第20話「最終決戦前夜・前編」
















アキコは、違和感を感じていた。

北辰に拳の乱れを指摘されてからというもの、自分が自分でないような感触に見舞われていた。

そして彼女は戦闘の高揚が覚めやらぬ中、食堂に向かっていた。

彼女はいつも戦闘後に食堂で働くと興奮状態が和らぐようで安心できるのだが、

そこの調理長であるホウメイに、

「テンリョウ、今日は休みでいい」

と言われた。

「・・・はい?」

首をかしげながら聞き返す。

「スミダが捕まってて気が気じゃなかったろう?

今日はちょっと休みな」

ホウメイなりの心遣い・・・と言うより、その違和感を感じている表情が疲れているように見えたのだろう、

半ば無理矢理にアキコに休みを申し渡す。

「はあ」

返事がどこか曖昧だ。

やはり心、ここにあらず・・・と言った様子である。

「ほれ、A定食だ」

トレーを渡され、アキコは適当な席についた。

そして、ぼーっとしながら定食を口に放り込んでいた。

「アキコ、どうしたの?」

「んー・・・コウタロー・・・」

ぬぼーっと返事を返し、もぐもぐと口を動かす。

「・・・うー・・・なんか自信なくしちゃってさー」

「・・・どうしたの、ホントに」

コウタロウは隣に座り、火星丼を口に放り込む。

「弱くなった・・・なんてアイちゃんにも北辰にも言われちゃってね・・・。

それに・・・こうまだ・・何て言うか・・・中途半端かな・・って・・・・・女として・・・」

はあ〜っ、と溜息を吐くアキコ。


ふにゅっ。


そのどこか弱々しい様子を見て、コウタロウはアキコの頬を掴んだ。

「アキコ・・・」

「ふえっ?」

「アキコの悪い癖は何でも悩みすぎちゃう事。

まだまだこれからなんだから深く考えすぎないの」

「でも・・・」

「『でも』『だけど』ばっかりじゃ駄目。

そんな風に不安を増やしていけばキリがないから少しは割り切らなきゃ。

・・・俺と一緒に居る事だって割り切れたんじゃないの?」

「う、うん」

その返事に満足したようにコウタロウは笑顔を作った。

「なら・・・そんなに悩まなくてもいいよ」

「・・・ありがと、また励まして貰っちゃったな」

アキコはコウタロウにお返しの笑顔を作った。

コウタロウは顔を掴んでいた手を引っ込めると、ほっと息をつく。

「励ませてよかった・・・。

他にできることがない・・助けて貰ってばかりの俺は・・・これくらいしか・・・」

「そんな事ない。

その励ましがなきゃ俺は戦えないんだ。

じゃ、食事続けようか」

「うん・・・」

食事をしながら、アキコは思った。

(・・・何だろ、変だな。

凄く元気になる・・・それはいつもと変わらないのに・・・。

何でこんなに嬉しい?

一緒に居られるから?

励ましてもらえたから?

でも、何か自分が自分じゃないみたい・・・。

別人みたいに思えてきた・・・。

何か、俺が俺である事を確認したい・・・)

アイデンティティが揺らいでいた。

彼女が、彼女である・・・それは紛れもない。

だが、彼女は気付いていない。

今の彼女は限りなく女に近い男・・・の精神を持っていることを。

つまり、後一押しで女になりかねない、そんな状態である。

(何か・・・ないのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そうだ)

何か思いついたらしく、食事をかっ込んでアキコは立ち上がった。

「ちょっとさ、組み手してくる」

「?」

「俺が本当に弱くなってるのか・・・確認しに行きたいんだ」

「ふーん?」

分かったような分からないような顔でコウタロウは首をかしげた。

「アキトと組み手してみれば何か分かるかも知れない。

・・・何か、ヒントになるかも」

「じゃ、ちょっと待ってて。

見に行くから」

コウタロウもペースをあげて食事を済ませる。

「じゃ、いこっか」

「うん」

二人はトレーニング室に向かう。


トレーニング室。



アキトは、鍛錬をしていた。


先程の、枝織の本気を見て・・・自分も、本気にならなければならないときが来る・・。

そう思った彼は、何か対策を練るために・・ヒントを得る為に体を動かしながら考えていた。

(・・・枝織ちゃんはもう、手加減をしてくれないだろう。

それに、木織さんの言葉が気になる)

「ふっ!はあっ!」

(・・・やはり、うまく気絶させるしかないのか?

だが・・・不可能に近いな。

そんな急所を狙わせてくれる相手じゃない・・・)


