第22話「Try Again」













「草壁中将っ!一体全体これはどういうことですか!!」

白ランを来た男が叫び声をあげる。

恥ずかしげも無く上げられたその声は、静かな和室に響き渡る。

他の人間は口を開こうともしなかったが、叫ばれた初老の男は応えた。

「どういう事だと?

見ての通り、和平交渉の条件提示ではないか」

「これのどこが・・・」

「白鳥君、やめなさい」

舞歌がなだめる。

九十九が目を落とす先には、木連が地球側に求める和平の交渉の条件が書いてある。

だが、その内容は惨憺たるものだった。

武装放棄。

財閥の解体。

政治理念の転換。

それは事実上の無条件降伏を意味する。

「・・・確かに、この内容は横暴です、草壁中将」

「こんな物を和平交渉と呼べるのですか!?

手をとり、平和の為に話し合う事は・・・地球とキョアック星人の関係から、

地球人同士の関係にすることではないのですか!」

「白鳥九十九。

それは反逆の意思を認めるものとして受け取っていいのかね?」

「く・・・」

九十九は身じろいで表情を歪めた。

ここで反逆の意思を取られてしまった場合・・・地球側のスパイだと思われても仕方が無い。

とは言え、この条件を飲むわけに行かないのも事実。

「ここまで露骨に来られますか、怒るのを通り越して呆れますな」

赤シャツを着込んだ男・・・プロスペクターは無表情のまま草壁を見た。

普段から余裕を見せて交渉の場に臨む彼だが、最初から意味の無い条件を突きつけられたのだ、

内心、穏やかではないだろう。

それと同じように隣に居る舞歌、後ろに控えているアキト、アキコ、ユリカ、ジュン、シュン、ゴートも例外ではない。

「それくらいが当然ではないのか?

我々はそれだけの仕打ちを受けてきたのだ」

「だが、非はどちらにもある」

「ほう」

アキトが口を開いた。

普段の感情、表情ともに豊かな彼ではない。

冷たい・・・冷徹な人間性を垣間見せる姿だ。

「漆黒の戦神、テンカワ・アキト。

貴殿にはこの戦争の全てが見えていると?」

草壁があからさまに見下すような口調と視線でアキトを見る。

最強のパイロットだが、政治や戦争までに詳しいとは限らない。

むしろ、無知な方が自然である。

だからなのだろう、草壁のこの視線は。

その中には明らかな地球人への差別、偏見といった物も含まれていた。

「ああ、あなたよりは見えているつもりだ」

「私達は、あくまで「和平」を交渉しに来た。

あなたのように、この戦争で地球側にどれだけの血が流れたか分かっていないわけじゃない」

その隣のアキコも口を挟んだ。

彼女も冷徹な表情をしている・・ように見えた。

だが、手が若干震えていた。

アキトほど落ち着いては居ないようだ。

(・・・くそっ、何で震える・・。

これじゃまるで一回目じゃないか・・・)

アキコは手に力をいれて震えを止めようとした。

草壁はそれを意に介さずに立ち上がり、言った。

「地球側には我々は邪魔者にしか映らないだろう。

このまま和平を許しては、植民地にされ食い潰されるだけだ」

「ボソンジャンプの利権戦争がそんなに大切か?」

「な・・・!?」

アキトの冷たい、それでいて全てを見通しているかのような底の見えない喋り方に草壁は寒気を覚える。

(この男・・・!)

「人類の為・・・それもいいかもしれない。

だが・・・人間はゆっくり進歩すればいい。

それと同じに・・・ゆっくり分かり合えばいい。

人間はあなたが思うほど馬鹿じゃないんだ。

お互いを傷つけ、潰しあう・・・それが人間だが・・・。

人は、愛する事も、子を育む事も出来る。

偏った技術力に頼って足だけを進めてきた二十世紀初頭のように、

全てを焼きつくす破壊兵器を作らなくてもいい。

・・・手をとって、分かり合えてから進めば良いだろう」

アキトが言い切ると、草壁は焦ったように激昂した。

「人間はッ!そんな奇麗事では生きていけないのだ!」


ざっ。


草壁が手を横に水平に上げると襖が開き、銃を持った兵士達が出てきた。

部屋を取り囲むほどではないが、アキト達を殺すだけなら仰々し過ぎる人数だ。


だが、それは普通の人間ならば、だ。


アキト達は戦闘が出来ない人間を護るように囲むと、叫んだ。

「結局は力押しか草壁!

お前は木連将校のような誇りは無いようだな!」

「ええい、黙れ黙れ!

貴様のように目先の事にしか理解が行かないお前に!

お前にそんな事を言われる筋合いは無い!」


ぱんっ・・ぱん。


単発的な銃声が響き渡るが、それは和平交渉に来ていた人間を傷つけることは無かった。

それと逆に、静かにアキトとアキコは入り口近くにいた兵士達を薙ぎ倒すと、

ナデシコの人間と九十九と舞歌を連れて走り出した。

「追え!」










−アキト−

俺は、警備の少なさに少々不自然さを感じる。

俺達に暗殺者の汚名を着せるだけならそれでもいいかもしれない。

だが・・・和平派の木連代表である舞歌さん、そして白鳥・・・。

逃していいはずは無い。

・・・それとも、まだ何か裏があるってのか?

