俺は上機嫌だった。



・・・ちょっと変な表現だけどこれが最適だと、切に思う。

何かわからんが死んでいたはずの俺が生きていて・・・シーラと、そしてアッ君と再会した。

まあ、通算二度目なんだよな、ギリギリの生還をしたのは。

シーラを抱えて、俺は格納庫に向かっていた。

・・・遅めの走馬灯って言うのか?

俺の頭の中には、昔の出来事が駆け巡っていた。


恐らく・・・だ。


あの時。

俺が失っていなければ。

シーラに会うこともなく。

シーラは死んでいただろう。

俺が、全てを失い・・・ほとんど身一つで生きるハメにならなきゃな。






































サイドストーリー集「ヒロシゲ」

































俺は、ごく普通の家庭に生まれ育った。

いい加減ながら悪くない父親、とても優しい母親、可愛い妹。

とても楽しかった。

だが6歳の時それは破られた。

「いや〜、楽しかったねえ」

「うん!」

俺は、母親が微笑んでくれるのを見て思わず嬉しくなっていた。

そして、俺自身、楽しい思いをしていた。

家族との、キャンプの帰りだった。

帰り道に流れる景色を見て、


「多分、一生忘れられないな」


なんて呑気に考えていた。

本当に、忘れられない日になるなんて思いもせずにな。

もし、この日に失わずにいたら。

俺はこの日の事なんて忘れて、何度も旅に出かけてその旅に同じ思いをしていたに違いない。

沈みかける夕日を見て・・・ただ、「綺麗だ」って思ってた。


火星の夕日は、やたら明るい。


人工太陽、というヤツだ。

コロニーに住んでいた時はヴァーチャルで気温、気候、全て地球そっくりに作ってくれたらしいが、

俺は火星の人工太陽が大好きだ。

無論、人工とは言っても地球のそれと大して変わらない。

ただ、昼間の光度を保ったままなのが違う。

人工太陽は永久機関ではないが、ほぼ半永久的に動いてくれるらしい。

・・・・・めんどくさくって細かい説明は聞いちゃ居なかったが。

そして、ゆっくりと地に落ちてきて沈んだように錯覚させてくれるんだが・・・コイツがまた憎いんだ。

ナノマシンの光が、一段と綺麗に見せてくれる。

それと、火星は元々太陽が届くような場所には存在していない。

昔、授業中に知った、「地球は奇跡の星だ」という話。

太陽が全てを育んだ。

植物を作り、魚を作り、動物を作り、やがて人を作ったと。

後ほんの少し地球が太陽に近くても遠くても地球は存在できなかったと。

・・・今は人工太陽なんてロマンのねえモンが出来ちまったせいで少々興ざめだったがな。

少なくとも感動が減った、と言ってもいいかもしれねえ。

けどよ、遺跡・・・古代火星人って言うのも本当に居たって話もあった。

・・・・・・・こっちは眉唾モンだと思うがな。

・・・・で、俺がとなりで・・・いや。

俺の羽織っていたジャケットに体をねじ込んで眠ってる妹・・・名前は忘れちまった。


あんまりにも、ショックだったんだ・・・あれは。


それを思い出さないためにも、忘れようとした。

だけど、あの日の寝顔だけは忘れられない。

その寝顔は・・・ある意味、この後に起きる事を考えると残酷すぎた。

残酷なほどに穏やかで・・・可愛く、愛しく・・・。

そう・・・そうだ、シーラに似ていた。

たった今、俺の腕の中で眠っているコイツにそっくりだった。

そして、それは起こった。





ぎぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!!





・・・・・・・・・何が、起きたんだろうと、俺は周りを見回した。

ただ・・・大きな音が鳴って、俺は体を思い切り振り回されたって感覚があった。

そして、俺の脇腹に・・・いや、右手に生暖かい感覚が回ってくる。

その内、ゆっくりと激痛が回ってきたがそれは目に入ってきた光景で意に介することが出来なかった。

「あ・・・あんちゃん・・・」

「な・・・な・・・ぁ・・・」

俺の隣にいた妹の体が、ほとんど潰れてる。

乗っていたワゴン車の車体が突き刺さっていた。

腹部が、ほとんどずたずたのボロ雑巾のようになって押し潰されていた。

その斜め上辺りから俺の腕も半ば、潰れてた。

「くっ・・・る・・しいよ・・・助けて・・・ひっ・・・うえっく・・・」

「な、泣くな・・・とっ、父さん!母さん!」

俺は前座席に居るはずの父親と母親に声をかけた。

だが、そちらを向いて俺はただ絶望した。


ごく普通の神経を持った成人が人間の頭蓋骨が粉砕されている光景を見たら、どう思うだろうか?


