機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


                          世紀を超えて

                       第51話 歴史に裏あり

 

…時を暫く遡る…。

サセボ基地司令室で作戦を指揮していた大佐の元に、ある報告が届いた。


「ほう…敵将のデータが揃ったか?」

「ええ、大佐。」


だが、それを運んできた士官の顔は暗い。


「…どうした?」

「…はい、あの男…過去に、オセアニアで修行をしていたらしいのですが…。」


「…成る程な…オセアニア方面軍が情報を出し惜しみしていたか。」

「ええ、この非常時に…ですよ?」


…だが、大佐は苦笑するだけ。彼にとっては日常茶飯事なのだ。


「…だからだよ。…余程俺が気に食わんと見える。」

「こんな時でも…権力争いですか?」

「だろうな…俺にはそんな気は無いって言うのにな…。」

「…だからこそ…大佐は、向こうにとって脅威なのでしょうがね…。」


…人は、自分が理解できない物を本能的に恐れる。

それ故に、実直な人柄を持つ者は…この世界では忌避されるのだ…。

…。

「で、どんな奴なんだ?」


…そして、報告書に目を通した大佐は…固まった。

…本当の意味での敵がなんなのか…初めて知ったのだ…。


糞ッ…オセアニアの業突張りどもめ…こんな…こんな事が…!!

「…大佐!?」


「くっ…研究塔に行って来る…!!」

「…まさか…七瀬さんを?…無茶です、許可が下りませんよ!?」


「…なら…司令室だ…先にあの狸の化けの皮…引っ剥がしてくれる!!

「…何が…何があったんですか!!」


「みんな…グルだったんだよ…!!」

…。

ドゴァァアアン!!


…司令室の、防弾のドアが破城槌で破られる…。

そして…大佐が勢い込んで乗り込んできた!!


「タナカぁッ!!…これはどう言う事だっ!!」

「な、何かね大佐?…こ、これは上官反逆罪」


…ドン!!

…豪華なテーブルに、一冊の報告書が叩きつけられた!

そして、大佐はペラペラとページをめくる。


「…このページには…オセアニアで開かれた、ある会議の模様が書いてあります…。」

「うっ…。」


一月程前…オセアニアで開かれた秘密会議…。


それは、東南アジア方面軍総司令(代理)タナカ少将と、オセアニア方面軍総司令…

そして、最近勢力を伸ばし始めたネルガルとクリムゾンの代表が集まって行われた。


…議題は…「シェアの分配について」…。


…オーナーであるレビア・マーベリックが老衰し、しかも後継ぎが事実上不明なマーベリック社。
(彼らはアムの事を知らない)

…そこで、新興勢力同士が、旧き大勢力が衰退した後の世界分割を話し合おうと言う訳である。


…そして…その時話題に上ったのが聖教団であった…。

…。

「…彼らが、不穏な動きを見せております。これを利用しましょう。」

「ほう、つまり…動くのを見過ごすと言うのだね?」


「…ええ、彼らの破壊工作に乗じてマーベリック社の機能を完全に破壊…停止させます。」

「…無論…幹部社員は…(指で×を書く)…だね?」

「ええ…そして、鎮圧後に我々が独占的に復興機材を…ふふふ、笑いが止まりませんな…。」


…そして…ネルガルが、オセアニアから手を引く事を条件に…権利を『落札』した…。

これが…事件の裏である…。

…。

「貴様は…幾ら貰った?」

「し、知らんよ?…私はなーんもしらん!」


…そこで、大佐は表情を緩める。

搦め手で行くつもりなのだ…。


「そうでしたか…疑ってすいませんね…少将?」

「お、おお…解ればいいのだ!!」


「いえ…しかし1億もの金…何に使ったんですか?」

「はっはっは…幾らなんでも、そんなには貰っておらん…よ…(汗)


「ほう、では幾ら貰ったんです!?」

(ああっ、しまったー!!)


…かくして、タナカ少将は失脚する。

だが、ここまで正直では…元々この世界で長生きは出来なかっただろう。


…そして、後にはネルガル…クリムゾンと言った関係者にも逮捕者が出て、

歴史にも影響が出る事になるのだが…それがどんな事になるのか…この時点では誰にも分からなかった…。

…。

「では…この、テンカワ・リューマが臨時指揮権を頂きますが。」

「ああ。好きにするといい…。」


…連合本部は意外とあっさり承認した。

いや、アキトとの一件(月での)で、人材が枯渇していただけかも知れない。


…そして、大佐は研究塔に入っていった…。

…実は、七瀬をこの基地まで連れてきたのは良いが、その後…七瀬はここに入れられ、

しかも…司令権限で、この区域への立ち入り禁止令が出ていたのだ…。


「無事でいると良いんだが…。」

「ええ…。」

「おお、でも研究員の話じゃ元気だって話だけどな。」


ヤマダ…それを鵜呑みにしろと?

