機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー
 

                            世紀を超えて

                         第31話   嵐の粛清

 

…カツ…カツ…カツ…

ムネタケの足音が遠くに消えていく…。

そして…会議場とは名ばかりの死刑台には…二人の男だけが残されたのであった…。


・・・。

…むくっ

アキトが起き上がる。

アキトは血袋を巻いていたお陰で無傷だった。

…そしてゆっくりと中央の防弾ガラスに近寄り、おもむろに拳を振り下ろす!

ガシャー−−ーン!!!

…厚いガラスが事も無く割れる。

カツ…カツ…

そして、中佐に歩み寄り…そっと抱きかかえた…。


「大丈夫か…?」


…だが、アキトには分かってしまっていた。

出血量から考えても、絶対に助かる事は無い…と。

…ゴホ…こ…黒帝…か?」

咳き込む中佐。

その顔からみるみる生気が失せていくのが分かる。

「…そうだ…俺が黒帝だ。」

…よく似て居る…。

それがアキトの感想…彼は子孫…即ちミスマル提督によく似ていた。

…無論、別人だとは分かる。

だが、その顔に血の流れを見たアキトは…正直、血の気が引く思いだった…。

「…まったく…偉い事になってしまったよ…。」

「…喋るな…出血が多い。」

ゴホ…だが…奴等の尻尾は掴ませてもらった…ぞ…。」

「…辞めろ…喋るな…!!」

…それでも中佐は話すのを止めない。

もしかしたら、自分の死期を悟ったのかもしれない…。


「…一部始終は、この…隠しマイクで…ガハッ!

「頼む!喋るな!!」


…そして、おもむろに襟の階級章を外し、アキトに握らせた…。


「君なら…信用できると…思う…この…中のマイクロチップに…。」

「分かった…この中に一部始終が入ってるんだな…分かったから…もう…!」


「出来れば…子供達…に伝え…て欲しい…私は…無実…だ…と…」

「分かった…探し出して伝える…だから!!」


…中佐の目の焦点が合わなくなってきた…。

それでも話しつづけるその姿は…燃え尽きる直前に大きく輝く蝋燭の如く!

「大佐…に…も…宜し…く……。」

「もういい、分かったから少し休んでください………提督!!


声が荒くなる…思わず口走った言葉から、
アキトの中で彼と義父を重ねて見ているのが分かる…。


「はは…私は…唯の一佐官に過ぎない…。」

「…いいから…黙って…。」

…何時の間にか、アキトの目に涙が溜まる…。

そこに…そっと暖かで大きな手が添えられた。


「貴方も…人の…為に…泣けるの…だな。」

「…。」

「…やはり…似ている…。」

「………。」


「大佐の…力に…なって欲しい…あの方は…一人で…背負い過ぎだ…。」

「…わ…分かった…。」


「あり…が・と…う…。」

 

 

 

・・・。

 

 

 

「おい…ちょ…まて…あぁぁ…。」

 

 

 

安らかに…目を閉じる中佐。

…そして…それっきり、中佐が目を開ける事は…無かった…。


…。


…何をしてやる事も出来ず、

取りあえず亡骸を並べたイスに寝かせてやるアキト。


…その目からは血涙すら流れ出ている…。

…無表情に見えるその顔は…怒りが許容限界を超えた証なのか…?

…余人には知る術もない…。


…。


『やれやれ…アキト…生きてる?』


そこに現れたのは…こんな時でも能天気に感じるダッシュの通信。


「…丁度良いところに…。」


…だが、アキトにはそんな場違いな雰囲気を感じ取る余裕すら無かった。


「コイツを…全世界に流しておいてくれ。」


…そう言うと、アキトの手から、一瞬だけ階級章が消え、また現れる。


『OK!…ついでにこっちで集めた分も合わせてばら撒いとくね!』

「…ああ、頼む…あの連中…生かしておけん!

『あ、そ…じゃ、ここから出ようか?…データ転送!』

…そして、アキトの脳内にあるデータが送られてきた。

それは、昨日打たれたナノマシンの概要…。


「…ほお…これはこれは…。」

『凄いでしょ?…自信作だよ。』


…アキトはすこぶる気に入った様だ。

さて…その性能とは?


