機動戦艦ナデシコ アナザーストーリー

 

世紀を超えて

第2話 時の歯車は外れた

 

 

 

数ヶ月の時が流れた。アキト達の潜伏生活はそこそこにうまく行き、全ては過去の話となりつつあった…。

…だが、  

…彼を良く知るものたちが、  

…彼を放っておく訳が無かった…。      

「アキトさんは必ず何処かで生きています。」  

凛とした声で言い放つホシノ・ルリ。  

「でもねぇ…、あれで生きてるとは思えないんですけどねぇ…。」

「そうです!」   「まっ、艦長の好きなようにさせてあげますか。」

「ええーーーっ!?」  

サブロウタとハーリーである。  

そこにイネス・フレサンジュが現れて、突然語り出した。  

「説明しましょう!!」  

「「「は?」」」  

気にせず続けるイネス。  

「あの戦闘の後、残骸の中からユーチャリスの重要な部分は一切見つからなかったわ…。

 さらにアキト君やラピスの遺体も発見されていない。…つまり、」  

「あの人は生きている…。と?」  

「ハーリー君。随分と残念そうですね…。(激怒)」  

「…。」  

なんだか恐ろしい雰囲気になったブリッジを逃げ出したサブロウタは一言。  

「やれやれ、また一騒動起きそうだね…。まったく。」  

 

…。  

 

だが、事態は『一騒動』では済まなかった…。

それから暫くして驚くべき命令がナデシコCに下ったのだ。  

 

 

「テンカワ・アキトを…全宇宙に指名手配する!」  

…ミスマル・コウイチロウ提督、苦渋の決断であった…。  

 

…。  

 

……。  

 

「…とうとう、お義父さん…いやミスマル提督にも見捨てられたか…。」  

「…アキト・・・?」  

この話は、即座にアキトの耳に入った。

当初ネルガルと決別したときはどうにかなるだろうと思っていたアキトであったが、

犯罪者として指名手配されるとなると話が違う…。

どんなに頑張ってもDNA検査から逃れられる自信は流石に無かった。  

「…もう、終わりにしようか…。」  

ふと、そんな弱音が口を突く。

そして傍らの少女をじっ…と見つめていたが、何を思い立ったのか、通信機をいじり始めた。  

 

 

 

……。  

「アキトさんの居場所が分かったんですか!?」  

「はい!統合軍の巡視艇に拿捕されたそうです…まさかこんなにうまく行くとは思いませんでしたよ…。」  

「げに恐ろしきはミスマル提督…か。まったくすごい人だね。」  

そう、全てはミスマル提督の作戦であった。

…まず指名手配する事によって身動きを封じる。同時にそれはミスマル家からの絶縁状でもある。

その後じわじわと捜査を厳しくしていけば何時か音を上げる…そんなシナリオ。

…もっともこんなに早くだとは思っていなかったが

 

…。

 

やはりラピスの事が彼にとっては自分より重大だったのだろう。

と、いう訳でルリは上機嫌だが、余り面白くないハーリーは、  

「いずれにせよ、行くなら急ぎましょう・・・。」  

…仏頂面であった。  

「裁判があるから統合軍もめったな事は出来ないでしょうし・・・。」  

「じゃ、ゆっくり行って…。」  

「はい、統合軍の仕官さんにイヤミでも言われていればアキトさんも反省するでしょう。」  

「何にせよ…めでたしめでたし…か。」  

 

…。  

 

……。  

 

この僅かな差が…明暗を分けた。  

 

……。  

 

「ふうむ。これが例の凶悪犯か…。思ったより普通じゃないか。」  

統合軍の仕官は検分のためにブリッジまで上がりこんでいた。  

「…しかし真っ黒で飾り気の無い服だな…お前センスないだろ?」  

アキトはもうどうでも良いといった感じで椅子に腰掛けている。

そこにテレビカメラが持ち込まれる…クリムゾンの息の掛かった局だ。  

「犯人の所有する船の中から生放送でお送りします!!

 いやー、艦長さん!お手柄ですね。コロニー連続爆破犯逮捕!!スクープ中のスクープですよ!!」  

「…は!?私はネルガルの倉庫を爆破した男を追ってここにいるのだが!?」  

「ええっ!!」  

…どうやらクリムゾンはそっちのほうでの指名手配と勘違いしたようだ。  

「…少し話を聞かせてもらえるかな?」  

「ア、エーと…その、上司のほうから指示が…」  

 

…。

 

「…この男達を連れていけ!」  

ざっざっざっ……哀れテレビクルーは全員連れていかれた。  

「…ふむ。しかしこれは好機。…この男があの…?」  

仕官は何気なくアキトのバイザーを外す…。

顔が見たかったのだ。  

「…凶悪犯とはこういう顔をしておるのか…。」  

しげしげとアキトを眺める士官。アキトは動かない。  

…ぐい  

「ん?子供・・・?」  

ラピスが仕官の服のすそを引っ張っていた。  

「…ソレ、返して……」  

「ん、このサングラスか?」  

コクリ  

「ふんふん…ほうれ、取れたら返してやるぞ。」  

ユラユラ…  

仕官はしゃがみ込み、バイザーをラピスの手が届くか届かないかの所でユラユラさせた。

…別に意地悪したわけではない。少し遊んでやろうと思ったのだ。

だが、相手によってはソレが通じない場合もある。  

ひょい…ぴょん…ぴょん…スカッ…。  

ラピスはアキトの『目』を取り戻そうと必死だった。  

 

…!!  

