機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第64話 金色の妖精達





(…暗い…ここは…何処なんでしょうか…?)


…『彼女』の意識は目覚めた…


(…いえ…瞼の上は眩しいのかも………瞼?)


…時を越え…運命の日を目指して…


(…眠っていた?…いえ…そうです…思い出しました…!)


…ぱちっ…

今まで閉じられていた瞳が開かれる…。


(…私は…目指した時に…辿り着けたのでしょうか…?)


そう。…ホシノ・ルリ…帰還の瞬間であった…!!


…。


…てってってって…


その時、誰かが駆け出していく…。

恐らく、自分が目覚めた事を、誰かに知らせにいったのであろう…。


周囲には無数の医療機器が並んでいた。

だが、ルリにとってはある意味当然と言える。


…何故なら…彼女はマシンチャイルド。

この時代の保護者、ホシノ夫妻にとっては金の卵を産む鶏のような物であるからだ。


…ネルガルからの大切な預かり物を…死なせてしまう訳にも行くまい…。


…。


「さて…両親にはどう説明しましょうか?」


…そこまで独り言を呟いた後…ルリは自分の迂闊さに苦笑を漏らす。


何故なら彼女は…今まで高熱を出していた筈なのだ。…記憶の書き換え作業のために…。

病人なら何を言う必要もあるまい。後は向こうが判断してくれるだろう。


それに…それよりも、ルリには大切な事があった。


今後の事…未来の悲劇を断ち切る為に、色々と準備に入らねばなるまい。

…戦力の充実…人脈・資金の確保…木星への対応…。…するべき事は色々とある。


「そう…アキトさんの運命は…私の働きに掛かっているんですから…。」


だが、彼女はまだ知らない…。
運命は既に書き換わっていたのだ…。



…。


どどどどどどどど…


何人かの足音が響いてきた。…きっと両親がやってきたのだろう…。

そう考えたルリは布団にもぐりこみ、再び目を閉じる。


(まずは気持ちが悪い…と、だんまりですね…。)


…この判断は一応正しい。


下手な芝居は周りに妙な疑いを持たれかねない。

ならば、何も知らない事を装い、黙秘をするしかあるまい…。


…だが…。


「ルリ!…目を覚ましたんだな!?」


がばっ!!

…いきなり抱きつかれる。(笑)


「く、苦しいです…。」

「あ、ああ…済まない。」


(予想外です…もう少し冷静かと思っていましたが…意外に親として、自覚があったんですね…。)


…そして、あることに気づく。



(そういえば…ここでの父親って…こんな声してましたっけ?)



…そっ…と薄目を開けるルリ…。その双眸に飛び込んできたのは…


…金色の瞳。(爆)


「はあっ!?」

「ルリ?…どうした!?…熱はもう引いてるはずだぞ!?」


…茫然自失のまま、目を限界まで見開いて固まるルリ。

…まあ、仕方ない…。


だって…自分を抱きかかえ、男泣きしてるのは…他ならぬ…

金色の眼をしたアキト…。(汗)


(な、なんでアキトさんがここに!?)

「ううっ…一時はどうなる事かと思ったぞ…。」


「あ、あの…アキトさん?」

「ああ、ルリ…俺の事がわかるんだな!?…良かった…本当に良かった…。(滂沱)」


どうやら…アキト・ラズリに間違い無いようだ。

だが、ルリには、幾つもある疑問を…質問はおろか、整理する時間すら与えられなかった…。(笑)


…くいっ…くいっ…


「え?」


…ルリのパジャマの裾をクイクイと引っ張る者が居た。

…何だろうかとルリが下を向くと…。


「お姉…ぢゃん…よかっ…た…の…。…ぼんどうによがっだのーっ!!」


鼻をグズグズさせ、泣きながらルリの服を引っ張る幼児(♀)が一人。

…随分泣いたのだろうか、目が真っ赤だ。


…ちーん(鼻をかむ音)


「ううう…よかったの…お姉ちゃん…大丈夫…?」

「えーと…誰…でしたっけ…?」




…。(灰色の硬直)




「びぇぇぇぇええええん!!…お姉ちゃんが…サフィーの事、忘れたーっ!」

「え?…え?…ええっ!?」


「うっ…ぐずっ…びぇぇぇぇぇぇええええん!

