マイヤの1日

もしくは

漆黒の戦神アナザースペシャル


「おはよー パパ、チュッ♪」

これが私の毎朝の第一声

・・・相手がパパ本人だったらいいんだけどねぇ

残念ながら私の手の中にあるのはパパの写真

ただの写真じゃないのよマリアママからもらった秘蔵の写真、私の宝物なの

「マイヤ、起きたのー?」

あ、ママが呼んでる

私は急いで着替えるとリビングへと向かった



「おはよー ママ」

「おはようマイヤ、ナイスタイミングよ♪」

「え?」

やな予感

「マリナを起こして来てくれる?」

「・・・イエッサー ママ」

やっぱり・・・断りはしないけどね


ママの部屋に行ってマリナを起こす

「マリナ〜 朝でちゅよ〜♪」

あら、ついつい

私も伊達や酔狂で30人以上の妹達の面倒みてきた訳じゃないからさ

ついつい赤ちゃん相手にする時はこうなっちゃうのよ

「うー・・・ねいちゃ」

「おはよー マリナ、もう朝よ」

「はよー」

よし、マリナも起きたし はやいとこ朝ごはん食べちゃおう


テンカワ家では基本的に食事はバラバラだったりするの

夕食はけっこう揃うんだけどね、それでも全員は揃わない

朝はみんな時間がバラバラで食堂の方も開いてないし

昼はみんなお仕事忙しくて時間合わせる事ができないの

そろそろ100人突破しようかっていう大家族だから仕方ないわね

ちなみに今は朝7時、ユリカママのとこなんてまだ寝てるかも

北斗ママや牡丹ママのところは朝早いからそろそろ朝ごはん食べ終わった頃かな?


「「「いただきまーす」」」

私とマリナとママ、3人の声がハモる

パパはここにいないのよね他のママ達のとこ順番で渡り歩いてるから

一緒に朝ごはん食べれるのは月に一回ぐらいなの

・・・パパのバカ




「「「ごちそーさまー」」」

3人揃ってごちそうさま

むぅ、ママさらに腕を上げたわね

私も負けてられないわ

また特訓ね、パパに頼んで教えてもらおーっと



そして、朝ごはんを食べ終わった私は家を出た

あ、『家』ってのは私とママとマリナの住む部屋の事ね

マンションの一部屋って言ったらわかりやすいかしら?

実際はそのマンション全体が家なんだけど・・・いや、まだ足りないかな?

