機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第106話 アキト≠アキト





…チュドォォォォオオオン!!


「うわっ、何々!?」

「艦長、識別不能の機体が敵を破壊したようです。」

「…アキト君が関わってるのにルリルリがこんなに冷静だなんて…。」

「確かにそれは変ですよね…ま、それだけならいいんじゃないですか?


上から順に、ユリカ・ルリ・ミナト・メグミである。

最近超常現象的な事件が続いているせいか、

こんな状況下に陥っても大して動じないようになってしまったようだ。(笑)


…だが、現場の人々はそうもいかない。

突然現れた黒い機体に困惑の色を強めていたのだ…。


…。


「…散々俺たちが苦労した奴を…たったの一撃だと…。」
「アレは…まさかブラックサレナですか!?」
「…アー君…あれ、こないだアー君が乗ってた奴そっくり…。」


「ヒカル…イズミ…。」
「ああ…只者じゃないね。」
「イズミちゃん、今日もマジ入ってるしー。」




…驚愕する一同。(約一名緊迫感に欠けている事は無視)


故に実はあの遮光が今までの戦闘でボロボロになっていて、
既にHP1状態だった事に気づく者は無かった。(爆)



「…一体…何者なんでしょう…?」


…ポツリと呟くコウの言葉を尻目に、黒い機体はゆっくりとナデシコに歩み寄っていく。

…が、それに即座に反応した者が一人。


「…敵かっ!?」


…先手必勝の理に従い、アキトが傷ついた機体で殴りかかる…!


…。


…ガキィッ!!


…機体同士のぶつかる耳障りな音が響き渡る。

ブラックサレナは…直撃した頭部がんでいる!(ヲイ)


「…意外と脆い…ぞ?」

「材質はそんなにこちらと変わらないのですか…?」


…だが、へこんだ頭部など気にもせずにブラックサレナは前進する。

…サツキミドリで同型機を失った事を少し後悔しながらも、アキトは第2撃を背後から叩きつけた!


…ゴスッ!


可動式のスタビライザーらしき物が片方歪む…。

だが、向こうはそれでも気付いた様子が無い。


「…貴様…俺を舐めているのか!?」


…ズザッ!!


無視されたと感じたのか、アキトはスラスター全開で所属不明機の前方に回りこむ…、

…が、それが間違いの元だった!


「…ゥゥゥ…。」

「…な、この唸り声」


…ドガァッ!!


一瞬怯んだその隙に、ブラックサレナの体当たりがアキト機に敢行された!

…そのままアキトは機体ごとナデシコ格納庫まで吹っ飛ばされる…!


…。


「だ、大丈夫ですか!?」

「アー君!」


…コウと枝織がアキトの安否を気遣う…。

が、アキトは機体から飛び降り、即座にハッチの入り口から現れた。


「…何となく…だが…貴様が何なのかわかって来た…ぞ。」

「…グ…ァッ!?」


…ゆらり…。

アキトはふらつき額から出血を起こしながらも、漆黒の機体を睨みつける。


「…お前の声…覚えがある。…忘れたくても忘れる事の無い…あの声だ!!」

「…ぉぉぉ…。」


…アキトの目は怒りと憎悪で燃え上がるかの如く…。

そしてその瞳でギロリと相手を睨みつける。


「…獣みたく…唸ってんじゃねぇ…。」

「…ゥ…リ…カ………ァ…。」


…チャキッ

更に…ブラスターの銃口をコクピット付近に向けながら叫んだ…。


































「なぁ…本物の黒帝様よォっ!!」

































…。

…しぃいいいいいん。


その叫びと共に…ブリッジは静まり返り…。


「…ホンモノって…何?」


…キョトンとしたジュンの呟きにより、

堰を切ったような喧騒に包まれていく…。



「ええーっ!?…アキトが偽者ォっ!?」
「アキ君が…でも、彼は確かに…。」
「ハイ…これは一体…?」
「ミスター…考えてみれば彼は自ら『黒帝』を名乗った事が無い…これはもしや…。」
「でもぉ…それだと色々矛盾しない?」




…これでもかと言うぐらいに騒ぐブリッジクルー。

その中でただ一人、不気味な沈黙を守るルリ以外は…だが。


…。


…ガチャン。


一同が気付くと、漆黒の機体はブリッジの目の前で仁王立ちしていた。

…更にブリッジの上にアキトが陣取り、コクピットに銃口を向け続けている…。


…。


不気味な沈黙が1分ほど経った頃…。

…エアーの抜けるような音が周囲に響いた。


「あ、コクピットハッチが…開く…。」

「…内部はエステバリスなんだ…やっぱり。」


艦長・副長コンビが奇妙な感心をしていると…開いたハッチから人影が歩みだす。

…その姿を見て…一同は戦慄を覚えた…。


「うわ…真っ黒…。」

「これが…黒帝…?」


…黒髪黒服黒マント…おまけに黒いバイザーと4拍子揃った男がそこに居た。

…それはブリッジのほうを見上げるとニヤリと笑い…一歩前に踏み出す。


…パキン!


