機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第111話 運命の悪戯?





…あの、運命の日から2ヶ月が過ぎた…。

そう、あの日…紅き核の光が近隣を覆い尽くし、撒き散らされる放射線は人々を蝕んでいった。


上がる
キノコ雲…そして、消え去る西欧方面軍本部…。

人々がその意味を知るのにそれほどの時間はかからなかった。


…警察機構等の公共機関は事実上消滅し、都市機能も麻痺している。

そして…肝心の軍はというと…。


…。


「…木星蜥蜴を殲滅させるのだ!!」

「ち、中将…それよりも民間人の避難を優先的に…!!」


「オオサキ少佐、君に発言を許可した覚えはない!!」

「その通り。…君は黙って居たまえ。」


「バール、お前にも発言を許可してはおらんぞ!」

「「ええーーーっ!?」」


孫娘の訃報を目の当たりにし、最近すっかり過激派になってしまったグラシス中将が、

口から泡を飛ばしながらまくし立てていた。


…かつては民衆の事も良く考えていた軍人の鑑の一人だっただけに、

そのときを知る者ほど落胆を隠せないで居る。


「もう、中将は駄目なのではないか…。」

「私事を公共の場に持ち出す事自体、終わっていると言わねばならぬ。」

「…気持ちは…わからんでもないがな…。」


…その日の会議で、現存するチューリップに対する総攻撃が可決された。

無論、中将の強い後押しがあった事は言うまでも無い。


そして…会議の後、生き残りの主だった司令官達が口々に現状の批判をはじめる。

…それをシュン隊長はじっと見つめていた。


「やはり…中将には第一線を引いてもらわねばならんか?」

「…だが、中央にお伺いを立ててもその申請受理まで半年はかかるだろ…。」

「その間に全滅か?…その可能性は高い…。」


…勇敢な士官はもう殆ど残っていない。

生き残っているのは、保身に長けた2線級がほとんどだった。


…しかも、皮肉にも現在グラシスの元に残っているのはそういう2線級が殆ど。

有能な連中などは、既に中将を見限り独自の行動を起こそうとしている…。


(本当なら、俺も参加したいところなんだが…な。)


…だが、彼にはそれが出来ない理由があった…。


…。


「うぉほん!…では、定例の集会を開催する。…まず最初の議題は。」

「はい、グラシス中将をいかにして第一線から外すかですが…。」



…諸君、既にグラシス中将は我らを率いる者として相応しくないとは思わぬか…かつての…



…何故なら、その反抗勢力を率いているのが他ならぬバール少将だからである。


(ふん、善人ぶりやがって…失敗した時は部下に責任をなすりつける気に違いない…。)


シュンは部屋の隅…壁に寄りかかりながらその様子を伺っていた。


…今、この部屋の中央でギ〇ンばりの演説をぶっこいている肉団子の本性を、

この場でばらしてしまいたいと言う衝動に耐えながら…。


「我々も行動せねばならぬ。…このまま座して死を待つのは愚かな事だと思わんか?」


…こっそりカンペ見ながら大仰な演説を続けるバール。

彼を見る周囲の目は希望の星を見るかの如く、熱く…輝いていた。


…だが、シュンだけは知っていた。

…かつて、シュンの家族を死に至らしめたこの男の本性を。


この地に来てからは隠している物の、この男こそ保身と権力欲の塊と言ってもいい。


…そもそも、この男は自分の不正を見抜いたシュンを亡き者にすべく彼の家を爆破したのだ。

幸か不幸か、シュン自身は家を留守にしていて難を逃れる。


しかし、結局証拠を掴むまでには至らず…、

一時期シュンはクーデターを企てる直前まで追い詰められる事になる…。(第63話参照)


…。


バールの演説はまだ続いていた。

カンペも3枚目に突入しているが、それはこの際関係ない。


「…よって、我々は例え力ずくでも現状を打破せねばならないのだ…。」

「「「おおおおおっ…バール!バール!バール!!(爆)」」」


…そんな人間が西欧の人々の希望として担ぎ上げられていると言う現実。

シュンは正直湧き上がる怒りを押さえきれずに居る…。


(だが、暴走する中将に対する押さえになっているのも事実なんだよな…。)


…残念ながら、この西欧を纏め上げられそうな人間は、もはや残っていなかった。

木星蜥蜴はそう言う『カリスマ性』を持つ人間を優先的に始末している節があったからである。


…余談ではあるが、それは八雲の戦略のうちである。

だが、シュン自身は木星蜥蜴の正体を未だ知らない…。


…。


倒すべき敵は西欧の希望であり、自分の恨みを晴らす事は西欧方面軍の壊滅に繋がる…。

そんな笑えない事実に、シュンは深く打ちのめさせるのであった…。


(せめて…グラシス中将のお孫さんが戻ってきてくれりゃな…。)


