機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第108話 瑠璃色の少女達




…ぱちり…

暗闇の中…金色の目が見開かれた。


「あれ…私は一体…?」


金の目を持つその少女…ルリは必死に記憶の糸を辿る。

だが…無理がたたって気を失った所までは思い出せたが、何故ここに居るのかまでは判らない。


…きょろ、きょろ…。


周囲を見回す。

…広い。…何処まで続いているかも判らないほど広い…。


…。


「何処なんですかここは…。」

「決まってます。」


…びくっ!

突然返ってきた声に驚いてルリは背後を振り返る。


「誰ですか!?」

「私は貴方。…そしてここはホシノ・ルリの精神世界。…まあ、お約束って奴です。」


…そこには…自分と寸分変わらぬ少女が居た。


…。


二人はいずことも知れぬ場所…自身の精神世界内において向き合っている。

そして…沈黙に耐えかねたのか、逆行者であるルリ…即ち電子の妖精が口を開く。


「…一体…何者ですか?」

「…この世界に本来居たホシノ・ルリ。…それが私。」


…そう、逆行してきたからと言ってこの世界の自分が消え去るわけではない。

ルリの場合、そのまま一つの身体に二人分の精神が収まってしまったのだ…。


「よく…今まで気付かなかったものです…。」

「そりゃあね、完全に融合してましたから。…貴方だけが疲労したんでまた分かれてますが。」


「…と、言うと?」

「オモイカネ無しでのオペレートが出来るほど、私は優秀ではないと言う事。」


…つまり、それが出来る『電子の妖精』部分のみが疲労してしまったと言う事か。

幸いオモイカネが戻ってきたので、残ったこの世界のルリが代役を務めていたということなのだろう。


「…はぁ。…それで、今後はどうするんですか…?」

「今後って?…出てけと言ってもそっちには出て行く先が無いでしょうが。」


「…うっ。(汗)」

「まあ、望みは一緒のようですからまた融合してもいいけど。」


随分あっさりした物言いである。自身の存在は惜しくないのだろうか…?

いや、彼女(達)の場合、アキトさえ手に入れば後は関係ないのかも知れないが。(爆)


「ま…融合したら、結局自分の意思と変わりませんから。」

「そういう事ですか。」


…何にせよ、家主と間借り人と交渉は何事も無く解決したと言う事である。(苦笑)

