「たぁーく、あの セクハラおやじがぁ・・・」


夜道を歩く酔っ払い1人

ただし、くたびれたサラリーマンなどではない

モデル顔負けの美女、名をハルカ ミナトと言った


ろれつがまわってないわりには 足取りはしっかりしたもので

タクシーを呼び止める事無く 夜風にあたりながら帰宅するつもりだったようだが

運命の女神というものがいるかどうかは知らないが

彼女が何事もなく家に帰り着くことは許されなかった



「ん〜?」


ミナトはフト足をとめ横の公園に目を向ける

昼ならば待ち合わせ場所として人も多いであろう噴水の真上に巨大な光の玉が浮いている


「でっかいホタルね〜」


その光が徐々に収まっていき 完全に消えたかと思えば

今度は豪快な水しぶきをあげて 1人の青年が噴水の中に落ちた


「!?」


それを見たミナトは その青年に駆け寄り




「こらぁ んなとこで寝てると風邪ひくわよ〜!」

その前に溺死します






アルコールのまわりきったミナトは状況が理解できていなかった



機動戦艦ナデシコif

case4. ハルカ ミナト

前編



チュン チュン・・・


ベランダから聞こえてくるスズメの声


「うーーーん」


その声を目覚まし代わりに起きるミナト

そこが自分の寝室でない事に気付き 状況を理解しようと寝ぼけた頭で情報を集め出す




ここは・・・私の家よね リビングだけど

服は・・・あちゃ、昨日のスーツのままだわ シワだらけ〜

クンクン うっ しかもお酒くさ〜い こりゃ洗濯しないと



どうも 昨日の晩 家まで辿り着く事はできたが 寝室まではもたず

リビングのソファーをベッド代わりにスーツのままで寝てしまったのだろうか?




「シャワー浴びなきゃ 会社に行けないわねぇ」


とりあえず スーツの洗濯は後回しにして お酒の匂いをおとすためにシャワーを浴びる事にする

今日も仕事があるのだ 二度寝といきたいところだが そうもいかない






「ふぅ〜 さっぱりした〜」

シャワーを浴びてバスタオル1枚の姿でリビングまで戻ってくるミナト

家族や同居人がいれば遠慮もしようが あいにくと彼女はきままな1人暮らしだ

「あ、この前買ったブラつけてこっかな〜」

そのまま 着替えの置いてある寝室へと入ってく

鼻歌混じりに今日の下着を選ぶミナト






「うっ・・・こ、ここは?」


アキトが目を覚ましたのは丁度その時だった


「へ?」




ミナトの寝室のベッドの上で


「きゃあぁぁぁぁぁッ!!」


ミナトの悲鳴がマンション中に響き渡った











「ゴメンなさいね・・・大丈夫?」

「ま、まだちょっとクラクラしますけど 大丈夫っス」

「あの、私 ハルカ ミナトって言うの あなた 名前は?」

「テンカワ・・・テンカワ アキトです」






隣室に住む奥さんが駆けつけてきたので「ゴキブリが出た」と言い訳しているうちに冷静になったのか

じょじょにだが昨日の出来事が思い出されてくる

ミナトは昨日 噴水の中に沈む青年 テンカワ アキトを家に連れて帰ったのだ

1人暮らしの部屋に男を連れ込むのは躊躇われたが さすがにあの状況で放っておく事もできない


家に帰るとアキトの濡れた服をひっぺがし体を拭いて自分のベッドに放り込むと

しまっていた毛布を出して さらにその上に被せる

しらふになって思い返せば随分と大胆な事をしたものである




しかし、家のカギだけは忘れずにかけておいてよかった

裸同然の姿のまま寝室に2人いるところを見られたら 何と言いふらされたか・・・

隣室の奥さんの話好きは近所でも有名だ




「あ・・・」

「どうしたの?」

真っ赤になって俯いてしまうアキト

ミナトはフト 下を見て

「あら」

何時の間にか自分の体を覆っていたバスタオルが床に落ちている事に気付き 慌てて拾い上げる


「あの・・・スイマセン」

「ほら、昨日は私が君の裸見ちゃったワケだし おあいこ ね?