「しかし・・警備が少ない。

どうしてだ?」

「何かある・・・絶対に、何かある」

アキコが俺の発言に呼応する。

・・・妙に自信のあるいいようだな。

「何か確信があるのか?」

「いや・・・あの北辰の言葉が気にかかる。

本気で戦う場所があるとすれば・・・もし俺達の口を封じておく心積もりなら・・・ここで出て来るはずだ」

・・そうか。

枝織ちゃんも、母親らしき人に言われてたしな。

・・・だが、もう脱出は出来そうだな。

「アキコちゃんよ、少しは楽観的に考えないか?」

「・・・そう言うわけにもいきませんよ、シュンさん」

・・・だが、和平交渉は、成功しなくても・・・最悪、停戦には持ち込めるはずだ。

何でそんなに自信満々かって?

見てれば分かるさ。














−氷室京也−

俺は、胸にしまってある銃を・・・握り締めながら、混乱の中を歩く。

この場に居た兵士は和平交渉にきた人を追いかけていった。

今、この広い和室に居るのは、俺と草壁中将だけだ。

「・・・ふん、漆黒の戦神ともあろうものが逃げるとはな」

「・・・・・中将」

「氷室か」

草壁は後ろに現われた男に振り返りもせず声をかけた。

・・・このふてぶてしいまでの余裕が鼻にかかる。

俺にとっては、体よく利用されているだけに・・・利用されていただけに、それは威厳には見えない。

「なぜ、撃たなかった」

・・・俺は、あの時舞歌を撃つべきだった・・・。

そう命令されていた。

ほんの一ヶ月前の俺なら・・・間違いなく撃っていた。

愛していた・・・これから、チャンスがあれば・・・告白しようとしていた彼女でも・・・。

それが、生きる術だからだ。

俺は暗部ではないから人を殺す事に抵抗はある。

だが・・・・・。

「・・・この銃で撃つべき相手は舞歌様ではありません」


ちゃっ。


「あなたです、草壁中将」

草壁に銃を向け、睨む。

だが、それでも草壁は振り返ろうとはしない。

「・・・本気で言っているのか、氷室京也」

本気だ。

・・・あんたが正義じゃないって分かった・・・。

だから・・・俺は、彼女の和平に賭ける思いに応える為にも、撃つ。

「私はあなたに幼少の頃からお世話をしていただきました。

しかし、私はあなたの人形ではありません。

意思を持って行動する・・・人間です」

ふっ、と草壁は含み笑いをしながら、肩をすくめた。

「くくく・・・氷室よ。

恩を仇で返すとはこの事だな」

「いいえ、私は・・・個人として、公としてあなたを撃ちます」

「ならば・・撃ってみるがいい、息子よ」

「!」

不覚にも・・・俺は一瞬怯んでしまった。

その隙に、草壁は銃を弾き飛ばし、胴に肘を放つ。

かわしきれない・・・!


どむっ。


「かはぁっ!」

視界がぶれ、重い音がしてダウンした。

冷たい床に叩きつけられながら・・目の前に居る男の隠した実力に戦慄した。

「私が何も身を護る術を持っていないとでも思ったか、この未熟者が」

「なに・・・を・・・」

銃を拾い、構えながら草壁は言う。

だが・・・息子だと?

「真実を教えてやろう、お前は私の実子だ。

お前が公に知られると色々と面倒な事になる、その為の措置だったのだ」

「なんだ・・・と?」

俺の唇から血が滴る。

内臓破裂を起こしているのか、呼吸すら・・・整えられない・・。

傍から見れば、確実に顔色が悪くなってるだろうな。

「だから・・おれ・・は・・・」

ただ、子供だから生かされ・・・時期が来たら使い捨てられる・・・為に?

「こんな事をし・・て、も、わへ・・・い・・は・・・」

「和平は失敗する。

どちらにせよ、あちらが仕掛けた事になる。

それにお前が和平派の舞歌の部下だ。

・・銃を持って、クーデターを起こそうとしたと証言すればいい。

舞歌も処刑できる。

和平派など消え去るだろう。

いくらでもつじつまあわせは出来る」

くそ・・・俺は・・愛した女一人救えないのか・・。

俺は自分の無力さに泣いた。

掌で踊らされ、利用され・・・最後には自分の意中の人を追い詰めてしまった自分の愚かさに・・泣いた。

「ハイハイ、そこまでにしておくんだな、草壁の古狸」

「・・・な?」

顔を上げると、何も無い空間から男が現われた。

・・・幻覚でも見てるのか、と思ったが・・どうもそうではないらしい。

「貴様・・・」

銃を向けられ、草壁は男を睨みつけた。

男の横から女性が出てきて前に出て男を制しようとする。

「ナオさん、今回の作戦は」

「いいんだよ、これで」

「ふん!

貴様のような輩が出てきたところで大差ない」

「まだ気付いてないようだな、クソジジイ」

「・・・なんだと?」

「お前は追い詰めたつもりになっているだろうが・・逆だ」

何か・・・モニターのような物を取り出すと・・男は見せつけながら宣言した。

「お前は追い詰められたのさ」

『お前は追い詰められたのさ』

「これは!?」

そこには・・・男の後姿が映っていた。

どういう・・・ことなんだ?

「・・・和平交渉の中継だ。

恐れ入ったぜ、全くよ。

あの子・・・とんでもない策士だな。

それを実行できるマシンチャイルドのみんなも凄いけどな」

「・・・そうか、草壁中将の本性を暴く為に・・・ぐほっ・・」

・・・こういう時に無理して喋るもんじゃないな。

どうにか・・・生きて帰れるかもしれない、淡い期待を持てたってのに・・。

「ここで死ぬか、それとも法の場で裁かれるか・・・。

さあ、どうするんだ?

