こんにちは、ルリです。
決着が近いと言いつつ、状況説明だけで二話も使ってるってどういうこと?
作者さん的には「本来省かれるだろうところを書くのが好き」らしいから、ご容赦お願いね。
しかし、ライザさんも決着まで生きてくれると嬉しいんだけど。

そいじゃ、今日もスタート。

よーいドン。















『機動戦艦ナデシコD』
第八十一話:Decode-解読する-ライザレポートⅡ・後編


















〇東京都・池袋・アイドルプロダクション『大和』合宿所──ライザ
私は古びたワープロに表示されているレポートを読んで、すでに何時間も経過している。
…私も腕が鈍ってるわね。誤字脱字も多いし書き忘れてるのもたくさんある。
全然切羽詰まってない状況だからっていうのもあるけど…提出先のないレポートなんてこんなもんよね。
読まれるかどうかあいまいなものを必死に書いてるのもバカバカしい。
習慣的に書いてるだけの散文に等しいし。

…そういえば、クリムゾンの連中はどうしてるのかしら。
テツヤは私を…実行犯として扱いやすいように存在を徹底的に隠蔽してきたから、
クリムゾンたちでさえ、私の存在には気づいていないはず。
今のところ暗殺は活動初期にわずかにあっただけ。
護衛担当は今も黙々と私達を守ってくれているけれど、それから仕掛けてこない。
護衛が護衛だけにどうしようもないってところかしらね…。


ぴんぽーん…。



『ライザ、宅配ピザが届いたぞ。
 毒味は必要ないだろうが一応毒味で食べておいた』

「ありがと」

合宿所の守衛担当かつゴールドセインツのガード、
北斗がチャイムを鳴らしてピザの到着を伝えた。

私とホシノアキトの体内ナノマシンは毒をほぼ無効化する…薬もだけど。
ので、毒味までしてもらう必要はないんだけど、北斗は律義に毒味までしてくれる。
毒に元々強くなるための訓練に加え、昴氣で体内を活性化すれば解毒も可能なので大丈夫らしいけど…。
私はLサイズのピザ三枚と一キロのフライドポテトを受け取ると、また引っ込んでレポートを推敲した。
…はぁ、普通でも三人前以上は食べないといけないのに、頭使うとさらにこれだものね。
ナノマシン取り除いてもらわないと食費で破産しかねないわよ。

…そういえば、テツヤをけしかけたクリムゾンの連中は中々しぶといのよね。
そろそろ破産しててもいい頃合いだけど、落ち目とはいえ元々が巨大な企業だから…。
ビッグバリアの受注も無くなって、主力戦闘機関係の受注もパー。
そうなると資金が尽きてもおかしくないはず。
うまくやってるみたいだけど…そこまではクリムゾンのことを調べてないからしらないけど、
なんか、連合軍の一部の機体はクリムゾンの受注になってるって話を小耳にはさんだわね…。。

私としては全部あとくされなくぶっつぶれてくれた方がいいんだけど、
全てことが済む前につぶれられても困るってラピスは言っていた。
そうすることですべて決着がつけられるっていうのは…どういうことなのかしら。

…ま、いいわ。
ピザが冷める前に食べないと…。












〇???
とある特殊な暗号化されたプライベート回線に通話が開かれている。
軍の上層部の人間をも含む、かなりの大企業の要人、政府要人などが集まっている。
クリムゾンを筆頭とする、木連と手を結んで利益を共有するために同盟を結んでいる人物たちである。
木連との盟約は無くなり、協力者がいなくなり、ホシノアキトを追い落とすこともできず、
経過した五年という時は彼らを確実に消耗させていた。

『…そうか、ヤツが逝ったか』

『もう高齢だったからな…脳梗塞らしい』

『…元々高血圧だったのはあるにしろ、ストレスの蓄積もあったろうな。
 明日は我が身だ…』

『もうこの会議も、三分の一が逝ってしまったか…』

ホシノアキトに対する逆襲を目論んで、この五年の間もたびたび手を出してきた彼ら。
この一年ほどは資金繰りの悪化と、社会上の立場が悪くなったのが重なりほぼ手が出せていない。
ワンマン経営や強引な手口での政治活動、強硬な軍事活動のツケを払う羽目になっている者も多かった。

失脚や会社の倒産は免れてもそのストレスが祟って倒れる者が後を絶たなかった。
しかも立場がどんどん悪くなっているが、彼らは元々かなりの高齢であるため、
ホシノアキトが起こした大きな社会の変化へ対応しきれずいた。

クリムゾンは例外的にかなり器用に経営を続けており、
ロボットバトルのための『ステルンクーゲルmini』が継続的な需要を持っている。
そのほかにも、連合軍の一部機動兵器の開発受注に成功しており、落ち目ながら奮闘している。
しかしそれ以外のメンバーは世の中の流れが変わってしまい、立場を取り戻す手段がない。
何よりも──。

『反戦が進んでこれから戦争を起こすのが難しくなっているのもあるが…。
 ムネタケ参謀の息子があそこまで火星軌道上の戦いで成果を挙げてしまうとは…』

『…こちらには軍の階級のアドバンテージはもうないと言っていいだろう。
 ムネタケ親子の派閥が軍上層部の支持を集めている。
 軍事はもうこちらから手を出せる状況ではない』

『政治は…私が生き残る分には問題ないが、もはやここまで反戦が進んでは意識の変更などは…』


『ええい、愚痴を言っている場合か!
 ここのところ貴様らは愚痴を言いに来ている節があるな!!』



クリムゾンの一喝に、全員が黙り込んだ。
もはや会議のしようはなかった。状況の覆しようがなかった。
彼らが世の中を操るためには…。

『ホシノアキトを倒す以外にない、それは分かっているだろうが』

『『『『『……』』』』』

『お前たちを頼るより、テツヤをもう一度頼った方がマシだと思い始めたところだ。
 ……だが奴とて、こちらが和解してほしいと頭を下げたところで頷くタマじゃない。
 それどころかこちらに牙を剥こうと準備しているかもしれんのだ』

『…失敗したな、クリムゾン』

『だが奴は今のところ手を出す様子はない。
 さすがに五年も我々を放っておくとは考えられん。
 ホシノアキトの方に目が向いていると考えるのが妥当だろう』

『だといいが。
 …しかしクリムゾン、お前に手はあるのか?』

『案ずるな。
 バール少将を暗殺させたグループがいる。
 奴らにホシノアキトの関係者を殺すように依頼した』

『だが奴らは無名ではなかったか?
 彼らが目的を達成できるように手引きしたのは我らだったが…。
 しかもその後、彼らの活動はほとんど停止したと聞いたが』

『いや、テツヤとコネクションがあるところだからな。
 あの後、テツヤがバール殺害の準備をしてくれていたんだが…連絡は取れなくなった。
 テツヤが動けない状況にある以上、依頼先が無くなってしまったからな。
 それに活動停止しているように見えるほど隠密な連中だ、信頼度は高いだろう』

『この五年、彼らをけしかけなかった理由は何だ?』

『彼らが最近ようやく連絡をしてくれたからだ。
 秘密保持のためか、こちらからは連絡が取れないようになっていてな。
 だがあちらから連絡を寄越したと言うことは、五年も経つと生活を維持できんということだろう。
 いや、テツヤが組織したグループだとすれば、テツヤしか連絡できない可能性すらある。
 となれば…』

『筋は通る、か』

『とにかく奴らをけしかけてホシノアキトの動きを見る。
 …だが今はダメだ。
 木星に発つ軍のリストに、ちょうど追い出したい人間が集まっている。
 彼らがいなければ、かなりやりやすくなるだろう』

『おお、確かに。
 半減とはいわんが、かなりこちらに有利な条件だな』

『それに身重の女を抱えて大立ち回りはできんだろう。
 狙うとすれば、もう少し待つのが得策だ。
 
 ……これが恐らくラストチャンスだ。
 
 クリムゾンもかなりキツくマークされている。
 動かせる資金を確保するのにはだいぶ苦労した。
 私も貴様らもくたばるまでの時間もそうあるまい。
 
 奴を地に這いつくばらせてやる……!』














〇地球・奥多摩・スバルリョーコの実家──リョーコ
オレはそろそろ木星に向かって出発する予定なので、休暇を一ヶ月ほどもらって実家に戻っていた。
じいちゃんもいるし、門下生も百人に近づいてて騒がしいのはいつものことだが…。


「喝ッ!!

 北辰…貴様ァッ!!

 娘に気の扱い方で負けているとは何事だぁっ!?」


「み、未熟者故……!
 面目次第もございません…!」


「それどころか肝心の剣の腕も、今ださな子の足元にも及ばぬとは!

 鍛え直してくれるわぁっ!」


「は、ははーっ!

 精進いたします!」


夜遅いっていうのに、道場を揺るがす気合の叫びが響き渡る。
北辰は夕方まで佐世保に居たのに呼び出されて、成長のなさを叱られていた…。
……。
じいちゃんは、例の北辰っていう…ホシノの剣術指南役の、元木連のこの男をなぜかしごいていた。
四年前、PMCマルスの相談役、兼芸能マネージャーの眼上さんにスカウトされて、
時代劇俳優としてデビューした北辰。
悪役にピッタリの顔立ち、時々善玉を演じたり、本格的な剣術が相まって中々に大人気になったんだ。
さらにアドリブで入れる前口上が文学的だと評価が高くて、板についてきた頃…。
事もあろうにじいちゃんはその太刀筋に『本物』を感じて辻斬り同然に襲い掛かり、
それを模造刀でなんとか受けて本当に気に入られて、どんどん話が進んでなぜか養子にとってしまった…。
義理の叔父、というなんともこっちが困る肩書で実家に居座っている…。
もっとも北辰のいうことにゃ、
『木連で裏の世界で生きてきて身元を引き受けてくれるところがほしかったので、ちょうどよかった』そうだ。
…まあ、オレもじっちゃんが楽しそうならいいんだけどさ。
養子に取られたのは三年前だが、年齢的にも剣術の伸びはあまりよくないが…。
じいちゃんいわく、そこから伸びるかどうかが達人になれるかどうかの差らしい。
…そこまで見込んでる内弟子っていうのもかなり久々みたいだが、身体が持つのか、こいつは。

「おお、リョーコ。
 見ていたのか」

「…おう」

「む、リョーコ殿か。
 見苦しいところを」

「そ、そりゃいいんだけどさ…」

北辰はやたら仰々しく一礼してオレを見た。
門下生が見学してるそばから、こんな激闘を毎日してんだからな…良く体が持つよな、北辰も。
しかし門下生の連中はこんなシーンを見てよく辞めないよな…。

……いや、違う。
この門下生の連中、『世紀末の魔術師』騒ぎの時から来ている奴も多いが、
じいちゃんと北辰のこの時代劇さながらの厳しい稽古風景と、人間離れした技が大好きなんだ。
こいつらの目、好きなアニメ見てる時のヒカルそっくりだぜ…。













〇東京都・池袋・アイドルプロダクション『大和』合宿所──ライザ
……ん、いけない。
お腹いっぱいになったらそのまま寝ちゃってたのね。
一時間も経過してないからいいか…。
ふぁぁ…レポートは…間違って消してないわよね、大丈夫。

…それにしても北辰って男が、ホシノアキトの『未来の宿敵』だったなんて聞いたら、
テツヤはどんな顔するのかしらね。

そもそも『16216回の歴史のリセット』の件とか聞いたら、どういう感想を言うのかしら。
…まあスバルユウとか、昴氣とか、そのあたりだけでも頭痛くなってきそうだけど。
汗かいちゃったわ…シャワーでも浴びてこようかしらね…。




元ナデシコクルーについての報告
________________
スバル・リョーコ(23)
経歴:ナデシコでパイロットとして戦っていたが、ナデシコA退役とともに連合軍に入った。
   ナデシコでの戦いぶりが評価されて『ライオンズ・シックル』の小隊長になった。

   実家で居合道を習っており、接近戦を得意とするが、
   DFSは刃を発生させるだけしかできないため、DFSオペレーターを必要とする。
   ナデシコA時代はホシノアキトが戦いから離脱した後、
   テンカワアキトとともにブローディアを駆り第一線で戦っていた。
   DFSの扱いにも慣れ、地球上でも十本の指に入るほどの実力。
      
   ブーステッドマン達サイボーグと互角に戦えるスバル・ユウが祖父。
   彼は実家の居合剣術の道場の主だ。







元PMCマルススタッフについての報告
________________
スバル・ホクシン(46)
経歴:過去の経歴は不明。
   地球上にデータがないため、木連に属していた可能性は高い。
   木連式抜刀術を使っているという情報もある。
   PMCマルスの警備部に所属、PMCマルスの要人警護の職に就いていた。
   ホシノアキトの「剣術指南役」をしていたということも知られている。
   ホシノアキトからの信頼もあるようで、不在時に彼を警護に指名する回数は多い。
   配偶者はスバル・サナコ(43)、娘にスバル・ホクト(23)、スバル・シオリ(23)がいる。
   全員が何かしらの武術の達人で、特に北斗、枝織の戦闘能力は特筆すべきものがある。
   
   サナコはPMCマルスの雑務を担当していたものの、ホクシンの俳優業が活発になってからは、
   もっぱらその活動を手伝うマネージャーとして動くことが多くなった。
   
   佐世保の自宅、PMCマルス、スバル家、都内のテレビ局をせわしなく移動しているらしい。
   家族仲はわだかまりがあったそうだが、そこそこまともに顔を合わせていられるようになった、
   と本人たちは照れくさそうに話している。
 


スバル・ホクト(23)&スバル・シオリ(23)
経歴:ホクシン同様、木連出身と思われ、とてつもない戦闘能力を持っている。
   彼女たちはホクシンと違い、木連出身であるのが確定している。
   火星での人知を超えた、ホシノ・テンカワ両名との死闘はいまだ語り草になっている。
   映像が残っているのものの、あれはトリックの類ではないか、ショーファイトではなかったか、
   と思われるほどの戦いだった。
   
