機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


                           世紀を超えて

                       第43話 帰るべき場所

 

 

…ずず…


レビア老の部屋でお茶をご馳走になっていたアキトだが…ふいに動きが止まる。


「…稼動音?」

「連合軍みたいですね…どう言う事でしょう…?」


…レビア老に至っては、敵の正体すら半ば見抜いていた。

そして、敵を迎え撃つべく…アキトは駆け出していった…!!


…。


「…音を立ててはいかん。」

「はい、タナカ司令。」


…この部隊を指揮している男は、連合極東方面軍司令の一人でタナカ少将と言う。

子孫はTV版第3話で「ミスマル提督…貴方からも何か」と、言っていたタナカ・サブロー
…提督の「振袖姿に色気がありすぎる」の台詞等から、苦労人と思しき男であったが…。


…さて、先祖はと言うと…?


「ふふふ、テンカワ大佐め…よくも試作機を部下に破壊させたな…。」


「おい、大丈夫かよ?」
「…言うな…せっかくの出世のチャンスを潰されたんだ…。」
「むしろ…降格させられるんじゃあ?」



この男…能力はあったが上司に恵まれず、退役間近にようやく少将に昇進。

…しかも、新型機を任され…、
上手く行けば中将…つまり方面軍の総司令になれたかも知れないのに、突然スポンサーからの貸与要請。

…それに、実戦テストを兼ねて貸し出したのが運の尽き。あっさりとアキトに破壊されてしまった…。

…月の軍勢との戦争の為に作った新型機と、そのデータを失ったのだ。
責任は重い…。
…遂にぶち切れた(頭のネジも外れた)彼は、遂に強硬手段に出たのだ…!


ついでに言わせてもらえば…これでアキトを殺したからと言って、彼の責任は消えません
…あしからず。


…。


…そして…その頃。


「…明確な状況説明をお願いしたいのですけど?」

「私はバール…貴方は私に組み敷かれています。」

「…いえ、そうじゃなくて…。」


…アムは男に抑えつけられていた…!!


男の名はバール。

「時の流れに」で有名な、バール少将の先祖であった。…この時代は民間企業の人だったという訳。

…因みに子孫よりも酷い男…だと思う。

言葉づかいは…丁寧だけど。


「こう言うのって犯罪ですが?」

「…では如何しますかな?」


「アキトさんを呼びます。」

「無理ですな…窓の外をご覧になれば分かります。」


…見ると、屋敷は武装した兵士達に囲まれていた。


「…あの程度、アキトさんの敵じゃあ無いです。」

「ですが、私としますと…時間稼ぎになれば良いかと思いますがね?」


…男はそう言うと、ニヤリと笑った。

それを見て、アムはふうと息を吐く。


「…何でボクなんです?」

「貴方がレビア様のひ孫だからです。」


男が僅かに寄ってきた…。

舌なめずりが、やけに汚く見える…。


「…社を乗っ取るつもりですか?」

「いえ…貴方の夫になれば、そんな事をする必要も無いでしょう?」


…この男がここに来た理由はそれであるようだ…。


「…でも、貴方はボクの趣味と違いますんで…お引き取りください。」

「これは手厳しい…。(汗)」

「第一、ボクはアキトさんのお嫁さんになるんです。…売約済みなんですよ?」


…ここまで思い込めるのも、ある種の才能と言えるかもしれない。

…ルリ達と出会う事があったら衝突は必至だが…。(汗)


「では、力ずくで我が物とします。(きっぱり)」


因みに…ここまで言いきれる奴も珍しいかもしれない…。(多かったら、それはそれで嫌だ)


「…アキトさんに殺されますよ?」

「貴方が言わねばバレはしません。」


「…言わないとでも思っているのですか?」

「言うという事は…何があったか話さなければなりませんよね?」

「…!!」


ニヤリ笑いが強化される。


…因みにバール(先祖)の姿は、かなり醜い。
しいて言うなら『ジェネレーション・オブ・カオス』のヒスミード(ソルティ解放軍)だろうか?
因みにPS2のゲームです。…分かりにくいネタで済みません…。(汗)

しかし…もしバール(子孫)がコレと似ていたとしたら…凄く嫌だな…。


…。


…兎に角、

肉団子な男に圧し掛かられた挙句こんな台詞を吐かれた日にゃ、普通の子なら卒倒する。

その上…。


「では、婚前交渉と参りますか?」

「………嫌…絶対嫌っ!」


「はっはっは…そう言うのは逆効果ですよ?」


「…嫌あぁあああっ!!!」


「…因みに、ご自慢のライフルは向こうに転がしておきましたので…あしからず。」


…そして、男は片手を離すとアムの艶やかな髪に手を伸ばす。


「…!!」

「ふふふ、ご幼少の頃に一度会った時には…ここまで美しく育つとは思いませんでしたよ…?」



…そして、遂に男の手がアムの寝巻きに掛かった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…アキトが駆け付けた時…、

ベッドには、
紅い華が咲いていたのであった…。

 

 

 

 

…。

 

 

 

さて…僅かに時系列を戻す。


《…嫌あぁあああっ!!!》


「アムちゃん?」


ふと、リンクから声が聞こえた…それも、悲鳴だ!!


