機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第83話 ヤジロベイの友情





…時は2195年、火星・ユートピアコロニー…。


火星の直上で、第一次火星戦役が行われてから少しばかりの日時が過ぎた頃…

この地下に、数十名ほどの人間達が集まってきていた…。


…皆、暗い表情でわが身の不遇を嘆いているようであった。


だが…当然だろう。

ここに居ると言う事は、即ち撤退に間に合わなかった…つまり


連合に見捨てられたと言う事に他ならない。


だが…


どんな所にも例外と言うものは存在する。

…この中にも一集団ほど、そんな不穏な雰囲気を感じさせない部分が存在していた…。


「わぁー、有難うお兄ちゃん!」

「…ふふ、構わんさ。」


何故かここに居るアキトの手から、少女にミカンが手渡される。

…無論、アイちゃんである。


「済みません…」

「良いんです、どうせ長居する気はありませんからね…。」


アキト達は、このシェルターで仲良くなった親子と一緒に行動していた。

そう、アイちゃんとお母さんである。(笑)


アイちゃんの母親からの礼に簡単に答えるアキト・ラズリ。

そして…


「…アキト…。」

「ん?…どうしたラピス。」


アキトのマントをクイクイと引っ張る…ラピス・ラズリ。


…。


「ゴメンネ…私のワガママの所為デ…。」

「ふぅ…余り気にするなよ?」


ポンポンと、ラピスの頭をなでるアキト。

…彼は、ラピスをつれてこの地を訪れていた。


…元を正せば、ラピスが「アキトの故郷を見たい」と言ったのが始まりである。

そして、妹には餡蜜チョコパフェ以上に甘いアキトがそれを断れるはずも無く…

…彼らは火星にやってきたのだった。


そして…この戦乱と混乱に巻き込まれた。…宇宙港は閉ざされ帰る道は無い。

だが…アキトは別段悲観もしていなかった。


…地球に残している他の妹達が心配ではあるが、

そこはヒスイがしっかりやってくれるだろうと言う安心感もある。


が、


「問題は…これでラピスへの贔屓がルリやサフィ−にばれる事だな…。(汗)」

「…ごめんなさい…アキト、私ワガママだっタ…。」


「あー、泣くな泣くな…。」

「…。(こくこく)」


…今にも泣きそうなラピスを軽く抱きしめ、背中を軽く叩いてやるアキト。


彼はラピスには特別甘い兄貴であった。(爆)

…無論、それは姉と良く似ているから…と言うだけの事でしか無いのだろうが…。


…。


…じー…

そんな二人を見る一対の瞳…。


「…ラピスちゃんだけズルイな…。」

「…アイちゃん?(汗)」


「…うー。(ふるふる)」
「…ずるいなー…。(凝視)」



…何故か二人の視線から火花が散る。(苦笑)

…横のおっさん、それでタバコに火をつけるな。(爆)


「こらこら…ほら、アイちゃん。」


ぽふ…


「…!(ちょっと睨んで見る)」

「わっ…お兄ちゃん…。(赤)」


片方づつ両膝に二人を乗せるアキト。

そして…


「お兄ちゃん…今度デートしてあげるね!」

「…えっ?」


…ぴきっ


…アイちゃんのその発言が…


「アキトを取らないデ…。(泣怒)」

「えー、ラピスちゃんだけずるいよー。」


「…ん!?」

「…ラズリさん…どうかなさいまし」


…歴史を動かすスイッチだった!


…。


…バリィィィィイイイイン!!


壁を突き破り、シェルター内部に突っ込んでくる一匹のバッタ!!


「きゃぁああああああっ!!」
「ついにかぎつけられたか!?」
「カミサマァア嗚呼あっ!!」
「いやぁ…もう終わりなの!?」
「ひっ!」



…ヴォン!!


赤い凶暴な光が、命持たぬ無人兵器に宿り…敵として認識されている事を人々に示す…。

…その光景に、人々は恐怖した…。


…。


が、そんな事お構い無しの人々も居る。(笑)


「アキト…(ぽぽっ)」

「お兄ちゃん…(にたー)」


…ひしっ


「はいはい…大丈夫だからな…。(苦笑)」


…怖がる振りしてアキトに抱きつく女の子が二人。


そして…


「ら…ラズリさん…敵がっ!!」

「ふぅ…雑魚が…。」


…てくてくてく…げしっ!


…ボガァァアアアン!!


