さて、ここで思い出してほしい


前回の『シャクヤクでもあったこんな話』のラストを




そして、いつもの日常に戻ったナデシコ

「う〜〜〜ん」

「おや、どうしました艦長?」

「何か漠然とした不快感のようなモノが・・・」

「あ、艦長もですか? 私もなんですよ」

「お二人揃って・・・自作の料理の味見でもしたんですか?」

「「どういう意味ですか?」」

「あ、いや・・・」

その時、格納庫のレイナから通信が入る

「艦長、今 格納庫でウリ・・・いえ『組織』が決起集会開いてるんだけど どうします?」

ユリカは胸に燻っている正体不明のイライラの手伝いもあってすぐさま決断を下す

「メグミちゃん、『同盟』のみんなに連絡して」

「わかりました」

メグミも同じくイライラしていた事もありすぐさま行動に移す

「腕は一流」なナデシコクルーだが こんな所でその腕を発揮しなくてもいいと思うが




『同盟』のメンバーがブリッジに集合するまでの所用時間はわずか2分

普段の敵の襲撃時よりはるかに速い


「みなさ〜ん、今日こそ

アキトに仇成すみなさんを一掃しちゃいましょ〜!」

「「「「「おおーーーッ!!!!」」」」」




一方、格納庫では

「何かムショーに怒りがわいてくるぜぇッ!!」

「君もかウリバタケ君 実は僕もなんだよ!」

「僕も今ならブーステッドマンにも勝てるゾォォォォッォォッ!!」

「今ならアオイさんみたくダークになれるような気がします!」

「皆の者! 今日という今日は

我々の正義を示すのだぁーッ!!」

「「「「「おおーーーッ!!!!」」」」」




そして、決戦の火蓋は切って落とされた

これがナデシコにおける『日常』だ




・・・さて、ここで問題です




Q:この時点でアキトは いったいどこにいたのでしょう?