俺は、かえって幼かったから良かったのかもしれない。

意識しなければ、思い出さないほどに出来たのかもしれない。

・・・いや、少なくとも俺の心にトラウマを刻み込んだとは言える。

二人の顔は粉々になり、見れたものではなく、俺のギリギリ前まで接近していた。

ただ、鮮血とは言いがたいほどドス黒い血がだらだら流れていたから、

俺は・・・・二人が生きていない事を「知識」なんかじゃなくて「生物としての勘」で理解した。

「う・・・あんちゃ・・ん・・・」

そして、間もなく、妹も息を引き取った。

「う・・・・」

俺は・・・何で、家族がこんな目に会わなければいけなかったのか分からなかった。

母に、「何か悪い事をしなければ自分も嫌な思いをしないで済むんだよ」と教えられて生きていた。

だから、尚更理解できなかった。

「うわあぁ・・・・・・うっ・・・あっ・・・・ぐ・・・ひぐ・・・」

俺は、ただ嗚咽を漏らす事しか出来なかった。

右手の痛みも、俺の心の痛みに勝る事は泣く、俺はただ泣いていた。

次に目が覚めた時、俺は・・・夢であって欲しいと願ったが、それは叶う事はなく。

現実の厳しさを教えられ・・・俺は、6歳にして現実を知り、夢を捨てざるを得なくなった。

ただ・・・ずっと家族と居たいという平凡すぎる「願い」は「現実」に砕け散った。








それから、俺は泣けなくなった。

いや・・・本当に、本当の本当に感情が高ぶった時しか泣けなくなったのか?

少なくとも、どんなに感動しても、どんなに怒られても、どんなに怖い目に会っても、どんなに痛くても。


泣けなくなった。


そして・・・何より、人が涙を流す姿を見たくなくなった。

その時を思い出すからじゃなく・・・俺の心の底が、痛む。

きっと・・・涙を見る度に、俺の心の中に居る妹が涙を流して痛がっているのだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

































結局、俺が事故に遭ったのはトラックの信号無視が原因だった。

飲酒運転に余所見、おまけに携帯電話の使用だあ?

・・・正直、俺はそんなヤツに家族を奪われたのは情けなくてしょうがなくなかった。

だが、たかが6歳・・・何もできるはずがない。

告訴も出来ない・・・ただ、そいつが運送会社を首になるのを見ているだけだった。


それに、俺には親しか居なかった。


祖父、祖母は居ない。

それは火星に住んでいるヤツが大概そうだ。

火星移民がまだ始まったばかり・・・ここ40年ぽっち、親子の二世のみ、それだけの移民が多い。


それで、俺は・・・ユートピア孤児院に引き取られた。


そこでの生活は・・・まあ、何と言うかいい物ではなかったと思う。

少なくとも・・・あの二人と出会うまではな。

と、言うのも。

「・・・ヒロシゲくん、これからその腕の扱い方を覚えてね」

そう、義手だ。

俺は6歳にして右手を失った。

救助活動が鈍間だったからじゃない。

ほとんど骨が砕け、救助活動にかなりの時間を費やした結果だ。

誰も生きていないと思えるほどぐしゃぐしゃの車体の中で、右腕一本で生きて帰れたのは、果たして幸か不幸か?