…そんなシュンの望みは程なく叶う事になる。

だが…それは…。





…。




同時刻。所変わって木連側。

戦艦セキチク、ブリッジ部。


「2ヶ月かー…早かったなー。」

「…。(こくこく)」


…コガネとラピスが並んでポテチをつまんでいる。

仲良く並んでお菓子を頬張るその姿は、姉妹のようだと言っても良いほどよく似ていた。


…問題はそのポテチが盗品であると言うところぐらいか。(爆)


「…いい加減、木連に戻ってくれないですかね…。」

「無理よ兄さん、この子達…すっかりここの生活に馴染んでるし。」


…他のクルー達がげっそりしている事を除けば、子供達はここでの生活に慣れて来たと言えた。

…部屋には何時の間にか棚まで吊ってあるし。(汗)


「それにしてもさー、ねー八雲兄?」

「ん?、何でしょうコガネさん。」


…くるーり。

振り向くと、そこにはニコニコとした金髪の美女が一人。(汗)


「あの人どーすんの?」

「…。(汗)」


…その言葉に反応するが如く、突然艦内の明かりが落ち、誰も彼もが黙り込み、

挙句、舞歌が八雲とその金髪美少女の間に立って日本刀ぶん回す始末。(爆)


サラさん、一体ここで何やってるんですか…。(汗)


…。


だが、そんな些細な疑問は明後日の方向にぶっ飛ばし、サラがつつーっ…と八雲に擦り寄る。


「あの、でも私も命を助けられた身ですし…八雲さんのお役に立ちたくて!」

「いえ…でも、貴方が死にかけたのも私達の責任ですから…お気になされずに…。」


「いえ…それならなおの事。…あのまま見捨てておいても良かったんでしょう?」

「え、ああ…生きていたのに気付いた以上、助けないのは木連男児として問題がありましたので。」


…そう、実はあの時サラは脱出用カプセルに乗り込む事が出来、辛くも生き延びていたのだ。
…ご都合主義万歳!(爆)
とは言え瀕死の重傷を負ったのも事実。


脱出カプセルを見つけたセキチクに収容され、治療を受ける事になる。

…余談ではあるが、もし生き残りが男だった場合はほぼ間違いなく見捨てられていただろう。


…何にせよ、秘密兵器だと思っていた物が単なる疎開船であったことを知った八雲は、

罪滅ぼしの意味もあり、サラによく構っていたのだが…、


その結果がこれである。(爆)


「ちょっ…兄さんが困ってるわ…離れなさい!…ていうか離れろ。(命令形)

「あら、八雲さんの妹さん。」


「…2ヶ月経つんだから名前ぐらい覚えろやぁっ!!」

「…クスクス…怒ってばかりだと小じわが増えますよ?もう、若くないんだから。(邪笑)」


…一瞬即発。(自爆)


なお、八雲は例に漏れず鈍感系。

…なんでこうなったのか判らずに少々おたおたしている。


「舞姉…ぶっ壊れてるねー。」

「昨日…お互いのお皿に毒盛ってたのに…なんで両方生きてるかナ?」


…何気に恐ろしい修羅場がセキチク内部で行われていた。

だが、ナデシコ級だから…と、言ってしまえば何故かしっくり来るのは何故だろう…。(汗)


…。


さて、そんな修羅場も終わる日が来る。

…その日の夜、舞歌がサラにあてがわれた船室を訪ねたのだ。


「サラさん、こんばんは。」

「ああ、八雲さんの妹さん…舞歌さんでしたね。」


サラの台詞の『…』の瞬間、舞歌が隠し持っていた短剣をサラの喉元に突きつける…

等のアクシデントはあったが、対面は比較的穏やかに行われた。


「…単刀直入に言うわ。…貴方、家に帰った方が良いわよ。」

「…それは、脅しですか。」


…サラの喉からは血がドックドックと流れ出ているが、この際それを気にしてはならない。


「違うわ…最近、貴方のお爺さん…最近評判が良くないの。」

「…知ってます。…でも、何故なのかまでは孫の私でも…。」


…ずるっ

舞歌が座っていた椅子からずり落ちる。


「…判らないの?」

「はい。」


サラの目は真剣だった。

…余りに真剣で…真摯な瞳だった。

































…それ故に笑えた。(爆)




























…ベキシッ!!


