機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第68話 戦場




…荒野…それしか言いようの無い平原が広がっている。


そこは…戦場だった。

…地球に住まうものと宇宙に住まうもの…その存在する場所による不平等は不満と傲慢を生み、

不満と傲慢は確執を生む。


そして…それは何時か敵意と化し、戦争の引き金となるのだ…。


…。


そうでなくとも仲の悪かった地球と月の人々。

更に今回は100年近く前に起こった動乱の所為で、関係の修復は不可能とさえ言われる始末。


…この両者が和解するまでには、まだ数年の時が必要であった…。

ただ…その和解の理由が、他の外敵から身を守るため…と言うのは悲しい事かもしれない…。




…。



白いアーマーに白マント。
それなのに顔に付けているのは黒いバイザー…。



戦場に生きる者ならばその名を知らない者など居ないと言われる、最強の傭兵がそこにいた。


「純白の死神」…アキト・ラズリ。


その戦い振りを見たものは、とある名を思い出さずにはいられない…だが、彼はその事を頑なに否定し続けていた。

…そして…今日もまた彼は戦う。


以前、命知らずのリポーターが自分の命と引き換えに、「何故戦うか」を彼に尋ねた事がある。

その時の彼の答えは明快そのものであった。


力が欲しい…もう何も、失わない為に…。」


…その言葉の意味を知る者は、世界広しと言えども僅かしかいない…。



…。

 

…ダダッ!…たっ!!


アキトは今、地球側に雇われて月側の部隊と戦っていた。

…仕事の内容は敵の足止めである。


「…しかし…ガトルの奴め。…これだけの数を足止めしとけ、とは…また無茶な事を。」


…目の前には、戦艦すら存在する一個師団が…こちらめがけて突き進んでいた。


「…まあいい。…これなら殲滅の方が早いしな…。


何気に物騒な事をのたまうアキト君。

…どうやらせちがらい世の中を渡っている内、擦れてしまった様だ。(汗)


…そして…アキトは走り出す。

敵の目には白い点が突っ込んで来るようにしか見えまい…。

だが…それは死神のマント…。


…。


…ダダッ!…キキィッ…ドゴァアッ!!


先行偵察をしていた機械化歩兵(ロボットに非ず)のトラックのタイヤに小石をぶつけ…貫通させる!

…そして…バランスを崩し転倒・爆発するトラックを見て、始めて敵は自分たちの目の前にいる存在の正体に気づいた…!!


「し、死神だっ!」
「アキト・ラズリがきやがった!!」


「その通り。…だが、もう遅い!!


ドォッ…ドゴォォオオオン!!


手にしたグレネードランチャーが火を噴き、能書きを言っていた兵士達を吹き飛ばす!!

そして…そのままその爆風に紛れ、敵戦艦に肉薄した!!


「どんなに装甲が厚かろうが…人が乗り込める以上弱点はある!」


そんな台詞とともにアキトは戦艦の側面に取り付き、突起部分を頼りによじ登って…いや飛び上がって行く…!!

そして…艦橋部分に辿り着いたアキトは風防に拳を叩き付けた!!


ガシャァァアアアン!!


…この時代の戦艦といえども、艦橋部分からは外が見えていた…。

と言う事は必然的に外とはガラス一枚で区切られている事になる。


…ならばそこの装甲などたかが知れていると言う物。

シャッターが下りて来る前に内部に入り込む事など、アキトにとっては児戯にも等しい事だったのだ。


「な…キサマッ!?…ガごっ!?


…煩い敵上層部を鉄拳で黙らせる。…この程度の相手に弾薬はもったいないからだ。


「さて…と。」


…そして、アキトは航行コンピュータにウイルスを流す。

姉の遺品の一つ…生半可なプロテクトで破られる物ではない…!!


…。(閃光)


…アキトが脱出したその瞬間、戦艦は自爆した。

なお、ラビスはこれを暇つぶしで作ったらしい…。(ヲイ)


「さて…?」


…見ると敵は総崩れで撤退していく。

一瞬で失った戦力を考えると、非常に合理的な判断だと言えるだろう。


「ほう…向こうにもまともな奴がまだ残っていたか…?」

『当たり前だ。』


…その時、アキトの通信機に向こうからの通信が入る。


「…敵の指揮官か?」

『ま、今現在なら…その通りだよ死神。…私はサラシナだ。』


「月面の参謀か。…成る程、司令官はすでに戦死したな?」

『ご想像に任せるよ…。次は味方として会いたいものだな。』


「…それは依頼しだいだな…。」

『まあ、君が次まで生きていられたらの話だがね。』

「ナニッ!?」


ゴオッ!!


…その時、アキトは初めて自分の背後を取るように移動していたエステバリスに気づいた。


「10機はいるな…迂闊だった。」

『まあ、気を引くための通信だったからな…。さらばだ死神。』


「だが…そう上手くいくかな?」

『何だと…幾ら君が黒帝の生まれ変わりだったとしても、生身で機動兵器に勝てるのかな?』


…その、サラシナ参謀の言葉に、アキトはフフっと含み笑いを残す。


「俺はそんなんじゃあない。」

『そうかな?…かなり有名な話だが…?』


「第一、俺は本物の≪黒帝≫を見た事がある。

『な?』


「まあ、周囲の連中からは『戦神』とか呼ばれてたがな。」


…は?