今、シーラに出会えたから・・・まあいいや、何て済ませる問題じゃないしな。

ただ、かなりの努力を要した。

右手は義手・・・それも自由自在に動くものなんかじゃない。

とても高価で、賠償金くらいじゃ動くのは買えない。

それでも、


「何だよその腕、かっこいいじゃん!」


周りはそう言ってくれた。

幼い時はこれを格好いいといってくれる。

しかし俺からすれば少し嫌だった。

この腕を見るたびに家族が死んだあの日を思い出してしまう。

だから嫌だった。

それも、運動をして遊んでいても足手まといになると言われた。

その為に必死に練習したのも嘘じゃないが。

・・・無理矢理右利きを左利きに変える、それも並大抵の努力じゃなかった。

とにかく、鍛えた。

右手が自由自在に動かないなら、その分を左で補うしかなかった。

結果的には・・・五体満足なやつとそれほど変わらない運動ができるようになったがな。

多少のミスはまあ、許してくれたしな。

・・・だが。

俺はまた厄介ごとに巻き込まれる羽目になる・・・。

義手のせいでな。

小学校1年・・・入学式が終わった教室での事だ。

「・・・なあ」

「え?」

俺は、どこか妙な雰囲気のヤツと出会う。

それは・・・まあいわゆるヤンママの子供・・・ってやつか。

何を勘違いしたのか、スポーツ刈りの後ろ髪を伸ばし、ついでにメッシュまで入った意味不明なヤツ。

今なら別に同い年でそういうヤツを見かけても変じゃないが、小学生ではかなり異様だった。

「お前、ちょっとこいよ」

「なに?」

「いーからこいよ」

胸倉を捕まれて、俺はムッと来た。

だから、

「何すんだ」

って言ってその腕を掴んで退けた。

すると・・次には、拳が飛んできた。


ばこっ。


大して力もないが、痛くないわけじゃない、だだっこのパンチが当たる。

さらにムッと来た俺はそいつを殴り返した。

・・・まあ、右手で殴ったらとんでもない事になるのはよく知っていたから左一本だが。


ごっ、ごっごごご。


・・・・・・・だが、俺は考えもしなかったがのしちまったんだな。

俺は右手の分も補う為に、左手は異常に発達していたわけだ。

この頃にはすでに普通の小学生の利き腕の2倍・・・は、ねえよな多分。

それでも筋力は凄く強かった。

で、


がくん。


まるで、ボクサーが強烈なパンチを食らってその場に倒れこむようにして沈んだ。

「あ・・・あれ?」

よく分かっていない俺は辺りを見回す。

そいつは白目を剥いてぶっ倒れていた。

後で話を聞かれたが、義手は使っていないと主張。

周りのヤツもちゃんとそれを理解していたらしく、ちゃんと証言してくれた。

だが、それでも俺はトラブルに巻き込まれやすい男だった。

いや・・あの日から、俺の運命は激動しつづけていたんだろうな。

義手を持っていることが、大きなハンデだとは思っていない。

それでも、周りから見るとやっぱり浮いて見える。

それは俺に疎外感を与えていたし、トラブルの原因になっていた。


人を苛めようとする、心理。


分かってるつもりだ。

相手が、自分達と一箇所でも違う場所があればそれを徹底的に叩く。

ただ、自分達の楽しみの為に。

そんなクズ野郎は気に食わない・・・。

だから、俺は殴った。



暴力がいけない?



相手を傷つけるのはいけない?



奇麗事・・・そこまでは言わねえよ。

だが、後からそんな事を言うヤツはそのクズ野郎より気に食わない。

人が気にしている義手をけなされ、心の傷を抉られている傍で止めもせず、

暴力だけに反応する馬鹿野郎はな。


俺は、人を殴ったりする事だけが暴力だとは思ってねえ。


中傷、策略・・・・何でも暴力だろうが?

言葉だけでも人は殺せるし、罠にかけてどん底に追い込む事だって出来る。

自分を正当化しようなんて気はさらさらないね。

ただ、俺の武器がこれしかなかっただけの事だ。


暴力じゃ何も解決しない?


