機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


                            世紀を超えて

                          第40話 暗黒の剣

 

…がさ…がさ…がさ…


(…五月蝿いな…。)


…がさ……がさっ…がさ…


(…なんだ…俺は…一体…?)


…がさっ…がさっ…がさっ…がさっ


(…そうだ…俺は…転落の時…アムちゃんを庇って・・・。)


…。


がばっ!


「…こ、ここは!」

「…谷底です…。」


…アキトが目を覚ました時…アキトとアムはサードニクスに背負われて、谷底を移動している最中であった…。


「サード君…俺達は…。」

「…車が転落したんです…じいは…駄目でした…。」


…正確に言うと、彼の死因は自殺である。

だが、正確な事情を知らないサードにとっては、事故死にしか見えなかった様だ…。

…転落の瞬間を見ていたサードは、急いで駆け付け…息のあった二人を背負い、谷底を移動していたのだ…。


因みに…その判断は正しかった。

…今、車の転落地点は…アムの遺体を探す兵士達で溢れている…。


…。


一時間は歩いただろうか?…アキト達は、海岸に出ていた。


遥か彼方に、国境が見える。

が、そこでは…何時に無いほどの厳重な警戒態勢が敷かれていた…。


「…これじゃあ、通れそうも無いな…。」

「ええ…兄上だけならまだしも、姉上も連れてじゃ…無理でしょう。」


…既に周囲にはアムの顔写真と、賞金の情報が張ってあった。

唯一の救いは、あくまで「行方不明」扱いである事だけ。

だが…これでは、おちおち街も歩けない…。


「…止むを得ないな…。」

「…はい?」


…そして…アキトは、ある作戦を考えついた…。


…。


「…あ、あの男は!!」
「いたぞ!!」
「追え…!!」


暫くして…アキトは街はずれを走っている…。

…当然、兵士達に見つかった。


そして、まるでそれを待っていたかのように…アキトは逃げ出すのであった…。


…。


一方その頃…。


「はぁ…はぁ…。」


サードは未だ目覚めないアムを背負い、山の中を走っていた。

…アキトが注意を引きつけている間に、アムを国外に脱出させようと言う作戦である。

…そして、サードニクスは…山岳地帯の国境目指して走っていたのである…。


(…この奥の監視所は、何時も手薄なはず…なら、行けるはずだ!!)


姉が死ぬのは嫌だ…しかも自分の母親に殺される…ときたら、なおさらだ。

…その一念が彼を突き動かしていた…。


…。


更に数十分後…アキトはと言うと…。

まだ、戦闘を継続していた!


「そらっ!」


バシッ!

アキトの投げた石ころが、兵士Aに直撃する!

…これで、丁度50人目だ!


「くっ!!」


ザシュ…ガシッ!…ドタン!!

ナイフを持って突っ込んできた兵士Bは、軽くいなされ地面に叩きつけられた!!


「…まったく…手応えが無いな…。」


…完全に余裕の表情でアキトが言う。


「…そうかな…?」


…それに対し、兵士Cがボソッと言った。


「何…?」

「アレを見てみな…!」


…そして、深夜の町外れに…巨人が姿を現す…。


「…軍の試作兵器だそうだ…こいつ相手にどうでる!」


ゴスッ!!


…今まで喋りまくっていた兵士Cを殴り飛ばし、アキトはソレに相対する…。

それは…。


(…エステバリス…もう、量産が開始されているのか!?)


そう…他ならぬ、アキト自身が持ち込んだ兵器。

…エステバリスであった…。


…。


そして、アムとサードはと言うと…。


「…はぁ…ここだ…。」


森林の中にある国境の監視所…。

…ここは、普段から手薄な場所であるが、以外とその事は知られていない。

そして…今夜も…警備の兵は…いない!


…鍵は…かかっているが…。


「…でも、僕にかかれば…とぉっ!!」


…ガシャーン!