古狸のオッサンよ」

「くっくっく・・・」

・・・何だ?何故このタイミングで笑える?

気でも違ったのか?

「な・・にが・・おかしい・・」

「お前等の単純さがだ・・。

私を法で裁く?この場で殺す?

可笑しい・・・実に可笑しいぞ・・」

「だから何が言いたいんだ!?」

「もはや・・・そんなものは意味をなさないのだ。

すでに、我等は力を持っている。

・・・準備を整える時間さえあれば、全てを征する事は容易い」

・・・なんだと?

「だが・・・ここで死ぬことはできん。

さらばだ」


草壁がスイッチを押すと・・床が沈んで、姿を消した。

・・・とにかく、生き残れたようだな・・。

「大丈夫か?」

「あ・・ああ」

「そんじゃ、俺達も逃げさせていただこうか」

「・・・しかし、これで大丈夫か?」

「大丈夫だ。ナデシコの首脳部は頭が切れるからな」

「違いない・・ぐ・・・」

肩を借りて立ち上がろうとするが・・・呼吸はまだ整ってない。

・・・やはり、重傷のようだ・・。

「あまり喋るなよ。

これ以上喋ったら命の保証はできないぜ?」

「・・・ああ」

男は一見軽薄そうなへらへら笑いを浮かべるが・・・。

どこか、その冗談じみた台詞には温かさを感じた。

一つ、名を聞きたかった。

「あんたの名は・・?」

「ヤガミ・ナオ。

・・・最近目立たない、ナデシコの保安部の人間だ」

「氷室・・・京也だ・・・」

どうやら・・・死にぞこなったらしいな。

・・・俺も悪運が強い。

もっとも・・舞歌が生き残れるなら別に命でも捨ててもいいと思うが。

・・・・・・それでも・・やはり嬉しいものだ。

多分、俺は一瞬笑ったのだろう。

そして、意識が闇に閉ざされると・・・舞歌の笑顔が浮かんだ。

















−ナオ−

まったく・・・とんだ貧乏くじ引いちまったな。

あの子の作戦ってどうしてこう突飛なんかな?

以前のコロニーの時といい、救出作戦のときといい・・・無茶ばっかりだ。

だが、結果的には・・・ベターどころかベストの選択に終わっている。

・・・けどよー。

助けられる人は全員助けてこないとミリアにこの間の休暇中にナンパした事を言うなんてちょいと荷が重くないか?

ゴートさんが和平会談の護衛って・・・あの二人が居ればまあ、全く問題無いと思うが。

かといって兄貴を連れてこなかったのは正解だな。

あの協調性ゼロの兄貴に人を助けられるとは・・・・考えらんねえしなぁ。

俺が拾われたことも奇跡に近いってのに。

それと、俺の背中で寝てる氷室とか言う奴。

・・・何で男に背負われてんのにそんなニコニコ顔なんだよ!?

こっちは気味悪くってしかたねーっつーのに!

ミリアか他の美人なら別にかまわねえが・・・いかんいかん。

あんまり不純な事を考えないように普段から心がけないと・・・ボロが出るからなー。

・・・ま、それは置いといて。

後は捕虜になってたって言う・・・後ろで走って付いて来てる二人の女性。

ナデシコのマッド科学者・・・もとい、医務室の主任のドクター・イネスの母、イリス・フレンサジュ。

それと、マシンチャイルド・・・IFS強化体質のフィリス・クロスフォード。

・・・しかしどうして科学者ってのは白衣ばっかり着てんだろうね〜?

こう言う時くらいは動きづらいんだから脱げばいいと思うけどな。

フィリスちゃん、結構可愛いしな〜・・・。

いやいや、俺にはミリアが・・・って、何でこんな事ばっかり考えてるんだよ。

「それより、他に捕虜の人は居ないんすか?」

「はい・・・他の方は別の戦艦に居るようです」

・・・だが、これで本当に万事解決してくれるといいんだが。

はあ。

・・・・中途半端って、辛いな。
















「反応はどうだ?」

秋山の質問に、後ろに控えていたサブロウタが答えた。

彼等の前にはモニターがあり、木連軍人の今の放送に対し、草壁を信じるか否かの解答の割合が示されていた。

「・・・半々って所ですか」

「流石に今すぐ信じろって言うのは無理があるか」

(俺も飛厘の報告と舞歌様の警告が無かったら信じられなかっただろうがな・・)

