注意!!





・これは「reload」の為に書いたKOFの話です。

 その為、正直ナデシコっぽくはないです。

 「ナデシコ以外は嫌いだ!」と不愉快になる方は読まないで下さい。

 でも読んでくれないと次の話が理解できなくなるかも・・・(爆)。 









サイドストーリー集「ヤガミ」







・・・・・・血の盟約。

ヤガミ・イオリは自然の代行者、オロチと呼ばれる一族の血を引いていた。

彼は、その血ゆえに青白い炎を操れ、クサナギ・キョウと言う男を憎悪していた。

・・・・・だが、彼らは「三種の神器」と呼ばれるオロチを倒すべきものでもあった。

そしてその決着はーついた。

「・・・ヤツは死んだのか?」

「いいえ、一時の眠りについただけ。

明日に目覚めるのか、1000年後に目覚めるのかも分からないけどね」

キョウの一言に、もう一人の「三種の神器」、チヅルは答えた。

「・・・ふん」

イオリは背を向けて歩き出した。

「どうした?俺との決着をつけるんじゃないのか?」

「・・・気付かないのか?」

キョウは一瞬辺りを見回すと眉をしかめた。

「・・・ああ、今気付いた」

「?」

二人の雰囲気にチヅルは周りを見回した。

すると剣呑とした目つきの男達が潜んでいた。

「・・・・やべえな、100人以上居るぞ」

「何だ?怖気づいたのか?」

「へっ、笑わせんなよ。この程度の連中に俺が負けるか」

二人は別の方向に走り出した。

「ちょ・・二人とも!」

「あんたは先に帰りな。俺達に用があるみたいだからな」

キョウは小さく手を振ってからチヅルから離れた。












「どうした!」


ぼうっ!


イオリの炎が一人の男を燃やし尽くした。

「・・・他愛の無い・・・・・・ヤツを探すか」

イオリは59人ほどの男達を倒し、キョウを探しに歩き出した。

「くらえ!」

キョウも好き勝手に敵を倒していた。

だがスプレー缶のようなものが投げ込まれ、煙を発した。



ぷしゅーーー!



「くっ!催眠ガスかよ!」

だが、よくよく考えれば無謀ともいえる。

彼は炎を操るのだ。

爆発する可能性はある。

キョウは倒れこみ、連れ去られた。

「・・・馬鹿が、調子に乗ったのか」

イオリはヘリに乗せられたキョウを見つめながら呟いた。

「・・・貴様を殺すのは俺だ。それまでは死なせはせん」

イオリはふらふらと歩き出した。







1年後。

「・・・ふん、ここか」

どこかの研究所のようだが、イオリは別段気にした様子もなく監視員を燃し、ずかずかと入り込んでいった。

「・・・右だな」

彼はオロチの血によってクサナギ家の人間を気配で感じ取る事が出来る。

・・・とんでもなく人間離れした技である。

「・・・ネスツ。

くだらん組織に捕まったものだな」

研究所をうろうろしながらイオリはキョウを発見した。

だが彼も既に脱出し始めたようで敵を蹴散らしていた。

「・・・元気そうだな」

「ばっかやろう!おせーんだよ!」

「・・・別に助けに来たわけではない。殺しに来てやっただけだ」

「ここを出てからにしろよ」

二人は走り出した。

「・・・っ!」


ぼうっ。


炎が二人の目の前を通り過ぎる。

「来たな、オリジナル」

「・・・俺!?」

そこには学ラン姿のキョウが立っていた。

だがその肌は色黒く、どこか邪悪な印象を与えた。

「這え!」



ぼぉっ。



炎が床を滑る。

「よっ、と」

それをいとも簡単にかわしてみせるキョウ。

「なってねえよ。こうだ」

お返しに炎を投げ返す。

「ぐはぁ!」

その炎の規模は学ラン姿のキョウより遥かに大きかった。

学ランのキョウは熱で気絶したのか、倒れこんだ。

「・・クローンってやつか、やっかいだな」

気分が悪そうに呟くキョウ。

「くだらん、まがい物だけに力はそれほどか」

「さっさと抜け出るぞ。ユキに連絡を入れないと振られても文句は言えないからな」

二人は歩き出そうとしたが、再びクローンのキョウが数人現われる。

「居たぞ!」

「ちっ、何人居るんだよ」

キョウは自分の遺伝子から作られたクローンに毒づく。

自分自身と戦うのは気分が悪かった。

「所詮、まがいものだ。

貴様等の炎がどれだけの威力がある」

イオリもそのクローン達に向きかえり、手に炎をともす。

確かにクローン達の炎はキョウに及ばぬものだった。

彼ら自身はそれほど炎にこだわった様子はなかったが、

経験不足がたたってキョウとイオリの前には無力に等しい。

「どうした!そんなものか!」

「・・・どうやら大ボスのご登場みたいだぜ」

キョウが立ち止まる。

そこには二人の男が対峙している光景があった。

後ろを見ると、何人かの男達がうずくまっていた。

「お!ベニマル!」

「キョウ!今までどこに・・・ユキちゃんが心配してたぞ?」

ブロンドの髪の男が返事を返した。

「・・・クサナギ・キョウか。

オリジナルにもう用はない、ここで死ね」

男がキョウに襲いかかろうとした。

「クサナギの炎をなめるなよ」

ぼんっ。

「見せてやる!クサナギの拳を!」

「見せてやる、我が力を!」

二つの火柱が上がり、激突した。

だが、キョウの渾身の一撃が男を吹き飛ばした。

「そ、そんなはずは!