   ホシノ・テンカワ両名の持つミステリアスパワー「昴氣」を使用可能。
   現在は、『バトルアイドルプロジェクト』の関係者の護衛をする仕事をする傍ら、
   彼女たち自身もホクシンの縁で俳優業に呼ばれたり、格闘技の試合にでたり、
   たまにメンバー不足になるゴールド・セインツの補欠メンバーにされたりしている。
   なお、ホクトはアイドル活動は性に合わないので断ってしまう。
   
   彼女たちが護衛をしている最中は、暗殺者が付け入るスキが全くない。
   すでに彼女たちは、暗殺稼業のプロにも知れ渡っており、依頼を断る者が後を絶たない。
   敵に回してはいけない人物。





北斗と枝織の情報は…DFSを使えるってことまでは広まっていないのよね。
どっちかって言うと、凄腕のガード、格闘家って印象の方が広まってる。
いざって時の切り札にしてあるんだけど…。

それにしても…未来のことは書けないけど、夏樹の事はもっと書けないわよね。
彼女はヤマサキ博士のいいなずけだったそうだし、ちょっとでも漏洩するとまずいのよね。
今も私は当たり障りのない範囲で書いてはいるけど…。
……もう今更テツヤに寝返るつもりもないって、自分で分かってるわよ。
こんな腑抜けたレポート、知ってる核心部分も書いてないようなのを書き続けてるなんて、
ホント、昔の私が見たら引くわよね、軽く…。

自分の関わることも、一応まとめてるけど…。







元PMCマルススタッフについての報告
________________
アイドルユニット、『ゴールド・セインツ』について

経歴:四年前に指導したアイドルユニットで、
   PMCマルスに属している12人のパイロットを中心としたアイドルユニット。
   ホシノアキトの義妹の私はその追加メンバーとして、所属している。
   私はホシノルリの後を引き継ぐ形で、ナデシコのメインオペレーターになり、
   地球のはぐれトカゲを倒すPMCマルスのパイロットたちと共に『戦うアイドル』としてデビューすることになった。
   元々、ホシノアキトは超人気ではあれど、男性人気はそこそこだという欠点はあった。
   戦争を救った英雄であるので誰にでも好かれてはいるが、熱狂するほどではない。
   その部分を補うプランとして、次々にナデシコ・PMCマルス発の女性アイドルグループが誕生した。
   
   私達の『ゴールド・セインツ』。
   ルリたちの『jewelry princesses』。
   ナデシコ食堂班の『ホウメイガールズ(元:J-Mesh Revolution)』、
   ソロ活動で堂々の女性アイドル人気一位をものにしている元ナデシコ通信士『メグミ・レイナード』。   
   
   世の中を『反戦』に扇動するつもりか、と私は皮肉ったものだけど、
   ラピスラズリの意見は少し違っていて、
   
   『アキトはそこまでは望んでないし、私もしないよ。
    ただ、決着がつくまではまだまだ影響力があると敵ににらみを利かせないと危ないから。
    地球も火星もすでに戦争を嫌ってるし、きっとみんな答えは同じはずだよ』と。
   
   私はそれに強く反論は出来なかった。
   …ホシノアキト自身はあくまで『コック』で居たいだけで、
   そうするために必死に努力していた、という事実は分かってるから。
   
   まあ、五年目の今だからいいけど、またあと五年も経ったらホシノアキトの伝説も、
   通じない世代が出始める可能性はある。
   その時のためにも、目立っておくのは有用ってことでしょうけどね。
   そういう、変な利益のために作られたアイドルユニットが『ゴールド・セインツ』。



……はぁ、書いてるとやっぱ頭痛くなってくるわね、これ。
で、実際のところ、アイドルとしてどの程度かっていうと…。
私のデビュー時はそこそこ話題を集めたわけだけど…。
…アイドルって色々嘘ついて盛りに盛ってより良く見せる商売なもんだから、
鳴り物入りで入ってきた私とはいえ、評価はそこそこだった。
何しろ、私を引き取ったホシノ家は人売りの外道だって知れ渡っていたし、
そうじゃなくても私はちょっと冷たい印象があるって評判だったものだから。
   
ルリほどかわいげがない。
ホシノアキトのように優しくない。
そのくせリーダーに収まってる。
   
あれよあれよといううちに、女性のアンチが集まった。
曰く『アキト様の義妹に、なんであんな仏頂面が』とか、
『私のアキト様の家族に、殺し屋みたいな女が』とか。
……まあ、あながち間違っちゃいないんだけど。
それでも、さつきたちは私をまっすぐに信じてくれた。
…言葉には出してないが、それがどれだけ私の心を軽くしてくれたか分からない。
   
それはそうと、男性人気はそこそこゲットできた。
人数が多すぎて、活動するときは参加できる人だけ出てくるみたいな形式なんで、
人気が分散したり、推しが居ない時は結構渋い顔されたりで、人気は中堅上位どまり、
女性アイドルというジャンルでぎりぎり十位に入るかどうかの微妙なライン。
トップアイドルの一員とは言えるけど、ホシノアキトの義妹の癖に弱いって評価。
でもさつきたちは全然気にしてない様子だけど…。
   
とにかく、私たちはアイドルとして歌に踊りに、時々俳優に呼ばれたり、イベントに呼ばれたりとか。
そんなことをやりながら、合宿所で暮らしてる。
居心地はいいけど、忙しくてそこそこ大変だから、そろそろ引退したいわね…。




PMCマルス関係者についての報告
________________
眼上マリア(57)
経歴:10代はボクシング選手のマネージャー、
   20代半ばまではアイドルとして活動した経歴があるが、
   根本的に自分自身が輝くより、セコンドとしての位置に居るべきと判断。
   以後、事務所を持たず、才能がある人物をスカウト、
   プロデュースしてから芸能事務所に引き取ってもらうやり方で、
   各芸能事務所、テレビ局との太いパイプを獲得。
   
   ホシノアキトの芸能活動を主導し、
   開業資金集めを行ったPMCマルスの立役者であり、中心人物。
   各営業、指導経験が多いことから若輩者の多いPMCマルスの基礎を作った。
   
   ホシノアキトがピースランドから戻ってきた後、
   ラピスに後を任せて手を引くことしようとしたが、
   ブーステッドマン達との戦いの後、映画を撮ることになったり、
   ラピスだけがユーチャリスに残ることになったりで、
   なんだかんだでずっとPMCマルスに残っている。
   ホシノアキトが火星から帰って来てからもずっとメディアに対する渉外を行う役割を持った。
   ホシノアキトが戦いから降りた後は、主に私たち『バトルアイドルプロジェクト』の管理運営の柱になっている。
   そろそろ還暦だが、今だ現役、現場主義で直接交渉に出掛けることが非常に多い。
   







…眼上マネージャーってホント何者なのかしらね。
ホシノアキトをスカウトする手腕もだけど、タフすぎるわよね。
私の方が疲れてるくらいなのに、ぴんぴんしてる。
例のAH型うるう年ナノマシンも使ってないのになかなか老けないし…どうなってんのかしら。

そういえば、ホシノアキトにも、芸能界のライバルみたいなのも居たわねぇ…。











PMCマルス関係者についての報告
________________
天龍&地龍(24)
経歴:二人とも孤児で、孤児院出身。
   彼らは眼上マネージャーにスカウトされ、現在の所属事務所に入所。
   一時期はホシノアキトを目の敵にしていたが、『世紀末の魔術師対決』の一件で和解。
   その後は協力関係を結んでおり、ホシノアキトが嫌がる仕事を代わることも多くなった。
   彼らは男性アイドルではぶっちぎりの人気を誇る『ダブルドラゴン』として有名。
   また、ステルンクーゲルを個人所有していることから、クリムゾンの表立った広報活動に顔を出すことがある。
   彼らの働きでステルンクーゲルminiのホビー需要はより高まっており、現在は世界大会すらも催される。
   男性トップアイドルとしての人気はトップだが、ジャンルとしてはアイドルではない芸能人のホシノアキトには敵わない。
   だが、それはそれで争う場所が違うということで、割り切ってアイドル活動をしているらしい。
  


…この二人、ホシノアキトとは違った影響を世の中に与えてるのよね。
クリムゾンがしぶとく生き残っている理由は、ステルンクーゲルmini、4メートルほどの小さなロボット。
あまりに生存確率の低い、危険極まりないロボットだが、これをホビー用に扱う者が増え、
ホビー用小型ロボット、ロボットバトルは一大ブームを引き起こしている。

ネルガルも黙っておらず、対抗するエステバリスminiの開発を行っている。
この二社以外にも、戦後の収入を確保するためにロボットバトル用の小型ロボットの開発は盛んになっている。
   
一説には、ロボットバトルによる『クリーンな戦争』を可能にする計画が進んでいるとも聞いている。
納得できない事や問題解決のために、ロボットバトルで勝敗を決するという。
通常の戦争では被害が甚大であり、人類同士の憎悪による負の連鎖を押さえつつ、
スポーツの祭典のように人々が熱狂できる対象へと昇華するのが目的だとかで…。
…でもこれはドーピング問題や、不正の温床になりかねないわよね。
戦争と名の付く以上、欺瞞に満ちた暗い戦いが起こるかもしれない。
…人間そんなに早く、平和に慣れることもなければ、争いがなくなるわけでもないわよね。そりゃ。

とはいえ、ホシノアキトが彼らを注意するっていうのもお門違いだわ。
ホシノアキトは世の中の流れを制御するほど積極的じゃない。
その性格も知られているからこそ、敵も限られた勢力に絞られている。
本当に根っからの反戦派だったらネルガルの会長が親友だろうと叩き潰してもおかしくない。

ホシノアキトはあくまで、
『戦争は否定したいが終わらせたいが、巻き込まれない分には止める気もない』
『戦争を止めるために世の中を変えることまでは自分からはしない』
『ただし、自分たちに手を出すなら戦う』
って、ややドライな態度を貫いている。

…もっとも、ホシノアキトがどう考えて、不干渉を貫こうと、
彼の影響を受けた世の中は『反戦に走っている』。
その影響をそぎ落としたいだけでホシノアキトを殺したいという連中が多いんでしょうね。
ここまで影響を与えておいて、あくまで不干渉してるつもりです、ってのも都合がいいわ、まったく。


きゅるるるる~~~。



「…はぁ。
 もう消化したなんて、燃費悪すぎよ…。
 アキトはどうしてんのかしらね、これ…」


ぴんぽーん…。


『ライザさーん、ちょっとコンビニ行くんだけど一緒に来ない?
 そろそろ新しいドラマ始まるっていうし、お菓子が足りなくなっちゃって』

「なにやってんのよ、私におすそ分けなんてするから」

インターホン越しに、さつきの能天気そうな声が聞こえてきた。
はぁ…にぎやかっていうか、ベタベタしすぎよね、この子たちってば。

『いいじゃないー。
 それとも、何か買ってこようか?』

「…いいわ、さっきのおすそ分けのぶんを返さないといけないもの。
 それにさっき食べたばっかりなのにまたお腹減っちゃったし…。
 …付き合うわよ」

『やった!』


・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


私達はコンビニに行くのにも北斗に護衛してもらわないといけない状況なので、
ちょっとは窮屈だけど、事実上、どこへ行くにも何を買うにも制限はないに等しい。
アポが必要になるけど…監視はされてる立場だし。

「それにしても朝ドラ『なでしこ』の総集編の直後、
 ルリちゃんたちの記者会見が入ってびっくりしたわよね」

「ああ、枝織が映ってたやつだな。
 決まってたことらしいが、一年の航路とはまた気の長い。
 二人の護衛のために枝織もついていくそうだがな」

「北斗さんは地球に残るんですか?」

「地球でも警護が必要な奴が多いのに両方同時に居なくなるわけにも行かないだろ。
 …零夜も、俺が積極的に戦うのは嫌がってるしな」

私達は道々、世間話をしながら歩いていた。
…そう、ルリたちもやっぱり予定通り…。
レポートを推敲してたから気づかなかったけど…。

……あの子たちなら大丈夫でしょうけどね。















〇地球・立川市・連合軍基地・特設記者会見場──ミスマル提督

「で、では、お二人ともそろって出征されると言うことですか?!」

「はい。

 ナデシコAを降りる前から、決めてたことなんです。
 
 『ホシノ兄さんに代わって戦いを終わらせて、戦争の結末をこの目で見届ける』
 
 そのために私とラピスは、この時のために訓練を続けてきました」

「そう。
 朝ドラでご存知の通り、アキトは五年前にこれでもかってくらい戦ってたよね。
 これ以上アキトに戦ってほしくない、ってみんなも思ってくれたでしょ。
 もちろん、私達が今更出てきたってお飾りだってことは重々承知だよ。
 ナデシコ級の大艦隊が出来た今、マシンチャイルドなんて不要の長物。
 でもみんなの戦意を上げる応援くらいはできるつもりだし、
 経験もたくさんあるから足手まといにならないと思うから」

「そ、それはそうでしょうけど…。
 でもJewelry Princessesのアイドル活動は!?」

「そりゃ当然解散ですね。
 ユキナにも相談済みです。
 そもそも彼女、インターハイ出場が決まってますし。
 受験勉強も近いからってことで、もうこっちには構ってられないそうですし」


「「「「えええええええええええええええええええええええ!?!!?!?」」」」



衝撃的な発言ばかりが並んで、記者たちは絶叫せざるを得なかったようだ。
私はルリ君とラピス、そしてアリサ大尉とサラ少尉、さらにムネタケ提督とともに記者会見に臨んでいた。
木星に出征する、最後の戦いに挑む連合軍の艦隊…その中にルリ君とラピスの二人が加わる。
ヤマサキ博士の婚約者である夏樹さんへの罪滅ぼしと、例の因子が関わってる事らしいが…。
と、その直後、ラピスはの髪の色が変わった。

ラズリ…未来のユリカが語り始めた。

「ここからは私が説明します。
 …先の火星軌道上での戦い。
 一ヶ月にも及ぶ死闘の末、火星を取り戻しました。
 そこで華々しく活躍したムネタケ提督の『ナデシコB』。
 このデータのフィードバックを生かした新型戦艦で、私達は戦列に加わります。
 
 その名も…!」

ラズリがばっと手を掲げると、空中に浮かぶウインドウが開き、その名と艦の全貌が明らかになる。


「ルリちゃんが艦長を務める、『機動戦艦ナデシコC』!