ああ、承知の上だぜ。


だが泣き寝入りするのも性に会わねえ。

あの日から、俺は一人。

ただ、俺は一人だったんだ。

だから、自分が自分である為にこの暴力を使う。

殺す気はなくても死んじまう可能性はある・・・それでも、だ。

一人だった・・・というのは孤児院の先生は決して悪い人じゃなかったが、尊敬の念を抱く事は出来なかった。

俺のトラブルに関しては理解してくれてはいた。

・・・・・それでも、俺の気持ちを汲んでくれることは全くなかった。


自衛の為の暴力は認めていた。


それでも、俺の心の傷までは理解してくれようとしなかった。


俺には・・・暴力くらいしかなかった。

それが自分を表現する方法だった。

それを・・・理解してくれる人なんて居なかったがな。

どうしても、浮いちまう。

ふわふわしている・・・ただ、へらへらした振りして同級生と遊んでる。

その同級生も・・・友達の振りをしてくれた。


そう、振りだ。


それは、仕方がない。

俺に深入りすれば、俺に突っかかってくるヤツにやられる。

義手がどうしても気になる。

・・・・・それは、仕方ない。

ただ、気に食わない・・・しかし、俺の気持ちを誤魔化すのはそれくらいしかなかった。


そして、俺は小学5年生になる。


・・・その頃は・・・何の為に生きているのか、一日中考えて居る事は珍しくなかった。

俺は・・・何の為に生まれて、何の為に死ぬのか。

何か、理由が欲しかったな。

哲学的、なんて格好は付ける気は無いが・・・。

そんなある日・・・梅雨の・・・だから6月、後半だったか。

その頃の事だ。

「・・・・だ!」

「・・・ん?」

廊下を歩いていると、何か叫び声が聞こえて来た。

下校前、ランドセルを背負って歩いていた。

気になって、その部屋の方をのぞいてみる。

すると、ボサボサ頭の小3くらいのと先生が向かい合っていた。

「お前がやったんだろう!?」

「違います・・」

ボサボサ頭の方は泣いていた。

濡れ衣を着せられている・・・それは明らかだ。

俺は人の感情の正否は良く分かる。

小2で・・・すでに周りが俺の事を一歩はなれて見ている事くらいは理解できたからな。

だからこそ、俺は憤る。



何でだ?



何で涙を流して否定する子供に向かってお前はそこまで責められる!?

恥ずかしくないのか?

何があったんだ?

そいつはそんなに悪い事を押し付けられたのか?

俺は・・・そういうクズが嫌いだ。

だから迷わずその部屋に飛び込む。

「何やってんですか」

「君には関係ないっ!さっさと出て行きたまえ!!」

・・・・ここまで来ると滑稽だな、この教師。

泣いてる子供相手に刑事ドラマの取調べ気取り、おまけに頭がいいように振舞ってやがる。

「・・・。

そんな高圧的な態度で相手が心を開くとでも思ってんすか?」

「やかましい!出て行け!」


ぐいっ、どん。


こいつ・・・・。

本当に教師か?

正論を言われても耳に入らず、それで邪魔なヤツは力づくで退かす・・・。

ただの阿呆じゃねえか。

俺は頭は悪いがこんな性根がひん曲がっているわけじゃねえ。

無力な相手に、何もしていない相手にこんな高圧的な態度は取れねえよ。

呆れて物も言えねえが・・・その教師の股下を通って俺はそのボサボサ頭に近づいた。

「何があったんだ?」

「・・・俺が・・・アオシマの傘を・・・持って蹴って曲げたって・・・」

・・・ん?

蹴って曲げた?

それは変じゃねえか?

「アオシマってヤツと接触は?」

「ない・・・」

・・・・おかしい。

コイツは嘘は言ってねえ。

それなのに、何故犯人になる?

まず、理由がない。

接触がないなら事故・・・そうなる。

第二に、コイツが傘を曲げたっていう証拠がねえ。

何でコイツが傘を曲げたって分かる?

もし、アオシマってヤツがそう言ったら・・・事故じゃない、その確率が高い。

自分で曲げたのを押し付けた・・・そう考えられる。


そして、最後に。


この馬鹿の態度だ。

明らかに・・・そう、コイツの言って居る事、全部が全部信じていない。

つまり・・・この教師は、アオシマとか言うヤツが言った事を鵜呑みにしてコイツに向き合っているって事だ。

犯人になる、根拠が・・・アオシマ、だけになる。

「先生、何でコイツが犯人って決め付けられてるんですか?」

「関係ないといっただろう!」

「・・・だから。

そんな態度で接したって怖くって返事が出来ませんてば」

俺は溜息をついてその教師の方を見つめた。

「うるさい!さあ、早く出て行け!

そして、テンカワ!

お前はさっさと吐け!

傘についた指紋を見れば分かるんだからな!」

・・・・ならさっさと指紋取れ。できるわけねえし。

そしてコイツが犯人じゃないって分かるんだからよ。

「・・・じゃあ、コイツが傘を折ったって言う証拠は?」

「アオシマ本人が言った!