秋山はふっ、と息を吐きながらモニターを見た。

今の映像を信じる者と信じない者の間には様々な憶測が飛び回っていた。

「やっぱりか!」と納得する者。

「まさか・・・」と半信半疑な者。

「これは偽の映像だ!」と憤慨する者。

盲信的に囚われがちな木連軍人達をこれほど揺るがしているのは、草壁の噂がかなり暗い部分を帯びてるためだった。

暗部の存在。

暗部のトップである北辰自体はそれほど知られていないが、している事はそれなりに流れている。

現に史実では北辰と月臣は面識があったような事をほのめかしており、一部には暗部の顔も知れ渡っているのだ。

同時に、暗部の存在を肯定する者、否定する者が別れている。

正義の為に必要だ、と主張する者は例外なく現在の放送を偽の映像と主張していた。

それでも結果的には艦内の意見が分裂し、逃げ出しているナデシコを攻撃する事はままならなくなっていた。

「・・・だがこれほどに草壁中将が腹黒い男とは知らなんだ。

サブロウタ、お前は大して驚いていなかったが何か知っていたのか?」

「そうっすね。

戦力を隠し持ってる事は確実ですね」

「何故そう言い切れる?」

秋山の質問は至極当然だろう。

優人部隊に入っているとはいえ、まだ新人扱いのサブロウタがこういう事を知っているのは不自然である。

「・・・ちょいと小耳に挟んだんですがね。

その情報元が信用できるんでありえるかなって」

サブロウタの何かを含む言い方に秋山は小さく笑った。

「・・・・・・今はそういう事にしておこう。

だが、その内話すな?」

「・・・ええ、全てが終わったら話します。

・・信じてもらえるかどうかは分かりませんが」

「・・・ああ」

その返事に満足したのか、秋山は深く頷いた。

(・・・本当にナデシコという艦には不思議な事ばかり見せられる。

敵を憎むどころか、情けをかけ、真実を教えるとはな)


















−格納庫−

ナデシコに和平交渉へ向かっていた面々と戻ると、アキトは叫んだ。

「ユリカ!火星へ向かえ!」

「え?急に何を・・・」

アキトがいきなり指示を出すとユリカは混乱する。

「そこにあるんだ・・・この戦争の真実が!」

「ちょっと待てよ、テンカワ。

お前が何でそんな事を知ってるんだ?」

「それは・・・」

ジュンが割り込んで突っこんだ。

プロスの時もそうだが、アキト達は秘密が多いため、信頼の上に疑問が浮かびやすくなっていた。

「お前はいつも先を見通すようなことを言っていた。

僕がデルフィニュウムで防衛ラインから出てきた時も・・。

何で君は乗り込んだばかりのナデシコで、あそこまで人を信用できた?

ユリカと十年近く離れていたはずのお前が、何であんなにユリカを理解していた?

何でだ・・・?

何故君はそこまで先が見越せる?

何故なんだ、答えろテンカワ!!」

ジュンの叫びに・・・格納庫はしん・・・と静まり返る。

ナデシコのクルー全員の疑問。

アキトが、そしてアキコが、コックを志望しながらパイロットを続ける訳。

時に発せられる、ミステリアスな言動・・・重い雰囲気。

訓練を受けたエステバリスパイロットよりも遥かに高い戦闘力。

アキトは短めの沈黙の後、答えた。

「・・・そろそろ潮時なのかもな。

俺が・・・そして、アキコが・・・何故、戦うのか、ナデシコに乗り込んだのか・・・。

この戦争の真実の姿を・・・話す時が来たのかもしれないな・・・」

重々しく語る・・・アキトの姿を見ていたユリカが恐る恐る声をかけた。

「・・・アキト?

何で・・・そんなに・・・辛そうな顔をするの・・?」

「・・・ユリカさん、察してやってください」

「アキコちゃん・・・」

アキコが前に出てユリカを制した。

そして、アキトが続ける。

「・・・そう、話すべきなんだ。

・・・俺達の知る・・・全てを」

「アキト、お前には・・・少し辛いだろ?

俺とコウタロウが話す。

部屋に戻って少し休んでろよ」

「・・・だが、あの時でさえ震えていたお前に・・・言えるのか?」

その一言にアキコはふっ、と息を吐いた。

笑うかのような仕草だが溜息にも見える。

自分に対する心配を打ち消すように肩を叩いて言った。

「一人じゃければな」

「・・・すまない」

アキトは背を向けて格納庫を去った。

彼が生活区に向かうのを確認してからアキコは言った。

「・・・全艦放送で流してブリッジで話しましょう」






−アキコ−





・・・・・・ついに、この時が来たのか。

俺が・・・全てを話す時が・・・。

ブリッジに向かいながら俺は・・・どこから話せば良いだろうと・・・考えていた。

いや、普通に話せば良いんだ。

ユリカも、アイちゃんも・・ルリちゃんも居る。

アイツの世界から来たルリちゃんも含めて・・・全員で説明すればいい。

アイちゃんはあまり適任じゃないけどな。

久々の説明でクルーが全員ダウンするほど長々しい説明をされたら意味が無い。

そして、俺は・・・ブリッジについた。

そこにはコウタロウとシェリーちゃん、マリーが居た。

タイミングが良いと言うか何と言うか・・・。

「あ、アキコ・・・お帰り」

コウタロウは・・・艦長代理だ。

ジュンが副長だから本来はジュンが残るべき・・でもないか。

ユリカのサポートが出来るのはジュンだけだ。

もし一緒にコウタロウが来たら・・・拍車がかかるだけだろうな。

「・・・ただいま。

ちょっと・・・いいかな。

シェリーちゃんも、マリーも・・・あと、医務室にいる・・・アイちゃんも・・・」












俺は、覚悟を決めた。








































−医務室−


ぷしゅ。


「よっこらせ・・・おーい、急患二人なんですけど」

「はいはい」

イネスは調合していた薬を置いて振り向く。

そして、その目の前に居た人物に驚く。

「か、母さん!?」

「・・・イネス、久しぶりね・・・」

「生きてたんだ・・・良かった・・・」

椅子を放り出して、イネスはイリスに抱きついた。

「監禁生活で衰弱してる。

こっちは内臓破裂の恐れがあるみたいだから、あとを頼む」

ナオは氷室をベットの上に下ろすと、自らは部屋から出て行く、

フィリスはその場に残った。

「分かったわ。

アイちゃん、氷室君を頼める?」

「あ、あ・・・うん」

突然のイリスの出現に呆然としていたアイは、イネスの一言でやっと覚醒した。

だが、イネスの一言にイリスの視線がアイに向いた。

「・・・!!