実は端から端まで7kmはあるこのテンカワ家邸宅

何をかくそう巨大戦艦だったりする

私も詳しくは知らないんだけど

作ったはいいけど あまりに巨大な船体のため大気圏突破はおろか浮かび上がらせる事もできなかったとか

で、そのまま廃棄するのも何なのでその船体を自宅として使う事になったらしい

戦艦での暮らしの長かったパパ達は喜んだらしいけど

ちなみにこの家に住んでもうすぐ10年になる私も全容を把握できてなかったりする

変なところで奥が深いわ テンカワ家・・・

今でもイネスママとレイナママはこの家を浮かび上がらせようと研究を続けているわ

この家が飛び上がって世界中飛び回ったらメイワクでしょうねぇ






あっと、話してる間に目的地に着いちゃったわ

ここは教会、って言っても『教会としての設備が整っている部屋』なんだけど

毎朝のお祈り、ここ数年欠かした事のない私の日課なの

これでも信心深い方なんだから

「おっはよ〜!」

「あら、おはよう 今日もお祈り?」

「おはようマイヤ、毎朝感心ね」

ここの部屋を管理しているのはシャノンママとアズマリアママ

元シスター・・・って言うか今でもシスターの格好をしている

パパの趣味だという話もあるけど真相は知らないわ

「お祈りもいいけど、宿題忘れちゃダメよ」

「は〜い」

そうそう、この2人 学校の先生も兼ねてるの

実際 勉強を教えるのはルリママとかオモイカネだから

保母さんって言った方が近いかもしれないけど

ちょっとこの辺りの話は複雑なのよね〜



テンカワ家の人間って外で狙われてるのは当然として同時に恐れられてもいるの

特にパパの子供に男の子が生まれてテンカワアキト2世が量産されたら

世界中から女性が消えてなくなるとまで言われたとか

失礼しちゃうわ!・・・否定はしないけど

だから私達はあんまり家から出ないし、学校とかも家庭内でまかなっているの

わかる? 天下のテンカワ家と言っても結構 苦労もあるのよ


余談だけどパパは女の子しか生まれないよう遺伝子治療だか改造だかを受けたとか

そんな事が可能かどうかは知らないけどイネスママがやったと言うのならホントの事なんでしょ


あっと、話が脱線したわ

お祈りお祈りと・・・


「ホント、毎朝熱心ね」

「他のみんなにも見習ってもらいたいわ」


フッフッフッそうよ私は妹達の見本にならないといけないんだから

ああっ また脱線したわ

ちゃんと お祈りしとかないと・・・


そう私は罪深くなるの

たぶん、この世の誰よりも

だから ちゃんとお祈りしなきゃダメなの

いずれ実の父親と結ばれるという大罪を犯す予定なんだから

神様、これも真実の愛なんです

愛しあう者同士が結ばれるのは至極当然なんです

だから神様、許して下さいね



ふぅ〜

今のうち先払いで謝り倒してりゃ神様も大目に見てくれるわよきっと

いや〜ん パパったら♪


「なんかクネクネし始めましたよ」

「だったら いつも通りよ放っておきなさい」











気が付けば昼だったわ

今日は日曜日という事もあっていつもより熱心にお祈りしちゃったみたいね

さて、お昼ごはんを食べに行きましょ♪




と言う訳で食堂に到着

家の中に食堂なんておかしいと思うかもしれないけど

ほら、ここは一応戦艦だから ナデシコの食堂は連合軍一おいしいと言われてたとか

パパがいるんだから当然よね

で、ここにはその頃のコックがほとんど揃ってるの

チーフだったホウメイさんは今、日本のネルガル本社の社員食堂をまかされてるから

ここにはいないんだけどね




あら、やっぱり遅かったのかな? ぜんぜん人がいないわ

調理場にはサユリママとロザミアママ、カウンターにマリアママとリタママか

マズイわね、ヘタな注文するとロザミアママ特製の『ミートせんべい』を食べる事になるわ

ロザミアママったらお掃除は得意なのに、料理はからっきしだから・・・

ここはサユリママの得意料理を注文してと

「サユリママ、チャーハンセットお願い」

「わかったわ、今日は遅かったのね」

「あはは、ちょっとね」

サユリママはホウメイさん直伝の中華を得意としているから

中華を頼めばサユリママが作ってくれるわ

「サユリさん、そろそろお昼休みにしませんか?」

「そうね、じゃ3人分作るから待っててね」

私はマリアママの隣に座って料理を待つ事にする


しっかし、相変わらずマリアママもリタママも忙しそうねぇ、ノートパソコン操作しながらゴハン食べてるわ

この2人の仕事は簡単に言えば対外政策、と言っても外交官とかじゃなく

マリアママはカメラマンとして

リタママは世界規模のベストセラー『漆黒の戦神その軌跡』で

世界中の人々にナデシコの事を理解してもらうためがんばっているの

2人のおかげでナデシコは一般には『オープンでフレンドリーな組織』として親しまれているんだから

・・・なんか見世物になってる気がしないでもないけどね、特に『漆黒の戦神その軌跡』


「あ、マイヤちゃん 何かネタないかしら?」

リタママ、義理とは言え 朝、娘に会っての第一声がそれなの?

「チャーハンセット、おまたせー」

サユリママ、ナイスタイミング♪

「ほらほら、ごはん食べながらお喋りするのはお行儀悪いわよ」

いただきますの後にそう言うと黙々と食べ始める私

「あらら、舞歌さんってカルそうだけど そういうあたり厳しいのねぇ」

そりゃそうよ、どうこう言ったところでママは木連の出身だから礼儀作法にはうるさいんだから

でも、いい機会ね 兼ねてから根回ししていた計画に一枚かんでもらいましょうか

幸い隣にはロザミアママ・・・適役だわ

フッフッフッ 私の掌の上で踊ってもらうわよママ達♪

っと、まずはチャーハンセットを片付けちゃいましょ はぐはぐ・・・




ふぅ、ごちそうさま

やっぱりここの料理はおいしいわ




さてと


「ところで、ロザミアママ」

「ふぇ、なんですかぁ?」

リスみたくほおばるんじゃありません

いつまでたっても子供っぽさが抜けないんだから・・・

って違う違う

「あんまり激しい運動しちゃダメよ、「とぅりゃぁぁぁぁ」とか言いながらモップかけるなんて以ての外」

「え?」

「だって・・・・・・・・・3ヶ月でしょ?

「はわっ!?」


フッ・・・勝った


「なななななんで わかるですかっ!?」

「なんでって、何となくわかるのよ」


これはホント、私その人が身篭ってるかどうかが直感でわかるの

自慢にもならない特技だけど、強いて言うなら経験かしら?