だが、問題はそれだけではなかった。


「…ところで、電子の妖精さん?」

「は、はい。」


「実は、貴方の記憶と全く違った事件が立て続けに起こってるんですが。」

「…え?」


…確かに黒帝襲撃とかのイベントはルリの記憶にあるわけが無い。

だがまあ、逆行者の記憶と余りに違うのは確かだ。


「融合してた都合上、そちらの記憶も私の中にあるんです。」

「え?…じゃあ今は一体どの辺りなんです?」


繰り返しになるが、『電子の妖精』の方のルリは、暫く前から気絶中だった。

…故に、黒帝襲撃イベントの前辺りで記憶が途絶えているのだ…。


「…一応、ナデシコはチューリップに突っ込ませておきましたけど。」

「もう…そんな所まで…。」


「ただ、兄さんの偽者(?)が出てきたり艦長代理にされちゃったり…まあ、色々。」

「…はひ?」


唖然とするルリ。だが…彼女には質問する時間すら満足に与えられなかった。


「あ…そっちも目覚めた事ですし…そろそろ再融合してきましたね。」

「…ま、待ってください!…色々聞きたい事が!」


言葉どおり、この世界のルリの姿が揺らいできていた。

…自分で確認は出来ないだろうが、電子の妖精…逆行ルリも揺らいでいる事だろう。


「大丈夫、融合すれば私の記憶も貴方の記憶。…聞くまでもない事です。」

「いいえ、貴方は私を知っていた!…けれど私は貴方に気付かなかった。…これは一体?」


確かに不自然である。

記憶や感情などを共有しているとはいえ、片方だけが相手を認知しているのはおかしい。


「…私(過去)の記憶は貴方にはあって当然の物。…けど、私には貴方(未来)の記憶は異質だった。」

「そうですか…私には過去の記憶があって当然。…けれど、メインがこの時代の貴方には…。」


…そう、逆行ルリにとってこの時代は過去。…昔のことを覚えているのはおかしくない事だった。

だが…人は未来の事を覚えているわけが無い。


その矛盾がこの世界のルリに『自分の中に自分以外の何かが居る』と言う事を気付かせたのであろう。

そしてもう一人の自分の記憶が自分の物になるにつれ、自分と共にあるものが何であるか気付いた。


…そういう事なのであろう。



…。


…ルリがふと気付くと、そこは相変わらず自身の精神世界だった。

だが、そこに『もう一人の自分』は居ない。


「消えた?…いいえ、違いますね…彼女は私の中に居る…。」


…そう言ってからルリは自嘲気味に笑う。


「気付きませんでした。…この世界にも『私』が居るのですから当然の事のはずだったんですがね。」


それは、『この時代の自分』の存在の事。


自分の他に自分が居る。…そんな事は考えもしなかった。

だが、向こうはそんな乱入者を受け入れ、一つとなって生きる事を選んでくれたのだ…。


「…ありがとう。」


…何処からも答えはない。既に彼女と自分は一つ。…答えが返ってくる訳がないのだ。

だが、それでもルリは礼を言った。…自分を受け入れてくれた存在に。


…。


ふと気付くと、はるか先に一筋の光が差し込んでいる。

…そこまで行けば現実に帰れるのだろう。…ルリはゆっくりと歩き出す。


「望みは一つ…ですか…。」


…アキトの事を考えてみる。

…胸が少し高鳴った…。


「…私がしたい事。…なさねばならない事…。」


…もう一人の自分から、記憶がフィードバックされてきた。

今までその存在に気付かなかったせいか、記憶の融合が遅れていた部分や気絶してからの記憶だ。


…アキトや黒い皇帝の事。…トラウマを負ったユリカの事…。

そして…アキトの中にいるもう一人のアキト。…自分の追って来た『黒い王子様』の事…。


…それを知り、彼女は何を思うのだろうか…?


…。


…光の中にルリの姿は消え…彼女は現実に舞い戻った。

だが…そこは既に八ヶ月の時が経った世界なのである…。







…。






だが…現実世界では、その八ヶ月の間に大々的な変化が起きていた。

そう、『史実』ではありえない急激、かつ大規模な変化だ…。


…話は、ナデシコがチューリップにより八ヶ月間に及ぶジャンプを敢行したその日に遡る。

場所は…明日香インダストリーのとある一室…。


…。


「そうですかホウショウ。…ナデシコは跳んだのですね?」

「…はい、カグヤ様。」


今は艦を失った、カグヤ・オニキリマル。…横にはヒスイの姿もある。

…彼女は今、副官のエマ・ホウショウからナデシコ関係の報告を受けていた。


「そう。…確か次に現れるのは八ヵ月後…でしたわね?」

「そうです。…それまではどうなされるおつもりで?」


「…ふふ、私の新しい艦の起動試験も兼ねて、西欧まで赴くつもりですわ。…準備を頼むわね。」

「はい。…カグヤBも、もうすぐ完成ですからね。」


…そして、ホウショウは部屋から出て行く。


ネルガルから得た多額の賠償金を使って、急ピッチで建造が進められている戦艦カグヤB。

その進捗状況の確認のためだ。


「ふふふ、アキト様が帰ってくる前に、諸々の事に片を付けておきませんと。」

「…白々しい事を仰いますね。」


…ニコニコとしたカグヤに、ヒスイが冷たい目で突っ込みを入れる。…それ位は何時もの事だ。

…だが、何かおかしい。…友好的な雰囲気が感じられない…。


「嫌ですわヒスイ。…貴方までブラコンなのですか?」

「…いい加減にしてください月読様!!」


…し…ん…


途端に場の空気が凍った!

