機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


                              世紀を超えて

                           第36話  仮面家族



…豪奢で…それでいて何処か滑稽さすら漂う、中世ヨーロッパの城そのものともいえるピースランド城…。

アキトはアムに連れられて、この城の長い廊下を歩いていた。


だが、豪華なのはいいとして、何処か…ずれたような印象を受ける。


かつて…ルリのお供で来た時同様に城の外にはバルーンが浮かび、その上城内には観光客の姿さえ見える…。


…ホールの中央で記念写真を取っている修学旅行らしき団体すらいるのを見たとき、アキトはふと思ってしまう。


…歪んでいる…と。


…。


城下町には、相変わらずピサの斜塔や凱旋門の偽物が立ち並び、その中に紛れる様にカジノが林立している…。

…その収入が第二の永世中立国を作り上げる元になったのだろう。

…だが、アキトはそれをどうしても好きになれなかった…。


…。


カツ…


アムの足が止まった。

…目の前にはひときわ大きな門が見える。


『謁見の間』と書かれたその門の下には《満員御礼》の札がかかっている。


「…この奥にアムちゃんのご両親が…?」

「そうです…。」


…心持ち緊張しているアム。

だが無理もあるまい…ここには楽しい思い出など、殆ど無かったのだろうから。


…。


「…暫しお待ちを。」


突然…初老の男が横から声をかけてきた。


「…じい!」


嬉しそうにアムが駆け寄っていく。

…この男は、アムの実母に昔から使えていた男で、アムの世話係でもあった。


アムの実母が没した際に『命ある限り娘を守れ』と命じられ、

以来その命を忠実に守りアムを支えてきた、彼女にとっては数少ない味方であった。


…容姿としては、以前ルリを迎えに来た大使に似ている。…もしかすると先祖かもしれない。


…。


「姫様…大きくなられましたな。」

「爺も元気そうで何よりです…。」


「…この老骨など…さっさとくたばった方が世の為なのでしょうが…。」

「む…ボクはそう言う冗談…嫌いです…!」


…ニコニコ笑ったり頬を膨らませたり…。

アムがここまで感情を露にするのはこの男だけかも知れない。

恐らく完全に信頼しているのだろう…。


…無論、アキトやナツメ達は除いて…だが。


…。


(…しかし…久しぶりにしては当たり障りの無い会話ばかりだな…。)


ふと、アキトが不自然さに気づく。

…すると男は腕章を軽く指差した。


『侍従長』と書かれた腕章には、良く見ると不自然な突起がついていた…。


(…成る程…盗聴機か。)


…アキトが納得した時、後ろからメイドが歩いてくる。

…手に大きな箱を持って…。


「…侍従長…持ってまいりました。」

「…ご苦労。」


…そう言ってメイドから箱を受け取った侍従長は、箱の中身を取り出すと、アキトに寄ってきた。


「…テンカワ殿でしたな…これをお召しになって頂きたい。」


…それは…マントと…剣!?


「…マジですか?」

「…はい、決まりですので。」


…この時代、恥ずかしい風習が蔓延して居たのだろうか?

まあ、鎧兜を渡されなかっただけマシだったかもしれない。

だが…それを身に付けたアキトは…、


…似合っていた。(爆笑)


「…マントは付け慣れてましたしね。(ぽっ)」

「…いや、驚くくらいに似合っていますな…。」

(…しくしく…。)


…そして、それを待っていたかのように扉が開き始めた…。


『アメジスト姫の…おな〜り〜!』


…恥ずかしいアナウンスと共に、アムは、それがさも当然の様に歩いていく。

アキトも後に続くが…何か…釈然としないものを感じていた。


(…如何したんだろう…アムちゃん…まるでお芝居をしているみたいだ。)


…。


それは…あながち間違った感想ではない…。

これから始まるのは…まさしくお芝居そのものな『茶番劇』だった…。


…。


「…おお!アメジスト…我が娘よ!!

「アメジスト…良く無事でいてくれましたね…!」


…大広間に入った二人を迎えたのはそんな、一見暖かな声だった。

…だが、アムの父親と義理の母に浮かんでいる笑顔をアキトはこう評した。


(まるで人形だ…。)


…そんな張りついたような笑顔に対し、アムもお決まりらしい台詞で応じる。


「父様・義母様…ご迷惑をおかけしました…。」


…アムは無表情だ。

だが、何かどす黒い物が渦巻いているのがアキトには解った。

そして、その原因も…。


…。


「いやいや…気にするでない!」

「ホホホ…そうですよ、アメジスト。」


「…はい、有難う御座います。」


うむ!愛娘も帰ってきた…ピースランドの未来も明るかろう!!」


…何処か、いや…多分に芝居がかった会話が続く。


…。


そして…30分程が経った。

…そこで、アキトにも話が振られる。


「しかし…貴君の功績は大きい…。」

「これは…何か褒美を与えねばいけませんね…。」


…しかし、アキトはだんまりを決め込む。

はっきり言ってかなり怒っていた…。


おお!そうだ…!!」


ポンと手を叩く王様。…相変わらず芝居がかっている。


「貴君に『サー』の称号を与えよう!」

「まあ、素晴らしいですわ…良かったですわね…。」


(…おいおい)


…正直、アキトはこのまま帰りたくなっていた。

何故なら…、


わぁぁあああ…、

「今日のお芝居は何時ものと違うね?」
「観客参加方式じゃないのか?」
「お母さん…オシッコ」
「…しかし、ここってお姫様もいたんだ?」
「経営者自らアトラクションに参加ってのも凄いよね」
「…所であの男の人…カッコ良くない?」
「結構ランク高そうだよね?」
「うるせー、俺のほうが!」
「えー?」


カシャカシャと焚かれ続けるフラッシュの光…。

そして、騒々しい喧騒がアキトの側まで聞こえてくる…!


