機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


                            世紀を超えて

                   第48話  メギドの炎は解き放たれし(前編)

 

≪某月某日 午前8:00 連合軍空母の甲板にて≫


「…テンカワ・アキト。ナイトメア…出るぞ!」


…爆音を轟かせ、アキトの機体が飛び出していく!

そして、それが…クレ海軍基地・奪回作戦のスタートであった…。


…。


…その日、クレの街は異常な雰囲気に包まれていた。


無論、連合軍の大軍が基地を包囲していたからだ。

ついこの間、訳の解らない宗教団体が軍の基地を占拠したばかり。


…軍からの反撃など、当然予想された事だが…それでも住民は怯える。

…何故か?


逃げ出そうと思えば逃げ出せる。だが、殆ど逃げようとはしない。

…何故か?


…その事を調べるべく、当地に赴いた諜報部員は驚愕の事実を知る事となる。


そう…人質だ。

教団は、各家庭から「強制改宗」の名の元に人を連れ出していたのである。


…そして…軍が取った策は…強行突破…。

…無論、名目上は…だが。


…。


≪午前8:20 戦闘空域≫


「…行くぞ!!」


アキトが吼える!…既に、敵の戦闘機部隊は突っ切った!

…後方では未だに激しいドッグファイトが続けられている。


技量は未熟な連中だが、向こうにとってこれは宗教的闘争…「聖戦」なのだ。

…軍側の被害も甚大。


しかも…敵は、気球に人を吊るしてライフルを持たせ、浮遊砲台としている。


…無論、撃てばすぐ落ちる。

だが、それは同時に一人の人間の死を意味するのだ!


「急がないとな…俺の敵は…いたっ!!」


基地が見えたその時…向こうから、先行生産型のエステバリスが飛んで来た!


「…ぷ…プロペラで飛ばしているのか!?」


…ふらふらと飛ぶ敵。…だが、数が多い!

何時もならともかく…今回は時間が無いのだ。


「20機はいるな…山崎がアレを使う前に…辿りつけるか!?」


…うち合せた時間は8:30…後、10分も無い!


…正直…敵の数が予想外に多い。

恐らくは未完成のままで試作機を動かしているのだろう…。

正直…きつい状況だ!


「ちっ…間に合わないか?」

「…大尉…援護します!」


バラタタタタ…!!


「ラピッドライフル…マスミさん!?」

「大尉…ご無事ですか?」


そんな時…マスミが現れた。

かつてのアキトの愛機、『リモニウム』を駆って!


…普段の口調と違い、軍人らしい話し方のマスミ。

そのジュンのような物言いと、ユリカと瓜ふたつな容姿に、アキトは思わず苦笑するしかなかった…。


「大尉…ここは私が食いとめます…先に進んで下さい!」

「無茶だ…第一ソイツをどうやって動かしている!?」


「…アキト!」


「…ラピス!?」

「はい、彼女に協力して頂いています。」


正直…アキトは血の気が引いた。

…ラピスが乗ってきているとは思わなかったのだ。


「大丈夫なのか?」

「うん、マスミお姉ちゃんはIFSに慣れてないからサポートをシテル。」


「…大丈夫なのか?」

「はい、大尉…この機体は優秀ですので。」


…アキトはふうと息をつくと、この場を任せる事にする。


「了解…じゃあ、リモニウムは任せるから…死ぬなよ?」


「はい、了解しました。」

「アキト、私がいるから心配要らナイ。」


…そこでマスミはふっと表情を崩す。


「…アキト、貴方も死なないで下さい。…ラピスちゃんと二人で貴方の帰りを待ってますから…!

「ああ、大丈夫だ。」


…意味深な台詞に何一つ気づかないアキト。…嗚呼、天然なるかな!!


…そして、マスミは敵軍に対峙した。


「…凄い数…。」

「大丈夫…マスミお姉ちゃん用にカスタマイズしたこの機体ならネ…。」


…事実、リモニウムは生まれ変わっていた。


黒かったボディは、ライトブルーに塗りなおされ、
9連装ミサイルランチャーが両肩に装備された。
背面には225mmキャノン砲『ヒュドラ』を2門搭載。
同時にバックパックが装備され、そこに相転移エンジンが搭載されている。
そして、白兵戦用には両腕にアルストロメリアと同様のアイアンクロー!



…マスミ仕様に改造されたリモニウムは、


『ラティフォリウム』


の名を与えられ、この後…連合軍最強の機体として長くその名を残す事となる。


…。


≪午前8:30 クレ海軍基地入り口付近≫


「間に合ったか!?」


ズザザザァァーーーッ!!


アキトは機体を着地させるとアサルトピットから飛び降りた!

…そして、オートパイロットで機体を退避させる!


「…。」


どぉ…ん


「今だっ!!」


…突然の爆発と閃光!

