【時刻─21:30】
〇地球・ストックホルム市街地・廃墟のマンション──テツヤ
俺は望遠レンズを付けたカメラ越しに、ラピスラズリを捕らえた廃墟ビルを眺めていたが、
そこにホシノユリが入っていくのを確認して笑っていた。

…いいぞ、まさかお前が飛び込んでくれるとはな。
これでホシノアキトを支えられる人間が完全に消える。
まだネルガルやピースランドが残っちゃいるが、身内を同時に二人失えば衝撃は少なくないだろう。
そうなれば奴は取るに足らない子羊に成り下がる…いい展開になってきたな。

「…テツヤ…様」

「来たか、ライザ。
 ご苦労だったな」

音もなく後ろに現れたライザに、俺は振り向いた。
かなり時間ギリギリだったがラピスラズリの拉致、そして廃墟ビルに拘束し爆弾を仕掛け終わった。
そして追尾されないようにかなり遠回りして、ようやくここに戻ってきた。
ここまでやれれば十分だろう。

「これで奴はもう再起不能になる。
 ネルガルの操り人形には似合いの最後だろうぜ」

「…ええ」

「とはいえ、あそこまで上り詰めても情を捨てきれないバカだ。
 あれだけの戦えようと、非情になりきれねぇから二流どまりってところだろ。
 ま、だからこんなことになってるんだがな」

「…そうね」

ライザは小さくため息を吐いた。
仕事で満足感を得られるようなヤツじゃねぇからな、こいつは。

「んんっ…!」

俺はライザを抱き寄せて、無理矢理唇を奪った。
ライザの目じりが少し下がって、月明りの中では確認しづらいが頬も赤くなっているだろう。
満足げに目を閉じて、口づけの感触を、胸の高鳴りを味わっている。
この時だけはそこらの少女のように可愛い奴だと、俺も少しだけ心が緩む。

「愛してるぜ、ライザ」

「私も…」


どんっ!


「──だがな、ライザ」



俺が突き飛ばすと、数歩下がったライザは絶望に染まった目で俺を見た。
何が起こるか予感しているような、自分の価値がゼロになっていると気づいたような顔で。


ぱんっ!



俺が引き抜いた拳銃の弾丸が、ライザの太ももを撃ちぬいた。
そして間もなく、へたりこんだライザの足元に血がにじんで大きな血だまりを作り始めた。

「なん、で──」

「…あのビルが壊れたら、ナパームでここもじき焼き払われる。
 実行犯のお前がここで消し炭になっちまえば、証拠はなにも残らないな」

「…ここまで完璧にやり遂げたのに、なぜ…」

ライザは俺に縋り付くように問いかけた。
そうだ、確かにお前を切り捨てるのはもったいない。
俺も本心からそう思っている。
だがすべて一人でやった実行犯がここで失われれば、死体さえ上がらなきゃ追跡不能だ。
俺が、そしてクリムゾンがつるんでる連中の準備が明るみに出ることもねェ。

──そこまでしてようやく、この大事件をすべて闇に葬れる。

ライザという女を失うのはちと惜しいが、ここまでして完璧に後始末をつけなきゃならねぇ。
失敗したら俺の命もいよいよ危ねぇからな。

「完璧にやってくれたから…お前を愛しているからだ。
 俺が直々に手を汚して殺してやるんだぜ、ライザ。
 
 ──前回の失敗の罰にしては優しいだろ?」
 
ライザは太ももを撃たれたことで、助からないという確信を持ったようで、うつむいた。
ここに来る人間はまずいない。
そして治療されたとしても助かるわけがないからな。
ライザが縋り付くように、俺を再び見つめた。
激痛と悲しみを、塗りつぶしたいんだろうな。

「私は、少しは役に、立てたかしら…。
 あなたの人生に、残れる女、だったかしら…」

「…ああ」

俺は少しだけ微笑んでライザの頭を撫ぜてやった。
ああ、お前は最高の女だ。
お前のことを忘れることなんてありえねぇ。

──お前は俺の『最高傑作』だったぜ。


お前はそういわれても喜ばねェだろ?
だからあえて言わねぇでやるよ。

「じゃあな」

…。
俺はマンションから手早く降りると、フルフェイスメットをかぶって電動バイクで逃げる準備をした。
ここを通過する連中はもう居ないだろう。
さっきステルンクーゲルを積んだトレーラーが通過した時は少し肝が冷えたが…。
これ以上はもうないだろう。目的は達成した。あとは…。


ぶおおお…!



…!?
バンが通った!?
俺は双眼鏡で確認したが…。
いや、あれも…PMCマルスとナデシコの連中だ。
アオイ・ジュン、メグミ・レイナード、それとホシノルリくらいの少女…。
それとPMCマルスの有象無象の女子どもか。
人選が今一つわからねぇが……いや、とっとと逃げるぞ。
通過したってことはこっちには戻ってこねぇだろ。
ライザを探しに来たわけでもねえ、あいつは何にも情報を残しちゃいねぇはずだ。
そもそもラピスラズリを拉致したライザを追っていたら、ラピスラズリにも気付く。
こちらの動きにはまったく気づかれてないと考えた方がしぜんだ 。
無視していいだろ。

…俺は無灯火のバイクにまたがり、フルフェイスメットの赤外線暗視装置をつけて、
そのままストックホルムから遠ざかっていった。




















『機動戦艦ナデシコD』
第七十四話:Did the tower collapse?-塔は倒れたか?-





















【時刻─21:30】
〇地球・ストックホルム市街地・廃墟ビル前──ガイ
俺はラピスちゃんの救出隊の護衛をするために目立たない程度につかず離れず見ていたが…。
おいおい、ユリさんが廃墟ビルに入ってったぞ!?
ま、マジかよ…。
あの穴の大きさじゃユリさんくらいしか通れないのは分かるけどよ…。

それからすぐに、Dとカエンたちと救出隊が一度撤退準備に入ろうと準備し始めた。
あまり長時間とどまっても逆に狙い撃ちだからな。
だが…。


どどどど…っ!



離れた直後、ユリさんの突入した穴が崩れてしまった。
こ、これじゃ戻っても来れないだろ…!?
けど、救助隊の人たちがパラシュートを渡してあるから何とかなるってことだが、
バッタを何とかかたずけねぇと、あぶねえよな…。

ちぃっ!
せめてホシノアキトがここに居ればすぐにでも救助に行けたってのによ!
あいつがいればバッタくらい蹴散らすのはわけねぇってのに!

そして俺とブーステッドマン達、救助隊の人たちは、緊急時に備えて待機のためにここに残るが…。
非戦闘員を抱えてバッタに追われるわけにはいかねぇからコソコソ隠れてることしかできえねぇ!

くそっ!せめて加勢してやりたいっていうのによぉっ!












【時刻─21:30】
〇地球・ストックホルム市街地上空・ピースランド国用船──ミスマル提督

「スバルさん達、ステルンクーゲル部隊と連携してもう少し敵を片付けられますか!?」

『ンなこたわかってんだよぉ!
 けど、このままじゃ…!』

『さすがに派手に動けないのはつらいよ~~~~!』

『スナイパーライフルがないのは堪えるわよ、さすがに』

ユリカの指揮の元、エステバリス隊もかなり頑張ってくれてるが厳しいな…。
特殊な装備はすべてナデシコにしか積んでいない。
今のユーチャリスはすべて連合軍の標準的な艦船の装備しかない。
しかも空中戦に強い空戦フレームが主体の構成だ。
量産型エステバリスのスナイパーライフルや、砲戦エステバリスなどはない…。
小型のチューリップでバッタしか出てこないとはいえ、
こう蹴散らしづらい状況で、途切れなく現れてしまう敵…さすがに状況が悪すぎるか…。

『ミスマル提督!
 ユリさんが…お嬢さんが、ラピスさんを助けに突入しました!』


「なにっ!?」「ええっ!?」



『ビルへの突入できる場所が狭すぎて…。
 時間もないので、自ら助けに行くと申し出てくれました。
 装備は手渡してありますが…。
 それに出入口が崩壊してしまったのでパラシュート降下での脱出か、
 敵を減らしてからのエステバリスでの救出になります。
 
 …申し訳ございません、こうするしかなかったんです』

「ゆ、ユリちゃん…無理はしないって言ったのに…」

「な、泣くなユリカっ!
 まだダメと決まったわけではない!」

時間がないとは言え、助けに行けるのがユリ一人だけだったとは…!
だがラピスを見捨てるなど、優しいユリにはできまい…。
私が代わってやれるなら、いくらでも代わってやりたかった。

私の命でユリとラピスが助かるなら、喜んで命を差し出すというのに…!

私とユリカはユリの状況の説明を聞いたが…。
しかし…時間が厳しすぎる。
仮にすべてうまくいったとしても、脱出時にバッタどもに襲われてしまえば…。
パラシュート降下など危険すぎるだろう。
だが連絡がうまくできない状態である以上、危険は増す。
ええい、何とかならんのか!?

『こちらステルンクーゲル隊!
 天龍・地龍兄弟の損傷が大きいので離脱!
 以後は緊急時以外、補給に専念させます!』

「う、うん。
 分かった…」

「ユリカ、くじけるなよ!
 お父さんが隣についているからなぁ!」

「…親バカ」

……ルリ君、いつのまに戻ってきたんだ。
ステルンクーゲルを買い込んでから結構経過したから戻ってきたのか。
あ、あきれられてしまった。

「それより、お父さん。
 あの…連合軍の方の指揮に出なくていいんですか?」

「出たいのはやまやまなんだが、いきなり指揮が代わるというのも現場が混乱するからな。
 連合軍もそうそうやられることはない。
 ルリ君、案じないでくれ」

「そですか。
 …でもユリ姉さんまであのビルに…。
 二人に、もしものことがあったら…」

ルリ君も、ユリとラピスのことを心配しているんだろう…。
……いや、すこし変だ。
何か、別の心配をしているようにも見えるな。

「ルリ君…?
 何か、別に不安なことがあるのか?」

「……今は言えません。
 でも…大事なことです。
 全部無事に終わったら…アキト兄さんとユリ姉さん、ラピスから聞けます。
 
 いっぱい大事な、秘密のお話をしてくれます」

…ルリ君ではなく、ユリたちから?

釈然としないが、ルリ君は嘘をつくタイプじゃない。
子供らしい潔癖さがあるというか、辛辣だが嘘をつくことは嫌いな子だ。
この子の言うことは信じられる。
ユリカも涙を浮かべながらも小さく頷いている。
…二人がそう言うなら、間違いはないだろう。

「うむ、分かった。
 ……アキト君と我が娘たちが、また奇跡を起こすのを信じるとしよう」

「…ありがとう」

ルリ君は照れくさそうに礼を言うと、すぐにユリカの近くに歩いて、手を握って励ました。
…ルリ君は、ユリカを自分の姉として深く慕ってくれているな。
ユリカだけではない、ユリにも、ラピスにも…そして私にも。
義理の家族として以上の、本当の深い絆を、信頼を感じる…。

…ふふ、こんな時に嬉しくなってしまうな。
だが…ユリとラピスが戻らなければ……今は考えまい。


…なぁ、母さん。
あの二人を、そっちに行かせるわけには行かん。
今の私では、出来ることがない…。
頼む、お前も力を貸してくれ。

この子たちが幸せになれない未来など見たくはないのだ…。






















【時刻─21:30】
〇地球・バルト海上空・ブローディア内──テンカワアキト
俺たちは何とかチューリップを7基撃墜することに成功したが…想像以上に敵の数が多い。
チューリップから出てくる機動兵器はヤマサキって博士が制御をしてるそうだけど、
こっちにまだ恨みがあるのか…いや、違うか。
あくまでチューリップは装置、ホシノの言う通り『地球側』の、クリムゾンが制御してんじゃないかな。
だけど…これ以上は…。

「ぜぇっ…ぜぇっ…」

「ホシノ、そろそろ限界だろ!?
 逃げないと…」

「だ、ダメだ…。
 ここで逃げたら、ラピスを助ける余裕がなくなる…。
 こんな大兵力を連れてったらどうなるか…」

「だったらしばらく俺に任せて休んでろ!
 DFSなしでもある程度やれるはずだ!」

「す、すまん…」

ホシノはどかっとシートに体を預けて深呼吸を始めた。
体力では俺や北斗ちゃん、枝織ちゃんと比べて明らかにもたない。
ここじゃ食べ物もないから回復が間に合うわけもないし…。
俺がしばらく受け持ってやるしかないが…。

…そうはいってもブローディアもかなり消耗し始めてる。
火星軌道上での死闘も二時間半に及んだが、帰還して休息しての連戦だったからよかった。
今は俺とホシノだけの戦いだ。とてもじゃないが比較できない。
だが、DFSという強力な武器をもってしてもだ。
一撃の威力はともかく結局は各個撃破なので、敵の量が圧倒的では対応しきれないところがある。

なにか必殺技の一つや二つ、あるといいんだけど…。
それにいくらブローディアがブラックサレナと違ってワンオフで剛性が安定してるとは言え、
大気圏内の場合だと空気抵抗がある分だけ動きの負荷は大きい。
どれだけ持つか…!

『テンカワ兄!
 もう少し外に出ないと危ないよ!』

「分かってる!」

だけどやらなきゃいけない!生きて帰らないとだめだ!
みんなのためにも、俺とホシノが生きて帰らないといけないんだよ!
ここで敵を食い止めなきゃ…!


「うおおおおおおおおっ!!」



















【時刻─21:33】
〇地球・ストックホルム市街地・廃墟のマンション──ライザ
私は太ももを強く抑えて圧迫止血をしようと試みたが、力が入らなかった。
…もはや何も残ってない私にはそんなことはできようもなかった。

いつかこんな風になるって分かってたはずなのに、涙が止まらなかった。

今回の仕事はヤバすぎるから、証拠を残したくなかったんだと思う。
それでもこんな風にされるなんてあんまりだわ…。

…因果応報。

そんな言葉しか頭にはなかった。

ラピスラズリを陥れ、ホシノアキトたちの心をずたずたに引き裂こうとして…。
そして地球と木連の戦争再会と、地球圏すべての平和を、一握りの人間のために壊そうとした。
テツヤに加担するということは、そういうことだって分かってたのに…。

どうして私だけテツヤの元で、
それなりに幸せな気分になれると思い込んでいたの…?

「バカね、私…ホント…」

あのホシノアキトたちの、能天気すぎる、人を信じすぎる、愚かな思想を笑っていたけど…。

私も結局、バカだった。

テツヤって人のひどさを知りながら、魅せられてしまった。
人生を売り渡してしまった。
悪魔が相手だってわかり切っていたのに。

…せいぜい、彼らと同じで愚かすぎる自分を憐れんで死んでいこう。
それくらいしか償う方法もないし。

私の人生は終わった。

…終わりの時まで、美しい月でも眺めていればいい。

「…地獄に落ちるのが似合いよ、私も」


「バカ言ってんじゃないわよっ!!
 事務員さん!!」



!?
私は突然聞こえてきた、大声に驚いて振り向いた。
そこには、確か…PMCマルスの重子!?占いバカの!?
その前に、三人の装甲服を着た、さつきと青葉、レオナも、
ナデシコの副長、通信士、あと一人、栗色の髪の女の子が…。


「な、何よアンタたち!?