A:まだナデシコに帰っていなかった




そう、アキトはまだシャクヤクに残っていたりする



わりと近い星から来た彼氏



ここはシャクヤクのブリッジ

例の人型移動端末を隠し持っていたディアと舞歌が姿を消したアキトの行方について話している

ちなみにブロスはジャンケンに負けたので 今はブローディアの中でお留守番だ



『勝ったって ディアの移動端末なんか使わないよ・・・』



「ねぇ、アキト兄の行方は まだわからないの?」

「ごめんなさいね ディアちゃん」

「アキト兄、どこに隠れてるんだろ?」

「それより、どうして隠れたりしてるのかしら?」

「ナデシコのみんなが怒ってるような気がするから帰りたくないんだって」

「何それ?」



実際に彼女達は理由も無く怒っている

そのあたりは前回の『シャクヤクでもあったこんな話』を参照だ

今回 ナデシコは登場しない



「シャクヤクってセキュリティ甘いよねぇ」

「そうかしら? 木連では1、2を争う船なんだけど」

「個人の部屋に監視カメラがないんだもん」

「優華部隊がいるからねぇ セキュリティ担当してる私の親衛隊は桜井中心に男が多いし」

「あ、そっか そりゃカメラ付けられないわよね」


舞歌は親衛隊にその立場を悪用するような人間がいるとは思っていない

しかし、これとそれとは話が別なのだ


「ナデシコのオモイカネみたいなのがいれば 何とかなったかもしれないけど・・・」

「あるけど休眠してるみたいね、まぁ 起きててもオペレーターいないし」

「・・・木連にワンマンオペレーターはいないのよ」

「外からのには強いんだけど こうやって中に潜伏されちゃお手上げね」

「アキト兄、その事 知ってたのかしら?」

「さぁ?」






結局 その日はアキトを発見する事ができなかった






「それにしても・・・テンカワさん どこ行ったのかしらねぇ?」

「・・・・・・・・・」

「北斗様 心配ですか?」

「な、何故 俺に聞く! アキトの事など知るかッ!」

いつもの事ながら顔を真っ赤にして否定して説得力のない北斗

飛厘は顔に油性マジックで『図星』と書き込もうとしたが さすがにそれは無理だった

「そこまで あせる事ないじゃな〜い♪」

「百華、からかうのはやめなさい シャレにならないから」

「は〜い」

「・・・・・・フン!」

「うぅ〜〜〜」

零夜は何故か くやしげにハンカチを噛んでいた


ちなみに女子高生のノリで話す優華部隊の面々の前で

こめかみをピクピクさせながら 書類片手に肩を震わせているのは千沙

今はミーティングの真っ最中なのだ


「・・・話続けていいかしら?」

「あ、す・・・すいませ〜ん」

「千沙さん、笑って笑って 怒ると小ジワが増えますよ?」

「あなた達がおとなしければ 私も怒らずにすむのよッ!!」

「「「「「「「は〜い・・・」」」」」」」

千沙の剣幕に北斗も含めた全員が素直に従った






「ふぅ・・・どうしてあの子達は・・・」

決して千沙は優華部隊の面々を「あの子」呼ばわりするほど 年が離れているわけではない

しかし、まとめ役という立場上 どうしても彼女達の保護者のようになってしまうのだ


なかば無理矢理にミーティングまとめた千沙は舞歌に報告の書類を渡して自室に戻る

ホントなら夜勤するぐらいの仕事が あるにはあるのだが

別に急ぐ仕事というわけでもないので 今日はゆっくり休む事にした




誰がこんな夜勤するか否かの選択に深い意味があると思うだろうか?

ある意味 人生の岐路とも言えるようなモノが彼女に訪れた




何故なら・・・






千沙の部屋の隅でガタガタ震える人が1人

「・・・アキト・・・さん?」

そう、見覚えがあるが 決してシャクヤクでは見かけない服に身を包むその人は

現在 行方不明中のテンカワ アキトその人だった



「あ、アキトさん いったいどうしたんですか?」

「こ、ここは千沙さんの部屋だったのか・・・ゴメン」

アキトはこの部屋が無人だと思っていたそうだ

確かに 千沙は舞歌の副官という立場から 日々仕事に追われていて

部屋でする事と言えばシャワーを浴びるか寝るだけなので

すべて備え付けの家具でまかない 私物はまったくない


余談だが シャクヤクには地球製だけあって 木連の艦としては珍しくベッドが備え付けられている

千沙は最近 このベッドというものがお気に入りらしい

理由は「布団のあげおろしの必要がないから 帰ってきてすぐに寝れる」という色気も何もないものだったが


本来なら アキトを発見したならばすぐにでも舞歌に報告すべきなのだろうが

今のアキトを見ると さすがにそれはためらわれた

こうして対面している今でも 部屋の隅から動こうとせず 体育座りの姿勢のままだ

その顔は これでもかというぐらいに憔悴しきっている

「あの、アキトさん ホントにどうしたんですか?」

「・・・される」

「え?」

「帰ったら・・・お仕置きされる なんでかわからないけど 絶対にそうなる気がする・・・」

「はぁ・・・」

アキトが度々ナデシコの女性クルーによる『お仕置き』を受けている事は話には聞いていたが

その『お仕置き』とは ここまでヒドいものなのだろうか?