ぷしゅっ。


アキトが動きを止め、腕を組んで考えているとドアが開いた。

「おーい、アキト」

「お、アキコにコウタロウ。

どうした?」

「いやちょっと・・・悪いけど組み手してくれないか?」

「?ああ、別にいいけど」

そして、二人はトレーニング室の中心に来る。

「昂氣は無しだ」

「ああ」


ざっ。


昂氣を発してはいないが、二人の間にあるオーラのようなものが渦巻いており、

一触即発・・・その言葉がしっくり来る。

常人がいればびりびりと伝わってくる闘氣に圧倒されただろう。

それと対照的にコウタロウはのほほんとした表情で二人を見ていた。

「こいっ!」

「はあああっ!」


たっ、ぶおっ。


大きく踏み込んで、牽制の一撃をアキトに向かって放つ。

それを小さい動作でかわす。

大きく踏み込んだとは言っても、達人でもかわす事は容易ではないだろう、

恐ろしく早く、思い一撃である。


そして、それはフェイク。


大きな動作に惑わされて、隙を突こうとするだろう。

だががら空きの場所を狙うだけ、なまじ分かる。

反撃の、布石だ。

・・・が、それはアキトの戦法でもある。

当然それを知っているアキトは死角に打ち込まず、アキコの目の届く場所に打ち込む。

この場合、逆にそこが死角となる。


すぱっ。


アキトの一撃を首を逸らすだけで回避する。

これは仕方ないかもしれないが・・・アキコにとってそれは予想範囲内なのだ。

そこから、腕を取って一本背負いのように投げ飛ばそうとする。


・・・たっ。


叩きつけられようとするアキトは受身を取らず、足で着地する。

そしてその複雑な体勢から逆にアキコの体を振って腕に関節的ダメージを与えながら逆に叩きつける。

「っぅ!!」

苦悶の声も上げず顔を歪めるが・・・勝負はついていた。

アキコの体を抑え・・・アキトは拳を構えていた。

躊躇しなければ、アキトは完全にアキコの意識を失わせる事が出来ただろう。

「く・・・」

「・・・そんなに、弱かったか?」

アキトの視線は少々残酷めいたものがあった。

ただただ冷徹で・・・容赦の無い、冷え切った視線。

Prince of darknessとしての一面を垣間見せる。

「俺は・・・そんなに・・・」

弱くなっていたのか、と言えずに嗚咽の声が漏れる。

「・・・そう気を落とすな」

その落ち込みようにアキトはふっと殺気を収める。

「ひっく・・・」

「弱いとはいっても・・・まだ、北辰や北斗には引けを取らない。

それに・・・そこにお前を必要としてくれる男がいるだろ?」

「あ・・・」

少し離れたところで心配そうな顔をしているコウタロウの姿が目に入った。

「・・ああ・・・」

どこか、安心したような面持ちでアキコは溜息をつく。

・・・が、アキコはふと、不穏な感触を覚え、表情を曇らせる。

「い・・・」

その不穏な感触の発生源は・・・自分の胸である。

「?」

アキトは持ち前の鈍さでそれに気付かない。

「い・・ゃ・・・」

「何だ?」

離れないアキトについにアキコは切れた。


「いやあああああ!!」


ごきっ。


アキコの一撃が、アキトのこめかみに命中する。

「・・ごふ」

アキトは呻き声をあげて倒れこんだ。

「・・・・・・」

コウタロウはアキトを見る。


だが返事は無い。


ただの屍のようだ。

「てい」

「げふ」

コウタロウの攻撃。

アキトは精神的に20のダメージ。

「・・・全く、アキトはエッチなんだから・・」

「ぐ」

さらに、40のダメージ。

「アキコを止めてくるね」

コウタロウは逃げ出した。

アキトは死にました。











(ああああ!何で走ってんだ俺は!)

顔を抑えながら走りつづけるアキコ。

その顔は赤く染まっている。

(これが女の羞恥心ってやつか!?

でも止まれない!

あああああああああああああああああ!

もーーーーーーっ!)

アキコは走りつづけた。

だが、彼女の進路上にいる人間は、あまりにも珍しい光景に目を奪われ、回避するのを忘れてしまう。

そのため、彼女の前に道が出来ても後ろには重傷者が倒れている。

ついでにアキコは顔を抑えている為に前が見えていない。

と、そんなアキコにやっとストップがかかる事になる。

「あれ?アキコちゃん」

「っ!」

その先にいたのはユリカだった。

彼女が声をかけたため、アキコは進行が止まった。

もし、声をかけることが無ければ、問答無用で轢いていただろう。

「あ・・・ユリカさん」

「どうしたの?お顔まっかっかだよ?」

「え・・と、その・・・」

アキコは答えに困る。

まさか「アキトに胸を触られて恥ずかしくて逃げてきた」などと答えることは出来ない。

答えたら、その事実以上に恥ずかしい。

「ね〜え?」

しどろもどろになっている内に、顔の赤みが引いてきた。

それでも、十分に顔が赤いのだが。

「アキコー!大丈夫ー?」

「あ、こ、コウタロウ!だ、大丈夫だよ、うん」

コウタロウが来た所で、アキコはそのコウタロウの後ろに隠れる。

「?どうしたの?」

「な、なんでもない」

その二人の様子に頭に来たのか、ユリカは頬を膨らませて怒る。

「二人とも〜、何隠してるの〜!

艦長命令です、言いなさい!」

その様子に、コウタロウは苦笑した。

自分の過去の姿はこんな風に見えたのか、と少し情けなくなっていたのだ。

「何笑ってるの?」

「いえ、気にしないで下さい」

コウタロウが頬を掻くと、ユリカはさらに捲し立てる。

「ねえねえ、早く言ってよ」

「そうですねえ・・・」

そしてちらりとアキコの方を確認してみる。

だが、アキコはまだ顔が赤いままだった。

「・・・秘密にしときます」

「え〜!ずるいよぉ〜!」

ぷりぷり怒っているユリカにコウタロウはさらに苦笑を続けるのだった。















ベットに先程気絶した(させられた)少女が眠っている。

そこでは、ジュンとチハヤが世話をしていた。

どうやら重傷のシーラの方にイネス他の医師が集中していたらしい。

「・・・ここは?」

「あ、起きたかい?

チハヤ、ココアある?」

「あるわよ」

「・・・あの、ココアを要求したわけじゃないだけど・・」

少女は眉をゆがめて小さく手を振る。

「あなたは?」

「僕はジュン。

木連の戦艦で君が気絶していたって聞いたから様子を見てたんだ」

「あ・・・すいません、ありがとうございます・・・」

「別に気にしないで」

「ジュン、ココア持ってきたわよ」

「ありがとう」

(・・・だから違うって)

心の中で改めて突っ込みを入れながらも、出されてしまったものを要らないというのもなんなので受け取る。

そして、ココアを飲みながら思った。

(・・・でもあたし・・木連人なんだけどなー・・。

木連の戦艦にいたんだから話くらいは聞くと思ったのに)

「あ、そうだ。

君の名前は?」

「白鳥・ユキナ・・・木連生まれ・・・」

「知ってるよ、タニさんが教えてくれたから」

その一言にユキナは怪訝そうな顔をした。

(敵って分かってるの?

