機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


                          世紀を超えて

                         第39話 脱出!

 

…現在、午後11時…。

アキトは、周囲を包む…数十名もの人間の気配が変わった事に気づく。


(…来るな…。)


そんな内心を抱えつつ、アキトは隣りの部屋にいる、アムの元に向かう。


…殺気が強くなっていくのが解る。

作戦時間まで、もう間も無いのだろう…。

…急がなくてはならない。


…ガチャ…


戸を空けると、アムは普段通りを装っていた。

…装って…と言うのは、例のライフルを手の届く場所に置いている事から解る。


…恐らく、この雰囲気をおぼろげに掴んでいるのだろう。

だが、アキトは…そんな雰囲気が理解できるアムを痛々しく思っていた…。


何故なら、本来…普通の少女が理解できる次元の問題では無いから…。


…。


その頃…サードニクスはアムの部屋に向かっていた…。

そして、次の角を曲がれば部屋につく…と、思った瞬間…焦げ臭さに気づく!


「これは…火薬の匂いですか?」


…そして、駆け出そうとしたその時!


ドゴォォォーーーン!!


…爆風が、曲がり角の先から吹きつけてくる!!

この規模なら、周囲は恐らく木っ端微塵だ!!


「…あ、姉上!?」


…ダッシュで曲がり角を曲がるサード!

…そこには…!!


「…何も…無い!?」


…そこに、あった筈の建物自体が吹き飛んでいた…!!

部屋どころの話では無い…。


…。


呆然と立ち尽くすサード…。

だが、その視界の先に映った物があった。


…何やら話し込み、その場から立ち去る近衛兵が数名。


…こんな事になったのに、静かに立ち去るなどという事は通常考えられない。

普通は大騒ぎしながら、皆に知らせるなり、パニックするなりだろう…。


ならば、考えられる事は一つだ…。

そう…犯人である。


「…尾けてみますか。」


…横目で、アキトに抱えられて着地するアムを確認し、多少落ちついたのだろう。

静かに犯人達を追うサード。


…。


そして今、彼はとある部屋の前で聞き耳を立てていた。

…いや、固まっていると言った方が良い。


それだけ、彼にとっては信じがたい内容だったのだ。


…。


部屋の中には…国王と王妃…そして、先ほどの犯人である近衛兵達がいた。


「…それで…アメジストさんを取り逃がしたと言うのですか?」


…相変わらず、張りついた笑みを浮かべたままの王妃様。

だが、何と言うか…発する雰囲気が…怖い。


「は…ですが、もう間もなく捕らえられるかと。」

「…その場で始末なさい…そして、亡骸は必ず私の元に。」


「ですが…誰かに見られたら…。」


「一人ぐらい…始末すれば良い事…それより確認のほうが大切です。」


…穏やかな表情で、怖い事をのたまう王妃様。


「…逃がしたら、どんな災いをもたらすか解りません…今しか機会は無いと思いなさい!!」


「はっ…時に、護衛についている連合軍人はいかがなさいます?」

「…消しなさい。」


「軍を敵に回されるのですか?」

「我が方を敵に回せるほど、連合は金銭的余裕はありません。」


「それでも…一応…。」

「解りました…息のかかった者に連絡しておきましょう。」

「ありがたき幸せ。」


…そこまで話が済むと、王妃は周囲の皆に対し、宣言した!


