漆黒の戦神

アナザー

フレイ・ヒースローの場合


...え〜、まずはお名前をお願いします


フレイ・ヒースロー・・・

『真紅のローズ』と言った方がわかりやすいかしら?


...ちょ ちょっと その名は!


かまわないわ、テロリスト『真紅のローズ』はもういないんだから


...少し 彼女の事について触れておきましょう


フレイ・ヒースロー 26才

西欧北部の小国を舞台にエステバリスライダーとして

その名を馳せたテロリストである

『真紅のローズ』の名は

彼女が血のように真っ赤なエステバリスに乗っていた事に由来する

しかし

私の目の前にいる彼女が

西欧方面軍に恐れられた伝説とも言えるテロリストとは思えない

少々 色気過剰・・・いや、失敬

けだるい雰囲気を漂わせた、とても魅力的な女性ではないか


フフ、信じられないって顔してるわね

まぎれもなく あたしは 『真紅のローズ』よ

ま、もうエステには乗ってないケドね


...やはりエステに乗らなくなったのは


ええ、あのコのおかげよ


...彼との出会いを教えてもらえますか?


そうね・・・どこから話そうかしら

あのコとね、はじめて会ったのは・・・戦場よ


...まさか、エステで彼と戦ったのですか?


まぁね、別に相手があの『漆黒の戦神』だと

気付いていなかったワケじゃ ないんだけどさ

あのコの後にいたヤツに用があったのさ


...ゴップ・ワイアット 元・少将ですね


なんだ 調べはついてるのかい?


...有名な話ですよ 当時は世界中で話題になりましたからね


そうだったかしらね

ま、結局その時は撃墜されちゃってさ

『真紅のローズ』と呼ばれるようになってからじゃ

はじめての敗北だったわ


...やはり、ショックでしたか?


いやぁ、そうでもなかったわねぇ

あの時ね、あたし あのコ1人に持ってた弾全部使っちまったんだよ

それでも 1発も当たりゃしないんだ

いっそ 清々しかったね


...その時は直接顔を合わせたわけじゃないんですよね?


ええ、あのコと直接会ったのは

それから1週間後の事よ

あたしはさ、その頃 隠れ蓑としてバーをやってたんだよ

と言っても 普通の客はほとんどいなくて

ウチのテログループのメンバーばっかりだったケドね


...その店に彼は1人で来たのですか?


いや、3人だったよ

はっきりと覚えてる

何せ テロリストだらけのあたしの店に

軍人が3人も入ってきたんだから

ただ 他の2人はあきらかに軍人っぽかったケド

あのコはちょっと浮いてたわねぇ

なんか かわいいって言うかさ

注文聞いた時 あのコが「酒はダメなんです」

って言った時は正直 笑っちまったよ

だってそうだろ?

ウチはバーなんだよ?

そこに酒も飲めないボウヤがやってきたんだからさ

あたしは からかってやろうと思って

そのコの隣に座ってしなだれかかってやったのさ

あのコ、顔 真っ赤にしちゃってさ

かわいかったわねぇ

久しぶりに うまい酒が飲めたよ


...撃墜されて以降の1週間 荒れまくってたそうですね


なんだい、そんな事まで調べてるのかい?

そうさ、荒れまくってたさ

でも、1つ 間違ってるよ

撃墜されたから 荒れてたんじゃない

あいつを・・・ワイアットの野郎を倒せなかったから荒れてたんだからね

そこんとこは訂正しとくよ!


...わ、わかりました、しかし、まわりの反応はどうでした?


ああ、ウチのメンバーもいい顔はしてなかったわね

これでもね あたし 結構モテたんだよ

ま ムサい男にゃ興味なかったケドね

あのコかい?

あのコは・・・合格ね

かわいかったし

実は その時はまだ あのコが『漆黒の戦神』って気付かなかったんだよね

どうも イメージと重ならなくてさ


それより気になったのは

あのコの連れの・・・カズシって呼ばれてたヤツがさ

「あのワイアットって男 何考えてるんでしょうね〜」って言ってたのさ

だからさ、あたしはあのコにもたれかかったまま

話を聞き出そうとしたのよ

え? なんでもたれかかったままかって?

