機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第60話 サブロウタの困惑




…ここは木星…優人部隊候補生の宿舎。

ここに…数日間も眠り続ける一人の男が居た。


高杉 三郎太


彼は正体不明の熱病に冒され、いつ死んでもおかしくない…と医者がさじを投げたほどである。

…だが…彼は生き延びていた。


一時期は50℃にも達した熱も、今は随分と引いてきていた…。


…だが…それは計算し尽くされた事。

今…彼の中では一大変化が起こっていたのである。


…。


(ここは…何処だ…。)


三郎太は、いまだ高熱に犯されている…朦朧とした頭で現状認識を始めた。


(ここは…候補生時代の自室?…ああ、そうか…そうだった…!!)


がばっ!!


「よっしゃぁーっ!!」


思わず飛び上がるサブ。

…高杉三郎太…帰還成功の歴史的(?)一瞬であった…。


…。


「…しかし…まだどっかぼんやりとしてるな…。」


…それは無理の無いことである。現在、彼は帰還者としての記憶しか持っていない。

時間がたてば、もう一人の…この時代の自分との融合が進み、いずれは完全にひとつになるのであろう。
…だが、それまでには今しばらく時が必要になる。


「…ま、いいか。…暫く記憶喪失で済ましますか?」


…サブは掛かりつけの医師に嘘八百を並べ立てると、おもむろにビデオの電源を入れる。


数年の時は、彼の脳内からゲキガンガーをかなりの割合で消し去っていた。

だが…木星で行動するのに、それがないのは少々辛い。


故に…記憶が『融和』するまでの間をもたすため、誤魔化す必要があった…。


…少なくとも…ゲキガンさえ覚えていれば、軍内で孤立する可能性はかなり低くなるはず。

聖典とは、えてしてそう言う物なのだ…。


…。


だがしかし…そこには見覚えの無いものが、多数混じっていたのである…。

そう、それこそ歴史の歪み(笑)が生み出したもの!!


「…ん?…木連50周年記念…?…こんなのあったかな?」


…サブ…止めとけ。…それはまずいってば!!


カチャ…ブィィィィン…。


…。


≪…木連50周年記念アニメ……黒帝列伝…≫

(はて…黒帝ってなんだっけ?)


…サブは知る由もあるまい。(笑)

そして…無慈悲にも(爆)始まるオープニング!


…。


…ジャジャーーーン………ピキーン!!


「…。(汗)」


≪黒帝降臨…ブラックカイザー!!≫


「…何じゃコリャーっ!!」


…サブ、太陽に吼える!(爆笑)

しかもガビーンと顔に縦線入りだが…それを誰が責められよう…!

 

ビデオが始まるや否や、画面中央に迫りくる黒いエステバリス!!

…そしてライフルの一連射で、迫る敵艦隊(連合の物)が次々と爆破!


(…なお…製作者サイドは、かなりの誇張を入れたつもりだが…それでも事実とあまり変わらなかったりする。)


火星の大地に降り立ち、操縦席のハッチが開く。

…そして夕日を背に降り立つ一人の男!!(黒尽くめ)


「テンカワさん!?…何やってるんすかーっ!?」


…だが、答えてくれる者など何処にもいない…。


…そして…男の周囲に走り寄る少女達!…何処から見てもヒロインな構図だ。

…但し、特定多数だけども…。

「…赤目の艦長?(汗)」

…先ずは、かなり正確に描かれたアム。


「ら、ラピス・ラズリ…どうして?」

んでもってラピス。(恐らく11歳バージョン)


「…誰?」


…知る訳があるまい。黒いボブヘアー。…ナツメである。
(かなり美化済み)


…更に、遠くの丘の上で…大木の陰から涙を浮かべて見つめる人影が…。


「ユリカさん…あんたまでかよ…。(呆)」

…無論、マスミ(弱点強調バージョン)である。…扱いが悪いのは仕方ない所だろう。(笑)


…。


…その後、1時間半ほどの間、彼の記憶は途切れる。

いや、見てはいたのだが…感情が、それを容認するのを拒否したのだ…。


…。


「…ここは何処?…私はだーれ?」


…壊れかける高杉三郎太。だが、状況はそれすら許そうとしない…。


バタム!…ドアが激しく開かれた!