…!?…アキトの周囲に突然ボース粒子が!!


「もう、あのクソッタレの遺跡に頼る必要も無い…か。…ジャンプ!」


…シュン…。


…アキトは跳んだ。

…この時こそ…体内にボソンジャンプの演算ユニットと、ボース粒子発生機能を有した存在…すなわち、


『S級ジャンパー』


の誕生の瞬間だった!


…その体内に演算ユニットを有する為に、遺跡の力を必要としないのだ。

遺跡関係でその人生を何時も弄られ続けたアキトにとって、とても嬉しい話だったのは疑う余地も無い。

・・・。

しゅん!

…アキトがジャンプアウトしたのは、すぐ側のドームだった。

「…さて…どうした物かな…。」

…アキトは正直、迷っていた。

今更…独立派に義理立てするつもりも無いし、

かといって連合軍に入るのもはばかられた。


…いっそ、このまま消えてしまうか?

…本気でそう、考えた…。

…だが、歴史はどうしてもアキトをその渦中に引き込みたいらしい…。

「く、来るな…!」

…何処かで聞き覚えのある声がする。

「…煩い!お前等が…黒帝を殺すからだ!!」
「…アキト兄ちゃんを帰せ!」
「…そら、逃げ場はもう無いぜ!!」

連合軍兵士が独立派の誰かに襲われている様だ。

…既に死んだ事にされている自分に苦笑しつつ、ゆっくりと近づいていく。

…思えば、あれは単なる気まぐれだった…。

後にアキトは妻にそう語っている。

ガシッ!

毛むくじゃらの腕が兵士を掴む。

「…へぇ…女か…しかもかなりの上玉だ…。」
「こりゃ、少しは楽しませてもらうか?」

「…楽しむ?」

…独立派側は3人。

20歳半ばの男が二人、そして、小学生位の少年一人…。

少年は言葉の意味を分かっていない様だ。

「…お前の年じゃ知る訳無いか。」
「ま、女相手に苦痛と屈辱を与えるにはこれ以上無いやり方だ。」


…それを聞いた少年は、

「…出来るだけ苦しめて殺したい…兄ちゃんや父ちゃんのカタキだから!」

…それを聞き、ニヤッと笑う二人。


「よおし!…では、勇敢な2等兵よ…行け!!」
「…いいか、まずアレをこうしてああして…。」


ドガッ!!


「ガハッ!?」


…吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる青年B!

…そこには…黒尽くめの男がいた。


「子供に強姦の仕方を教えてどうするつもりだ…。」


…その姿に驚く青年A。


「な、黒帝!?…嘘だ、アンタは今ごろはもう死んでるはず!!」


ガシッ!!


アキトの腕が男を吊り上げる!


「…ほう、知っている…つまりは共犯か?」


…アキトの眼の奥に狂暴な光が宿る…。


「ひっ…!?」


…数瞬後…男は壁の中でオブジェとなっていた。

…その足元に何かが落ちている。


「階級章…特務少尉?…ん、あれか!?」


…アキトは随分と新しい壁を見つけ、それを引き剥がす…中には…、


「ビデオカメラ…成る程な…連合の戦意高揚映画か…。」


…そして…今さっきまで乱暴されかかっていた女のほうを向き…驚いた。


「…アオイ・マスミ中尉!?」

…どうやら、本物を撮る事で、リアリティを出すつもりだった様だ。

…それが許されるかは別問題だが。


「…行こう…ここは危険だ…送っていく。」


…アキトはマスミの手を取り、この場から離れようとする。

いずれにしても、服を乱した年頃の女性をこんな所で一人にしておいては、何処かで誰かの餌食になるのは間違い無いからだ。


…そして、数歩歩いたところで…それは起こった…。


「とおちゃんのカタキぃーーーっ!!」


ズサッ…


ナイフがアキトに突き刺さ…らなかった…。

子供の力では、ディストーションフィールドを張ったアキトの戦闘服を貫通など夢のまた夢…。


「…何故だ?」


アキトは問う。


「ニセ黒帝め…覚悟しろぉ!!」


…泣きながらも折れたナイフで戦おうとする少年。


「…ニセだと何故言える?」

「黒帝は…本当のアキト兄ちゃんは…連合を残らずやっつけてくれる正義の味方なんだぞ!!」

「…。」

グス…本物が…本物が連合軍を助けたりするもんかぁ!!!

