機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第100話 未知の領域





…火星…。

スキャパレリ・プロジェクトの予定では、この星に取り残された資料や物資を取り戻し

ついでにここに取り残された住人達を救う…という事になっていた。


…だが…今眼下に広がるのは、相当に大規模な都市だ。


…誰もが薄々感づいていたのかも知れない。

既に…自分達が来た
意味すら失われつつあると言う事実に…。



…。



…ガチャ…


ドアの開く音がして、ナデシコのメインクルー…、

ユリカ・ジュン・プロス・ゴート・フクベの五名が、とある応接室に通された…。


…ナデシコが降りるように指示された空港からそんなに離れていないところに出現した高層ビル。

彼らはそこに呼び出されたのである…。


「ようこそ火星へ。…ナデシコクルーの皆さん?」

「…あ、貴方は!?」


…そこには、スーツ姿でボブヘアーの女性が彼らを待っていた。

だが…その姿は…。


「…確か…草壁夏樹さんでしたっけ…。」

「…まあ、そうよ。」


「…貴方…死んだんじゃなかったんですか?(汗)」

「…ええ、そうよ。…アタシは確かに一度死んだわ。」


…しーん。

…沈黙が痛い…。


「えーと…だったらここに居るのは誰なんですか?」

「…ふふっ、複製と言ったところかな?…但し、少しばかり遺伝子を弄ってあるけどね。」


「…はぁ?」

「…昔…夫の遺伝子内から発見されたナノマシンで記憶をこの身体に写したのよ。」


…つまり、アキトと同系列の技術と言うわけだ。


「うーん…良くわかんないけど…ゾンビ?

「…警護兵、この方々を地下牢にご案内して。」


…ザッ…ザッ…ザッ

…武装した兵士がナデシコクルーを取り囲む。


「…じ、冗談です!!…冗談!」

「…洒落にならないジョークはよしてね…。」


「…で…えーと夏樹さん。…この火星の現状は一体…?」

「…あ、その名前は止めたわ。…あの子の身体使ってるわけでもないしさ。」


「え?」

「…元の名前、草壁夏芽に戻したの。…当年120歳くらいよ、宜しく。」


草壁夏芽…

過去編でのヒロインの一人でアキトとの間に子供まで設けていたりする。

…つまり恐ろしい事に、この世界の草壁一族はアキトの子孫なのだ…。

アキトが跳んだのが100年前、その前にも生きてる訳だからこう言う年齢がはじき出される。

…しかし、歳を誤魔化さないのが彼女らしい…。


…。


「…ひゃく、にじゅう…!?」

「まさか!…火星独立派の英雄、草壁夏芽その人ですか…!?」


…絶句するジュンと口をあんぐりさせるプロス。

他の3人も呆然としている。


「そういう事。…でさ、まあ…色々と込み入った事情があるんで一つ一つ行こうか…。」


そして…彼女は現在の火星について語り始めた。

…無論、それがナデシコクルー達の度肝を抜くのに十分な内容であった事は想像に難くない…。


…。


「…では、火星は地球連合から独立を宣言したと!?」

「そうよ。…そしてアタシは臨時政府の大統領…って訳。」


…ナデシコがドタバタしているうちに、状況は大幅に様変わりを余儀なくされていたらしい。

しかも…その情報がナデシコに届いていない!


「…おかしいですな…何故本社から連絡が来ないのでしょう…?」

「確かにそうですミスター。…プロジェクトの中止もやむなき状況だろうに。」


「…知らないの?…今のネルガル…随分ごたごたしてるんだけど。」


プロスとゴートの疑問に、ナツメが呆れたように応える。

だがまあ…最近の賠償問題は、ネルガルに随分大きな打撃を与えているようである…。


「…最近通信が入ってこないのでおかしいとは思っていましたが…。」

「距離が離れすぎた所為だとばかり思っていたからな。」


ぼそぼそと会話するネルガル本社組二人。

そこに、再度ナツメが声を掛けてくる。


「ま、それはいいとして…火星臨時政府の代表としての話をしたいと思います。…宜しいですね?」

「…は、はい。」


「…えー、では…ネルガル側代表に対し、火星臨時政府からの決定を伝えます。」

「…は、はぁ…。」


…こう言ういきなりな展開ゆえに、もう…はいと言うしかなかった。

だが、ネルガルに突きつけられた要望はと言うと…。


…。


「…火星に存在する地球側全資産の凍結!?…あわわ…そんな事されたら…!」

内政不可侵条約の締結と、貿易協定締結交渉の開始…って、これは連合政府に言った方が…。(汗)

「そして…量産型を含む、全マシンチャイルドに対する不公平是正、および解放…ですか。」


細かい部分を抜かすと、要求はそんな感じであった。


…いきなり突きつけられるにしては、凄まじい内容である。

…しかも、一部はネルガルに関係ないし。(汗)