千沙は 今のアキトの姿に同情した


そして











「わかりました アキトさん、私 普段は仕事で部屋にいませんので

好きなだけ ここにいてください

「あ、ありがとう・・・千沙さん・・・」




言ってしまった

こうして彼女は人生の岐路を目の前にして

新たな道への第一歩を踏み出したのだった




夜寝る時、千沙はアキトは客人なのだからとベッドを使うように勧めたが

アキトの方は匿ってもらっているのだからと こればかりは譲らず

千沙がベッド、アキトは床で布団を敷いて眠る事になった






翌日

千沙が食堂の前を通りかかると そこには優華部隊の面々

彼女達の中心にいるのは・・・どうやら北斗らしい

「あなた達、何をしているの?」

「あ、千沙さん 花嫁修業だそうです」

「は?」

「・・・また、舞歌様が何か吹き込んだみたいです」

「そう・・・」

その一言で納得してしまった


料理する北斗の姿、エプロンは零夜が選んだものらしく 少し少女趣味のような気もするが

それ以上に包丁を扱いがたどたどしく危なっかしい

「北斗は料理できるの?」

「まさか 前に挑戦した時も ロクに材料を切る事もできずに諦めたんですから」

前に料理を教えた京子が あの時の事を思い出しながらそう答える

一方 百華の方はは今回も講師役を務めているらしい

「そういえばそうだったわね・・・」

「千沙さん、今日の食事は出前にした方がいいですよ ここは開店休業状態ですから」

「ええ、そうさせてもらうわ」

いつもは盛況な食堂に 今日は1人も客がいない

皆 北斗を見にきた見物客のようだ

「もう、注文しときます?」

京子が時計を見ながら千沙に問う

たしかに もう昼前だ

「そうね、それじゃ私の部屋に届けてくれるかしら? 書類を整理するから

えーと、これと これと・・・」

千沙の注文を聞くうちに 目を丸くしていく京子

「あ、あの・・・千沙様?」

「何?」

「そんなに食べるんですか? 2人前ぐらいありそうですけど

「え、あ、 ま、まぁね・・・」

ごまかした

アキトの分も頼む事をごまかすために小鉢料理を中心に頼んだはいいが

それでも やっぱり量が多かったらしい

「・・・太りますよ?」

「・・・ほっといてちょうだい」

千沙はこれ以上 ツっこまれる事を恐れ 早々に食堂を後にした

アキトを匿っている事がバレるわけにはいかないのだ






その日の1日は何事もなく済んだ

少し、食事の量が多くなった事が噂になりはしたが

「許婚を取られた事によるやけ食いだろう」と判断され

アキトかくまっているなどとは誰も夢にも思っていないようだ


ちなみに その噂を聞いた千沙がどんな顔をしたかは皆さんのご想像におまかせします




実は千沙は優華部隊の一員でありながら 舞歌の副官も務めているため

他の隊員達とは時間があわず 1人で食事を取る事がほとんどだったりする

そんな彼女にとって アキトと2人でとる食事は戸惑いもあるものの

「楽しい」と言えるものだったのだ


ある意味 夫婦生活とも言えるような2人の生活

少し男女の立場が逆のような気もするが そのあたりは気にしないでおこう


しかも、2人分もの食事を毎回 頼んでいるのは 怪しまれると気付いたのか

「材料さえあれば 俺が食事を作るよ キッチンはあるしね」

と ここ数日の心安らぐ生活を送ったためか それなりに回復していたアキトが言ってくれた

これに千沙が2つ返事で了解したのは言うまでもない






「おや、千沙殿 今日は注文していかないのか?」

「え・・・ええ、ちょっと自分で料理してみようと思ってね」

「きっと気付いたのよ 自分には家庭的な部分が致命的に欠けている事に」

「飛厘、言いすぎだぞ せめて『決定的』とか・・・」

「万葉、聞こえてるわよ」

確かに千沙は 料理など ほとんどした事がないが そこまで言われる程の物だろうか?