…カグヤはそっ…と部屋のカギをかけるとキッと、ヒスイを睨む。


星野瑠璃。…この場でその名を使うのは禁止した筈ですが?」

「どうせ、今ここには私達しか居ません。」


気付いたのはつい先日だった。…吐き捨てるような物言いには、彼女の憤りが込められている。

だがカグヤ…いや月読はそんな彼女の態度を鼻で笑った。


「そうですわね。…ですが私がカグヤ・オニキリマルであることもまた事実なのですよ?」

「…元のカグヤ様の人格は何処にやったのです?」


「そんな物はありません。…生まれ変わった先で、偶然前世の記憶を取り戻しただけですもの。」

「…偶然。…必然の間違いでは…?」


「ホホ…確かに仕組まれた偶然ではある。…が、だからどうだと言うのですか?」

「…どうって…。」


ヒスイは答えられない。

…彼女の中にも明確な回答があるわけではないのだから。


「私も貴方も寄生虫に過ぎない。…私達は生まれる筈で無かった受精卵に取り付いて生まれたのですから。…私を否定する事は貴方自身を否定すると言う事よ、星野瑠璃?」

「わ、私の名前はヒスイ。…ホシノ・ヒスイです!…瑠璃(ルリ)の名は妹にあげました!!」


「ホホ…そうでしたね。…ですが、それだけで大和との関係を断ち切ろうとは…甘い考えですわ。」

「…クッ!」


そう、ヒスイは大和の人間なのだ。

…元々彼女は密命を帯びてとある世界に降り立ち…そこで火星の後継者との戦いに巻き込まれた。

死亡したホシノ・ルリ…その代役として…。


そしてそこで時代逆行用ナノマシンと関わり、この世界に流れてきたのだ。

無論、彼女はそれで大和との関係は切れたと思っていたのだが…。


「ふふ、心配しないでいい。…この世界を我々が手に入れた暁には、貴方は自由にしてあげます。」

「…別に…私の事など放って置けばいいでしょうに…。」


「駄目です。…今となっては貴方が唯一の巫女の生き残りなのです。…他の瑠璃達は皆、造反するか死亡しているかですからね…。」

「…私達のオリジナルに頼めば宜しいでしょう…?」


大和における『星野瑠璃』とは彼女達全体の総称である。

…彼女達はオリジナルの星野瑠璃から、レプリカとして生み出されるのだ。


「残念ですが、レプリカを余りに多く作成された所為で、オリジナルはお亡くなりになったのです。」

「…本体が死ぬくらい沢山のレプリカを…何のために…。」


本人が死ぬほどのレプリカ(クローン)製造…無論、本人の意思だったかはわからない。

だが、その所為でレプリカが作れなくなったのは事実だろう。


…体細胞は劣化していく。

レプリカの細胞からの再クローニングでは、劣化が激しすぎるのだ…。


「…艦の操作をする巫女達が足りなくなっていたのですよ。」

「…そんな状態になってまで、なんで侵略行為を続けるのです。…静かに溶け込める筈では…?」


「大和は誇り高き一族。…他者に尻尾を振ったりはしません。」

「…そうですか。…ところで…お兄様をどうなさるおつもりです?」


…不毛な議論だと気付いたのか、ヒスイは話題を変えた。

だが、その話題も彼女にとっては大切な事だ。…おざなりには出来ない。


「アキト様をどうする…とは?」

「…様付けしたりして。…大和としてはこの世界のテンカワアキトは邪魔なのでしょう?」


「ふふ、そうですわね。…ですが、もし…味方に引き入れられれば?」

「…え?」


…ヒスイの予想はいい方向に外れた。…月読にアキトを排除する気は無いらしい。

だが、それは更に予想外な結論の、ほんの触りでしかなかった…。


「私、この世界で一人の人間として暮らし…大和では無かった色々な体験をしてきましたわ。」

「…はぁ。(なんだか雰囲気が変わりましたよ?)」


「そして…ここのアキト様との出会いで、私は初めて"恋"と言う物を知ったのです!」

「はぃぃぃ!?」


…何処となく漂い始めるスチャラカな空気。


「つ・ま・り…『これはこれ、それはそれ』と言うわけですわ!!」

「…。」


…ヒスイは大口開けて固まっている。(汗)

ついでに言えば、月読は恋する乙女の瞳だ。


「勿論、大和の為にこの世界は手に入れます!…けど、私自身の為にアキト様も手に入れます!」

「…あははは…。(乾)」


ガッ…と握り拳を高らかに掲げる月読…いやカグヤ。…頬が赤く染まっている。

…ヒスイはもう、乾いた笑いをあげるしかなかった…。


「えー、それで月…カグヤ様。…艦の試験に西欧を選んだ理由…はなんですか?」

「ふふ、いい事を聞いてくれたわねヒスイ。」


…一気に肩の力が抜けたヒスイは取りあえず話題を変える。

すると…カグヤはごそごそと地図を取り出した。


「丁度この辺ですか。…先日、巫女の…星野瑠璃の反応を捉えたのです。」

「え、じゃあ私の他に…?」


「そう、居るかも知れません。…数は幾ら居ても足りませんから、探す価値はあるでしょう…?」

「…巻き込まないといけないのですか?」


「ホホ。…どうするかは会ってから決めます。…それに。」

「それに?」


「はいこれ、暫く前の写真ですけどね。」

「…こ、これは!!」


…そこには無人兵器を蹴散らす金色の機体の姿が…。


「…艦長…?」

「ホホ、貴方も行くのでしょう?…星野瑠璃…いえ、ヒスイ?」


ギチギチギチ…ヒスイが油の切れたロボットのように横を向いた。

…頬どころか耳まで真っ赤だ。


「ところで…何処でそんな情報を…。(赤)」

「大和の情報網を甘く見ないで欲しいわね。…で、行くの?」


ニヤニヤしながらカグヤは聞いた。…そして、ヒスイは一瞬の間もなく答える。

…複雑な思いもあるが、取りあえずそれは横においておく事にして。(爆)


「…行きます!!(即答)」

「宜しい。…では早速準備なさい!」


…こうして、西欧における物語が始まる事になる。

だが、そこで何が待つのか…何が起こるのか…知る者は誰も居ない…。

続く

::::後書き::::

どうも、BA−2です。

いきなりの精神世界。…今まで気付かなかった自分にルリは何を思うのか…。

…とはいえ、暫く出番がありませんが。(爆)


そして、アッとビックリのカグヤの正体!

…これから西欧編という訳ですが、『時の流れに』とは全く違う物語となるのでしょう。


何せ、時間軸も違うし。(ヲイ)


こんな物ですが、応援していただければ幸いです。

…では!

 

 

代理人の感想

ふむ・・・・・・・・・・・・?

つまり、カグヤと月読も融合していると言うことでしょうか?

アキトに対する恋は本来カグヤの物で、融合した月読はそれを自分のものにしてしまったと。

 

 

 

・・・にしても、カグヤファンの反発が大変そうだ(苦笑)。