 

「痛!!…この…!!」  

ラピスはスキを突いて統合軍仕官に噛み付いた!  

「…私はアキトの目…アキトの耳…アキトの…」  

息を切らせ、涙目で呟くその手にはバイザーがしっかりと収まっている。  

そんなラピスの必死さは仕官には届かなかった。

 

ただ…  

 

「…なんなんだこの子は…一体親は何を教えていたんだ?」  

仕官のそのコトバにキッと睨み付ける事で答えるラピス。  

 

…カチン  

「さっきから、優しくしていれば突けあがって!!」  

さっと手を振り上げる仕官。縮こまるラピス……。  

 

その時、後ろの影が動いた…。  

ガシッと手を捕まれ、ギョッとして振り向いた仕官が見たものは…。  

顔が緑に輝く…修羅の如き形相の男であった。  

「消え去れ…。」  

ただ一言。

そして、  

ブン!!

…無造作に投げ飛ばされた仕官は壁に叩き付けられ、ヨタヨタと逃げ出した…。  

・・・。  

…静まり返る船内。  

「なあ、ラピス。」  

床に座り込み天井を見上げながらアキトが呟いた。  

「…アキト?」  

アキトにバイザーを掛けながら答えるラピス。  

「オレにはこの宇宙に居場所なんてもうないのかもな。」  

「…。」  

「ネルガル…提督…皆俺を見捨てた。…次は誰だ。ルリちゃんか!?ユリカか!?

 …それとも…ラピス。お前か!?」  

アキトには休息が必要だった。ラピスはそれを見越したのだろうか。

無言で船を発進させた。

そして、  

「アキト…ワタシは何時でも側にいるよ…。だから、カナシイことは言わないで………。」  

…今のアキトにその言葉は届いたのだろうか…?  

 

ズズー−ン・・・!  

 

…船体が揺れる。統合軍巡視艇の攻撃だ。

…ラピスはそっとアキトを見ると、  

「アキト…ドコか遠くへ行こう…。誰も知らない場所へ…。」  

「…そうだ…な。行きたいな…俺のことを誰も知らないような所へ…。」  

 

…。  

 

……。  

 

巡視艇の攻撃がエンジンを貫いた…。そしてアキト達は消えた。

残骸すら…死体すら…爆発すら残さず消えた…。  

 

…ランダムジャンプ。   あの仕官にはその知識は無く…。  

 

『コロニー爆破犯爆殺!

     裏に見え隠れする大企業の人体実験!!』   そんな記事が新聞の一面に踊った。      

 

 

 

 

−−−半年後 ナデシコC−−−  

「色んなことがあったわね。」  

そう、本当に色々あったのだ。

…あのテレビクルー達の(自白剤による)供述により、イモズル式に本当に沢山の人間が捕まった。

…あの仕官は上からの命令に屈せず、全てを調べ上げてしまったのだ。

一連の争いと人体実験の関係者達…クリムゾン会長、他クリムゾン上層部、アカツキ、他ネルガル上層部、

旧木連関係者の一部、統合軍のお偉方、各研究機関の方々…等。  

ルリとミスマル提督も犯人隠匿で事情を聞かれたが、肉親だと言う事でお咎め無しとされた…。  

現在、地球は英雄フクベ提督を大統領として平和を享受している。

軍は、『連合軍』として統一。

ネルガル、クリムゾンは解体。  

世界は一つにまとまった。  

皮肉にも、アキトたちが消えたとたんに(むしろ犠牲の上にと言った方が正しいかもしれないが)

世界はアキト達に住み良い場所になったのである。  

 

「イネスさん。感慨に浸っている暇は有りません。さあ、報告…いえ『説明』をお願いします。」  

イネスの目が輝く…  

「おほん、…説明しましょう!!アキト君達の行方を探ってみたけれども、

 この全宇宙の何処にも居ない事が分かったのよ!」  

いきなりルリがイネスに歩みよる。グイッと顔を近づけて…。  

「半年も掛けてソレですか…!!」  

イネスが睨み返し  

「『たった』半年よ…!」  

と言い放つ。  

見かねたハーリーが、  

「まあまあ、つまりテンカワさんはお亡くなりに…。」

ハガッ!!  

ズガ、バシッ…ズバズバッ、プス…ウイ−ン!ズン・ブンブン、ぽいっ!

 

…。  

 

「…で、アキトさんは一体何処に…。」  

「…考えられるのは一つよ。」  

…ハーリーはどうしたのだろうか?  