あなた・・・アイって?

まさか・・・いえ、そんな事は・・・」

「母さん・・・?どうかして?」

イリスはイネスをそっと離し、

アイの方へ歩み寄り、しゃがみ込んでその顔を見た。

「あなたは覚えていないでしょうけど・・・あなたを砂漠で見つけた時・・。

名乗った名前がアイ・・・そして目の前に居るこの子の顔が・・その時のあなたそのものなのよ・・」

「・・・!」

イネスに衝撃が走った。

何が起こっていると言うのか、彼女には理解が出来なかった。

そんな事はお構いなしにイリスは質問を開始した。

「あなたは・・・一体、何者なの?

ただの他人の空似にしては似すぎてる。

この写真・・・保護した頃の写真と成人した時の写真・・・ペンダントにして持ってるのよ。

イネス、見てみなさい」

「・・!?」

目を疑った。

そのペンダントには目の前に居る少女の姿があるではないか。

だが、それが自分の過去の姿だとすれば・・・。

そして、目の前の少女がアイと言うのであれば・・・。

偶然にしては出来すぎている。

「それに・・・この子の目は何かを知っている目よ。

出来れば話してもらえないかしら?」

「そ、その・・・」

しかし、アイは・・・今にも泣き出しそうな顔をしていた。

彼女は以前、火星で亡くした・・養母の姿を見て、感極まっていたのだ。

それが違う次元の者だとしても。

彼女は・・・気持ちを抑えきれなくなりそうだった。

そんな折・・・コミュニケの通信ウィンドウが開いた。

『アイちゃん・・・』

『お姉ちゃん・・・』

『・・・全てを話す時が来た。ブリッジに来て』

アキコは用件だけ言って切った。

ウィンドウが閉まると、零れそうになっていた涙を白衣で拭い・・・意を決したようにアイは扉に向かって歩いた。

そして・・・振り向いて、言った。

「・・・全てを話しましょう、イネス・フレサンジュ、そしてイリス・フレサンジュ。

私が何者なのか、ハッキリすると思います」

「・・・分かったわ、話はブリッジで聞きましょう」














−ブリッジ−

ブリッジの端っこで逆行者達は相談をしていた。

「アキコさん、ここは私が話しましょうか?

以前のピースランドでの説明で多少は」

ルリがアキコに妥協案を出す。

だが、人差し指でアキコはルリの発言を止めた。

「いや・・・これは俺の口から話したい。

・・・そっちの世界も、俺の世界も・・・結局は「テンカワ・アキト」が引き起こした事だから・・・」

「でも・・・」

「大丈夫、俺達がサポートするから」

コウタロウが胸をとん、と叩いて「任せて置け!」と言わんばかりの表情で笑う。

「それに・・・やっぱり、この戦争の中心はアキトとアキコなんだ。

ルリちゃんでも大して変わりはないけど・・・やっぱり、秘密が多いのは二人の方。

隠していた本人に言われた方が信じてもらえるよ」

「・・・そうですね」

「おい、まだなのかよ?」

「ちょっと待ってくださーい」

リョーコがせかすのを見て、アキコは振り返って返事をした。

実はかれこれ十分間は待たされているのだ。

段々とクルーの苛立ち、もしくは期待が高まってきていた。

そして・・・。

「お待たせ、お姉ちゃん」

「あ、来たね」

アイとフレンサジュ親子が現われると、アキコはアイを自分達の方に呼び、

ブリッジのモニターの前に立った。

「では、お待たせしました。

これから話す事が、私達の秘密・・・そしてこの戦争の真実です」

「なお、この話が終わるまでは発言をすべて却下します」

「お、おい」

リョーコがシェリーの宣言に驚く。

人の話を聞いている時に口を挟むのも失礼だが、

一切の発言を禁じるのはそれ以上の失礼に値する。

だが、あえてシェリーは話をスムーズに聞いてもらうために禁じる事にしたのだ。

そして彼女が改めてリョーコに言った。

「全て聞かなければ、分かりません。

どうしてこの話が、こうなるのかとか一々答えられるほど簡単じゃないんです・・・。

もしこれが嫌ならばイネスさんに説明を任せますけど?」

「・・・わかった。じゃあ、さっさと始めろ」

「では・・・」


ぱちり。


「電気が?」

照明が落ちた。

シェリーがオモイカネに頼んだのだろう。

無駄な演出かもしれないが・・・話を理解してもらう為には、人を引き込む必要性もある。

それ故に、彼女が演出をしているようだ。

そして、アキコにスポットライトが当たり、語り始めた。

「これは・・・一組の男女の物語です」

消え入るようなアキコの寂しい呟きに、ブリッジは静まり返った。

彼女は元から暗い性格ではないが、この話自体は彼女には話すのが辛い事だった。

それでも・・隠していたことだ、話さないわけにも行かなかった。

「ある戦艦に・・・一人のコックと、コックを王子様と慕う女の子が居ました・・・」

(アキトと・・私のこと?)