「連合が全て悪な訳じゃない…それに正義だからって全て許される訳じゃ」

「許されるさ!…だって正義だもん!!…ゲキガンガーだも」


ガスッ!!!


…アキトは無意識に少年をぶん殴っていた…。


ドガッ…ゴロ……ン……。


…壁に当たり、床に打ち据えられ…もう…少年は起き上がらない…。

…暫くして…周りに赤い絨毯が広がった…。


「…正義なんて…何処にも無かったんだよ…。」


…震える声で亡骸にそう告げると、アキトは懐に手を入れた。


取り出されたのは…薄汚れた紙の勲章。
…以前、研究所奪取の後…目の前に横たわる少年から貰った物だ。
既に、水性インクで書かれた『えらい』の文字は霞んでいた…。

…それをビリビリと破り捨てるアキト。

「…正義は無い…特に…戦争には…ね…。」

…その、虚ろな目に映るのは…一体何なのだろうか…?

・・・。

…格納庫まで二人はやってきた。

だが、そこでは…!


「銃撃戦!?」

「…何て事…。」


…既に戦闘が再開されていた…両者一歩も引かずに撃ち合って…。

この場所では双方50%を超える被害を受けている様だ。

…だが、引く気配は無い。


「…ミスマル中佐のカタキを取れ!」
「卑怯な反乱軍を許すな!!」

「我等が英雄、黒帝テンカワアキトは卑劣な敵の策に掛かり命を落とした!」
「勇者よ…我等に続け!!」

…この双方の台詞から、両者の発表は容易に想像できよう。

施政者にとって、英雄の最大の使い道はこれかも知れない…。


…。

「アキト!!」


突然後ろから聞き覚えのある声が掛かる。


「ラピス…無事だったか!」

「うん、でもアキトは大丈夫なノ?」


…暫くアキトは黙っていたが、意を決した様にラピスに言う。


「…ラピス…月を離れるぞ。」

「火星に戻るノ?」

「…いや、マスミ君を連れて帰らないといけないからな。」

「…では!?」


「ああ、行き先は…地球だ…!


・・・。


そして、アキト達3人は、物資搬入用のゲートに来ていた。


「アキトは多分、逃げようって言うと思って…用意してたノ。」


…そこにはエステバリスが数機と…アキトのリモニウムがあった。


「さ、じゃあ…すぐに行ク?」


…。


「…困りますね…そんな事されちゃあ。」


突然声が掛かる。

…柱の影から、背広でマシンガンを構えた男が出てきた。

しかも…動きに隙が無い。


「…軍人では無さそうだが?」

「…ま、政府のエージェントって奴です…。」

…そして、男は話し出した…、この騒動の真の原因を…。

…事の起こりは、その当時の政府の支持率が、連合政府結成以来の低い水準に落ち込んだ事から始まる。

連合の瓦解を恐れた時の施政者は、とんでもない暴挙に出た。

…独立運動に資金提供を始めたのである。
無論、多数のダミーによって資金の出所は解らなくしてあるが。

それにより独立運動は激しさを増し、遂に武力衝突にまで発展。
…それが政府の狙いだった訳だが。

シミュレーション上では、反乱勢力との激戦により疲弊した国民が愛国心に燃えて団結、支持率が上がったところで全力で撃滅すると言うものだった。

…が、指揮官が拙かった…。
手柄を焦るあまり、ムネタケがいきなり核を使ったからである。

…幾らなんでも…いきなり核を使っちゃ国民が黙っていまい。
そこで、やむなく政府は事件自体を隠蔽した…。

…。

「ですが、ようやく決着のメドが立ちました。」

「…それがこの会議か。」

「そう。英雄を失い反乱軍は瓦解…と言うのがこちらの予定なのです。」

「随分勝手だな…。」


…カチャ!