 そして私とラピスちゃんが艦長を務める『機動戦艦ナデシコD』!
 
 見た目も性能も全く一緒の姉妹艦です!


 この二隻で、木星との最終決戦に挑みますっ!」


「「「「「おおおおおおおおおおおお!?」」」」」


パシャッ!パシャシャシャシャッ!!



ナデシコらしい艦のシルエットが明らかになると、
記者たちは先ほどまでの動揺が嘘のように、期待と驚きに揺れ、
カメラのフラッシュが次々に焚かれていた。

「ま、ひよっこ連れて木星に向かうってんで不安がらないで。
 この二人の実力は私が保証するわよ。
 アイドルが艦長をするなんてどうかとおもうかもしれないけど……。
 って、これはこの子たちの兄貴の前例があるから無効かしらね?」

「いえ、ムネタケ提督。
 そもそも私達はアイドルやる前に実戦入ってたのでそれもどうかと」


どっ!!


……む、ムネタケ提督はずいぶんユーモアがあるな。
ラズリもいい感じで突っ込んで笑いを取るとは…。

「そんなわけで、私達も木連についてっちゃいます!

 …。
 ってわけでよろしくね。
 頑張るから」

「右に同じです。
 もちろん生きて帰るつもりですから、どうぞよろしく。
 
 そして、私達だけではなくアリサさん、サラさんのお二人も同行してくれます」

「はい。
 敵が私達の出撃を封じていたこの五年の間、
 私達は半分退役状態でDFSの教官を務めつつ、最近は大学に通っていましたが先日卒業しました。
 こちらにもDFSの使い手がだいぶ増えたこともあって、私達の手ももはや必要ないかもしれませんが…。
 ここぞというところで出れるように、ついていくことにしました」


「「「「「おおおおおーーーーーっ!!」」」」」



マスコミが騒ぐのも無理はない。
この二人の『龍王騎士』の戦いはもはや伝説になっている。
チューリップを単騎で連続撃破、バッタや鳥獣機のみならず戦艦までも紙クズ同然に蹴散らす。
もっとも、敵があの『ヤマタノコクリュウオウ』に酷似した機体を量産したら、どうしようもないが…。
いや、機動兵器ではどうやってもナデシコ級の高収束グラビティブラストには耐えられないだろう。
ナデシコ級の大艦隊がある今となっては、そう遅れは取らないはずだ。
ナデシコA’、ユーチャリスⅡが連合軍の戦艦の50%近くを占める。
そのうち40%が木星へ出撃、残りの10%と旧型艦は地球の防衛に残る。
雨あられのようにグラビティブラストが降り注いだとしたら、敵の戦線はあっさり崩壊するだろう。
五年という時が、ナデシコ級の大艦隊を作り上げる時間をくれた。
……もはや負けることはあり得ないだろう。

「それじゃ、お父さん。
 私達、行ってきます」

「必ず帰ってくるから泣いちゃダメだよ?
 って、私が言うのも変な感じかな。
 
 ……。
 お父様、アキトの代わりに頑張ってきます」

「うぐっ。
 う、うむ、無事にな」

記者会見が終わって、
私はまたみっともなく大泣きしそうになってラピスに釘を刺されてしまった。
娘のこととなると私は抑えが効かんでな…。

「…ラピス、ラズリ。
 約束通り、アキト君と式を挙げるつもりなんだろう。
 生きて戻れよ」

「はい……!」

「世間が許さなくても私が許す。
 …だが、その後の困難な道は、私の力ではどうしようもないことがたくさん起こる。
 お前と、ホシノ君とユリと、そしてラピスと、全員で切り抜けていくんだ。
 分かってるな」

「はい、お父様!
 私…もう絶対に、何があっても諦めません!」

「私も助けます、ラズリさん。
 …誰がなんて言おうと、邪魔させません!」

「ホント、みんな頼れるよ!
 最強一家だよ、私達は!
 
 …。
 ルリちゃん…ラピスちゃん…。
 ありがと…お父様も…。」

ラズリは、私とルリ君をまとめて抱きしめて、嗚咽を小さくこぼした。
…そうだ。
この三人…未来のユリカであるラズリ、ラピス、そしてルリ君は…。
あのすべてを奪われた未来を変えるために、あえてこの戦いに赴く。
本当はそんなことをすれば英雄扱いされると騒がれそうだが…。
ラピスの考えたアイドル計画『バトルアイドルプロジェクト』は、かなりいい方面に働いている。
『戦うアイドル』というのは、言ってしまえば『アイドル片手に本業をしている人』だ。
世間の評判はいいが、本業一本で行く人に比べればどうしても評価は落ちる。
あくまで『お飾り』『戦意向上の踊り子』というスタンスを取り続けることが可能になる。

だがその実、ナデシコCとナデシコDは「ワンマンオペレートシステム」を体現できるうえに、
切り札である、ハッキングによる全軍停止…『電子制圧』が可能であるらしい。
これを大々的に行うとすれば、二人の英雄視、危険視は避けられないが、
電子制圧を目立たぬようにひそかに行い、敵を行動不能にして撃たせることができるというわけだ。
どれだけの大群が居るか分からない以上、二台の電子戦用ナデシコを準備するのは大げさではない。

…思い切った作戦を考えたな、ラピスは。

「しかし、佐世保に帰っていってもいいんだぞ、三人とも。
 出征の準備はまだ一週間ほどあるのだから」

「ううん、だめだよお父様。
 私達に目をくぎ付けにしておかないとアキトの周りの準備が済まないから。
 …私もラズリも本当はもっとアキトとユリと過ごしたいんだけど、
 ここで甘えちゃうと全部台無しになっちゃうから」

「そうか…。
 では、私は地球で待っているぞ。
 
 

 …必ず帰ってこい!!」


「「はい!」」



私は、とても元気のよい返事に笑った。
ルリ君は初めて会った頃、あまりに大人しくて心配だったものだが…。
五年前にピースランドの一件があってからずっと明るくなって…。
静かなのは変わらないが、友好的で表情豊かに変わった。
先日もピースランドに出征のためにあいさつに行ったら中々帰してもらえなかったそうだ。
数年前に、本当に幸せだと言ってくれた時は私も泣いてしまったな。

「終わったー?
 車、少佐さんが回してくれたから、いつでも帰れるよー?」

「ありがとう、枝織さん」

…そして二人を見送った後、記者会見場に姿を現さなかったフクベ提督に呼ばれた。

フクベ提督はナデシコAの退役後、完全に引退生活に入った。
なんでも沖縄で悠々自適の生活をしながら、たまにナデシコやPMCマルスに関する書籍を書いているらしい。
これはラピスからではなく、眼上マネージャーからの依頼だったというが…。

「はは、老眼が厳しいのに作家業をすることになるとはな」

「…いえ、お元気で何よりです」

私は行きつけの料亭にフクベ提督を呼ぶと、しばし話し込んだ。
フクベ提督には未来のことは話しては居ないが、火星でホシノ君に聞いていたようだ。
些細なことだが、実をいうとテンカワ君がユリカと結婚した都合上、
ホシノ君をアキト君と呼びづらくなって、ホシノ君呼びをせざるを得ない状況になっている。
せっかく家督を継がせたというのに…あえてホシノ君呼びを、しなければならない。
テンカワ君を認めた以上、公平に接しなければならないからだ。
……とてつもなく不満だ。

「ミスマルよ。
 養子とはいえ、娘を戦地に送るのは辛かろう」

「……ええ。
 ユリカがナデシコで火星に向かうと知った時も、
 本気で止めたいと思っていました」

「だろうな」

「…私にとって、もうあの子たちは本当の娘同然です。
 こんな思いをするのなら止めてしまおうと、何度も思いました」

戦場で確実に生き残れる保証などない。
脱出装置が万全な今でさえも、絶対安全とは言い切れない。
まして火星で、孤立無援で撃墜されたら助からないだろうと、当時は気が気でなかったが…。
ユリカだけではなく…ホシノ君を、ユリを信じたからこそ、送り出せたのだ。
今回はあの時よりは状況がよいとは思うが…。

「……だが、二人がホシノ君のために戦うというのも真実だということだな」

「はい…」

私は熱燗を流し込んで、ため息を吐いた。
…三人を、本当は戦地に送りたくない。
だが、この戦いが終わらない限り、そして地上での決着がつかない限りは、
この三人にも、ユリカとユリにも、ホシノ君とテンカワ君にも、平穏は訪れない。
すべてに決着をつけるには、この方法しかない。
この方法でも、怨恨をすべて消し去ることなどできないだろうが…。

「今度こそ彼らに、そして地球圏全土に平和が訪れてほしいのです」

「ほ、言うな、『鬼のミスマル』と呼ばれた男が。
 昔のお前ならそんなことは死んでも言わない男だったが」

「…私とて人の子です。
 敵であろうと殺さずに済むなら、殺したくはありません。

 それに…ホシノ君の、私達の娘への想いの強さに比べたら、
 私の意地など、取るに足らないものだと思い知りました。
 
 自分の後悔を、未来を紡ぐ力に変え…。
 誰もが夢物語だと思うようなことを叶え、人を傷つけることを嫌い、
 奇跡としか言いようのないやり方で人を救い続け、悪夢をすべて打ち砕いたホシノ君は…。
 
 大切な者を守るために人を殺す道を、地獄に堕ちる道を選び、
 それを正しい行いだと信じるしかないと、世の理を分かったつもりになっていた私に…。
 
 殺さないでも何とかなる世の中を、見せてくれようとしているのです。
 全人類に本当の意味での『希望の光』を見せてくれるはずです」

「ふ、そうだな。
 彼はまさに『希望の星』と言えそうだ。
 戦争や内紛という戦いでない限り、人が人を殺すなど…いや、それすらも欺瞞なんだろう。

 本当は人が人を裁くなど、傲慢なんだろう。
 それでも人を守るための戦いは、これからも必要だと私は思うが…。
 
 それすらもない世界が、本当に来ると思うか?」

「…来ると、願いたいです。
 いえ、私達も彼ら若者に負けずに少しずつ、少しずつ積み重ねなければ、叶わない願いです。
 そういう世を作れるように努力せねばならんのでしょう」

「…うむ。
 ただ戦うより、ずっと根気のいることだな。
 力添えできるかは分からんが…もう少しだけ、
 私が生き恥をさらしてでもしなければいけないことはあるんだろうな…」

フクベ提督は熱燗を一息に飲み干して、深くため息を吐いた。
かつて…火星での敗北を、自分の人生を投げ捨てても足らないほどだったと話していたが。
そしてホシノ君に諭してもらって、この戦争の真実を聞いて、まだ死ぬわけにはいかないと思えたと。
…その気持ちは、私も同じだった。

私達の手で、全人類の手で、愚かな戦いを過去に葬り去らねばならん。

もっとも…戦いを忘れたら、次の世代で愚かな戦いが始まるかもしれんが…。
今、まさに私の子供たちを亡き者にしようとしている連中のように。

奇跡を起こし続けたホシノ君とはいえ…。
どこから襲い掛かってくるか分からない敵に対して、果たして逃れることは出来るだろうか…。

…いや、考えまい。
ここから先のことは、神のみぞ知ることだ。

もはや、賽は投げられたのだから。


「それにしても…ムネタケのやつ、化けたなぁ…」


酔いが回ったのか、机に寄りかかったフクベ提督はボソッとつぶやいた。









〇東京都・池袋・アイドルプロダクション『大和』合宿所──ライザ
…コンビニから戻った私は、積み重なったお弁当とおにぎりを食べながら、レポートを読んだ。
ナノマシンのせいで自分の身体が今どうなってるのか、ちょっと想像したくないわね…。
一応除去はできるようになってるそうだけど…。
お次は連合軍関係者っと…。




PMCマルス関係者についての報告
________________
ミスマル・コウイチロウ(51)
経歴:第三宇宙艦隊司令官、連合軍極東方面軍司令官を経て、連合軍総司令官に抜擢された連合軍の大将。
   元々ミスマル家は軍事的な名家であり、かなりの実力を持っていたが、
   十五年前の月面での小競り合いで頭角を現して出世コースに乗った。
   その徹底的な戦い方、味方に檄を飛ばす時の声からついた異名が『鬼のミスマル』。
   そんな彼の戦いも、木星トカゲ相手ではさすがに歯が立たないことが多々あった。
   
   しかし、受精卵の状態で失踪した娘ユリとの再会、
   そしてその夫・ホシノアキトとの出会いが彼をさらなる飛躍に導いた。
   
   ナデシコ、ユーチャリスの協力を得て、極東は他の地域より早く平和を取り戻した。
   さらに連合軍上層部はかつてPMCマルス襲撃事件で、
   ミスマル提督に濡れ衣を着せて排斥しようとした一件もあって引け目がある。
   彼の機嫌を損ねるのは、イコールでホシノアキトとネルガルの協力を得られなくなるのと同意だと判断。
   さまざまな影響があって、異例の速さで連合軍総司令になった。
   いずれ連合軍上層部への出世も確約されている状態らしい。
   
   また、ホシノアキトの影響で女性兵士が激増したため、
   一部の連合軍将校は『ホシノアキトのスパイを連合軍に抱えているようなものだ』と皮肉っている。
   
   娘を溺愛しており、そのせいで暴発しかかることがあるという評価があったが、
   年齢的に落ち着いてきたのかそういうことは減ってきたらしい。
   私もたまに会わないといけない立場だが、ユリカ同様、娘のように扱うので居心地は悪い…。
   