ならなんでこんなに警戒しないで看てくれてるのかしら・・)

「敵だって分かっててやってるの?

あたしは敵よ?」

「ああ。

けど、ナデシコは和平に行くところなんだ。

それに、ナデシコは結構懐が深いからね。

以前も優華部隊を乗せた事があったよ」

「!?」

ユキナは信じられなかった。

ユキナの知っている地球の情報はいわゆる「旧日本軍の鬼畜米英」教育によってなされたものだ。

もちろん、ユキナ自身はそんな事は無いと思っていた。

いくらなんでも偏りすぎていた為・・・女性には受け入れられていないのが現状なのだ。

だが、敵と分かっていて拘束もせず、ここまで手厚く看病しているのは驚きだった。

「・・・地球の人も、いい人が居るのね」

「・・・・・・みんながみんな、いい人じゃないけどね」

ジュンは小さく笑う。

その様子を見てユキナは世間話でもするかのような口調で話し始めた。

「・・・いいお姉さんを持ったね、チハヤちゃん」

チハヤはユキナの一言を聞いて一瞬呆気にとられたような顔をしたと思ったら、次の瞬間には笑っていた。

「ぷっ・・・ふふふ・・。

ジュン、お姉さんだって」

「・・・ははは・・」

苦笑するジュン。

ユキナは二人の様子についていけてない。

「?」

「・・・僕はこう見えてもホントは男なんだ。

チハヤも19だし」


・・

・・・

・・・・

・・・・・


ユキナの中の時は止まった。




「えええええええええぇぇぇぇっ!!!?」




「あはは・・・驚いてる」

「驚いてるわねえ」

半狂乱ともいえる叫び声をあげるユキナ。

それはそうだろう、ジュンは元来の女顔の中の女顔・・・それも体格も男性ではそれほど高くない上、

スレンダーである為に、女性化してしまうと元男と判別する方法はないのである。

これがアカツキやウリバタケならば面影で判別できるが、

ハーリーのような第二次性徴前の幼児やジュンのような女顔の男は・・・・である。

「うううううううううううううううううううううううううそうそうそうそウソウソウソウソ嘘嘘嘘嘘嘘よぉっ!

こんなに綺麗で気立てが良さそうでスタイルがいい人なんて木連でも珍しいのに・・・男!?」

「うん、まあ正確には・・・・ね」

「・・・う〜」

ユキナは頭を抱える。

だが、その頭の中ではそれなりに思考を働かせていた。

(でも?

よくよく考えれば二人は恋人同士よね?)

二人を見比べる。

すると、二人はユキナが頭を抱えるのを見てぼそぼそと話し合っていた。

(やっぱりそういう仲なのよね)

そして二人の間に割って入るようにしてユキナが話しかけてきた。

「ねねね、二人ともどこまで進んでるの?」

「「うえ!?」」

そしてジュンとチハヤは顔を真っ赤にして驚く。

「そそそそそそそんなワケないじゃないか!

ただちょっと事情があって必要なだけで・・・なあチハヤ!」

「そ、そうなのよ!ちょっと私の身元がはっきりしないから一緒に暮らして監視してるだけなの!」

「・・・へ〜(ニヤニヤ)」

ユキナはへらへらとしながら二人の事を見つめた。

(で〜も二人とも板についちゃってるじゃないの。

自分達が周りから見たら姉妹に見えるくらいに仲良く近づいてたら・・・そりゃ、ねえ)

二人が必死に取り繕っているものの、ユキナは聞こうともしていなかった。

事実、ユキナの想像はほぼ100%的中している。

「ま、そう言う事にしてあげる。

後は想像で補うから」

「そそそそそんな、想像されるようなことなんてしてないから!」

「い、いい加減わかってよ、ユキナちゃん!」

「・・・じゃあ、四六時中に見張ってるの?

お風呂に入る時も?トイレに入る時も?

そうじゃないでしょ?

二人とも、そんなに仲がいいのにただの親友、じゃないよね?