物心ついた時から数えただけでも20人以上の妹達の誕生を見てきたわけだし

あ、別に出産に立ち会った訳じゃないのよ


・・・ともかく、これで2人がのってくれば


「3ヶ月って・・・ロザミアちゃん あんたまさか!?」

「スクープだわ、久々のビッグニュースよッ!」


良し、のってきた


「さぁ、キリキリ白状なさい!」

「ロザミアちゃん 『母の顔』を撮らせてちょうだい!」

「はうぅ〜〜〜〜!」


ロザミアママは日頃モップがけで鍛えた足で逃げていったわ

2人もそれを追って食堂を後にする

ゴメンネ、私の計画の礎になってちょうだい

でも、さっきも言ったけど激しい運動はダメよ♪


「そっかぁ、ロザミアちゃんが2人目をねぇ・・・」


おっ、サユリママにいい傾向

ここはとっとと退散して1人で物思いに耽ってもらおうかしらね

じゃあねぇ〜


さて、お昼からは何しようかしら?


「あら、マイヤまだこんな所にいたの?」

「あ、ママ」

そこにいたのはマリナを抱っこしたママ

『まだこんな所』って・・・?

「あなたティアさんと約束があったんじゃないの?」

ティアさんとの約束、あれは確か2時・・・


ふと時計を見ると ゲッ


その直後、私が大急ぎで走り出したのは言うまでもない

なんとかギリギリ間に合ったけどティアママに

「マリナは?」

って聞かれてその場に崩れ落ちてしまったわ

そう言えば呼ばれてたのは私とマリナの2人だったのよね

絵のモデルになってくれって頼まれてたのよ



ティアママは中庭に建てられたログハウスをアトリエにして結婚後も絵を描き続けている

今も変わらぬ人気を誇る画壇の華だ

と言うか、屋内にログハウス建ってる家なんて世界中に何軒あるかしらねぇ?



まぁ、それはともかく


私はアンティークな椅子にマリナを抱っこして座った

む、マリナもずいぶん大きくなったわね

こうして抱っこしてあげれるのもあとわずかかしら?

なんか寂しいわねぇ〜


そして、しばらく無言の時間が続いた

ティアママが筆を走らせる音だけがやけに響く


正直言うと私ティアママが苦手なの

なんて言うか自分のペースを絶対に崩さない人だから

知らず知らずのうちにこっちのペースが崩されちゃうのよね

え? パパ?


断言してあげるわ、パパを操るなんて赤子の手をひねるようなもんよ


「マイヤ、顔が邪悪になってるわよ」

ティアママのツッコミが入る

あらら

「もっと、いい表情してね」

「はーい」

マリナもこころなしか怯えているわ

ごめんね、悪いお姉ちゃんで

私はマリナに、そして今までこの腕で抱っこしてあげてきた妹達に想いを馳せる


「!!」


ティアママの雰囲気が変わったわ

取り憑かれたようにキャンパスに筆を走らせてる

私の必殺技『聖母の表情』が決まったみたいね

自分の一番いい顔だと自負する妹達だけに見せる顔だ

これなら文句ないでしょ・・・って、あら?

ティアママ、筆が止まっちゃったわ どうしたのかしら?

「ティアママ・・・?」

「・・・・・・・・・」

反応ナシ

そ〜っと立ち上がりティアママの方へ向かう

下書きは・・・ほぼ完成してるみたいね


ただ、ひとつ私の顔をのぞいて




実はこの状況すでに半月程続いていたりするの

どうも、私の顔がうまく描けないらしい

・・・理由はわかってるんだけどね

問題はティアママが私の表情が一体何なのかがわかってないって事なの

実はティアママには他のママ達と違うところがひとつある

・・・それは子供がいない事

他のママ達に比べて若いからね

結構 昔から画壇を騒がせてはいたけど まだ20代前半だもの

でも、ティアママと同年代のユキナママは

17の若さで、しかもこのナデシコで『できちゃった婚』した猛者だから

一概に年令のせいとは言えないけど・・・性格かな?