千沙はちょっと自分の人生を思い返してみたりした


「千沙さん 料理できたんですね 私 はじめて知りました」

「零夜、あなたまで・・・」

そこまで言われてしまったら「実は あまりできません」とは流石に言えなかった






「ははははは、そんな事があったんだ」

「アキトさんまで笑うなんてヒドいです!」

部屋に戻った千沙が その事をアキトに話すとアキトは笑い出した

頬を膨らませながら話す千沙があまりにもイメージと違っておかしかったのだ

「ゴメンゴメン、でもホントに料理した事ないの?」

「まったく・・・という事はないのですが、学生の頃も今も食堂に頼り切ってますから」

「そっか、仕事が忙しいんだね・・・」

「はい、それだけ頼りにされているという事ですが」


ちなみに千沙に仕事を押し付けている舞歌は

いかにして北斗をからかうかと いかにしてアキトをモノにするかを考えていた

しかも時折 気分転換と称して遊びながら


「仕事をしながら料理もなんてできませんよ」

「そう? ミナトさんなんか ナデシコに来るまで社長秘書やってたらしいけど 料理もでき あっ・・・」

アキトは迂闊すぎた よりによって この場で千沙のライバルの名を出すなんて

「あ、あの・・・ゴメン・・・」

「・・・・・・・・・」

しかし、千沙はうつむいたまま




しばし、重苦しい時間が過ぎる




先に口を開いたのは千沙の方だった

「あの・・・」

「?」

「私、やっぱり 女性としてミナトさんには 勝てないんでしょうか?」

「そっ そんな事ないですよ!」

「でも・・・」

「人それぞれじゃないですか 料理なんかできなくたって 千沙さんは十分魅力的ですよ!」

しかし・・・

「料理のできる人に 料理のできない人の気持ちなんてわからないです・・・」

いぢけてしまった




結局 その日のアキトは千沙のご機嫌伺に すべての労力を費やしてしまった

疲れきった表情のアキトに対し

落ち込んでいるはずの千沙が やけに嬉しそうな表情をしていたのは きっと気のせいだろう






それから 数日

千沙がいつものように 食堂に料理の材料を取りに行った時の事だ

日を経るごとに壊れていく厨房の中で 『食材』といういまだかつてない強敵を相手に 悪戦苦闘しているのは 北斗

この数日間、一日も休む事無く練習を続けてはいるが その結果は思わしくないらしい

講師役を務める 百華も半ば諦め気味だ


「・・・また、派手にやってるわねぇ」

「千沙様、北ちゃんもがんばってるんですが・・・」

「三姫が教えたらどう? あなた 料理全般得意だったでしょ」

しかし、三姫は首を横に振り

「私は料理できるけども 北斗様にどう教えたらいいか 想像もできません」

「そ、そう・・・」

千沙は ずっと北斗の練習風景を見てきたわけではないが

三姫が ああも あっさり首を振るあたり 相当のモノだったらしい

確かに、壁に走る 刀か何か しかも達人級の人間が斬りつけたような傷

普通に料理をしていたら 付きようのないものではあるが


・・・北斗は一体 何を作ろうとしていたのだろうか?


「・・・卵焼きだ」


だ、そうです




その時、零夜が後に騒動を引き起こす トンでもない一言を口にした

「そうだわ 千沙様にお料理を習ったらどうかしら?」

「え?」

「そういえば千沙殿は ここ最近 ずっと部屋で自炊をしてましたね」

「そ、それは・・・」

「って事は 千沙さんも 料理できるんじゃないですか?」

「いや、だから・・・」

「千沙、本当なのか? 頼む! 俺に料理を教えてくれ!!」

とうとう 北斗は千沙に頭を下げた


「わ、わかったわ それじゃ 明日、ね?」

これ意外に どういう答え方があったのだろうか?