データは上回っていた・・・はず・・・・」

「データ、データってお前・・・・」

キョウはぼりぼりと頭を掻いて男、クリザリットに言った。

「データで測れる位ならあんな化け物じみたヤツと戦えねえっての。

第一、お前は俺の力を借りて戦ってるだけだろ?」

「く・・・」

クリザリットはうずくまったまま唸り声を上げる。

「くそ・・・トリガーデータがなければ・・・クローンは動かないというのに・・・」

「それであいつ等はあんなに弱かったわけか?」

トリガーデータ。

それは各地に配置されたキョウのクローン軍団を動かす為の最終データの事である。

「人を殺す」事を指すデータ。

クリザリットはベニマル達でそのデータを採集しようとしたようである。

「・・・ぐ」

クリザリットは気を失ったか、死んだか、喋らなくなった。

「よし、ベニマル、シンゴ、さっさと脱出するか」

「・・・よくウチの新しいチームメイトの見せ場奪って言えるな・・・」

キョウの言い草に苦笑しながらベニマルは言う。

「KOFは俺がいなきゃ始まらないだろ?」

「・・・はっ」

ベニマルは鼻で笑う。

キョウは今までKOFの花形としてスター選手のような存在であった事は確かだ。

と、そこで施設が崩壊を始めた。

「・・・逃す気はないってか。

急げ!生き埋めになっちまうぞ!!」

「当たり前だ!!」

彼らは走り出した。











電灯もショートして光がまばらな廊下。

逃げようともせず、ネスツの戦闘員はキョウ達を仕留めに、

銃を持ち、彼らの良行く手を阻む。



ぱーん。




「・・・しかし、キリがねえな」

数十人は倒しただろうか。

それでもなお出てくる敵にうんざりしたようにキョウは呟いた。

「ああ、K’達とも別れちまったみたいだしな」

ベニマルは自分のチームメイトとはぐれた事にぼやく。

とはいっても彼らの実力は知っているし、こんな事で死ぬようなタマではないとも知っている。

心配しているわけではなく、戦力が欲しいと思っていただけである。

「・・それにしてもヤガミ!うっとおしいからついてくんな!」

「・・・・・貴様、逃げるのか?」

キョウはこんな状況でもついてこようとするイオリに毒づいた。

「逃げるか!それよりお前も戦え!」

「・・・面倒だ」

あくまでキョウが目的で、自分は自分に近づく敵だけを倒そうとする。

イオリはそういう人間だった。

「だー!!」

苛つきながらキョウは敵を倒しつづけた。

そして道中、一人の少年に出会った。

年の頃は・・・18歳くらいだろうか。

怯えた様子でおろおろと周りを見回していた。

「・・お?何だ?」

「あ、あの・・・僕・・・」

「何だ?お前も掴まってたのか?」

「たっ、多分」

「よし、ついて来い」

キョウは手で移動を促す。

だが、ベニマルはその行動に眉をひそめる。

「おい、キョウ。

シンゴも気絶してんのにこれ以上荷物は嫌だぜ?」

「いいだろ、別に」

キョウは気楽そうに返事を返した。

「後ろに下がってな」

「は・・・はい」

少年はひそひそとベニマルの後ろにつく。

「よし、脱出するぞ」

「・・・あ、はい」

それから走る事1時間ほど。

何とか敵を蹴散らし、外に脱出する事に成功したようだ。

「光だ」

彼らは外に出ると、網膜を焼くまぶしい光に目を細めていた。

「・・・ここまでくればいいな」

イオリが呟くとキョウは溜息をつきながら肩をすくめる。

「・・・しょーがねーな。

ベニマル、下がってな」

キョウは上着を脱ぎ捨て、イオリと向き合う。

「負けんなよ。これ以上荷物を増やしてたまるかってんだ」

ベニマルは茶化すように言い、座った。

「安心しろ。ここで火葬も済ませてやる」

「ぬかせよ!」

ごあっ。

辺りは灼熱の炎に包まれた。

そして20分後・・・。

「見事に相打ちかよ・・・・・・」

倒れ伏す二人を見てベニマルは溜息をついた。

「あ、ベニマルさん」

「・・・やっと起きたか、シンゴ」

シンゴは起き上がると辺りを見回した。

「・・・・・で、ここはどこすか?」

「・・・お前、見事にやられてここまで背負ってきたんだぞ?」

「・・すいません。

あ!クサナギさんが居る!!」

近くでぶっ倒れているキョウを見ると目を輝かせる。

「・・・シンゴ、お前が背負えよ」

ベニマルは既に満身創痍のようで、力なく笑うと自分自身も立ち上がる。

「さ・・・て。こいつが倒れてる隙に帰るとするか」

歩き出そうとして一度立ち止まる。

「そうだ、お前はどうする?」

ついてきた少年に声をかける。

「どう・・・って。

僕はこの人を介抱します」

「・・・そいつに関わると死ぬぞ?」

ベニマルは頬をヒクつかせ、イオリの方を向いた。

「大丈夫ですよ」

根拠のない自身を見せ、少年は座り込んだ。

「・・・止めないけどな。じゃ、達者でな」