「見せてやるよ…あの人達から覚えた技を…。」


そして、アキトはセイバーをバックラーの裏から取り出した。

しかも…本人は気づいていないが、
ナノメタルシステムが起動し、ディストーションフィールドが周囲を覆っている…!!


「木連式亜流…戦神之型!!」


…アキトが手に持つセイバーにまでフィールドが収束し始める。

あたかも肉体の一部になったかのように…!


「唸れ…我が内なる竜よ!!
…秘剣・咆竜斬!!




…。

…そして…振り下ろされた刃から発生した竜が敵を吹き飛ばした…!!
…どうやら逃亡者どもはこの世界にまで来ていたらしい。(汗)


なお逃亡者たちについて、詳しくはアフターの方をご覧下さい。(ヲイ)



…。

全てが終わった荒野…アキトは独り言を言いながら、味方の迎えを待っていた。


「戦神…俺はアンタみたいな奴にだけはならない…人として尊敬できる所はあるがね…。


実に殊勝な考えである。(ヲイ)

…が、彼もアキトである以上、女難からは逃れられようも無いが。


…そんな所に、空からチューリップが降ってきた。2メートル弱の超小型だ。


かぱっ…すたっ

チューリップの中からカプセルがせり出し、更にその中から女の子が一人飛び出してきた。


「アー君!!」

「…なんだ、枝織ちゃんか。…何の用だ。」


…どうやら木星は人移動用のチューリップを開発したらしい。

なお、このように普通はフィールドを張れるカプセルに乗って移動する。


「…会いたかっただけなんだけど…迷惑?

「いや…ただ、ここは一応戦場だからな。」


「大丈夫だよ、枝織だって弱くは無いもん!」

「…ふう、仕方ない奴だな。…あ、そうだ北斗の奴は元気か?


ピキッ…。

枝織の笑顔が固まる。…無論アキトが気づくわけも無いが。(ヲイ)


ああ、北ちゃんなら…元気…だと思うよ?(汗)

「そうか…君が来るようになってからさっぱり音信不通だからな…元気ならいいんだが。」


あはははははは…あ、アー君、急用思い出したから…じ、じゃあね!!(汗)


…ずももももも…


カプセルを再度飲み込んだ小型チューリップは、地下深くに潜り込んでいった。

…無論、アキトは枝織ちゃんの慌てぶりにまるで気づいていない。

…しかも…


「…枝織ちゃーん!…聞こえてるか?…今度北斗も…『お兄さん』も連れて遊びに来てくれよ!」


北斗を男だと思っている様子。しかも別人だとも思っているようだ…。

さて…真相を知ったらどうなる事やら…。(汗)



…。



ばたたたたたたた…

どうやら漫才をやっている内に仲間達がやって来たようだ。


…アキトはヘリコプターに乗り込む。

そこには…次なる依頼者も乗り込んでいた…。


「アキト…今日はお願いがあってやってきました。」

「能書きはいい、で、仕事の内容は?」


ウェーブがかった金髪が、ふわりと揺れる。

だが、その顔立ちにはまだ幼さが残っていた…。


「ネルガル関連の、ある施設への潜入捜査をお願いしたいの。」

「…で、シャロン。…どこなんだ?」


…シャロン・ウィードリン。

クリムゾン会長ロバートの孫娘にしてアクアの義理の姉…。



「ホシノ博士ってご存知?」

「ああ…。MCを一人育ててるらしいな。」


「そう、そこで今ボディガードを探してるのはご存知?」

「…成る程な。…隙を見てMCを浚って来いと言うのか。」


だが、シャロンは首を横に振る。


「いえ、予言によれば、放っておけばネルガルの力が弱まる時期があるはず。…歴史の書き換えはそこで行う事になっているわ…今の所。」

「…では今回は偵察だけか?」


「そうね…貴方にお願いしたいのは彼らの育てているMCが伝説に名高い『ホシノ・ルリ』であるかどうかの確認、それだけよ。」


それだけ言ってシャロンは不敵に笑う。

その含みを持った笑いには、現状に対する憤りのようなものが浮かんでいた…。


「…場合によってはクリムゾンの予定をお前が書き換える気だな、シャロン?」

「ええ…アクアにだけいい思いはさせなくてよ。…で、アキト。協力してくれます?


…暫く考え込んでいたアキトだが…ゆっくりと頷いた。

そして…早速次の日アキトはホシノ宅に向かう…。



…。


…これはまだ、アキトがアースヴァグランツを結成する前の話…。
ナデシコ出航までにも、まだ数年の時が必要だった…。


続く

::::後書き::::

BA−2です。

第68話は如何でしたでしょうか?


…そろそろコミックやDC版のキャラも出てきました。

出来れば本当にオールキャスト行きたいですね…。(無茶)


次は恐らく…この世界でのアキト・ルリの出会いのお話。
お楽しみに!

では!

 

代理人の感想

・・・まさかリンクしてるとは思わなかったなぁ・・・・(滝汗)