しかも最初に一緒に暮らしてるって言ったけど、どういう関係か聞いただけで、

『一緒に暮らしてるの?』なんて聞いてないんだよ?」

「「・・・!!!!」」

引っ掛けられた・・・そう思いながら二人は絶句した。

「へへへ・・・その様子だとお互いゾッコンみたいね。

さーて、ちょっとお腹空いたから奢ってくれる?」

「そ、それはユリカに聞いてみないと」

「いいの?二人が『一緒に暮らして刺しつ刺されつの状態』って流しても良いんだよ?」

「・・・・・奢らせてもらいますぅ」

黄昏ながらジュンは頷いた。





隣のベットにも、疾患者が居た。






「・・・なあ先生、何とかならねーのかよ」

ヒロシゲはどうも納得できないような面持ちで話し掛けていた。

「・・無理ね、こんな状態じゃ」

イネスはシーラの体を見ていた。

正確に言えば、右腕を見ていた。

弾き飛ばされた、右腕。

ヒロシゲが回収していた吹き飛ばされた方の手先の方も意味がないらしい。

「簡単に言えば、こっちの手先はすでに腐敗・・・までは行かないでも、もう血が通わなくなってる。

それに、肝心の腕の方も焼かれて・・・幸い、血が出なかったから失血死は免れたようだけど、

一生・・・右腕は・・・」

「クソ・・・っ」

その一言に、彼は口の中で小さく舌打ちをした。

「俺と・・・同じ・・・・」

「同じ?」

「・・・ああ」

首をかしげたイネスを見て、ヒロシゲは自らの腕を外してみせる。


がちゃっ。


「!」

「俺も義手なんだ。コイツが作ってくれたんだが・・・」

「結構精巧な作りなのね・・・本物かと思ったわ」


がちょっ。


「・・・シーラ」

腕を付け直し、自分が愛している少女の頬をそっと撫でる。

「・・・色々、コイツには貰ったんだよな。

義手だけじゃなく。

家族と居る事の温かさを・・・。

教えてもらった・・・愛する事、護る事を。

・・・・・・・こいつが居なきゃ、俺は空っぽだった」

「・・・あなた、この子とどういう関係なのよ」

ヒロシゲは肩をすくめながら答えた。

「・・・・・・保護者兼恋人だ。

つーか何で俺はこう言う事ばっかり聞かれんだよ・・・」

ナデシコに乗り込んでから他の人にも聞かれたらしい。

彼自身、無精髭のせいでかなり老けて見えてしまうのだ。

「そりゃあそうよ。

あなた、どう見てもこの子と釣りあわない年齢だもの」

頭を抱え、ヒロシゲはイネスの事を横目で見る。

「・・・だー、俺は二十一歳なんだよ。

アンタだって一見すりゃ、20代前半だが喋り方が・・・」


どすっ・・・・びいいいいんっ。


ヒロシゲの頬を掠めそうなほどスレスレの距離でメスを放つイネス。

「・・・・喋り方が?」

「イエ、なんでもございマセン」

両手を上げて、降参のポーズで片言に否定する。

「・・・と、聞いた話だとここはナデシコなんだよな?」

「そうよ」

「・・・・一年遅れの乗り込みかよ」

「あなたもナデシコのクルーだったの?」

「ああ」

「でも、もうすぐ艦を降りる事になるわね」

「なぬ!?」

「・・・まあ、あなたはこの一年ほど昏睡状態だったそうじゃない。

その間に何があったか、わかっていないんでしょう?」

「・・・ああ」

ヒロシゲの返事を確認するとイネスはホワイトボードを押してくる。

「では、説明しましょう!」

「・・なに?」



・・・・その後、3時間ほど説明が続いた。



そして、現在。

「・・・なるほど、要らん説明が多かったが良く分かった」

イネスの説明を受けながらも、ヒロシゲは意識を飛ばしたりグロッキー状態になることは無かったらしい。

「それはそれは。

この説明についてこれたのはあなたが最初ね」

「・・・多分一般人だったら最初で最後だと思うぞ」

ヒロシゲが、ぼりぼりと頭を掻いていると、寝ていたシーラがうごめいた。

そして、目をゆっくり開ける。

「ヒロシゲ・・・さん」











−シーラ−

「ヒロシゲさん、アイス食べたいです」

「お、いいな」

私は・・・夢を見てるんだね。

だって今、ナデシコに乗ってるはずなのにヒロシゲさんとデートしてるんだもん。

・・・・・サツキミドリで。

落ちたのを確認したのにね・・・。

「・・・・ぺろ」

「うまいか?」

「はい!」

ま、まいっか、実際に再会できたわけだし・・・ああ、幸せ〜・・。

「ついてるぞ」

「あ・・・す、すいません(赤面)」

ヒロシゲさんと一緒にアイスクリーム食べて・・・私の頬についたアイスを指ですくって舐めてくれて・・・。

凄い・・・すっごい幸せ・・・。








こんな事・・ずっとしてられるんだ・・・。







もう・・・戦わなくてもいいんだ・・・。







・・・って、あれ?






なんでこんな真っ白な・・・場所に居るんだろ?








『お前はその程度のヤツだったのか?』






え?











『お前はその程度のヤツだったのかって聞いてるんだよ!俺がぁぁ!』









カズ・・マ・・・?








『人間は楽な方に進みたがる、そんな風にだらけちまう自分が嫌じゃないのか?』






・・・。







『それとも、抗いつづける事に疲れたのか?』






違う・・・。






『お前は護られるだけで満足できるのか?』




違う・・・。




『あの、エルとか言う女と・・・Dに恥ずかしいと思わないのか?』






違うっ!






私は・・・まだこんなトコで満足できない!

ヒロシゲさんと一緒に過ごしたいけど・・・。

でも、私は・・・私は護られたままで、命を救われたままで満足できるほど人間小さくない!!

エルさんも、Dさんの分も生きて、戦って、幸せになるって決めたんだ!!





『なら・・・やる事は決まってんじゃねえか?』





ごめん・・・忘れてたよ、カズマ。



・・・私は何かを・・・何かを見つける為に戦ってきたんだ。



それが何なのかを見るまでは戦うのを止めちゃいけないんだ・・・。








              トリーズナー
親父にも、運命にも抗う・・・「反逆者」になって戦わないと先が見えないって知ってたはずなのに・・。








それを忘れて一時の安定に逃げようとした私は・・・まだ何も見えてなかったはずなのに・・。






また、戦うよ。





『・・・せいぜい頑張れよ』





ありがとう、カズマ。

私は・・・駄目になるところだったんだね。

一度始めたら終わるまでやらないと・・・駄目になっちゃうんだ・・・。

これから私は・・・ヒロシゲさんに恩を返す・・・違う。

護り合う、関係になりたい。

戦いつづけて、真実を見てみたい。

そこにあるのが残酷な現実でも。






抗おう!







私が私である為に、ヒロシゲさんと時を過ごす為の証を立てるために!!