「コックは戦いに駆り出され、親友を失い、傷付きながら戦い・・・。

そして、戦争を終わらせる為に・・・和平交渉に臨み、戦争は終わりました」

「あの・・」

「発言は禁止です」

「うう・・」

シェリーの鉄壁の防御にユリカは閉口した。

そしてシェリーにもスポットライトがあたり・・・彼女も喋り出す。

「しかし、その戦争は実は地球と木星の百年前の因縁の戦争ではありませんでした」

「なに・・・!?」


ざわざわ・・。


「静かにしてください、これからが重要なんです」

ざわめきをかき消す、透き通るような声。

闇の中にあってそれは驚くほど響いて聞こえた。

「戦争の最中、地球のクリムゾンは火星の遺跡・・・オーバーテクノロジーの塊を見つけ・・木連の将軍、草壁にも知られます。

草壁はその遺跡の演算ユニット・・・ボソンジャンプのコントロールを可能とする物を見つけます」

「するとその戦略価値、存在価値に・・・やがて戦争を報復戦争から遺跡の略奪戦争に切り替えます」

「嘘だ!」

後ろの方から男の声が・・・。

白ランを着た白鳥九十九の声が聞こえた。

「草壁中将は・・・腐ってもそんな男じゃ・・・!」

「発言は禁止です」

「だが中将の侮辱は!」

九十九の激怒とは対照的に・・・シェリーはまるで人形のように振舞っていた。

それは話に引き込むための手段の一つだが・・・この場合は裏目に出た。

「あなたはこれから先の事を聞いたら・・・多分、叫びつづけるでしょう。

けど、これが真実・・・実際、あなたは草壁中将の卑劣な姿を見たのではないですか?」

「・・・くぅ」

押し黙ってシェリーを睨みつけるも・・・彼女はそんな事を気にする様子は全くない。

「・・・続けましょう。

その戦争は・・・恐ろしい被害をもたらしたのです」

「個人的にも・・・世界的にも」

「まず・・・ヤマダ・ジロウさんが、連合軍のムネタケに撃たれて死亡します」

「なんだと!?」

激昂するヤマダ。

だが、シェリーは意に介する事無く、続けた。

「次に、サツキミドリがナデシコが通過した時点で轟沈。

リョーコさん達三人のみが生き残ります」

「私とヒロシゲさんは・・・?」

シーラがポツリと零す。

「死んでます」

コウタロウが答えた。

「何故・・・何故分かるんです?」

「全滅していたんです・・・弔ったネルガルの社員は全員覚えてます。

サジマ・ソウ・・・マナカ・アイ・・・イトウ・ケンタロウ・・・アヤメ・サダハル・・・。

あと、レイナ・キンジョウ・ウォン・・・あなたもです」

「なんで・・・」

「おい、シーラを泣かすなよ」

ヒロシゲがシーラが泣いたのを見てコウタロウに睨みを効かせた。

だが、すぐに頭を下げて謝罪をする。

「・・・すいません」

「・・・発言を禁止したところで悪いが。

こりゃなんなんだ?

もしかして何か・・・あるのか?」

「あるから話してます」

「・・・そうか」

ヒロシゲは黙って後ろに下がった。

「そして・・・火星で艦長のミスにより、生き残りの火星の人々が全滅しました」

「・・・」

「イツキ・カザマさんがボソンジャンプで行方不明となりました」

「・・・」

どんどんと告げられていく、現在のクルーの死亡。

それは少なからず・・・分からない事だけに、ショックとまでは行かなくとも、不愉快さを与えていた。

「そして・・・和平交渉の時、白鳥九十九さん、あなたは死にました」

「何故だ!?」

「理由は・・・先程話したように、略奪戦争に切り替わっていた為です。

ボソンジャンプさえ征してしまえば、どこでも自由に攻撃が仕掛けられますからね。

それはお分かりでしょう?

チューリップもなしに・・・戦艦がどこでも行けたら・・・どれだけ危険か」

「・・・」

九十九は・・・分かるような気がした。

それだけの価値がある。

もし、木連の報復戦争に戻すにしても・・・簡単に地球を制覇できるだろう。

・・・そう考えれば、草壁が報復を中心に考えていたとしても、遺跡の価値は知れている。

「そしてあなたを撃ったのは・・・月臣元一郎」

「・・・」

「ミナトさんと恋をしたことが・・・その原因で・・・。

今ほど、ナデシコのイメージが地球にも木連にも良くなかったんです。

優華部隊の人達が許婚の方々に話していたようでしたから・・」

「・・・いや、分かるかもしれない。

草壁中将を信頼したままだったら・・・」

九十九は・・・わなわなと手を震わせながらも、目の前の事実を受け止めようとした。

そして、アキコが口を開いた。

「・・・それだけの犠牲があって戦争は終わりました。

そして、コックと女の子は戦争後、結ばれます」

「しかし・・・それが新たな悲劇の幕開けでした」

コウタロウが留めを刺すがごとく・・・ボソリと呟く。

ブリッジに居た人間・・・いや、この放送を聞いていたナデシコ全体の人間は・・・背筋が凍った。


これ以上何かあるのか、と。


「木連が停戦となっても・・・草壁は諦めていなかったんです」

「宇宙の果てに飛ばしたはずの遺跡が回収され・・・火星生まれの人々、A級ジャンパー。

生身で、クリスタルチューリップのみでジャンプできる人のことです。

その人の体を徹底的に調べ尽くし・・・体がボロボロになるまで弄ばれました。

ジャンプを、自由自在に操れるようにする為に・・・」

アキコの一言に・・・今度は空気が凍り、時間が止まった・・・とでも比喩できるのだろうか。

クルーは思わず思考停止させられていた。

もし、自分の身にそんな事が振りかかったら・・・と、恐ろしい想像が浮かぶ。

「・・・そして、コックは五感・・・味覚をも失い、コックへの道を閉ざされます。

女の子は・・・遺跡へのイメージ伝達の翻訳機として取り込まれ・・・。

コックが女の子を取り戻そうとして戦い・・・最後には取り返せました。

けど・・・・・」

「コックになれないコックは・・・女の子を置いて宇宙を彷徨い、ボロボロの体を引きずって・・。

余命の五年を・・・過ごそうとしました。

・・・・ここまで、いいですね?理解できてますね?