これ以上明確な証拠があるか!!」

・・・・・・・マジ、呆れて物も言えねえ。

接触もしていないアオシマの一言だけでコイツが犯人か?

「・・・じゃあ、アオシマ本人が嘘を言ってたらどうする?」

「そんな訳無いだろう!」

「・・・ちょっとは頭、使ってくださいよ、先生」

「何!?」


ごんっ。


・・・・いきなりグーかよ。

いい加減切れた。

ああ、もう許せるか!

「あんた・・・教師じゃねえよ・・・人間かどうかも疑わしいな」


どすんっ。


義手は外す・・・。

凶器になりかねねえからな。

「馬鹿は死ななきゃ治らねえぇぇぇぇ!!」


ごすっ、ばきっ・・・ごんっべきっ。



「ごふっ!?」

・・・よし、勝った。

割と俺は体格が良かった・・・160くらいだが。

相手が170無かったから・・・まあ喧嘩慣れしてるからな、俺は。


がちゃっ。


義手を付け直して俺は言った。

「・・・おい、帰るぞ?」

「え・・・いいんですか?」

「・・・・あのな。

コイツはただの馬鹿だ。

・・・ああ、そうだ。

コイツじゃあいつまで経っても解決しねえ。

どうせだ、コイツ以外の先生に話して解決してもらおうか」

職員室まで行って、俺達はその事件の話をしておいた。

・・・ついでに、あの馬鹿教師の話もしておいた。

怒られるかと思ったが、他の生徒の証言で色々と問題ばかり起こしていた事が分かるとお咎めなしとなる。

馬鹿教師は小さい所ではプールの女子更衣室の盗撮、大きいところでは学歴詐称までしていたという。

そして、先生と俺達が協力して捜査をした結果、ボサボサ頭の疑いは晴れた。

どうやら、アオシマ本人が傘を曲げ、親に怒られるのが怖くてたまたま近くにあった下駄箱の名前、

「テンカワ・アキト」を犯人にする事にしたらしい。

・・・馬鹿だ、こいつ。

それもアオシマの同級生が証言してくれた。

傘を曲げた現場を見ていた・・そしてアオシマ自身、かなりの嫌われ者だったらしい。

まあ、つまらなくはなかったな、この事件。

・・・・って、俺は探偵か、コラ。

それで、後から孤児院で「テンカワ・アキト」と会い、礼を言われた。

どうやら、同じ孤児院生だったらしい。

「あ、あの・・・あの時はお礼をいえないですいません。

ありがとうございました」

「どうってこたねえよ。

俺はただあの馬鹿教師がムカついただけだ。

礼なんていらねー」

「・・・あの」

「なんだ」

「名前は・・・」

「マエノ・ヒロシゲだ」

それが、「テンカワ・アキト」・・・アッ君との出会いだった。

その後も同じ場所に住んでいる事もあり、結構交流があった。

色々、俺なりの人生論を叩き込んでやった・・・まあ、感情的になり易くなっただけかも知れんが。

どう理解したかは俺の知るところじゃねえ。

だが、俺自身、悪い気はしなかった。

アッ君は俺に頼ろうとした事は一度きりだ。

俺が自分の力で進む事を教えてやったからな。

それでも、ピンチの時は俺のほうから進んで助けてやる。

・・・まあ、多勢に無勢な場合が多いんだよな、トラブルに巻き込まれる人間ってのは。

トラブルを引き起こす人間は、たいてい弱いから誰か味方を連れてきている事が多いからな。

まあ、それは置いておいて、アッ君は俺の親友になる。

家族とは言えない。

ただ、同じ「施設」にいるだけで「家」って感じじゃなかったからな。







そして、その年の夏・・・もう一人の親友、イッちゃん・・・イツキ・カザマに出会う。

それは、意外なタイミングで起こる。

いや?俺はこんな場面にばっかり遭遇する。

俺は誰かを助ける為に生きてるんじゃないかと思うほどにな。

俺はアッ君と下校をしていた。

学校があったわけじゃない、夏休みのプール帰りだ。

「ヒロさんはゲキガンガーを見ないんですか?」

「ああ」

他愛の無い話をしながら・・帰っていた。

ゲキガンガーについて聞かれていた。

俺はゲキガンガーが嫌いじゃあなかった。

・・・だが別段熱中できない、そう考えていた。

後からシーラに見せてもらった時も思ったが・・・まあ、あれだ。