そして私は目覚めた。





















「ヒロシゲ・・・さん」

「シーラ、目が覚めたか」

「はい・・・」

シーラは左腕をヒロシゲの肩に引っ掛けて抱きつく。

「ちょっと席を外すわ。

積もる話もあるだろうし」

「あ、すんません」

「一時間くらいしたらもう一度診察に来るわ」

イネスが出て行くと、ヒロシゲが口を開いた。

「・・・何はともあれ、また会えた。

これからは、俺が護ってやる」

ヒロシゲは、シーラが眠る前に言えなかった事を告げた。

だが。

「嫌です」

「あ?」

意外な答えにヒロシゲは声を裏返らせる。

「ヒロシゲさんが私を護ってくれるっていってくれるのは凄い嬉しい・・・」

俯きながら、残った左手だけでうまく起き上がる。

「けど・・それだけじゃ、駄目なんです」

「・・・どういう事だ?」

顔を上げて、ヒロシゲの顔を見上げる。

その目は潤んでいた。

「ヒロシゲさんには三回・・・三回も命を救ってもらいました」

「・・・」

ヒロシゲは黙りこくる。

確かに命を救いつづけてしまった。

それは、彼にもシーラにも負い目を感じさせていた。

「護られっぱなしで・・・命を救われて恩を返せないまま生きていくのは凄く辛いんですよ?

・・・今度はヒロシゲさんの命を救いたい」

「・・・馬鹿、お前はそんな事を言わなくてもいい」

彼はその一言に驚いたようにシーラの肩を掴んだ。

「好きなヤツを助けるのは当たり前だ、お前はまたボロボロになりてえのかよ」

「なら私にも助ける資格があります」

「あのなあ」

何か言葉を告ごうとするヒロシゲを見つめ、涙を流しながらシーラは叫んだ。

「私だって強くなったんですよ!

ヒロシゲさんが言ってくれたあの最後の言葉に・・・報いる為に!

私は私なりに道を見つけて選び、ナデシコに乗り込んで・・・私は・・・ヒロシゲさんを乗り越えたくて・・・!!」

「・・・俺を、乗り越える・・」

ヒロシゲは、シーラの一言を反芻する・・・その一言の重みを確かに確認しつつ。

「確かにあの場所で再会してヒロシゲさんに頼ろうと思いました。

でも、それは私がヒロシゲさんに会えたっていう事実があったから。

会えなかったら・・・ずっとまだ戦ってたと思う。

でも・・・ヒロシゲさんに会えたから、ヒロシゲさんが私を大切にしてくれた分・・・命を救ってくれた分、

ヒロシゲさんを大切にして・・・命を救って・・・何がいけないんですか?」

「・・・女を護るのは男の役目だ。

特にお前は家族で・・・俺の好きな女だから・・・」

「そんな考え、古臭いです」

「・・・かもな。

単純に、あの場所で再会した時のお前のボロボロな姿を見ちまったからこんな事言ってるのかもしれない。

でもよ、そんなもんじゃねえかって思ってよ。

傷付いて欲しくないなら・・・戦わせないのが一番だ」

「私は傷ついてもヒロシゲさんを助けたい。

ヒロシゲさんは元々パイロットだから戦うつもりなんでしょ?