「さよならっス」

ベニマル達は歩き出した。











「く・・・キョウっ!」

イオリは目が覚めたようで起き上がり周りを見回す。

だが、周りには廃墟と化した元ネスツの施設があるのみ。

他には、あの少年しか居なかった。

「貴様!キョウを知らんか!?」

「・・・さっき相打ちになってつれてかれましたけど・・・」

「・・・また命拾いしたか」

イオリは吐き捨て、幽霊のごとくゆらりと立ち上がった。

彼は自分の体中の痛みを気にする事無く歩こうとしたが、体はそれを許さなかった。

がくりと膝を付き、舌打ちをする。

「・・・・あの」

「何だ」

少年の方を恐ろしい殺気で睨みつける。

彼の方は別段気にする様子も、怯える様子もなく言葉を継いだ。

「背負いますよ?」

「・・・いらん、自分で歩ける」

強がりながらイオリは再び立ち上がる。

ふらふらとしながらイオリは歩き出した。


少し、歩いた。


と、そこでイオリはある事に気付く。

そして少年の方を再び睨みつけた。

「・・・何故ついて来る」

「え、あの・・・別に・・その」

「早く言え」

イオリが苛ついた態度をとる。

彼自身、こういう輩は嫌いだった・・・というより、自分以外の人間に気を許す事は稀だった。

「・・・・・・・家、壊れちゃって」

「・・・知るか」








−これが二人の出会いだった。








しばらく歩いて街の方に出た。

イオリはとりあえず食事をとる。

ファースト・フード店に入り、袋を持って出てきた。

裏路地に座り込み、人の気配も何もない、喧騒とは離れた場所だ。

・・・ごそ。

ハンバーガーを手に取り、食べようとする。

「・・・」

「・・・(ゴクリ)」

だが、隣で目を輝かせて生唾を飲んでいる少年の瞳に、彼はうんざりしたような顔つきになる。

そして、ハンバーガーの包みをぽんと地面において言った。

「・・・それを食ってさっさと消えろ。

でなければ殺すぞ」

「・・・ばくっ」

少年は返事もなしにハンバーガーを食べ始めた。

イオリも静かに食事を始める。

少年は食べ終わるとまたイオリの方を見つめた。

やはり食べ盛りなのだろう、ハンバーガー1個で足りるわけがない。

そんな少年の姿にイオリは静かに立ち上がる。

「・・・殺す、といったはずだ。さっさと消えろ。

でなければ・・・死ね」

言い切ってからイオリは少年の顔にまたうんざりする事になる。

少年は擦り寄ってくる子犬のような顔をして見つめてきたからだ。

とりあえず、邪魔になる事には違いない。

そう思ってイオリは軽くたたんでしまおうと思い、拳を腹に放とうとした。

放とうと・・・した。

がっ。

「・・・な」

「・・・」

無言で拳を受け止める少年。

だが、その目はいまだに子犬のようである。

「・・・ふっ!」

「・・」

が。

イオリはショート・アッパーを放った。

ショート・アッパーとは言ってもそこらのボクサーのフルスイングのアッパーを軽く超えるほどの威力がある。

そのはずなのに、少年は避けずに両手でガードしてみせる。

(・・・今は殺せない・・・か)

イオリはふっと肩をすくめた。

これほどの相手はKOFでなければ出会わない。

キョウとの戦いで力を使いすぎているイオリには少々荷が重く感じた。

仕方なく座り込み、食事を続ける事にした。

「・・・次は殺す」

「・・・・」

少年はまだ見つめている。

その様子にイオリは怒ったように言った。

「分かった、勝手に食え」

「・・・!がっ」

少年はその言葉に反応したようで、ハンバーガーに食いついた。

(・・・現金だな)

そう思いながら、イオリは自らもハンバーガーを食べ始めた。



その夜ー。

イオリはあまり金を持っていなかった。

彼は行く先でライブを行うインディーズのバンドマンである。

そこで彼は路上ライブを行い、その収入で宿を借りる事にした。

びぃぃん・・・。

イオリは人を酔わせるような、激しく、まとわりつく演奏が得意だった。

何より、彼はKOFで人気が高く、一曲演奏するだけでもかなりの収入を得る。

どこかのレコード会社に所属せず、どこに現われるのかわからないシークレット性も、人気の要因である。

ぎゅぃぃぃん・・・・。

演奏を終え、拍手が喝采する。

そして目の前のギターケースの前におひねりが溜まって行く。

「・・・」

後ろで見ている少年の姿にイオリは溜息をついた。

歩いて静かな場所に来ると、イオリは足を止めた。

「何故つきまとう」

その質問に少年は当然のように答える。

「僕が行く先がないからです」

「・・・・・・・・邪魔だ、消えろ」

イオリの突き放すような一言に少年は言った。

「あ、あの。出来る事があったらなんでも手伝います!ですからその・・・お願いします!!」

悲しそうな、すがりつくような顔で少年は頭を下げた。

(・・・正気か?)