…ヤクザキック一発で無人兵器を破壊する化け物が一人。

…今回アキトは強い。…バッタの一匹程度敵ではないのだ…。


「まったく…何しに一匹で…ん?」


…しーーーーん


…黙りこくる一般の方々。

そりゃあ、目の前で無茶な光景を見せ付けられちゃあこうもなる。


でも…


…。


…ざざっ…ヴォォン!

敵に増援登場!


「ぎゃああ…また出てきたぞ!!」
「今度こそ終わりなのねー!!」
「いやだああああああああっ!!」
「しにたくないぞぉぉ!!」


…。

「あ、お兄ちゃん…また出てきたよ。」
「アキト、頑張レ…!」


…てくてくてくてく…ゲシィッ!!


「いい加減にしろ!」

『…ガガガ…(泣いている様にも見える)』


…ドゴォォォォォオオオオン!!


…またも一蹴!

かなり面倒くさそうにアキトはバッタを殲滅した。


…がさっ


すると…また一匹が現れた。

…どうやら壁の向こうで沢山待機しているらしい。(笑)


「ちっ…おい、ラピスにアイちゃん、一度離れるんだ。」

「えー!」
「…!(怒)」


「殲滅してくるから…危ないんだ。…分かるな?」

「はーい。(渋々)」
「…。(…こくっ)」


…そして、アキトが壁の向こうに行こうとしたその瞬間!

くいっ…


「ん?」

「あの…これをお使いください。(汗)」


胴着姿の女性が冷や汗をかきながらアキトを引き止めた。

…そして…その傍らには『例の車』が…。


「これは何だ。」

「いえ…素手で行かれるより、この車で体当たりした方が良いと思われますので…。(汗)」


「…素手で殲滅できる。…かえって邪魔だ。」

「…え゛!?」


…あっさり言い切るアキト。(笑)

そして…滝のような冷や汗を流す女性。…大変だな、辻褄合わせるってのも…。


ねぇ…モクレンミブヤモドキ!

しかし…彼女、チョイ役の筈なのに…使いやすくて出番増えてる…。(汗)


…。


だがまぁ…アキトがどんなに嫌がろうが、木連にも都合と言うものがある。

…そして…それ故に引けない事情もある訳で…、


「いえ…無理に殲滅なさらなくとも、向こうのシャッターを開ける間の時間稼ぎをして頂くだけで十分です!!
…えぇ、十分ですとも!!(汗)

「…殲滅できるならそれに越した事はあるまい?」


ぁぁぁあああああいえ、見ず知らずの方にそこまでして頂く訳には参りません!!」

「…とにかく邪魔だ。…よっと。」


…ぽいっ


「あ゛あ゛っ…せっかく探してきたのに!!(泣)」

「おお、飛ぶ飛ぶ…。」


…どっかーーーーん…


…投げつけられた車は爆発炎上し、壁向こうのバッタを数匹吹き飛ばしたようだ。

そして…ちょっと切れかかる女性(美春)が一人…。


「…あんまりです…あんまりですよ…!!」

「どうした…顔色が悪いぞ。」


…って、片手で車を放り投げるな。(爆)


…。


「さて、全滅させてくるか…。」


そうしてアキトが無人兵器たちのほうに向かおうとした瞬間…

不気味な呟きが周囲を固まらせた!


「…ふふふ…まあ…大筋だけでも同じにしなくては成りませんね…。」

「…なにっ!?」


ばばっ…!!


…その時、胴着姿でありながら美春は軽々と数十メートル跳躍し、

閉ざされたシャッターの前に立ちはだかった!


「やれぃっ!!」


ザザザザッ!!

…アキトの周りを、突然数十匹の無人兵器が囲む!


「キサマッ!!」

「…仕方ないじゃないですか?…全く、お姉さんを怒らせないで下さいね、めッ!」


『…誰が姉さんやねん!!』


全員が心の中だけで突っ込みを入れる。

…しかも、何故か全員エセ関西弁だ。(汗)


「…つまり、貴様は木連の…。」

「はい、草壁美春と申します、以後お見知りおきを。」


ふかぶかと…美春は頭を垂れる。

…そして


…斬!…ギギギ…バラバラバラバラ…!!


隠し持っていた刀でシャッターを切り刻む!

…その背後からは数多の無人兵器が這い出してきた…!!