本当に…あっさりと壊れる鍵。


「しかし…南京錠が二つだけって…。ま、今回は助かったけど…。」


…そして、中に入るとアムを揺り起こす。

…サードにも立場があるのだ。これ以上先にはついて行けない…。


「…ん…?」

「あ、姉上…大丈夫ですか!!」


…アムは、未だぼんやりと虚空を眺めていた…。


「…サード…?」

「はい、僕です…。」

「アキト…さんは?」

「今、囮になってくれています…いずれ追いつかれるそうです…。」


「…そうですか……あ…じい…じいは…?」

「…。」

「サード…じい…は?」

「ゆ、行方不明…です…。


サードニクスは、本当のところ…侍従長の亡骸をその目で確かに見て居た。

だが、言えるはずも無い…。

…結局、こうしてお茶を濁すしかなかった…。


…。


「…サード…ここは?」

「国境の監視所…今は警備がいません。…向こうに行けば国外です…。」

「…そうですか…。」

「…姉上…?」


サードは…先程から、何処かアムの質問がぎこちない事に気づく。


「…サード。」

「はい?」

「すいませんが…少し、離れててくれませんか?


…。


「…え?」

「多分…もうじき…感情が制御できなくなると思いますんで…。」

「でも…危険です!」

「…多分…側に居たら、貴方をひっぱたいてしまうと思いますが…。」


「…。」

「…ボクは…最後までよい姉で居たい…です…から…。」


…結局…サードは引き下がるしかない…。

そして、踵を返し…二度と振り返る事は…無かった…。


「う…う…ぅ…。」


後ろに聞こえるのは姉の啜り泣きだろうか?

…そして、監視所を離れ、一分ほど歩いたその時…。


ぅぅぅ…ああぁぁぁぁぁぁ…!!


…彼は絶叫のような泣き声を聞く事となる…。


それは…今まで抑えてきた激情…
そして、怒りと…悲しみの結晶と言える物。


…そして、これが姉と弟の…

…今生の別れとなるのであった…。


…。


そんな中…アキトは…。


ズズゥゥゥ…ン…!!


「うわっ…クソッ…どうすりゃいいんだ!!」


…生身でエステバリスと戦う方法を模索していた…!

だが、大体にして対機動兵器用のエステ相手に…生身で何が出来る!?


…そして、今はただ逃げまわるだけ…。

だが、時が過ぎるにつれ…アキトは確実に追い詰められていた!!


「畜生…何か…何か手は無いのか!!」


…アキトが心底そう願ったとき…奇跡(?)は起こった!!


『手ならあるよ?』


見てたのか…ダッシュ!

だが、今はそんな事を論議している場合では無い!


「どんな手だ…!?」

『その前に…実は、アキトの体内のナノマシンで、一種類だけ稼動してないのがあるんだよ。』

「…今は関係無いだろうが!!」

『いや…それを動かせば勝てるんだ…絶対に。』


「…よし、なら動かそう!!」

『あ、待って…でも。』


ズシィィィン!!


…振り下ろされるエステの腕…。

アキトとしては、量産機などに殺されたくは無い!!


「今は余裕が無いんだ!!」

(ニヤ)しょうがないなぁ…アキト、じゃ…行くよ。』

「…今、非常に不愉快な感じがしたが…頼む。」


ヴ…ぅぅん…


『…今、話にあったナノマシンの活動を抑制してた電波を解除したよ。』

「…解除すると?」

『ま、見ててよ。すぐ解るから…。』


「見ててよって…何がだーっ!?


…その時…エステバリスが、もって居た棍棒を振り下ろしてくる!

さっきからの会話で、隙が生まれていたのだ…!


(…駄目だ…避けられない!)


…その時…アキトは思った…。

助かりたい…と。…あの攻撃を受け止められる力が欲しい…と…!


…そう、まだ…死ぬわけには行かない!!


…ドゴォォォォォ…ン…


…。


「…本部へ…目標Bを殲滅…これより帰還します」
「…目標Aは発見できず」
「なお…周囲に人影無し…排除の必要性は認められない」


…勝利を確信した敵パイロット達は、報告をいれる。

IFSの事を知らない連合軍は、パイロットを三人で動かす事で解決したらしい。
因みに、操縦者と砲撃手、そして、通信・索敵要員(指揮官)である。


「…これで、姫の護衛はいなくなった…か。可哀想だが…これも運命ってやつか・・・。」


…どうやら、アムが生きている事は、筒抜けの様だ。

いや、そうでなくとも…死亡が確認されるまでは生存扱いする気なのだろう。


だが、そうそう上手くはいかない物だ…帰還しようと足を上げたとき…彼らは気づいてしまった…。

そう、彼の機体の脚の下に…何かが立っている!!