この少年は見たところ18歳程である。

だが、その仕草は幼児のようであった。

少年の言動、行動、全てが年相応には見えなかった。

今の自分では追い払えないだけにどう答えるものかとイオリは心底悩む。

恐らく、さっきまでのような態度をとったとしても間違いなくついてくるだろう。

鳥のすりこみじゃあるまいし、ここまでついて来ないと思うのが普通である。

仕方なく、イオリは妥協案を出す事にした。

「・・・なら、エレキギターをやってもらう。

俺について来れないようなら殺す。分かったな?」

「!はっ、ハイ!」

途端に満面の笑みを浮かべ、少年は喜んだ。

イオリは呆れたように溜息をついた。








−1週間後。日本。

ぎゅぃぃぃんっ。

「違う、強く弾くな。無駄が多すぎる」

「ハイ」

イオリは正直、驚いていた。

この少年は覚えが良すぎた。

使い込んだスポンジが水を吸収するがごとく、自分が教えた技術を覚えていったのである。

一回注意すれば二回目は完璧にしてみせる。

そんな少年の姿にイオリは柄にも無く微笑んだ。

もちろん、優しい笑みなどではなく、どこか歪んだ笑みではあるが。

(・・・・・使えないわけではないな。次あたり、使ってみるか)

そして、その日。

ライブハウスで二人は演奏していた。

いつも以上の盛り上がりにイオリは半ば驚嘆していた。

(ここまで・・・ここまでやるのか!)

嬉しそうにイオリは自らのベースを弾いた。

二人の演奏に、ライブハウスは熱狂に包まれた。

−控え室。

「よくやった」

「・・・・え?」

イオリの口から飛び出た言葉。

その言葉に少年は驚いた。

いや、呆気にとられた。

聞き違いではないかと思った。

「・・・・よくやった、と言っただけだ」

「あ、ありがとうございます・・・」

ギクシャクしながら少年は礼を返す。

二人の間に言い知れぬ静寂が訪れる。

その静寂を打ち破って、一人の男が入室してきた。

「あ、ヤガミさん。

雑誌の取材のものですが・・・」

「何だ」

怪訝そうな顔でイオリは聞き返す。

その顔に取材に来た男は怯えた様子で言葉を継いだ。

「いえ、イオリさんとそこの方の演奏があまりに見事だったので取材をしたいと・・・。

そこのお方はなんという名前なんですか?」

「名前・・・」

少年は実は名前が無かった。

ネスツの施設から拾われてきた(ついてきた)為に、彼は自分の名前すら知らない。

そしてつい、イオリの方を向いて意見を仰いでしまう。

(・・・名前か)

いつも「貴様」くらいの呼び方しかしなかったイオリからすれば、名前はどうでも良かった。

だが、名前くらいやってもいいかと思い、少し考える・・・と、何かが目に入った。

アイドルのポスター・・・アサミヤ・アテナの新曲「恋は一直線」の字が。

(一直・・・直・・・ナオ・・・)