   ムネタケ参謀とは同期、旧知の仲。







ミスマル提督も…ラピス誘拐の件もあって、最初はかなりあたりが強かった。
でもユリカたちが働きかけてくれてて、最近は慣れないながらも、私を大切にしようとしてくれてる。
…なんとか巻き込まずに済むといいけれど…。













元ナデシコクルーについての報告
________________
ムネタケ・サダアキ(33)
経歴:彼はムネタケ参謀の息子だということで評価されずにいたが、
   ナデシコAで副提督として働いた培った経験でユーチャリスの艦長として活躍。
   数々のチューリップ、敵を粉砕して評価を挙げた。
   ナデシコA以外のナデシコ級が配備されるようになっても、一つ頭抜きんでた戦果を挙げ続けた。
   ラピスラズリのオペレートがあったからではという評価もあったが、抜けてからもさらに戦果を挙げた。
   
   ラピスラズリ救出作戦の一件で、判断を誤らずに救助に成功するきっかけをつかんだことで、世間の人気が爆発。
   ホシノアキトや、ファーテッド姉妹ほどではないにしろ、英雄と呼べる名艦長と呼ばれるようになった。
   現在は木星との戦いに備えて開発されたナデシコBを任されて、火星軌道上の戦線でその実力を発揮、
   ついに木星との最終決戦攻撃艦隊の司令官にまで上り詰めた。階級は少将。
   
   彼は本当に細かいことに気を遣う人間で、そのためか信望は厚い。
   


…この男は、クリムゾンがどこかで引き込もうと考えていた一人だったらしい。
元々は虚栄心と出世欲に溺れた、無能な指揮官候補程度の認識だったから操りやすいと思われていたけど、
その実、不正を持ちかけられると拒絶反応を見せる程度には、そこそこの常識はあったらしい。
もっとも人を動かすセンスが全くないので、問題が多く、操りづらく引き込むのも無理がある、という評価だった。
だが、彼もホシノアキトの影響で大きく変わったらしい。
あのユーチャリスジャック訓練は…恐らく、訓練じゃなかったってことね。
PMCマルスに属している間、連合軍士官からは蔑んだ目を向けられていたようだけど、
ユーチャリスで転戦する中で得た評価も、ナデシコBでの戦果も、一つ頭抜けたものを持っていた…。
連合軍という組織の中では決して磨けなかった素質が、花開いた。
…環境で人が変わるってのは、信じたことがなかったけど、実際に自分が変化しているのを感じると、
この男の変化も納得してしまうわよね…。












元ナデシコクルーについての報告
________________
フクベ・ジン(80)
経歴:元連合軍火星駐屯軍総司令。
   火星での木星トカゲとの初戦にて完敗を喫するが、かろうじて地球に逃げ延びた。
   人類初のチューリップ撃破の英雄として名をはせるが、直後に彼は退役した。
   その後、ナデシコの提督として、連合軍からのお目付け役として派遣された。
   彼の自伝によると、そもそも退役していたのに自分を派遣したのは、
   連合軍はナデシコに手を出しようがなかった状態から半ば嫌がらせで預けたのだろう、と評価している。
   彼が退役した後にあえてナデシコAに乗って火星を目指したのは、
   火星への未練があったのだと、現在は判明している。
   大敗を喫し、最後のあがきで撃破しようとしたチューリップがユートピアコロニーに落ちてしまったことは、
   彼の自伝にもあり、火星の人たちが出した書籍にも書かれている。
   
   世間的も一時期はフクベ提督を断罪しようとしたこともあったが、
   しかし、木連指導者の草壁との和解もあって、その失敗を責め立てる者は激減した。
   もっとも、ホシノアキトが世の中を反戦に傾けなければ、
   暴動で殺されるか、暗殺されるかもあり得たかもしれない。
   フクベ提督の綴るすべての書籍には、

   『私のような罪人の説教じみた本を、平和を求めた君たちが読む必要などもはやないのかもしれん。
    それでも、こんな私を必要としてくれた一人の若者のために、
    私は私自身の罪と戦争の愚かさを示し続け、生き恥を晒し続けることを選んだ。
    少しでも彼の願いを叶えることに力添えできれば、
    後世に平和を残せるきっかけになれればと、心より祈っている』

    という文が書かれている。
    かつて『英雄』に仕立て上げられたフクベ提督は、
    「もはや英雄と呼ばれるに相応しくない一人の、心に傷を負った老兵に過ぎない」
    とは誰の評価だったかは思い出せないが、的を射た評価だったと思う。
    
    私から火星がどうなるかを見届けるためにナデシコに乗ったのは自己満足のためだったとしか思えない。
    しかし一見年金暮らしと印税での暮らしで悠々自適のリタイヤ生活に落ち着いている彼は、
    ホシノアキトのために、全人類のために贖罪の気持ちをもって残りの余生を過ごそうとしている。
    
    …それがどういう意味を持って、人々に受け入れられていくのかは、
    私の知るところではなく、興味の対象ではない。





フクベ提督…かつて『英雄』と呼ばれた男…。
しかしそれは偽りであり、罪を隠蔽して英雄に仕立てあげられた。
連合軍が負け込んでいるのをごまかすための、偽りの英雄に。
もしこの男がその後に何か目立った行動をとっていたら、テツヤに消される可能性もあったかもしれないけど…。
元々高齢だったうえに燃え尽きてしまって、死に場所を求めていたんでしょうね。
…そういえばホシノアキトはおんなじ英雄って言われてるくせに、
いろんな人に影響を与えすぎてるのに自分は食堂で終わろうって結構都合いいこと考えてるわよね。











PMCマルス関係者についての報告
________________
アリサ・ファー・ハーテッド(23)&サラ・ファー・ハーテッド(23)
経歴:アリサは中学校を卒業後、連合軍士官学校のパイロットコースに編入。
   実力はもともと高いものの、トカゲ戦争開始時にはすでに戦闘機の数は不足しており、
   戦線への参加が中々かなわなかった。
   グラシス中将の孫娘であり、PMCマルスでエステバリスパイロット育成のカリキュラムを作るための技術習得を依頼された。
   現在の連合軍のエステバリス操縦技術の基礎は、アリサが築き上げたと言っても過言ではない。
   その後エステバリス小隊『シルバーバレッツ』に属していたが、シャクヤク隊に転属。
   ひょんなことから、『翼の龍王騎士』のテストパイロットに選ばれた。
   
   サラは中学を卒業後、普通の高校に通い、卒業後は大学に通っていたが、
   妹のアリサがパイロットをしていることを快く思っておらず、
   退役して同じ大学に編入するように促そうと考え、基地に会いに行ったところで、
   アリサと間違われて『翼の龍王騎士』に乗るように促され、
   生まれ育った街がピンチになると知るや否や、IFSを注射、アリサの代わりに第一波を退ける。
   
   その後、二人はそろって出撃することになるが、
   これが『翼の龍王騎士』を映画の通りの活躍をするきっかけとなる。
   
   サラはホシノアキトや北斗をしのぐDFSの才能を持っており、
   敵を紙風船のように蹴散らす絶対的な破壊力をもつDFSの真価を発揮した。
   そのために木星トカゲが、彼女だけを押さえるための『ヤマタノコクリュウオウ』そっくりの機体を準備した。
   アリサとサラは強力な敵機が出る理由は二人にあるとされ、出撃を封じられた。
   その後、一年程度DFSの適正者の発掘と訓練に尽力、その後の四年もパイロット、DFS訓練の教官を務めた。
   この間、二人は半分退役状態になり、大学に通いながらの連合軍への教官勤務を続けていた。
   
   そして、二人は木星との最終決戦に発つことになった。



……ホシノアキトの戦果もシャレにならないレベルだったけど、この二人はさらに上を行くのよね。
なんていうか、比較する方が馬鹿らしくなるわ。
そういえば…『バトルアイドルプロジェクト』への参加も促されてたそうだけど、
彼女たちには連合軍広報部からの依頼で、アイドルというよりは俳優としてのデビューがあったそうで、
アクアの手引きで映画『ダイヤモンドプリンセス外伝-シルバーナイト-』の主人公にも抜擢された。
夏休みがつぶれたって二人は不満だったらしいけれど。
現実同様、引退したホシノアキトの代わりに頭角を現す女騎士の英雄譚、
という設定になったそうだけど…まあ、さすがに見てないわ。

しかし、彼女たちは戦後どんな人生をあゆむことになるのか想像がつかないわね。
何しろDFSをあそこまで操れるとなると核兵器以上の威力があると言える。
戦後、ホシノアキト以上に要注意人物になりかねない。
とはいえ、DFSを操ることができる人間は限られてはいるものの少なくもない…。
DFS適正者の発掘もうまくいって、特別な兵器であるというよりはピーキーな兵器程度になりつつある。
彼女達がいかにすさまじい使い手とはいえ、数で迫られたらアウトだろうし、
そんなに危険でもないのかしらね。
連合軍に属している以上、そんなに扱いづらくないでしょうから。

…ま、どうでもいいんだけど。




















〇地球・立川市・連合軍基地・戦艦ドック・ナデシコC──ハーリー
僕はルリさん…いえ、艦長の帰りを待っていた。
実は初恋のラピスさんのナデシコDに乗りたいって思ったんだけど…。
当時惹かれたのは「未来のユリカさん」であるラズリさんの人格のほうで、
ラピスさんはちょっと付き合いづらいってひそかに思ってる
そもそもラピスさんもラズリさんもアキトさんが大好きで、元々離れられないような過去を持ってる。
僕が入り込む隙間なんて一切ないって分かり切ってる。
でも今もあこがれだし、力になりたい人だなって思う。
状況的にそんな心配はしなくてもいいんだけどね。
なにしろ…。

「ハーリー…お前、ルリ艦長とラピス艦長どっちが好みなんだよぉ~?」

「…サブロウタさん、そういう目で上司を見るの良くないと思いますよ」

「ばか、世間話の話題だろ?
 ガキらしくなくお堅いねえ、お前は」

サブロウタさんは、僕を小突くと、メールチェックをして女の子とのやり取りをし始めた。
…ナデシコDのゲキガンファイブ小隊のサブロウタさんが、なぜかナデシコCのブリッジに来ている。
これが僕がラピスさん、ラズリさんと離れてる艦に配属されても気にしないで居られる理由の一つだった。

サブロウタさんに、ああは言ったけど…実はルリさんも気になってる。
優しくて柔らかい性格、けどたまに突き刺すようなツッコミも、
物静かだけどとっても感情豊かな表情も、スタイルの良さも、なにもかも…。

…でも、ルリさんは僕なんかやっぱ眼中にないんだろうなぁ。
ラズリさんが初恋だってラピスさんにばらされちゃってるし…。

『ハーリー君、ラズリさんの代わりに私を好きになるなんて幻滅しました』

ってばっさり言われちゃいそうで、なんか怖いんだよね…うう…。

…隣で、立体ビデオメールを見てニヤニヤしているサブロウタさんくらい図太くなれればいいんだろうけど。

「…サブロウタさん、そんなふうに女の人を軽視してるといつか痛い目をみますよ」

「おっと、言うねぇ、ハーリー坊や。
 けどな、お前みたいにお堅いばかりで女の子に近寄りもできないおこちゃまじゃ、
 痛い目も見れないのと違うか?」

…うっ。
それを言われちゃうと、僕はがっくり来てしまう。
恋愛なんて知らない子供って言われても仕方ないのは自覚してるけど…。
でも失恋もできない臆病な性格だと、「いい人」どまりだってラズリさんに言われたんだよね…。
実例がいるって…そんなことを言ってるラズリさんの目線の先にいたのはアオイさんだったけど…。
アオイさんって彼女居たよね…なくなったあの未来の話かな?