「きゃあ、舞歌さん!…暴力反対!!」

「アンタの脳みそ…ねじが一本飛んでんじゃないの!?」


…舞歌、怒り心頭。


「こっちはわざわざ部下数人をこき使ってまでアンタを追い出す方策考えてたのよ!?…それを!」

「…本音が出てますけど。(汗)」


…しかも、よく聞くと自分は全く動いてないし。(爆)


「まあ、何にせよ…貴方のお爺さんが暴走してるのは、貴方が死んでると思っている所為よ。」

「…その方が貴方達には都合が良いのでは…?」


…まあ、確かにそうだ。

だが、ブラコン入っている舞歌としては兄に付いたこの悪い虫(爆)を排除する方が先決。


「そうね。…でも、なんだか可哀想でね。…行っておあげなさい。…兄さんには上手く言っとくわ。」

「舞歌さん…。」


慈愛に満ちた表情でそう言う舞歌。(面の皮一枚の下は般若)

…内心のドロドロした物が無ければ感動の台詞ではある。


「…とはいえ、兄さんに対する恩返しもある…って、昼間言ってたわね。」

「はい、命を助けられた恩は返さないと。」


…ニヤリ


舞歌の唇が歪んだ。

…その時の舞歌の顔を床下から見ていたコガネちゃんは後に語る。


「あん時、ほんとーに死ぬかと思ったよー。…すんごくじゃあくな顔してたし。」


そして、こうも言っている。


「…アレ見たら、氷室ちゃんの100年の恋も冷めちゃうよー、きっと。」


…それほど恐ろしい表情だったのだろう。

…しかし、氷室…5歳児にちゃん付けされてるぞ…いいのか…。(汗)


…。


ま、余談はともかく…舞歌は本題を切り出す。

…本来持つ切れ者としての能力を遺憾なく発揮した…その計画を…。(能力無駄遣い)


「…ねぇサラさん。…兄さんの役に…立ちたいんでしょ?」

「は、はい。」


…ギラリ


舞歌の目が怪しく光る。

…まるで、「言質は取った」とでも言わんばかりに。


「そう…ところで、兄さんの役割は知ってるわね?」

「ええ、その…木星の人で、軍の偉い人ですよね。」


「そう!…けれど…アレで結構兄さん…無理してるのよ…ヨヨヨ…。

「あ、あのー、大丈夫ですか…。」


わざとらしく嘘泣きする舞歌。


「けれど!…兄さんは無理をしてでもこの戦争を勝たないとならないのよ。
ああ、何て可哀想な兄さん!!(強調)

「えーと、それで私に何を…。」


…ガシイッ!!

何故かオーバーリアクション気味にサラの肩を掴む舞歌。


「よく聞いてくれました!!」

「…。(汗)」


…この時、サラは「しまったーっ」とか思ったものの、時既に遅し!!


「…貴方、西欧方面軍司令官、グラシス中将の孫娘なのよね?」

「え、ええ。」


「…なら、貴方にしか出来ない仕事があるわ。」

「…それって。(汗)」


目を血走らせ、逝ってしまった目付き(充血付き)でまくし立てる舞歌に対し、

怯えながら応じるサラ。


…最早この時点で勝敗は決まっていると言っても良い。

が、舞歌は容赦なく続ける。





























「…機密の横流しお願いね?」
「…無茶言わないで!!」


「そしたら兄さんに会えるチャンス上げるから。」

「だからって!!」

























余りといえば余りの事に、サラも思わず声を荒げる。

…しかし。


「…ま、私はどっちでも良いけどね。」

「え?」


…ぷすっ!


突然、サラは首筋に痛みを覚えた。


「…心配ないわ、ただの睡眠薬よ。」

「…エ…。」


…だが、それに関する疑問を口にする余裕すらなく、サラの意識は白く塗りつぶされていった…。




…。




ゴォン…ゴォン…ゴォン…


「はっ。ここは!」

「あ、目がさめた?」


…ぷらーん。ぷらーん。


「…これは一体?」

「お家に帰れるんだよー、よかったねサラ。」


…とは言え、ここは上空20メートル。

ここで、サラはロープでグルグル巻きの上バッタに吊り下げられる格好で飛んでいた。


…なお、バッタの上ではコガネちゃんが覆面姿で乗っかっている。


「…い、何時の間に。」

「…3日間も目、覚まさないから死んじゃうかと思ったよ?」


…考えてみれば、まだ身体に感覚が無い。

どう言う薬を盛られたのか…サラは恐怖に顔を引きつらせる…。


「…あ。」

「…え?」


…見ると、眼下に見覚えのある顔が…。


「さら…サラーっ、生きていたんだな、良かった…良かった…!」

「お爺様!!」


…感動の再会。

だが、それを打ち消すかのごとくコガネがスピーカーを構えた。


「あーあー、グラシス中将。…お宅のお孫さんは預かった!」

「見りゃ判る!!」


…突然の言葉にビックリしたのかサラが上を見ると、コガネが小声でボソボソ話してきた。


(…ほら、そのほうが自然でしょ?)