「…刀で鋼鉄製のシャッターを切り裂いたと言うのか…。」

「テンカワさん、貴方なら素手でも出来る事でしょう?」


にこやかに笑いながら美春が答える。


「…勘違いするな。…俺の名はアキト・ラズリだ。」

「そうでしたか…ですが、それでは首から下げたそのペンダントは?」


チャリ…

アキトは自分が首から下げていたペンダントを手にとる。


「親の形見…と言った所か。…もっとももう、顔も満足に覚えていないがな…。」

「そうですか、ですがそれはCCで出来ています。」


「…チューリップ…クリスタル?」

「ええ。…それを使って地球にお帰りください。…そうすればここの方々も死なせずに済みます。」


アキトが怪訝そうにする中、美春の説明は続く。

…ここでアキトが地球に飛びさえすれば、一応の格好は付くと言う事なのだろうか?


「…言っている事の意味がわからん。」

「イメージするんです。…そのクリスタルは望む場所に飛ばしてくれるでしょう…。」


アキトは不信感を覚えていた。

やはり、敵からの情報と言う事で…かなり警戒しているようだ…。


「本当に…この石にそんな力が…?」

「はい、此方とて無闇な殺生は望む所ではありません。…急ぎ帰られませ。」


…ざわ…

周囲が騒ぎ出す。…きっと自分達も帰れると勘違いしているのだろう…。


「では…私はここで…。」


…シュン…


…これでは埒があかないと判断したのだろう。美春は自分のCCを取り出し、ジャンプを決行する。

…自分がやって見せれば信用してくれるかも知れないと、彼女は思ったのだろう。


そして…美春は消えた…最後の置き土産に、一本の麻酔針を空に投げ上げて…。


…そして…針は狙いたがわずアイちゃんに突き刺さる。

…誰にも気付かれずに…。


その麻酔針は彼女の意識を奪うだろう。

そして…彼女は無意識のまま過去の世界に飛ばされる。


…それで全て上手くいくはずだった…。

あ…細かいツッコミは禁止にして下さい…。(滝汗)


…。


だが…何処の世界にもせっかく上手く行っているのをぶち壊す輩は居るもので…、

…その
余計な乱入者は時を得て…遂に動き出そうとしていたのだ…。


…。


「ま…試してみるか…地球…地球…と。」

「…。(アイちゃん放心モード)」


さて…その時、アキトは疑ってかかっても仕方ない…と思ったのか、イメージを始めていた。

…そして…アキトの周囲にボソンの光が漂い始める…!


「うわぁ…。」
「きれい…。」
「これで帰れるんだな!!」



…周囲には安堵の声が漂い始めた…。

だが…


「イメージ…取り合えず…家の近くの公園でも…。」

「アキト…家に帰れるノ?」


「そうだな、帰れるさ。」


ラピスの問いにアキトが答える。…だが、


「…貴様だけはな。」


返って来たのは…聞き覚えのある男の声であった!


「なっ!?」

「妖精の片割れ…確かに頂いたぞ!!」


…北辰…何時の間に!?

だが、既にラピスを小脇に抱えた状態で、北辰はニタリ…と笑う。


「ら、ラピス!?…北辰、貴様…何時からそこに!!」
「…視線の火花でタバコに火をつけるのは、我が家の家伝よ…。」


…どうやら最初から潜り込んでいたらしい。

しかしまぁ…なんて嫌な家伝だろうか…。(汗)


「くっ…待っていろ…今すぐにでもぶちのめしてやる!!」

「…無駄だ。…そうそう…忘れる所であった。」


ブン!


「…なっ!?」

「さて、これで『史実』通りか?」


…アキトの目の前で、アイちゃんの顔に自らの母親の血が掛かる…。

アキトの目には、彼女が理解できずに固まっているように見えた事であろう。


…だが実際には、既に彼女の意識は無かった。彼女は、母の死を見る事は無かったのである。

…それが幸運と言えるかは別として…。



…。


…どさっ

…ダダダダダダダダッ!!


…かつて…人であったそれが倒れた時…アキトは無意識に突っ走っていた!