「ルリ…おい…まさかお前…?」


…ルリとしても、見ず知らずの子供にお姉ちゃん呼ばわりされて困っているだけなのだが…。

だが、幼児は泣き止まない。…ハーリーが大人しく見える程の泣きっぷりだ。


…だが、混乱がこれで収まったわけではない。(爆)


「ルリ…妹は忘れても、お兄様の事は覚えているのですか…?(呆)」

「…あ…貴方は誰です!?」


…見ると、横に16歳程度の少女が腕組みをして立っていた。


黒髪・黒目である事以外は、見た感じ…ルリ自身の16歳と大差が無い。

だが、…何処か神秘的な印象を受ける娘だ。



「ふう…私の事も忘れているんですね…いいでしょう、私はヒスイ…。」

「…ヒスイ…?」

「そう、ホシノ博士夫妻の子『ホシノ・ヒスイ』…貴方の義理の姉。」

「は、はあ…。」


「…はぁ…これはどうやら部分的な記憶喪失みたいですね。」

「え…?…え、ええ。」


「まったく…お兄様の事だけはしっかりと覚えている辺り、本当に貴方らしいですよ…。(苦笑)」


…そうしてヒスイと名乗った少女は、いまだ泣き続けている女の子を抱きかかえると、ルリの目の前に持ってきた。

「さあサフィー。…ルリはご病気のようです。…今更ですけど自己紹介なさい…。」

…お姉ちゃん…サフィーの事…嫌いなの…?」

「いいえ、病気のせいです。…貴方を嫌うはずが無いでしょ?…ね、サフィー?」

「…はい!」


…それを聞いて安心したのか、女の子はルリにぺこりとお辞儀をした。


『サファイア・ラズリ』4歳です!!…お姉ちゃん…えーと、始めましてじゃないし…。


…この子の髪も、また長い…なんと足先近くまで伸びている。…但し、背も小さいが…。

その髪の色は美しい青…恐らくサファイアの名はここから取られているのだろう。

そして…長い髪が顔に掛かるのを防ぐためだろうか?…サンバイザーを何時も被っているようだ。


更に…ラズリの姓を持つ割には、その瞳の色は真紅に染まっていた…。


なお…これは後に分かる事だが、量産型マシンチャイルドは金色の目をしていない。
これは、体内のナノマシンの絶対数が少ない為である…と言うが…。


…。


「…それで、サフィーはラピスお姉ちゃんと一緒に、研究所からお兄ちゃんに助けてもらったの!」

「そうでしたか…。」


…サファイアの自己紹介は30分たってもまだ続いていた。だが、ルリはその中である事に気がつく。


「え…ラピス?…ラピス…は…今何処に!?」

「ふえっ?」
「…ちょっ…ルリ!!」


…ゴゴゴゴゴゴゴ…

何故か…背後から暗い雰囲気が迫ってくる!!


「…あ、アキトさん…?」

「ら…ラピス?…ラピス…うおおおおおおおっ!!


…突然暴走するアキト!!(汗)

壁を殴り壊し、ドアを引きちぎる!!…そしてそのままゴロゴロと、のた打ち回りだした!!



…少なくとも、尋常な状況ではない。(笑)


「お兄様!!…あの子の事はお兄様の所為では無いでしょう!!」
「お兄ちゃん…やめてぇ…うぐ…ひっく…。

「え?…え?…え?」


「うおおおおおっ!!…俺の力が足りなかったばかりに…済まん…ラピスーっ!!…クソッ…あの男め…次ぎ会ったら承知せん!!…ゴオオオオオッ!…姉さんの敵を含めて八つ裂きにしてくれるっ!!…グ!?…ぐぁあああああああああああっ!!…んぁ…何か…何か忘れて…あ、あ、ああああ…アイ…ちゃん…がわああああぁぁぁっ!!…あの時…あの時俺が関わったりしたから…あがががががぁあぁぁっ…!!」