だが、アキトはまだそこを離れられなかった…!
…連合軍の包囲網はジワジワと狭められて居たのだ!


「ふむ、これで最後だ…テンカワ大佐の弟よ!」


…ガシャ…


戦車隊の砲身がアキトを捕らえた。


「ちっ…!」


アキトは銃撃しようと試み…ブラスターを取り出そうとした。

…そして気づく。


(…しまった…ブラスターは持ってきていない!)


そう、今アキトのブラスターは手元に無かった!!

そして、それは致命的な隙を生む…!


「…やれっ!!」



…ドォォオオオオオン!!



戦車の砲撃は…小さいとは言え、クレーターすら作っていた…。

周囲の木々は吹き飛ばされ…元の面影すら残してはいない…。


だが…!


「貴様等に構っている暇は無くなった!!」

「なんだと!?」



…アキトは無事だった!

あの黒い鎧を身に纏い…何事も無かったかの様に、そこに立って居たのだ!!



「悪いが一撃で決める。……来たれよ…我が暗黒の空間へ!!


ずずっ…ガガガガガガッ!!


コード入力と共に…ブラックホールが精製された!

…引き込まれる、敵戦車部隊!!


「せ、戦車が引っ張られる!?」
「うわーっ…おかあちゃーん!!」
「わ、わ…死にたくなーい!!」



…グチャ…!!


…そして…全てはブラックホールの中に消えていき…最後には静寂が残った…。

…哀れな敵司令官を残して…。


「…な、なんなんだ貴様は…!?」

「消えろ…もう俺の前に姿を見せるな!」


…そして、呆然とするタナカ少将を残し…アキトはアムの元に向かった…!!


…。


バタム…!!


「あ、アム…ちゃん…!?」

「…あ…きと…さん…?」


…ベッドは、血で真っ赤に染まっていた…。

そして、


「お守り…役に…立ってくれました…。」


…半ば呆然とした顔で言うアムの手には…アキトのブラスターが握られていたのだ…。

 

…。

 

…また、時系列を戻す。


「ふふふ、ご幼少の頃に一度会った時には…ここまで美しく育つとは思いませんでしたよ…?」


…そして、遂に男の手がアムの寝巻きに掛かった!!

…だが…!


「もし、離したのが逆の手だったら…貴方の勝ちでした。」

「…なに?」


サッ…!


銃口が男の眉間に向けられた…!


「…アキトさんのです…お守り代わりに持たせてくれていたんですよ。」

「…い、一体何処に!?」

「枕の下…まさか使う事になるとは思いませんでしたが。」


「ま、まさか本当に撃つ気か!?」

「…手を…上げてください…!」


…男はびくっと震えて両手を上げた…。


「…貴方の本当の敗因は、この程度の脅しに屈したことです。」


そう言って、アムは今まで抑えられていた方の手を枕の下に突っ込んだ!


…カチャ!


「…本物はこっち。」


…そして、逆の手からテレビのリモコンが落ちる。


「ぐ…汚い!」

「少女の寝込みを襲う方が、余程汚いです。」


…アムの指に、僅かながら力が篭った…。


「…あ、待て…いや、待ってください…!」


「考えてみると…殺す気で銃を撃つのは…始めてです。」

「え…あ、ま、待ってくだ」

 

 

…ぱぁ…ん…!

 

 

「…怖い怖いって泣きついていたら、アキトさん、自分の銃を渡してくれたんです。」

「…銃が無いと、自分が困るって言うのに…。」


…パァン…パァ…ン!!