そう、この一部始終は観客に公開されていたのだ!!

…あまりと言えばあまりな扱いに、怒りを堪えるので精一杯のアキト!


…。


「因みに「サー」には完全フリーパスが与えられ…、」

「この国の施設使用料などが無料になるのですよ!」


おおおおお・・・騒ぎ出す観客。


「因みに食事なども全てタダじゃ。」

「一生ホテルに泊まっていても良いのですよ…。」


「サーの称号」とはVIP用プラチナチケットのような物らしい…。

これさえあれば、カジノ以外で金を使う必要は無い…と言う優れ物。


注:…お気づきかも知れないが、ピースランドはまだ独立前…、ま、自治区みたいな状態だと思って頂ければ良いです。


…。


「…侍従長!」

「ははっ。」


…そして、先ほどの侍従長が、カードを一枚お盆に乗せてアキトに近づいて来た。


「ささ、お受け取り下さい…。申し訳無い…今暫くお付き合いを…。


…最後の一言で少しだけ救われたのか、アキトはカードを手にすると、慇懃に頭を垂れる。


「………ありがたき幸せ…。」


正直な所…早く終わって欲しいのだろう。

さもなくば、もう少しだんまりを続けていたはずだ…。


…。


そして…盛大な拍手の中、この『劇』は終わった。

…観客達はゾロゾロと広間から出て行く。


…そして、暫く経ち…観客が全て出ていったのを見計らい、アムが口を開く。


…盛大な歓迎どうも…さて、父様。」

「…なんだ…アメジスト。」


…先程とは打って変わって額に皺を寄せている。

やはり…演技だったのだろう。


「今回帰国したのは…お暇乞いをする為です。」

「そうか…ふん!…何処へでも行くがいい。


…。


「…有難う御座います…では。」


…そのまま踵を返し、退室しようとするアム。

だが、それを引きとめる声があった…。


「待て。…このまま行かせたらワシは娘を捨てた極悪人だ。」


パンパン


そして国王が手を叩くと、舞台の裾野からスーツケースを抱えたメイドが走り出てきた。

…そして、アキトにそれを押し付けると逃げる様に引っ込んでいく。


「手切れだ…アメジスト。後は何処へでも行ってしまえ。」

「…はい、そうさせて……頂きます。」


…アキトが中を確かめると、ぎっしりと隙間無く金塊が入っていた。

盗聴機・爆弾などの類も入っていない所を見ると、本当に後腐れなく縁を切るつもりなのだろうか?


「…貴様…本当に父親か!?」


だが…正直、アキトには信じられなかった。

幼い頃、両親を亡くしたアキトには、施設の窓から見える…親子の楽しそうな姿が記憶の奥底に焼き付いていた。
更に、義父と慕った男…ミスマル提督は…良い意味でも悪い意味でも「父親らしい」男だった。

…そんな訳で、『家族』に幻想的な物を抱いていたアキトには、到底容認できない話だったのだ。


…。


そこに別な声がかかる。


「…それにしても、このままお別れと言うのは…寂しいですわね…。」

「…義母様?…ですが…。」

「…サードニクスももう少しお話したいでしょうし…。」


…いかん!…アメジストがこの国にいるのは災いの元じゃ!!」

まあ酷い!…ご自分の娘になんて言い方でしょう…!!」

「ぐ…!」


「…少し…待ってくれないか?」


突然…アキトが口を挟んだ。


「…王妃様…貴方を疑う訳じゃないんだが…何故アムちゃんを引きとめようとする?」

「何故…と言いますと…どう言う事でしょうか?」

「このままアムちゃんが居なくなれば、自動的に貴方の息子が次の王になる。」


…僅かな…沈黙の後、王妃は口を開く。


「…勿論、自分の産んだ子に王位を継いで欲しいですわ。」

「では…どうして?」

「ほほ…だからといって、義理の娘を追い出すのは信念に反しますので。」


…。


「ふぅ…解りました…では、もう一週間だけ…お世話になります。」


…アムが折れた。…まあ、こう言う展開では当然かもしれない。

だが、心配なのか…アキトが思念を送る。


(危険じゃないか…特に君のお父さんは…)

(…居るのは一晩だけです…明日には消えましょう。)


(そうか…ま、アムちゃんが決めた事に口を挟む気は無いよ。)

(済みません…最後に故郷の街を見て行きたくなったんです…。)


…そして、二人は街に繰り出す事となった。

…だが、


(…兄上テスト第二段です…僕は…姉上に幸せになって欲しいんですっ!)


…怪しい影がちらほらと…。

続く

::::後書き::::

BA−2です。

気づいてみれば36話…さてさて、アキトが元の時代に戻るのは何時になるやら…。

…所で…アムの両親が登場しました。
…でも、名前を付ける気はありません。…国王・王妃で十分意味は伝わりますし。

…にしても、何か怪しい展開になってきましたね(邪笑)


…まあ、こんな物ですが応援して頂ければ幸いです!

では!

 

 

 

代理人の感想

 

・・・・ど〜ゆ〜ふ〜に「怪しい展開」なのかな? ん(笑)?

意味深な発言ですねぇ(^^;