 なんでここが分かったの!?

 いえ、何故ここに来たの!?」



私はほとんどパニックに陥っていた。

なぜ、PMCマルスの人間がここに来たのか。
なぜ、敵であるはずの私を助けに来たのか。

私はその理由が分からず呆然としていたが、装甲服を着た三人に両腕をつかまれて、
直後にナデシコの通信士と女の子が私の太ももの状態を確認して、手早く手当を始めた。


「な、なにすんのよ!?」


「助けてあげるに決まってんでしょ!?
 死にかけてんだから!」



助け、る…?


「や、やめなさいっ!
 
 わ、私はっ!

 ホシノアキトも、ラピスラズリも殺そうとしたのよ…!」


「知ってるわよ!!
 
 占いで全部お見通し!
 
 今日だって占いであなたを見つけたんだから!!
 
 いいから黙って助けられなさい!!
 
 代わりに、ラピスちゃんを助ける手伝いをしなさいよっ!」



!?
う、占いで!?
嘘でしょ!?
そこまで知ってて助けるっていうの!?
いえ、でも…。

「…そういうことならごめんだわ。
 何があったって、口を割らないわよ」

……こいつらの甘ちゃん具合にはほとほと呆れるわよ。
命を助けりゃ、恩に着て手伝ってもらえると思ってんだから。
テツヤに見捨てられた私にはもう何も残ってない。
生きる希望なんて、もうないんだから…それに…。

「いいから助けられなさい。
 口を割るか、死ぬか生きるかは後で考えなさいよ。
 …血液型は?」

「助かりっこないって言ってるじゃない」

「いいから!
 ここに居る全員が血液型ばらけてるから対応できるわよ!」

茶色の髪の少女は叫んで私を促したけど…どうせ無理よ。
占いでここまで準備万端に来たって言っても、私は助からないわ。
だって…。

「…B型のRH-」

私の言葉に、騒いでた連中が静まり返った…当り前よね。
B型のRH-の血液は希少性が高いからそうそう輸血できない。
テツヤが私の足を撃つだけ撃って逃げたのも、仮に救出されても輸血が間に合わなくて死ぬから。

二人の治療は手早くて、止血は終わったけどこの出血量じゃ、
かなり輸血されないと助からないし、輸血パックの類もない。
最新の人工血液があるなら助かるけど、医療現場にしかないわ。
ピースランドから無理矢理到着したこいつらにはそんな用意あるわけが…。


「奇遇ね!
 私もB型のRH-!」



「えっ…」


「「「重子!?」」」



「あ、そっか、あんた達には言わなかったわよね。
 緊急時のためにユリさん達は知ってるけど、B型のRH-なの。
 …事務員さん、私の血をギリギリまで分けてあげる。
 必ず助けるから!」

「そうね…ユーチャリスまでたどり着けば人工血液もあるから助かるわ」

栗色の髪の小さな女の子が、手早く輸血の準備を始めて…。
状況に混乱していたけど、こんな子がこんな処置を…?
でも、それ以上にこの連中の考えが読めなくて私は混乱していた。


「な、なんでよ!?
 
 私が憎くないの!?

 そんなに一生懸命に助けたいの!?

 どうして、ホシノアキトに、ラピスラズリに力を貸すのよ!?
 
 そんなに当たる占いの力があるならなんだってできるじゃないのっ!?
 
 どこまで世間知らずなのよ!?」



私は…この連中を世間知らずのバカとしか考えたことがなかった。
苦労もなにも知らない、明るい世界でうぬぼれているだけの連中だと思った。
でも殺したいほど私を憎んでいるはずの彼女たちは、どうやら私を助けたいと本気で思っているらしい…。
輸血の準備をする中、重子は困ったように微笑んだ。

「…確かに世間知らず、だよね。
 困ったことに、私達って世間知らずで、無鉄砲で…。
 好きなことがあったら立ち止まっていらんないタチなの」

「そうそう、それで影響受けちゃって、ね」

「人が死ぬのを黙って見てらんないんだよね」

「…こんな風に見捨てられて、悲しんでる人だと特にね。
 それにラピスちゃんはまだ死んでないのよ。
 さすがに死んでたら助けないわよ」


「…ふざけないで!

 私はあの人のために、死ぬくらいなんとも…がふっ!?」


「裏切られてんでしょ!?

 あんたこそ、そこまで義理立てすることないでしょ!?
 
 殺されかかって、泣きべそかいてたんでしょうがっ!!」



私が勢いをつけて舌を噛み切ろうとしたところで、
重子はお見通しとばかりに口に手を突っ込んで防いだ。
歯型のついた手を振りながら、重子は私を見つめた。

「……結局、あんたも、私達も、バカなのよ。
 好きな人が出来たら命賭けてなんでもしちゃうの。
 この占いの力だって、アキト様のために使ってるし。
 
 あんたと、そう変わりないでしょ?
 
 アキト様を殺す寸前まで追い込み、
 ラピスちゃんを一人きりでさらった力を持つあなたはどうなの?
 
 それだけの力があったら、事務員さんのふりができるくらいの能力があったら…!
 
 何だってできてたはずじゃないの!?」


…私は言葉に詰まった。
テツヤも、決して強制はしなかった。
私がついていく決断をするまでは、自由にしてくれた。
仕事を請け負ったあとは、出ていったら今みたいに証拠隠滅のために消されたかもしれないけど…。
でも、そこまでの段階で、私は引き返すことだってできたはずなのに。
私はテツヤに…女として、すべてを捧げたいと思っていた。
その先にあるのが破滅しかないと分かっていても…。

「…私ね、本当はPMCマルスからあなたが出ていく時、
 占いであなたが裏切られて、死ぬ運命が見えたの。
 だから止めたかったんだけど、あなたがアキト様を殺そうとしたから、一度は見捨てたの。
 そんなやつ、どうなったってかまわないって。
 
 でもね、アキト様がその後、連合軍特殊部隊の人と仲直りしてるのを見て、
 その後のアキト様の姿勢を見て、そんなこと考えちゃいけないって思ったの。
 
 改めて占って、あなたと運命がまた絡む時、助けられるって分かったからその時を待った。
 そしてピースランドであなたが来たって気づいた時、もしかしたらって思って…。
 ここに来る途中に、あなたの運命が見えた。
 だから、助けたかったの」

「…バカね。
 依頼主のこと喋ったら、結局私は消されるのよ?」


「絶対そんなことはさせない!

 アキト様に誓って、約束するわ!

 どんな手を使ってでも守るわ!」



…この子、本気でそうするつもりだし、その算段もあるみたい。
ラピスラズリを助けるついで、ってわけでもないわけね…。
あえて、ラピスラズリのことは言わない態度を見て…ほんの少しだけ揺らいだ。
…でも、そんなことで覆せる話じゃないわよ。

──私はあくまで、この子たちの、敵なんだもの。

「輸血をやめなさいよ…。
 あんた達に守られるくらいなら死んだ方がマシよ。

 …一人ぼっちの私には…あの人しか…ないもの…」

私には、もう希望がない。
ここで助かって本当に守ってもらえるとしても、その先には何もない…。
夢も希望も、愛する人も、なにもかも。
だったらせめて、テツヤの望み通りに死んであげたほうがずっとマシよ…。

この子たちだったら、逆によく分かってくれるわ。

……男の人に魅せられて、狂った私のことを。
ほら、案の定言葉が継げないもの。
私に意見なんてできないじゃない…。

「本当に、それでいいのかい」


黙り込んでいた他の連中の空気を引き裂いて、大人しそうなその男は私を射抜く目線を向けてきた。
私に届いた、優しい男の人の声…。

ナデシコの副長、アオイ・ジュン…。

声の優しさに反して、とても厳しいものを内包した目で。

「そうやって…。
 いつか振りむいてくれるって思ってけなげに力を貸し続けて…。
 それが自分の役割だって、思って何も考えずにいるのは、
 
 とっても楽なんだろうね…きっと…」


「あ…あんたに何が分かるのよ!?」



私が叫ぶのを、受け入れるようにアオイ・ジュンは小さく頷いた。

「…分かるよ。
 僕にも、そういう人が居た…。
 愛した人だと、僕は思っていた。
 少なくとも、好きだとは思っていた。
 でも、それは憧れでしかなかったんだ…。
 
 僕は彼女に惹かれた。
 その自由さ、明るさ、才能に、美人でかわいいところがあるおちゃめさにも…。
 
 ……彼女は僕にはないものを持っていた。
 でも、実は…。
 僕じゃできないことをやる彼女に、憧れていただけだったんだ」

「…それも…愛情じゃないの…?」

私はアオイ・ジュンの言葉に、抵抗できずにいた。
テツヤに利用されているだけだと、責め立てるでも、怒るでもなく。
ただ、私とどこか似ている…この人の言葉を、拒絶できずにいた。

憧れ…。

惹かれることも、愛の始まりだと思っていた。
あの人は私にとって、『私の人生』を与えてくれた『あしながおじさん』のような人。
そしてテツヤがしてきた非道も、権力者を叩き潰せる痛快さを持っていた。
私はそれを手伝えるだけで自分のどうしようもない人生も、この時のためにあったのだと肯定できた。
もっとも、別の権力者のための仕事ではあったのだけど…。
…でも、それで救われていた。

テツヤは、あの人は、私にとっての『救世主』だった。
彼のために命を使うことなんてなんとも思わないほどほれ込んでいた。

そんな私の…罪深さなどどうでもいいように、アオイ・ジュンは私を見つめ続けた。
隣にいる、ナデシコの通信士、メグミ・レイナードも彼を見つめ続けている。

「うん、愛情だと思う。
 …でもね、僕の愛情に彼女は最後まで気が付いてくれなかったんだ。
 僕が必死になって、どんな大変なことでも請け負ってきた。
 彼女はいつも言ってくれた。
 
 『ありがとう、ジュン君は最高の友達だね』って。
 
 でも、気付いたんだ。
 彼女からすると…。
 
 

 そのお礼の一言で全部チャラになってるってことに」


!!



私は声が出なかった。
その言葉が示す、残酷すぎる真実。
私自身がうすうす気づきながら気づいてないふりをし続けていた事実。
私はテツヤが『愛してるぜ』と言ってくれる嬉しさを味わってきた。
時に気まぐれに抱いてくれる時は、天にも昇るような気持ちになれた。
私の人生にはこれしかない、これだけでいいと、思い込んで…。

テツヤが私の命にも人生にも責任を持ってくれないのが分かっていたのに。
そのたび、喜びと嬉しさで自分を誤魔化してついて行ってしまった。
ほとんど刷り込みのように、条件反射のように。
…『パブロフの犬』のように。

テツヤは、あの『愛してるぜ』の言葉だけで私を支配していた。
私はそれでテツヤの中ではチャラになっていることに気が付かないまま…。
そう、気づいてしまうほどジュンの言葉は私の胸に突き刺さっていた。

私が動けなくなってるまま、ジュンは続けた。

「…僕はね。
 彼女に付き合うことはできていたけど、
 彼女と付き合うことはできてなかったんだ。
 
 勇気を出せば、『君が好きだ』の一言さえあれば、
 叶ったかもしれない恋心だったのに、僕にはその勇気がなかった。
 
 彼女の、隣にいることもできなくなることが一番怖かったから。
 その恋を諦めた時…僕にも、大切な人が現れてくれた。

 僕を心から案じてくれる、とっても優しい女性が。
 この前も僕を本気で叱ってくれた、素晴らしい人に出会えて幸せだなって思った。
  
 …君は、どうなんだい?
 
 君にとって、その人は…それくらい、大事な人なのかい…?」

「私は…」

私はまた言葉に詰まった。
そしてジュンを羨ましく思った。
あくまで足りなかったのは『勇気』だけ、あったら叶ったかもしれない恋だった。
恋を選ぶこともできる境遇を持ち、その中で本当に想い合える相手を見つけたことも…。
ジュンの言う『彼女』というのは無意識にそういう仕打ちをしていたにすぎない。
少なくとも、計算づくではなく。

…そう思ったら、自分の境遇の方がみじめに思えてきた。

テツヤはそんなに甘くない──。

…あの悪魔の頭脳を持った男は、人の人生を狂わせるのに躊躇がない。
私は分かっていたはずなのに。


そういう人だと、分かっていたはずなのにっ……!!


「あっ、あんたに何が分かんのよ!?

 私にとって、彼は!

 彼は地獄から救ってくれた救世主なのよ…!


 小さい頃に売られて!
 

 穢されて!
 

 この世に居ないことにされた、家畜以下の虫けらだった…!
 
 
 彼は、そんな私に自由をくれた!


 世界の広さを教えてくれた!

 
 彼のために命を捨てるくらいなんとも思わないくらい、惹かれたの!

 
 だ、だから…だから、だからぁ…ッ!!」



私はこんな風に誰かに胸の中を打ち明けたことがない。
信じられる人が少なすぎる。
とても人並みとはいえない幸福感の少ない、
空虚すぎる自分の人生を思い知って、泣きわめくことしかできなかった。

そして気づきたくなかった、もう一つの真実に気づいてしまった。

テツヤという人間が、本質的にはかつて私を支配した人身売買組織の人間と同じで…。
自由を与えたように見せて、実際は自分のために何でもする奴隷を作りたかったんだと。

従属させる方法が、強制だったのか放任だったのかの違いしかない。
刷り込みを行って、戻ってくるのを待ち構えていたの。

私に選択肢なんて元々ない。
狭い狭い世界の中で生き、そしてテツヤという人間に救われて、
テツヤしか見られないような人間に成り果てた。
幸福感を与えるのも、彼しかいなかったもの…中毒もいいところだった。

そして私が恋心を利用されて、テツヤのために成長していくのを期待していたのだと…。
その効果は…彼の想像をも、超えていたんだと思う。


「分かってんのよ…!

 テツヤはそれだけ惹かれるように仕向けて!
 
 自分の手足のように働く、絶対に裏切らないコマが欲しかっただけなの!
 
 
 私はこの肝心な場面で切り捨てられた、これが結果!
 これが私の受けた報いなのよ!!
 
 
 全部分かってんのよ!
 気付いてたのに気付かないフリをしてただけ!
 みじめな自分に気が付きたくなかっただけなのよ!


 一生懸命、命も何もかも捧げたいと思ってこのザマ!
 人殺しに成り果ててまで、尽くしてこのザマなのよ!?
 
 
 こ、こんな私…ただのバカでしょ!?
 
 
 笑いなさいよ……。
 

 うぅ…ひぐっ…うあああああぁぁぁっ…!」



「可哀想…」


「うっ…うぅぅうっ…!!
 

 同情すんじゃないわ、殺すわよッ!!