それなら私も戦います。

このまま引き下がったら・・・私はただ弱いままの・・・あの頃の無力な女になっちゃいます。

また、ヒロシゲさんを・・・死なせちゃう・・・それが怖い。

ヒロシゲさんが命を捨てて私を救ってくれたなら、

今度は私が・・・私がやらなくちゃ・・・」

ヒロシゲは顔を一度下げてから・・・答えた。

「・・・そこまで言うなら止めねーよ。止められねえよ。

けど、一つだけ約束しろよ」

「はい」

次に来る言葉に、シーラは体を強張らせる。

「死ぬな」

「・・・・死にませんよぉ」

力が入っていた体をくたりと脱力し、困ったような笑いを見せる。

「・・・だが、これだけは本当に覚えといて欲しい。

お前は俺みたいになっちゃいけねえ。

命を軽々しく捨てようとしたり、残されたお前の事を考えないであんな馬鹿な告白したりとかよ。

・・・そのせいでお前が傷付く羽目になっちまった・・・俺の方が立つ瀬がねえよ」

「いいんです。

私があんな事をしていたのは、ヒロシゲさんのせいじゃありません。

ただ、私がやりたい事を見つけた・・・スクライドが私をけしかけた・・・から」

「スクライド・・?」

「私、ヒロシゲさんが居なくなってから・・・スクライドを見たから・・・ナデシコに乗る決意をしたんです。

どうしても・・・あの話に出てくる人はヒロシゲさんに似過ぎてて・・・ヒロシゲさんの意思のように感じたんです」

「・・・どんな話しか知らんがお前は・・・本当に戦う事に疑問を感じないのか?」

「愚問です。

私はヒロシゲさんに言われたからじゃなく、自分で選んだんです。

そもそも楽をしないで自分の道を進めって言ったのはヒロシゲさんですよ?」

「・・・ああ、必死だったからなんかもー・・・忘れてくれ・・・」

苦笑をしながらヒロシゲは頭を抱えた。

自分の言った格好付けの台詞に後悔を覚える・・・彼の癖らしい。

「でも、あの一言があったから私は生きてるんです。

私・・・あんな事言われなかったら後を追ってましたよ?」

「・・・ああ、悪ィ。

・・・けど恥ずかしいんだ・・・マジに・・・な、忘れてくれ・・・」

「やーです」

「頼むよ・・・ホント(泣)」

情けないながら、ヒロシゲは頭を下げて頼み込む。

「へへへ〜頼まれても私の意思に関係なく、私の中に刻まれちゃったもんね〜」

「・・・・・・(泣)」

その一言に、彼は頬をヒクつかせながら笑っていた。

「あれ?ヒロシゲさんのそんな顔初めて見ましたよ。

・・・なんか新鮮かも」

「・・・なじらないでくれ・・・あんな歯の浮くような台詞・・・あ〜!恥ずかしいぜ、オイ!!」

頭を抱え、顔を赤くして恥ずかしいと言う気持ちを全身で表現する。

「嬉しいな・・ヒロシゲさんの照れる顔・・・見れて・・・」

「・・・」

「会えなかったら・・・見れなかったんだろうな・・」

ヒロシゲは、人にあまり感情を見せたがらないタイプである。

そのため、彼は同居していたシーラでさえ、こんな表情を見せる事は無かった。

そのヒロシゲが、感情を表してくれる。

シーラはそれだけでも嬉しかった。

「・・・きゅ、急に湿っぽくならないでくれよ・・・なんだ、あれだ。

俺も、その・・・シーラの笑顔・・・見れてちょっと嬉しかった・・なんて」

「ヒロシゲさん・・・・・・」

「・・・・・じゃあ、もっとなじっていいんですか?(ニヤリ)」

「ちっ、ちが・・・あーもー、俺、部屋で寝る・・・」

「あー、ずるいぃ」

「・・・何とでも言え」

「冗談ですよっ・・・ふふふ」

背中を見せて立ち上がるヒロシゲを見て、シーラはまたニコリと笑った。

「ひーろーしーげさんっ」

「何だ?」

「キスしてくださいっ」

「なっ?!」

急に言われた一言に、ヒロシゲはたじろいだ。

「何だよ・・藪から棒に」

「私を一人立ちさせようとしてくれたあのキスが忘れられないんです。

もう一度・・・改まって・・・・・」

「駄目だ」

ヒロシゲは顔を逸らして断る。

「え〜?キスくらい、いいじゃないですかぁ?

私達、付き合ってるんですよぉ?」

「・・・いや、まあ・・・なんだ。

実際、いつから付き合ってることになってるのかは置いておいてだな。

俺もお前は・・・その、好きだし。

だけどな、俺は・・・・あ、いやいや、そうだ、ナデシコは手を繋ぐ以上しちゃいけないじゃなかったか?」

ヒロシゲは契約書を熟読してから契約したらしい。

「え?それだったらアキトさんはしょっちゅう違反してる事になりますけど?」

「・・・なんじゃそりゃ。

アイツは昔からモテル野郎だとは思ってたんだが・・・。

・・・はあ」

ヒロシゲは溜息をつく。

横目でシーラを見ると、じ〜〜〜っと視線を送っている。

いわゆる「何かを訴える視線」である。

それに耐えられなくなったヒロシゲは根負けしたのか頬を赤らめながら答えた。

「・・・・ま、いいだろ。

お前はお前なりに良く頑張ったしな。

じゃ・・・ちょ、行くぞ・・・」

「はいっ」

シーラの肩を抱いて、ヒロシゲは落ち着きを保ちながら・・・シーラの唇に自分の唇を重ねようとしていた。

だが、彼の腕は震えていた。

・・・21歳なのだが、こういう事に関しては彼はどうも中学生・・・いや、小学生並らしい。

・・・そもそもアキトがあの性格なのはこの男のせいではなかろうか?

「んっ」

「・・・!」

ヒロシゲの精一杯の譲歩。

だが、やはり早く離れてしまう。

「・・・柔らけ」

ヒロシゲはただ正直な感想を述べる。

「ありがとうございます・・・。

・・・これから、もっと頑張れそうです」

「ああ、一緒に・・・」

ヒロシゲは言葉を切り、言い直す。

「いや、まず・・・片手の訓練をしたほうがいいな。

俺が教えてやるからよ」

「え・・ホントですか?」

「ホントだよ」

「・・・・(赤面)」

シーラは顔を赤らめたまま硬直した。

数秒間・・・そのままの状態が続き、ヒロシゲは表情を曇らせて言った。

「オイ、何考えてる」

「べっ、別にやましい事は考えてませんよ」

実は思い切り嘘で、彼女は隙あらば甘えようとか考えていたりした。

「・・・嘘だろ」

だが、ヒロシゲには嘘か本当か見分けるのは訳が無い。

その様子を見てシーラは激怒した。

「・・・!もうっ!ヒロシゲさんは見抜いちゃうのが嫌いですっ!」

「・・・あ、悪ぃ」

ぼりぼりと頭を掻いて謝る。

「・・・フンだ」

「ごめんって」

拗ねる振りをしながらも、シーラは企んでいた。

「・・じゃ、お願い聞いてくれます?」

「・・・・・ああ」

ハメられた、そう思いながらも、彼は返事をする。

「・・・抱いてく「駄目」」

「・・・ヒロシゲさんの嘘つき」

ニヤニヤしながらも、シーラはヒロシゲを見つめつづける。

「・・ああ〜も〜なんだ、コラ。

お、お前はまだ18じゃねえだろ?