「…まあ、適当にはしょって言うと…対等にお付き合いしましょう…って訳よ。」

…はしょり過ぎです。が…しかし、これは…。」


…研究施設などを全て押さえられては、ボソンジャンプの資料回収も出来ない。

…更に、内政不干渉とか言われては、遺跡をどうこうする事も出来なくなるだろう。


「あ、でも…地球に帰りたがってる人を探して、連れてくのは認めるからね。」

「…いや、そこだけ認められてもねぇ…。」


そこに、ユリカが口を挟む。


「え?…それはそれでOKじゃないですか?…ナデシコの目的からすれば。」

「いえ…艦長…それはほら、大人の事情って奴が…。(汗)」


…遂に、人助け以外の全てを封じられるナデシコ。

建前の部分しか遂行できない今の状況…プロスは眩暈がするのを感じていた…。


…そんな時である。


「…あの、質問があります。」

「はい?…なにかしらアオイ・ジュン君?…にしてもマスミそっくり・・・本当に男?(汗)


「えー、ナツメさん。…要求のMCの解放…とはどう言う意味でしょう?」

「…どう言う意味って…どう言う意味よ。」


「…いえ、連合法でもマシンチャイルドの人権に対する条項は…。」

「…不平等条約に意味は無いわね…。」


…事実、連合の法律でもマシンチャイルドの人権に関する条項はあるが、

それは…わざわざ別の法律を作って守らなければ、人権侵害が日常茶飯事である証拠に他ならない。


…ルリなどの一部の上級個体は普通の人間よりも大切に扱われるが、

それが『希少品』に対するそれと違うとは言い切れない所があったのだ…。


「…それに、下級量産型の一部は玩具扱いで裏の市場に出回ってる。…知ってるでしょ。」

「…廃棄された失敗作が盗難されているケースですな…。」


…ぴきっ


「…その言い方、差別が撤廃されていない何よりの証拠よ!…それを是正しろと言っているの。」

「…いえ、ですが一部は心ある方に引き取られ幸福に暮らしていまして…ハイ。」


…ナツメの口調に怒気がこもる。


「…一部は一部よ!…それは氷山の一角に過ぎないでしょ!?」

「あ、…すいません。…あれ…貴方…その目…!」


その時ジュンが気付いた。

…ナツメの目が…金色になっている…。


「…そうよ、新しく作ったこの身体。…マシンチャイルドにしてあるの。」

「…な、成る程…それでですか…。」


「まあね、結構便利よこの身体。…少なくとも普通の人間よりかは優秀だしね。」

「…え、えーと…い、今はこの辺で…。」


…気まずくなったので、ジュンは早々に会話を打ち切る。

これ以上険悪になったら、本当に地下牢にぶち込まれかねないと判断した所為もあるが。(笑)


「…そうだね、それじゃあ交渉事はまた今度と言う事で…2〜3日町でも見ててよ。」

「はーい。そうさせていただきまーす。…はぁ。びっくりしたぁ…。


…そして、ナデシコクルー達は逃げるように部屋を後にする。

…だが、最後にユリカが部屋から出ようとしたとき…再度声がかかった。


「あ、そうそう。」

「はい?(固まった笑顔)」


「…気をつけてね、結構あちこちに避難者の施設があったりするから。」

「…はい?…何のですか?」


「…貴方達で言うところの木星蜥蜴のよ。それと…。」

「まだあるんですか?(半泣き)」


「…無差別攻撃する無人兵器がたまに来るけど…出会ったら全力で逃げてよ。…殺されるから。

「…えええ?…何ですかそれ!?」


「…言いたい事はそれだけよ。…じゃあね、…跳躍。」


…ヒュン

ナツメは消えた。…周囲に不安を撒き散らしつつ…。


…。


そして、ユリカ達はナデシコに帰ってきた。


…ゴートが『神のお告げがぁっ!!』とか言って、

連絡艇ひなぎくから飛び降りていった事を除いては特に問題もなく帰り着く。


そして、格納庫に降り立った彼らは話し込みながら先に進んでいた。


「…艦長…とにかくネルガル研究所跡に行きましょう…せめて技術者だけでも…。」

「そうですね、なんだかあの人たち木星蜥蜴とも仲が良いみたいだし…現状では敵に出来ません。」


「…ところで、あれは何だろう?」

「…ジュン君?…何々?」


…バチバチバチ!!

格納庫に火花が散っている…。


「…メグミさん…どうしてここに?」

「ルリちゃんこそ…。」


…アキトのエステバリスのコクピットで、ルリとメグミが臨戦態勢であった。
そう、アキトのユートピアコロニー行きに便乗しようと争っていたのだ!!