分からない人、居ますか?」

「「「「・・・・」」」」

コウタロウは返事がないのを確認して、アキコを見た。

すると考え込んだように数刻、黙り込み・・・顔を上げた。

「・・・ここからが問題なんです。

・・・・・実は平行して存在する、よく似た世界・・・いわゆるIFの世界が存在するんです。

例えば、私が死んでいる・・・・艦長が死んでいる・・・そういう可能性が詰った世界を示すんですが・・。

では・・・ここで二つの分岐です。

一つは最後、二人の妹として暮らしていた少女にジャンプ中にアンカーを打ち込まれてジャンプ事故を起こします。

二つ目は、最後にあるドクターに治療薬を貰いながらも、帰ることを拒み、歴史を変えようとジャンプ。

そして、二つの分岐は、もう一つの世界で合流します」

クルーは「ん?」と首をかしげた。

この話の通りに進んだ世界が二つあり・・・もう一つの世界で合流した、という事は?

最後に、コウタロウが結論を出す。

「・・・つまり、ここに二つの世界のアキトが居ると言う事・・・。

ジャンプ事故で記憶だけここに飛んできたのが一つ目。

治療薬に副作用があり、姿を変えてしまったのが二つ目。

・・・ここまで聞けばもうお分かりでしょう?」

「「「「「!!!!!!????」」」」」

「・・・」

「・・・・」

「・・・・・おいっ、まさか!?」

その意味が分かって呆然としているクルー達を尻目に、リョーコが再起動する。

「ヤマダさんの言い方を借りれば、テンリョウ・アキコは仮の名前・・・魂の名前がテンカワ・アキト」

「「「「「「・・・・・・(愕然)」」」」」」

「あ、あの・・・ちょっと・・・そんなに、驚く事か?」

アキコはオロオロと時間が止まっているクルー達に声をかける。

「い、いや・・・アキコ?アキトって呼んだほうが良いか?」

「別に・・・アキコでいいです」

「ま、まあその・・・あれだ。

け、結構驚くぞ、それは・・・ははは・・・」

恐らく絵で表現するなら口からエクトプラズムが出ているであろう、

リョーコは虚ろな瞳で返事をしていた。

(料理を教わってたのがアキトだったか・・・ああ・・・失敗したぜ・・・)

リョーコの思考はアキトなら同性でも良いようなニュアンスがあった。

「・・・で、で。

ちょっと・・・俺が・・・スミダ・コウタロウ、魂の名前がテンカワ・ユリカ・・・です」

コウタロウは目に掛かっている髪を上げて目元を見せる。

「わっ・・・本当だ・・・私の顔・・・・。

で、でもでも・・・それは・・・どうして・・・?

今の話なら・・・その世界の私はついてこなかったはずじゃ?」

「・・・実を言うと、全部仕組んだ事なんですよ。

アイちゃんが・・・昔の名を使えばイネス・フレンサジュのこの子が」

「「・・・・!!」」

アキコがぽんと頭に手をおき、アイのことを示す。

フレンサジュ親子は、その場で驚愕の色に染まる。

「・・・時にイネスさん。

あなたは実際に俺やルリちゃんが小さくした薬を・・・アイちゃんが作ったのを知っていたんでしょう?