いや、僕だってあと五年あればチャンスが…。
……五年もルリさんを放っておく周りじゃないよね、うう…どうしたらいいんだ…。

…それにしてもサブロウタさん、初めて出会ったころのさわやかな熱血漢ぶりが嘘みたいだ。
再会したサブロウタさんは本当に変わってしまった。
眼上さんのスカウトで実写版『ゲキガンガー』で天空ケン役で主演俳優デビューしてからというもの、
芸能活動に没頭して、木連から連れてきた許嫁との関係が悪化してから、女遊びに走ったと噂になってる。
髪まで染めて、とってもチャラい男になっちゃったんだよね…幻滅だよ…。
で、芸能界でやってきたけど女性問題で立場が悪くなって、ほとぼりを覚ましに統合軍経由でここに来た。
九十九さんと秋山さんに呆れられながらも、腕は本物だからと許可がもらえた。
なんでも、未来のルリさんであるユリさんが「やっぱりこういう運命をたどっちゃったんですね…」
って言ってたように、未来ではナデシコCに乗ってた上に、何かしらの理由でこういう姿になってたみたい。

ああ…神様って残酷だよね…。










〇東京都・池袋・アイドルプロダクション『大和』合宿所──ライザ
そういえば、わざわざ改めて連合軍に入り直したのよね、あのハーリーって坊やは。
まだナデシコに乗ってた頃のルリと同じ年ごろだけど、
ラピスの一件で連合軍に早く入りたいと志願してたようだった。
…物好きも居たもんよね、戦いが別に好きじゃないルリのために、勝手に戦いに行くんだから。
ガキって感じだけど…憎めないタイプよね、あの子も。







PMCマルス関係者についての報告
________________
マキビ・ハリ(11)
経歴:ルリと同じマシンチャイルド。
   研究員で銭ゲバ野郎の里親に引き取られたルリが心を閉ざしがちだったため、
   その反省で普通の里親を探して育てられたらしい。
   性格は年相応だが、ルリ、ラピス、ユリに次ぐ名オペレータ。
   ナデシコCのオモイカネ、ナデシコDのオモイカネダッシュとも相性がよい。
   
   ホシノアキトが戦いから降りると同時にユーチャリスから降りたが、
   その後はオモイカネシリーズの研究と、IFSの研究のためネルガルに勤務。
   このことについて世間では再び人体実験をしようとしているのかという非難が多かった。
   
   そのため、コンピュータ関係の開発事業に転職。
   この五年間は穏やかに過ごしていたようだったが、ナデシコCのオペレータとしてスカウト、
   短期養成コースと、IFS強化者としての優待で連合軍に入隊。
   最終決戦に挑むことになる。
   







PMCマルス関係者についての報告
________________
高杉三郎太(23)
経歴:元木連優人部隊の艦長候補だった男。
   連合軍と木連軍の初の共同戦線の時には白鳥に代わって戦艦かぐらづきで艦長代理を務めた。
   地球に移住すると、そのルックスの良さから眼上マネージャーにスカウトされ芸能界へ。
   実写版ゲキガンガーで一躍有名になると、女性関係でトラブルを起こすようになり、
   許嫁だった女性と破局、それからどんどん身を持ち崩すようになってしまう。
   彼にとっては許嫁が本当の意味での心の支えだった、という評価もある。
   
   パイロットとしての腕前も確かで、ブランクがあるにも関わらず、
   彼を嫌っていたパイロット連中をごぼう抜きにしたという逸話もある。
   
   元上司の秋山曰く、
   「あいつは頭も切れるし、義理堅いし、頼れる男なんだが、
    芸能界でタガが外れちまったんだなぁ」
    という評価で、
    実は心根が優しいというかだらしなくて断れない性格というか、
    そういうのが災いして、いろんな人にいい顔をしたがってしまうらしい。














○地球・東京都・とあるアパート──ヒカル
「先生ー、そろそろ原稿で根を詰めすぎてはいけませんよー。
 一人の体じゃないんですから」

「わかってる〜〜〜。
 じゃ、みんな今日はお疲れ様〜」

アシスタントのみんなは、頭を下げて解散していく。
私は大きくなったお腹をさすりながら一人ノンカフェインのお茶を飲んだ。
…もう五か月かぁ。
艦長とユリさんより私がデキちゃうのが早かったなんてちょっと意外だよねぇ。
何しろホシノアキト君も、テンカワ君も、ちょっとおとなしく見えてすごいお嫁さん想いだもん。
…そろそろ戻ってくるかなぁ。


がちゃ。


「悪いな、ヒカル。
 ちょっと引っ越し準備で戸惑っちまって」

「ジロウくんってば、単身赴任の前に冷たいんだからぁ」

「そういうなって、ほら今月のうるるん買ってきたぜ」

「さんきゅ~~~ジロウくぅん!」

「お邪魔するわよ、ヒカル」

「イズミちゃ~~~ん!いらっしゃい!
 リョーコは?」

「実家にお別れを言いに行ってるから明日の朝、挨拶に来るって言ってたわよ。
 あい、さっしてくださいと……く、くふふふ…」

…相変わらずのわかりづら~い駄洒落だよねぇ、イズミちゃん。
でも、なんか元気なさそう。

「イズミちゃん、元気ないみたいだけど大丈夫?」

「…少し疲れてるだけよ。
 連合軍なんて性に合わないけど、パイロットが一番向いてるって分かってるから。
 同情するなら金をくれ、元気がないのは現金がないから…あははは…」

「…イズミ、お前どこまでやるんだ、それ」

「どこまでもよ」

…イズミちゃん、なんかちょっといつもより空回りしてる感じがする。
私達のこと、羨ましいのかな。
婚約者を二人も亡くしてるって聞いたし、仲良くしてる姿を見せるのってあんまりよくないのかな…。
ううん、イズミちゃんそんなに心の狭い子じゃないもん。
私が変な心配する方が失礼だよね。

「…それより、少し気になることがあるの。
 なんか一部のナデシコクルーの動きが妙じゃない?」

「あ?ンだよそりゃ。
 俺たちに隠れてコソコソなんかやってるってか?」

ジロウ君はちょっとムッとしたような表情でイズミちゃんを睨んだ。
仲間を信じられないなんて何考えてるんだって、言いたそう。

「コソコソしてないから妙なのよ。
 考えても見なさい、ヤマダジロウ」

「ダイゴウジガイだってんだろ」

「…じゃあいいわよ。
 ちゃんと聞いてくれるならガイって呼んだっていいわよ」

「う…」

ジロウ君は少し気圧されて、黙り込んでしまった。
イズミちゃん、ホントはちょっと怖いんだよね。真剣な話を聞かないのを許してくれないっていうか…。
ジロウ君も、いい加減ダイゴウジガイ呼びは諦めてるんだけど、不機嫌になると遮るために使ったりするんだよね。
そういうとこ、大人っぽくなったような、子供っぽいままのような、かわいいところなんだけど。

「ガイ、あの目立ちたがらないルリがなんでアイドルをやってると思うの?」

「そら…ホシノのためだろ。
 木星に行くのだってそのためだろ?」

「そう。
 …だけど、そこまでする必要があるかっていうと、疑問が残るわ。
 やりたくないことをしてまで、目立ってまでやることじゃないのよ」

私達は黙り込むしかなかった。
──そう、眼上さんとラピスちゃんの始めた『バトルアイドルプロジェクト』。
その参加メンバーは、本来アイドルをする可能性の低い人達も名を連ねている。
ルリルリも、ラピラピも、絶対に自発的にアイドルをやりたがるはずがない。
ホシノ君のためだったとしても、アイドルなんか絶対にやらない。
それどころかミナトさんまで参加して…。
…何か、よそよそしいんだよね、元ナデシコクルーの一部と、PMCマルスのスタッフ。
この五年の間、いつも、どこをみてもメディアに露出がある。
それも芸能界半分引退状態のホシノ君と入れ替わる形で、目立つように…。

まるで『ナデシコもPMCマルスもまだまだ引っ込むつもりはないぞ』って全世界に言ってるみたい。
それこそ、ホシノ君らしくないし、仕組んだ側とも思えないんだけど…。

「…そりゃ分かってる。
 あいつらがなんか秘密を共有してる事自体は知ってる。
 だがな、俺に言わないのは別に俺たちを信じてねぇからじゃねえだろ。
 俺たちに遠慮してるからでもねぇ。
 
 やりたいことじゃないっていっても、やらなきゃならねえことかもしれねぇだろ。
 あいつらの心根の優しさはお前も認めてんだろが。
 信じてやれよ、イズミ」

「…」

ジロウ君、ナデシコのみんなのことになるとちょっと手厳しいんだよね。
イズミちゃん、黙っちゃった。
ちょっと自己嫌悪してるのかな…。

「…そうね。
 そもそも私達はもうすぐ木連に発つっていうのに…。
 何もできなくなるっていうのに、心配ばかりしても意味ないわよね」

「いいじゃねぇか、心配くらいしてやれよ。
 大事だってことなんだから」

「ええ…」

「全員で生きて戻ろうぜ、イズミ」

「そうね…ヒカルを未亡人にするわけにもいかないわ」

「も~~~~イズミちゃんったらぁ」












〇東京都・池袋・アイドルプロダクション『大和』合宿所──ライザ
ナデシコ隊って、PMCマルスに比べても濃い面々が多いのよね。
PMCマルスの連中はどっちかっていうと、ナデシコに比べれば一流に近いものの、
性格は大人しいが、実力派いわゆる二軍的な人員が多い。
スカウトされたばかりのテンカワアキトに至っては『ど素人』だったものね…。
でも、そんな男がまさか上り詰めるなんてね。素質があるって分かってたとはいえ…。
素質なんて、機会がなければ発揮されないってことでしょうね…。


元ナデシコクルーについての報告
________________
ヤマダ・ジロウ(23)
経歴:元連合軍パイロット少尉、
   ナデシコAでの二年半の戦いを経て、
   再び連合軍に属しており、現在大尉。
   接近戦を得意とする、名うてのエステバリスライダー。
   かつては周囲との連携が不得意だったが、五年の歳月の中で自分でコツを見出して、
   現在ではスバルリョーコの「ライオンズシックル」に次ぐ、
   元木連優人部隊の月臣、三郎太、他二名によって攻勢された強力な小隊、
   「ゲキガン・ファイブ」の指揮官として戦っている。
   現在は連合軍は一部、木連の人間と構成された統合軍として組織されている。
   まだわだかまりがゼロにはなっていないので、混成部隊としての側面が大きいが、
   最終決戦のため木星に向かう艦隊を組織するにあたって、この意義は大きかった。
   ちなみに、優人部隊の九十九と秋山は地球上における統合軍の、木連勢力の統括を行っている、
   この二人は事実上、木連側の戦力の総司令としての働きを見せている。
   
   ヤマダジロウは、ホシノアキトたちの結婚式の一年後、アマノヒカルと結婚、
   現在、ヒカルは懐妊して五カ月になっている。
   






元ナデシコクルーについての報告
________________
ヤマダ・ヒカル(23)/旧姓:アマノヒカル
経歴:ナデシコAから降りて半年ほど、出版社への持ち込みを続けていた。
   ナデシコに乗っていたというネームバリューを捨てて挑み、ようやく連載を勝ち取った。
   そのあたりでヤマダジロウと良い仲になり、半年後に結婚、現在に至る。
   ヒカルは今のところ原稿を遅らせたり落としたりしたことはなく、
   過酷な漫画業をしながらも、夫婦仲は良好らしい。
   
   ヤマダジロウが木星に出発することに反対していたものの、
   『ヒカルは漫画家を辞めて子供を育てることに専念しろっていったらするのか!?』
   と、自分の生き様に対するプライドを捨てることもできずにいたので、しぶしぶ頷いたらしい。







元ナデシコクルーについての報告
________________
マキ・イズミ(23)
経歴:両親が元々漫才師であり、家を空けてる事が多かったが、
   本人は芸人になるつもりはあまりなかったらしい。
   元々は普通の幸せを求めているタイプだったらしいが、
   過去に婚約者を二人無くしており、そのせいか人生観がやたらにドライ。
   ダジャレで平衡感覚を取る癖があるような女。
   
   美人だがその異質な性格のせいか、彼女に近づく者はほとんどいない。
   
   ナデシコAから降りた後は、芸人としてデビュー。
   ナデシコに乗っていたというネームバリューをフル活用するも、大成せず。
   スナックの雇われママを半年ほど続けたのち、二年前に連合軍に入隊。
   『接近戦バカ』軍団の『ゲキガン・ファイブ』の遠距離支援要因として配属。
   キルスコアでは目立たないものの、彼女に救われた隊員は数知れない。





…本当に、よくこんなパイロットでやってけたわよね、ナデシコ。
『性格に問題があっても腕は一流』、
このコンセプト…仕事に差し支えるレベルの人間が多いっていうのに、
よくまとまって二年以上戦えたわよ、ホントに…。









〇地球・東京都内・ウリバタケ家──ウリバタケ
俺は最新型『リリーちゃんバージョン13』をいじりまわしていた。
この五年で技術的に上がってきたもんだから、なかなか人間に近くなってきたぜ。
…シーラちゃんに『フィギュアは得意な癖に、ウリバタケさんロボットになるとなんでそんなひどいんです!?』
って言われたのが堪えてな…。
動く表情ってなると研究がすごい必要だから、俺も人体の動きの研究から始めないといけなくてな。
まあ、形にはなってきたな…。
だが…。

「あんたー、ちょっと出かけてくるから子供をしっかり見るんだよ。
 まったく、あんたは作ることばっかり一生懸命なんだから。
 ちゃんと面倒みないと、あたしだって愛想つかしちまうよ」

「お…おう…」

俺が一息ついていると、オリエが買い物に出かけていった。
…。
この五年くらい、オリエが妙に穏やかなんだよな。
子供が増えると嬉しそうな顔はするんだが、そのあとむっとした顔をするのがお決まりだったんだが…。

俺がちゃんと面倒を見ないし、金をすぐ取り戻すからって使い込む事も多くてDVくらう事も多かったのにな。
まあ、ネルガルの開発部の手伝いとかで継続的な収入が増えたってのもあるが…どうしたんだろうな。

……まさか、オリエ、誰かどっかの男に…?