因みに、上から大佐、カズミ准尉、ヤマダ大尉…である。


…そして…、

≪実験室≫

「ここだ…。」
「…嫌ーな匂いが漂ってるんですけど…。(汗)」

「…おおよ。なんか…入ったら…。」

「「入ったら?」」


「七瀬が水槽浮かんでたりしてな!(笑)


…ヤマダ…洒落になってねぇ…!

…。

「では、開けるぞ?」
「はい!」


…後ろでボコボコになっているヤマダを無視し、二人は中に踏み入る。

…そこには…。


「…北方…辰彦…っ!!」

「…これって…クローン!?」



…無数の水槽の中に人がいた。しかも…北方のコピー!!

…彼も、ここで改造されたのだろう…だから細胞からコピーされたに違いない…。



…無論、二人は全て破壊した。



(注:以前の第3回人気投票で、もしが100票取ってたら…これが今、動いてたところだった…。)

…。

結局…この部屋に彼女はいなかった…無論、データはあったが。

そこで、別な部屋を回る3人。


…そして…ある部屋を見つける事となる…。


…。


≪VIP専用特別接待室≫


異常に豪華、かつ悪趣味な部屋があった。
…はっきり言って、悪の巣窟っぽさ…爆発である。


「残るは…ここだけなのだが…。(汗)」

「…猛烈に、嫌な予感がします…。」

「で…でもよ…幾らなんでも…。」


「「でも、彼女…命令には逆らえないから…。」」


「そ…そうか…ま、何にせよ…行くしかねぇだろ?


「「そうだね(だな)…。」」


…そして、念の為(ヲイ)にカズミが先行して中に入る。

…そして…30分後…。


「…案の定でしたぁ…!(泣)」

「大佐…助かりました。」


半泣きのカズミと無表情な七瀬…二人が出てくる。

…何かは解らない(爆)が、案の定だったらしい。


そして…


…ドゴァァアアアアン!!


研究塔、資料、データ…全ては爆破された…。

…全てを聖教団の攻撃と言う事にして。(ヲイ)


この施設自体が秘密であった為、完全にオフライン化されていた事が功を相したと言える。


これにより、この研究の全データは失われ…

被検体・北方七瀬(地球では旧姓のまま)に関する資料も全てが灰塵と化す…。


…こうして…彼女は自由を手にしたのだった…。

ただ…普通の女の子に戻るのは…彼女には少々…難しかった…が。

…。

 

…そして…七瀬はクレの基地に向かう事となる…。


…。


どぉ・・・ん…。


(なんだ?…何かが、床に叩きつけられた?)


…アキトは…何かの音で目覚めた。

…だが、未だに意識は朦朧としている…。


定まらない理性を抱え、アキトはふっと…上を見上げる…。


(綺麗だ…。)


…周囲には…蒼銀の光が満ちていた。

それは、あたかもアキト自身を包み込んでいるかのようだ…。


(…いや…これは…俺自身から!?)


…その事実に気づいた時…アキトの意識は急速に覚醒していく!

…そこには…仁王立ちするホーリー様と、床に倒れ伏す『誰か』の姿があった…。


「ぐっ…これは!?」

「むうっ!!…まさか…武羅威に目覚めたと言うのか!?」


…その言葉で…アキトは今、自分の置かれている状況を理解した。

どうやら…死の一歩手前で、伝説の力に目覚めてしまった様だ…。


「この…蒼銀の輝きが…俺の心の色?」

「…どうやら…そうらしい…な。」


アキトはククッと笑う。


「…お笑いだ…この俺の…心の色が蒼銀だと!?」

「…では…何色だと思うのだ?」

「さあ…な…黒か灰色か…静脈血のような赤かも知れん。」


…その時…ホーリー様の表情が和らいだ…様な気がした。

…第一、ニッコリされたら怖いが。(汗)


「む…貴様は自分のした事を悔いてはいるのだな。」

「…さあ、どうだか?」

「自分の色に、悪しきイメージのある色を選ぶのが何よりの証拠だ。」

「そう言うのに憧れてるだけかもしれんぞ?」

…。

「貴様のその蒼銀は…心と言うより、魂の色なのだろうな…穢れの入る前の…産まれたままの色…。」


…それだけ言うと、ホーリー様はクルリと後ろを向く。


「今の私では、貴様の昂氣には敵うまいな…。」

「…逃げるか!?」

「…私は…迷っている…。」


…そして…ホーリー様は自らの昂氣を発動させた…。

その色は…多少、灰色がかった白…。


「…昂氣を使う者同士の戦いは、古今東西例が無いが…迷っている分こちらが不利であろう…。」


その灰色が迷いだと言うのなら…彼は何を迷っているのか…?