 ひっぐ…うぐぅうううぅぅう…」


私の手をぎゅっと握って、メグミも涙を流していた。
半狂乱になりながらも、私は手を振りほどけなかった。
その場にいる誰もが、私を責め立てなかった。
そして私の過去に──自分の想像もできないほどひどい出来事に、震えていた。泣いてくれた。

こんな人たちに泣いてもらっても、同情してもらいたくないって思ってたけど…。
それでも私の崩壊しそうだった精神は、かろうじて彼らによって支えられていた。
嘘偽りのない、彼らを信じてしまって…。
生まれて初めて、正直に話してしまったのだから…。

「…事務員さん。
 泣いている君に、今聞くのは間違っていると思うけれど…。
 …時間がない、お願いだ。
 ラピスちゃんのことを教えてほしいんだ。
 助ける方法がないか、何かヒントになりそうなことを教えてくれないか。
 
 ……ラピスちゃんを、助けたいんだ」

ジュンは嗚咽にむせぶ私に、ラピスラズリのことを問うた。
子供に言い聞かすように、丁寧に、優しく…。
…私は小さく目をつむって、呼吸を少しだけ整えた。

本当はテツヤを裏切るなんてごめんだけど…。
でも、裏切ったのはテツヤが先なんだから、躊躇うことないわよね。

こいつらも結局私を利用したいんだと思う。

でも、親切なのも、私を助けたいのも本当なのよね。
…本当に、救いがたいレベルのお花畑脳味噌してるわよ。

もう、利用されてる事には慣れてる。
だったらせめて自分の得になるように利用し返してやるわ。
少なくとも…こいつらは私を殺しはしないだろうし…。

私のこれまでの人生を打ち砕かれたというのに、
私はひどく自然に彼らに、すべてを話す気になってしまっていた。
…私も、現金なものね。

「…はぁっ…ふぅ…。
 んぐっ…一回しか言わないわよ」


「「「「!!」」」」



私は、覚悟を決めた。
テツヤの仕打ちに気付いた今…彼の裏切りを、裏切りで返してやることを考えた。
このレベルの仕事を失敗すれば、テツヤはきっと追われる。
…彼のことだから、死ぬなんてマヌケはしないから、それくらいはしていいと思う。

だって本当の意味で私が自由になるには…。
テツヤのために生きる私を捨てるしかないもの。
無謀すぎることをしようとしているのは分かっている。
でも、生きていていいって言ってくれるこの子たちとだったら…。

平凡で、ダメダメだけど、私の体験したことのない…自由な人生をくれるかもしれないもの。

「…ラピスラズリにかけた手錠は特殊合金製。
 だから普通に切るのは無理よ。
 周りの金具を壊す方が可能性があるわ。
 
 それと…時限爆弾の解除方法は配線を青、緑、白の順番で切らないと爆発するわ。
 赤の配線はダミーの即時爆破スイッチになってる。

 あと捨てるために持ち上げてもアウト。
 一定の揺れと傾きでスイッチオンになるようにしてある。
 配線の方が解除できればいっしょに解除される仕組み。
 
 あと、最上階にも爆弾があるわ。
 こっちはタイムリミットが0時ジャスト。
 チューリップの真下だから、チューリップが沈み込めばスイッチが入るし、 
 この爆弾が爆発したら、チューリップの重みに耐えきれずにビルごと崩壊するわ。
 
 ……私の仕込みはこれで全部よ。
 
 テツヤが他に仕込ませてないって保証はないけどね。
 もっとも私を始末しようとしたってことは、私以外に仕込みはないわ。
 
 ……せいぜい、タイムリミットまであがきなさい」

「ありがとう、事務員さん!」

私の説明を聞くと、すぐにジュンはコミュニケーターで連絡を取り始めた。
そして重子も私に輸血しながら、私の手を握ってぽろぽろと涙を流していた…。

…裏切った罪悪感はちょっとだけあるけど、すっきりした気持ちの方が大きいわね。

すべてを失った空虚さではなく、
テツヤから離れたことで『本当の自由』に…胸が躍っている。

……こんな気持ちになるなんて、おかしいけど。
もっともしばらく監視があるのか、逮捕されてそれを償ってなのかは分からないけど、ね…。

「…いい加減、事務員さん呼びはやめなさいよ。
 私にも名前があるわ。
 
 ライザ。
 
 …苗字と戸籍はないけどね。
 それと…ラピスラズリが助からなくても恨まないで。
 この条件じゃ、死ぬ可能性の方が高いもの。
 
 …八つ当たりで殺されるくらいは覚悟しとくわ」

「…そんなことしないよ、ライザさん。
 言ってくれて、ありがとう」

「ありがとう、か…。
 生まれて初めて感謝されたわよ」

「そんなことないわ、ライザさん。
 事務員してた時だっていっぱい言ったのに」

「……あ、あんた達ってどんだけお人よしなのよ?
 仮にも身内の殺害未遂を二回もやってるのに…」

「そりゃ、うちのボスがアキト様だから」

「…あっそ」

私は重子のホシノアキト観に感心がないので、そっぽを向いた。
でもホシノアキトという男…どこまでも謎めいている。
興味がないわけじゃないけど…重子に聞くのはちょっと…。

……って、なに仲良しこよしな考えになり始めてんのよ、バカ。
一線しっかりひいとこうかしらね…。

「…それと、私は礼を言わないわよ。
 謝罪も、今んとこするつもりもない。
 いくら私を守ってくれるって言ってもそれは曲げない。
 
 …分かってんの?
 だって…私を自由にしたら、あんたたちの内情をよく調べたうえで、
 またテツヤのところに戻るかもしれないのよ?」

「この期に及んでまだ言ってる。
 …ここまでのことを許した私達が、そんくらいで参るわけないじゃない」

「そーそー。
 死人が出てるわけじゃないんだから。
 …ラピスちゃんが死ぬようなことがあったら、またその時考えるわ」

「へぇ、ちょっとは見直したわ。
 甘ちゃんすぎるわけじゃないわけね」

「ま…アキト様も本当はそこまで甘くないわよ。
 一線超えたら、楽に死ねないかもね?」

…。
こ、この子たちがそこまで言うって…どんなことになるのよ…。
あのブーステッドマン達と戦ってた時の姿、あれが素ってこと?
強さからするとそっちの方が説得力はあるけど。

「とにかくラピスちゃんの無事を祈って、治療を受けなさい。
 体力を消耗しすぎないように、楽にして。
 輸血が終わったら移動するわよ」

…この栗色の髪の女の子も、何者なのよ。
ホシノアキトの周りは謎ばっかりじゃない。
まあ、いっか…どうでも。

そのうち、私は担架で運んでもらってビルを後にした。
…。


……じゃあね、テツヤ…。

あと…。

テツヤの奴隷だった私…。























【時刻─21:40】
〇地球・ストックホルム市街地上空・ピースランド国用船──ルリ
私達は引き続き、エステバリス隊とステルンクーゲル隊の指揮を続けていましたが…。
…状況は全く打開されていません。
まだ廃墟ビルのラピスのところにユリ姉さんはたどり着いてませんし、
タイムリミットが近いです。このままじゃ…。
ユリカ姉さんの喉が鳴る音が聞こえました。

「……もう時間がないのに」

「うむ…」

ユリカ姉さんとミスマル父さんは言葉少なげに焦りを口にしました。
こちらで打てる手はもうほとんどありません。
エステバリス隊とステルンクーゲル隊によってバッタを誘導することが精いっぱいです。

…結局、アキト兄さんズのブローディアもこちらには来られていません。
ディアがちょくちょく進捗をメール送信してくれていますが、まだ激闘中だそうです。
しかもホシノ兄さんが限界近くなってしまって、DFSによる戦闘も難しくなって、大ピンチみたいで…。
逃げてくるにもラピスの救出の邪魔をしてくる戦力を連れていくわけにもいかず。

…八方塞がりですね。


ぴっ!


『ユリカ!?
 ラピスちゃんを誘拐した事務員さんを保護したよ!
 証拠隠滅で殺されそうになってた…けど、なんとか助かるみたいだ。
 
 それと、ラピスちゃんを助けるための情報をもらえた!』


「「「!!」」」


突如入ってきたアオイさんの通信にブリッジが揺れました。
まさか、本当にラピスを誘拐した犯人を確保するなんて…!
重子さんの占いの力は本当、なんなんですか…もはや敵の勢力を特定するのも可能そうですけど。
いえ、そんなことはどうでもいいです。
まずはラピスのことです!

それから詳しく、ラピスの周りにある仕掛けについて聞きました。
手錠は特殊合金製… 
時限爆弾の解除方法…。
赤の配線がダミーの即時爆破スイッチ…。
捨てるために持ち上げてもアウト…。
配線の方が解除できればいっしょに解除される仕組み…。
最上階にも0時ジャストの爆弾がある…。

……なんて意地悪な仕掛けですか。
しかし22時の爆弾で死んだ場合って、地球側の仕掛けって思われそうなもんですが…。
いえ、そんなことはあまり気にしないでいいです。

「ありがと、ジュン君、みんな!
 エステバリス隊のみんなに、ラピスちゃんに伝えるように言ってくるから!」

『ありがとう。
 それと、事務員さん…いや、ライザさんのことなんだけど…』

「む、治療のために逮捕の前に入院させたいという話か、アオイ君」

『いえ…どうもライザさんは戸籍が無いらしくて…逮捕はすぐにはできません。
 そうでなくても正規の手段で逮捕しようにも、
 放っておいたらどうなってしまうかわかりませんし。
 …これだけのことを仕組める相手です。
 何としても実行犯のライザさんを殺そうとするかもしれません。
 したことは許せませんが…逮捕の前に、保護する必要があります』

「…そうだな。
 D君たちの前例もある、今は匿うしかなさそうだ。
 それより、ラピスを助ける手立てを先にしないとな」

…そうですね。
その辺の処遇は後でも問題ないです。
うっかりユリ姉さんが爆弾を揺らしてアウトっていうのも避けたいですし…。
一刻も早くこのあたりの連絡をする必要があります。

「……でもこれで私達の出来ることは全部なくなっちゃったね」

ユリカ姉さんは、ここからは何もできない歯がゆさを感じてます。
…この戦い、そもそも私達に与えられた選択肢が少ないんです。
ステルンクーゲルを買うというアイディアで可能性をほんの少し上げられましたし、
ライザさんの証言があって、もう少し助かる可能性が上がりました。
これでユリ姉さんがたどり着ければ、何とかなるかもしれませんが…。
チャフを使っている以上、敵も遠隔爆破の類はできないでしょうし。
チューリップも常時敵が出るようにしてあるだけでこれ以上の操作は恐らくできないはず。

『いえ、ユリカさん。
 最後の締めに、やることが出来てます』

「へ?」

直後、ちょっとだけふらついた重子さんがコミュニケのウインドウで現れました。
…この状況で、私達がやるべきことなんて本当にあるんでしょうか。

『眼上さんを呼んできてください。
 準備には時間がかかるかもしれませんが、必要になることです。
 
 それとルリちゃん。
 日本のドックにあるオモイカネにお願いしてちょっとしたことをしてほしいの。
 
 ……敵にこれ以上動かれては困りますから』

確かにこれ以上的に動かれてしまっては困りますが…動きを封じるっていってもどうやって。
そして重子さんの話したことに、私達はひどく驚くことになりました。
確かに証拠が残らないことですし、後始末もどうってことなさそうですが…。
ラピス並みに辛辣な考えですね…これも占いなんでしょうけど。
…しかし、ここまでの流れではすべて重子さんの占いがなければなんともなりませんでした。
本当に、わずかでも可能性が上がるなら試してみる価値はありますね。

……とはいえ、これが敵に対する決定打にならないのも占いで分かってるんですけどね。













【時刻─21:50】
〇地球・ストックホルム市街地・高層廃墟ビル──ラピス
も、もう時間がない…!
このままじゃ、爆弾で…。
手錠の付いてる配管の方も、傷ちょっと出来てるけどまだ全然足りないし…。

「も、もうダメ…」

死にたくない。

死にたくないよ…。

こんな足手まといな私死んじゃえって思ってるのに…。

でも死んだらどうなるか分かってる…アキトがおかしくなっちゃうもん…。
だから、あがいたけど…もう…。

『ラピス!聞こえるか!?』

「!?リョーコちゃん!?」

『わりぃ、そっちの声は聞こえねぇけど聞いてくれ!
 助けは行ってるが、出入り口が崩れているからパラシュート降下で逃げるしかねぇ!

 それと犯人を何とか捕まえて爆弾のことを聞き出した!
 助けが来たら協力してなんとかしてくれ!
 
 その手錠は特殊合金製で頑丈だから、周りの金具を壊した方がいいらしい!
 
 そこに置かれた時限爆弾の解除方法は配線を青、緑、白の順番で解除できる!
 赤の配線はダミーの即時爆破スイッチになってるってよ!

 捨てるために持ち上げてもスイッチが動くらしいぜ!
 配線の方が解除できればこっちも止まるってよ!
 
 あと、チューリップの真下の最上階にも爆弾がある。
 こっちはタイムリミットが0時ジャストだ!
 
 直接ここに助けに来るとバッタが殺到しちまう、そっちでなんとかしてくれ!』

!?
は、犯人を捕まえたって…私を誘拐した人を!?どうやって!?
…まさか重子ちゃんの占い?あ、あり得るけど…。
で、でも助けに来るって、あと十分もないよ!?
どうしたら…。

「リョーコちゃん!

 まだ助けに来ないよぅ!」
 
『あ!?
 
 ギリギリ聞き取れたが…。
 
 そっちに今ユ…』
 

「ユリカさんっ!!」



?!
私は後ろから聞こえてきた声に私は振り向いて驚いた。
どうして…どうしてユリちゃんが!?
救助隊の人じゃなくて!?なんで!?


「ゆ、ユリちゃん、どうして!?」



「細かいことはいいです、早く爆弾を捨てないと…」

「ま、待って、だめっ!
 傾けたら爆発するの!
 犯人の人が言ってたって!!」

「え…?
 あ、ちょっと聞こえてたリョーコさんの…」

「そ、そうなの!
 犯人の人が捕まえられたから聞き出したの!」

「…参りましたね、工具箱落っことしちゃって…」

「ええっ!?」

ユリちゃんは頭を掻いて困ってた。
それじゃ助からないじゃない!?