いかにティアママが天才画家でも、知らない、理解してないモノを表現できる訳がない

でも これは利用できる状況ね

私の計画を進める上で都合もいいし


「ねぇ、ティアママ 『母』ってなんだと思う?」

「え?」

よし、『こっち』に戻ってきた

「私ね、ティアママは『母』を知らないんだと思うの」

「・・・マイヤちゃんにはわかっているのね」

「わかるわけないじゃない、私まだ9才よ?」

「でも、私の描けないマイヤちゃんの顔はまさにそれだわ」

やっぱり自分でも気付いてたんだティアママ

でも、解決方法がわからない

子供の頃から画家として生きてきただけあって北斗ママに負けず劣らずの一般常識の欠如っぷりだわ

「大丈夫よ、ティアママならすぐにわかるようになるって」

「・・・ありがとう、慰めてくれているのね」

そんなんじゃないってば

「簡単じゃない、ティアママも本当のママになればいいのよ!」

「本当のママ?」

「赤ちゃんを生むの」

「は?」

「だから、赤ちゃんを生むの」

あれ? ティアママ固まっちゃった

我ながらナイスアイディアだと思ったんだけど・・・


「それだわっ!!」


うわっと

突然、立ち上がり叫ぶとティアママはスキップしながらアトリエを出ていってしまった

遠くでパパの悲鳴が聞こえたような気もするけど、気にしないでおきましょう

これで私の計画も一歩前進ね




あ、モデルのバイト代はご破算かも トホホ・・・






さてと、次は道場の方に顔を出しときましょうか

そろそろホクナの稽古が始まる頃だわ


まだ6才のホクナが道場で稽古しているのはモチロン訳がある

北斗ママのスパルタ教育?

・・・まさか

あの北斗ママがスパルタなんてパパが夫婦喧嘩で勝っても有り得ないわ

確かに北斗ママは格闘家としてスイトックなとこあるけど子供にはとことん甘いんだから


・・・実を言うとね、ホクナって生まれてすぐに死にかけてるのよ『未熟児』ってヤツね

さらに北斗ママの命も危なかったとか

家族の絆を何より大切にするテンカワ家がその事態に黙っている訳がない

舞歌ママ、千紗ママ、万葉ママ、素子ママに牡丹ママ

あっ、この時 万葉ママと牡丹ママはまだママじゃなかったわね

ともかく、母親有志数名によりホクナは物心付く前から丈夫に育つようにと鍛えられたの

ちょっと手段として間違ってる気がしないでもないけど

こうして母の愛を一身に受け鍛えられたホクナは5才で昂氣に目覚めたって訳

ちなみに元ナデシコクルーを代表する武闘派ママであるリョーコママは

この時 妊娠中だったため不参加だったとか


ちなみに私が武術をはじめたのは ホクナが昂氣に目覚める半年前

がんばり屋のホクナが珍しく弱音をはいてたんで

元気付けるつもりで一緒に稽古するようになったの

今じゃホクナほどじゃないけど 結構強くなったんだから


現在、2人目を妊娠中の北斗ママは厳戒体制で入院中

これはモチロン、ホクナが生まれた時の騒動が原因だ

そのせいでホクナはロクに北斗ママにかまってもらえず

この前はボソンジャンプで過去に家出するという離れ業をやってのけた


しょうがないか、しかも今の北斗ママは実は枝織ママなんだし

本当は2人目の子供は枝織ママの子なんだって

ちゃんと、ホクナに会う時は北斗ママになっててねと頼んでおいたから大丈夫だと思うけど・・・






あっと、道場についたわ

ホクナは頑張っているかしら?




・・・あら?

ホクナ1人で稽古してるわ

おかしいわね、この時間なら牡丹ママがいるはずなのに


と思ったら牡丹ママは道場の隅の方にいた

マリアママとリタママも一緒みたいね また何か取材してるのかしら?

「ホクナ、牡丹ママ達何やってんの?」

「あ、姉様!」


にぱっ


うっ・・・まさしく『天使の笑顔』だわ

ホクナ、その笑顔 ウチのママの前でしちゃダメよ 3時間は頬擦りされるから

「ね、ねえさま くるしっ・・・」


ハッ


気付けば私も頬擦りしていたわ

う〜ん、こんな所でママとの血の繋がりを再確認するなんて・・・

これもホクナの愛くるしさがいけないのね


コホン、それはともかく


「で、牡丹ママ達は何やってるの?」

「んーと、ネタを探してるんだって」

あらら、ロザミアママだけじゃ足りなかったのかしら?

牡丹ママ達の方を見ていると向こうもこっちに気付いたみたい

「すんまへんなぁ ホクナはん 放っぽらかしにしてもうて」

「いえ・・・いいんです」

まさしく京女の牡丹ママはテンカワ家では珍しいパイロットじゃない武闘派ママだ

古風な人なんで初めて会った時は木連の人かと思っちゃったのはここだけの話




そうこう言ってるうちにホクナと牡丹ママは稽古を再開した

うーん、相変わらず強いわねぇ牡丹ママ

別に軍人ってわけでもないし、戦争にかかわってた訳でもないのに

何でこんなに強いのかしら?