そういう本は・・・あれだ、18じゃあないと読めないし」

「うふふふ」

「・・?」

「そっちの意味で取ってもらってもいいですけど、私はただ『抱いて』欲しかっただけで、

別に男と女が深い愛情を持ってする体のぶつかり合いのことじゃないですよ?」

その一言にヒロシゲは片膝を静める。


がく。


「・・・何だよ、そーかよ。

それなら早く言えよ。

それくらいなら別に構わねえよ・・・」

そしてシーラを抱きしめる。


ぎゅっ。


「ほら、これでいいだろ」

「投げやりじゃないですか?」

「・・・別に俺は好きだからどうするなんて考えてないんだよ」

「・・・そうですか」

「・・・じゃ、今度こそ行くぞ」

シーラを離して立ち上がると再び背を向ける。

「あ、あと・・・」

「何だ?」

「・・・あの、『スクライド』ヴァーチャルルームで見れるようになってますから。

私が・・・ヒロシゲさんの面影を感じたと思ったんです・・・。

あの話のひたむきさが私を再び前進させて・・・戦わせてくれたんです。

だから・・・」

「・・・ああ、分かった。

診察してる間、見ておく」

「はい・・・」

「じゃな」


ぷしゅっ。


「・・・・・・・」


ヒロシゲは医務室を出ると急に頬を綻ばせた。

「け、結構柔らかいんだな・・」

自分の手をわなわなと震えさせながら見る。

彼はシーラの肢体の柔らかさの余韻を感じてるようだ。

今まで女気が少ない生活を送っていたせいなのだろう。

「なんかこー・・ジ〜〜ンと来る温かさだったなぁ・・・ああ、シーラぁ・・・」

・・・本人の前ではクールを気取っていたが、結構嬉しかったらしい。

彼も一人の男・・・・というか思春期の少年のようなリアクションである。

「はぁ〜・・・・あ?」

「・・・・」

緩みっぱなしの表情の脇に、ブロンドヘアーの少女が目に入った。

ヒロシゲは、少女が目に入った瞬間表情をいつもの無表情に変え、話し掛けた。

「よ、よお。

医務室になんか用か?」

「・・・・あなた、誰?

シーラちゃんの事を言ってたけど」

「・・・オイオイ、可愛げがねーな」

頭をボリボリ掻きながらヒロシゲは少女・・・ライザのことを見つめた。

「・・・誰って、俺はヒロシゲだ。

一年半前までシーラの面倒を見てた」

「あ、ヒロシゲ・・・あなたが?

シーラちゃんは死んだって・・・」

「ああ、死んでたな」

きっぱりと言う。

そして横目でライザを見据える。

「けどよ、シーラがあんな傷だらけになって戦ってるのに黙って死んでられねえよ」

「・・・なんかむちゃくちゃね」

「・・・俺だってどこをどうしてここにいるのかわかんねーよ」

ヒロシゲは壁に寄りかかって半ば自嘲気味に笑った。

「それよりよ、お前・・・いくつだ?」

「え?」

「その重みのある言葉・・・そして、人の腹を探るやり口・・・。

どう考えても四歳そこらの外見どおりには見えねえ。

シーラの事をちゃん付けで呼んでたり、口調もあれだしな」

「・・・幾つだと思う?」

「・・・・・・22」

「・・・ドンピシャ。

こんな格好してても気付く人はいるのね」

「いい勘してる、ってか?

・・・まあ、不自然だと思わないほうがどうかしてんぜ。

それに、死んだ俺を生き返らせる技術があるんだからよ。

体を小さくする薬くらいあってもおかしくねえ。

名探偵コナンってやつだ・・・知ってるか?」

どこか不敵な笑みを浮かべつつ、ヒロシゲはライザを見る。

「・・・シーラちゃんが見てたような」

「・・・ほーほー。

あんたも俺と・・・いや、シーラと似た境遇もちみたいだな」

「何でそう思うの?」

ヒロシゲは天井を見てもう一言。

「・・・また勘だよ、勘。

その目を見ると・・・どうもシーラに似たところがある。

大方、シーラに救われたんだろうな・・」

「・・・心の中を読まれてるみたい、全部大当たりよ」

「おっ、マジ?

・・・まあシーラと暮らしていくうちにお互いに影響するところは多かったし、

シーラと暮らす人間がいるならそういう奴かと思ったんだがな」

「結構、あなたの話は聞いてるわよ。

襲われてる所を救ったり、その後世話をしてくれたり、死ぬ前に愛の告白をしたり・・・。

どうしてこんなに漫画に出てきそうなことばっかりしてるのか、聞いててこ恥ずかしくなったわよ?」

「・・・がーっ。

どこまで話してるんだ、あの野郎・・・」

「・・・でも」

「でも?」

寂しそうな瞳を浮かべてライザは呟くように言った。

「・・・ホントに、私はあの子とは正反対の位置にいたのよ。

境遇は奇妙なほどにそっくりなのに・・・おかしいでしょ?」

「・・・いんや、全然」

首を振ってヒロシゲはその一言を否定した。

「気持ちが分かり合える奴に引かれる・・・運命みたいなもんは結構あるのさ。

俺もアッ君にはちょいと面識があってな。

俺と同じで両親を事故で無くしたらしいんだ」

「・・・そう」

「・・・まあ、あんたとシーラの境遇に比べればマシかも知れねえが」

ふーっと息を吐く。

「・・・それに、アイツには不思議な力がある・・・そう思ってる。

色々勇気付けられるし、周りが明るくなる。

人を惹きつける力ってのか?

・・・そんな、アイツを・・・護るために戻ってきた、そう言っても過言じゃあねえかもな」

「・・・そう、そうね。

あの子は・・・年上の私達でさえ・・・勇気付けられるわね」

「さて、あんたもシーラに用事があるんだろ?

行って来な」

「ええ、そうさせて貰うわ」

ライザは医務室に入っていく。

「さて・・・スクライド、か」

ヒロシゲはその足で、シミュレーション室に向かった。

ぷしゅっ。

「いらっしゃい」

ヒロシゲが部屋に入るとセレスが出迎えた。

「お、受付まであるのか。

スクライド、全話頼む」

「ぜ、全話ですか?」

「以前聞いた話によるとシミュレーションシステムは待ち時間を作らない為に、精神時間を何倍にもできるらしいな?」

「ええ、出来ますよ・・・ただ・・」

「ただ?」

「時間当たりの密度が高い為に精神的に負担が大きいので14倍が限界ですよ」

「よし、やってくれ・・・シーラの為にも早く見なきゃいけないんでな」

「?お母さんがどうかしたんですか?」

「あん?お母さん?」

ヒロシゲは怪訝そうな顔をしてセレスを見つめた。

「何だそりゃ?」

「私、ロボットなんです」

「・・・ほー。

確かにアイツなら出来るだろうな」

「はあ・・・あなたは?」

「あとで話してやる。

今は一刻も早く・・・見てみたいからな」

「では、ヘッドギアを装着してください」

「おう」

「では・・・スタート」






−ヒロシゲ−

スクライド・・・どんな話だ?