だが、それは余人にはわからない…。


…そして…彼は壁を突き破り、建物の外に踊り出る!!


「表に出ろっ!!」
「くっ…待てッ!」

(そうだ、来い…貴様が本当に邪悪な者か否か…確かめてくれよう!!)


そう…彼は…アキトを試す気なのだ!

…。

「…テンカワさん…。」


その時…か細い声が、横から響く。


「な、南雲…七瀬さん!?」

「貴方を助けに来たのだけど…役に立てなかったわね…。」


…彼女は…恐らく、昂氣の篭った拳をまともに食らったのか…ボロボロだった…。

…既に、顔から精気が消えかけている…。


でも、何時の間にやらメガネを掛けなおしている所を見ると、まだ余裕があるのかも。


「一撃でこれとは…参ったわね…。」

「…。(俺の得た力は…そんなに強大な物なのか…!?)


…その時…アキトは月での約束を思い出した。窮地を助けられた、南雲氏との大切な約束を…。


「…そうだ…南雲さん…旦那さんから言伝が…。」

「…なに…?」

「その…。『俺と一緒になって…幸せだったか?』だそうです…。」


…その時、七瀬は笑った。アキトは…その時、彼女の笑い顔を始めて見た事に気づく…。


「心配性ね…大丈夫、幸せだったって伝えといてくれます?…父さんとの約束だけで結婚させられたけど…あの人は、とっても優しかったからね…。」


「…解りました…会える事があったら…必ず。…それと…。」

「上の子の…父親の事ね?」


…え!?


出会ってから半年で産まれたあの子を…彼は実の子のように可愛がってくれた…。」

「え、ええ…それです…。(汗)」


「私が…メガネ取ったら上官に絶対服従なのは知ってるね?」

「はい…ってまさか!!」


重苦しい空気が漂う中…七瀬は口を開いた…。

そして、その台詞は…アキトを唖然とさせる。



「…あの子は…ナツメさんの弟よ…。」

…。(滝汗)

(…北辰が…草壁に対して忠誠を誓ってたのは…血縁もあったって事なのか?)


アキトはそう思った。…全ては推測に過ぎないが…。


「それで終わり?…なら…行きなさい。…堀井の叔父様も待ってるでしょうし…。」

「ええ、でも…。」

「私は大丈夫…こんな傷では死ねないわよ。」


…それは、間違い無い事だろう。

火星での戦いで、彼女の戦闘能力をアキトも見ていた…。


「では、戦闘が終わり次第…迎えに来ます!!」

「…頼みます…。」


…そして、アキトは風の様に走り出る!

…その為…七瀬の呟きが届くことは無かった。

 

 

「…そう、傷では死ねない…でも…。」

 

 

…七瀬は、大佐との最後の会話を思い出して居た。


「…なにっ!?…薬と…調合法のデータまで焼いただって!?」

「ええ、全て焼き払いましたから。」


…七瀬は…その強化された体を維持する為に、定期的な投薬を必要としていた。

だが、それは特殊な薬品であり…少なくとも、地球上ではここでしか手に入らない物だったのだ…。


…実は火星でも服用していたのだが、それを知る者は少ない…。

…。

「なぜ…だ?…そんな事をしたら…君の命は!!」


せっかく助かったのに、自ら自分の命を縮めようとする七瀬に、大佐は憤る。

彼の目に、それは恐ろしく理不尽な行動に映った…。



「……自由に…なりたかったんです。」



…彼女の答えはそれだけだった。


数年前…父親の借金で、父娘共々ここに連れてこられ…実験台にされた…。

…そして、ナツメの父親…独立派の草壁代表に助けられたものの…事実上、駒扱いにされた…。


…それに気づかなかった父親は…有る意味幸せだったのかも知れない…。

ましてや…自分の娘が慰み者にされていようなどとは…考えもしなかっただろう。


…自分の意思とは関係無く、流転する運命に翻弄され…彼女は疲れ果てていたのだ…。


脳内に埋め込まれたチップ…それがある限り、彼女は一生…上位にある者の道具である。

…だが、完全に体と同化してしまったそれを…外す術など無い。


彼女が完全に自由になる方法…それは…たった一つしかなかったのだ…。


…。


そして…今、彼女は一人…床に倒れている。

…だが、後悔はしていない…何故なら、自分で決めた事だったから…。


「…久しぶりだな…自分の意思で動いたのって…。」


…周囲の景色が不可思議に歪み出した。

薬の効果が切れ、肉体が変調を訴え始める…。


「…銃弾で撃たれても死なないくせに…薬を飲まなかっただけで死んじゃうんだね…。」

「うっ…これで…自由に…なれる…のかな?」


…そして…最期に…彼女は祈る様に呟く。


「…願わくば…私のような目に会う人が…もう、現れませんように…。」


…カシャーン


それっきり…彼女が再び目を覚ます事は無かった…。

 