千沙は逃げ出すように 食堂を後にした

すがるような北斗の瞳が やけに心に痛かった






「うぅ・・・アキトさぁん 私はどうしたらいいんでしょ〜?」

「そんな事がねぇ、逃げるわけには・・・いかないか 流石に」

「私、卵もロクに割れないのに 卵焼きなんて・・・」

「それ 基本じゃないですか・・・」

こういう状況において 放っておけないのがアキトだ

「そうだ 千沙さん、俺が料理教えましょうか?」

「え?」

「匿ってもらっているお礼ですよ」

「でも、私 お料理は・・・」

「誰だって 最初はそうですよ 今夜一晩で卵焼きをマスターしましょう!」

「は、はぁ・・・」

元より熱血思想にアキト 内容はともかく『特訓』というシチュエーションに酔っている

対し千沙は 少しひき気味 どうも料理自体に苦手意識があるらしい


しかし


「・・・わかりました、アキトさん お願いします!」

もとより 千沙には選択の余地などなかったのだ


「そうこなくっちゃ! さぁ ごはんを食べたら 早速はじめよう!」

アキトは そんな千沙の気持ちを知ってか知らずか異様な張り切りを見せていた






「えい!」


グチャ


千沙の手の中で砕け散る生卵

「千沙ちゃん・・・力入れすぎだよ」

「は、はい」

「別に片手で割るみたいな事はしなくてもいいんだからさ」

「それは わかってるんですけど・・・」


ちなみに アキトは片手で割る 伊達にコックをしているわけではないのだ


「さ、もう一度」

「はい!」


2人の練習は続く

千沙も料理に関しては優華部隊の皆が思っているほど『致命的』という程でもないようで

しばらく練習していると 普通に卵を割れるようになっていた




「よし、それじゃ その卵をかきまぜてみて」

「はい!」


がががががが・・・


「千沙さん ちょっと乱暴すぎですよ もっと優しく!」

「え、えっと こうですか?」

「そうじゃなくて、こう・・・」

「!? あ、あの・・・アキトさん・・・」

アキトは後ろから抱きしめるように千沙の手に自分のそれを添え そのまま卵をかきまぜはじめる

「ほら、そんな力まないで 肩の力を抜いて・・・」

「は、はい・・・・・・」

無茶を言う

まったくと言っていいほど免疫のない 仕事一筋に生きてきた女性相手に

後ろから抱きついておきながら「力を抜け」などと


念のために言っておこう アキトは『天然』である

・・・・・・・・・たぶんね




「それじゃ、実際に焼いてみようか」

「あ・・・」

その言葉と同時に千沙から離れるアキト

対し千沙の方は どこか残念そうだ

「さ、やってみて」

「・・・はい!」

とはいえ 今は料理の特訓中なのだ

気を取り直した千沙は 不必要な程に気合を入れて

今日まで存在すら知らなかった 部屋に備え付けられていたフライパンに卵を流し込んだ


しかし


「・・・それじゃ スクランブルエッグですよ」

「あれ?」

当然といえば当然だが 千沙は卵をうまく巻く事ができなかった

「代わりましょう よく見ててくださいね」

アキトは千沙からフライパンを受け取ると 再び卵を流し込んだ


「よっと」

お見事

まったく焦げ目のないキレイな卵焼きの完成だ

「千沙さんは 多少焦げ付いても構いませんから ちゃんと巻けるようにがんばってくださいね」

「わかりました!」

千沙は気合を入れなおしてフライパンを受け取る


だが


「あれれ?」

「ちょ、ちょっと焼き過ぎ・・・かな?」

今度は必要以上に慎重になり過ぎたらしい

黄色い卵が黒くなってしまっている






「う〜ん、この手首を返す感覚をどう伝えたらいいんだろう?」

アキトはフライパンを返す動きだけを繰り返しながら頭を捻らせる

それを見た千沙は顔をトマトのように真っ赤にしながら1つの提案をする

「あの・・・」

「ん?」

「さっきの・・・さっきの卵のかき混ぜ方を教えてくれたみたいにやってくれませんか?」

「え・・・?」

「だから・・・さっきみたいに手を・・・」

最後まで言えずに俯いてしまう

そんな千沙の仕草にアキトは戸惑いながらも

「わかった、やってみようか」

ニッコリ微笑んで 了承した











翌日

「千沙、今日のお仕事はやんなくていいわ 存分にやりなさい」

食堂に来て 仁王立ちで北斗の練習を見守る舞歌

ディアも何故か一緒に仁王立ちをしている

休んでいいと言っておきながら 自分もここにいるあたり

今日の分の仕事は親衛隊に押し付けてきたのだろう

「わかりました! さぁ はじめるわよ」

「ああ、かかってこい!」

包丁を2本持って身構える北斗

もしかしたら 料理というモノを根本的に勘違いしているのかもしれない

「包丁はいらないの! 今日は卵焼きを教えるわよ?」

「ヤツを相手にすると言うのか!?」

どうやら 昨日の1日で 強敵『卵焼き』を北斗の中でアキトには及ばないものの

ライバルとして認定されているらしい




ちなみにアキトは明け方頃に我に返り 特訓中の出来事を思い出して 今は部屋で自己嫌悪中

同時にお仕置きに対する恐怖も思い出してしまったらしい




一晩の特訓で卵焼きをマスターした千沙にとって 皆の前で実際に焼く事自体は難しくなかった

「「「「「「「おおーーー!!」」」」」」」

それを見た見物人から拍手と感嘆の声があがった時には 何故か哀しくなって艦内だというのに空を見上げてしまった


しかし

それでも 北斗にそれを教えるのは難しかった

どの程度かと言うと


「・・・教える事はすべて教えたわ、後は繰り返し練習なさい」

朝にはじめて 休み無しで10時間後

今までこの練習に付き合ってきた百華の我慢強さに敬意を表しながら 千沙がサジをなげてしまう程だ

「うむ、なんとなくだがコツを掴めた気がする・・・・・・・・・ありがとう」

千沙は耳を疑った 北斗から礼を言われるとは思ってもみなかったのだ

「(これもアキトさんの影響かしらね)」

千沙は胸にチクンとする痛みを感じながらも

「どういたしまして あなたもがんばったわね」

少し頬を染めながら 優しい微笑みを浮かべ そう言った

返事を返されたらどうすればいいのかはまだよくわからないらしく 少し頬を染めながら俯く北斗

それを見ながら鼻にティッシュを詰める舞歌の姿は あえて視界に入れないようにした






「結局、北斗は卵焼きをマスターできなかったんですか」

「ええ、私も必死に教えたんですが・・・」

その日の晩 千沙とアキトは一緒に並んで夕食を作っていた

千沙の担当はモチロン卵焼きだ

「それなら 枝織ちゃんに代わってみたら?」

「それが・・・」

「やっぱりダメだった?」

「いえ、零夜から聞いたんですけど 卵焼きぐらいなら軽いそうです」

「へ?」

「北斗様と違って 昔から親が『女性のたしなみ』として 教えていたみたいでして・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・北辰が?