い、いいじゃないか そんな事・・・


ともかく!

話聞いてみると あのコが酒も飲めないのにウチに来たワケってのが

その基地を支配してるワイアットってヤツと

ソリが合わなかったってのが原因らしいのよ

ま、当然ね

あんな権力っていう虎の威を借る狐・・・いやノミなんざと

あのコが 話合ってたまるかっての

え? よく似た人物を知っている?

それじゃ 詳しい説明は省くわ 思い出したくもないし

で、あのコの上司、オオサキとか言ったっけか?

そいつがウチにあのコを連れてきたのさ

そういう意味じゃ、あたしはあのオオサキってヤツに

感謝しないといけないかもねぇ


ホント、あのコのいた一週間は楽しかったわねぇ・・・

あのコが来る度に隣に座ってさ

いっつも 顔真っ赤にしてたんだよねぇ

一度は部屋に連れ込むまでいったんだけど

直前に逃げられたのよ

だってそうだろ?

こっちは全部脱いでんだ、追いかけられやしない


...そりゃまた・・・しかし、彼は1週間しか店に来なかったのですか?


いや、閉めちまったんだ 店の方を

あたしらのテロ活動はそれがタイムリミットだったんでね

なにせ、その1週間後ってのが

ワイアットの野郎が中央へ栄転する日さ

あんなノミがどうやって出世したかなんざ考えたくもないけど


元々、『漆黒の戦神』の部隊は

テロの激化を恐れて自分が中央へ逃げるまでの護衛に

あのノミ野郎が呼んだのさ


...だとすれば彼はあなたにとって敵だったのでは?


あの頃のあたしにゃ

ワイアットの野郎を倒すってのが1番だったからね

あのコと戦う事になっても仕方ないかってぐらいにしか

思ってなかったんだよ


・・・いや、正直に白状しちまうとね

まだ あのコが『漆黒の戦神』本人だとは

気付いてなかったんだよ その部隊の1人 ぐらいにしか考えてなかったもんでね


だからさ、あたしが『漆黒の戦神』を押さえれば

少なくともあのコと戦う事はない・・・って思ってたのよ

フフ、バカみたいね

愛しいあのコと気付かず戦いを挑もうとしてたなんてさ

そして、あたしらは1週間後にワイアットが

基地を飛び立つ時を狙って襲撃をかけたのさ


...結局、その戦いの行方は?


モチロン 負けたに決まってるじゃないか

・・・正確には戦う前から負けは決まってたのかね

あたしはさ、前に1発も当てれなかったってのもあったから

白兵戦に持ち込んだのさ

ところがよ

あたしのエステだって結構、カスタマイズしてるってのに

まったく、歯が立ちゃしない

そのまま 2機とも地面にドカンさ

どうせなら 生身でやりたかったねぇ

いやね、まるで押し倒されちまったかのような体勢だったからさ

そのまま戦いが終るまで地上で白兵戦さ

・・・いや、戦いじゃないやね

あのコは1度も攻撃してこなかったんだから


...それでは、あなたの目的は達成されなかったのですね


いや、そうでもないのさ

あたしらはもう少し早く気付くべきだったのよね


...何にですか?


ワイアット程度のノミ相手に

なんで、わざわざ『漆黒の戦神』が護衛に出向いたのかをさ


...と言いますと?


あたしは確かに『真紅のローズ』として名を馳せた

エステバリスライダーさ

でもね、あたしの実力なんか『漆黒の戦神』はおろか

『白銀の戦乙女』にだって勝てやしないよ

謙遜なんかじゃない、紛れも無い事実さ

つまり、別にあのコじゃなくても西欧方面軍には

あたしを倒せるパイロットはいるって事さ


...何故なのでしょう?