「動かないで下さい…あなたはともかく他のお二人が危ないですよ…。」


…背広が後ろにも!

流石のアキトも二人を庇いながら戦えるか!?


「貴方が死ねば二人は助かりますが…。」


「…嘘ですね?」

「ええ。………何ぃ!?


…ダンっ!


…背広が倒れる!


「大丈夫ですかアキトさん!?」


アムだ!…久々にライフル構えて…あれ、人殺して平気になったの?

「アキトさん関係に関して、ボクに躊躇はありません。(きっぱり)」

…あ、そう。

・・・。


「ふふ、まだ仲間がいましたか!ですが!!」


そして、手を高く上げる背広の男!

…すると、上の階から数十人もの背広が一斉にライフルを乱射…しない?


「…おや?」


・・・。


「…既に貴様の仲間は全員そこらに転がっているぞ。」


…そして、2階から飛び降りる人影が一つ。


「…純粋な同志達の心を踏みにじりおって…!!」


ザッ!!…男は背広に音も無く近づく!


「知っていれば…クソッ!!


ドガッ!!


「…つ、強い!」


…それだけ言い残し、背広は気を失った…。


「…流石ですね、南雲さん。」

「…南雲…ああ、七瀬さんの旦那さんか…。」


…男が近づいてくる。


「火星では第3班…採掘基地を任されていた…南雲だ。」

「テンカワ・アキトだ。」

「…災難でしたな。」

「…まあ、初めてではないからな…平気だ。」


「…出て行かれると聞いたが?」

「取りあえず地球へ行く。もう、ここには居られない。」

「…それなら、頼みたい事が…。」

「…丁度良い。こっちも頼みたい事がある。」


・・・そして10分後。


「では、宜しくお願いします…。」

「ああ、もし会えたら…聞いておく。」


「それで充分…では私は、リューマ大佐を開放しに行く。」

「…大丈夫か?」


「初対面の相手に無理な頼みを聞いてもらった。…当然だ。」

「こちらは…必ず会えるとも限らんぞ?」

「それでも…絶対に会えない……よりは良い…。」

「…そうか…そうだな。」


…。


「行ってしまった…あのような方が独立派にも居たの…?」

「ええ、マスミさん。あの人は謎の古武術の使い手でして…。」


(成る程…木連式の始祖の一人…と言う訳か。)


…その時…アキトの目に飛び込んできたものが!


「さ、地球に凱旋よ〜!」


モニターには…、

遠くの格納庫で…戦艦に乗り込むキノコ一行!!

そのまま急ぐ様に艦隊が発進していく!


(…!!)


…アキトは無意識に走っていた!


そして、すぐ近くにあったエステバリスに乗り込み、艦隊を追撃する!!


「見つけたぞムネタケ…!」


「アキト…リモニウムは!?」
「アキトさん?…置いてかないで下さい!」
「あ、あの…一体何が!?」


…周りの声も耳に入らない…。

アキトは久々に怒り狂う自分を見た気がした…!!


「貴様だけは…貴様だけは!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


「…ふふふーん…地球に帰ったら、私も遂に司令官様になるのね!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


「貴様が地球の土を踏む事は…無い!!」

「なっ!?」


「…消えろ−ッ!!」

そして、アキトの追撃戦が始まる…。

続く


::::後書き::::

BA−2です。

…さあ、見せ場の一つだ!

アキト VS キノコ艦隊!

勝つのはどっち…って考えるまでも無いか。


…今回のエピソードでアキトは地球に向かう事に…。

さて、どうなることやら…。


こんなのでも応援して頂ければ幸いです。

では!

 

 

代理人の感想

 

追撃戦って・・・・・『戦闘』になるのか(苦笑)?

かなり一方的な『虐殺』になりそうな予感すらします。

でもアキトってあれだけの経験をしてもやっぱ心は弱いままなんですね。

無意識の内にでも「正義」を信じて、すがっている辺りが・・・・。

 

 

・・・ところでナツメは捨ててく気(爆)?