「馬鹿な!」


…ゆらり…。

その…黒い影は、暫く佇んでいた…。

…どうやら、自分の身に起きた事が理解できないらしい…。


「…これは…一体…?」


…ふと、横を見ると…うち捨てられた廃屋の、ひび割れた窓に自分の姿がうつっている。

…それは…黒い何かを身に纏っていた…!


「だ、ダッシュ…これは…なんだ!?」

『うーん…ま、鎧みたいなもんだね。』

「…よ、鎧ーっ!?」


…アキトはふと、中世の騎士をイメージした。

…昼にピースランドで参加させられた茶番劇のせいもあるかもしれないが…。

…だが、不用意な事を考えるべきでは無かったかも知れない。


ピシッ…!


なぜなら…イメージした途端…体を覆っていた『何か』が、完全な鎧の姿を取ったからだ!!


「…おい…これは一体!!」

『詳しい事は後で話すけど…今は敵を倒したら!?

「な…わ、解った…!」


しかし、ダッシュ…何考えてる?


…。


そして…因みに敵は…固まっていた。


「…何で生きてるんスか…隊長!!」
「俺に聞くな!!」
「…あわわわわわ…!!」


まあ、交通事故で潰された車内から、何の変わりも無くスタスタと人が出てきたような物だ。

…恐ろしくて当然。


だが、埒があかないと感じたのか肩に乗せていた機関砲を発射する!!
(どうやら戦車から取ってきたらしい)


…ガン!ガン!ガン!
ダダダダダダ…!!



でも、平然と弾き返す!!


「ぜんぜん効いてないです!!」
「そんなの聞いてないです!!」
「…嘘だぁぁぁああああっ!!」


…哀れな…。


…。


所でその時…アキトは…悩んでいた。


「…でも、あんなデカブツ…どう倒そう?」


…そう、防具はあっても武器は無いのだ。

第一、三人乗りにした都合上、機体は10m強にまで大型化。

…その為…どう戦うか、見えてこないのだ…。


そして、止せば良いのにアキトときたら…。


「なあダッシュ、武器は無いのか!?」


…あーあ、聞いちゃった…。


『…良くぞ聞いてくれたね!』

「(ぞくっ)…あ、やっぱいいや。」


『…えー、全身のナノマシンを活性化させた上で、手に相転移で得られた全エネルギーを集中して。』


…聞いてねぇ!!


「…解った…。(泣)」

『…そして…そうだね、今日は剣をイメージしてみて。』

「…了解…。」

『そしたら、さっきまで封印してたナノマシンを、手に集中する!』


ズヌ…


「げっ!?…腕から剣が生えてきたぞ!?

『はい!もっと集中!!』

「…うう…俺、ホントに人間なのか?

一応そうだから、安心して良いよ!』

「…い、一応!!?」


…そうこう言っている内に、剣には柄まで生えてきた!

…最後まで生え終わり…そのまま手に取るアキト。


すると…剣も漆黒に染まる!!


「…なんなんだよ…一体!」

『さあ、切るんだアキト!…いや…今回は投げつけても良いな。』

「…ちきしょう…やりゃ良いんだろ!!」


…ズサッ!!


剣が凄まじいスピードで敵機に突き刺さった…と、思ったら!!


メリ…メリメリメリ…ぐしゃ…


…敵機は剣を中心に潰れていく!!