あのコはねあたし達を死なせないために来たのさ

あたし達を相手にしながら

さらに「手加減」できる実力があったってワケ

まぁ、あのコの本当の実力ってのは

それのさらに先にあるような気がするけどね


...なるほど、という事はその戦いにおける戦死者は?


ゼロ、あたし達も軍も両方ね

結局あたしはエネルギーがなくなるまで殴りかかってたんだ

その後、アサルトビットごと引きずり出されてさ

あの時は殺されると思ったね

でアサルトビットが外から開かれたとさ

目の前にあのコがいたんだよ


...そこで彼が『漆黒の戦神』であると気付いたと?


いやぁ、気付いた事は気付いたんだけどさ

数分は状況が理解できなかったわねぇ

イメージ重ならないってのもあるしね

ただ、眼を見たら、なんか納得しちゃったわ

なんとなくだけど


それよか、聞いてよ

あのコに肩貸してもらってノミ野郎のとこ行ったんだけどさ

そしたら あの野郎、西欧軍に取り囲まれてやんの

あいつの前に立ってたのはオオサキとか言う男だったかな?

何て事はない

あの3人は最初っからヤツの罪を暴くために来てたんだ

それでね、あのコがあたしの手を握って言ってくれたんだよ

「あなたが この手を汚す必要なんてないんです」ってさ

軍人ってのもワイアットみたいな連中ばっかりじゃないんだねぇ

恥ずかしい話だけど、あたしは泣いちまったよ

何時以来だろうね・・・

父さんがヤツの罠にかかって反逆者として死んで以来だから・・・

ざっと10年ってとこかな

その時、あのコが胸貸してくれて

そっと抱きしめてくれた時はうれしかったね

酒も飲めないぼうやだってのに・・・


...そして、彼はあなたの元を去っていったのですね


いや、その前に父さんの墓参りに一緒に行ったのよ

墓前だからさ、ちょいとおとなしめの服着て行ったら

あのコ、いつもしなだれかかっていた時より顔真っ赤にしちゃってね

もしかしたら、あのコは「ハデ」なのより

ああいう「清楚」ってのが好みなのかも知れないねぇ

あんまりカワイイからキスでもしてやろうかと思ったけどやめたよ

だって、どうせなら男の方からして欲しいだろ?


...それで、その時彼は?


ハハハ、また私の負け

あのコは何にもしないまま去って行ったよ

最後まで あたしはあのコに負けっぱなしってワケさ


でもね、あたしの10年間という時間は

それこそ復讐のためだけに針を進めた10年間だった

いや、時計の針も凍り付いて動いてなかったのかも知れないねぇ


それが、あのコのおかげで随分救われた気がするよ

あたしの10年間止まりつづけていた時計の針が

また動き出したんだよ

負け越したのはシャクだけどね


でも・・・


ホント、感謝してるよ


...では、彼に何か伝えたい事は?


へぇ、伝えといてくれるのかい

サービスいいねぇ

こいつに吹き込めばいいのかい?

それじゃ・・・




アキト、元気でやってるかい?

あたしはうまくやってるよ

新しくはじめた店も順調だし

あんたと一緒に見た湖の風景も何も変わっちゃいない

街の連中の笑い声もそのまんまさ

平和・・・とは言い切れないけど

みんな、自分なりに精一杯に生きてるよ


ただね・・・あたしは変わっちまった

泣くようになっちまったんだ

おかしいだろ?

もう、あたしはあの頃のように強くはない・・・

だから

すべてが終ったら・・・また・・・戻ってきて

あたしを・・・さ、支えて欲しい・・・




ゴメン、また泣いちゃったね


ま、まぁ

こんなとこかな?


...本日はありがとうございました




追記

ゴップ・ワイアット容疑者はこの本の執筆時には

まだ裁判中ですので、罪状は確定しておりませんが

地位、名誉、権力、全てを失い

今更ながらですが『報い』を受けているそうです


さらに、連合軍は10年前に自殺した

ガルン・ヒースロー元・大佐による反逆未遂事件を

ゴップ・ワイアット容疑者による隠蔽工作として

正式に認める旨を発表したそうです


これにより、彼女の人生がやり直せるわけではありませんが

彼女にとっての1つの救いではないでしょうか?


