもそれは分かった…。

「私達がここから動けない方が都合がいいって言う人達が居るのは間違いないと思うの。
 ううん、できれば出撃が一切できないくらいの方が好ましいって思ってるかも。
 …もしかしたら、ピースランドごと私達をつぶしに来るかもしれないよ。
 だったら、備えないと」

「…そう、ですね」

私は艦長の判断力に黙り込むしかなかった。
…火星の時もドタバタしてたけどあんな死線をかいくぐれるのは本当に能力がないと無理だもんね。
でもラピスちゃんのこととなると、他人事じゃないからか、
いつもじゃ考えられないくらい真剣な表情をしてる。

「何を暗くなってんの、メグミちゃん。
 …全部終わってから暗くならないとつぶれちゃうわよ」

「は、はい」

ミナトさんがいつもの軽快な励ましをしてくれるけど、
でも普段よりはかなり引き締まった顔をしてる。
……そう、まだ終わってない。
何も、全然終わってない。

…終わって、ないからこそ。
不気味な雰囲気に、私は怯えている。
何か、恐ろしい出来事が迫っている予感と…。
私くらいじゃ何も抵抗できないような、凶事が迫っている予感が…。
私の背後に迫り来ているように感じて、落ち着くことが出来なかった。

……ラピスちゃん、無事でいて。



















〇作者あとがき
どうもこんばんわ、武説草です。
ラピス自身も、立場が特殊なのでかなり思い悩んでる状態で、
アキト達と一緒に居ると心に決めてるにも関わらず迷ってます。
まあ、アキトがユリとくっついてるのは変わりないわけで…。
そして今回は前回の別角度から、ラピス誘拐に関わることを進めてみました。
っていうか何をテツヤたちが考えてるのか不明。
ピースランドの鉄壁の警護もザル扱いされてしまう展開。
アキトはアキトでまた分離しかかったり、元に戻ってもちょっとおろおろしてたりするし。
ああ、ラピス。一体君はいずこに。

ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!














代理人様への返信
>アキトくん立場よわーいw
>まあ日頃の行いのせいではあるがw
色々変わりはすれど、夫婦関係結んでる割に大事なシーン以外ではシャキッとできないアキト君。
もうちょっとなんとかせぇ!
情けないお父さんと評するべきか、はたまた義息子的ポジションのため頭が上がらないと評するべきか…。
流されやすく対人関係を自主的に変化させる勇気がないあたりは、テンカワ君時代からかわらないw
…なんだろう、今回の話の中のジュン君の方がよっぽどちゃんとしてる気がしてきた。





>そしてめでたしめでたしと思ったら・・・おいおい。(頭を抱える)
ナデシコのテレビ版→劇場版のめでたしからの超ハードに路線変更したのと同様の現象がここで発生。
敵を追い込み過ぎていたのと、元々不穏な仕込みがされていたのとで、ついに発動。
っていうかあれですね、ラピスは因子の継承によってテンカワの不運度が伝染ってるわけですね。(爆
決意の中、大事な人の手を取ろうとしたら、奪われると…。
ああ、ここでもやっぱりアキトのせいだった。
アキトのせいで敵に狙われる状況的なのと、運命的なのとで二重の意味で。





>>木連禊ぎ暴力事件がかろうじて和平交渉にヒビが入らずに収まった理由
>・・・否定はできないかな(真顔)
アキトファンの女性たちが各所でめっちゃ抗議したんだろうなぁ…。
描かなかったけど、署名活動、デモ活動が半日もせずに発足、テレビ局への嘆願とかも殺到したとかで…。
……怖ッ。(自分で書いたんだろ















~次回予告~
ハーリーです。
ラピスさん達、帰還パーティ楽しんでるかなぁ。
僕も行きたかったけど、ラピスさんの代わりに僕が頑張らなきゃ!
ラピスさんもユーチャリス卒業のお祝いしようって言ってくれたし!
…それで、改めてアキトさんたちにごめんなさいしよう。
これからも、たまに遊びに行くくらい仲良くしたいですから!

この夏、あまりに暑くて外出が午後六時以降じゃないとはかどらない作者が贈る、
これからどうなる系、ナデシコ二次創作、
















『機動戦艦ナデシコD』
第七十二話:Dark Prison-闇の監獄-



















をみんなで見よー!








































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代理人の感想
今回もアキトくんは弱いなあw
まあ恋愛絡みはgdgdするのがナデシコだししゃーないw

しかしアナログとは言っても光学迷彩使われたら大抵のセキュリティは突破される気がするw
確立した技術なら、対抗技術も何かありそうな気はするんだけどねw


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