素子ママも含めて家族揃って強いんだからスゴいわ



あ、マリアママとリタママがこっちを見てる

まだ ネタが足りないのね

「ねぇ、マイヤ 何かネタないかしら?」

やっぱり

「マイヤはん、そういえば前に教えてもろた計画とやらはどうなりました?」

牡丹ママがこっちに視線を向けて一言

ホクナの相手をしながら、こっちに気を向ける余裕があるなんて・・・恐るべし

計画? 今進めている計画は誰にも教えてないはず

・・・あ、あれの事か

「100人目のママが現れたら ドロップキックくらわせるってヤツ?」

「あら、おもしろそうじゃない」

「へぇ、詳しく聞かせてよ」

う〜ん、そう言われてもねぇ

「でも、あの計画もうやめちゃったわよ」

「おやまぁ、途中で諦めたらあきませんえ」

そうは言ってもねぇ・・・

「確かに、100人目が現れたら問答無用でいってやろうと思ってたわよ、でもね・・・」


言わば私の計画の初敗北だったのかも




「一度に100人以上来るのは反則じゃない?」




何よ『卒業生一同』って

昔、木星トカゲの襲撃からパパに助けられたらしいけど



「ああ、そんな事もあったわねぇ」

いや、そんな懐かしい思い出話として和まれても・・・

「みんな、すぐに結婚できなくて残念だったわねぇ」

そう、その卒業生126人はまだ全員はパパと結婚してなかったりする

ユリカママが条件をつけたのだ、ナデシコクルーの絶対条件である『腕は一流』という条件を

この場合、一家庭であると同時に一組織でもあるナデシコに貢献できる仕事を持つ事

そして奥様会議で働きが認められるとパパと結婚できるとか

今までに認められたのは17人

だから残りの109人は今はこのナデシコの一般職員ってやつなの

聞いた話によれば いまだに人材不足といえる学校関係とか

企画開発室が狙い目だとか、何作ってるかは知らないけど

「それで100人って数えるのがめんどくさくなって計画そのものを破棄しちゃったのよ」

「なるほどね〜」

「それは仕方ないかもしれまへんなぁ」

「もう破棄しちゃってるんならネタにならないわね、他にない?」

お、まだ諦めないのね

「ん〜、ひとつあるけど」

「まぢ!?」

「そうね、半月程前の話なんだけど・・・」

「ふんふん」

「あの日、珍しく早起きした私は

ママに頼まれてコンビニに買い物に行ってたの

そしたらパパの部屋から出てくる人影が・・・」

「別に珍しい事でもないじゃない」


フッ 甘いわね


「見慣れたその人影は・・・ベルナディット姉さんだったわ」

「なっ!?」

「ブッ!」

「なんですってえぇぇぇぇッ!!」

マリアママ、飲んでた缶コーヒーを吹き出しちゃったわ

リタママ、牡丹ママ揃ってムンクな顔になっている

でも、これは本当の話よ

「するってーと何? ベルナディットはアキトと・・・」

「それ以上は言うなーーーッ!!」

「アキトはんが、そんな・・・!」

「なんて言うか、姉さんイイ顔してたわ 何か大きな事をやり遂げたような・・・」

「「「あうあうあうあうあうあうあうあう・・・」」」

あ、3人そろって固まっちゃったわ

しょうがないわねぇ・・・

「? ? ?」

あら、ホクナは理解できてないみたいね

「ホクナ、ママ達も固まっちゃって今日は稽古になりそうもないから

お姉ちゃんと どっか遊びに行こっか?」

「え、でも・・・」

「いいの、いいの♪」

私はホクナの手をひいて道場を後にした

アディオス、ママ達


「ホクナ、どこか行きたいとこある?」

「んー、私 格納庫に行きたい」

「格納庫?」

あ、あれか

「ダリアね?」

「うん!」

この子ったら 前にダリアに乗って家出して以来

ダリアを乗りこなそうと必死で練習中なのよ

たぶんエステにチャイルドシートを取り付けたのはホクナが世界初でしょうねぇ

・・・ってこの前パパに言ってみたら実はすでに1人いたらしいわ

でも、その人が今、パパの奥さんやってるのはなんか納得だけど




格納庫に到着♪

さて、ホクナはどれだけ腕を上げたか見せてもらいましょうか

ってホクナ? 何探してるの?