「・・・ヤガミ・ナオ。俺の弟だ」

「ほう、弟さんでしたか」

あまりに安易に決められた、名前。

ここに、ヤガミ・ナオが誕生した。










そして、2年の月日が経つ。

イオリはKOFの大会に呼ばれた。

チームは、大会側で組まされるそうだ。

彼にすれば不本意・・・。

イオリは、嘆息しながら自分の宿泊先のホテルで寝転ぶ。

「・・・・」

「ねえ、兄さん」

「・・・・・・」

イオリは返事をしない。

いつもどおりの反応だが、ナオは言わずには居られなかった。

「兄さんっ!」

「聞こえている」

「なら、返事してよ」

むくれるナオ。

2年の間、色々な人と付き合ってきた。主にイオリのバンド活動の合間に。

その間に彼はイオリに敬語を使わなくなり、兄として慕うようになっていた。

「何のようだ」

「だから、何でセスさん達と違う部屋にしたのさ」

イオリはフーッ、と溜息をついた。

ナオが来てから溜息ばかりついている。

「・・・俺がそういう馴れ合いを嫌いだとは知らなかったか?」

「でも!」

「いいから寝てろ。俺は明日は試合だ」

そう言ってイオリは寝息を立て始める。

「・・・まったく、兄さんは・・・」

ナオは人と関わりたがらない兄の事を嗜めた。

どうせ、明日の試合にも出る気は無いのだろう。

しかし、彼自身イオリの人柄は一番理解しているつもりだ。

キョウを追いかけて居る事はもちろん、人と関わらない性格も。

だからこそ抱く疑問もあった。

何故、ナオを弟としたのか。

それがナオの最大の疑問だった。

ナオが考えるイオリからすれば「バンドの相方」程度の存在でしかないはずだ。

本当の所・・・イオリは単純にナオの事を気に入ったのだ。

自分の知っているバンドのテクニックをことごとく吸収していくナオを悪く思ってはいなかった。

それが、ナオの癪に障る行動を許したりする理由にはなりえなかったが。

「お休み、兄さん」

ナオは自分の義理の兄に声をかけて眠った。











翌日。

「セスさん、今日はどこと対戦する予定なんですか?」

ナオは黒人の男に声をかけた。

「ああ、今日はネスツチームだ」

「ネスツ・・・」

ナオはその名前に少し疑問を持った。

ネスツとは、自分が居た犯罪組織の名前のはず。

それを堂々と使うチームとは・・一体どういうチームなのか。



−ネスツチーム−



「K9999、うまくやるのよ」

「うるせえ、俺に命令するなババア」

K9999と呼ばれた男は長身の女性に毒づいた。

「・・・本当は理解できないからうまくごまかしてるんじゃない?」

「んだとぉ!」

「やめよーよ〜、K9999。口喧嘩じゃ女のコには敵わないんだぞ〜。そもそもK9999じゃ勝てないぞ〜」

白髪の、黒い露出度の高い服を着ている美女がK9999を嗜める。

「アンヘル!テメーまで言うか!」

「ホントのことでしょ〜」

二人に長身の女性、フォクシーが割り込む。

「二人とも、やめなさい。

分かってるの?今回の目的はクサナギ・キョウ及びKタイプ、クローンの暗殺、

そしてファースト・ブーステッドのマキシマの破壊よ」

「分かってるっての。あんなポンコツども、俺達で十分だって言ってるだろうがぁ」

「ま、期待しないで待ってるわよ」

フォクシーは部屋を出る。

すると、部屋の外には一人の少女がいた。

彼女はクーラ・ダイアモンド。ネスツチームの一員だ。

「フォクシー!終わった?」

満面の笑顔でフォクシーを迎えるクーラ。

「ええ、行きましょう」

そして、二人は歩き出した。

(・・・クサナギ・キョウ。そのクローン・・・。

そしてその能力を得、炎を操るK’・・。

サイボーグ研究の最高の成功例と呼ばれるマキシマ・・・。

・・・私達だけで倒せるものなの?)

フォクシーは今回の作戦に疑問を抱いた。

だが、その疑問もすぐに霧散する。

自分がこなすべき仕事があり、成すべき野望もある。

その野望に邪魔になるからには始末せねばならない、そう思い、考えるのをやめた。

と、そこで気になる事を思い出し、携帯電話のような端末を取り出す。

そこには一人の少年・・・いや、もう成人だろう、一人の男が映っていた。

(・・・K9999と同じ劣化品でありながら、潜在能力に優れるクサナギ・キョウのクローン、K1932。

今はヤガミ・イオリの弟、ヤガミ・ナオ・・・。

炎以上に何が出るか分からない・・・この男も気にかけないといけないわね・・・)

「フォクシー?」

「ん?あ、なんでもないわよ、クーラ」

フォクシーはクーラに向きかえり、機嫌を損ねかけるクーラの顔を見て立ち止まる。

「ほらほら、クーラ。両手に何も無いわよね?」

「・・・・うん」

「すると・・・ほら!ストロベリーアイス!」

「わぁっ」

急に出てきたアイスクリームに目を輝かせ、それを受け取って食べ始めるクーラ。

(・・・野望は遠いわね)