刹那…銃弾が黒帝の眼前で弾かれる。

…アキトの放ったブラスターを、優秀な個人用フィールドが弾き返したのだ…。


「…待てよ…俺には何の断りも無しか…?」

「…。」


「ヒトの人生散々狂わせた癖に…つれないなぁ…ククッ。」

「…。」


カチャカチャと銃を弄ぶアキトを、無感情に見上げる黒帝…。

…だが、暫くすると興味が尽きたのか、黒帝はナデシコブリッジ目掛けて飛び上がった…!


…スタッ


…音も無い着地。

余りの展開に…周囲はというと全く声が出ないでいる。

…そして、長い沈黙の後…全員が一斉に叫ぶ。


「「「「全身タイツだとォォォおおっ!?」」」」


…突っ込むべきところはそこなんだろうか?

だが、錯乱した一同はそれにすら気付かない。


…カツ…


黒帝はブリッジの奥に歩を進めようとする。

…そして、目的地がユリカの元だと全員が気付きかけたその時…、ルリが黒帝の前に歩み出る。


…。


「…。」

「…。」


…沈黙。


だが、それは同時に無言の睨み合いでもあった。

そして、黒帝が重い口を開く…。


「キミ…シッテイル、テンカワアキト…」

「…死んだ…ですか?」


…ぴたっ

黒帝の動きが止まる。…まるで予想外の動きをするルリに驚いたかの如く。


「…私だって、貴方の知っているルリではありません。」

「…!?」


…くすっ


ルリは何故だかクスリ…とどこか妖艶な笑みをこぼす。

そう、このルリは…時代を遡ってきたあのルリではない…!。


「貴方の知っているルリは疲れ過ぎで眠ってます。…私の中で。」

「…ルリ…チャ…?」


「元々この身体は私のものだし。…まあ、互いの望みは一緒ですから関係ないけど。

「…??」


…そして…ルリの顔に冷徹な表情が浮かび…、

ポツリと…だが、容赦なく言い放った。


「けど…亡霊に用は無いんですよ。…兄さんと私の為に…消えてください!」

「…ボウ…レイ…!?」


…ガン!!


その瞬間、ルリはコンソールに片腕を叩きつける…!

すると、天井から監視カメラのようなものがせり出し…黒帝に強烈な電撃を浴びせ掛けた…!



…。(電撃放射中)



…プス…プス…。

黒い男は更に黒くなって体中から黒煙を上げ…香ばしい匂いを漂わせていた。


「…もう一人の私は悲しむかも。…でも…私にとっての兄さんは一人だけです。」


…どこか悲しげに言うルリ。

が、急転直下についていけない方々がシリアスな展開をぶち壊しつつ質問を浴びせ掛ける。


「えーっと、ルリルリぃ?…これは一体…?(汗)」

「…これは、暴徒抹殺用にこっそり用意していたんです。」


…その正体は、対北辰装備だったりする。

だが多分、そういう事を聞いているわけではあるまい。


「いや、なんかさっきからおかしいなと思って。」

「…再び混ざるまで、もう一人の私には黙ってて下さいねミナトさん。」


「え…もう一人のルリルリ???」

「…判らないならいいです。…ちょっと今、人格が混乱してるだけですんで。」


…周囲は全員首を傾げている。

そして、代表のような形でミナトが次なる質問をしようとしたその瞬間…、


「危ない、ルリちゃん!!」

「…え!?」


…バシィィッ!!



…。



「…え…わ、私は…?」

「…イタタ…大丈夫ルリちゃん…?」


「…艦長?」


…気付くとルリは自分が壁際にいることに気付いた…。

しかも、ユリカに抱きかかえられた状態で。


「…ぉぉぉぉぉぉ…!」


…見ると、黒帝はよろめきながらも立ち上がり…ゆったりとこちらに向かっていた。

止めを刺す事が…出来なかったのだ…!(って…刺す気だったのか!?)