だから 男の子が そんな顔しないの ほら私 着替えるからリビングの方で待ってて」

その様子に 決して悪い人ではなさそうだと判断したミナトは子供をあやすようにアキトに言い聞かせると

自分も着替えなければいけないので アキトにリビングの方に行くように促す

「はい、それじゃ・・・」

「! このバスタオル巻いていきなさい!」

その時になってミナトは 昨日アキトの服をひっぺがしたままだと気付いた

アキトを呼び止め 手に持ってたバスタオルを渡そうとする

「うわっ!」

その時、バスタオルを受け取ろうとして またもやミナトを見てしまったアキトは

それこそ トマトのように顔を真っ赤にして部屋を駆け出していった



「かわいいわね〜」

そんなアキトを見ながら苦笑するミナト

自分も裸を見られたというのに上機嫌で着替えはじめた






「おまたせ〜 とりあえず このシャツ着といてくれる?」

ミナトがデザインが気に入って買ったがサイズが合わず着れなかったTシャツを持ってリビングに入ると

「・・・・・・・」

アキトは腰にバスタオルを巻いて微動だにせずソファに座って待っていた


「覗きにはこなかったみたいねぇ 感心感心♪」

「そっ そんな事しませんよ!」

アキトはまたもや真っ赤になって否定する

「あら、そんなに私って魅力ない?」

「い、いえ そんな事は決して・・・!」

ちゃんと服を着て余裕ができたのかミナトはからかいモード全開だ

しかし、これ以上 からかうのもかわいそうなので シャツを手渡してあげる


「ふふっ まぁいいわ アキト君の着てた服は洗濯しとくから

終わったらそっちに着替えといてね 30分ぐらいで終わるはずよ」

「あ、はい」

ミナトが時計を見ると いつもの出発時間はとうに過ぎている

「それじゃ 私は仕事に行ってくるから 寝室覗いちゃやーよ♪」

「あの ミナトさん 俺・・・!」

「そうだ アキト君 私のハダカ2度も見た罰」

「・・・・・・・・・」

ゴクッと喉を鳴らすアキト 1、2発叩かれる事は覚悟していた

しかし、ミナトは微笑み こう言う

「今日の晩御飯 作っておいてくれる?」

「え?」

「事情は夜に聞くから ちゃんと食べられるのお願いね、冷蔵庫の中のは好きに使っていいわよ

勝手にどこかに行っちゃったら お姉さん怒っちゃうんだから」

「は・・・はいッ!」


「それじゃ いってきま〜す」

「いってらっしゃい!」

足取り軽やかに出掛けていくミナト 大胆というか何というか・・・

まぁ、今までのやり取りで アキトの人間性をある程度見抜いたのかもしれないが











「やぁ ミナト君 君が遅刻するとは珍しい、やはり昨日 僕の車で送るべきだったかな?」

「げっ」

10分遅れで息を切らして出社したミナトを待ち構えていたのは蔵人 ダイゴ

ミナトの勤めるこの会社の社長の1人息子 そして典型的な阿呆の二代目といったところだろうか

「君が来ないから心配してたんだよ」

いやらしさの張り付いた顔をにやけさせ やけに馴れ馴れしく肩に手をまわしてくる

ミナトがカバンをどこに叩き込んでやろうかと目標を探していると

「ミナトー! 遊んでないで書類整理手伝いなさいっ!」

向こうから聞こえてくる声

「あ、私 仕事がありますので」


ごす


助け船が入ったのを幸いと

とりあえず脇腹にひじ打ちを決めてから その場を離れるミナト

よほどキレイに入ったのか しばらくむせていたダイゴはやがて立ち上がり




「フッ・・・流石だよミナト君 それでこそ僕のハニーだ」

まだ痛むのか脇腹を押さえながらカッコつけるその姿は間抜けだった






「ありがとう、助かったわ はるか」

「いいのよ しっかし あの男もしつこいわね」

先程 ミナトに助け舟を出したのは湊 はるか

ミナトとは名前が似ているという縁で知り合った10年来の親友だ

現在は 同じ秘書課で働いているのだが いまだに中学生と間違われる幼児体型が悩みのタネらしい

好対照の2人だが こうして10年間仲良くやっているからには 何かしら通じるモノがあるのだろう




ミナトの最近の勤務時間は ダイゴのアプローチをかわす事に費やされている

それゆえ 社長秘書の身でありながら ダイゴが待ち構えている社長室には姿を見せないのだが

このあたりは はるかが秘書課を総動員してごまかしてくれているとか




「ミナト もてるわね〜」

更衣室で制服に着替えていると 隣のはるかがからかうように言ってくる