フォクシーは溜息を吐いた。









その日の試合。

「チームオーダーは俺とラモンでいいか?」

「じゃ、私とイオリがストライカーね」

セスと赤毛の女性が話し合って決定する。

「よし、イオリ。危ないと思ったらすぐ出てこいよ」

「・・・・」

イオリはあらぬ方向を向いていた。

それに赤毛の女性ーヴァネッサは怒り出す。

「ちょっと、聞いてる?」

「・・・聞いている、ストライカーだな」

「それでよし。ナオ君は逃げないように見張っててよ」

「はい」

自分の事をなじるヴァネッサをイオリはジト目で睨みつけた。

当然、ヴァネッサは背中を向けて試合を見ようとしていた。


ラモンVSアンヘル


「かる〜く行きますか、お姉さん」

「コリコリしちゃうぞ〜」

ラモンが軽くステップを踏んでアンヘルに近づいた。

彼の格闘スタイルはルチャドール・・・空中戦を得意とするメキシカンプロレスだ。

対するアンヘルは・・・本人が言うには「テキトー(適当)」らしいが、そこはネスツの一員なので、

要はそこから開発したオリジナルの格闘術なのだろう。

「ソバットォっ!!」

ラモンが様子見の至近距離ローリング・ソバットを放つ。

ごっ。

だが、それはアンヘルの防御によって防がれる。

アンヘルは吹っ飛びながらもそれに反発するように膝のバネを溜め、まだ浮いていたラモンの首筋を掴む。

「いっただき〜!」

そのまま手刀で切りつけようとするが、流石に彼も一筋縄では行かなかった。

アンヘルの手首を返し、掴み、引きずり落として地面に叩きつける。

「ぐぅっ」

肺の中の空気を全て押し出し、周りを見回す。

それくらいのダメージで参る格闘家ではなかった。

たったった・・・だっ。

すると、ラモンはボディプレスをかまそうと走りこんで飛び掛る。

アンヘルはとっさにラモンの腹を蹴り上げる。

どむっ。

「ぐあっ」

ラモンが腹を抱えて悶絶するのを確認してからアンヘルは立ち上がる。

けほけほとむせながら自らの呼吸を整え、ゆっくりと戦闘体制をとる、

「・・・やるね、オジサン」

「そっちこそ・・・げほっ」

アンヘルは一瞬よろめいたラモンに追撃をする。

腹を抑えていた手の上から強烈なボディーブロー・・・。

成す術も無くラモンはダウンした。

「ハイ、おしまいっと。私はこれで終わり。あとはフォクシーさんよろしくね〜」

「・・・勝ち抜き戦なのよ」

だが、仕方ないと言わんばかりにフォクシーも出てくる。

アンヘルもいい一撃を貰っていた為、それ以上の追求はしなかった。

KOFは何でもありなだけに、一撃貰っただけでもKOされる事は珍しい事ではない。

それが昨今の格闘技界のマンネリ化した雰囲気を一蹴する過激さと言われる。

「・・そっちの引率の先生か?」

「あら、つまらない冗談ね。ミスター」

「生憎、冗談はうまくないんでね」

セスは軽い皮肉をこめた言葉と同時にフォクシーに襲い掛かった。

やや遠くからのスローな飛び蹴りである。

「でやぁっ!」

がっ。

フォクシーはさも当然そうにそれを受け、髪をなびかせる。

すると、それは刃物のように鋭い切れ味を持つ武器となる。

すぱっ・・・。

セスは胸の皮一枚を切られ、顔をしかめる。

そして、さらに追撃をする為に飛び掛る。

フォクシーが持っているのは、フェンシングの剣のような物だった。

だが、切れ味は無い木製のものである。

それでも彼女が振るえば十分な切れ味の刃物同然となり、危険なものに変化する。

ふぉんっ。

だが、その剣はかわされた。

一見隙だらけのようだったがそこはフェイク、十分に体勢を整えフォクシーの股下付近まで近づく。

そして、そこから蹴りが出る。

寝転んだ体勢からの蹴り・・・。

一見すれば腰が入らず効かないように見えるものの、体重が重く、力でも十分なセスなら強力な技になる。

どっ。

フォクシーは蹴りを腹に貰い、一瞬怯む。

その間にセスはあふりで立ち上がり、強烈なアッパーを繰り出す。

埃が舞い上がるほど素早く強烈なアッパーである。

しかし、フォクシーはそのアッパーを状態を引く事で回避した。

当然、隙だらけのセスだけが残る。

ごすっ。

そこに、フォクシーの突きが決まる。

セスは崩れ落ち、立ち上がれなくなった。

『WINNER is、FOXY!』

アナウンサーの勝利宣言が会場に木霊した。





「・・・ち、少しは自信があったんだがなぁ」

ラモンは腹を抑えながらぼやいた。

「仕方ないだろう、ラモン」

同じくセスは突かれた胸部を擦る。

ヴァネッサは我、関せずといった面持ちで座っていた。

そこで、イオリは面倒くさそうに言った。

「・・・俺は帰るぞ」

その言葉に反応したかのように三人はイオリのほうを睨む。

「・・・ヤガミ・イオリ、君には最重要人物としてマークされている」

「俺を止める気か?なら・・・死ね!」

「ちょ・・兄さん!」

ナオは驚いてイオリの方を向こうとした。

「どいてろ、ナオ」

ごんっ。

不意の一撃でナオは防御する事も出来ずに気絶した。

「行くぞ!」

だが、結果は見えていた。

ラモンとセスは負傷、ヴァネッサも試合の疲れが残っていた。

イオリは、試合には一切出ていなかった。

1分もしないうちに3人はボロボロになっていた。

「・・・俺は帰る」

イオリは歩き出そうとした。

「な・・・弟さんは置いていく気か?」

セスにそう言われて少し立ち止まろうとするが、やめ、

「そろそろ兄離れさせてもいい」

そう言ってイオリはどこかに消えた。












「ん・・・ここは?」

ナオは目を覚まし、自分の知らない部屋を見回す。

「ここは俺の部屋だ」

そこにはセスが居た。

どうやらホテルのようだ。

「・・イオリのヤツがな、君を置いてどっかいっちまったんでな。仕方なくここにつれて来たわけだ」

「・・・兄さん」

ナオは涙を流した。

何とも情けない姿だが、彼にはイオリしか居なかった為、そのショックは大きい。

「・・・泣くなよ。

君ももういい年だろう、女々しく泣くんじゃない」

「でも・・・僕は・・・」

セスは情けないナオの姿に頭を抱える。

・・・思わずイオリに対して同情の念を覚えてしまうほどだ。

本当に仕方が無い、といった様子でセスは言った。

「とにかく、アイツのことは追って教えてやるから。

・・・しばらく俺が面倒を見てやる。

今日はもう寝ろ」

「・・・はい」

ナオはベットに潜り込んで嫌なことを丸め込んで眠ってしまおうと思った。

すぐに寝息を立て始めるナオを見て溜息を吐くセス。

「しかし勢いで面倒を見てやると言ったはいいが・・・。

だが、こいつをその辺に放って置くのも危険だしな。

ま、様子見と行くか」

セスは自らも眠る為に、腰掛けていたベットに入る。

ナオは、眠りながら泣いていた。

再びイオリとバンドをしたいと願いながら、眠っていた。






翌日・・。

「さて、ここを出るぞ、ナオ」

「え?は、はい」

起きてからすぐに言われてナオは自分の荷物を持った。

小さ目のスポーツバックと、イオリに買い与えられたエレキギター。

これだけが彼の荷物だった。

「・・・・で、これからどうするつもりですか?」

「ああ、依頼人に報告をしてから新しい仕事をするつもりなんだが・・・。

ナオ、お前は何か特技はないか?