もっとも、今の彼女に必要なのは

優しい『彼』の存在なのかもしれませんが・・・






民明書房刊 『漆黒の戦神 その軌跡』 8巻より抜粋









「あれ、枝織ちゃん 何読んでるの?」

「あ、零ちゃん♪ これねぇ キザロンゲにもらったの」

「もう、知らない人に物をもらったりしちゃ ダメでしょ」

ひどい言われ様である、キザロンゲ

「それで、どんな本なの?」

「あーくんの事が載ってるよ」

「へぇ・・・それが今 ウワサの本なのかしら?」


「はぁ、このままナデシコに居続けるとホントに染まっちゃいそうだわ・・・」

お茶を飲み一息ついた零夜はため息とともにぼやく

染まる必要が無い事に彼女が気付くのはいつの事だろうか?

「あ、釘バットの手入れしとかなきゃ♪」

こういうあたりが特に


ぞくっ!


その時、部屋の空気が一瞬振動したような気がした


「・・・ねぇ、枝織ちゃん 少し寒くなってきてない?」

「・・・・・・・・・・・・」

「枝織ちゃん・・・?」


ビリッ!


「・・・・・・・・・・・・」

いきなり立ち上がると

本を2つに引き裂いて無言のまま部屋を出て行く

「今のは・・・」




所変わってナデシコ食堂


「・・・・・・・・・」

「あれ? 北斗、こんな時間に珍しい・・・!?」


ドゴォッ!!


避ける間もなく無言のまま近付いてきた北斗の

決して重いとは言えない体重を乗せた拳がアキトの頬に突き刺さる!

そのままアキトは見事な放物線を描いて宙に舞い・・・


「ぶぺらッ!!!!」


おかしな声をあげて壁に激突する



「ちょ、ちょっと待て! いきなり何を!?」


バンッ!!


北斗は左手に持っていた本だったモノを

アキトの顔面に叩きつけ


「自分の胸に聞いてみろッ!!」


そのままアキトの返事を待つ事なく食堂を出て行く


「まっ 待て 北斗!!」


アキトは痛む頬を押さえながら立ち上がり

北斗の後を追おうとするが・・・


「逃げられませんよアキトさん」


ザッと食堂の入り口に並ぶ10名

さらに背後から迫る5名


「この本の内容について、詳しく聞かせてもらえませんか?」

「は、ははは・・・」






その後、男性のものらしき悲鳴がナデシコに響き渡ったそうだが

発生源は不明である








そして、北斗は怒りをあらわにしながら

ナデシコの廊下をドスドスと歩いていた

まったく前を見ていなかったが誰ともぶつからない

何故なら今の彼女とぶつかるような命知らずなど

ナデシコにはいないからだ

むしろ皆、北斗に近付かないようにしていた

故に・・・


「なんでッ! なんで 俺はあんな男を・・・・・・ッ!!」


幸いにも その言葉の続きを聞くものは誰1人としていなかった・・・






おわる



あとがき


こんなんできましたけど〜


最後は北斗でしめてみました

いかがなもんでしょう?


と言うかここで北斗を持ってくるあたり

なんか私らしいかなぁ〜?

って思ったりしてます


でわでわ

次はナデシコ if case.1後編でお会いしましょう


 

 

 

管理人の感想

 

 

別人28号さんからの投稿です!!

いや〜、すっかり定番化してますね〜

このシリーズ(笑)

ここまで増えたのなら、別のコンテンツを作ろうかな?

しかし、すっかりナデシコに馴染んでる辺り・・・優華部隊の皆さんも、素質有りと言うか、何と言うか(爆)

零夜なんて、暴走を続けてますしね(苦笑)

でも、本当に見境無しだな・・・アキトよ(汗)

西欧方面には二度と足を踏み入れられないじゃないのか?

 

それでは、別人28号さん投稿有難うございました!!