あんなアニメでも信念とか、そういったものを語ろうとしていた。

それでも、「正義」と「悪」がハッキリしすぎていたから・・・どうも好きになれなかった。

俺は、自分の経験からそういったものが存在しないって子供心にも理解していた。

正義が必ず勝って、悪が必ず負ける。


違う。


この世には理不尽が溢れかえってる。

絶対の「正義」はない。

「正義」は、自分の中にある良心・・・そんな認識だった。

ゲキガンガーを見て正義は勝つ・・・そう思い込んでるヤツに聞きたい。

「正義」とも「悪」とも言えなかった頃の俺が、あんな目に会ったのは何故だ?

何故、「悪」じゃないのに絡まれなきゃいけなかった?

それとも、相手が「悪」だったから、勝てた俺は「正義」ってか?


ふざけんなよ。


そんな簡単に物事が測れるもんじゃない。

・・・少なくとも、「正義」と「悪」だけで幸・不幸が、正解・不正解が決まるなら、俺は「悪」だ。

家族を無くすのは「悪」だからだ。

家族が死んだのは「悪」だから、「正義」にやっつけられた。

・・・それで、本当に解決すんのか?本当に「正義」って、「悪」ってあるのか?

・・・まあ、ここまで言ってなんだが・・・俺は誰かに、親友に危害を与えないヤツにはそれほど関心が無い。

少なくとも「悪」があるなら、そういうヤツの事を指すんだろうがな。

そうだから・・・頭に来て殴ったりするんだと思う。

独善的か?独善的だな。


・・・ま、これくらいにして。


俺達が話していると赤いランドセルが揺れて居るのを見かける。

よくよく見れば、女の子が乱暴されてんのが見える。

それも、黒いランドセルを背負った男子3人に。


こーいうのが俺は気にくわねえ。


自分が弱いから、弱い女(少なくとも、この時はそう思った)相手でも3人も居ないと安心できない。

・・・・そういうのが、頭に来る。

だから、迷い無く、突っ走る。

冷静さなんて捨てる。

ただ。

ただ、視野を狭くする。

相手がバットを持っていようと。

ナイフを持っていようと。

銃を持ってようと。

とにかく、向かっていく。


死んだらどうするって?


俺の後ろには何も無い。

悲しむのは親友のアッ君だけだ。

悪いが、俺が突っ走るのを止めるほどの理由にはならねえ。


親から貰った命を大切にしろ?


いらねーよ、そんなもん。

義手持ちで残された俺がどれだけ苦労してっか分かって言ってるのか?

親の保護を受けて五体満足でぬくぬくと生活してる奴に言われたかねーよ。


これが俺の生きる道。そして、死ぬべき道だ。


今は、シーラが居る。

コイツの為に生きられる。

ああ、生きる理由が見つかったさ。

だからあン時もあえてかばった。

生きる理由がコイツだけなんだ、別に死んでも悔いはねえ。

ただ、俺みたいに馬鹿に生きないで幸せになってくれりゃ良かった。

・・・・ま、何だかんだで戻ってこれたのは嬉しいがな。

そして、俺はその時も突っ走った。

相手は小6が三人。

上等だ。

俺もアッ君も居れて三人。

それでいいじゃねーか。

互角でいいじゃねーか。

「アッ君、ちょいと加勢してくるぜ」


だっ!


「え?あっ!ヒロさん!」

アッ君、お前は居るだけでよかった。

何となく、背中を預けられている気になれるからほんの少し、安心感が増える。


がすんっ。


「ぐぶっ」

「なんだ!?」

へへっ、驚いてるぜ、阿呆どもが。

「てめーら、恥ずかしくねえのか?女に三人がかりでよ」

・・・いつも思う、こういう時にぽんっと出ちまう、ありがちな・・・べたべたな格好付けた台詞。

後ですげえ後悔するんだよな・・・小っ恥ずかしくて。

「お前には関係ねえよ」

「知らねー。

先輩方よ、先に道理を破っておいて道理を説くのはルール違反てもんだぜ」

「うるせえ!やっちまえ!」

「ま、待て!」

「何だよ、うるせーな」

「その右腕・・・まさか、「鉄拳のヒロ」じゃねーか!?」

「な・・?まさかあの教師をぶちのめした怖いもの知らずの!?」

お、何か通り名なんかついちゃってんの?俺。

「ああ、多分それじゃねーの?