…肝心のアキトが未だに来ないが。(爆)


「アキトさんはきっと故郷に行きたがるはずです!…私はそれについていくだけなんですよ!」

「ルリちゃん…私も久しぶりなんだけどね…。(邪笑)」

「えー、アキトと行くの!?…ズルイズルイ、私も一緒にいきたーい!!」


…ユリカも参戦。格納庫が騒がしくなる…。

整備中だと止めようとしたウリバタケは額にナイフ刺されて瀕死だ。


…誰か助けてやらんのか…。(汗)



…。


さて、一方その頃のアキトはというと…。


「…あれか、サフィー。」

「あい、あれなの!…うわ…いっぱい居るの!」

「それにしても、サフィーちゃん目が良いのねぇ…よく大気圏近くからこれを見つけたものね。」


…サフィーが降下中に何かを見つけたようで、それを見に来ていたのだ。

因みに、ミナトさんも「退屈だから」と同行している。


…ついでに言えば、今回のアキトには故郷に対する思いは存在しない。(爆)

よって、ルリ達の行動は無駄そのものだといっても過言ではあるまい…。


…。


「…それにしてもねぇ…こういうのも野生動物…っていうのかしら?」

「…動いている…それだけが『動物』の定義だとしたら…そうじゃないのか…?」


…眼下に広がる荒野…。

そしてその広大な台地を自由気ままに走り回るバスの群れ!(極爆)


「…人類の支配から逃れたAIが野生化した…としか考えられんな。」

「…じゃあ、あれもそうなの…?(汗)」


…空ではヘリコプターが、鳥の代わりに群れをなしている。


「…そして…まさかとは思うがこの…足元を走り回るミニカーの群れは…。(汗)」

「…バスも出産する時代なのかしら。…もしかして。(汗)」


…なんだか凄まじい光景が広がっているようだ。

だが、それを更に上回る提案がなされようとしている事を、アキトはまだ知らなかった。


…。


「お兄ちゃん…あれ。」

「んー?…幼稚園の送迎バス?」


バスの群れの中に、可愛らしく改造された小さめのバスが一台走っていた。

…猫をイメージしたと思われるそれを、サフィーはじーっと見つめている。


「…欲しいの。」

「…はい?」


「…欲しいの!」

「…何を。(汗)」


…ごそごそ。

サフィーは白ト〇ロスーツを装備した!


「…猫さんバスなの。」

「…いや、それは…。」


のらだから拾ってもいいの!…飼いたいの!」

「…飼うって…。(汗)」


「…飼いたいの。…お兄ちゃん、お願いなの!」

「…世話できないだろ…流石に。」


…かなり欲しそうにキラキラとした目で迫るサフィー!

流石に問題だろうと思ったアキトがサフィーを説得している最中に…乱入者が現れた。


…。


「飼ってあげれば良いんじゃない…アキト。」

「…誰だ!?」


背後からの声に、過敏な反応を見せるアキト。


「アタシよ。…久しぶりね。」

「…草壁…夏樹!?」


「そ、…今はナツメだけどね。…じゃ、始めよっか。」

「…何を…。」


…カチャ


…あんたに用は無いの。…寝てて。」

「…!!」


突然向けられる銃口!

…いきなりの事にアキトは反応できない!!


「しまっ…!」

「お兄ちゃん危ないの!!」


…ドッ!!


「サフィー…!?」

「…あ、マズ…直撃…!?」


…スローモーションで弾き飛ばされ…どさっと地面に落ちるサフィー…。

銃弾は彼女の額に直撃している…。


…。



























「…サフィー−−−−−!!」




























「…あい?」


…ドテッ

すっ転ぶ一同。…サフィーは何事も無かったかのようにむくっ…と起き上がる。


「…な、なんで無事なわけ…。」

「サフィー、石おでこなの!」


…それを言うなら石頭!!(汗)

まあ、なんにせよ…無事でよかった。…何故なのかが凄く気になるが…。


…。


「…で、いきなりご挨拶だな。…何しやがる…!」

「…あはは、怒んないでよ。…アタシの探してる人に出てきて欲しかっただけだってば。」


…その為に毎回殺されかかっていては堪らないだろう。


「まあいい。…サフィー、あのバスは捕まえてやるから…早くここから離れような。」

「ホントなの?…嬉しいのー。」


「…アキト君って…問題回避しようとして、更に厄介な問題抱え込むタイプだったのね…。」

「…そうよ、昔っからそう言う人…。(溜息)」


…周囲に広がる脱力ムードを尻目に、アキトはバスの群れに突っ込んでいく…。


「…ま、バッタを素手で倒すような猛者だし…そんなに時間はかからないでしょ。」

「…甘いわね。…桁違いのカスタマイズされてる筈だし…破壊ならともかく捕獲は…。」


「おにいちゃーん、頑張るのー。」

「…ねえ、貴方…その額の宝石…。」


「んぁ?」

「試してみるか。…ごにょごにょ…んで…こうして。」


「…あい!」

「よし、頑張れ。」


…。


…ドムッ!!