最近相棒に愛想をつかされて手伝ってくれる奴がいなくて困ってるんだ」

「特技・・・僕、ギターしかできませんよ?」

セスは頭が痛くなってきた。

社会的な行動が苦手なばかりか、ギターしか出来ないと来た。

イオリが面倒を見れば嫌でもそういう事になるのだが・・。

「わかった、全部教える。銃の扱いとか、全部だ」

「・・・銃?セスさんてどんな仕事してるんですか?」

「フリーのエージェントだ。

小さい所なら企業のスパイ、大きい所になると国家機密まで扱うな。

・・・・・まあ、あのイオリについてきて生きている君ならできるだろう」

「はあ」

分かったような分からないような返事をするナオ。

・・・当然、セスの方も完全に理解させる気はない。







数日後。

「・・・と言うわけで射撃訓練から始めるか。

丁度ベニマルが近くに居て良かった。

ベニマル、後は頼んだぞ」

セスは言うだけ言って立ち去る。

「おいおい、それはないだろ・・・」

ベニマルの方も困惑している。

もちろん、知らない顔ではないからだ。

・・・というか彼からすればイオリがナオを生かしていた事に一番困惑している。

ちなみに、ベニマルはクレー射撃を趣味としており、基礎的な射撃くらいならエージェントのセスより上手い。

当然、実戦的な物となればセスの方が上だが。

「いいか、ナオ。こうやって構えて・・・撃つ!」

ちゃ・・・ちゃちゃ・・・がちゃっ・・・ばーん。

簡単に銃の弾の込め方、撃つまでのモーションを見せる。

彼の手にあるリボルバー式の拳銃から放たれた銃弾は的の中心を貫いた。

教える気が無いのか、それともからかう気でいるのか、細かいところを見せずにやった。

ナオも別段分からないとも言わず、すぐに同じ事をやった。

ちゃ・・・ちゃちゃ・・・がちゃっ・・・ばーん。

(・・・な!?)