「高杉!…目を覚ましたと聞いたが!?」

…あーあー…ひ、ろ、いあおーぞら…はっ!」


「おい、大丈夫か!?」

「は、はい?…秋山…少佐!!」


…そう、飛び込んできたのは…この時点で既に直属の上司だった、秋山源八郎であった。


「…まったく、いきなり倒れよって…心配かけるんじゃない!」

「は、はぁ…あの…自分はどれだけ…?」


「半月だな…まったく…一時は助からんとまで言われたんだぞ?」

「すみません…今後精進します…。」


「うむ。木連男児たる者、ひ弱ではいかん!」


…そうこうしている内に、ほかの三羽烏の二人も見舞いにやってきた。


「…三郎太…まったく脅かすなよ、ははは…。」

「申し訳ないです、白鳥少佐。」


「…ほら、家伝のビタミン剤だ。…怖いくらい効くぞ。」


どすん…っ!


「は、はぁ…月臣少佐?…どうしてビタミン剤がこんな大量に?」

「「「なに?」」」


…サブを除く全員が固まった。


(…な、なんだ?…俺、何か…まずったか?)


「おいおい…元一郎の家は、代々これを飲んでるだろうが。

「そうだぞ?結構有名な話だと思っていたがな…?

「…高杉…頭でも打ったか?」


(…あれ?…そんな事…あったんすか?)


…だが、サブは何も知らない…。

既に書き換わった歴史の中で…変化は確実に起こっていたのだ。


「…えーと。スイマセン、実はここんところの記憶があいまいになってまして…。(汗)」


…兎に角、体裁を整えようとあがく三郎太。


「そうだったか…。」
「考えてみれば、医者もそんなことを言っていたな。」
「…すまん。心配りが足りなかった!!」


そして、あっさり騙される三羽烏。(笑)

…そして…。


「…ならば、記憶が戻るようにしようか?」

「ほう?…九十九…考えがありそうだな。」


…何故か一抹の不安を覚えるサブ。


「あ、あのう…何を?」


「ふっふっふ…あそこに連れて行ってやりましょうか。」

「ほう…あれか?…だがあれは…。」

「いや、この際仕方ない。…と言うか俺も見てみたい。


…かくして4人は「ある場所」に向かう事になった…。(サブの意思は関係なし)


…。


そして…たどり着いた場所は…。

…真っ暗だった。


「あのー…ただの博物館ですよね…ここ。」

「ああ、そうだ…『木星歴史資料館』。…我らの歴史が集められている。」


「…ですが…なんで電気もついてないんですか?」

「それは、開館が来週だからだ。」


…ぴしっ…高杉はヒビが入るような音を聞いた気がした…。

もしかしたら、ヒビが入ったのは心の方かもしれないが…。


「拙くないですか?」

「問題は無い。…第一我々は、記憶喪失の後輩を救うべく、厳罰覚悟で来ているんだしな!」


…サブは…だしですか?

第一、自己犠牲って木連では受けが良さそうだし…。


「…とほほ…俺って一体…。(泣)」


「おおっ…これが黒帝の機体か!?」
「ああ、ブラックカイザーだ。…でもレプリカか…。」

「おお、木連初代総帥の着た制服だ!…こっちは、割れた黒帝のバイザー!


…本当は自分たちが見たかったんでしょ…三羽烏さん?

だが、これが彼らの運命を変える事となるとは…誰が想像しただろうか?


…いや、別に変わっちゃいないけどさ。(爆)



…。(30分経過)


「あのー、もう良いですから…帰りません?」


「…見よ!…初代月臣の五右衛門風呂だ!!」

「これがか…。ではこっちは?」

「木連軍、初代旗艦「皐月」のコンソールだな、これは…。」


…半泣きで引っ張られるサブと、子供のようにはしゃぐ三羽烏が対象的であった。

だが、その時である。


「あれ…あそこのは、なんすか?」


…サブが指差した先、そこには大きな箱のような物が吊ってあった。


「ん?…行って見るか…なぁ元一郎。」

「ああ、行くぞ九十九。」

「あ、こら俺を置いてくな!」


…そして…その大きな箱の中には…。


「こ、これは!」


…驚愕するサブ!