…ドンガラガガッシャーン…。

…結局、アキトが正気を取り戻したのは…一時間後のことだった…。


…。


「はぁ…はぁ…はぁ…。」

「…あ、アキトさん?」
「お兄ちゃん…正気に戻った…の?」
「…ルリ…お兄様にラピスの事は禁句よ…それも忘れてるのね…。」


…血涙を流すアキトに、流石のルリも引き気味だ。

だが…ラピスの身に何かあったのは間違い無い様子…。


「うう…ラビス姉さん。…俺、守れなかった…ラピスの事…守れ無かったんだよ…。(泣)」


…しかも仏壇に手を合わせてるし…。(汗)

どうやらルリは、知らぬ内にトラウマをえぐってしまったらしい。


あれ?何か…大事な事を忘れてるような…。


…。

(しかし…一体どうなっているのでしょうか…?)


ルリは風呂で背中を流してもらいながら、そんな事を考えていた。


(なんでアキトさんがこの時代に私の所に居るのでしょう?…それにあの金色の瞳…。)


ざばーっ…



「…ま、もうどうでもいい事すけどね。」

「何がだ…ルリ?」

「いえいえ…はぁー、気持ちいいです…。


…アキト…なんで貴様がここ(風呂場)に居る?
つーか…なんで一緒に入っているんだ…。(汗)


…いや、この際それを論じるのは止めて置こう。(超爆)


横で湯船の中…気持ち良さそうに泳いでいる幼女を見ていると、なんとなく真理が見えてきた…。

このアキト、馬鹿兄だ…それも重度の。(断言)


だがそれより遥かに問題なのは…ルリがすっかり「たれルリ」になってしまっていると言う事実だろう。


そして、それから一年…ルリは徹底的に甘やかされて育てられる事となる…。

はてさて…ナデシコは一体どうなってしまうやら…。(汗)


…。

「あの…アキトさん?」

「ン…どうしたルリ…?」


「アキトさんのこと…知りたいです…。」

「…どうして、今更?」


「色々…忘れちゃいましたから…。」


…本当は、いずれここの自分と一体化し…記憶も共有する事になるのだが…

でも、ルリは…ただ喋る理由が欲しかったのかも知れない…。


「…昔の事にこだわっていちゃ…今を生きる事は出来ない…。」


「でも、…知りたいです。…駄目ですか…?」

「…仕方ないな…良いだろう…。」


そして…『アキト・ラズリ』は語り始めた。

自らに課せられた数奇な運命…そして伝説の存在、…黒帝との確執を…。

続く

 

−−−その頃の木星−−−


…ででーん…


そうとしか言いようの無いような、巨大な祭壇が築かれていた…。

敷地の無駄遣いのような気もするが…木星にとっては重要なものであるらしい…。



その祭壇…いや、神殿を前に、木連軍総司令を務める『草壁秋人』元帥が、腕組みをしている。

…そこに、高級士官の制服を着た、若い士官が歩み寄ってきた…。


「にいさ…いえ、元帥閣下、『草壁冬磨』准将…ただ今、帰還いたしました!!」

「おお、冬磨か!…今まで何処をほっつき歩いていた?…ま、良いけどな…。」


…『草壁冬磨』准将…。四天王の一角を占める若き天才である。秋人とは実の兄弟、夏樹・美春とは従兄弟同士に当たる…。

…だが、その地位は七光りによってのみ、もたらされた訳では無い。

機動兵器戦では四方天をも上回り、戦闘指揮も凄まじい才覚を誇っていた…。


「しかし、兄さん…こんな巨大なものを築く必要などあったのですか?」

「あるんだな、これが…俺も最初はわからなかったが…な。」


これが…士気を高める為の物である事は判る…。だが…この中に祭られている者は一体…?