「ママ達に見ててもらわないとダリアに乗れないの」

保護者同伴じゃないとダリアに乗れないのね

まぁ、家出の前科があるから仕方ないか

え〜と、あ、いた

「ホクナ、あそこにママ達がいるよ」

ツールボックスを台代わりにティータイムを楽しんでいたのは

アイシャママ、ライズママ、フレイママの3人、他にはいないみたい

平日なら卒業生一同の中のパイロットを目指す訓練生達がいるんだけど今日は休日だしね

ちなみにアイシャママとライズママは現役パイロット

フレイママはパイロットは引退してるんだけど教官として訓練生をビシバシ鍛えている


「あら、ホクナちゃん 今日も来たのね」

「あ、あの・・・お願いします」

おずおずと前に出るホクナ

ああ、かわいいわホクナ

ね、ライズママもそう思うでしょ?

「・・・・・・・・・」

相変わらず無口ねぇ

でも、目を逸らしてるのは照れてる証拠ね

「・・・それじゃ、いきましょう」

ライズママは真っ赤な顔を隠すようにエステに乗り込んだ

アイシャママはダリアに取り付けられているチャイルドシートのベルトをチェックしている

いくら北斗ママが今乗れないからって付けっぱなしでいいのかしら?

いや、ホクナが乗りたがってるんなら北斗ママは2つ返事で許すわね確実に



フレイママがハッチを開きライズママのエステとホクナのダリアは飛び立っていった

アイシャママの指示の元、並んで練習飛行をしている

その間 私はフレイママと和やかなティータイム♪

フレイママも普段訓練生の相手してるだけに休みの日にまで教官をする気はないみたい

やっぱりライズママの操縦と比べるとまだまだね

ライズママに付いていくのがやっとみたい

・・・いえ、それとなく手加減してるわねライズママ

はぁ、ホクナはまだまだって事ね

がんばりなさいホクナ、でも過去に跳ぶのはダメよ


さてとホクナの練習が終る頃には夕ご飯かしらねぇ?






でもって夕ご飯

ホクナとはここでお別れ

北斗ママの病室に行って夕ご飯を一緒に食べるらしいから


さすがにこの時間になると人が多いわね

あら、マリアママとリタママ復活してるわ

取材の矛先をセシリアママに変えたみたいね

でも・・・あの人から情報を引き出せるかしら?


セシリアママはただの購買部の責任者でありながら『グレートマザー』の異名を持つ

なにせ戦争に直接関係ない位置にいながらウチのママの次

つまりナデシコクルーより先にパパと結婚したんだから

ナオおじさんに聞いたところによればセシリアママは戦争中の頃からアキトパパの愛人だったとか

まだ独身だってのに『愛人』ってのも変な話だけど西欧時代のパパの逸話を聞いていると納得できるわ

詳しくはリタママのとこで出版している『漆黒の戦神その軌跡』を読んでね♪


話が逸れたわね


それで、どうして『グレート』なのか

今のテンカワ家が世間一般から見てヘンってのはみんなわかるよね?

その礎を作ったのがセシリアママ

聞いた話なんだけどその頃のベルナディット姉さんはいぢめられてたらしいの


あ、さっきも名前が出たけどベルナディット姉さんってのはセシリアママの連れ子で

戸籍上は次女だけど年令は姉さんの方が上なの


理由はパパが『漆黒の戦神』だと言っても信じられなかったからとか

仕方ないわよね、その頃のパパは『漆黒の戦鬼』っていう物騒な2つ名だけど先行して

その実体については てんで知られてなかったそうだから

ナオおじさま曰く「戦鬼に人の親の情があるなんて信じられなかったんだろうなぁ」って

西欧時代のパパを知り尽くしたナオおじさまならではってヤツかしらね



それで、セシリアママがどうしたかっていうと

これがまた見事、パパに相談しに行ったのよ

え、どこが見事だって?

あのね、ウチのパパがそういう話聞いてほっておけると思う?