…黒帝は軽く腕を振るっただけだ。

それでもここまで飛ばされた。…ユリカが庇ってくれなかったら間違いなく死んでいただろう…。


「…何で生きてるんです…化け物ですか。」

「…ルリちゃん、しっかりして!」


…呆然と金の瞳を見開き、放心しているルリの頬を張り、気付けをするユリカ…。

ただ、その化け物と言う台詞は一体誰に向かっての台詞なのやら。(爆)


「…場合によっては…私もああなって…いた?」

「ルリちゃん、早く逃げないと!!」


ゆっくりと…だが確実に脅威は迫っていた。

…だが、ルリは微動だにしない。


「一つの身体に二つの精神は耐えられない…放って置けば精神を壊す。…アレはなれの果て…。」

「…駄目…完全に混乱してる…。」


…既に、ジュンやゴート・プロスなどは壁に叩きつけられ気絶している。

しかもアキトはフレームを乗り換え、表で敵機動兵器(黒帝のお付達)と交戦中だ…。


…ザッ!!


それを確認したユリカは、ルリの前で、両腕を広げて立ちはだかった。

今ここで動けるのは…恐らく自分だけ…!


…。


「私は艦長として、クルーを守る義務があります。…ここは、通せません!!」

「…ぉぉ…。」


…ピタリ

黒帝はユリカの目の前まで迫るとピタリとその動きを止める。


「ユリカ、無茶だっ!!」

「か、艦長…その人何だかやばいわよっ!?」


…ジュンとミナトの忠告が飛ぶが、ユリカは一歩も引かない…。


「…ジュン君。ここで引いたら、私は私でいられないと思うんだ。」

「…ユリカっ!!」


「ここまで来たのって、結局…自分らしく生きたいって事だったから。…多分これがその第一歩。」

「だからって…ここで命を落としたら話にならない!」


…。


黒帝は、そんなやりとりをじっと眺めていた。

それは懐かしむようにも、理解できずにいるようにも見えた…。


「…そう言う訳でここは通せません。…お引き取りください!」


…それで帰ってくれるような相手ではないと言うのは何となく理解していた。

だが、それでも万一の確率を期待していたのかもしれない。


…。


だが、黒帝は更に一歩前に踏み出す。


「…くっ!」

「ユリカァァッ!!(滂沱)」


…今までぶらりと垂れ下がってきた両腕が高く上がった…。

次の瞬間には命を取られかねない…そう感じたユリカは恐怖に思わず目を閉じる…。


…ガシッ!!


だが、彼女を襲った衝撃は…彼女自身の予想と余りにかけ離れた物であった。


「…へ?」

「か、艦長…!?」


…余りの事に、放心状態だったルリが一瞬で現世に戻ってくる。

因みに周囲はと言うと、逆に硬直しているが。(笑)


そぉーーーーっと開かれるユリカの目。

そして彼女が見たものは…。


「え、あ…あのー…何してるんでしょうか…?」

「…ユ…リ………カァ…。」


…ユリカは仰向けに倒されて両腕を押さえられ、その上には黒尽くめの怪しい奴がのしかかっている。
…簡単に言えば「押し倒された」と言う奴だ。(爆)


…因みにそれを見た瞬間無意識で飛び掛ってきたジュンは、壁で平面ガエルと化している。(笑)


「えっ…えっ?…ええっ!?」

「…ぉぉぉぉぉっ!!」


そして落ち着く間もなく、ユリカに黒尽くめの男の顔が近づいてくる…。


…ちゅっ…。


「…!!!!!」


…バシッ!!


唖然としたままのユリカの唇に触れる粘膜。その感触のおぞましさ…。

思わずユリカは相手を張り飛ばす…!


「な、何するんですかっ!?」

「…ぉ?」


…カラァァァァン…


黒尽くめからバイザーが落ちる。

そして…その奥に見えたものは…。



…。



「あ…ああ……あ…………あ…き………と!?」
「…ぅぉ…?(ニヤリ)」


…アキトによく似た顔がユリカの眼前にあった。


だが、狂信者じみた壊れた笑いを浮かべ、にやりと口元を歪める姿は彼本来の物とは程遠い。

しかも…片目が無く、その…何も無い筈の目の奥では、怪しげな光が煌々と輝いている…。


「…な、な…な……!?」


…ギシッ!


反抗に業を煮やしたか、黒尽くめの両腕に力が入る。

…しかも、それに反応するかのように光…ナノマシンの発光が顔中を覆う…。


「ユリカ…ゆりか?…くふふ…けひ…きゃぁあああああっハッハッハッはぁっ!!」

「い、































!」




…。











ユリカの絶叫と黒帝の狂気の笑い声がブリッジ中に轟く…!