なら、すぐに結論が出てもおかしくなかったと思ってたんですけどね」

「・・・そうね。

最初から、私の昔の姿に似ててその時の名前と同じだって知ってれば・・ね」

「・・・アイちゃん、あなた・・・」

イネスがアイの方を向くと、アイは俯きながら話した。

「・・・・お姉ちゃんが傷付いて死ぬのをただ見ていられなかった・・・それだけなのよ・・・。

私は、テンカワ・アキトに恋をしていた。

火星で出会ってから・・・ずっと・・。

けど・・二人がさらわれた後、その組織・・・火星の後継者の存在をキャッチしたネルガルに私だけは保護されて無事だった・・・。

それが、どうしても許せなかった。

私だけ、無事で・・・数年間を死人として世間から隔離された場所で過ごして・・・生き延びた事が・・。

どうして・・・いつもいつも辛い思いをするのはテンカワ・アキトだったのか・・・運命を憎んだ。

だから私は生涯最初の恋を、生涯最後の恋にしようと心に決めた」

アイの周りに・・・えも言えぬ、重い空気が纏う。

その幼い少女の姿に似つかわしくない、重々しい言葉が、長い人生を感じさせる重さを感じさせる一言が・・・。

クルーの心を揺るがした。

「・・・私は、残りの人生を全て賭けて・・・出きる限りの事をした。

失った五感を補う方法を作り、命を長引かせるだけの治療をした。

・・・でも、心が閉ざされたまま、戦いは終わり・・・。

テンカワ・アキトが宇宙を彷徨うようになると・・・死に物狂いで治療薬を作ったの。

・・・治療薬を完成させた私は・・・どうやって飲んでもらうか少し難儀した。

コロニーを五つ・・・襲撃して、火星の後継者に証拠隠滅の為に爆破させてしまった。

それで難民を生んだことに対する責任をまだ抱えていたんです。

・・・人を不幸にしたからには、自分が幸せになる資格がないと、理由をつけて・・・。

そのまま火星の後継者の残党狩りをして、寿命が尽きるまで過ごそうとしていた。

だから・・・私は早めの死を与え、それを逆手にとって・・・帰ってこれる方法を取る事にした。

まずは治療薬を毒薬だと騙して・・・飲ませた・・」

アイはアキコの方を見つめた。

「・・・帰る気がないなら、未来を変えて見ないかと問いかけた。

・・・これは逃げ場を与えて・・・全く会えない状況を望んでいた彼の・・為にと・・・。

そして、副作用で女の子になって、精神状態も女性的に変化して段々考え方が変わる・・・会いたいと、恋しいと・・・願い始める。

その時に、タイミングよく、再会できれば・・・きっと、戻って来れるんじゃないかって・・・。

結果から言えば・・・うまくいったの。

でも、それは結果でしかない。

結局・・・私はお姉ちゃんを傷つけた・・・」

「そんな事・・」

アキコが否定しようとするが、アイはそれを手を差し出して制止する。

「・・・お姉ちゃんがどう思っていても、結果論でしかないの。

もし、ここに来るまでにコウタロウさんが死んだら・・?

もし・・・寂しさがお姉ちゃんの心を砕いてしまったら・・?

そんな事になったら・・・私・・・」

「「「「・・・」」」」

辺りが静まり返る。

一秒・・・二秒・・・。

彼等には時間の流れが妙に長く感じられた。

「でも・・・」

アキコがその流れを改めて動き出させる。

彼女の顔に微笑が浮かんだ。

「・・・俺は幸せだと思ったよ。

コウタロウが、シェリーちゃんが、マリーが・・・そしてアイちゃんが・・。

俺の為に・・・命を・・・心を賭けて戻って来れるようにしてくれた事が・・・。

俺には、まだ帰れる場所があるって・・・教えてくれた事が・・・」

「・・・」

アイは俯いたまま、潤んだ瞳をアキコに向けた。

「本当に・・・こんな事になってごめん。

ルリちゃんにはあの頃から、ずっと迷惑をかけたままで・・・。

ラピスにはずっと・・・寂しい思いをさせて・・・。

アイちゃんは・・全てを賭けて俺の為に・・・何から何までしてくれた。

挙句の果てに、護るはずのユリカを男にした挙句・・・心を護られてるんだから・・・」

「お姉ちゃん・・」

アキコは話に聞き入っていたクルーの方に振り向くと、お辞儀をした。

「・・・みんなも・・ごめん。

俺・・・男なのに色々踏み込んじゃったり・・。

俺が戻るためだけにこっちの歴史に干渉したり・・・」

「べ、別にかまわねーって!なあ!」

リョーコがクルーに返事を振ると、ワンテンポほど遅れて・・・叫び声が上がった。

「当たり前だよ!アキコちゃんにはお世話になったもん!」

「そうです!あんな料理下手の私達を鍛えてくれました!」

「アキトが西欧諸国に行ってた時にナデシコを活気付けたのはアキコちゃんだったしな!」

「リョーコさん・・・ユリカさん・・メグミさん・・・ウリバタケさん・・・」

目を潤ませてアキコは叫び声を上げた四人を見た。

「何だよ、敬語なんて止めろよ。

お前は・・・もう、正体を隠す必要なんてねーんだぜ?」

「・・・でも」

「いいんだよ、バカヤロー!」

「そうそう!みんなもそう思うよね!!」

「「「「そうだよー!」」」」

ミカコの声が掛かると、他のホウメイガールズの声も上がる。

「・・・ありがとう、リョーコちゃん・・・みんな・・・」

「アキト・・」

コウタロウの声が掛かると・・・アキコの目から、ついに涙が零れた。





「ありがとう・・・みんな・・・・・・ありがとう・・・」






重苦しかった、ブリッジに・・・拍手が溢れた。


そして、他の場所から見ていたクルーがウィンドウを開き、彼等も拍手を贈った。







彼女の心に、温かさが溢れた。



























作者から一言。

なーんかわかりませんが、こう言う話になりました。

ナオの下りはアイを次の話で持ってくる為にイリスをちゃんと登場させる意味であんな事になりました。

・・・あとは説明不足感のあるヒロシゲと、シーラが立てたと言う作戦です、

これも次で全部解明しようかなーと考えています。

・・・・・・あ、こっちは和平交渉サイドで次がナデシコサイドって事にしましょう。

あー、でもこの話だと前回と繋がらないにも程があるかも。

それにちょい役だったはずの氷室君も何とか助かった・・・けどシーラの再会シーンに似通っちゃったし・・・。

では、次回へ。













最近のネタ。

ヒロシゲの叫び。






父よ〜母よ〜妹よ〜


う で
右腕の唸りに血が騒ぎ〜力の限り〜ぶち当たる〜


て〜きは〜地獄の〜ク〜リム〜ゾン〜


たた〜かえ〜正義の〜義手の男、ヒロシゲ〜。





「V3で悪かったなぁ!」




・・・・すいません。

今考えたらヒロシゲの家族構成ってV3でした・・・。

・・・これでリチャードの仕組んだ罠で復讐の為にブーステッドにわざと改造されて復讐とかは・・・します。嘘です。

でも片手を失うのはライダーマンか・・・。



 

 

 

代理人の感想

うむう。改めて聞くと凄まじい設定だ(爆)。

結局、物語的にどう言う意味があったのかはわからずじまいでしたが。