私は思わないわ


パパはセシリアママとも結婚する事になったの

たぶん私がセシリアママの立場でも同じ事してたでしょうね

確信犯だったかどうかはわからないけど


その後、ベルナディット姉さんの授業参観に行ったらしいわ

当時のクラスメイトも驚いたけど、それ以上に驚いたのは世界中のマスコミだったとか

あの頃のパパは行方をくらませて日本の九州方面軍の軍人とかどこかの女子寮の管理人とかしながら潜伏してたからねぇ

で、まぁ この事がすでに舞歌ママと子供(私の事よ)がいて

半ば諦めモード(もしくはヤケモード)に入ってたユリカママ達に火をつけて

それから半年の間にパパは20人以上のお嫁さんをもらう事になり

言うまでもなく今でもそれは増え続けているの


わかった? セシリアママが『グレートマザー』と呼ばれる訳


おそらく、マリアママとリタママの話はベルナディット姉さんの事だろう

・・・近付くとマズいわね ここは傍観するに限るわ




えーっと、どこで食べようかなぁ

あ、牡丹ママも復活してる

素子ママも一緒みたいね

「やっほー 牡丹ママ大丈夫?」

「あら、マイヤはん 先程はお見苦しいとこお見せしてしもて すいまへんなぁ」

「いいってば そんな事」

「あれは 今まで生きてきた中で2番目にショックな事でしたわ」

「1番目は素子ママに結婚 先越された事ね」

あら、また固まっちゃったわ

素子ママも固まってないけど真っ赤になっちゃってる、純情ねー

牡丹ママの実の妹である素子ママは動き出すまでが遅いんだけど動き出したら純情一直線

聞いた話だとパパが日本に潜伏してた時、同棲してたそうだけどホントかしら?

そこまで大胆な事できるとは思えないんだけど・・・

でも、パパが日本からこっちに戻ってきた後、日本からパパを追ってこっちにきて

そのまま結婚しちゃったって話しだからあながち嘘じゃないのかもね

ちなみに牡丹ママが結婚したのはその2ヶ月後

素子ママが実家の方に送った結婚報告のハガキを見た直後 西欧に来たらしいわ


「ああ、あきまへん こんな事では・・・」


牡丹ママ復活、今度は早かったわね

そのまま目を瞑り深呼吸して精神を集中させている

はやく食べないとご飯冷めちゃうわよ

「姉上は明日試合があるのだ」

素子ママも復活、試合って?

「何か賭けているらしいが詳しい事は知らん」

パパとのデート権とかかしら?

「素子ママは参戦しないの?」

「姉上の剣と光る拳の間に割って入ろうとは思わん」

あ、誰だかわかっちゃった相手の人・・・


「マイヤちゃん、ちょっといいかしら?」

いつのまにやら背後に迫るマリアママとリタママ

なんか顔が怖い・・・

セシリアママはどうしたの?

「セシリアさんから聞いたんだけど・・・」

「マイヤちゃん、私達に隠して何か企んでいるらしいわね」


ぎくぅっ!!


さすがセシリアママ、気付いてたのね

しかも2人の追求から逃れるために私をスケープゴートにしたわね

「さぁて、キリキリ白状してもらいましょうか」

「話してくれるわよね、マイヤちゃん?」

くっここまでのようね・・・

「「「「第2次ベビーラッシュ計画ぅ?」」」」


ああ、周りでご飯を食べていたママ達の耳がダンボになってる

「ほら、妹達も大きくなってきたじゃない

だからそろそろ子育ての苦労を味わってもらおうかなぁって」

「子育ての苦労って・・・」

「だって、ママ達 赤ちゃんのめんどうみないじゃない ずっと私がめんどうみてたんだから」

「「「「うぅ・・・」」」」

心当たりがあるだけに何も言えないママ達




「と、とにかく! それなら今の問題はベルナディットちゃんの方ね・・・」

「マイヤちゃんの計画は問題ないみたいだしカスミちゃんに相談してみましょ」

そう言ってマリアママとリタママは食堂を出ていってしまった


 

カスミママは父親が有名な政治家でテンカワ家においても

エリナママと一緒に外交官の仕事をしているの

でも、あくまでその仕事はバイトだと言い張ってる

もしかして官僚って仕事がいやなのかな?

それとも何かこだわりがあるのかしら・・・?






そして私はそのまま『第2次ベビーラッシュ計画』発言で騒然となった食堂を後にした

これで、私の計画はほぼコンプリートね

偶然とはいえ、みんなに計画の事を話せたのはよかったわ

均衡が崩れれば 皆こぞって2人目をつくろうとするはずよ











「へぇ、今日はそんな事があったの」

家に帰ってママに今日の事話したら大笑いしてくれたわ

私に抱っこされてるマリナもこころなしかうれしそう

マリナ、あなたもお姉ちゃんになるのよ

「あのコ達、妹が生まれたら ちゃんとめんどうみれるのかしら?」

「大丈夫でしょ、私の妹よ?」

「そうよねぇ、みんなあなたに懐いているものね」

「とーぜんっ! ママ達より私の言う事聞かせる自信はあるわよ」

「・・・・・・・・・」

どうしたのママ?