…その瞬間である。

黒帝の襟首をつまむ可愛らしい手が一つ。


「…ちょっと熱いですよ。」

「へ?」「…ぉぉぅ?」


…トクトクトクトクトク…


…。


「おごぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


…ルリが何かした途端黒帝は飛び上がり、そのまま艦外に飛び出していく…!

が、今までが今までだけに、転がりながら逃げ出すその姿は滑稽以外の何物でもない。


「る、ルリちゃん?」

「…攻撃用でないものにフィールドの自動形成装置は反応しなかったみたいですね。」


…そう言うルリの片手には熱を持ったヤカン。

どうやら黒帝の服の中に、直接熱湯を注ぎ込んだようである。


「おーけーなの。」


横にはお盆を持ったサフィー。

…持ってきたの君かい。(汗)


…。


何にせよ、ナデシコとユリカは決定的なピンチを免れたようである。

だが…ユリカはうなだれたまま動かない。


そして、真っ白けになってただ一言、


「わ、私のファーストキス…。」


…余談ではあるが、ユリカのキスは幼少の頃アキトにおまじないとしてしてあげたのが最初。

…TV版準拠の設定だが、ここでもユリカはその事を忘れているようだ。


…。


そして、その頃…表での戦闘も沈静化してきていた。

…黒帝の行動に部下と娘が唖然とし、やる気を無くしたと言うのが真相ではあるが。(爆)


「…父上…いきなり極冠から飛び出して何をしに来たのかと思ったら…。」

「サレナ様、…今の陛下に理性はありません…十分予測範囲内の事かと。」


「…理解はしているつもりです。」

「…ご心痛、お察し申し上げます…。」


…実は彼女達がこんな所まで出向いてきたのは黒帝アキトを追っての事。
本来こんな所で歴史に介入する気など持ってはいなかったのだ…。



ゴロゴロゴロゴロ…。


そんな二人の眼下では、火星の大地を転がりまくる皇帝陛下。(爆)

…そして…それを見た部下2名はと言うと…。


「「…はぁ。」」


…深くため息をついた後、背後を見る。

案の定そこには別行動をしていた仲間の姿があった。


「おーい、持って来たぞー。」


…サレナタイプの機体が一機、チューリップを背負ってこちらに向かってきている。

それは別行動を取っていた彼女達の仲間、クロガネ・ブラックマン。


…イベント進行用(爆)にチューリップを調達してきたのだ。


「…クロガネ…丁度いいところに来ましたね。」

「サレナ様?…なーに疲れたような顔されてるんです?」


クロガネなりに上司に気を使った物言いで、何があったか尋ねてきた。

余談だがクロガネは女性なのに、言葉づかいと容貌のせいでよく男と間違われる。(爆)


「…あれ。」

「シルヴァ…お前までかよ。…下に一体何が…ぁ。」


…ゴロゴロゴロ。


「…なぁシルヴァ。」

「…なに?」


「アレ…殴っていいか?」
「なんで…私に聞くの。」


…そりゃあ、直属の上司の父親…しかも黒帝本人だ。

駄目に決まっているからであろう。


…。


そして、クロガネはその上司…サレナ・ラズリをちらりと見た。

…何かをつまむようなジェスチャーをしている。


「「…。(こくん)」」


アイコンタクトで意思確認をする二人。

…そうしてシルヴァとクロガネは黒帝を二人がかりで抱え上げ、さっさとジャンプで帰っていった。


「…まったく、父上もなんでこんなタイミングで…。」


…黒帝の乗り捨てた機体を回収しながらサレナ・ラズリがぼやく。

そして…彼女がジャンプで消えた後、そこにはチューリップ一つと、


…ズタボロのナデシコだけが残された…。

続く


::::後書き::::

BA−2です。

本当はもう少し長くしてこのまま一気に火星での物語を集結させたかったんですが…今回は諦めました。

ですが、多分次で火星での話も終結し、そのまま………に突入する事と思います。(謎)
実は西欧編ですが。(ぼそっ)


こんな物ですが、見捨てずに応援頂ければ幸いです。


…今更ですが(比較的)TV準拠という鎖がついているとやりづらいですね。(苦笑)


では!

 

 

代理人の感想

・・・・・・・まあ、ある意味では予想通りですが。

やっぱ壊れてますねぇ、黒帝陛下(爆)。

 

それとチョイと疑問なのはルリとアキトラズリですね。

一つの体に二つの精神があることが精神の崩壊に繋がるというなら、

片方が眠っているとは言え逆行ルリを宿したルリと黒帝の人格を宿したアキトも

いつか人格を崩壊させるんでしょうか?