「…間違いない。…しかし…美しい…。」

「眠れる妖精…と言った所か。」

「しかし…人間を展示して良いものなのか?…いや、精巧に出来た彫像か?」


「…か、艦長…?」

「ん。どうした高杉?…俺に何か用か?」


「あ、イエ、何でもないです…しかし…これは…!?」


…箱の上側であろう、ガラス張りの部分、そこには霜が厚く降りている…。

そして…その隙間から覗く物…それは…。


「うん、間違い無いな、この方こそ木連初代総帥、草壁夏目様のご友人にして戦友!」

「そして…木連初期の戦略を示した伝説の偉人…。」

「…聖王女…アメジスト様だ!」


…。


「聖女…木連黎明期の偉人?」


「そうだ…それすら忘れてしまったか?」
「小学校の授業だぞ…これを習うのは…。」
「…まったく…困ったものだな…。」


…三郎太は困惑していた。
自分の知る歴史とあまりにかけ離れている…。


…だが、ゆっくりと…だが、確実に動き出し始めた歴史は…、
ひとりの感傷など、あっさりと吹き飛ばしていくのだ…。


…。


ぼーん…ぼーん…


…その時…鐘が鳴った。…歴史を揺り起こす鐘が…。


ぎぎっ…


「ん?…なんか、軋まなかったか!?」

「いや、何も?」

「…おいおい、出来たばかりの建物が軋む訳…。」


「ああっ!?」


「どうした!?」
「何があった!?」
「何固まってるんだ!」


「箱が…開いて…!?」

「「「ナニィッ!?」」」


ギギ・・・ギギギギギィーー〜っ…。


箱が…開いていく。

まるで、この時を待っていたかのように…。


そして…。


ゆらっ…


「「「「…危ない!!」」」」


ズザザザザァっーーーーーっ!!
…どさっ!





…。




…もうもうと広がる土煙…と、思ったが…それは冷気であった。

その中で…彼等は自分達の上に落ちて来た「何か」の存在を感じていた…。


…それから暫く…彼等は動けなかった。

いや、現状が認識できていないと言ったほうが良いだろう。


そして…最初に動き出したのは…上に居る「何か」だった…。


ゆらり…ふらっ…ふらっ…。


そして…「それ」はカレンダーの前で止まった。


「…今は…2194年…ふふ、丁度良い時間帯ですね?」


…そして、その声で…彼らは今まで上に乗っていた物が、展示されていた女性であることを認識した。

いや…せざるを得なかった…。


…ドドドドドドドドドドドドドドド…。


その時…多数の足音が迫ってきた。

かなり急いでいるのは間違い無い。


「ま、拙いぞ九十九!!」
「…だ、大丈夫だ。…ただの警備員だろ?」


…違った。(笑)

迫ってきたのは木連中枢部の高官、しかもかなりの数が揃っている!


…。


「お久しぶりで…草壁秋人(あきひと)、推参!!」


その場に走り寄り、一番に挨拶をした男…見た目は30歳ほどのアキト…だろうか?

無精ひげを生やし、隻腕であった…。

見ると、高官の証である紫色の制服、しかも…階級章は…大将、いや元帥だ!



「秋人さん、久しぶりです…前回の時の貴方はまだほんの子供でしたね…。」

「いえ、アメジスト様もお元気そうで何より。」



…そして…次に横から一人の女が歩み出てくる。



「始めまして…ですね。…アタシは草壁夏樹(なつき)…ナツメお婆様の正当な後継者です。」


見た目はナツメそのものな、まだ幼さを残す顔立ちの女が挨拶をする。

…階級章は中将だが…何故かスーツ姿だ。


「アム様、アタシ、木星大統領と木連議会の議長を兼任しているんです。」

「…凄い…ナツメさんと生き写しですね…。」

「あはは…よく言われるんだ。…あ、…若輩者ですが宜しくお願いします!」



…更に…何故か巫女服…いや、胴着姿の女性が…。


「木連軍中佐、草壁美春(みはる)と申します。…お初にお目にかかり、光栄至極…。」


「…何かのコスプレですか?(汗)」

「ええ、壬生屋未央を少々。…私こそが、当代のシオネ・アラダだと確信しておりますので…。」

「はぁ…。(汗)」

「…未熟者ですが、どうか宜しく。これは私の著作です。…どうぞ。」


…ぴろっ…。アムは『やおいの同人コミック』を手に入れた!(爆)
(ところで、ガンパレードマーチって…分かります?)