「そうだ。…戦巫女様を見つけ出されたと聞いていますが?」

「ああ…『雛』の所に居たそうだ…。」


「ヒナ…!?…では…黒帝の居所が知れたので!?」

「いや…連れ歩いている所をお救いしたらしいからな…。」


…。(謎の沈黙)

「…連れ去った…の間違いでは?(汗)」

ま、今の所はな。…なにせあの北辰だしな…。」


二人とも、ダラダラと冷や汗をかいている様だ。

どうやら北辰は相変わらずらしい。


「ご機嫌を損ねたのでは…。」

「…いずれ判るさ。…地球の連中は『金目の一族』を実験動物程度にしか見ていない…。」


そして、秋人はギリリ…と歯軋りをした。

彼ら木星の人間にとって、アムやラピスに始まる『金目の一族』は仲間である…と言える…。


「…どの程度、救い出せていますか?」

「…『人形』レベルならかなりの数だ…。だが『妖精』になると、地球側のガードも固い…。」


「酷い話ですよね…。」

「ああ、彼女たちもまた…人であるし、生きても居ると言うのに…。」


…そこまで言って、暗い雰囲気に耐えかねたのか…二人は話題を変える。


「そうだ…冬磨。…『瑠璃唐草』に秘密の機能があったそうだな?」

「はい、…『白虎』との変形合体機能がある事が判明しました…。」


「…おかしいと思っていたんだ。…何故『四聖獣』で白虎だけが人型形態を持たないのかとな。」

「はい、あの山崎老がわざわざ現役復帰してまで作った機体です。…何かあると思っていました。」


…『瑠璃唐草』…それは山崎老(いい人山崎)が冬磨の為に作っておいた機動兵器である。

なお、彼は既に現役を退いている。


…だが、跡目があの山崎ヨシオである事には、各方面から批判がいまだに絶えないと言う…。(笑)


…。


そして、その頃…神殿の内部ではと言うと…。


「はい、かしこみー、かしこみ!」


ばさっ!、ばさっ…!


「さあ、戦巫女様…今のようになさって下さいね。」


…草壁美春…例の珍獣・モクレンミブヤモドキである。

彼女は横にいるラピスに、なにやら御祓い?…のような事を教えていた。


…ラピス…ここにいたのか!?


因みに…無論の事ではあるが、この場の全員が巫女服を装備。(爆)

横に控えている優華部隊の某人物も、心底同情した雰囲気をかもし出している…。


「かしこ…み…かし…」


ピコッ……ピコッ…(なんだか犯罪的な可愛さ)


「…うーん、戦巫女様。…思い切りと声の大きさが足りませんね。」

「………帰ル…。」

「はっ…でも、野郎どもを萌えあがらせるには最高の状態かも!!(腐)」

「…アキト…。(半泣き)」


「ささっ、もう一度!…かしこみーっ!…かしこみっ!!

「……かしこ…かし…」


ばさっ……ばさっ……!!
ピコッ…ピコッ…


…横に用意された多彩な果物などを見る限り、ラピスは最高の待遇(木星では)を受けている様だ。

だが…帰りたがっている者を無理に引き止めるのはどうかと思うが…。


時に2195年。…ナデシコ出航まで後一年と迫っていた…。


::::後書き::::

BA−2です。第64話、如何でしたか?

さていきなりですが…ルリに姉妹が出来ました!(ヲイ)


まあ、ラピスは当然として…(そうか?)

冷静そうな姉「ホシノ・ヒスイ」
無邪気な妹「サファイア・ラズリ」

…結構な重要人物ぞろいです!…覚えていただければ幸いですね…。


…なお、どうしてラピスがさらわれたかなども、いずれ語ることになるはず…。

でも、次はアキトの回想…多分テンカワ夫妻殺害についてになるでしょう。
では!

 

 

代理人の感想

 

ん〜、逆行者達のスラプスティックコメディは今回で終わりでしょうか(爆)?

結構楽しかったんですが(笑)。

 

それよりも重要なのは、

木連が腐女子に支配された国家だったこと(核爆)!

表でゲキガンガーの熱血と正義を崇めながら、裏では腐女子が、萌えが支配する!

なんという残酷!

なんという悲劇!

木連男児の明日はどっちだっ!?

 

 

 

 

追伸

・・・どこかで「アレ」の同人誌作らないかなぁ(謎爆)