「あの方 ああ見えて料理が得意らしいですよ? 男やもめですし・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「舞歌様に聞いた話なので どこまで本当かはわからないのですが・・・

若い頃は「木星の野菜はマズイから」とか言ってコックを目指していたそうです」

「それ以上は言わないでくれ・・・」

自分と北辰の意外な共通点を見つけ ちょっとブルーなアキトだった






一方その頃 北斗は

「くぅ・・・何故だ、何故うまくいかん・・・」

見物客も帰り 食堂にいるのは北斗、舞歌、ディア、そして千沙を除く優華部隊の面々だけとなってしまった

「北ちゃん・・・」

「う〜ん どこが悪いのかしら?」

「千沙さんの作り方と そう変わらないような気がするんだけど」

皆で頭を捻らせている

「三姫、ちょっと あんたが焼いてみてくれない?」

「? ええよ」

頭に疑問符を浮かべながらも 手際よく卵を焼く

「・・・千沙さんのやり方とそう変わりませんよねぇ」

「千沙さんにもう一度 聞きに行ったら?」

「・・・そうだな」

そう言うやいなや 北斗はエプロン姿のまま食堂を飛び出した

「あ、北ちゃん 待ってよ!」

零夜たちも後を追う・・・北斗のスピードには到底敵いはしないが・・・






ところ変わって千沙の部屋

「千沙さん ホントに上手になりましたね」

「ふふっ この卵焼きは自信作なんですよ」

この時、千沙にちょっとしたいたずら心がわいた

「ほら、アキトさん あーーーんしてください♪」

「え!?」

当然 戸惑うアキト、昨日の特訓中のアキトはどこへやらだ

そんなアキトに対し 心の中のナニかを刺激された千沙はさらにいたずらっぽい笑みを浮かべてアキトに迫る

「アキトさん どうしたんですか?」

「いや、どうしたって・・・」

ジリジリと壁まで追い詰められるアキト

そして 追い詰める千沙


「わ、わかりました・・・」

壁際まで追い詰められた時点で とうとうアキトは諦めた

千沙はもう眼前まで迫っている

「うふふ それじゃ あーーーん♪」

「あ、あーーーん!」

嬉しそうな千沙、逆にヤケクソなアキト




プシューーーッ!




ちょうどその時だった

食堂から全速力で走ってきた北斗が千沙の部屋の扉を開けたのは


「!!??」


「北ちゃん どうしたの? そんな所で固まっ・・・」

「「「「「「!!??」」」」」」

遅れて零夜達が到着したのは その数十秒後

皆 部屋の中を見て固まってしまっている

そこには 壁際まで追い詰められたアキト

そして 今にもアキトに襲い掛かろうとしている千沙(零夜主観)


「千沙さん、不潔よおぉぉぉぉぉぉッ!!」

「ま、待って零夜 誤解よ!」

何が誤解なのか教えて欲しいものだ




「千沙殿・・・舞歌様の冗談だとばかり思っていたが・・・」

「北斗様のお相手を部屋に連れ込むなんてやるわね〜♪」

「奪われたら奪い返す でも、相手を間違ってるわ」

「ふっふっふっ 千沙〜 ここまできたら 言い訳はできないわよ?」

「違うのよ〜〜〜ッ!!!!」


こんな状況に踏み込まれては 千沙の必死の言い訳もただ虚しく響くのみだった











おわる



あとがき


ホントに長らくお待たせして申し訳ありませんでした

(待ってる人がいるかどうかは知りませんが)

北斗ちゃんシリーズ(マイヤでも北辰でもナデパレでもない本編)の新作です

とか いいつつ 今回の主役は千沙ですが・・・


毎回 舞歌にいぢめられっぱなしというのも何なので

今回はちょっといいメを見せてあげましたが

結局 最後はオチをつけてしまいました

これでこその 千沙って気がしないでもないですが

言うなれば 木連のジュン?