対しミナトはジト目で

「だったら代わってあげましょうか?」

と、返すが しかし はるかは笑って

「あんたが あのバカ息子とのケリつけたら考えてみるわ」

と切り返した 流石のはるかも あのダイゴを相手にするのは嫌らしい




その後、ミナトはいつも通り はるかから片時も離れる事なく共に行動し

定時の5時が過ぎると同時に そそくさと帰ってしまった


「やぁ、ハニー♪ おいしいフレンチの店を見つけたんだけど・・・あれ?」


ダイゴが花束片手に秘書課に乗り込んできたのは 5時3分

ギリギリの勝利であった






「ふぅ〜 しつこいったらありゃしない!」

ぼやきながら帰路につくミナト

さすがにこの時期 定時に帰宅する人は少ないのか 人通りもまばらだ

ミナトも昨日と違ってしっかりした足取りで駅に着くと空いた電車に乗って座席に座る

「あ〜 明日もアイツの相手しなきゃなんないなんて・・・気が滅入るわ」

そして もう一度ぼやく



このままではいけないと 何かプラス方向の事を考えようと思考の海に沈むと すぐに あるモノに辿り着いた

「あ、アキト君が 晩御飯作って待ってるんだ・・・ふふっ どんなの作ってるかしら?」

今朝、正確には昨日の晩だが 出会ったばかりのアキトの事を思い浮かべる

ミナトの中では 彼がどこかに行ってしまってるという可能性は無視されているらしい

「ちゃんと 食べれるの作ってるかしら? カレーぐらいならできると思うけど」

ミナトは知らない アキトが元々コック志望であった事を






「あ、おかえりなさい ミナトさん」

「・・・・・・・・」

帰宅したミナトを待っていたのは 笑顔で出迎えるエプロン姿のアキト

そのエプロンは当然自分のだが 自分がつけているよりも似合っているような気がするのは

気のせいとして 丁重に無視するとして

このズラーーーっと並べられた料理はなんだろう?


「・・・これ、アキト君が全部作ったの?」

「ええ、ちょっと張り切りすぎちゃいました」

そこに並べられた料理は 到底2人で食べきれる量ではない

「(とりあえず 今日中に食べなきゃいけないの片付けて 残りは明日のお弁当にしてもらいましょうか)」

そんな事を考えながらも 食欲には勝てないらしく ミナトは早速夕食にしようとカバンをソファの方に放り投げた






「・・・おいしい!」

「ホントですか!? よかったぁ・・・」

おずおずとミナトの様子を窺っていたアキトは ミナトの反応に安心したように言葉をもらす

「これ、ホントにおいしいわ どこで習ったの?」

「あ、俺 火星いた頃はコック目指してたんです」

「火星? ・・・詳しく聞きましょうか?」

「・・・・・はい」

ミナトは少し真剣な目になってアキトの話を聞く体勢に入る

「・・・これも おいしいわねぇ」

食事をとる手を休める事はなかったが











「なるほど、大変だったのねぇ・・・」

食事が終わる頃には話も一段落し ミナトはアキトにいれてもらった食後のお茶を飲みながら呟く

アキトがどういう方法で地球に来たかはわからずじまいだったが

ミナトは 火星ではワープの研究でもしてたのだろうと解釈した




ミナトは 言うべき事を言ったら火星の事を思い出したのか俯いてしまってるアキトを見る

「・・・・・・・・・」

比較対象を探してみても バカ息子しか思い浮かばない自分の脳みそにちょっぴり嫌悪感を抱きながらも

ちょっと 2人を比べてみる






そして、答えは出た




「アキト君 地球に親戚とかはいるの?」

「・・・いえ、俺 孤児でしたから」

「そう・・・」

「・・・・・・・・・」


「よし、決めた アキト君 家にいていいわ

「え?」

「行くとこないんでしょ? 家に住めばいいわよ」

「ミナトさん・・・」

「その代わり、お料理はアキト君にまかせちゃうからね♪」

「は、はい!」

アキトに負い目を感じさせないためか おどけてみせるミナト

とりあえず 今の彼女の頭は

「(・・・どうやって 隣の奥さんごまかそうかしら)」

この問題で埋め尽くされていたという




それはともかくとして

こうして 2人の同居生活がはじまる事になったのだ





















それから数日たった ある日の会社の更衣室


「ねぇねぇ ミナト」

突然 にやにやとネコ科を髣髴とさせる笑顔のはるかが話しかけてくる

「何?」

「あんた 若いツバメ囲ってるってホント?」


ブチッ!