言っとくが、義手は飾り同然だ。

外してもお前等三人相手にしたって負ける気しねーぞ?」

「くっ・・・逃げろ!」

苛め、格好悪。

しかも、逃げろなんて言ってよく恥ずかしくねーな・・・とか。

・・・でも一番恥ずかしいのは俺なんだぜ・・・(笑)。

「よお、怪我ねえ?」

「・・・一応、お礼は言わせて貰うわ」

「なあに、こちとら喧嘩がしたかっただけよ」

・・・・・・うわーまた出た。格好付けた台詞。

「そういえば・・・あなた、「鉄拳のヒロ」って・・」

「ああ、確かにそこに居るボサボサ頭のアッ君が脅されてたんでついやっちまったな。むかついて、だが」

「・・・まさか、あなたみたいな人が同じ孤児院にいたとはね」

「?なんだ、知ってたのか?」

意外だった。

俺自身はそんなに有名になった気じゃなかった。

「・・・ウチの孤児院で、右腕が義手の暴れん坊が先生を殴ったって・・・」

「・・・ま、事実だ」

「・・・」

「用が無いなら帰るぞ」

俺は踵を返す。

すると、女もついていく。

「何だ?」

「住んでる場所が同じなんだから道が同じでしょう?」

「あ、そっか」

これがイッちゃんとの出会いだ。

この話だと何となく漫画とかだと惚れたりしてるみたいに見えるが、流石に粗野な俺だ。

惚れられるような事は無かった。



その後も・・・俺達三人は何かと関わる事が多かった。


小学校を卒業してからはそれぞれの夢を語っていた。

そん時は・・・ああ、俺は夢がなくて困ってたっけな・・・。

アッ君はコックに・・・イッちゃんは連合軍に入るとかいってたな・・。

火星が全滅したって聞いた時は・・・生きてりゃいいなって思っていた程度だった。

一度離れると全然会わなくなるからな。

あ、後は。

中学入ってからも何か知らんけど絡まれやすかったな。

ウチの中学は火星でも指折りの治安の悪さだったから仕方ないか。

・・・でもそれで俺の進路まで左右して欲しくなかったな。

高校に行こうと思ってたが素行の悪さで引っかかっちまった。

・・・・・・・・そーなんだよな、ここだよな。

俺がテストパイロットになる理由がついちまったのは。

・・・また、トラブルに巻き込まれ・・・っていうかアッ君の辺りから「飛び込んだ」って表現が正しいか?

で、一人を倒したら次は四人・・・って続いてって、最終的には20人を相手にした。

・・・それでも何とか勝った。

金属バットやらなんやらで叩き殺されそうになったが・・。

・・・・いや、身体障害者だからか?高校に入れないのは。

何年経っても理解されてないのかよ?障害者は。

仕方なく・・俺はそのまま、卒業を迎えようとしていた

・・・で、そんな時、ネルガルの広告が入った。


「パイロット募集!経験、経歴、関係なし!」


・・・その広告が妙に頭にまとわり付いてな。

俺は駄目元で面接を受けた・・・。

「えー、年齢は?」

「15です」

「中学卒業してないようですが・・・」

「進路が決まらないんです。ちょっと一身上の都合ってやつですか」

「・・・では喧嘩でも?」

「ええ、相手が手を出してきたんで正当防衛のはずなんですけど。

20人ぐらい金属バットで襲い掛かってきて。

この義手で全員ぶっ飛ばしちゃったんです」

・・・・落ちたな、そう思った。

だが、意外な一言で返してきた。

「採用です」

「へ?」

・・・信じられなかった。

普通なら引くところだが・・・。

「サツキミドリで働いてもらいます。テストパイロットで」

ホントかよ・・・俺は職につけるのか?

そう思うと、次には笑ってた。

何故?

・・・正直、俺は喧嘩以外には能の無い奴だと思ってたからだよ。

どっか適当な格闘技道場にでも居候しなきゃいけねえと考えてた。

嬉しかったぜ。

その姿を見て審査員のオッサンは握手を求めてくれた。


「良かったですね」


ってな。

俺の心を読んでいたのか?