 

…。

 

 

その頃…アキトは中庭にいた。…だが…敵は何処にもいない…。


「逃げたか!?」
「まさか!!」



…何処からか響く声!


「何処だっ!!」
「ここだぁっ!!」


ドドドドドドドドドド!!


「な、これは…!!」


…地中から、突然現れた機体…

そう、先行者だ!!


「むぅぅうう!…これこそオリジナル!!」

「なにっ!!」


「…タオ(道)の力を行使する最強の先行者よ!!」


…確かに、今まで出てきたのとは訳が違う!!


先ず、装甲タイルをマントの様に装備している!!

…見た目はてるてる坊主っぽい!!


更に今回のは飛ぶ!!

…尻から謎のジェット噴射だ!!(ヲイ)


接近戦用にはドリルアームに加え、ビームサーベルまで装備!!

…だが、ビームがフィールドに効くのかは疑問だ!!


しかも!…中華キャノンにスコープがついて命中率上昇!!

…でも、場所的に、絶対覗けないと思う…。(汗)


ついさっきまでのシリアスっぷりをぶっ飛ばすほどのインパクト!!

…こんなもんが存在して良いのか!?(笑)



ビーム!ビーム!ビーム!!



更に!…試射と思しき中華キャノン一斉掃射で消し飛ばされるクレの海軍基地!!

…中にはそっちの味方も居るんじゃないか!?


…そう言えば…これでは七瀬さん…どっちにしても助からなかったって事?


…。


「なんて…非常識な!!」


…中華キャノンをぶっ放す巨大てるてる坊主!

マント状の装甲タイルの隙間から覗くキャノンの先っぽが何処か犯罪めいた印象を与える!!


故に…アキトの言い分も解る!!

だが、向こうも…アキトに言われたくは無いだろう。


…。


「アキト…助けに来たヨ!!」


そして…そんなラピスの声と共に、ラティフォリウムが駈け付けてきた!

…更に…ナイトメアも一時退避を終え、戦場に舞い戻ってくる!


「よし…これなら行けるか!?」


…周囲には連合軍の部隊が集まり始めていた。

…その時である!


「むぅう!!…このFA先行者に勝てるつもりか!!」


…FA…フルアーマーですよね?(汗)

フリーエージェントだったら怒るよ!?(爆)


「観念するんだな…貴様は完全に包囲された!!」

「何をっ…古代中国の遺跡で見つけた古代兵器を馬鹿にするか!!」

「…何だとッ?」

「うむ…龍のような機体虎のような機体の横に、ゴミ扱いで捨てられて居たのだ!!」


…もしかして…スパロボαですか!?
(注:話に絡んではきません…一発ネタです)



「…だが、一機で何が出来る!!」

「こんな事が出来るぞ!!」


ビーム!ビーム!ビーム!ビーム!ビーム!ビーム!ビーム!ビーム!ビーム!


無表情なれども…怒涛の速射!!

…連合軍空挺部隊…見せ場すらなく全滅!!


「…なんて…威力だ!」
「化け物!?」


「むぅぅぅうう!!…どうだ、神の力…思い知ったか!?」


…何処らへんが神なのか良く解らんが、とにかく敵は強大だ!

アキトは…勝利することができるのか!?


そして…いびつに改変された、歴史の行方は!?

…次回、「聖教団編」クライマックス!!(笑)

続く

::::後書き::::

BA-2です。
先ず最初に…前回(50話)に、
一部不適切(とんちんかん系)な表現があったことをお詫びします。(爆)


さて…今回もシリアスとギャグをない混ぜにしてます…。

どうしても過去編クライマックスが近いんで、シリアスが入ってしまう…。

…60話までにはアキトを元の時代に帰らせたいな…。


こんな物ですが、応援頂ければ幸いです!

では!

 

 

 

代理人の感想

 

FA先行者・・・・「ファイ●ル・アタック」というのもありかも(爆)。

でも、アレを撃つ時オリジナルは手足のタービンがフル回転するけど

恐らく中華キャノンの先からFAを撃つ先行者の場合は

体のどの部分がフル回転するんだろう(核爆)?