「フッ・・・甘いわね

なんですと?

「あの子達がちゃんと赤ちゃんのめんどうみれない時 まず最初に誰を頼ると思う?」

「え、そりゃモチロン・・・・・・ハッ!


「大好きなお姉ちゃんを頼るのは目に見えているわね〜」


そ、それは・・・


「子育ての苦労を味あわせるって

結局はあなたがめんどうを見る事になるわよ」


ガーーーーーーンッ!!


「未熟者・・・まぁ、あなたの本当の目的は果たされるだろうから いんじゃない?」

そう言い残し去っていくママに

私は何も言えず固まっているのでした・・・




おわる



あとがき


まずは

漆黒の戦神アナザーシリーズの生みの親である

黒貴宝さん

そして

神威さん

encyclopediaさん

昴さん

ペテン師さん

それぞれのキャラの使用許可ありがとうございました


同時に

今までの漆黒の戦神アナザージリーズのキャラオールスターを企画しておきながら

結果として1人1人の出番が少なくなってしまって申し訳ありません

私の力ではこれが限界でした


ではおまけでは本編で出番が少なかったカスミをどうぞ

マイヤ一人称ではどうしても限界があったので・・・

言わば本編の種明かしです




オマケ


「はぁ、ベルナディットちゃんが?」

マリアとリタの話を聞いたカスミの第一声がそれだった

そりゃそうだろう

「するってーと、何? ベルナディットちゃんはアキトとの結婚を狙っていると?」

「そうとしか考えられないじゃない」

「別に不思議でも何でもないわ、あのコがアキトと出会った経緯は私達とたいして変わらないし

当時のあのコの年令、ラピスとどっこいよ 別に不思議な話でもないわ」

「いや、そうかも知れないけどさ・・・今は親子でしょ?」

「そうよねぇ・・・」


しかし、カスミはここである重大な事実に気付いた


「ない・・・」


「どうしたの?」

「なにか書類でもなくしたの?」

口々に言うマリアとリタ

しかし状況はそんな甘いものではなかった

「ないのよ! アキトとベルナディットちゃんが結婚できないっていう法律が!」

「「!!!!」」


実はこのナデシコには法律というものがなかったりする

ナデシコが独立国家として旗揚げした時 作らなかったのだ

「別に必要ない」と


今までも何かを決めなければいけない時は家族会議で投票して決めていた

有権者はテンカワ家の人間全員だ


「べ、別にいいじゃない法律がなくても家族会議で否決すれば・・・」

「ウチのコ、アキトと結婚できるってなったら喜んで賛成するんじゃ・・・」

「セシリアさんも賛成しそうよ・・・」

リタは必死に前向きに考えようとするが

マリアとカスミに現実を指摘される


「は、母としてはみんな認めないでしょ、ティアさんとこも子どもいないし

ラピスのとことかもまだ生まれてないんだから多数決で勝てるわよ!」

「ティアさん、さっき会ったけど 子どもつくるって張り切ってたわよ」

「それより、マイヤちゃんの計画が発動しちゃったら 子どもの人数が単純計算で私達の倍になるんだけど・・・」

「!!」

カスミが重大な事に気付き、同時にもう1つの事に気付いた




「・・・・・・・・・これは、マイヤちゃんの遠謀?


大正解


なんとマイヤはベルナディットの事を知った時から

家族会議での投票に勝つために第2次ベビーラッシュを計画し

母親達に悟られぬよう深く静かに根回しをしていたのだ


「あああ、これでまた外に知られてはならないナデシコの秘密が増えたぁ〜」

カスミは頭を抱える

ナデシコの外交を担う身としてテンカワ家の非常識さは悩みのタネだ


一方、マリアとリタは


「(・・・・・・こりゃ、記事にできないわねぇ)」

「(次の『漆黒の戦神その軌跡』どうしましょ?)」


あくまで仕事一筋だった

逞しい母親達に乾杯♪



管理人の感想

 

 

別人28号さんからの投稿です!!

桁が上がってるぞアキト(笑)

それより、よく養っていけるな〜この大家族を(家族の範疇を超えている気もするが)

まあ、母親も頑張って働いてるから、ある意味共働き?

・・・に、なるのか?(汗)

しかし、これだけの嫁さんを一人で相手にするとは。

あらゆる意味で恐るべし、テンカワ アキト(爆)


それでは、別人28号さん投稿有難うございました!!

 

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