…。
いや、そ、それはねぇな。
ねえと…思いたい…。

……帰ってきたら、肩くらいもんでやろうかな。

「とーちゃんよぉ、バイクのレストア手伝ってくれよぉ」

「お、おう…」

…でかくなったよなぁ、こいつも。
来年は高校に通うってんで、バイクに興味を持ち始めたが…。

…俺はちょっとだけ、上の空のまま、うちの長男のバイクをいじった。






元ナデシコクルーについての報告
________________
ウリバタケ・セイヤ(34)
経歴:元伝説の違法改造屋だったが、逮捕されるのを恐れて三年ほどは大人しく生活しており、
   その後にナデシコにスカウトされ、エステバリスのパワーアップや、
   『翼の龍王騎士』の設計に関わったという経歴を持つ。
   ナデシコAを降りた後は、自分の改造屋を再開しつつも、ネルガルの開発部に所属、
   週の半分程度は手伝いに行っている状態である。
   
   アルストロメリア、エステバリスカスタムの設計にもかなり関わっている。
   木星への遠征は断っているが、彼の弟子たち、ナデシコAの整備班員はかなり随員する模様。
   
   なお、彼は『モノづくりだけではなく子づくりも好き』と揶揄されているほど子だくさんであり、
   夫婦仲はいいとは言えないが、絶妙なバランスで結びついているということらしい。






〇東京都・池袋・アイドルプロダクション『大和』合宿所──ライザ
この男もちゃらんぽらんだけど、まあ、居なくはないタイプよね…。
テツヤとは別の方向で歪んでる気もしないでもないけど。
とはいえ、彼なしでは『翼の龍王騎士』も生まれなかったと考えると、
とんでもないメカニックよね。

そういえば、未来からの逆行者はホシノアキトたちだけじゃなく…。
アカツキナガレたちもそうだったそうね。

未来じゃスキャンダルになるほど女遊びしすぎて、
遺跡の演算ユニットの取り合いにも敗北、
連合軍との折り合いが悪くなって、『落ち目の会長』とか揶揄されたとか…。

…まあ、たぶんクリムゾンのハニートラップに引っ掛かったんでしょうね。

そういう意味じゃ、ウリバタケの方がよっぽどマシなのかも。












〇地球・エリナの実家──エリナ

「エリナーそろそろ終わりにしなさいよ、体に悪いわよ」

「分かったわ」

私は母さんに言われて、閲覧していた書類ファイルを閉じると、リビングに向かった。
もう22時…ちょっと仕事しすぎたわね。
私はカフェインレスコーヒーを飲んでいたら、父さんがどこかそわそわしている様子が見えた。

「な、なあ…ナガレ君は、大丈夫だろうか」

「大丈夫って?」

「い、いや…何ヶ月も離れてると、そのな…」

「…ナガレ君なら大丈夫よ。
 いつの話をしてるのよ、父さんってば」

「だ、だがな…」

父さんは母さんになだめられてもどこか落ち着かない様子だった。
…まあ、ナガレ君のナンパグセは有名だったものね。
結婚する時の挨拶の時も散々誓わされたし。

…ナガレ君とゴールしてもう3年かぁ。
ネルガルの会長を目指した、あの頃の自分だったらなんていうのかしらね、今の状況。
まさか、攻めの姿勢じゃなくてこんな風にやった方がずっとネルガルが躍進するなんて、
聞いたら卒倒しちゃいそうよね。

…まあ、ちょっと心配なのはあるわよね。
ナガレ君を支えてくれてるのは、あのサヤカさんだもの。












〇地球・東京都・ネルガル本社──プロス
私とゴート君は会長の護衛と経理の仕事をしつつ、会長室に居ました。
もっともゴート君は監視カメラの映像をチェックするばかりで、あまり動いてはいませんが。

会長はナデシコに乗る前も、降りた後も、激務に次ぐ激務で、疲労しています。
しかし何というか、その間も鍛錬は続けており、体力は何とか持ってますが…。
若いとはいえ、さすがに疲労の色が濃いですなぁ。

「ナガレ君、やりすぎよ。
 今日は終わりにしましょう」

「あ…うん。
 な、何時だい?」

「もう22時よ。
 一緒に片付けましょう。
 ほら、エリナにちゃんと電話しないと愛想つかされちゃうわよ」

精魂尽き果てたような表情の会長は、照れながらサヤカさんと一緒に書類を片付け始めました。
エリナ会長秘書が産休を取ってからも仕事を分担してはくれていますが、
トップを走るネルガルはまだまだ休める状況ではありませんな。
まぁ~~~それでも無理に会いに行こうとするくらいには愛妻家になった会長ですが…。
人間変わるものですなぁ、あの放漫な性格の会長が。

サヤカさんも会長を支えるために秘書業を続けていますが、
父親のムトウ社長からはそろそろ身を固めてもいいぞ、
と言われていながらも、亡くなられた前会長の婚約者だったこともあって、
そのつもりもなさそうで、ムトウ社長も寂しそうでしたなぁ。
会長の兄である前会長の姿を、どこか重ねているのでしょうなぁ…。

「…ミスター、そろそろ帰るぞ」












〇東京都・ネルガルナノマシン研究所の近く・フレサンジュ家──アイ

「あー疲れた、ただいま!
 ママ、お義母さん!」

「おかえりなさい、アイちゃん」

「おかえり、アイ」

私は仕事の後に、バラエティ番組の収録があってだいぶ長引いたけど、何とかなった。
教育テレビの看板番組『なぜなにナデシコ』も五年の長寿番組になってきたけど…もうそろそろ潮時かしらね…。
『天才少女』ともてはやされたのも落ち着き始めて、
今は「ちょっとかわいいけど背が高い、頭のいい女子高生」枠になりつつあるもの。
ハタチが近づくとさすがにあの役どころはちょっとね…。
そろそろ誰かにバトンタッチしたいって言ってるんだけど、なかなか代役が出てこないし…。
別に私が前面に出ることないのよね、あの番組できるなら。
ホシノお兄ちゃんの子供が育ってからだとしても、あと十年は欲しいものね。
まあそれくらい経っちゃうと、私も「説明おばさん」に返り咲いちゃうわけだけど…。

それから、私達は一時の団欒をしていた。
もっとも、団欒と言いつつもナノマシンの研究の話をしてる時間が長いんだけど。
トモコママは、元々素人だったけどなんとかナノマシン研究に食らいついて、助手役を出来るようになった。
イリスお義母さんは、相変わらずバリバリの研究者。
ホシノお兄ちゃんのうるう年ナノマシンを入れて、体力の維持までしてる。
元気で居てほしいな、二人とも…。
前の世界じゃ二人とも死んじゃったんだもの…。
…家族と居られる時間が、大切で仕方ないの。

「アイちゃん、戦争が終わったら火星に戻ってナノマシンの研究をするってホント?」

「うん。
 まだまだ未知のナノマシンがあるっていうのは分かってるし、
 火星から送られてきたサンプル、すごかったもの」

「じゃあ私達も行かないとね。
 …でもアイ、ちょっとくらい女の子らしいことしてもいいのよ?」

「…そっちはちょっとね。
 何しろ、私、中身は四十歳だもん…」

「何言ってるのアイちゃん、いつもはそんなこと言われたら怒るのに」

「人に言われるのと自分で言うのは大違いでしょ。
 …それに、好きな人はみんなくっついてるし」

「アイちゃんったら…」

…私、せっかくやり直す機会をもらえたのに、臆病なままよね。
子供らしく居られるはずだったのに、結局お兄ちゃんたちのためにイネスのころと同じことを…。
…でも、そうせずには居られないの。
結局、私は私の願いを…叶える資格なんてないのかもしれない…。

私は…どうしたらいいの…?










元ナデシコクルーについての報告
________________
アカツキ・ナガレ(25)
経歴:ネルガルの若き会長として名を馳せていたが、
   六年前はナンパ師として有名だった。
   しかし、いつしかエリナ秘書に惹かれて以後はそのような話はぱったりと消えた。
   ホシノアキトの親友であり、一時は対立したこともあったが和解。
   ホシノアキト共に木星戦争の立役者と呼ばれる働きを見せる。
   
   また、サイボーグとの戦いにおいて、ホシノアキトほどではないが一流の諜報員顔負けの戦いを見せ、
   エステバリスの操縦の腕も超一流。
   どこで彼の人生が変わってしまったのかは不明だが、
   ホシノアキト関係であることは間違いない、と彼に身近な人間は口々に言う。
   
   配偶者はエリナ。
   三年前に結婚したが、二人とも仕事を第一に考えてるためか、
   中々夫婦の時間は取れていなかったらしい。
   それでも充実した時間を過ごせていると、本人たちは気にしている様子はない。







元ナデシコクルーについての報告
________________
アカツキ・エリナ(25)/旧姓:エリナ・キンジョウ・ウォン
経歴:ネルガルの会長秘書を務めていたが、元々上昇志向が強すぎるタイプで、
   危険な駆け引きをしてでも勝とうとする癖があったが、
   ある時を境にアカツキナガレと協力関係になり、深い仲になっていった。
   ホシノアキトともかなり深い関係を持っており、ラピスラズリの世話をしていたことがあるという。
   一時期、疑似的な家族関係になるものの、最後の一歩を踏み切れなかったのか、きっぱりと別れる。
   しかし、ホシノアキトともラピス、ラズリとも仲が良い。
   
   エリナはアカツキナガレにかなり信頼されており、仕事を任されていることも多い。
   かなりの働きぶりだったものの、産休に入り、後任を別の秘書に任せている。
   
   彼女はアカツキナガレの泣き所ではあるものの、護衛がしっかりあり、
   アカツキナガレ自身もかなりの実力者なので、今のところ手出しをされることはない。









元ナデシコクルーについての報告
________________
アイ・フレサンジュ(13)/旧姓:カワカミアイ
経歴:火星にて生まれ、普通に育ったはずの少女。
   しかし、肉体年齢が実際の年齢より三年ほど進んでいることが発覚している。
   一説には大やけどを負ったことが関係していると言われているものの、
   実母であるトモコ・フレサンジュも同様に肉体年齢が経過していることから、
   なにか超常現象に巻き込まれたという説が濃厚であるが詳細は不明。
   
   その間に何かあったのか、ナノマシン研究のトップクラスの実力を持つ。
   またボソンジャンプについても詳しいが、それは養母イリス・フレサンジュの影響と言われている。
   しかし、イリスフレサンジュもボソンジャンプについて詳しいものの、
   専門は相転移エンジンであるためそれも齟齬がある。
   ホシノアキトのナノマシン治療の主治医として紹介されたのはトモコ・フレサンジュだったが、
   どう考えてもアイの方が詳しい、というツッコミが各所から入っているが、これはほぼ事実だ。
   
   とはいえアイは改造されたわけでもなく、
   個人としての実力が高いので、単に『天才少女』と呼ばれることが多い。
   
   ナデシコAに乗り込んでからは、
   『翼の龍王騎士プロジェクト』『地球・木星間レーザー通信』『DFS開発』に携わっており、
   基礎は火星でくみ上げていたとはいえ、わずか二ヶ月の間に世界を変える発明を完成させた、
   まさに稀代の超科学者と呼ぶにふさわしい実績を持つ。
   
   地球に戻ってからは、バーチャルシステムの新作を作ることに関わり、
   ホシノアキトがナデシコAから降りたあたりで実母、養母から離れてナデシコAに乗り込む。
   ナノマシン研究をつづけながら医務室のアイドル的な立ち位置を確保するも、
   一部クルーと一部整備員には恐れられていた。
   
   二年後、再びネルガルのナノマシン研究所に戻り、研究の傍ら、
   『バトルアイドルプロジェクト』の一端を担う。
   教育テレビの看板番組『なぜなにナデシコ』は、難解なナノマシンやボソンジャンプ、
   エステバリスやナデシコ関係の技術を、一般層に分かりやすく解説することから評判が高い。
   ホシノアキト曰く、
   「説明が長い上にちょっと置いてけぼりにする癖があったが、かなり改善された」
   とのことだ。
   
   一説には『jewelryprincesses』への加入を希望したものの、
   説明癖が祟って断られてしまったという。









〇地球・東京都・池袋・アイドルプロダクション『大和』合宿所──ライザ
…そういえば、私が準マシンチャイルドになるにあたって、
パッチテストはしっかりしたけど、新型ナノマシンと、
ホシノアキトの体内にあったナノマシンを入れたのもアイなのよね。
私がしでかしたことを考えれば妥当なことかもしれないけど、
大概なことするわよね、ラピスもアイも。
……まあ、不満はないんだけど。

そういえば、PMCマルスの中で…唯一違う方向に行ったのも居たわね…。









〇地球・佐世保市・クリムゾン開発拠点──マエノ

「よし、ステルンクーゲル動かすぞ」

『おっけー!
 ヒロシゲさん、ばっちしやってよぉ!』

俺とシーラは一年ほど前からクリムゾンで新機動兵器の開発に携わっていた。
事は、シーラがクリムゾンからスカウトをされたことから始まった。
色々とアキトと敵対していて、ラピスちゃんを追い込んだ敵ってこともあって、
俺たちは断るつもりでいた。

だが、シーラの両親がクリムゾンで働いていたことが明らかになると、
少し考える時間が欲しいと、ラピスちゃんに相談に行った。
シーラは両親の死に疑問を持っていた。
そのヒントでもいいからと、聞ける機会が欲しいと思っていたらしい。
それに、クリムゾンにあった『二足歩行ロボットの制御プログラム』が、
明らかにエステバリスのシステムの原型であり、シーラはそのコードが両親の作っていた者だとすぐに気づいた。
このことだけでも、少しでも在籍する価値があるとシーラは考えていた。
俺は反対こそしなかったが、アキト達への相談をすることにした。

俺たちが決めることで、許可が必要ってことでもないが、クリムゾンは明らかに敵だ。
それに寝返ったと思われるのも気持ちがよくない。
だから正面切って相談することにしたが、ラピスちゃんは相変わらずのぶっとんだ提案をして見せた。
重子ちゃんの占いもあって、大丈夫ってことになった。

そして、クリムゾンの担当者に面と向かってシーラは言い放った。

「私達、PMCマルスからも抜けません。
 ネルガルのスパイと思われてもいい。
 ううん、スパイしに来たと思って雇って。
 そうでないと、かえってお互いすっきりしないでしょ?」

「な…」

ラピスちゃんの提案通り、シーラは堂々と自分がスパイである可能性を込みで雇えといった。
呆気に取られて二の句が継げない担当者に、続けて言った。

「それに私が急死したり、変死したりするようなことがあったら、
 PMCマルスだって黙ってないよ。
 仲間のためならすごいんだから、PMCマルスは。

 でも私たちの身柄の安全と、私の両親のことを教えてくれる条件があるなら、
 私は全精力を傾けて、全技術を提供する。
 
 だったら安いものじゃない?」

「し、しかし──そんなことを堂々と…。
 それに、スパイが入って私達に不利益なものを開発するほうがありえるのでは…」

スパイになるかもしれないとは自分たちでも分かって居たろうに、
担当者はシーラのあっけらかんとした態度にうろたえている。
だが、シーラはにやりと笑って言い返した。

「技術者を侮っちゃいけないよ、担当さん。
 仕事に誇りが持てないようなことをするのは技術者として二流。
 自分の仕事を評価してくれる人の元だったら、自分を大切にしてくれる会社だったら、
 喜んで力を貸すのが技術者だよ!
 それに…。
 