いくら覚えの早い人でも今のモーションだけで覚える人など居る筈がない。

それなのにナオは軽々とやって見せた。

ベニマルは呆れた様子で的の方を見た。

その様子に顔をしかめた。

外れた・・・ようには見えなかった。

構えた方向からすれば的を外しているようには見えない。

つまり・・・ピンホール・ショットである。

ベニマルが撃った的の穴を貫通させたのである。

「・・・」

ベニマルは黙るしかない。

ここまで完璧にやられては教える事など何も無い。

何か思い立ったようでベニマルは手をぶらぶらと振った。

「・・終わり終わり。ナンパしに行くぞ」

「・・・ナンパですか」

ナオはジト目でベニマルを見つめた。

「そうだ。お前にもナンパのイロハを教えてやるよ」

ベニマルは得意気にブロンドの髪をかき上げた。

「まず、相手がこちらにいい印象を持ったと思ったら電話番号は抑えておけよ。

ナンパの真骨頂はだな・・・」

どこぞの大関スケコマシを思わせる口振りである。








・・・1ヵ月後。

セスは少し長めの仕事を終え、ベニマルに預けたナオを迎えに来た。

当然、銃の指導で目いっぱいだったと思い込んでいたセスはこれから起こる事態など考えもしなかった。

「お、セス。戻ったか」

「ただいまだ。これは土産だ」

と言って取り出したのは巨大なチーズだった。

どうやらヨーロッパ方面に行っていたらしい。

「・・・と、ナオの方はどうだ?」

「・・・洒落にならない。一回やって見せただけで覚えやがった」

「一回・・・だと?」

セスは驚く。

・・・確かに1ヶ月前のナオならば信じられないのはなおさらだろう。

「ついでにシューティングの方も教えてやったが・・・そっちは1週間でジムの連中を軽く超えやがった」

「・・・それは何とも」

「ナオ、セスが戻ったぞ」

呼ばれたナオはすぐにセスの前に出てきた。

「お疲れ様です、セスさん」

「・・・お、おう」

だが、どこか変わったナオの様子にセスは戸惑った。

以前の大人しそうな少年のイメージが消え、どちらかと言うと自信を持っている男の顔をしていた。

「そういえばどれだけ溜まったんだ?」

ベニマルの唐突な質問にナオは戸惑うことなく手帳を取り出した。

「ふふふふ。ベニマルさん、この俺を舐めちゃ困る。見てくれよ、この戦績ッ!」

そこには、女性らしき名前と電話番号がズラッと並んでいた。

これがナオ単独でナンパした女性から聞き出した住所と電話番号である。

・・・と、一見凄い戦績に見えるが、彼はある勘違いをしていた。

「・・・で、どれだけ最後まで持ってけたんだ?」

「へ?最後ってなんです?」

・・・そう、一般の男性ならもうお分かりだろう。

ナオは単純にデートして最後に電話番号を聞き出せればいいと思っていたらしい。

「・・・馬鹿」

「・・・ナオ、君に何があった?」

セスは少し途方にくれた。







そんなこんなでナオは2年の月日をセスと過ごす事になる。

エージェントとしての実力もかなり高くなった。

ナオはとんでもなく覚えが早い。

・・・・・だがその間、社会生活の基本を教えたセスの苦労は計り知れなかった。

そして、やっとセスがイオリの手がかりを掴む事に成功した。

「・・・ナオ、君の兄さんの情報をやっと手に入れたぞ」

「本当ですか?」

雑誌を読んでいたナオが振り返った。

「ああ、KOFに出場するらしい。

どうも奇妙な事だが、あのクサナギ・キョウとチームを組んでいるようだが」

「・・・兄貴が?」

ナオは首を傾げる。

普段からキョウの事をぶつぶつと口にしていた印象からすると、

『殺したい相手』

ということは分かっていた。

「とにかく1回戦の会場に先回りしておこう」

「・・・はあ」








クリムゾン。

「・・・ほう、参加を表明しているか」

「はっ」

ロバート・クリムゾンはニヤリと笑った。

クリムゾンは木連とだけでなく様々な犯罪組織と手を結んでいる・・・否。

クリムゾンそのものがかなり闇の部分の多い会社である事は理解していただけるだろう。

「ネスツ」との繋がりもかなり大きかったようである。

「・・・ヤガミ・イオリ、そしてヤガミ・ナオ・・・。

彼らは出来れば手元に置いておきたいものだな」

「しかしお言葉ですが・・・彼らは簡単には・・」

「何、少し・・・興味があるだけだ。

それにネスツにはそれなりに投資した甲斐があったとは思うんだがな」

ロバートは葉巻を咥え、自ら火をつける。

そして、背中にあるモニターをつける。

そこには、どこかの研究所が見られた。

「ネスツ基地に残っていた、生存しているクサナギ・キョウのクローン・・・。

そして、人体の改造技術が手に入ったのが大きい。

ブーステッド計画の・・・ファーストのマキシマ・・・彼はサイボーグ化してからかれこれ4年生きている。

我々では1、2年が限度でもまだ研究の余地はある。

それに・・・だ。リチャード君は中々やってくれるよ」

「リチャード・・・リチャード・カシスの事ですか?」

「ああ、そうだ。

彼は『アイビス』研究には失敗したが、人体改造、兵器開発どちらもな」

ロバートは少し含み笑いをした。

「・・・面白くなるとは思わないか、なあ。

かつてネスツはKクローンの徒手空拳のみで世界を制圧しようと目論んだ。

だが、我々にはそれに合わせて機動兵器がある。

・・・どんな阿鼻叫喚の地獄絵図が出来ると思う?」

「・・・」

部下は黙り込んだ。

イカレてる・・・単純にそう思った。

「・・・だから、私は見てみたい。この先にある・・・この世の地獄を」

ロバートは部下の顔を見た。

そして肘をついて机に寄りかかった。

「・・・あの二人のスカウトは孫に任せる」

「・・・アッシュ様ですか」

「・・・そうだ、あの緑の炎を操れるように改造して欲しいと自ら志願した・・・あの子だ」

老人の目が輝いた。

酷く濁りきった、溝川のような輝き方だった。













「だーっ始まってる!セスさんがぎりぎりに教えるから!!」

ナオは走ってイオリの方に向かった。

がっ。

「ぐぅっ」

イオリは押されていた。

相手はアッシュ・クリムゾンー。

彼は相当に強かった。

その上、アッシュの前の2人もかなりの手馴れでかなりのダメージを負っていた。

だが彼のチームに居るキョウ、そしてチヅルは強い。

この時点ですでにイオリのチームの勝利は確定していた。

ならば無意味な負傷をしないためにギブアップして誰かに代わるのが一番得策だが、

それは出来なかった。

彼のプライドがそれを許さなかったのだ。

「これで終わりだネ」

アッシュが手を払うと炎がイオリの面前に飛び、イオリはガードも出来ないで喰らってしまいそうになる。

だが−

「兄貴ッ!」

「な、ナオっ!?」

ぼうっ。

飛び出ていたナオがイオリをかばってしまう。

そしてすぐさま放送が飛んだ。

『神器チーム、失格!』

「・・・オイオイ、お前なにやってるんだよ」

キョウが呆れた表情で出て来た。

「・・・すまんません、つい・・・」

「ナオっ、余計な事をするな」

イオリがいつも通りの剣幕でナオに怒鳴りつける。

ぱちぱちぱち・・。

すると、小さく拍手をしながらアッシュが近づいてきて二人に話し掛けてきた。

「・・・はいはい、美しい兄弟愛ですねっと。

ちょっと二人にお話したい事があるんだけどネ」

「・・・なんだ」

「いやあ、ウチの会社で警備員を探してるんだけど君がかなりの使い手だって分かったからサ、就職しないかって話」

その話を聞いてイオリは怪訝そうな顔をする。

だが、

「あ、俺ならいいけど」

「・・・ナオ?」

聞かれていないはずのナオの方が返事をした。

「・・・いや、セスさんに兄貴に会えたらついていけって言われて職無しなんだよ」

「・・・・・・」

「OKOK、出来ればお兄さんの方も就職して欲しいんだけド」

「・・・・・・・・・・・」

イオリは仕方なく頭を縦に振った。

というのも最近はバンドの方がうまく行っていないらしい。

ナオが抜けた穴は意外に大きかったようだ。








そして、現在に至る。

「・・なあ、兄貴。俺は一体どこの誰なんだろうな」

「知らん」

聞きなれた返事、だが、それに満足したかのようにナオは微笑んだ。

「ああ、別にどこの誰だっていいよな、別に」








作者から一言。

・・・うーん、コナンみたいに目に入ったものから名前を取ってしまったナオ誕生説。

いかん、内容的にナオの設定がルリっぽい。

ま、性格はこの設定の方が説得力あるし、ブーステッド達についても分かりやすいかも?

では、次回へ。


 

 

代理人の感想

・・・・すいません、さっぱり知らないので判らないです。