「…正当なる血筋は一つあれば良い…!!」
「アメジストさんを…
抹殺なさい!!」


…その言葉と共に歓声が響き、兵士達が慌しく動き始めた。


…。


…そして、それから数分後…。


部屋には、王と王妃しか残っていない。


ううう…ぅぅぅぅ…。」


王が突然苦しみ出した…王妃は振り向くと注射器を取りだし、何かを注射する。


・・・ぅう。

「…ふふ、貴方はこのお薬が好きねぇ…。」


…程無く…王の苦しそうな息が落ちついてきた。


「……王妃よ…幾らなんでも…やりすぎでは無いか…?」

「何がですか?」


「…別に…生きていても、お前達の害になるとは思えんのだ」


…ぱぁ…ん


王妃が王の頬を張る。

あの、張りついた笑顔のままで…。

「黙りなさい…従わないのなら、はもうあげませんよ。」

「…!!」


…黙り込む王。


王は、既に『薬』無しでは生きられなくなっていた。

彼に与えられた薬品が何であったか…容易に想像がつく。


「…ですがね…あの子がいけないのですよ?」

「…な…何?」

「だって…あの女の娘なんですもの……。」


…オホホと笑う王妃…だが、良く観るとその目だけは決して笑っていない。


…恐らく、前王妃…アムの母とは骨肉の権力闘争を繰り返してきたのだろう。

その怒りが…アムに向いてしまったのは、不幸としか言い様が無いが…。


…。


…午前一時。

アキトとアムは…侍従長の運転する車に乗って、山岳地帯の道をひた走っていた…。

とにかく、早くこの国から脱出しなくてはならない…!


「…もしも…が来てしまいましたな…。」


…何処か寂しげに侍従長が言う。

…彼は、このときの為にと車に細工を施している。

…その為、車は凄まじい勢いで山道を走っていた…!


「しかし…いきなり爆破してくるとはな…。」

「ええ、何人か巻き込まれてますよ…絶対。」


「あの方の信念は、禍根を残さぬ事…ですからな。」

「…だから、追い出さずに…。」


…侍従長はコクリと頷いた。

その顔には…苦悩が色濃く出ている…。


…。


それから…どれだけ走っていただろうか?

既にスピードは250キロを越え、既に…曲がりきれなくなり始めていた。


「なあ…所でスピード…出し過ぎじゃないか?」


…流石にアキトが言う。

逃げるのも大切だが、その前に事故にでもなったら元も子もない。


「そうですかな?…所で…姫様…覚えておいでですか?」

「…何をです?」

「私が貴方の母上に誓った事です…。」


…アムは口に人差し指を当て暫く考えていたが、突然ポンと手を叩く。


「ああ、命ある限り私を護る…って奴ですか?」

「…この爺は、命ある限り貴方様の味方で御座います。」

「何を今更…。」


「…ですが、今…私は誰の禄を食んでいるとお思いですかな?」


…突然、侍従長が拳銃を抜く!!


「…じい!?」
「あんた…まさか!!」



「…現王妃様より…姫様が逃げ出した際には、撃ち殺せと言われております。」


「…そんな…!!」


…だが、その拳銃がアムやアキトに向く事は無かった…。

銃を下にさげ、侍従長は続ける。


「…ですが、先ほども言った通り、私には前王妃様との誓いも御座います。」

「お、脅かさないで下さい!」


「ですから…この頑固爺には…こうする事しか出来ませぬ…。」

「…!!」


カチャ…

拳銃が、侍従長自身の頭に向けられる!


「じい…駄目!!
「…馬鹿な!!」



…お許し下さい、姫様…!!


ダキュー…ン…







「いや…嫌……嫌ぁああああああっ…!!!







…そして…運転者を失った車は…ガードレールを突き破り…崖下に落ちていくのであった…!!


続く!

::::後書き::::

BA-2です、「世紀を超えて」第39話…如何でしたか?


…最後、乗った車が崖から転落しましたが…。
ま、アキトもいる事だし…無事だと断言します。

侍従長…彼の死に様は、連載開始当初から決まっていました…!
…いやあ…ここまで持ってくるの…長かったなぁ…。


…こんな駄文ですが、応援して頂ければ幸いです!

では!

 

 

代理人の感想

 

う・・・・・・

理解できるだけにやりきれませんね。

要領のいい人は、こんな時でもどこかに逃げ道を見つける物ですが、

真面目な、或いは不器用な人間は、こうなってしまうわけです。

崖下に落ちたアキトとアムはどうでもいいですが、侍従長さんのご冥福をお祈りしましょう。

 

 

 

・・・・・・・・つーかちょっぴり身につまされる感じ(超爆)。