男は額を打ち抜かれ…既に事切れていた。

…だが、アムは構わず撃ち続ける。


「お守りだって…言ってくれました。」

「…本当に守ってくれるとは思いませんでしたが…。」


カチリ…カチ…カチ…


既に弾は切れていた。

だが、アムは引き金を引きつづける…。


「ボクは、アキトさん以外の男性の物になる気はありません。」

邪魔者は…排除します。

「…全身全霊をもって…!!」


…少女のその目には…僅かながら、狂気が渦巻いて居た…。


…。


…アキトが駆けつけたのは、そんな時であった…。

そこでアキトは、壊れかけたアムを見る事となるのである。


「お守り…役に…立ってくれました…。」


そう…、アキトのブラスターを手にし…半ば呆然としながら話すアムは…、

微笑んでさえいた…。


…。


取りあえず…アキトはアムを着替えさせ、別の部屋に寝かせる。

そして…そこにレビア老がやってきた。


「…最悪です…予想が甘かった…。」


…憔悴したひ孫を見ながら…レビア老は唇をかんだ。

無論、アキトも怒りに歪んだ顔を崩そうとしない。


「くっ…申し訳ありません…俺は彼女に…人殺しをさせてしまった…!」

「テンカワさん…あのまま放っておいても、取り返しのつかない事になっていたでしょう。」

「…だからって…。」


…痛いほどの沈黙…。

二人とも押し黙ったまま…無為に時が流れていった…。


…。


…そして、レビア老が、不意にポツリと口を開いた。


「この子には、安心して暮らせる場所など無いのでしょうかね?」

「え…?」


「この子を我が家の人間としてでなく…一個の人間として扱ってくれる方は居ないのでしょうか…?」

(…いや…居る…いるぞ…!)


「私は…ただ、幸せになって欲しいだけだったのに…。」


その時…突然アキトが叫んだ!


「…居ますよ…ありますよ!!」

「は…?」

「アムちゃんを…仲間として扱ってくれる人達が!


…そして、それからたいした時もかけずに…旅支度を整え、アムを抱えたアキトが居た。


「連絡すら出来なくなるんですね…。」

「ええ、なにせ火星ですから…。」


アキトはダッシュからの情報で、皆が火星に戻されたことを知っていた。

…そう、アキトはアムを火星に戻すつもりなのだ…。


「アムに、白紙委任状は持たせましたか?」

「カバンに入れておきました。」


「…それじゃあ…アムを宜しく…。」

「はい…。」


…そして、レビア老から離れると…アキトはナノメタルシステムを起動する。


…ヴヴヴヴヴ…!


マイクロブラックホールが周囲を包む。それは…まるで闇色の卵のようだ。

…そして…それが消えた時、そこには老人が一人だけ残されていた…。


…。


「ああ、行ってしまった…。」

「…私の子供達は…これで全員が空の上ですか…。」


…レビア老はかぶりを被った。


「…いえ、少なくとも…あの子は生きています。」

「ならば今の私に出来る事は何か?」


そして…老人は今一度、表舞台に立つ決心を固める。


「…今の私に出来る事…それはあの子に、出来うる限りの物を残してやる事…。」

「ならば…今一度、頑張りましょうか。」


「あの子が戻ってきた時、社が残っている様に。」
「あの子が戻ってきた時、スムーズに手に入れられる様に。」
「あの子が戻ってきた時…幸せになれるように…!」


「…もしかしたら、戻ってくるのは…あの子の子孫かも知れませんがね…。」


…そして…その後、マーベリック社は存続される事となった。


アキトが本来居た歴史では、レビア老の死と共に…傘下の全社が独立し、

…その後はネルガルやクリムゾン等に吸収されるはずだったのだ…。


…本来無くなった筈の会社の存続…それは、今後いかなる結果を生むのか…?

その答えが出るのは…まだずっと先の事…。


…。


…そしてアキト達は…火星にジャンプアウトした…。

続く


::::後書き::::

BA−2です!

…しかし…時系列が交錯する話は書くのが難しい…もしかして分かりにくかったかも…。
…あの『紅い華』の表記に、騙される人が出てくれれば取りあえず成功なんですが…。


あ、ナノメタルシステムに付いての追加説明。

…最後の方に出てきた「闇の卵」ですが、これは普通の人間をジャンプさせる為の防御膜です。
…戦艦クラスのフィールドを発生させるのですが、
もしもの時の為に、ブラックホール化するほどに厚く張っています。

欠点は、あまり同じ人に多用できない事。
…短期間に連続使用すると、ブラックホールから放たれる放射線の所為で、白血病等にかかり易くなる。
…アキト本人の場合、体内のナノマシンが、ある程度は放射線を除去してくれる…。


あ、火星に行きますが…多分、すぐに戻る事になると思います。

…さて、こんな物ですが応援して頂ければ幸いです。
では!

 

 

ひねくれた代理人の感想

 

すいません、ダマされませんでした(苦笑)。

どうも裏を読む癖がついてしまって。

まぁ、結構あからさまだったと言うのもありますけど。

 

時にブラックホールって放射線出すの?