 私はウリバタケさんと本気でやり合える場所が欲しいの!
 予算をたっぷりくれるなら、ネルガルのエステバリスにだって負けないのを作っちゃうよ!」

「!!」

担当者の目の色が変わった。
シーラを手玉に取って、いいように扱おうとしていたつもりだったんだろうが、
シーラが心の底から、全力を出してクリムゾンの復活に協力をしてくれると言ってくれた。
シーラの両親の実力、そしてその娘でPMCマルスの整備班長として、
ウリバタケさんと一緒にエステバリスに触れてきた経験を、すべて注ぎ込む。
その意味が、分かるんだろう。

そして、俺たちはクリムゾンの人型機動兵器の開発担当の主任の地位を手に入れた。
ただし契約期間中は、ネルガルやPMCマルスへ技術的な提供をしないことを条件にしていた。
その後、わずか三ヶ月でロールアウトされた、
新ステルンクーゲルはエステバリスカスタムに匹敵する性能を持ちながら、バッテリー駆動時間は1.5倍、
新機構のマニピュレーターや駆動系を開発したことにより、射撃制度、剛性が高まるという新設計から、
狙撃、長距離砲撃の機体としてとてつもなく高い評価を得ることに成功した。
また、IFSの導入を嫌がるパイロットのために、新開発のリアクトシステムも並行して使えるようになっている。

クリムゾンの兵器は連合に嫌われたのが災いしてかなりの数が減らされてしまっていたが、
この新型ステルンクーゲルは戦艦の直掩や、支援砲撃でゆるぎない評価を得ることになった。
ディストーションフィールドを撃ちぬくためのレールガンの連射がしやすいのはとても評価が高かった。
割合としては小さいが、クリムゾンの反撃ののろしとしては、十分な成果だったといえるな。












〇地球・東京都・池袋・アイドルプロダクション『大和』合宿所──ライザ
PMCマルス関係者についての報告
________________
マエノ・ヒロシゲ(24)
経歴:親からの偏った教育方針により、バイトに明け暮れており、
   その過程でコスプレ喫茶でホシノアキトと知り合い、
   PMCマルスのパイロットとして従事。
   その後、PMCマルスの活動のため、ヒナギク改の操舵手になる。
   
   配偶者はシーラで二年前に一子を設けたが、家族に面倒を見てもらいつつ、
   現在はクリムゾンでテストパイロットとして働いている。




PMCマルス関係者についての報告
________________
マエノ・シーラ(24)
経歴:元クリムゾン機動兵器の開発を行っていた両親を持つ。
   しかし両親がクリムゾンを退社後に死亡したということで、
   マエノ家に引き取られ、マエノといい仲になった。
   入籍は早かったが、マエノは幼い兄弟が多かったため、
   自分たちの子供は兄妹たちの成長が落ち着いてから、と言うことになっていたらしい。
   
   その後、しばらくは子供を育てるためにPMCマルスで産休を取ったが、
   この期間の間に、クリムゾンにスカウトされ、PMCマルスとの相談ののち、
   PMCマルスと関係は切れていないと公言し、けん制しつつも、
   両親の仕事を引き継ぐということでクリムゾンに入社。

   その成果は、ステルンクーゲルMkⅢの目覚ましい性能から明らかである。
   
   また、佐世保から離れたくないというわがままで佐世保に開発所を作らせたことは有名だ。






…シーラの両親の話、ちょっと気になるのよね。
テツヤ、このあたりのレポートを読んだ時に表情が変わったもの。
たぶんトラブルでクリムゾンに殺されたと考えて…。
エステバリスの基礎プログラムは、このシーラの両親が作ったものだという話もあるし…。
裏切りに気付かれた、ってことだろう。
そのことはシーラには一応伝えた。
でも、彼女はあくまで自分で両親のことを知る人間を探すこと、
そしてラピスちゃんの助言通り、
クリムゾンに塩を送ることで、敵対の意思はないと少しでも伝わるかどうかを試したいと言っていた。
…命懸けになるでしょうに、そこまでするものかしらね。
私も人のことは言えないんだけど…。

…まあ、あの甘ちゃん連中のことだから私やシーラたちが死ぬようなことがあったら、
余罪込みでとことん追求してくれるだろうし、別に構わないわ。











〇地球・東京都・大塚駅・町食堂『日々平穏』──メグミ

「「「「「「かんぱーーーーい!!」」」」」」

私たちは今日のアイドル活動が終わって、ホウメイさんの食堂で打ち上げをしていた。
閉店時間は過ぎているのに、私達が来てくれたっていうことでホウメイさんは受け入れてくれた。
アイドルらしくもなく、生ビールで乾杯してる。

…私達は、近々誕生する強力なアイドルグループが居るので、
ナデシコでの縁もあって手を組むことにした。
私はちょっと乗り気じゃなかったけど、
せっかくつかんだトップアイドルの座をあっさり奪われてしまうのはつまらないから。
もっとも、あっちが期間限定のアイドルだし、こっちも期間限定だけどね。

「ミカコ~、あんた、恋人がいるってばれたら怖いのよ?」

「だぁって、好きなのは止めらんないもん」

「そういえばメグミちゃんは、アオイさんとはどうなの?」

「…一ヶ月前に別れた」

「「「「「まぁた!?これで35回目でしょ!?」」」」」

「ほっといてよ!
 …今度こそは結婚まで持ってこうと思ったのに、
 ジュンさんってば…ぶつぶつ…」

「頬が赤くなってて説得力ないわよ、メグミ」

……。
私はジュンさんとはうまくいってなかった。
お互い好きあってるくせに、最後の一歩が踏み出せない。
…一緒に夜を過ごしたこともあるのに、最後の一歩が踏み出せないで五年。
私だって、ぐれちゃいそう。
それに…。

「…それに今度は本当に別れちゃうかもしれないの。
 ジュンさん、好きな人が出来ちゃったから…」

「「「「「ええっ!?」」」」」

「だから、私…もう…」

「だ、だったらなおのこと、ちゃんと捕まえないと!」

「でも、私が手ひどく言ったのに、ジュンさん謝ってばかりで…。
 ……さすがに私の方がひどいって自覚してるのに、怒ってくれないんだもん…」

…私、ユリカさんみたいにジュンさんを軽く扱うつもりないのに、
いつもいつも折れてもらって、逆に段々腹が立ってきて…。
私のマネージャーをしてた頃から、ずっとそれは変わらなくて…。
それでつい、「結婚する気ないんでしょ、バカッ!」って怒鳴っちゃって…。

…私の方がわがまま言って、困らせてるって五年も付き合ってればさすがにわかるよ。
でも…。
ジュンさんは、ちょっとでも自分から手を取ろうとできないから…。
…。
好きなのに…。

「…ああ。
 あんまり、こっちに電話かけてくるんじゃないよ、あんたは。
 …しょうがないねぇ、来週末ならいいよ」

「ホウメイさん、誰からの電話です?」

「ああ…ちょっと古い仲の子がいてね…」










〇地球・東京都・池袋・アイドルプロダクション『大和』合宿所──ライザ

元ナデシコクルーについての報告
________________
メグミ・レイナード(23)
経歴:看護学校や歌のお姉さん、声優業、アイドルなど多彩な経歴を持つ、社検に合格した天才肌。
   その後、ナデシコAに乗り込むことになり、通信士として勤務。
   ジュンと良い仲になってはいたが、付き合っては別れてを繰り返している。
   原因はジュンが意気地なしで、自分から進むことを中々できないから、とは周囲のコメントだ。
   私からはメグミの方が押しが強すぎるからに見えるけどね。
   
   それはともかくとして、ナデシコAから降りた彼女はジュンをマネージャーにして二年ほど活躍していたが、
   一時期は完全に別れたような形になっており、その時にジュンはマネージャーはやめている。
   
   しかしその時の吹っ切れた彼女の成長は目覚ましく、トップアイドルへの道を進むことになる。
   その後、またジュンとくっつくが、週刊誌に邪魔されそうになったりして進展はしない。
   






最近は、ホウメイガールズとタッグを組むことなってるのよね。
新ユニット「食の恵」は、ぶっちぎりナンバーワンアイドル。
ソロ、ユニット、男性、女性アイドル問わずに、最強のアイドルユニットになった。
その理由は、近日誕生する新アイドルユニットのせいだっていうけど…。
   
…どんな勝負になることやら。








元ナデシコクルーについての報告
________________
ホウメイガールズ
経歴:サユリ、ハルミ、ジュンコ、エリ、ミカコの五人からなるアイドルユニット。
   元々近所に住んでおり、同じ料理学校に通っていた、仲良しの五人。
   メグミに触発されて、アイドルユニット『J-Mesh Revolution』としてデビュー。
   バランスのいいアイドルユニットとして大ヒットを連発。
   しかし後からナデシコクルーだったことを知られたことをきっかけに、
   『ホウメイガールズ』として再デビュー、さらに大人気になる。



   
彼女たちはいわゆる「かわいい普通の女の子」で、私達のゴールドセインツよりグレードは一段上。
それに、なんていうか彼女たちは自立心が高いというか、しっかりしてんのよね…。
どうもさつきたちは、自分たちよりホシノアキトのことが一番だからちょっと弱いんでしょうね。
努力家だけど、自分のために頑張るって意識の違いって…。
……なんか他人事には思えない気もするけど。
ま、そろそろ変わっていくでしょ…。


ぴんぽーん…。


誰か来たわね…北斗が見てくれてると思うからそんなに警戒はしていないんだけど、
時間が時間だから、アポなしで来られると困るんだけど…。













〇地球・東京都・池袋・アイドルプロダクション『大和』合宿所・大広間──さつき
私達は、新しく始まったドラマを、食い入るように見つめていた。
天使がどうとか言ってるけど、なんかメカニカルな翼で飛び回っているアキト様。
その先に居るのは、アオイさん。
まだ何の説明もないまま、ただ夜の空で追いかけているアキト様の姿にため息を吐きながら見入っている。

『アキト!
 僕たちが戦う必要はないじゃないか!』

『ある…。
 奴をかばうお前を、許すわけにはいかない!
 力づくでも聞き出してやる!』

『クソッ…やるしかないのか…』

『『超者…』』

そして二人が自分の胸のところに手を当てると、そのままあり得ない光景が見えた。
ええっ!?


『『降臨ッッッ!うおおおおおおっ!!』』


「「「「「「「「「「えええええええっ!?」」」」」」」」」」」」



二人はそのまま自分の服を破り去ると、生まれたままの姿をさらけ出して、
その肌の上を氷のような物体が全身を覆いつくすと、
アーマーをまとった戦士…いえ、鋼鉄の天使の姿に!?

「は、はうっ…」

「青葉!?
 しっかりして、青葉ーーーッ!?」

ああ、青葉が鼻血を出してぶっ倒れたわ!?

…この新ドラマ『超者ライディーン』は日本全土を揺るがすとんでもない作品にだった。
まさか、現在人気絶頂のアオイさんと、
ゆるぎない人気を持つアキト様が全裸になって(当然見せちゃいけない部分は黒く加工してあるけど)、
美少女戦士や魔法少女のごとく裸になって変身する姿をさらけ出すなんて、誰が考えつくのよ…。
……主犯が誰かは、言うまでもないけど。

そしてこのドラマは、視聴率が70%以上を記録して、
ネット配信の見逃し用のアーカイブはアクセスが殺到、サーバーダウンで中々見れなくなったとかで…。
全世界からアクセスされていた都合もあって、一億回再生を突破。
サーバーの増設を余儀なくされたという、曰く付きの番組となった…。

私達は、興奮と絶叫に揺れて、この日は中々寝付けなかった。
ああ、こんなことしちゃうなんて、ホント信じられないわ…。







〇地球・佐世保・喫茶『ムーンナイト』──ナオ
俺は閉店した店内の清掃をしながらアキトの新ドラマを、家族そろってみていたが…。

「…お姉ちゃん、さすがに過保護だと思うの」

「…そ、そうかしら」

ミリアが、妹のメティちゃんの目をふさいでいた。
だが、メティちゃんはすっと手をどけてアキトの変身シーンをじっと見続けた。
ミリアは頬を赤らめて困った顔をしていた…だんだんお腹が大きくなってきたな、ミリアも…。
…ミリアとは二年ほど前に、西欧地方でのアキトとの巡業中に知り合った。
アキトを襲撃する殺し屋との戦い中に、巻き込んでしまったメティちゃんを助けた縁で、
ミリアと付き合い始めて、仲が深くなって結婚までこぎつけて、ミリアは日本にまで嫁いでくれたんだが…。
御多分に漏れず、メティちゃんがアキトファンだったので日本にノリノリでついてきた。
…お義父さんには一生恨むってさんざん言われたっけな。

で、今日も同じくメティちゃんは新ドラマを見てたけど、
中学生になって、もう昔ほどはハマッてるわけじゃないので、絶叫したりはしてないな。
さすがに驚いてたみたいだけどな。

「しかし…よく受けたよな、あのアキトがこんなドラマを…」










PMCマルス関係者についての報告
________________
ヤガミ・ナオ(33)
経歴:クリムゾンの作ったクローンだが、研究員が連れ出したことで自分自身の人生を歩むようになる。
   なお、彼は自分の出自について、同じ出身のブーステッドマン達に聞く機会があったらしい。
   高校卒業後、ボディーガードの仕事を続けてながらストリートファイトに明け暮れていたが、
   ホシノアキトとの出会いで、PMCマルス保安部主任の座に就く。
   しかし、四年前に事実上PMCマルス本体としての活動がほぼ停止てアイドル事業に注力した頃から、
   ホシノアキトの関係者の護衛を中心に動くようになる。
   そして二年前に町食堂『星天』が開く頃になると、護衛をしやすい状況を作るため、
   隣に『ムーンナイト』という喫茶店を開き、いざという時のために備えることになった。
   このあたりで、ミリアという配偶者を得て、ミリアの妹のメティと三人暮らしになる。