「うわぁぁあああ!!」
「ひええええええ!?」
「…出番これで終わりかーい!!」



…そして、この為だけに存在した雑魚三人をも巻き込んで…

最後に残ったのは…先程の剣だけであった…。


…。


ふぁさ…


そして…戦闘が終わると同時に、鎧と剣は粉となり…消えてしまった…。

…本当に訳のわからない物だ。


「さて、ダッシュ君?」

『いいよ…せつ…解説するよ。』


『何か』が出てきそうだったので、あえてあの言葉を避けるダッシュ。


『さっき、封印を解いたのはね、エネルギーを物質に変換するナノマシンなんだ。』

「は?」

『エネルギーと物質は本質的に同じ物だ。』

『そこで、相転移してきた無尽蔵のエネルギーから物質を作るのがこれの役目さ。』

『…通常、物質からエネルギーを取り出す方が遥かに効率が良いんだけど…。』

『相転移エンジンなら、論理的には無限だからね。』


「訳がわからん。」


『(無視)で、作った物質をある特殊なナノマシンの精製に使うんだけど、』

『そっちは、より固まった後、強固なディストーションフィールドを張るんだ。』


「つまり、あの鎧や剣はナノマシンの結晶なのか?」


『うん。ただ寿命が短い上にエネルギーを食うから、使用後はすぐに破棄するんだけどね。』

『因みに黒くなるのは、フィールド同士の相乗効果でマイクロブラックホールになっているから。』

『ナノマシンの一つ一つが、フィールドを張ってるから…そこまで行く訳だね。』


「…わかったような…解らないような…。」

『正式名称は、マイクロブラックホールコーティング・ナノメタル=ウエポン。』

『長い様なら
ナノメタル・システムでも良いけどさ…ま、好きに呼んでよ。』


…。


…兎にも角にも強大な力を手にしたらしいアキト。そんな彼が、自らの能力に首を捻っている頃…。

…山の方でも、大きな動きが起ころうとしていた…!



「…さあ、サード…アメジストさんは何処かしら?」

「あ…姉上…は……。」


ぶーら…ぶーら…


何処から取り出したのか、五円玉を目の前で揺らし、自分の息子に催眠術を掛ける王妃…。(汗)


「さあ、私の可愛いサード…。」

「…うう…。」


…。


…怒りますよ?(にっこり)」

「…か、監…視所!……ガク」


…一瞬…気を失うサード…。

しかし、彼女の怒りとは、果たしていかほどの物なのだろうか?(汗)


ぶーら…ぶーら…


場所は吐かせた…それでも王妃は五円玉を揺らしつづける。


「サード…貴方は数日前から謎の熱病で寝込んでいました…。」

「…ねこん…ねこ…ねつ…。」


「アメジストさんから届いた手紙も…ここ数日の事も…すべては貴方の夢の話…。」

「…ゆ…ゆーめ…夢…。」


「明日には元気になってベッドで目を覚ますでしょう…。」

「あす…あす…元気…。」


ぱん!


…サードは気を失う…今度は完全に。


「…聞いたとおりです。」

「ははっ!」

「サードを寝かしておきなさい…それと、口裏合わせを頼みましたよ?」

「は、ははっ!!」


「うふ…ふふ…サード…貴方にはこっち側の世界はまだ早いのです…忘れなさい…全て…ね。」


そして…あの張りついた笑顔で王妃は笑うのだった…。

続く

::::後書き::::

BA−2です。

さあ、ついに40話の大台に乗りました!


…お山ではシリアスな話が進む一方、アキトはと言うと…更なるスーパー化!
エネルギーを異常に無駄づかいしつつ、最強道を突っ走っています!

あ、因みにナノメタルシステムは、ブーステッド系列の最強装備です。
…昂気に対抗できるブーステッドが必要になりそうなんでね…。
因みに、空想科学読本2(だと思った)を読んでいて思いついたネタです。

さあ、アキトから離れて泣いているアムに迫る王妃の魔の手!
…頼みのサードはおねんねだ!!

アキトは間に合うのか!!


…こんなのでも応援していただけるなら幸いです!

では!

 

 

代理人の感想

 

いや・・・アキトみたいに人間離れはしてないけど王妃様も結構多芸だな(汗)。

ひょっとしてピースランドに輿入れしたのもこの芸のおかげ(爆)?

 

ますます人間離れしたアキトの方ですけど・・・・

いくら昂気でもマイクロブラックホールにゃ当たり勝ちはできないと思うんだが(汗)。

まあ、「当たらなければどうと言うことはない!」という名言もあるにはありますけどね(苦笑)。