俺は結構楽しみにしていた。

・・・シーラがあそこまで評価するんだからな。

『突如、神奈川を中心に大隆起が起こる。

ロストグラウンドと呼ばれるその大地で生まれる新生児の1%に『アルター』という物質変換能力が備わるようになる』

・・・いきなり凄い話だな。

で、俺の視界・・・カズマとかいう主人公格・・・だろうな。

・・・・・の視点に切り替わる。

こんなに凝ってるのか・・・。

つまり、登場人物の視点に切り替えて感情移入をしやすくしてるんだな。

・・・しかし、このロストグラウンドってのは・・・火星に似てる。

いや、ただの荒野だから、とかじゃなくてな。

ユートピアコロニーが市街でその他が荒野に似てるからだな。

・・・それより、カズマ・・・。

そんな小さい女連れとはどういう了見だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?

よくよく考えれば、これはどっかで見たような?

まさか?



俺とシーラかよ。



・・・・・・・なるほど、似てるかもな。

それで・・・俺は、全話見る。

・・・その結果、分かった事。




まんま、俺だ。




・・・・シーラ、お前ちょっと凄いの見つけすぎ。

だが、俺はあそこまでけしかけてねえけどよー・・・。

それでも、俺の主義にピッタシカンカンだったから感情移入しすぎた・・・。

んやぁ、いいものを見せてもらったぜ。

・・・・よし、シーラと話しに行くか。

この感動は一人じゃ勿体ねえ。

・・・一緒に見るのも良さそうだな。

それで、俺は医務室に向かった。

「よ、シーラ」

「ヒロシゲさん・・・どうでした?」

「サイコーよ。

お前が俺に似てた・・・っていうのがすげえ分かった。

あれ、俺の昔にそっくりだぜ」

「ホントですかぁ?」

「ああ・・・まんまじゃねえけど・・・多分・・・」

「・・・あの、ヒロシゲさんはカズマみたいに居なくなりませんよね?」

俺は心配そうに見つめるシーラを撫でた。

「理由もねえのにいなくならねーよ」

「・・・そうですか」

どこか、安心した顔だな・・・。

そんなに不安だったのか?

「ちょっといいかい?」

「タニさん」

タニさんが医務室に入ってくる。

この後、俺達は真実を聞かされた。

俺が生かされてたわけを、そして・・・シーラの本当の力を・・・。










作者から一言。

・・・・・・あんな決心をした後、思いっきり甘えてるシーラ。凄まじいバカップルっぷり。

まー・・・いいかな、休息中で。それとー・・・。

・・・なんかもー、原作(時ナデ)に沿るのを半ば諦めた感じです。

カグヤなんぞ眼中ねえです・・・すいません。

だって漫画版買えないんですもん・・・(泣)。

それも二重の意味で・・・(泣)。

そ、それはまあ置いといて。

今日は前口上抜きでした。

あと、それなりに布石は立てようかと思ってんですけど・・・どうも立てられないんですね。

要は行き当たりばったりで書きたいシーンしか思いつかない・・。

最近は書きたくなったシーンばっかり書いてます。

それも二日三日で100キロバイトを超えてしまうほど・・・。


どこかおかしいのか、僕は。


・・・何しろ脳内では次回作が完結してますし・・・ああ、繋ぎも出来てないのに。

ナデシコXかreloadbuleかナデシコオセロか・・・どうしろと!?










・・・・ああ、書けば良いんですか?






書けば良いんですね?




後悔しませんね?




誰も止めませんね?





・・・・・・では。






・・

・・・

・・・・・・そういえば「蒼穹のファフナー」って始まりましたよね?

何か髪の長いほう(名前を覚えてない)が・・・なんかシーラのビジュアルイメージにはまっちゃって。

・・・髪型、完璧にあんな感じなんですよね・・・。

・・・・・やべえ、何かreloadっぽい状態・・・・。

だってまんまエーベックスで?そんで平井久司(スクライド&ファフナーキャラデザイン担当)で?

いや、世の中には偶然てありますし。

この前ファフナー知ったばかりだし。

あははっはは・・・被っていいや。←やけくそ

では、次回へ。












最近のネタ。







この間、僕はCDを借りに行きました・・ツタヤに。

そこで、こんなモノを見ました。

「・・・ん、ナデシコ劇場版CDか」

手にとって見てみる・・・。

「ん?」

よくよくジャケットを見てみれば・・。

『ラピスって、いくつ?』


・・

・・・

・・・・

・・・・・




分かってねえのかよ!製作側!!





・・・世には不思議な事が溢れているものですね・・・。





 

 

代理人の感想

うーん。

なんか冗長すぎるというか・・・状況を垂れ流してるだけで演出が無いというか。

演出が無いんですよ、お客さんに見せるための、お客さんを引き付ける為の演出が無いんです!

丸い卵も切り様で四角、物も言い様で角が立つ。

それは関係ありませんが、何てこと無い話だって話し方見せ方次第で楽しい小話になるもんなんです。

言い換えれば、どんな感動的な話だって見せ方が悪ければただの言葉の垂れ流しです。

現在、そう言う状態だと思うのですがどうでしょう。