〇地球・東京都・池袋・アイドルプロダクション『大和』合宿所──ライザ
「…あんたね、こんな時間に女の子の家に来るんじゃないわよ。
 常識がないの?
 ただでさえ私達は週刊誌に狙われてんだから…」

「いや、だけど…その…」

「…どうせあんた、またメグミと喧嘩したんでしょ?
 愛想尽かされかかってるからって、ヤケになって私のところに来ないでよ」

「えっと、でも、僕は本気で…」

この深夜にどこで買ってきたのか分からないけど花束を持って、私に会いに来たのは…。
アオイジュンだった。

「…本気なのは分かってるけど、あんたのことだからメグミのことも頭から離れてないんでしょ。
 私みたいな薄汚れてて、手も汚れてるような女と付き合うなんてどうかしてるわよ。
 大体ね?
 好きあってるくせに、あんたが臆病なせいでまたダメになりかかってるんでしょ。
 ちゃんと完全に終わらせないうちに、口説こうったってダメに決まってるじゃない」

「う…」

ジュンは私が畳みかけると、図星を突かれたようにうろたえた。
そう、ジュンは一年ほど前から、メグミのマネージャーを辞めたころから、
ラズリに言われて、男性アイドルとしてデビューすることになっていた。
年齢的にはだいぶ進んでいたものの童顔で女性的な空気が意外と受けて売れっ子になっちゃったのよね。
…で、その期間、私もジュンにたまに愚痴を聞いてもらってた縁があって少しだけ付き合った。
寂しそうにしていたジュンを見て、行きずりで一晩だけ抱かせてあげたこともあった。
でも、その時もジュンの心にまだメグミの姿が残っていることに気付いて、追い返した。

…それからも、ジュンとメグミはまた別れたり付き合ったりを繰り返してる。
ホント…幸せな生き方してると、変なことにこだわるのよね…。
想い合えるパートナーの尊さを、贅沢に軽視出来るんだから、お気楽よ。

「ほら、メグミに電話して間を取り持ってあげるから帰りなさい。
 …あんた達だったら、世間を騒がせるいい夫婦になれるわよ。
 これだけ喧嘩別れしても、お互いのこと忘れらんないんだから」

「……はい」

「花束は受け取ってあげるわよ。
 メグミに謝るにしてもこんなもん持っても喜ばれないでしょうから」

私が断わると、ジュンはとぼとぼと帰っていった。
北斗にはちょっとだけからかわれた。

…。
私はジュンとはもう付き合わないと決めている。
あの少しだけの付き合った期間で、少しだけ自分の幸せをつかもうと思えた。
でも、私はその中で気づいた。
『住む世界が根本的に違う』のだと。
…だから、私はもういい。
仲間たちと居られる、家族として受け入れてくれる人がいる。
その幸せだけでも、身分不相応な幸せだと思えるから。
生き残れたら、それで終わりでいい。それだけで、十分。

無理だと分かっているけど…できれば…あの人も…。








元ナデシコクルーについての報告
________________
アオイ・ジュン(25)
経歴:元は連合軍士官学校でのユリカに次ぐNo.2の実力者。
   エリートコースを走ることが決定していたが、ユリカに付き添う形でナデシコに乗船。
   テンカワとユリカがくっついて完全に失恋した後、メグミとくっつくが、
   ことあるごとに別れているので、私が知っている限りで36回は別れてくっつき直している。
   
   一年前に、ラズリの勧めで『バトルアイドルプロジェクト』に参加。
   童顔で女性的なところが気に入られている。
   アイドルとしてはかなり遅咲きなものの、天龍地龍兄弟のダブルドラゴンに次ぐ、
   男性アイドル人気二位を獲得するという大健闘をしている。
   なお、実は連合軍の外部公報員として連合軍に籍を置いている。




まあ…私もジュンは嫌いじゃないけど、水と油なのよね、結局は…。
メグミの尻に敷かれてなさけない顔してるのがお似合いなのよ、まったく…。

…そういえば、彼らには直接関係ない人も、書いてあるのよね。
一応クリムゾンと敵対する可能性もあったし…。



アクアとブーステッドマン達のその後
________________
アクア・マリン(23)/旧姓:アクア・クリムゾン
クリムゾン家から勘当同然で追い出され、アクアフィルムを興して映画業を始めたが、
五年前の『ダイヤモンドプリンセス』三部作の後、五年経っても中々落ち着かない売れっ子になっている。
映画業だけではなく、『ダイヤモンドプリンセス』関係のスピンオフ作品を五年以上しぶとく展開している。

夫のクリス・マリン(54)も、忙しくなりすぎて自分らしい作品が作れないのを嘆いているが、
そうはいっても彼のロマン主義、破天荒なSFは健在。
この五年の間に七本撮影された映画は、どれも大ヒットしている。

ブーステッドマン達は、映画会社に所属する傍ら、
戦災孤児、人身売買、人体実験に遭った孤児を支援する団体を支援する活動を始めた。
彼らにとっては戦争に加担した連中の尻拭いだと分かっていても、
日の当たらないまま、支援が届かないで消えていく『自分たちと同じ境遇の人々』が放っておけなかったらしい。
直接的な活動はインやエルが行っており、書籍などでの啓発はジェイが担当している。
カエンは映画業一本に打ち込んでおり、歴史に名を遺すヒールとして活躍、アクアフィルム外の映画にも多数出演している。
しかしその一方で、匿名で支援団体に多額の資金を寄付しているのがバレバレだったりする。
この支援団体に、ホシノ兄妹もこっそり支援しているという話もある…。

そして最強のサイボーグだったDについて…。
体の八割という過度のサイボーグ改造手術による寿命のため、二年前に死亡した。
彼は晩年、余命の最期の一ヶ月間、かつてアクアにスカウトされる前に過ごしていた片田舎の家で過ごし、
エルに看取られて静かに亡くなったらしい。



…まあ、なんというかアクアの突拍子もない人質事件でホシノアキトの将来が決定してしまったのよね。
あの事件と映画がなくても木連との和平は成功したでしょうけど、
全世界的に反戦を願う空気が生まれたというのは『ダイヤモンドプリンセス』があったから。
そして、彼を芸能界に一生縛り付ける理由が生まれてしまったのよね…。

それに、ブーステッドマン達のその後だけど…。
彼らも思うところがあったんでしょうね。
残されている寿命が決して長くはないと分かっているし、本当にやりたいことをやり抜いて死のうと…。
…Dのように逝けるのは、ある意味理想の人生のエンディングかもしれないわね。

あの支援団体に…実を言うと、私も結構出資してるのよね。
一応ピース銀行を経由して、気づかれないようにはしてるんだけど。
こんなの、私のしてきたことに比べれば罪滅ぼしにもならないけど、やらずにいられなかった。
それに…人身売買を一件でも防げるのなら…私のような生き方をする子が減れば…。

あ、そういえばそもそも支援団体を作ったピースランドの事も…。










ピースランドのその後について
________________
ピースランドは、ホシノアキトの影響でさらに売り上げを伸ばし、
現在では倍以上の利益を出すのが通常になっている。

また、ホシノルリの一件で、
戦災孤児や人身売買、人体実験に遭った孤児などを支援する団体を設立した。
元々お金に困ってない国ではあったものの、この活動の額は膨大になる。
ほぼすべての国、すべての地域を支援するに等しい。
復興が進み、チューリップが消えた現在でさえも、各国の経済状況は完全には復活しきってはいない。
そうなるとピースランドの負担は大きなものになってしまうので、
ホシノアキトとナデシコクルー、バトルアイドルプロジェクト参画者、ブーステッドマン達がチャリティーの巡業に出回ることが一時期、起こった。
彼らの巡業がきっかけで大きなイベントが起こり、寄付も起こり、経済的な効果も大きかった。
そんなこんなで、この活動は軌道に乗っていた。

ピースランドの王族はホシノルリとかなりいい関係を築けており、ルリはお盆や年末年始の一日は必ず帰省している。
そもそもjewelryprincessesのアイドル活動の依頼でたびたび呼ばれてはいるが…。





…ピースランドの王族は、私にはまだいい印象がないのよね。
まあ、警備をぶち破って、ラピスをさらったってなると当たり前っちゃ当たり前なんだけど…。
誘拐って言えば、あの少将もどこに行ったんだか…。










バール少将の最期について
________________

バール少将は、太平洋に消えたらしい。
らしい、というのは誘拐されたまま行方不明だった。
連合軍関係の重要事件の参考人として連行されていたバール少将をさらったという、前代未聞の事件だった。
現段階では『ホシノアキトと敵対する勢力の仕業である』というのが最有力ながら、
連合軍の戦艦の換気システムに催眠ガスを流した手順から、
連合軍の内部にもその勢力が通じているのでは、とのうわさもある。
いずれにしても、バール少将が生きていないということには変わりはないだろう。




この事件…十中八九クリムゾンのシークレットサービスの仕事だと思うんだけど…。
連合軍の戦艦に乗り込むというリスクを冒すかしらね。
あくまでクリムゾンは『足がつかない』状態でないと動かないはず。
外部のグループに依頼してるにしても、足がつく可能性が高いし…。
…まあ、発生した以上は、間違いなくクリムゾンに与する勢力ではあるでしょうね。
彼を消した後、バール少将の家を、家族もろとも焼き払ったという報道もあったし…。
証拠を徹底的に隠滅した、と考えるべきね。

「ふぁぁ…明日はやすみだけど…。
 また午後まで寝てる事になりそうね…疲れたわぁ…」

私はレポートを見終わって、ため息を吐いた。
さすがに胃腸もちょっと疲れたかもしれないわね。
胃もたれはしないけど、身体に影響がでるかも。

…それにしてもこのレポート、あんまり有益じゃないっていうか、
彼らの人間関係のレポートになってる気がするわ。
書けない部分が多すぎてこうなっちゃうのは仕方ないけどね…。

…まあテツヤも、こんなん見せられたら苦笑するでしょうね。

こんなものを書いてしまう私に…でも、いいわ。
それだけ私は…満たされてるってことだろうから…。
そのまま、私はベットに横たわって睡眠をむさぼった…。


・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


翌日私が午後まで眠って、自堕落な休日を過ごしていたところに、
夜遅くになって、眼上が一人の女の子を連れてきた。
どうやらメグミとホウメイガールズの合同ユニット『食の恵』に対抗する手段として、
こちらも新メンバーでテコ入れを図ることにしたらしい。
諸事情で抜けがちなメンバーを補う、私と同じ専業メンバーが一人増えるってことだけど…。

「ほら、自己紹介して」


「…はい。


 キサラギ・チハヤです。


 みんな、よろしく」


新メンバーの顔を見て、声を聴いた時。
その時、私は懐かしさを覚える顔を見た気がした。
顔立ちこそそれほど似てはいないんだけど…。

どこかあの人に似ていた。

どこかその名前に嘘を感じた。

そして──感じたことのない予感を、この子に感じた。

そう、これは…。


──あの人の生存、そして戦いの始まりを告げる出会いだった。






















〇作者あとがき
どうもこんばんわ、武説草です。
一ヶ月も間が空いてしまいましたが、再開です。
内容的にちょっと考えるのが難しかったのと、ちょっと用事が立て込んでたりでした。
空白の五年間について考えるのは難しかったぁ…キャラ数が多い弊害ですね(おい

そして何気に『超者ライディーン』をネタにしてますが、あれはリアタイ視聴時、子供心に衝撃でした。
勇者ライディーンについてスパロボで知っていたので脳がバグった…。
どんな話か思い出せんくてバンダイチャンネルで全話見たんですが、
自分でも気付きませんでしたが、ナデDで眼上マネージャーにスカウトされる下りとか、
何気に影響を受けてたんだなぁとか。
そしてDVDBOXが今年の八月に出ていたことを知り、「え?今年?しかもDVD?」って驚いたりとか。

まあそんなこともありましたが、ナデDもいよいよ終盤戦。
身重な人が結構出てますが彼らは幸せを守れるのか!?
クリムゾンたち敵対同盟との決着は!?
そしてテツヤは?!アイマス偽名を使ったチハヤは!?
どうなるんだぁ~~~~~!?

ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!











〇代理人様への返信
>あーほんとだ、いつの間にか二年経ってたのかw
>二周年おめでとう御座いますw
ありがとうございます!
すぱっと切れ味のいい話が書けないので長引いてしまいましたw
去年ちょうど外伝(映画の話)書き始めてたっていうのも結構びっくりですw
いやー…まさか二年超えるとは思わんかったです。




>そして熱血スーパーロボット大戦ワロス。
>男の子の夢やなあw
せっかくだからパロって見ましたw
第四次スパロボのダンバイン系の強烈さを再現&さらにパワーアップ。
しかし、アクアも器用にねじ込んだなぁ…w
作品リスト考えようと思ったけど、ちょっと量が多いんで迷ったり。
『無敵淑女シャイサーン3』とか『起動先兵Σガンガル』とか。













~次回予告~
ジュンです。
な、なんか流され気味にアイドルになっちゃったけど…。
うう…ちょっと色々大変だから連合軍に戻ろうかな…。
でも広報部になっちゃったから異動願いから出さないと…。
次回、いよいよ木星に飛び立つ、ナデシコ級&ユーチャリスⅡの大艦隊。
無事にみんな戻ってきてくれるといいんだけど。
…メグミ君にちゃんと謝らないとなぁ。




とりあえず今回を一度今年の最後投稿として、そこそこ書き溜めておきたい作者が贈る、
芸能界が主軸になってる系ナデシコ二次創作、








『機動戦艦ナデシコD』
第八十二話: -Dismiss- いまの場から離れたところへ送る











をみんなで見よう!




































感想代理人プロフィール

戻る





代理人の感想
あー、あれね、アニメの年末年始や夏休みでよくある総集編w
まあやってみたかったのはわかるw




※この感想フォームは感想掲示板への直通投稿フォームです。メールフォームではありませんのでご注意下さい。

おなまえ
Eメール
作者名
作品名(話数)  
コメント
URL