(そうは思えないけど…。)


だが、サラの意見を無視しつつ、再度構えられるスピーカー。


「…返して欲しくばぁ!!」

「…うむ!!」






























「今すぐ3500ユーロ用意しろ!!」

「「「安っ!!」」」






























…パチン…ごそごそ…。

…財布の中身のうち、ユーロは3480…。
































「…20ユーロまけてくれ!!」
「「「ヲイヲイ…。(汗)」」」





























「…おっけーだよー!」

「「「マジで!?(青)」」」



…。


人知を超えた交渉(爆)の末、遂にグラシスは孫娘を取り戻したのだ!!

…しかも20ユーロ値切った上で!(爆)


但し、既に周囲はやる気どころか立つ気力も残っていない。(汗)


「じゃあ、サラは返すよー。」

「…うむ!」



…ぱっ



「じゃあねー。」

「ちょっと待てぇえええっ!!」


…そして、コガネを載せたバッタは飛び去った。

上空20メートルからサラを放り出して。(爆)




…。




…そして、数日後。


「あら、サラさん?…通信なんかどうしたの?」

『ポケットの中に連絡用のアドレスが入ってましたから。』


…松葉杖をつきながら、サラが通信画面に現れる。

と言うか、よく生きていたもんだ。


「で、用件は?」

『…情報は…もって来ました。…八雲さんと会わせて貰えますね?』


…ズズズ…。

舞歌は玉露をすすりながら、『ああ、そうだった』的なリアクションを返した。


「そうだったわね、で、その情報は?」

『…部隊配置と増援部隊に関しての最新報告。…データは送信済み。』


…ごそごそ


「あ、これ?…確かにいい情報ね。…確かにチャンスぐらいは…。」

『じゃあ!』


…ごそごそごそ…。

舞歌はカードを3枚取り出す。


「はい、どれにする?」

『え…み、右っ?』


…ちらっ

舞歌は視線を軽くカードに移すと裏返した。…裏は白紙だ。


「外れ、残念でしたまたどうぞ!」
『ちょっ…!』



ブツン!!

強制的に通信をきる。


「しかし、ホントに情報流してくれるとは…危険ね。(爆)

「舞姉…八雲兄の事になると性格変わるねー。(汗)」


横で聞いていたコガネが何気なくカードを手に取る。

3枚とも白紙だった。


「ちょ…これって…。」

「さ、兄さんに報告しないと。…私が苦労して手に入れた情報だしね。」


…ぽろっ

流石のコガネも怯えの入った表情でカードを取り落とす。


「じゃ、私は行くわ。…コガネちゃん、それじゃあね。」

「は、はひ…!」


…そして、舞歌は上機嫌で自室を出て行った。

後に残されたコガネはと言うと…


「なんだか今日の舞姉…怖いな…。」


等と言いながら…
戸棚からせんべいを失敬しつつ
部屋から出て行くことしか出来なかった…。




…。


そして、ブリッジ。


「兄さん、新情報よ。…敵に増援が。」

「もう対処済みですよ舞歌。」


「…え?」


きょとん…とする舞歌。


戦巫女様が連合軍の会議をリアルタイムで追ってくれてますから、敵の士官よりもこちらの情報の方が早いのですよ。」

「…そ、そうなの…。(汗)」


ハッキングはマシンチャイルドの18番である。

…会議室の様子を映し出す事もまた容易かったのだ。…これに勝る生きた情報もあるまい。


…。


…運命の悪戯か、サラはスパイとして古巣に舞い戻る。

しかも、彼女の流す情報は決して最新情報とはならないと言うのに…。


それを知るのは3人の乙女のみ。

だが…その布石が生きてくるまでには、今しばらくの時間が必要となるのであった…。

続く


::::後書き::::

BA−2です。

…時ナデ見てて、結構サラって思い込んだら一直線…的な部分があるように思いました。

そこで、彼女が別の相手に惚れたら…という設定ではじめることに。


…しかも、どんなに情報流そうがラピス経由の方が絶対早いと言うおまけ付き!(爆)

無論、サラはそんな事は知りませんが。


…さて、そろそろアキト達も出したいなぁ…等と思いつつ。

今回はここまでとさせていただきます。


今後も頑張るので応援宜しくお願いしますね。

では!

 

 

代理人の感想

もっとも安価なヒロイン。

その命、42万ギルダン円なり。(爆)

 

・・・・安い、安いよ(爆笑)!

 

 

 

しかし、よー考えてみるとなしてバールがここにおるとですか?

アフリカ方面軍の人のはずですが・・・・・飛ばされた?

グラシスもてっきり前回で死んだと思いましたしね〜。

時に、孫娘が帰ってきても反転したままなんでしょうかこのひと(笑)。