「そ、それは・・・?」  

「多分、行ったんだと思うのよ…。」  

「何処にですか!?」  

「過去よ。」  

おーい…はーりーーーーー。  

「彼ならそうすると思うのよ。」  

「…有りがちな話ですね。」  

「どのへんが?」  

「異世界の記憶です。」  

「電波?」  

「違います!」  

…それはある雪の日。

ある北国での会談。

その日、外は雪化粧に覆われ…その中で一輪だけ咲いた赤い花が妙に印象的だったと…

あるナデシコクルーは後に語った。  

 

 

 

−−−それから暫く後−−−  

「完成したわよ。」  

「生身で行くのは禁止されていますしね。」  

…ボソンジャンプ禁止法。あの大混乱の後、一番に成立した法律。  

『生物を過去や未来にジャンプさせてはならない。』  

ただ一行のみの法律。

…それは歴史への干渉を禁止する為の法律であった。  

「明日からは、どんな小さなジャンプ実験でも報告が義務付けられるわ。」  

「やるなら今日ですね。」  

ごそごそ  

「そう、今日しかないんですよ!!」  

「馬鹿…ハーリー、声が大きい…!」  

がさがさ  

「…?なんでしょうか。」  

「さあ?…時間が無いわ。急ぎましょ。」  

…。

「さ、これよ。」  

それは…新型ナノマシン。

宿主の記憶を保存し、もし記憶喪失にでも掛かったなら直ぐに記憶を修復できる…。

という名目で作られた。  

だが、実態は違う。  

「さ、始めるわよ。じゃルリちゃん、後始末よろし」  

ぷす。  

ルリはいち早くナノマシンを投与する。  

「あっ、ちょっと!コレの怖さは言った筈よ!!」  

「…後始末…の、ほうはお願い…します。」  

ドサッ…。  

「…手遅れ…か。…私は、間違っていたのかな。」  

…このナノマシンは記憶を保存する…否。

本当の効果は脳細胞等の宿主の一部を他の体に移し変え、増殖させる事。

但し…拒絶反応を防ぐ為には遺伝子が完全に一致する体…すなわち自分自身でなければならない。  

プチ…。  

前進の細胞のサンプルを詰め込み、ミリサイズまで巨大化したナノマシン(?)を回収するイネス。

その目には涙が浮かぶ…。  

サンプル採取時には細胞を冷凍保存する為、脳を含め全身のあちこちが凍りつく。

その為に宿主には安楽死用に薬が投与される。

自分で使うつもりだった…。だからこんな物も作れた。

だが…倒れているのは自分ではない…。  

「…さい。」  

「ん、何かしら…ルリちゃん?」  

「ごめんなさい…。」  

ルリにはもはや…まともな意識も無いはず。  

「…いいのよ。後始末なんてラクなものよ。」  

「ごめんなさい、ごめんなさい…ユリカさん…。」  

「!!」  

それは、イネス宛ての言葉では無かった…。  

「私…やっぱり…アキトさんの事…あきらめ…られないみたいです・・・。」  

「…。」  

「大好きです…ホントです。」  

「でも・・・。」  

…後は、もう声にならなかった…。  

「ルリちゃん…貴方も…やっぱり・・・。」      

 

 

「…馬鹿ね。」  

…それは、誰に対しての言葉だったろうか?  

そっと手に取ったナノマシンを高く掲げる。  

「行き先は…ナデシコA!あの、運命の日、ナデシコの出航…の1年前よ!」  

ふわっと飛び立ち、蛍のように揺らめく光は…ひときわ明るく輝くと…ふっと姿を消した。  

「…1年間、ハンデをあげるから、頑張りなさいよ。…私の分まで。」  

そう言って…ふと、先ほどのルリの最後の言葉を思い出す。  

「…今度は、負けません…ライバル…です。」  

最後に、確かに、そう、言っていた…。  

よたよたとその場を立ち去るイネス。厄介な仕事が残っていた…。  

それはルリの家族…ユリカと提督への説明。  

「家族か…。」  

そう言って歩いていくイネスは、最後まで後ろに倒れ伏す少年に気付く事は無かった…。  

 

…。  

 

…だが、アキト達がたどり着いたのは……。  

 

つづく      

 

 

 

::::後書き::::  

BA‐2です。

…なんか、ちょっとシリアスすぎかも(最後が痛いかも)知れないですね。

…今後、暫くルリちゃん達は出てきません。

今回、伏線を作りすぎたな…。

文章がうまく書けないです。精進します。

今後は、アキトが大活躍します。…予定ですが。

頑張りますので応援よろしく。

設定の間違い、有ったら指摘してください。

…次からオリキャラ出す予定です。

ちなみに、ルリちゃんは大好きなキャラです。ちょっとキャラが違うかもしれませんが勘弁してください。

 

 

 

管理人の感想

 

 

BA-2さんからの連載投稿です!!

ぬお!! いきなりアキトの運送会社がピンチ!!

・・・と思ったら、いきなり降伏してるやん(苦笑)

諦めが良すぎるぞ、アキト。

ま、人生に疲れたんだろうね〜、彼も。

でもルリちゃんの行動は予想外でしたね。

さてさて、アキトは一体何処に消えたのでしょうか?

そしてルリちゃんはアキトと再会できるのでしょうか?

 

ではBA-2さん、投稿有り難う御座いました!!

次の投稿を楽しみに待ってますね!!

 

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