アキトはそれを待っていたかのように基地内に飛び込んでいった!!


…。


≪午前 8:25 とあるビルの屋上≫


「…時間だね。」


山崎は時間が来ると同時に、今朝早くに急遽備え付けられたミサイルランチャーのスイッチを押す。


ドシュ…ダシュ…ダシュ…!!


「さあて…追い付けるかな?」


そして、猛然とダッシュを始めた!


…。


≪午前 8:31 クレ海軍基地入り口付近≫


山崎は、茂みからひょっこりと顔を出し、辺りを見まわしている。


「…行けるかな?」


ダダダッ…


…人外の速度で中に入っていく不審な人影に気づいた物はいなかった。

何故なら。


「ぐぐ…目が…目が…!!」


…先ほどの閃光で、見張り役が残らず眼をやられていたからである。


…。


≪午前8:30 基地レーダー室≫


「…部隊は一進一退です。」

「…ん?」


その時である。


「「!!…ぎゃあああああっ!?」」


…突然の爆音!

…ソナー手の耳がやられた!


「…おい、大丈夫か………ん!?」


そして…レーダーを見ていた者が気づく。


ぴーっ…ぴーっ…


「な、何だこれは!?」


レーダーは…画面全体が光り…場所の特定が不可能になっていた…。


…。


≪午前 8:33 基地廊下≫


「やあ、テンカワさん…ようやく追いついたよ。」

「無理してくる必要なんか無いんだぞ?」


…山崎は首を振る。


「僕の設計図が誰かに迷惑かけてるとなったら…何とかしないと。」

「そうか…しかし、あのレーダーキラー』は反則じゃないか?」


…レーダーキラー

それは…先ほど山崎がぶっ放したミサイルの正体である。


ふつう、レーダーから逃れる為には、

保護色を身に纏ったり音が出ない様にしたりして、目立たない様にするのが基本である。


だが、これは、一味違う。


耳を済ませたソナー手に、いきなり爆音を聞かせて耳を奪う。(無論、一時的なもの)

さらに、弾頭は爆発せずに着弾し、

レーダーに対し、大きく映る様に調整された信号を発する。


…結果、反応が大きすぎる為に、レーダーの光点は画面全体を覆い、

その他の機影の反応は、事実上解らない。


…レーダーの感度を下げても無駄。

そんな物でどうこうできるレベルでは無い…。


…。


≪午前 8:38 基地内部≫


「あれか…?」

「あれだね…。」


…アキト達の目の前に、人質達の姿が映る。

倉庫であったと思われるその部屋には、人質が200人前後。

見張りは10人居るが、正直アキトの敵ではあるまい。


だが…人質を殺されたら元も子もない…。


…。


≪午前 8:40 同上≫


警備に隙が生まれた!

偶然、この部屋にただ一人の赤ん坊が泣き出したのだ。


全員何事かとそこを向く。


(今だ!)


…バッ!!


アキトが飛び出した!!

そしてそのまま部屋の中央に踊り出る!!


「フィールド…!!」


…人質達の周囲にディストーションフィールドが張られる!


ガン!…ガン!


敵の銃撃はフィールドに空しく弾かれた!

…そして、山崎が何処からか調達してきたロープで敵を捕らえていく!


…。


≪午前 8:43 崩壊の時≫


…ついに、敵は全員縛り上げられた。


「有難う御座います!」
「助かりました!」
「家に帰れる!!」



開放された人々は、口々に礼を言い、逃げ出していく。

礼を言われる機会の減っていたアキトとしては、とても嬉しかったに違いない。

だが、この時…アキトはつい、油断してしまった!


バタタタタタ!!


「うあぁああっ!!」
「きゃぁっ!?」



…敵の一人が縄を抜け、マシンガンを掃射してきた!

一人、また一人と人質達が倒れていく!


「…く、糞ッ!!」


敵は…部屋の中央近く。フィールドを張っても、敵が内部に入ってしまう!

…ならば、入らない大きさに展開すればと思うが、それでは守れない人質が出てくる!


そこで…アキトはナノメタルシステムを起動した!
…鎧を纏って敵前に飛び出し、盾となる気だ!!


…だが…この時、思わぬアクシデントが起きる!


…。


「いやあ…助けて−ッ!!」


混乱した人質の一人が、助けを求めてアキトに飛び付いてきた!


…ぶにょん…。


突然視界を塞がれたアキトが、顔に当たる感触の正体に気づく!