最早…自分の意思とは関係なく…。


「貴様だけは…許さん!!」

「そうか…だが…時間切れだ。」


「…なっ?…あっ…!」


…ヒュン


アキトは跳んだ…一度展開されたボース粒子は、アキトの不完全なイメージを読み取り、

地球まで運んでいってしまったのである…。


なお…イメージが不明確であった為か、アイちゃんは『史実どおり』の動きを辿る事となった。

…それは、余りにも皮肉な結果であるが…。


そして…ボースの光に包まれて二人が消えた後…そこにはもうアキトとアイちゃんの姿は無く、

呆然と取り残された人々だけが残った…。


…。


「おい…なんであの二人だけ消えたんだ?」
「その前に…そこの貴方、なんでその人を殺すの!?」
「俺たち…置いてけぼりかよ!」
「いやだ…俺は地球に行きたい!!」



…ガヤガヤと騒がしくなるシェルター…。

北辰によりアキトから引き離されたラピスは…呆然としていた。


「あ、あ、あ…アキト…アキトが…消えちゃっ…タ…。(呆然)」

「そうだ。…さあ、我と共に来るのだ!」


それだけ言って、北辰はラピスを捕まえた。

…そして…北辰は彼女を小脇に抱えたまま、その場から姿を消したのである…。


…。


そして…残された者達はと言うと…

相変わらずガヤガヤと騒いでいた。


…それがどんな結果を生むか気付きもしないで…。


「おい…あいつまで行っちまったぞ?」
「ど、どうしよ…ああっ!!」
「どうした?」
「赤い…赤いまんまだ!!」
「え!?」
「目だよ…目ぇっ!!」



…ヴォン!!


それは余りに滑稽な悲劇であった。

騒がしさに反応した無人兵器たちが再び動き出す。…本来の目的を果たすために…。


「…アッ!?」

「ん…始まったか…。」


…がしっ


ラピスは必死に耳をふさいだ。

…それを聞いてはいけない…見るのもいけない…と、本能で察したのだ…。


…結局…数分後にはシェルターに生命反応はなくなっていた。

彼女がそれを知る事は結局無かったが…恐らくそれは彼女にとって幸福な事であったろう…。




…。




…と言う訳で、戦巫女は確保した。」

「…貴方…本当に外道ね…。」


ここは木星。…北辰と舞歌が言い争っている。

そして…その後ろでは…、


「…返しテ…家に返しテ…。(泣)」

「申し訳ありません戦巫女様…あの時北辰に気付かなかった私の落ち度です…。」


「帰りたイ…アキトの所二…。」

「…肉親と引き離されると言う事ほど辛い事は無いですよね…申し訳ありません…本当に。」


…幼児と言っても過言ではないラピスに、地に頭を擦り付けて謝罪する美春の姿があった。


…彼女自身、幼い頃に父親を失っている。

その為、家族から突然引き離されるつらさは身に染みて分かっていたのだ…。


…そして、この日より彼女は木星でのラピス最大の擁護者となるのである。


彼女の真価を知るものは、ラピスを軍事兵器として利用しようとした。

…どんなに美辞麗句で飾ろうが、その本質が変わらないのであれば意味が無い。


…それ故に、彼女はそれを断固として拒絶した。

時として草壁一族としての特権を振りかざしてまで…。


そう…彼女こそ…数年前に暗殺された草壁春樹の一人娘。

そして…彼女の父を殺した暗殺者の名は…ラビス・ラズリと言った…。




…。



さて…その頃地球では、アキトが壊れた笑い垂れ流していたと言う…。


「ラピス…アイちゃん…うく…ふは…ふはははははははは…!!」


血の涙を流しながら無気味な笑い声を出すアキトは、近所からかなり恐れられたらしい。

そして…憂さ晴らしに潰された組織も10を下らなかったとか。(ヲイ)


…向こうとの落差が激しいのは、きっと気のせいだろう。(汗)


…。


…その運命の日。

木星で、ヤジロベエのような危ういバランスの友情が生まれた。


何も知らない者同士だからこそ成り立つその関係…。

故に、全てを知った時…どんな事態が起こるかは誰にも分からない事であった…。


続く


::::後書き::::

どうも、BA−2です。

…今回はちょっと書き忘れていたユートピアコロニーの一件と、ラピスがさらわれた事の真相を書いてみました。

…なんだか北辰大活躍です。(爆)


更に、当初は唯のパロディギャグ専用のキャラクタであった草壁美春が勝手に動き出しました。(汗)

…恐ろしいですねぇ。(ヲイ)


まあ、作者的には勝手に動いてくれるキャラは使いやすくて良いんですけど。
(過去編のゲンゴロウさんとか)


…こんな駄文ですけど応援して頂けると嬉しいです。

今後とも頑張るんで応援よろしくお願いします!

では!

 

 

代理人の感想

・・つまり、美春さんもゲンゴロウみたいな末路を辿ると(核爆)。

ああ、なんて可哀想な。

 

 

>家伝

北方の技が今に伝えられていようとは・・・まさか南雲さんが伝えてたんじゃあるめぇな(爆)?