「大丈夫です。
 こんなこともあろうかと…ほらっ!」

ユリちゃんは自分の髪飾りを引き抜いて、カバーになってた部分を引き抜くと、
かんざしのような髪飾りの中に、刃が見えた。

「自衛には心もとないですけど、護身用に武器を隠し持っておいたんです。
 アキトさんに相談して、ウリバタケさんに作ってもらっといたんです」

「よ、よかったぁ…」

ユリちゃんらしくないちょっとしたおとぼけに生きた心地がしなかったけど、
ユリちゃんは手早く、静かに爆弾に近づいて私を見た。

「ユリカさん、順番分かります!?
 さっき聞いてたみたいですけど…」

「う、うん!
 青、緑、白の順番だって!」

「分かりました…急がないと…」

ユリちゃんは深呼吸をしながら、少しずつ丁寧にコードを切断していった。
ニッパーじゃないからうまく切れないし、時間をかけて丁寧に…。


ぶつんっ。



最後の白のコードを切ると爆弾のカウントが止まり、
やがて電源が切れたようで時間の明かりそのものが消えた。
私とユリちゃんは深く深く安堵のため息を吐いた。

「ふう…なんとかなりました…」

「よ、よかったぁ…。
 でも、あと二時間したらチューリップの真下の爆弾が…」

「…あんまりのんびりしてられなさそうですね。
 でも手錠を何とかする方法が…」

「頑張って削ったけど、金属同士だとなかなか削れなくて…」

「…仕方ありません、時間ギリギリまで二人で削って、
 最後は力づくでへし折るしかないでしょう」

「うん…」


ごりっ…ごりっ…。



私とユリちゃんは、手錠を綱引きみたいに引き合って金具の部分を削るように削りだした。
私は手が引っかかってるので簡単に引けるけど、ユリちゃんは反対側の鎖を持って…。
さっきよりずっと力が入るし早いけど、間に合うかな…。
…。

「ユリちゃん、ごめんね…」

「…何について謝ってます?」

う…やっぱり怒ってるよね…。

「…怒ってるよね」

「怒ってません。
 あの場合、警戒を怠ったとは言えない状況ですし…。
 あくまで悪いのは敵です」

「…だけど」

「自虐的な言い訳なんて聞きたくありません。
 ユリカさんらしくもない。
 今は必死こいて金具を傷つける時間です。
 いっぱい話したいこともありますけど、
 気が散ってたら時間切れになってそれもできませんし」

……こういうところ相変わらずシビアでリアリストだよね、ユリちゃんって。
ユリちゃんがぴしゃりと言い切ったので、私は黙り込むしかなかった。
でも、今度はユリちゃんは申し訳なさそうに少しだけうつむいていた。

「っていってもこのままじゃ辛いでしょうから、ちょっとだけお話しましょうか…。
 手は止めないでくださいね…」

「…うん」

「…ユリカさん。
 いっぱい、やり残したことありますよね…」

「…うん」

…ユリちゃんに遠慮してた部分が多くて、言えなかったことがいっぱいある。
アキトと本当はいっぱい…キスもデートも、その先もしたいって思ってた。

でも…ラピスちゃんを苦しめた私にはそんな資格ない…。

ここまでのことは頑張ればなんとかとりもどせそうだけど、ラピスちゃんにしたことは…。
…だから残りの人生、ラピスちゃんに全部返してあげようと思ってるって言ったら怒られちゃうかな。
私はずぅっと後ろに引っ込んだまんまになろうとしてるなんて言ったら…死ぬほど怒られちゃうよね…。

「…ここを生きて出られたら、全部していいです。
 アキトさんと離婚してでも結婚させてあげます。  ユリカさんのためだったらお安い御用ですよ」


「だっ!
 だめだって!」



「手が止まってますよ」

「うう…」

「一分一秒惜しいって言ってるでしょう」

私は注意されて再び手を動かし始めた…反論を封じられちゃった。
この状況だと何言っても聞いてもらえない気がする。
ルリちゃんだった頃からこういうところ頑固だったよね…。


ごりっ…ごりっ…。



「…いいですか、ユリカさん。
 例えばなんですけど、私とアキトさんとの間に子供ができたとしたらどうです?」

「え…?
 どうって…。
 …おめでたいでしょ?」

「…そうじゃなくて。
 私とアキトさんの間に子供がいたら、
 離婚したとしてもアキトさんは私と縁が切れなくなるんです。
 表面上は縁が切れるわけですけど…子はかすがいっていうでしょう?」

「…意味、違くない?」

「違ってもいいんです。
 とにかく子供がいると、アキトさんは私とつながりがある状態になるんです。
 法律上で別れても養育費だのなんだので私を支援することを求められます。
 だから、うまく屁理屈使えばいっしょに暮らして支援するのだってできます」

「ほ、本当に屁理屈だね…」

「それに私達ミスマル家の姉妹なんですよ?
 ユリカさんが…ええと、ラピスがアキトさんと結婚してたとしても、
 ぶっちゃけいっしょに住んだって、なんも不自然じゃないでしょう?
 その中で浮気してようがどうしようが見えなきゃいいんです。
 家庭って一種の密室ですし」

「そ、そうかもしれないけど…」

…ユリちゃん、アキトと同じで変な吹っ切れ方したのかな。
でもやけくそっていうよりはホントにそう思ってるみたいだけど…。
そうはいっても、やっぱ噂になっちゃいそうだけど…。

「じゃあ、毎年片方が離婚して、片方が結婚してを繰り返すのはどうです?
 法的には問題ないですよ?
 アキトさんってこういうところ結構律義ですけど、
 これなら納得してくれます」

「…ふふ。
 くすすっ…ヘンなの…」

私はあんまりにもおかしいことを言われて笑っちゃった。
確かに法的には問題ないけど、それで押し切っちゃおうなんて。

「ヘンで何が悪いんです?
 アキトさんは泣く子も黙る、世界一の王子様です。
 これくらいなら別に責められることもそうはないでしょう?」

「……そういえばそうだね」

ちょっと週刊誌にゴシップ出ちゃいそうだけど…。
アキトが捕まったりしないなら、別になんでもいいよね。
…ううん、アキトが言ったらなんでも叶っちゃいそうだから、
アキトが『二人とも好きだから交互に結婚します』って言っちゃえばいいのかも。

……私、本当は…許されるならアキトともう一回結婚式、したい…。

ラピスちゃんになったからそんなこと許されないって、
ずぅっと秘めていた、この気持ち、この願い、この夢を…。
死ぬかもしれないこの瞬間にユリちゃんが叶えてくれると言ってくれたから…。

だったら、白状しちゃおう。
わがまま、言っちゃおう。

「……ユリちゃん、本当にいいの?
 本当に、18歳になったらアキトを奪って結婚しちゃうよ…?」

「かまいません。
 私も結婚式ド派手に盛大にやりますから」

……本気、なんだ。
私のために、そこまでしてくれるんだ…。
私だったら絶対耐えられないことを、ユリちゃんは…。

「…うん、結婚したい」

「全く、最初っから素直に言ってくださいよ。
 …他には、何かありますか?」

「……うん。
 またしばらく三人で静かに暮らしたいな。
 あのボロボロのアパートみたいな場所で。
 …誰にも気づかれないくらい、穏やかに…」

「…いいですね。
 今度はアキトさんを挟んで川の字で寝ましょうか。
 もう、こんなめんどくさい事件も、英雄ごっこも、芸能関係もほっぽりたいですし。
 こっそりラーメン屋台も引いちゃいましょうか…」

「いいよね…それ、すごくいい…」

こんなことになっちゃったら、無理かもしれないけど…
もう一回、あの頃と同じことをできたら…どれだけ幸せなのか、分からないよね…。
考えただけでも、本当にボロボロ泣きだしちゃいそう。
戻ってこないはずだった、あの大事な日々にもどれたらなんて…。

「ユリカさんはハネムーンはどこに行きたいですか?」

「ううん、あの時のこと思い出しちゃうからハネムーンなんていらない。
 …アキトと結ばれるあの瞬間だけ欲しいの。
 その後はずぅっと食堂で一生過ごしても、幸せだもん…」

「そうですよね。
 ユリカさん、アキトさんが居るだけで本当に幸せそうでしたもん」

そう。
絶対にアキトとだったら一生、死ぬまで幸せになれた。
…だからあの時、あの生活を捨てて木星に向かったことを、心底後悔していた。

アキトもルリちゃんも私も、あの時黙ってられなかったけど…。
あのままだったら、もしかしたらって…。

…またバカなこと考えてるね、私って。

「……でもユリちゃん。
 そんな私とアキトをくっつけたりしたら、
 私がアキトを取っちゃうよ。
 
 一生分、全部。
 ユリちゃん、ずぅっとお預けだよ。
 
 私、ずるい子だから」

「ラピスに影響されましたか?
 そんな憎まれ口叩くユリカさんじゃないと思ったんですけど」

「そーかもね…」


ごりっ!ごりっ!



私の言葉を聞いた直後、ユリちゃんの手の力が強くなったのに気づいた。
鎖が強く張って、気付くと私も強く引き返していた。

「取れるもんなら取ってみてください。
 そうしたら、また取り返して見せます。
 この世界のアキトさんは人に言えない癖があるんですよ。
 私と寝てると、寝ぼけて…」

ユリちゃんは私の憎まれ口に、言い返すように似合わない強気な言葉を返してきた。
私が意識を取り戻した大晦日の晩の、アキトを私に返してくれようとした時が嘘みたいに。

ユリちゃんは、ラピスちゃんに対していつも言うくらい強く言い返してくれた。
私も、ラピスちゃんと同じくらい強がって答えようと思った。


「そんなの私も知ってるもん!
 アキトだったら私に対しても同じことするもん!」


「そうなるとっ!いいですねっ!」


「そうなるよっ!ぜったいにっ!」


ごりっ!ごりっ!ごりっ!



私達の金具を削る速度がだんだん上がっていく。
さっきまでの力ない動きが嘘のように。
アキトの取り合いをしてるうちに、私たちは本気で鎖を引き始めていた。

本当はアキトと居られる時間を、大人しく半分こするつもりのくせに。

その中で、私は気づいた。

本当はユリちゃんも、アキトを独り占めしたいんだ。

でも我慢してたんだ。
私に対して嫉妬してたんだ。

アキトがいつまでも私に心を奪われていたのを、本当は…。
それでも私がいた方が嬉しいっていう気持ちも本当で…だから我慢してくれたんだ。
あの舞踏会場で私が自分の嫉妬心に苦しんでいた自分を醜いって思ってたけど…。

ユリちゃんも、そうだったんだ。

…当たり前だよね。
アキトを独り占めできるなら、そうしたいし…。
昔の私だったら、そんなのルリちゃんでも許せなかったかもしれない。

でも、そうじゃなくなった。

私達は二人とも、ううん、ラピスちゃんもだから三人とも…。
自分の恋を犠牲にしてでも、アキトが幸せになれる道を探してきた。

私とアキトの幸せを引き裂きたくないユリちゃん。
アキトとユリちゃんの幸せを引き裂きたくない私。
自分の恋が報われなくても、アキトのために私やユリちゃんを助けようとしたラピスちゃん。


考えてる事はそんなに変わらない。

どっちもどっちの、『バカばっか』。
アキトが大好きで、お互いが大事な『バカ姉妹』。

……もっと早く気づいてたら、こんな状況にならずに済んだのに。

ホント、私ってバカ。
でも…。


「そういう風に言うってことは!
 
 死ぬなんてこれっぽっちも考えてないんですね!」


「あったりまえだよ!
 
 ユリちゃんと、アキトの取り合いできないもんっ!
 
 それに!
 
 私ってばバカだから!
 
 ラピスちゃんを泣かしちゃったの!
 
 ひどい悪夢に巻き込んで!
 
 私のために頑張ってくれたのに!
 
 お礼と、恩返しと、お詫びと、そのほかもろもろと!
 
 ごめんなさいをいっぱいしないといけないのっ!!」


「だったら、構いません!

 時間いっぱいまで、力尽きるまでやりますよ!」


「うんっ!」


ごりっ!ごりっ!ごりっ!



ユリちゃんは、不敵な笑みを浮かべて…。
ううん、すごくうれしそうな顔で私を見てくれてる。
ちょっとだけ長い手錠の鎖だったのが幸いした。
だんだんと鎖が熱を持ち始めて、もはや火花まで出始めていたけど、
私達はそんなことを全く気にせず必死に手錠の鎖を引き合った。

金属疲労で壊れてくれれば一番楽なんだけどっ、ねっ!














【時刻─23:30】
〇???
とある特殊な暗号化されたプライベート回線に通話が開かれている。
軍の上層部の人間をも含む、かなりの大企業の要人、政府要人などが集まっている。
クリムゾンを筆頭とする、木連と手を結んで利益を共有するために同盟を結んでいる人物たちである。
彼らは、連合軍の艦船の通信を傍受しつつ、別角度のカメラから映像を確認して様子を確認していた。

『第一の爆弾は失敗か…。
 だが、うまく解除できたとは…』

『爆弾の不発か?
 …クリムゾン、例の始末屋が裏切ったのか?』

『それはない。
 あの男に限ってそれはあり得ん。奴の思想に反しすぎる。
 かといって奴の手先も裏切るとは考えづらい。
 そんなことをしたらうちのシークレットサービスが直々に出るのが分かってるはずだ。
 そうなっては助かる見込みなどなくなる』

『なら良いがな…』

『しかしチャフなど使わず、すぐに爆破で目的は達せられたのではないか?』

『いや、そうとも言い切れん。
 ホシノユリが救助隊の代わりに飛び込んだらしい。
 二人同時に始末できればホシノアキトも間違いなく揺らぐだろう』

『ああ、奴を追い込まないことにはこちらも勝てん。
 木連を悪役に仕立てるのが失敗した以上、
 ホシノユリとラピスラズリを直接助けられなかったという敗北感を刻み込んでやるのが優先だ』

『ああいうお人よしは得てしてこういう失敗を引きずるからな』

『違いない』

『『『『ははははは』』』』

『む、すまん。
 …呼び出しがかかってしまった。
 緊急事態のようだ、この場は任せたぞ』

『肝心なシーンを見られないとは惜しかったな、クリムゾン』

『全くだ』












【時刻─23:35】
〇地球・クリムゾン邸・クリムゾンの書斎──クリムゾン会長
私はシークレット回線を閉じて、呼び出しがあった本社回線の方に切り替えた。
スウェーデンで二十三時半…こちらは七時半だ。
シークレット回線で深夜から通話を続けており、今日は出社しないと連絡したというのに。
よほどの事態でなければ許さんぞ、全く。

『か、会長!』

「なんだ、急に呼び出しおって」

『そ、それが…』


「な…。


 何ィーーーーッ!?」



部下は口籠りながらも、テレビ電話の内容を切り替えた。
その内容に私は驚いて叫んでしまった。
そして、その情報のためにクリムゾンの株価がガタガタになるのが分かった。
こ、これは一体!?


