思わずはずそうとしていたボタンを引きちぎってしまうミナト



「・・・あんた、どこで んなウワサ聞いたの?」

ブラウスの前を全開にしたまま ギギギとはるかの方を向いて問いただすミナト

「え〜と、誰だったかな? あんたと同じマンションに住んでるコが

あんたの隣に住んでる奥さんから聞いたそうよ?」

「・・・そう」

確かに あの日以降 アキトの服とかも用意しなければならなかったし

2人で出掛けた事など 何度もあるから バレてないハズはないと 覚悟はしていたが・・・

「ホントなのね?」

ズズイと顔を近づけてくるはるかの剣幕に思わず首をコクコク縦に振るミナト

しかし、抜け駆けしててっきり怒るかと思ったはるかはフッと笑い

「そっかぁ、あんたにもとうとう春が来たか どこぞのバカ息子にも教えて諦めさせたら?」

「春って・・・アキトとは別に そんな仲じゃ・・・」

「アキトって言うんだ? 今度 紹介しなさいよ」

珍しく顔を真っ赤にするミナトに満足気に頷きながら 更なるからかいモードに入るはるか

なるほど 10年親友やってるだけあって こういうあたりが似てくるらしい


「!?」


しかし、次の瞬間 はるかはある事に気付き ミナトのある一部を凝視する

「はるか?」

「・・・・・・・・・ミナト」

「な、何?」

悪い予感がしながらも返事するミナト



「また・・・おっきくなった?

はるかの視線の先には 先日アキトと買い物に行った時に買ったモノが

その売り場にアキトを連れて行ったら 真っ赤な顔を上げる事ができなくなったのを覚えている

「え、ええ・・・ちょっとね」

「・・・・・・・・・そう」

「はるか?」

「・・・・・・・・・・・・」




嵐の前の静けさとはこの事か

しかし、次の瞬間




「おのれミナト!

若いツバメに揉まれたかぁーッ!!」

「ちょっ 何言ってんのよ!」

突如 魂の咆哮をあげるはるか ミナトは慌ててそれを止めようとするが


ギンッ!


音がするぐらいに睨まれ その剣幕に何も言えなくなってしまう

そしてはるかは 今度は突如泣き崩れ


「ヒドい! ヒドいわミナト!」

「な・・・何が?」

「育つも垂れるも一緒と2人で誓った仲なのにッ!!」

「何よそれは!」

それは永遠の謎である











そんな2人の様子を窺う影1人


「フッ・・・ハニーにまとわりつく悪い虫がいたとはね・・・」

バカ息子ダイゴ 何故彼が2人の様子を窺えるかは謎だが




「何やってるんですか?」

「ん? あ、いや、これは・・・・・・・・・そう! 君達ごときは見てないよ?




いつのまにか背後に迫っていた 秘書課の人間に囲まれ

直後 第48回 バカ息子タコ殴り大会が開催され

更衣室の隣の壁に開いた用途不明の風穴はその日の内に埋められたとの事である






続かない・・・って言ったら怒ります?



あとがき


お待たせしました ifシリーズのcase4.です

掲示板の方で 誰がヒロインかといろいろ予想されていましたが

答えは ド本命のミナトでした これは当初から決まっていた事です


第3回人気投票のカップリング部門の発表を見てください

あの場面で 何故 case5.のヒロインは明かされているのに4は明かされていないか?

それは、その時ゲストのミナトこそがヒロインだったからなんですよ


でわでわ 後編をお待ちください



 

 

代理人の感想

 

第48回ですか〜。

ウチの会社でも定例にしてくれないかな〜。

 

・・・・・あ、いや、こっちの話です(爆)。

 

 

時に、二十一歳と十七歳でも「若いツバメ」なのでせうか(爆)?

どうも「若いツバメ」というと、対するの中年女性でなければならないような気がして(核爆)。