さて、その頃のアキト…バス一台破壊。


「あ、ヤバ…壊したか!」


…ベキッ!!

…2台目。


…。


…ガシッ!!

このままではいかんと判断したか、アキトは正面からバスを掴み、吊り上げる!!


「…よーし、このまま…!」


…プップー!

突然鳴り響くクラクション!


「え?」


…ベキィッ!!


アキトの背後から迫っていた別のバスが、アキトを思い切り跳ね飛ばした!!

アキトはそのまま枯葉のように空中を舞う…。


…ひゅうーーーーーん…ブチブチィッ!!


しかも、落ちたところに待ち受けていた別なバスが、アキトを念入りに轢いていった。(汗)


…。


「…うぐっ…内臓が…だが、サフィーの為にも負ける訳には…!」

「…お兄ちゃん、もういいのー。」


…くるーり。

アキトが振り向くとそこには…、


「…猫バスは捕まえたのー。」

「…ほら、アキト君も乗る乗る。」


…。


「…何故。(ほろり)」

「…細かい事はいいじゃない。」


…自分が死ぬ目にあったと言うのに…と、世の理不尽さを怨むアキト。

だが、呆然としていたのは失敗だった。


…プップー


「…え?」


…バギシ…メキメキバブチブチブチブチベギバギボキドキガギゴキーッ!!


…。


数百台のバスによる突撃。

…すっかりぺっちゃんこになったアキトだが、何とか立ち上がるとバスに乗り込んだ。


「…お兄ちゃん、大丈夫なの…?」

「…ああ。」


「アキト君、生きてる?」

「ええ、ミナトさん…心配掛けました。」


「…アキト、相変わらず運が無いね。」

「…すまない。…ナツメ。」


…!


「サフィー。…悪いけど…ちょっと寄りたい所がある。」

「…あい?…お兄…ちゃん…?」


「…ユートピアコロニーに…向かって…くれないか。」

「…判ったの。…お兄…ちゃん…。」


「…ん。…身体のあちこちが痛い。…ちょっと休ませて…貰う…。」


…そうしてアキトは横になった。

すると…その横に居るナツメが小声で話し掛けてくる。


「…アキト。…寝たらまた…変わっちゃうけど…?」

「…良いんだ、俺は既に死んだ人間…後はもう一人の俺に任せる…。」


「相変わらずだね。…そんなだからもう一人のアキトが
ひねくれちゃうんだよ?(苦笑)」

「…確かに全ての責任は俺にある…だが、そうするより他に考えが浮かばないんだ…。」


…そこまで言って、アキト…いや、黒帝は自嘲気味にもう一言漏らす。


「…俺のしでかした事とは言え…ろくな事になってないな…。」

「そうだよ。…もう、史実も当てにならない段階になっちゃったし。」


「…正に未知の領域と言うわけだな。」

「…ひっ!?…誰!?」


…気付くと、窓が空いていて、そこから大男が一人乗り込んできていた。


「…あらぁ、ゴートさん…こんな所で何してるの?」

「…神のお告げである。」


「ふーん。…そうそう。今月のお布施は待ってね…いいパトロンが見つかったの。」

「…うむ。…倍額ならば許すと神の仰せだ。」


…ミナト…さん…?(滝汗)

つーか、パトロン(出資者・金づる)って…誰?


…。


…さて、そんな訳で随分と濃いメンバーが集まって、一行は一路ユートピアコロニーに向かう。

果たしてどんな事態が待っているのか…それはもう誰にも判らなかった…。


「…さて、あれを見て皆どうおもうかな?…ま、アタシも意地悪くなったって事かな…。」


…約一名、例外が居るようではあるが…。

続く


::::後書き::::

…BA−2です。

…長々と続いてきた「世紀を超えて」ですが…。


…遂に100の大台に乗ってしまいました!(爆)


まあ…こんな駄文で恥をさらし続けてよくここまで続いた物ですが…、

…何にせよ、応援していただいた皆様のお陰です。


…有難う御座います!
今後も頑張るので宜しくお引き立てのほどを!!


では!

 

 

 

 

 

代理人の感想

野良バス・・・・・メタル○ックスの世界ですなぁ。

繁殖するとは知りませんでしたが(笑)。

 

それはさておき、アキトもナツメも「なにやってんだか」って感じです(爆)。

後の世に迷惑を撒き散らして一体ナニがやりたいんでしょーか?

ああ、そうそう。

ナツメは元々意地が悪いと思います(核爆)。

 

 

>額にナイフを刺されて瀕死

いや・・・ふつー額にナイフ刺されれば即死しますが(爆)