「くっはー…やっぱり萌えぇーっ!!」
「…腐ってます…腐りきってます…!(呆)」

…。


ちょっとヒクついているアム。(やおい本が原因)…それに対し、

先ほどの男…秋人元帥が話し掛けてきた。


「アメジスト様、以下3名に我が弟、『草壁冬磨』(とうま)を加え…四天王となります。」

「…はっ!…そ、そうですか、判りました。…軍はボクが考えた以上の出来のようですね?」


「はい、…では、次はこちらです。来い…四方天!!


ザザッ!!

その言葉に反応し、四人の男が歩み出て、片膝をついた。


「…東八雲です。…一度、お会いした覚えがございますね。」

「八雲さん、大きくなりましたね…時がくれば…貴方の力を借りることになるでしょう…。」


「我は北辰。…人にして人の道を外れた外道なり…。」

…ふふっ…予想通り。…必要悪。貴方の事をボクはそう感じています。これからも頑張るように。」


西沢学、今回も四方天の一角を占めさせて頂いております。」

「はい、経済に詳しい人材は、相変わらず少ないようですね…。貴方の役割は大きいですよ…。」


南雲義政…宜しくお願いします!!」

「元気な方ですね…。(汗)…無理だけはしないようにしてくださいね…。」


…そして、四方天の挨拶を受けたアムは、更に後ろに居る者達の紹介を求めた。


「で…そちらの方々は?」

「「「「…え?」」」」


くるーり…と回る、4つの首。

そう。…そこにはこそこそと逃げ出そうとする、三羽烏+1の姿があった…。(汗)


「…三羽烏?…何をしているんだ!?」

(ヤバイ…まさか元帥閣下に見つかるとは!!)
(元一郎…どうする!?)
(…まあ待て、俺に良い考えがある。)


「閣下。」

「ん?…秋山か…ここの開館は来週のはずでは無いのか!」

「はっ…しかし、記憶喪失気味の後輩が…どうしても見たいと言い出しまして…。


(ががーん!…俺、蜥蜴の尻尾切りかよ!!)


サブ…当代最悪のピンチに陥る!!


「待って下さい。…この4人は先ほどボクを助けてくれました。…今回の事、不問にして頂けます?」

「はっ…アメジスト様の仰せとあらば!」


…が、意外な所から助け舟が出た。…もしこれが無かったら…どうなっていた事やら…。

そして…アムは四人の所に歩み寄っていった。


「…さっきは助かりました。…お礼がまだでしたね。」

「いえ、伝説の偉人にお会いできて光栄であります!!」


代表して白鳥が返礼を返す…。

だが、アムの返事は彼らにとって予想外の物だった…。


「白鳥九十九、月臣元一郎、秋山源八郎…ですね?」

「は、はぃっ!?」
「は、はっ!」
「な、どうして我々の名を…はっ、申し訳ありません!!」


「で、そちらの方は?」

「お、俺!?…じゃなくて自分っすか!?」


「はい。」

「突撃優人部隊・候補生…高杉三郎太であります!!」


…それを聞いて…アムは一瞬ニヤリとした…ような気がする…。


「駒は…揃ってるみたいですね…。」


「はっ?」

「いえ…何でもありません、そう…なんでもないんです…。」


(な、なんなんだこの人は?…木連は…どうなっちまったんだ…!?)


…だが、三郎太がその答えを見つけるまでには…まだ暫くの時が必要となるのであった…。

続く

::::後書き::::

BA−2です!

「現代編」開始です!!…と、言いたい所ですが…
ここはまだ現代編のバックグラウンドの紹介と言った所になります。

そんな訳で、暫くは短編的な状況説明SSが続くと思いますが、どうかご勘弁を。

…時系列も錯綜すると思います。…でも、話の最初に時代は書くつもりなんで…。

それと…色々と突っ込みたい所も多いと思いますが、暖かく見守って頂けると嬉しいです。


さて…早速、新規オリキャラが何名か登場しています。

皆さんが気に入ったのは居ますでしょうか?


では!

 

 

 

代理人の感想

 

さすがに・・・・・色々変わってますね。

草壁一家が増殖してるし八雲さんは生きてるし。

でも・・・・・

 

 

あの三人は全然変わってないのね(爆笑)。

 

 

 

あえて言うならお茶目度がアップしてるか(笑)?