【時刻─23:20】
〇地球・ストックホルム市街地上空・ピースランド国用船──ユリカ

『えー、それでは…。
 緊急的にオンライン通話で通信してお送りしていますが、
 ラピスちゃんが今危ない状況なんですね』

「…はい、望遠カメラの通りです。今も危険な状況にあります。
 手錠が取れなくて、ユリ姉さんとラピスが一緒に、二人で何とか外そうとしてます。
 ラピスの手持ちの緊急用通信機で連絡がついて何とか一命をとりとめましたけど、
 連合軍と木連軍の共同戦線の際に壊される予定だったビルに捕らえられていました。
 
 アキト兄さんたちも、ブローディアで敵戦力の足止めをしている状態で…」

私がエステバリス隊を指揮するそばで、
ルリちゃんはオンライン通話でテレビ局の人のインタビューを受けていた。
眼上さんのツテで、日本の全テレビ局が同時中継をすることになっていた。
これも重子ちゃんのアイディアなんだけど…。

『なんと…。
 この事件の首謀者は、一体誰なんでしょうかね?』

「…ぶっちゃけ現状では分かりません。
 この方法では誰がラピスを殺したか明らかになりませんし、
 この間のテロリストのように名を売る目的ではないように思いますけど。
 当然、私達の自作自演でもありません。もはや名前を売る必要ありませんし」

『そうですね』

「ホシノ兄さんの殺害未遂事件があったと思うんですが、
 少なくとも木連の人たちはあの時点では地球に居なかったというのが通説です。
 今回も木連の人たちはほぼかぐらづきに居ましたし、
 私達に同行していた白鳥さんたち以外の外出はありませんでした。
 
 ということは…。
 
 ホシノ兄さんやラピスの存在を疎ましく思ってる地球の勢力の可能性が高いです』
 
『なんですって!?
 それでは、この戦争を終わらせるホシノアキトさんの働きを軽んじる人が居ると!?』

「はい。
 ホシノ兄さんは見ての通り豆腐メンタルなので、
 ラピスが誰かに殺されてしまったと、
 助けられなかったとなったらしばらく身動きとれなくなります。
 数年、もしかしたら一生、まともに生きられなくなるかもしれません。
 
 そうなった時に、終わりかかった戦争の火がもう一度燃え上がるかもしれません。
 
 ラピスが死んだ後、ホシノ兄さんや世間に、
 木連が報復目的でやったことだと吹聴して、
 戦意を呼び起こしたい人が居るんじゃないかって思うんです。
 
 これは全くの推測にすぎません。証拠ももちろんありません。
 妄想と言われてしまうのは重々承知です。
 
 でも、この時期になってホシノ兄さんやラピスを陥れる理由は、それくらいしかないと思うんです。
 
 …以前、こんな話を聞きました。
 
 戦争は、思ったより多くの人が得をするようにできているって。

 軍人は武勲を立てて出世の道を開き、
 タカ派の政治家たちは軍備の増強をする口実を得て力を増し、
 企業は戦争特需でうるおい躍進する…。
 
 そんな話を。
 
 そしてそれを判断する人たちが、
 損をしないと判断したら、ゴーサインを出してしまうと。
 
 …残念ながら、この木星戦争の引き金を引いた人たちと同じように、
 戦争の続行を望む人たちが、それなりに居るということになりますね」


『ざわざわ……』



ルリちゃんの言葉に、テレビスタジオはざわついていた。
正義を語ることも多い戦争が起こる理由は…利益に基づくことが多い。

身分、領地、人材、資源、そして政治的主張に至るまで…。
戦争にそういうものが絡まなかったことは、歴史上ない。
これを堂々と、生放送で言われてしまうと反論する余地はない。
政治の専門家、軍事の専門家、経済の専門家でもそうそう反論できないと思う。

この言葉は…ラピスちゃんがアキト君の秘密を話した時に言っていたこと。
たぶん、未来の私の人格に影響を受けてこんなことを言ったんだと思う。

どうしてこんなことをしているかというと…私達は重子ちゃんの案に乗っかるしかなかったから。
そう、クリムゾンが犯人ということはどの面からも明らか。
アクアさんも、Dさんたちも、ライザさんもその証人。

でもだった証拠がない以上、私達は彼らを訴えられない。

アクアさんは元々身内ということで信頼される可能性もあるけど、
追い出された私怨が原因であると言われかねない。

Dさんたちも同じで、私怨で嘘をついていると言われる可能性があり、
別グループ扱いの会社の研究所で改造されたそうだから、クリムゾングループであるという証拠がない。

ライザさんに至っては実行犯で、かつ戸籍がないので裁判を起こしても証人として採用されない。
今のまま矢面に立てば、命を守り切れるか分からないし。

だから正面からの正攻法ではクリムゾングループを訴えても勝ち目がない。

だからもう割り切ってこの場を放送してしまって、全世界に捜査をお願いしちゃうことにした。
こんなひどい方法で直接的にラピスちゃんを殺そうとして、
かつそれが戦争を続けたい人達の意思だとバラしちゃおうと。
そうなった時、議論を重ねれば自然にクリムゾングループの名前が浮かんでくる。
何しろ、ネルガルに連合軍の主力兵器・主力武器の生産をほぼすべて奪われたんだから。

もしうっかり名指しで犯人扱いして直接対決になったら、
証拠を持ってないだけ私達の方が不利になっちゃうもん。
誹謗中傷目的で犯人扱いされたって反論されたら立つ瀬がない。

でも直接私達が今回の事件の犯人がクリムゾンだって明言しなかった場合、
クリムゾンの人たちも私達を公然と非難することもできない。

私達以外の人に、敵対してる企業をあぶりだしてもらう方式にした…んだけど…。
…重子ちゃん、いつの間にかラピスちゃん並みの悪辣な方法を極めてるよね…。
こういう状況をうまく使う方法はラピスちゃんの十八番だったと思ったのに。

…でもこれは、一つの賭けに等しいよね。

この方法はラピスちゃんが『助かれば』こそ許される方法。
もしラピスちゃんとユリちゃんが死ぬようなことがあったら…身内の殺害の現場を生放送したに等しい。
私達も相当の批難を受ける覚悟が必要だった。

それでもアキト君が…『黒い皇子』に完全に落ちてしまったら、意味がない。
少なくとも、クリムゾンの身動きを一時的にでも封じないとラピスちゃんが助からない。
もしラピスちゃんが助かったらヤケになって長距離ミサイルを撃ち込み始めたりしかねないもん。
だからこうして、クリムゾンの人たちが対処で慌てふためくように仕組んだ。
身動きが取れない状況になってくれれば、ユリちゃんとラピスちゃんの生存確率が上がるもん。

ちなみに、これだけじゃないんだよね、重子ちゃんの仕込みは…。

『み、ミスマル提督、どのように思いますか?』

「…私も軍人であるので反論したい気持ちもあるが、事実だろう。
 確かに攻め込まれたら反撃せざるを得ないが…。
 この木星戦争においては、過去の過ちのために今を生きる木連の使者を葬ったことに始まる。
 地球の利益のためにと言われても仕方がないことだ。
 このあたりの事は、すでに連合軍でも明言されている通りだがな…。
 
 そしてアキト君やラピスを今狙う必要がある勢力が好戦派である可能性も、十分あると思う」

レポーターの人もちょっと冷や汗を欠きながらお父様に話題を振ったけど、取り付く島もないって感じ。
もう連合軍もこの戦争に加担した人を切り捨てる方針になったもんね。
そして、お父様は鬼のような形相になって前にずいっと出てきた。


「だがなァッ!
 
 私は!
 
 我が愛娘をこのような目に遭わせた者を、決して許しはせん!!

 聞けェ! 
 いいか、この事件の首謀者どもッ!
 人の命を自分の利益のために消費する、金の亡者どもッ!!


 貴様らが敵に回したのはPMCマルスでも、
 ピースランドでも、ネルガルでも、連合軍でもないッ!!



 この地球と火星と木星、すべてだッ!!


 貴様らは平和を望む、すべての人間を敵に回したのだ!!



 何より、我が愛娘にした仕打ち…許せんッ!!

 もしユリが、ラピスが死ぬようなことがあってみろッ!!
 
 

 悪鬼羅刹と成り果てて、地獄煉獄に落ちることになろうとも…!!


 貴様らを生かしてはおかんからなァァァアァッ!!」



「お、お父様、落ち着いて…」

「ああぁぁあぁ……はあぁ…ふぅ…ぐぅ…」

…お父様が血圧が上がってふらふらしながら激昂するのをなだめながら、
私は別の冷や汗が浮かぶのを感じた。
もしそんなことになったらアキト君が暴走する前に、お父様が暴走しかねないなって…。
ううん、二人とも手を組んでひどいことになっちゃう、きっと。
そんなことになったら、私でも止められるかわかんないよぅ…。


ぱーーーーんっ。


「うごぉっ!?」



「る、ルリルリ、強烈ぅ…」

お父様が叫んだ直後、ルリちゃんはどこから取り出したのかハリセンでお父様の頭頂部をぶっ叩いた。
生放送の最中、レポーターの人もびくっと驚いていた。
当然、ブリッジのみんなも驚いてる。ミナトさんも冷や汗かいちゃってるし。

「お父さん、熱くなりすぎ。
 気持ちはわかりますけど、そういうのも愚かな戦争の引き金です。
 連合軍中将ともあろう人が、公衆の面前でなにを殺人宣言してんですか。バカ。

 …とにかく。
 今一度、戦争を継続したいと思っている人達はもう少し冷静になって下さい。
 
 思想は自由ですし、どう考えようが勝手ですし、結社も自由です。
 少なくとも現時点では兵器の生産も準備も、販売も違法ではありません。
 
 でもホシノ兄さんとラピスに手出ししてまで、
 今すぐに何とかしようとするのはどうなんです?
 
 ホシノ兄さんもぼちぼち引退するんですから引退してから、
 別口で勝手にお好きにやってください?」

「る、ルリ君…ばっさりいくな」

「当たり前です。
 他人を害してまで自分の利益をどうこうするのが間違ってるなんて、
 私くらいの年頃でとっくに分かってないと困ることです」

…ルリちゃん、言ってる事が正論なだけにどぎついよね。

『し、しかし…ホシノアキトさんは戦争反対の立場でしたよね…』

「いえ、自衛のための戦闘はやむなしって人です。
 だから完全には反対じゃありません。殺人は明確に否定してますけど。
 
 そもそもホシノ兄さんは他人に考え方を強制するタイプじゃありません。
 
 それにホシノ兄さんに影響をうけたから戦争反対になるって…。
 すべてホシノ兄さんに責任を押し付けるつもりですか?

 印象が強烈な人が居て思想的に影響を受けたとしても、
 行動を起こす時は自分の考えで、自分の責任でやることです。

 自分の責任を考えずに、誰かのせいにするなんて論外です。

 どんな理由でも、一度戦争を始めたら『その人の戦争』です。
 だからホシノ兄さんは戦争を放棄したいんです。
 あの人は何もせず黙ってたら戦争の道具にされてしまいますから、
 わざわざ向いてないことばっかりして、目立ってでも何とかしようとしたんですよ。
 
 っていうか、いくら英雄だからって全部押し付けたって無理です。
 お人よしだからうっかり責任ある立場についたら応えようと必死になりますけど、潰れます。
 あの人、戦闘と芸能と料理以外はほとんどからっきしなんですから。
 
 だから政治家にはなれないタイプです、マジで」

『は、はあ……それだけでもだいぶ万能な気がしますけど…』

「そんなわけで、廃墟ビルのカメラ映像はつなげときますから、
 勝手に中継続けて下さい。
 地球連合軍と木連軍の歴史的戦闘中継も並行してるんでしょう?
 だったらこっちに構ってばっかだと困りますよね?」

『は、はいっ!
 では映像、スタジオにお返ししますっ!』

とりあえず一度中継の通話が切れて、私達はため息を吐いた。
…本当にこれでよかったのか分からないけど大変だったね。

「ルリちゃん、ありがと。
 …ちょっとは足止めになると思う」

「いえ、まだ仕上げが残ってます」

「まかせっきりでごめんね、ルリちゃん。
 …お父様は、にらみを利かせるのはいいですが言い過ぎです。
 反省してくださいっ!」

「す、すまんなユリカ…」

お父様の大きな肩がしゅんしゅんとしぼんでいくように見えた。
…お父様って怒ると本当は怖い。
でもルリちゃん、全然物怖じしないでブレーキかけてくれてよかった。

「オモイカネ」

『やっほールリ。
 今回はペンダント型通信機の回線しか秘匿性が保てないっていうんで、
 準備しといてよかったよ』

「ウリバタケさんの仕事が役に立ちましたね。
 直接操れないから、口頭での指示になりますけど大丈夫ですか?」

『もちろん!
 ルリのコードも、IFS操作も、ばっちり学習済みだからね!』

「それじゃ、お願いします。
 軽いインサイダーみたいなもんですから、証拠は残さないようにお願いします。
 通信方式の工夫、多数の踏み台を使った偽装、多数アカウント自動取得、
 語句のディープラーニングによる自然な文章形成まで駆使して…。
 
 この瞬間だけは──私達が世界を制圧しますよ」

ルリちゃんは…。
ユリちゃんたちから聞いた、未来の出来事を再現しようとしている。
敵の手が届かないように。
アキト君とユリちゃんが、戦うのを支えるように。

そして…ラピスちゃんを、未来の私を…助けるために…!



















【時刻─23:35】
〇地球・都内某所・ラジオ局

『え~続きまして…緊急事態につき、コーナーが変わります!』

『A子と!』

『B子の!』



『『「かしらかしらご存知かしら?のコーナー」でぇ~~~~す!』』


『早朝から聞いてる~~~~~~!?みんな~~~~~!』



『緊急ニュースで起こされたみんなもいるんじゃないかしら!?
 なんとなんと、いつの間にかどこからか、ラピスちゃんが誘拐されちゃったそうなのよぉ!』

『そうなのよぉ!
 前の爆弾騒ぎの時もだけど災難続きよね~~~~!
 そして、まさか、激戦区、ストックホルムの廃墟ビルに囚われのお姫様になってしまったの!
 ラピスちゃんは暗殺目的なのか、小型チューリップの乗った廃墟ビルに囚われてるの!』

『嘘でしょ!?
 あのテロリストのウイルス騒動移行、ユーチャリスで守られていたはずなのに!?
 まさかスパイがいたのかしら!?』

『そこんところが不思議なんだけど…。
 ほら、アキト様は昨日オフをもらってたそうなのよぉ!
 それで、佐世保在住のファンの情報によると、PMCマルスももぬけの殻!
 それから今、アキト様はバルト海でテンカワ君と一緒に激闘してるそうなの!
 
 地図を見なさい、地図をっ!』

『…これ、ラジオなんだから見えっこないのかしら?』

『ええ~~~~い、うっとおしいわね。
 とにかく、聞いてる人は端末でもなんでもいいから地図を開くの!
 ラピスちゃんがいる場所はこのスウェーデンのストックホルム!
 アキト様が激闘してるのがここ、バルト海!
 
 この近くに、アキト様とルリちゃんゆかりの地があるでしょうがあっ!』

『あらやだ奥様、ここピースランドのそばじゃないの!?』

『そう!
 だからこの状況から考えて、アキト様たちは祝勝会をピースランドでやってた、
 けどその途中でラピスちゃんが何者かによって誘拐されて、
 こんなことになっちゃったんじゃないかしら!?
 