「あ、あわわわわ…む、胸…離して


ゴリッ…


その瞬間…気色悪い感触が下のほうに当たる。

…エ…と思い、アキトが顔を上げると…。


「たーすーけーてー!!(野太い声)」


ニューハーフだった…。


…。


「…。(呆)」


アキトは固まった。
…塩の柱になった。



…そして…一瞬だけだが…意識を手放した…。

…ナノメタルシステムを起動途中のままで…。


『アキト…駄目だーっ!』

「…ダッシュ…?」


…しかし…全ては遅かった…。


…。


≪午前 8:50 メギドの炎 解き放たれし後≫


…「ここ」は、何処だろう。

アキトはぼんやりとそんな事を考えていた。


…焼け焦げた壁…吹き飛んだ窓。

壁に描かれた、影のような前衛芸術、そして焦げ臭い嫌な匂い…。


…ばらり…。


アキトに纏わりついていた『炭』が崩れ落ちる。

…そして…何一つ動く物とて無いこの空間に…。


「一体…何が起きた…?」


…答える者は…誰もいない。


…。


≪午前 8:49 山崎の視点より≫


…いやー、我ながら良く助かったもんだ。


「おぎゃー、おぎゃ−」


あ、ほら泣かないでよ…赤ん坊のあやし方なんて知らないんだから…。


…。


数分前…テンカワさんにしがみ付いた女性がいる…と思ったのは早計だった…。


「たーすーけーてー(野太い声)」


え…もしや…男?…って思った途端、僕は同情したよ。

んで…テンカワさんが…固まって…その後が大変だった。


…ぐわっ!


そう!…突然、テンカワさんから光が!

…しかも、どんどんその明るさを増していく!!


…って…僕、もしかして危険!?


「うわぁあああ!?」


…走ったよ、我先にと逃げ出す人達と一緒に。


…でも…その時…気づいちゃったんだ。

…足が不自由で逃げ出せない女の人に。


「だ、大丈夫ですかーっ!?」


…いやー、我ながらお人好しだよね。

もしかしたら、もう直ぐ死んじゃうかもしれないのに。


…けど、それが正解だったんだ…。


…。


「この子を…この子を!!」


…良く見ると、その人…赤ん坊を抱いてた。

それを僕に放って寄越して…。


「うわわわわ…!」


…その後の事は良く覚えてない。

…ただ、後ろから何か…光が…!!

いやあ、全力疾走したよ、さっきよりも必死に。


…後で考えるとあれ…超高温の熱波だったんだ。

近くで燃えつきていく人達の中で、僕は何故だか無事だった。


…多分、あの女の人…子供を守る為に盾になってくれたんだね。

…最近、僕自身も不死身に近くなってるけど…あの熱量に耐えられるとは思えないよ。


第一…赤ん坊まで無事だったんだよ?

多分、あとコンマ1秒でも遅かったらアウトだったんだろうけどさ。


…何故って?

その子…お母さんのネームプレート握り締めてたんだけどね…。

…端っこが…溶けかかってたんだよ?怖いよね−。


…。


…で、今はそのプレートを見てる。

名前は溶けかかった為に読めないけど、苗字は解った。


「ふむふむ…この子の苗字は…『テア』、って言うのか。」


…まあ、生き残った者としては、この子を家まで届けてあげないといけないだろうね。

…お父さんの方が無事だと良いけどさ…。


ま、いいか…アキトさんが目を覚ましたみたいだし…いってみよ。


…。


≪午前 8:55 焼け落ちた室内にて≫


…アキトは呆然としていた。


「じゃあ、これは俺が!?」

「仕方ないよ…だって自分でも何がなんだかわからないんでしょ?」


…そう言いながら不器用に赤ん坊をあやす山崎。


「…じゃあ、僕は生き残った人達を先導して…後はこの子のお父さんを探しておく。」

「そう簡単に見つかるのか?」

「テンカワさんのお兄さんに預けておけば探してくれると思うけど?」

「そうだな。」


…そうして山崎は去っていった。

そして…、


「…俺に何があったかは解らないが…今は、ただ…突き進むだけだ!!」

『でも、今回はもうナノメタルは使わない方がいいと思う。』


オモイカネ・ダッシュ…毎度ながら唐突に参上!


「どあっ!?…ダッシュ!?」

『いやあ、まさかあそこであれが出ちゃうとは思わなかったよ。』

「…どういう意味だ!?」

…。

≪午前 8:45 敵兵士の回想≫


…今、俺は確実に迫る『死』を目の前に、走馬灯を見ていた…。

神に仕えて日の浅い俺ではあるが、死に対する覚悟は身に付けているつもりだ。

だが、まさに…教主の仰られた通りだ。あの男こそ、此度の戦乱の元凶に違いない!