・・・え? 氷室? それって 北○道のどこか?




なお、先行公開しているもんすたーCGモドキの本編は

この次の北斗ちゃんシリーズ『どらごんくえすと』をお待ちください



おまけ 『おくすり騒動』


「むー! むー! むー!」

何故か みの虫状態で 床に転がされている零夜

ご丁寧にさるぐつわも忘れてない

その零夜の視線の先には

「・・・・・・・・・えーーーっと」

「アキトぉ〜〜〜〜〜♪」

アキトと その胸に顔をうずめる見覚えのある赤い髪

念のために言っておこう 枝織ではない


「北斗・・・どうしたって言うんだ?」


そう、べったりとアキトにくっついて離れないのは あの木連最強の戦士 北斗だったのだ






原因は数時間前にさかのぼる

千沙の部屋でアキトが発見されて1時間 シャクヤクを壊しながら鬼ごっこを続けるアキトと北斗

それを止めるために 舞歌は飛厘の新作のクスリを2人にふきかけたのだ


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・うぅっ」

アキトの方は体内のナノマシンのおかげか平然としていたが

北斗の方はそうもいかないらしく なんとか気合でクスリに抗おうとしている


「で、これは何のクスリなの?」

舞歌が問う、対し飛厘はサラっとトンでもない事を口にした

「ホレ薬です」


驚いて顔をあげた北斗とそれを心配そうに見ていたアキトの目があったのは ちょうどその時だった


反応式等 どこからともなくホワイトボードを出して説明を始める飛厘

ナデシコの某・女史に比べれば わずかとも言える説明が終わった時

北斗は 強力な磁石のごとくアキトにくっつき 力技では離せないようになってしまっていたのだった


「・・・で、飛厘 ちゃんと治せるんでしょうね?」

「さぁ?」

「さぁって・・・」


ネコの子のようにアキトにじゃれる北斗

それを目の当たりにしている 優華部隊のボルテージは急上昇だ

自然と喧嘩腰になって 飛厘に迫った


「もはや一刻の猶予も無いわ! 速攻で元に戻すのよッ!!」

怒りのオーラもあらわな千沙

もはや 誤解と言い訳する気もないのだろう

しかし、飛厘は慌てず騒がず

「・・・すぐにはムリね」

と言い 先程使ったクスリと同じモノを調べはじめた

「何でよ!?」

「だって・・・」


優華部隊の目が一斉に飛厘に集まった

そして飛厘は衝撃的な一言を口にする


「だって あのクスリ 失敗してたから・・・」

「はぁっ!?」

「どうして あの効くわけのない欠陥品が効いたのか

それを 調べてからじゃないと 何にも言えないわ・・・」


時間が止まった


ギギギギギ・・・


軋んだドアのような音をたて

優華部隊の皆が一斉に 今度は北斗の方を向く




「・・・・・・・・・(汗)」

「・・・・・・・・・(怒)」

「・・・・・・・・・(汗)(汗)」

「・・・・・・・・・(怒)(怒)」

「・・・・・・・・・(汗)(汗)(汗)」

「・・・・・・・・・(怒)(怒)(怒)」




逃ッ!


「あー! 逃げたーッ!!」


北斗はアキトの手を引いて脱兎のごとく逃げ出した

行き先は格納庫、そして ダリアのコクピット

そして、そのままアキトをつめて シャクヤクから飛びたってしまった




「・・・それじゃ 私も ナデシコに帰るわね」

「そうね、ナデシコの皆によろしく言っといてちょうだい」


そして アキトに置いて行かれたディアとブロスも

ディアの移動端末をパイロットシートにのせシャクヤクから飛びたっていった


こうして 舞台は再びナデシコへと戻る


何故 効かないクスリが効いたのか 1つ大きな謎を残したままですが

皆さんの予想通りでしょうから 気にしないであげてください


今度こそおわる



 

 

 

代理人の感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・私に何を書けと?(激爆)


管理人の感想

 

 そりゃあ、オマケの感想だろう?
 別人氏が望んでいるのはさ(笑)

 と、代理人に突っ込んでおいて〜
 いや〜、なんだか人気が急上昇です、千沙嬢は(笑)
 今までの苦労が報われる日は来るのでしょうか?


 ・・・来るのかな?(笑)