 ほら、あの廃墟ビルの周りにいるエステバリスの妙な装飾とかも、
 ピースランドのド派手な国用船があるのも!
 ちょっと不自然だと思わないかしら、ワトソン君っ!』

『だーれがワトソンなのよぉ。
 でも、流れは納得できるわよね。
 ナデシコが動けないのかしらね。
 無理矢理エステバリスだけ借りて駆け付けたってかんじよねぇ』

『それにさっきまで放送してたルリちゃんのインタビュー!
 現地は激闘で忙しいのによく答えてくれたわね~~~!
 タイムリミットは近いっていうのに!
 もしかしたら地球のどこかの勢力が邪魔をしてるんじゃないかって言ってたわよね!』

『そうそう言ってたわ!
 もうファンからのメールでもたくさん推測が来てて困っちゃうのよぉ!
 クリムゾンを筆頭に、アキト様の活躍で不利益を被ってる企業の名前がどんどこどんどこ!
 そうじゃなくてもテレビ、各ネット掲示板、SNS、ご近所の井戸端会議や電話回線まで、
 この辺のことで喧々諤々、ほっとんどパンク寸前まで紛糾しちゃってるわけ!
 これ、うっかりすると救急車とかの連絡に差し支えないかしらね!?』

『その辺は一応緊急通話が優先されるから大丈夫じゃないかしら?
 まーそうはいっても、いろんな企業さんが割を食いそうな話になっちゃいそうなのかしら』

『よっぽどあくどいことしてないかぎりは大丈夫だとは思うけどねー。
 ま、そんなわけでこの後も、実況中継をつづけま~~~す!』
 

『かしらかしら!』


『かしらかしら!』



『『ご存知かしら~~~~~~~~!』』


















【時刻─23:35】
〇???
とある特殊な暗号化されたプライベート回線に通話が開かれている。
軍の上層部の人間をも含む、かなりの大企業の要人、政府要人などが集まっている。
クリムゾンを筆頭とする、木連と手を結んで利益を共有するために同盟を結んでいる人物たちである。
彼らは、連合軍の艦船の通信を傍受しつつ、別角度のカメラから映像を確認して様子を確認していたが…。

『ザ…ザザ…どうなってる!?
 か、回線が切断、され…』

『一人落ちたか!?誰だ…ザ…。
 ええい、こちらもか…。
 ガガ…先ほど会社の方が緊急事態の連絡が入った。
 どうやらラピスラズリの一件がテレビ放映されて、
 ホシノアキトに敵対している地球の勢力のせいじゃないかとホシノルリがぬかしたぞ!』

『なに!?
 で、では…我々の動きに感づいたのか!?』

『いや、あの様子では直接気付いているわけではないだろうが…。
 だが地球全土がこの事件の犯人探しを始めてしまった!
 ネット回線がパンク寸前で、このプライぺート回線も影響を受けている…!』

『ええい、一度解散するぞ!
 テレビ放映に切り替わった以上、テレビで見ればよい!
 手も足も出せない状態で、ここでごちゃごちゃやってもどうしようもあるまい!』

















【時刻─23:35】
〇地球・クリムゾン邸・クリムゾンの書斎──クリムゾン会長

「会長、早く御支度を!」

「ええい、分かっている!
 その前に五分だけ待て!」

私はテツヤに連絡を取るために端末を操作したが、連絡は取れん。
…どうやら部下たちの言う通り、ネット回線はパンク寸前なのだろう。
証拠を残すことを嫌って、通信手段を限ったのがここで響くとは…!

だが…やられた…!

ホシノルリが計算尽くだったかは知らんが、このレベルでは秘匿回線を使う余裕がない!
秘匿回線は一般の回線に余裕があるからこそ安定して使えるが今は無理だ。
最終手段としてミサイルを撃ち込むのは想定していたが、それも連合軍高官との連絡が取れなければできん。

ええい、テツヤの奴はどうしているんだ!?

有線の爆破スイッチの一つや二つなかったのか!?

私は結局何一つ対策がとれないまま、部下たちにせかされるままに出社せざるを得なくなってしまった…。


















【時刻─23:35】
〇地球・バルト海上空・ブローディア内──ホシノアキト
……俺たちはようやく残りのチューリップを五基まで追い込んだが…。
だが敵はまだ多く、俺たちの疲労も、ブローディアの損傷も限界近かった。
DFSなしで、ほとんどディストーションフィールドの体当たりだけで戦い続けてここまで持ったのは奇跡に近い。
それでも…もう…!

『あ、アキト兄ぃ!
 このままじゃ、私の体が!
 ブローディアがもたないよぅ!』

「ぜぇ…ぜぇ…も、もう逃げるしかないか…?」

「だ、だが…最大速度が出ない…。
 脱出できないぞ、これじゃ…」

…テンカワの言う通りだな。
このまま逃げても、追いつかれるまではないにしてもやっぱり敵を引き寄せてしまうことになる。
さっき通信で22時の爆弾は何とかしたって言ってたけど、0時にはビルそのものが倒壊する爆弾が…。
俺が参加すれば何とかなるかもしれないが、ここで逃げないと間に合わないっていうのに…!

『!?
 アキト兄ぃ!急速に接近する機体が!?』

「何!?」

ここからさらに敵…しかもこの速度…。
いや、単騎で、このサイズ、この速度は!


ぴっ!



『ホシノアキトさん、テンカワさん、お久しぶりです!
 アリサ・ファー・ハーデット、援護に来ました!』

『初めまして、ホシノアキトさん、テンカワアキトさん。
 「翼の龍王騎士」を預かっています、サラ・ファー・ハーデットです。
 
 時間がないんですよね、道を開けます!』

「…ああ!ありがとう!」

俺はこれ以上ないくらい心強い味方の登場に、胸が震えた。
DFSという兵器の構造上、達人しか扱えないというのが通説だったが…。
超人的に器用だが、戦闘に関しては素人のはずのサラさんが偶然同乗したことで、
DFSを自在に操る、真なる『龍王騎士』が誕生したって、俺たちも知っていた。

あの驚異的な戦果によって、ネルガルは『翼の龍王騎士』を連合軍西欧方面軍に差し出すしかなかったらしい。
アカツキのやつも呆気に取られてたものの、
その分金はしっかり利益の出る値段でふんだくったらしいが。

そして元々頭一つ以上抜きんでていたアリサちゃんの戦闘センスが組み合わさり、
俺たちでも敵わないほど強くなってくれたって…!

…間に合う!これなら!


『へっへ~~~ん!
 ディア、苦戦してたみたいだねぇ!
 
 そっちは世界一の王子様とその弟分だろうけど!

 こっちは地球最強・DFSを操らせたら右に出る者のいない…。

 無敵のお姉様二人だもんね!

 こっちに乗れなくて残念だったねぇ!』


『きぃ~~~~~っ!

 にくったらしいっ!
 
 でも私はアキト兄ぃ達のほうが好きだもん!
 
 いいもんいいもん!』



……そしてそれぞれの機体に積んであるOS兄妹はやんややんやと。
ま、まあいい。


どうっ!…どどどどどど…!



そして翼の龍王騎士はブローディアの前に立つと、
直径20メートル、全長50メートルにも及ぶ巨大な槍を形成し、一方的に敵を蹂躙して突破した。
敵が驚き、人工知能が思考停止しているうちに距離を稼いで、俺たちは完全に敵陣を突き抜けた!
そして翼の龍王騎士は反転して敵に向き合った。


『二人とも、先に行って!
 五分で片付けて追いつきます!

 五分が致命的になる時間でしょう!?
 シャクヤクも先行してストックホルムに向かっているはずです!』


『まだ間に合います!
 囚われのシンデレラが二人待ってますよ!
 
 12時の鐘はまだ鳴っていません!』
 

「「…ありがとう!
 
  アリサちゃん、サラちゃん!」」



俺とテンカワは返事をしたら、すぐにブローディアを飛ばした。
あと一発でも貰ったら動けなくなるかもしれないくらい、ボロボロだが…。
それでもまだ全速力で行けば、間に合う…!

「…ホシノ、俺たちなんかまったく問題にならないくらい強いな、あの二人」

「…ああ。
 だから…俺はもう降りても大丈夫だ…な…」

あの二人の話を聞いた後、ずっと思ってたことだけど…。

もはや『ホシノアキト』という英雄の役割はすべて終わった。

エステバリスという兵器の強さを知らしめて、木連との和解に協力して…。
そして『翼の龍王騎士』を誰よりもうまく扱える二人を見つけ出すことが出来た。

これからはあの二人が、俺なんか比較にならないくらいの、本当の英雄になってくれる。

「…テンカワ。
 俺たちが戦いを降りたら…。
 食堂やろうと思ってんだけどさ…。
 お前も、来るだろ…?」

「…いや」

…?
なんで首を横に振ったんだ?
そういうやつじゃないって誰より俺が知ってるのに…。

「…本当は降りたいけどさ。
 でも、お前の分まで戦っておきたいなって…。
 
 いや、違うかな。
 
 ……俺は、ここまでお前に支えられてきた。
 けどそれってさ、結局お前に頼りっきりで、
 あんまり自分で考えてないってことじゃないかって思うんだ」

「そんなことないだろ。
 お前だって半端な覚悟でここまで来たわけじゃ…」
 
「…俺は、俺の物語を…。
 お前に影響されてない人生を歩んでみたいんだ。
 少なくとも、ハタチに…大人になったって言えるくらいまではさ。
 
 …それに俺はまだナデシコに、お前のように大事な思い出を持ててない。
 お前が抱いた、憧れのような感情を抱くほど…。
 
 ナデシコを大事だとは思ってるけどさ…」

「…結局影響受けてるじゃんか」

「ば、バカ。
 と、とにかくさ。
 …俺が本当に歩むべきだった道を。
 お前が居ないまま歩いてみようって思うんだ…」

……そうか、そうだな。

あの温かい思い出が、大変な戦いが、独り立ちする俺をどれだけ支えてくれたか分からないな。
もう、テンカワも…本当の意味で、俺から離れるべきなんだろうな。
ここからは未来をなぞる必要もない。
今のテンカワなら…ユリカ義姉さんもルリちゃんも守ってくれるはずだ。

「…頑張れよ」

「ああ…。
 …だけど、今は」

「ああ、そうさ」

今度こそ、取り返す。
ユリカを…ラピスを…そしてユリちゃんを…!

…それにしてもユリちゃんも無鉄砲になったよ、ホント。
救助隊の人が入れないからって突入するなんてさ。

…誰に似たって、元々そうだった気もするし、
ユリカのせいかもしれないし、ユリカの因子のせいかもしれないし、
もしかしたらナデシコのせいかもしれないし…もしかしたら俺のせいかもだけど…。

そんなことよりも…とにかく…!


「ホシノ、もう二度と離すんじゃないぞ!」


「当たり前だっ!」


















【時刻─23:40】
〇地球・ストックホルム市街地上空・戦艦インパチェンス・ブリッジ──バール少将

「バール少将、シャクヤクが到着しました!
 ただ、『翼の龍王騎士』は、ホシノアキトたちを救援に向かったそうです!」

「よし!
 これでグラビティブラスト搭載艦が三隻だ!
 押し負けることなどないだろう!
 しかもあの『翼の龍王騎士』ならすぐにこちらに追いつくはずだ!
 
 勝機が見えたぞ!」

『…しかし、こちらの救出作戦はまだ完了しておりません。
 今しばらくお待ちください、バール少将』

ちぃっ!
まだラピスラズリの救出はできていないのか!?
こ、このままでは…私も…。


『ムネタケ艦長!
 まだ終わってません、僕たちが諦めちゃダメですっ!』


『諦めちゃいないわよ!
 救出が終わり次第、廃墟ビル上の小型チューリップを撃破して、
 こっちの戦線に戻るわよ!』


『はいっ!』


『それまではかぐらづきが連合艦隊を支える!

 ハーリー君、追いついてきてくれ!』


『はいっ!三郎太さんっ!』


……な、何と言うか士気が異常に高いな、この連中は。
ラピスラズリがホシノアキトの義妹とはいえ、そこまで人気があったんだろうか。
私としては助かるが…。

「ブラックサレナ二機、かぐらづきに後退します!
 ブースターが限界を迎えたようです!
 かぐらづきからの入電では、予備パーツがないため、再出撃は不可ということです!」

「かまわん!
 こちらも戦力がかなり温存できた!
 敵はもう半数を切っている…。
 グラビティブラスト搭載艦が二隻いる状態であればもはや押し負けん!
 
 引き続きユーチャリスはラピスラズリ救出に集中しろっ!」

もはや、ラピスラズリが助かれば問題はないだろう。
かなり慎重に戦っていたため、負傷者は出ているが死者はまだ出ておらん。
これほどの戦果をもってすれば、私も安泰だろう…。

…この作戦が終わったらクリムゾンの計画を暴いてやる。
証拠もないわけではない、彼らとの通話を録音したデータもある。
都合のいい部分だけ残したものをな…。

…私を甘く見たことを後悔させてやる!


















【時刻─23:45】
〇地球・ストックホルム市街地・高層廃墟ビル──ラピス


ぎりぎりぎりぎり…。


「「んぐぅぅうう~~~~~~~っ!」」



私とユリちゃんは、あと一歩で金具が壊れるところまで何とか削ったけど、
時間ギリギリになってそろそろ逃げないといけないので、二人がかりで手錠を引っ張っていた。
あと、ほんの少しだけなのに!壊れてよぅっ!

「もう、少しぃ~~~~っ!」

金具が曲がり、もう少しでちぎれるというところで、私は強烈な違和感を覚えた。
腕が妙な痛みを発していた。
そして──。


ぼきっ。


「ううっ!?
 あ、あ、ああああぁぁぁあっ!!」


「ゆ、ユリカさん!?
 右手の骨、折れちゃったんですか!?」



「いっ、痛いよぅ…。


 ぅぅううっ…うわああああぁん!」



「な、泣かないで…もう少しなのに…!」

私はあまりの痛みに、力が抜けて踏ん張れなくなってしまった。
こ、これじゃもう助からないよ…あとちょっとだったのに…。
二人がかりで何とかなるかもって状態なのに、私がこれじゃ…。

「…ユリちゃん…もう私を置いてって…。
 これじゃ助からないよぅ…」


「骨折くらいで諦めないで下さいよ!?

 さっきの言葉は嘘だったんですか?!

 ここから逃げられたら、アキトさんと…」


「…したいよ!

 いっぱいアキトとキスしたいよぅ…!
 
 その先だって、たくさんしたいことあるし!
 
 死にたくない…!
 
 でも現実を見てよユリちゃん…。

 
 

 因子とか因果律のせいで私達はめちゃくちゃになっちゃって!
 
 こんなありえない状況に置かれてるの!