ええと・・・プロスペクターってたか。

オッサンはすぐにこう言った。

「では、今からサツキミドリに引越しです。別れを済ませてください」

・・・こん時はすげえ驚いた。

・・・・・今すぐ、だったからな。

とにかく持ち物はそんなに無いし、アっくんとイっちゃんに別れを済ませてから孤児院を出た。

「行きましょう」

・・・本当に引っ越すとはな。

まあ、良かった良かった。

・・・だが、不安でもあった。

俺は、一人で生きていく事になったからな。

・・・・・案の定、その後の3年間、俺はぼーっと過ごしていた。

寂しいって言う感情は無かったけど・・・すげえ虚しかったな。

特に目立った事も無く・・いや?スキャリバリプロジェクトに選ばれた事は意外だったな。

・・・だが、18の夏。アイツが来てくれた。

シーラ・カシス。

初めて会った時はびっくりした。

公園でぶらついてたら血まみれの女が襲われてんだもんな。

とりあえず、犯そうとしてたようだったから悪いのは襲ってた二人だと勝手に判断してぶったおしたんだよな。

で、とりあえず助けて話を聞いた・・・。

・・・つーか作り話みたいだったけど本当なんだなあの顔つきからすると。

マジで俺より凄い人生を送る羽目になったんだな。

・・・・・・境遇を聞いちまった以上、放り出せねえから一緒に居る事になった。

家族が出来たと思えばいいって結構楽観的だったな。

・・・・・まあ、結構楽しかったな。

いつも小さいあいつが後ろからぴょこぴょこついて来てくれて・・・。

家に居ればいつも面白いもんを見せてくれた。

・・・口には出してなかったがすげえ楽しかったんだ、あの一年は・・・。

家族を失ってた俺に、家族の温かさを教えてくれた。

俺が、生きていく理由をくれた。

コンプレックスだった右腕の義手を本物同然にしてくれた。

そして・・・俺は惹かれていったんだ・・・・・・。

で、今に至るか。

・・・まあ、あいつの親父がどーこーして俺がどうなったって言っても結果だろ?

・・・俺の人生は1年、そう思ってもいいくらいに。

あいつとの日々は、満ち足りてた。

あの二人と一緒にいた時だって・・・どこか居たたまれなかった。

シーラ・・・・・・・・ありがとうよ。

俺は、シーラの寝顔を見て、嬉しくなった。

コイツは、俺が護れる・・・今、護れる。

昔みたいな平凡からじゃなく、激動からでもいい。

一生、忙しない生活が続いてもいい。

コイツには、俺の全てが賭けられる。

これで、本当の意味で俺はシーラと・・・暮らせるようになるんだな。

短くとも一生に近かった一年、だがこれからはいつ終わるか分からないが・・・・うまくいけば何十年も続く。

これからなんだ俺の一生は。

あの時俺は一度死んで、生まれ変わった。

そう考えると、妙に気楽だ。

もちろん、家族の事は忘れらんないけどな。

前世の記憶ってコトにしとくか。

ははは。




































俺は・・・シーラが居るから・・死ねなくなったかもな。






























作者から一言。

暗い過去を背負いながら、飄々と生きる。

それが、彼の命題・・・そして宿命。

三枚目に見えて、実は中身は真剣。

それが、彼の持ち味。

・・・・うーん、表現し切れてないかも。

>格好よく見えない

えっと、これは僕が「格好いい人間」じゃないから・・・こんな風になっちゃうと思ってます。

・・・ちょっと独善的に、かつ自分の命を軽んじて生きる人間を描くのはどーも難しくて。

単純に技術の無さ・・・だと思うんですけど。

カズマに被らない・・・けど、似てる人間。そしてアキトの兄貴分。

・・・そのせいでアキトはテレビ版ではあんな性格に・・・って設定をつけたんですが。

・・・むー、キャラが生きてない・・・ですね。

 

 

 

代理人の感想

んーむ。

ちょいと自分に熱中し過ぎかも。

こう言う文章は他人を引っ張り込むことが出来ないと傍から見てて痛いものになっちゃいますから、

実はバランスが物凄く難しいようにも思います。