…。


…俺は神に選ばれし『聖教団三鬼衆』のサイトウ


しがない整備屋だった俺に、『教主』ホーリー様がお声を掛けて下さったのは、三ヶ月ほど前の話だ。

…その時、俺は荒れていた。


…付き合っていた女が、月側の英雄、『黒帝』の写真を買ってきたのがその大元の原因だった。


「カッコイイよねぇ…。」

「でも…敵だろ?…地球のさ。」


…正直、その時はアイドルを追っかけているのと同様だと思って居た。

第一、その時…既に地球には、『黒帝ファンクラブ』が存在し、会員は10万人を超えていた。


他に『抱き抱きあっ君』なる謎のヌイグルミを十個近くも購入していた。

…黒帝を模した物らしい。

…何で黒帝なのに『あっくん』なのかと聞いてみると、


「さあ、発売元のって人がつけた商品名だから…。」


…だそうだ。


だが、そこまでなら唯の冗談で済んだ。…幾ら俺でも偶像にまで嫉妬したりはしない。

…だが、数日後…俺は眩暈に襲われる事になる…。


「正気かよ…!?」

「うん…私達…黒帝に会いに行くの。」


…そこには、ミリタリーグッズに身を包んだアイツがいた…。

何でも、有志数百人で密航船に乗り込んで…黒帝の手伝いに行く事になったらしい。


「馬鹿な事言うな…!!」


…正直…正気とは思えなかった。

…従軍経験のある俺だから解るのだが、戦場にそんな気持ちで出ていって、生き残れる訳が無い!


第一、今時…銃がニューナンブだと!?

…死にに行くような物だ!!


そして、それ以前の問題もある。

敵軍に加わると言うのだ、国家反逆罪は間違い無い!

そう、例え向こうに行けても…帰ることなど出来ないのだ。


…俺はその事を丁寧に教えてやった。

でも、帰ってきた答えは…!!


「うそー!…でも、友達みんな行くって言うし…やっぱ行く。心配アリガト!」


…この時…俺は堪忍袋の尾が切れる音を初めて聞いた気がする…。

…何があったかだと?…聞かないでくれ!


…その日以来、俺は街をぶらつく日々を送った。


次の日…集合場所に行ったアイツは…捕まった。

…その企画自体…反乱分子をいぶり出す為の物だったそうだ。


そして…、


「むう…青年よ…何を迷っている!?」

「…んだよ!…うるせえな!!」

「むむ…救いが必要だな。」


…ゴガッ!!


…そして…気が付いた時…俺は怪しげな…今は神聖な場所だと気づいたが…場所に連れてこられて居た。


「さあ、聞くがよい……神の教えを!」
「さあ、受け取るがいい…
神の愛を!」

「そして、救われるがいい…そう!…これが神の救いだ!!」


「…ぎゃぁあああああっ!?」


…そうして、俺は救われた。

…実は今でも「神の愛」は理解できない。…俺にはそう言う趣味は無いんだ。(汗)


…。


そして…先日、教主は俺達を集めて言った。


「月より来たりし災い呼ぶ男が新たなる戦乱を巻き起こすであろう。」


…正直…ビックリしたね。

でも、その後起こった事件の数々は、それを証明していた。


そして…、


「かの、災い呼ぶ男が次なる戦火を巻き起こす前に、その根を絶たねばならん。」

「そして…それは雪崩の対策と同じ。」

小規模な戦火を我等が起こす事により、大いなる災いを封じ込めるのだ!!」


「…何故だと思う!?」


俺達は、誰一人解らなかった。

その時教主はこう仰せられたのだ!


「なんとなくそう思ったからだ!」


…おおおおおっ!!


俺達は歓喜の叫びを上げる!

教主の「なんとなく思った」こそは、神からの啓示なのだ!!


凡人が「閃き」とか「電波」とか言う物も神からの啓示なのだが、不幸にもそれに気づく者は少ない。


…時に外れる事もあるだろう…とか言う連中もいる。

だが、それは神が俺達をからかって遊んでいらっしゃるのだ!!


…神の仕事は激務である…たまには息抜きも必要だ。

…俺達はそれに付き合わねばならん。


…何故だと…相手は神だからに決まっている!


…。


そして…あの時見た写真と…この男は似ていた…。

…例え似てなくとも、俺はそう決めた!


そして…天誅を食らわすべく撃ち放った俺の弾丸は…相手の魔性の力を引き出してしまったのだ!!


…目の前に迫る光…これに触れた時…俺は…。


…。


…ジュッ!!


後編に続く

::::後書き::::

BA−2です。


今回は実験作の意味合いが大きいかも。

アキトに起こった事は、次でせつめ…解説されます。


時間経過をばらしてみました。
そして…一人称の文章を一部で試してみました。

さて…如何でしょうか?


こんなのでも応援頂ければ幸いです。

では!

 

 

 

 

代理人の感想

 

・・・・本当に出てきたよ、サイトウ先祖(苦笑)。

しかも役回りまで子孫に酷似・・・・こっちはおそらく生き残っていないけど。

 

 

ところで「神の愛」ってなに(爆汗)。