 
 

 ユリちゃんだけでも助からなきゃ私、死んでも死にきれないよぅ…。
 
 ユリカとラピスちゃんはまた死ぬだけなんだから…いいの…。
 
 
 ……生きて帰って、アキトを支えてよ…お願いだから…」



……私が力なく膝をつくと、ユリちゃんは失望と怒りに満ちた顔になっていた。
そう…私はこんな情けなくて、どうしようもない女の子だもん…。
痛みに耐えて戦う気概なんてない、死ぬことしか考えられない子で…。
あんなに甘やかしてくれるって言われても、絶望して頑張れなくなっちゃうんだ…。

数秒、私達の間に沈黙が漂った。
一分…十分くらい長く感じた。
でもビルが崩れてないから、ほんの数秒だったと思う。

ユリちゃんは私の後ろから離れると、前に立って腰を深く落とした。
ヒールも脱ぎ捨てて、すごい力が入ってそうな構えで…。

「ユリカさん、黙ってできるだけの力で引いて下さい。
 まだ片手は生きてるでしょう」

「え…?」

「早く!」

「う、うん…」

私は全体重を後ろにかけて、出来る限り左手で手錠を強く引いて、力なく踏ん張った。
言われるがままに動くしか私はもう何もできなさそうだった。

ユリちゃん、なんで逃げてくれないの…分かってくれないの…。

私を想ってくれるなら、そうしてくれないと、本当に私…死にきれないよ…。


「はあああああぁぁあぁああっ!!」



がんっ!がんっ!がんっ!



直後。
普段のユリちゃんが出さないほどの大きな絶叫とともに、
ユリちゃんの奥の手『ワンインチブロー』を、配管パイプに連打し始めた。
私はびっくりして、体が凍りついてしまった。


「ゆ、ユリちゃん!?やめて、そんなことしても…」


「いいから引いて!」



ユリちゃんは据わった目で配管パイプを拳で乱打し続けている。
手から血がすぐに出はじめて苦悶の表情のまま、ワンインチブローを何度も…。
私は、その決死の行動に涙がこぼれてしまった。
先ほどまでの、恐怖と絶望と痛みの涙ではなく、熱い涙が次々にこぼれ出た。
私なんかに、ここまでしてくれるユリちゃんが…。
私とアキトをくっつけてくれようとする、ユリちゃんに、心が動いてしまう…。

でも、止めなきゃ…このままじゃ、ユリちゃんまで…!


「ユリちゃぁんっ!!

 もうやめてよぉっ!
 
 私なんて置いて行ってよぉっ!!
 
 ユリちゃんまで死んだら誰がアキトを支えるのよぉっ!!」


「私はユリカさんの代わりじゃありませんっ!!

 バカにしないで下さいっ!!

 どうしてすぐどっか行っちゃうんですか!?
 
 ちょっとくらいがまんできないんですかっ!?
 
 いいから黙ってついてきてくださいっ!
 
 二人がどっかいっちゃうもんだからもうほとほと疲れ果てました!」



「で、でも──」


「私が欲しいのは、アキトさんだけじゃありません!
 
 ユリカさんも!
 
 ラピスも!
 
 居なきゃ嫌なんです!
 
 居なきゃダメになっちゃうんです!!」


「私にそんな価値ないよっ!

 いつもアキトとユリちゃんに迷惑かけてばっかりだしっ!」


「知ったこっちゃぁ…ありませんっ!!

 また遺体のない空っぽの棺の前で葬式させるつもりですか!?
 
 あんな辛いお葬式、もう嫌なんですっ!!」


がんっ!がんっ!がつんっ!


「ここでユリカさんとラピスを見捨てたら、
 私はどんな顔でアキトさんと居ればいいか分からなくなりますっ!
 アキトさんも『黒い皇子』に戻っちゃうかもしれないですし!
 
 でも、今…私が望んでるのは……。

 
 

 ユリカさんが明るくて優しい笑顔を取り戻すことなんですっ!」


「!!」



ユリちゃんの魂の叫びを聞いた気がした。
ユリちゃんが望んでいるのは、アキトが狂わない世の中じゃない。
ユリちゃんはアキトを独り占めできるだけでは決して足りないんだ。
アキトと、私が揃ってそばに居てほしい。
できれば満面の笑みで笑って、幸せだって言って欲しい。

それだけのために、痛みに耐えて、自分の命を賭けているのに…!

私は…!


「本当はアキトさんに対してそんな風に思ってました!

 今はアキトさんの因子を持ったユリカさんにそう思ってるんですっ!

 いいから信じて手錠を引いてください!
 
 最後の一秒まであきらめないでっ!!」


「ユリちゃんっ!」


「ユリカさんを諦める人生なんて、要りません!

 
 どうせアキトさんが狂っちゃうならここで一緒に死んじゃいますッ!
 
 
 『黒い皇子』のアキトさんなんて二度と見たくありませんッ!
 
 
 人殺しするアキトさんの隣に居たくありませんッ!
 
 
 でもその前に、その前に────!!」



やめて、ユリちゃん。
そんなボロボロになってまで、私を助けようとしないで。
ユリちゃんが傷物になってまで、こんな分からずやの愚かな私を助けようとしないで。
もう力が入らなくなってるはずなのに、そんな一生懸命にならないで。


「お願い、やめてユリちゃ──」


「お願いだから、私の気持ちに応えて!

 
 お願いだから、引っ張ってぇええっ!!

 
 

 ユリカさぁあぁあぁぁあぁぁああんんッ!!」




ユリちゃんの叫びが響き渡った、その時──。
私の脳裏には、『黒い皇子』がユリカとルリちゃんの元からいなくなる姿が見えた。

そう──それは『テンカワアキト』という人間が、二人を大事だと思うが故に離れる姿。
きっと16216回、四万六年という気の遠くなるほどの回数と年月を重ねた中で、幾度も繰り返された出来事。

罪深い自分を、殺人鬼である自分を切り捨てる選択をしたアキトは気づけなかった。
それが二人に対しての、一番の裏切りになるということを。

そして、その先にあるのは自分がどこまでも最低になり、心を失い。狂い。
大切だったはずの二人を、時に殺すような悪鬼に成り果てる未来。

…私もそうなる、ところだった。
死ぬ結末を全うできてたら、そうはならなかったのかもしれないけど。
でも、結局私の中の『黒い皇子』の因子は半分くらい。
きっとそこまでにはきっとなれなかったんだと思う。

だから…。

このどうしようもない結末を、覆すためには…。


………あった!!


一つだけ覆す方法が!!


そうだよ、なんで気づかなかったの!?


こんな土壇場まで、なんで!?


やっぱり私って救えないバカだよね!?


……だったらっ!!



「うわあああああぁぁあぁああっ!!」



「!!
 ユリカさんっ!!」



私は痛む右手も、手錠をつかむ左手も、踏ん張る両足も。
身体の力がみなぎるような感覚が走り、痛みが少し和らいだ気がした。
答えが見えた。
私がしなきゃいけないこと、したいことを!


「……諦めないっ!

 私のせいで何も変わらないなんて嫌ッ!

 私のせいでアキトとユリちゃんを苦しませるなんて認められないっ!

 
 

 私はアキトとユリちゃんが大好きなんだもんっ!!
 
 
 一緒に世界一幸せになりたいのっ!!」



未来の呪いにも、ドジでバカな私という人間に対する失望も忘れて、
正直な気持ちがあふれだして、本当の願いが口から飛び出てしまった。
もうここで踏み出さないで後悔したくない!

幸せをくれる二人と、私は──!!


「……ユリカさんッ!!」
 
 
「いくよ、ユリちゃぁぁん!!」


「…はいっ!」



そして私達は、全身全霊を込めて。

未来を引き寄せるために。

力を合わせた。


「「うああぁああああああぁぁあーーーーッ!!」」



がこぉんっ!

…ぶしゅーーーーーっ…。



ユリちゃんの拳が配管パイプに当たると同時に、私が全力で手錠を引くと…。
ついに配管パイプの金具は、削れていたのもあって、金属疲労を起こしたように折れた。
私はすっぽ抜けて尻もちをついて、震えていた。
ユリちゃんは力尽きたように配管パイプに寄りかかった。

私とユリちゃんは配管パイプに残った水を浴びてしまった。
その水はまだ透き通ってて…すごく、綺麗に見えた。。
私は自由になった右手の、骨折の痛みも忘れるほど、その衝撃的な光景に見とれていた。

ユリちゃんの右手も配管パイプを何度も殴って血まみれ、
多分もう完全にぐちゃぐちゃに骨折してる、と思う…。

それなのにその右手を差し出して、私を見た。
疲労困憊で、もう今にも倒れそうに見えるのに、得意満面な笑顔で。


「ほら、何とかなりましたよ…。

 ね…出来たでしょ?

 私達ならなんだってできるんですよ…。
 
 だから、一緒に…。


 ──いきましょう、ユリカさん」



私はユリちゃんの手を取って、何度も頷くことしかできなかった。
アキトだけじゃなくて…ユリちゃんまですごい奇跡を起こして私を助けようとしてくれた。
なんとか応えられた。
ユリちゃんの、運命だって動かしちゃうくらいの、すっごい愛情に…。

大事なことに気が付くのが遅すぎたね…。

……あとでいっぱい謝らないと。


…それから私達はビルの大広間に移動した。
ガラスが砕けていて、何とか飛び降りることはできそうなところに。
二人とも右手をやられてて、激痛が全然収まらないけど…。
急がないと、死んじゃうから…。

「非常、階段は…壊れてます…。
 だから、ビルの倒壊に巻き込まれないように助走をつけて飛び降りて…。
 パラシュートを開いて…」

「う、うん…でもパラシュートいっこしかないんだよね?」

「…いまから助けを呼ぶには、無理がありますね。
 くっ!」


びりっ!



ユリちゃんは背負っていたパラシュートを一度降ろして、
チャイナドレスをぬぐと、片方を歯で噛んで、もう片方を左手で引き裂いていった。
さっきの小刀みたいなのも使って、器用に…。

「ゆ、ユリちゃん!?何してるの!?
 それ大事なドレスでしょ!?
 この世界の、義理のお母さんの…!」
 
「ドレスはまだ何着かありますけど、命は一個ですから…。
 …いいから、体に巻いて下さい…」

ユリちゃんは下着姿のまま、お互い痛む右手も使って、
うまく密着する形になりぎゅうっと縛り付けた。
そして、お互い無事な左腕で肩を引っかけ合う形で抱き合うと、
ユリちゃんはパラシュートを何とか背負い直して、
私の手でパラシュートの開く場所をふさがないように慎重に調整した。

「ユリちゃんのおっぱいがきつい…」

「…冗談言ってる場合じゃありません。
 ユリカさん、パラシュート開けるのはお願いします。
 右手が自由じゃないんで。
 飛び降りたらパラシュートを引いて、すぐに抱き合って支え合いましょう。
 衝撃に耐えられるかどうか分かりませんけど、
 ここまでしてますし、火事場の馬鹿力が出れば何とかなるでしょう。

 時間もありません、行きますよ」

「う、うんっ!」

多分あと三分もない…。
このままじゃパラシュートで脱出が間に合っても、
爆発に巻き込まれちゃう可能性がまだあるもんね…。


だっ!


「パラシュート!」


「うんっ!」


ばっ!どんっ!



助走距離を十分にとって、私達は飛んだ。
二人ともふらふらだったけど、息は合ってたと思う。
そして、お互いに無事な左肩を絡ませるように抱き合って、
私は手錠をつかむ形で、うまく抱き合った。

すっごく痛むけど何とか衝撃には耐えきった。

けど──。


ぼうっ!!


「うっ、うそっ!?」

「パラシュートがっ!?」



私達は地上十階くらいのところに来たところで、
パラシュートの上に火のついた、
バッタの破片のようなものが落下してきて、ぼうっと炎が巻き上がった!

もう少しだったのに…こ、ここまでなのっ!?


「ユリカさん!
 
 あなただけは、私が──!」


「だ、だめーっ!」



ユリちゃんは私の頭を押さえるようにして落下に備えて…!
かばおうとして…ダメだよユリちゃん!


そんなの、意味がないよ…!


二人が助からないとダメなんだよ!


アキト!


助けてアキト!


お願いだから…!





何とかしてよぉっ!!
















【時刻─23:57】

〇地球・ストックホルム市街地・高層廃墟ビル周辺・ブローディア・アサルトピット──ホシノアキト

『アキト兄ィ!
 あのビルだよ!』

「ああ、見えた!」

俺たちがかろうじて時間切れになる前に例の廃墟ビルにたどり着けた。
だが…あと一分はかかるか!?
敵を蹴散らしてユリちゃんとユリカのいる階に近づかないと…。

『!?
 しまった、二人とも何とか脱出出来てるみたいなんだけど場所が…』

「分からないのか!?」

『例のトイレのところに居ないから…。
 私のレーダーって、対人用のやつはついてないし…。
 でもどこか飛び降りられるポイントに居るはずだけど…』

「ちぃっ!」

「落ち着け、ホシノ!」

ディアの言葉に、俺は焦るしかなかった。
どうする…このままじゃ探しながら敵を蹴散らすことになるが…そんな時間はない。
…ユリちゃんたちが時間ギリギリまでとどまっているとは限らないんだぞ。
どこに居るんだよ…!

(アキト!
 ナビゲーションするよ!
 まだ二人とも飛び降りてない、だから早く!)


「!?
 ラピス!?リンクがつながったのか!?
 な、なんでだ!?」
 
『「ええっ!?」」

俺は突如聞こえてきたラピスのリンクに、驚いて叫んだ。
ここまで、眠っている間しか通信できなかったのに…。
こんなご都合主義なことがあるか!?

(いーのいーの!

 ご都合主義、結構じゃない!

 でもほんとはユリカの気持ちが持ち直したおかげなの!
 
 …アキト、今日まで気付かなかったことなんだけど。
 私がこの世界で意識を覚醒するのにだいぶ時間かかったでしょ?
 
 あれはね、ユリカが無意識の中でアキトの『黒い皇子』の記憶を抑え込んでたからなの。
 アキトの脳髄が、あの時の記憶をある程度抑えられるまで、脳髄をだいぶ使ってたの。
 
 だから覚醒が遅れて…まあ推測だし、細かいことは置いとくけど、そういう理屈なの。
 最近は私がユリカが立ち直るまで支えてる間はリンクが止まってた。
 
 でも、今日、ユリカがアキトとユリのおかげで完全に立ち直った。
 脳の能力が取り戻されて、精神の昂ぶりでリンクする余裕が生まれて、
 これくらいの距離だったら私がリンクの、回線?を復旧出来ちゃったわけ!
 
 ううん、もしかしたら『火事場のクソ力』ってやつかもね!
 
 とにかく急いで!
 
 その位置から見て右手から回り込むとたどり着けるよ!)


「わ、わかった。
 右手に回り込むんだな!?」

……これは想定外だったが、運が良かったと思おうか。
ラピスがの人格の方がユリカとは別に動くというのは考えもしなかったけど。
だが、これで間に合う…!


『あっ!二人が飛び降りたよ!』


「パラシュートが開いたか!?」


「ちぃっ、間に合えっ!!」



俺は二人にぶつからないようにしながらなんとか助けに行こうと急いだ。
まだ敵は周りにいる。
このままでは…。

(…アキト?)


…どうした、ラピス。
後にしてくれないか?

(もう、ご挨拶だよね。
 緊急時だからって。
 アキトもユリカもユリも、私にいっぱい貸しがあるんだから。
 いっぱい利子つけて返してよね?)


分かってるよ。
……相変わらず抜け目ないな。

(えへへ。
 ……でも、アキト。
 この後、まだアキトもユリも、私も、ユリカも…ずっと危ない目に遭うかもしれないよ。
 敵はまだまだいっぱい残ってるし、命を狙われるのも少なくないもん。
 そうなったらどうするの?)


決まっているさ。
俺は──もう迷わない。

何があっても、誰が何と言おうと。
ユリカも、ユリちゃんも…ラピス、お前も。

二度と離さない。



そして…。



俺たちが生きることを望まない奴しかいない世界だったなら…。



俺たちが結ばれることを阻む世界であったとしたら…。



あの遺跡ユリカのしてきたように…。





世界を傲慢に自分勝手に変え尽くしてでも…!





「俺は────!



 今度こそ俺が!!


 
 彼女たちを幸せにしたいんだッ!!」




とんでもなく最低な、願い。
二股どころか三股かけることになる未来が待っている。
だが、それでいい。もう迷いはない。



俺は──何としてもこのわがままを叶えて見せる!!





















【時刻─23:59】
〇地球・ストックホルム市街地・高層廃墟ビル──ラピス
ユリちゃんをかばうこともできずに、うごけないまま…私はまた絶望してる。
やっぱり…私達が頑張ったくらいじゃ、何も変わらないの?
そんなの、やっぱり私が死んでた方が良かったのかな…。


ごうっ!!







『ユリちゃーーーん!!ユリカーーーーーッ!!』








あ…ああ……!


アキトの声だ!


ボロボロのブローディアが私達の前に…!



がしっ!



私達が真っ逆さまに落ちそうになったところで、
ブローディアの右手でパラシュートをつかんだ。
そして左手にそっと降ろそうと手を添えてくれた。


ああ、アキト!


来てくれた!


やっぱりアキトは私とユリちゃんの王子様!!


どんな時でも必ず助けに来てくれるんだ!!




嬉しい!嬉しい嬉しい嬉しいっ!!



こんなに嬉しいことないよ!



「アキトッ!!」


「アキトさんっ!!」



「待ってろ!
 すぐに助ける!」


ずるっ!


「「「ああっ!?」」」

『うわっ!?』

「くうっ!?」



ぱしっ!


「テンカワ!ちゃんとやれっ!」


『ご、ごめん!
 パラシュートがずりおちて…』


「長さがあるんだから指に一回巻いとけ、バカッ!」


私とユリちゃんが歓声を上げて、アキトを見つめて
アキトはすぐにブローディアの左腕に乗って助けに来た。
でもその直後、パラシュートをつかんでいた右手からパラシュートが落ちそうになって、
私とユリちゃんは、ブローディアが添えようとしていた左手から少し外れる形で落っこちそうになった。
アキトが焦って私の左手を握りしめて助けてくれた。
…痛っ!?


めきっ!


「うぐっ!?
 
 あ、アキトのばかぁ~~~~~~~っ!
 
 強く握るから無事な左手まで骨折しちゃったじゃない!!


 痛い、痛い、痛いよぉ~~~~~っ!!
 
 
 うわああああぁぁぁあ~~~~~~~~~ん!!」



「わ、私も…ユリカさん支えてた左肩が外れて…あ、あんまり持ちません…」


「あああああ!
 
 ごめん!ごめん!ごめんっ!」



アキトが慌てて私達を引き上げてくれて、
二人まとめて抱き上げて、かろうじてアサルトピットに滑り込んだ。
痛い目に遭ったし、すっごい危なかったけど…。


た、助かった…!


私達、生きてる!


ボロボロだけど生きてる!


あ、あ、あ…。


ホッとしたら…。


痛みが、感動が、安心感が、幸福感が、もう色々こみ上げてきて…。



「う"ぅ"わ"あ"あ"あ"あ"~~~~~~!!


 ア"、ギ、ドぉ"~~~~っ!!


 死"ぬ"か"と"思"っ"た"よ"ぉ"~~~~~~!!
 
 
 ユ"リ"ち"ゃ"ん"がだずげてぐれだよ"ぉ"~~~~~~!!」


「アキトさん、アキトさん、アキトさんっ…!!


 やりましたよ!


 ユリカさん助けて、二人で帰ってきましたよ!」



私とユリちゃんは感極まって、アキトに二人して抱きついた。
二人とも両手とか肩とかひどく骨折してて痛くてしょうがないけど…。


アキトがそばにいる、私達も生きてる、この嬉しさには敵わないもん!



「二人ともよく生きて…うぅっ…。
 
 遅れてごめん……怖かったろ…?
 
 二人が生きて帰ってきてくれて……良かった。


 ……もう二度と離さない!!


 俺が一生かけて守って、幸せにしてやるからなっ!!」



「あ、アキト…」

「アキトさん…」

アキトの言葉にじぃんって胸の奥が熱くなるのを感じた。
昔はこんな力強く言ってくれるアキトじゃなかったのに…。

もう…嬉しくて死んじゃいそうだよぅ…。

「……。
 よ、よぉし、三人ともユーチャリスに戻…」


どぉんっ!



直後、頭上で大きな音がした。
爆発音…!?


「しまった!?時間切れかっ!?」



小型チューリップが爆発して、砕けて、ブローディアに向かって落ちてきた!!
私達に気を取られて、アキト達は操縦がうまくできてない!!

嘘…!?

やっぱり、私って疫病神なの…!?
みんなを巻き込んで死なせることしかできないの!?

そんな…やっぱり……死んでた方が……。


『おりゃああああああっ!!』


どぉんっ!


「「うわああああっ!?」」


「「きゃあああああっ!?」」



『『『『『オーライ!オーライッ!』』』』』


どさあぁっ…ずざざざざざぁっ!


『『『『やったぁ!大成功っ!!』』』』



「は、はは…な、ナイスキャッチ…」

絶望してた私をしかりつけるような衝撃が横から加わった。 リョーコちゃんが飛んできて体当たりでブローディアを吹き飛ばしたみたい。
きりもみ状で地面にたたきつけられそうになったブローディアを、
さらに地上でエステバリスと複数のステルンクーゲルたちが、何とか受け止めた。
た、たぶんPMCマルスの女の子たちかな…。
アキトの呆れたような声が聞こえた。

こ、こんなに都合よくみんなセッティングしてるものなの!?

無事に済んだ、で、でも…。

「…きゅう」

「…あう…」

「二人とも、だ、大丈夫か?
 …抱きしめてたから頭は打ってないだろうけど…」

「は、はは…俺たちはブラックサレナで慣れてるけど…。
 疲れてる上に戦闘慣れしてない二人にこのきりもみはきつかったよな…」

私とユリちゃんは頭がぐらんぐらんになってしまって、もうろうとしていた。
でも…良かった…。
ユリちゃんが無事で…私も助かった…。

これからのこと、いっぱい大変なことばっかりあるんだろうけど…。
私のしたこともいっぱい謝らなきゃいけないし…。

……でも今はもう疲れ切っちゃった。
それに、アキトの胸の中に居るんだもん…。
こんな幸せで、安全な場所…どこにもないよ…。

アキトは…ユリちゃんも私も、離さないって言ってくれたもん…。
幸せで幸せで…どうしていいのか分かんないくらい幸せ…。

ああ…ずうっと…こうして…いたいな…。

生きて帰ってこれて…安心しちゃった…。
アキトの熱い涙が頬に落ちたのを感じて…私は気を失った。



「…ユリカ。

 ユリちゃん…。

 ラピス…。
 


 …頑張って帰ってきてくれて…ありがとな…」
















































〇作者あとがき
どうもこんばんわ、武説草です。
この話を書くためにナデシコDは続いたと言っても過言ではない話が終わってしまいました。

初期プロットではTV版と同じ26話予定で、火星までナデシコにラピスも同乗することになっていました。
遺跡が、ラピスの中にユリカの脳髄が入っていたというオチを話して、
TV版と同様にボソンジャンプを駆使してラピスが逃げまくって二人が捕まえに走るというオチでした…。
が!
ことのほか、27話以降のルリちゃんのピースランド編ががっつり噛んできて、
アキトの正体をめぐる話も60話まで引っ張っちゃったので、いやはやと。
まあどんどん書きたい話が膨らんでしまったピースランド編、
そしてダイヤモンドプリンセス編と続いちゃったもんで収拾がつかなくなってここまで来てしまいました。
次回以降、そろそろ話が収束し始めます(ホントか?
彼女たちの今後に幸あれ。

※最終回ではありません。

この話を思いついたあたりから、
ユリが無茶苦茶やらかすのは最初から予定にあったんですが、
そこまで追い込むための要素を集めるのがすごい大変でした。

そしてライザがまさかの裏切り。まさかのジュンが説得。
ある意味不憫さが共通して謎のシンパシーを起こしました。

ルリちゃんもある意味電子制圧を、劇ナデ同様に行います。
ちょっとわかりづらいですが、クリムゾンが仕組んだことだとデマを広げて大炎上させてます。
ひ、ひでえ。

それと、重子の占い無双!
ラピスの一件から強力さがどんどん増してます。
オリジナルキャラながら、ある意味すべての起点でした。


最後にこのラピス誘拐編で描きたかったのが劇ナデ版同様に、
「誰一人欠いてもラピス(ユリカ)救助が行えなかった」というお話を描きたかったというのがあります。
ある意味では物語の基本ではあるんですけど、意外と難しいんですよね、これ。
ただあんまり長編小説になっちゃったんで、
読者の方がすべての要素を覚えきれるかどうかが怪しくなってるところはありますけど…。

長編好きなんや…BA-2さんやでぶりんさんの話好きなんや…。

と!いったところで、次回はアキト達以外が、どうなってたか、を描きつつ!
そしてついに始まるネタばらし!
60話で語られた、ナデシコDとはどういう話だったかに続く、
ある意味じゃ確信をつくお話に続いていきます!
……あと10話くらいで終わるといいなぁ(たぶん20話くらい書く)

ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!
















〇代理人様への返信
>TOPの言葉
>「ようやく暑さも落ち着いた・・・か?」
>「気温三十度で涼しいと感じるのはやっぱおかしいよな」
>「なお平成はじめの仮面ライダーBlackで
> 敵が日本焦熱作戦を行った時の温度が38度」
>「ここんとこの夏だとそこそこある気温だな・・・」
>「こういうところで現実が追いつかなくてもいいのよ?」
当時はまだ気温が低めで、エアコンがそもそもない家庭も結構あったようですが、
今はないと死にますね、真面目に…。
亜熱帯化して台風も強力になってるし、ひいい。





>うーん王道。
囚われの姫、そして数々の難題と試練に立ち向かって助けに行く王子と戦士たち。
このあたりはもうシンデレラだったりかぐや姫だったりはしますね。カグヤちゃん居ないけど。
クラシックながら、実は劇ナデ版ぽさもありながら、一生懸命に戦う彼ら。
こんな話を書いてみたかった…。




>そして戦闘サイボーグはやはり災害救助には向かないな。
この戦時下においては災害救助自体が弱い状態ではあると思うので、こんな風になりました。
連合軍も戦地の救出作業は得意でしょうが、市街地ってなるともっと専門のレスキュー隊が必要ですね。
レスキューロボっていえばスパロボRのエクサランスあたりが居たら楽なのかもしれないと書いてて思いました。




>ここはやはりレスキューポリスを開発せねば!
ググってみましたが…り、リアル世代のはずなのに見覚えがない!
私は仮面ライダーと戦隊を除くとブルーススワットとかビーファイターの印象が強いですね。




>>これは純粋に脅しなんですが
>ばろすwww
>この腹真っ黒の妖精めw
必死さの表現でもあるんですが、確かに根本的に容赦ないルリちゃんの一面でもありますねw
まあ死ななきゃマシだろうくらいにはおもってそうですw


>しかしこのディーラーの兄ちゃん、税込み70億円を3億ドル(300億円以上)で売るわ、
>サインと決済だけして後はこちらで!とか、また後でどうにかされそうだw
腹黒ルリちゃんのことと合わせて考えると、
危ない橋を渡らせること自体が弱みを実は握っている状態になっている、とか考えてそうですね。
ルリちゃんは何しろ未成年ですし(設定上社会人扱いはされますが、未成年なのは覆らない)、
世間もルリちゃんのほうには同情してくれて助けてくれるでしょうが、
ディーラーの兄ちゃんはルリちゃんの言い方ひとつで吹っ飛びそうですw
この時ばかりは助かったから、そう厳しくはしないでしょうけどw













~次回予告~
ルリです。
……ひとまず誰も死なずに済んでよかったです。
『黒い皇子』の再公演は、もう一生ないものと思いたいです、マジで。
私達ボロボロなんでしばらく休みたいですけど、簡単に次回予告を。

地球と木連の仲もよくなって、『翼の龍王騎士』の活躍もあって、
戦いもだんだん落ち着く様子を見せてますし、
アキト兄さんも二股道を極めることになりそうな感じになってます。甘々です。
テンカワ兄さんの決意も空しくもしかしたらナデシコが解散されそうな感じになりつつあります。
そして犯人のライザさんの処遇とかどうするんでしょうね?
依頼主がクリムゾンさんだってのは分かってても、戸籍ない人に証言お願いするの厳しそうです。

…で、また別の敵やら味方やら、本格始動するとかではてさてどうなるやら…。


最近話題沸騰の架空90年代アニメ風動画『古代戦殻ジェノサイダー』のヘビーローテーションが抜けない作者が贈る、
ナデシコ世界だけど若干2010年代っぽくなっちゃってるのはご容赦お願いします系ナデシコ二次創作、
















『機動戦艦ナデシコD』
第七十五話:『Diamond is Unbreakable-ダイヤモンドは砕けない-』


















をみんなで見よー。











































感想代理人プロフィール

戻る





代理人の感想
「パリは燃えているか!?」を思い出した今回のサブタイトル。
クリムゾン会長あたりに言わせればぴったりかなw

後テツヤは冷酷を気取ってる割に詰めが甘いw
とどめ刺さなかったのがライザに対する情けとも思えないしね。

というかライザよりジュンの方が悲惨な境遇に思えてきたわ今回w

>腹黒ルリちゃんのことと合わせて考えると、
>危ない橋を渡らせること自体が弱みを実は握っている状態になっている、とか考えてそうですね。

・・・確かに!w
まあこの兄ちゃんも三百億ぽんと貰っておいてそれ以上何かやるようなら情け無用のJ9ですがw





※この感想フォームは感想掲示板への直通投稿フォームです。メールフォームではありませんのでご注意下さい。

おなまえ
Eメール
作者名
作品名(話数)  
コメント
URL