機動戦艦ナデシコ  アナザーストーリー


世紀を超えて

第87話 命と言う名のチップを賭けて




「ナノメタル・システム…起動!!」


…その言葉を、アキトは思わず叫んでいた。

だが…アキト・ラズリという男がその単語を知る訳が無い。


(…ん?…ナノメタルシステム?…何だそれは!?)


…思わず自問するアキトだが、深く考える前に異変が生じた。

突然…機体のパワーが跳ね上がったのだ!!


「…冗談だろ…?…出力が上昇してやがる…。」

「それだけじゃないですよ。…上がる訳が無いのに高度がグングン上がってきてます!」


「…どういう事だ!?」

「判りません。…まるで動力炉が内蔵されたみたいですよ…。」


…にやり


アキトの口が歪んだ。

なんにせよ、これなら妹達を助けに行けるからだ。


…異変の正体は後で確かめても遅くは無い。

まず、やるべき事は一つしか無い!


「なら…向こうまで行けるな!?」

「はい。…但し、傷ついたフレームで敵の囲いを突破できますかね…?」


「…出来る出来ないは些細な問題だ!!」

「…成る程…。」


そう…既に成功率云々を論じている時ではない。

…今大事なのは…結果。


そして…その結果を出すための行動でしかないのだ!!


…。


「とはいえ…周りの虫共もどうにかしないとな…。」

「武器ならラピッドライフルがありますよ。」


「…何処にだ。」

「…ここです。」


…えれっ


「…口から出すな。(汗)」

「…仕方ないんです。」


仕方ないで済まされる物ではない。

…第一、このペンギン…どう言う身体構造をしているんだ…?(汗)


「…しかもお前の身長よりでかいじゃないか!?」

「それぐらい大目に見てくださいよ。」


…見れるか!!(爆)


「…しかも濡れてるし…。(汗)」

「…唯の保護液ですってば。(ヲイ)」


…ネトネトとしたライフルを心底嫌そうに抱え、アキトの空戦フレームが上昇を再開した。

だが…それを阻止すべく、無人兵器たちもまた…動き出したのだ…。


「ふう…雑魚どもが寄せ集まったところで…!」

「…機体の限界は近いんです。…無理だけはしないで下さいよ!?」


…事実、空戦フレームは無理がたたり、あちこちから火花が散る危険な状態だった。


「ふ…ならば当たらなければいい!!」


ごぉっ…!!


スラスターが唸りをあげた!

時折爆発のような不協和音を響かせつつ、空戦フレームは風のように飛んでいく。


…先程までの状態がまるで嘘のようだ。

だが、時折響く不協和音が、何故か一抹の不安を与えるのであった…。


…。


…アキトの空戦フレームは、一直線に敵艦に向かっていく。


敵艦と機体の間には、バッタが数百機程も攻撃態勢で待ち構えていた。

…だが…それを排除しない限りアキトは妹達の下に向かう事は出来ない!!


…ヴァォン…!


赤く光るバッタのカメラアイ…。

それを見たアキトは思わず呟いた。


「ちっ…数ばかりの雑魚で俺を落とせると思うなよ…。」

「ですが…敵艦が…!」


…アキトはハーリーの声に上を見上げる。

すると、何時の間にか爆発は更に大規模になり、艦そのものすら危ない状態になっていたのだ!


「…時間を稼がれたらアウトか…!」

「はい、自沈までもう時間も余り無いかと。」


…ガシャ

アキトは空戦フレームの両腕でライフルを構えた。


…時間も…交換用のマガジンも、無い。

一発一発で敵を片付けていかねばならなかったのだ…。


「…残弾500発…少々心もとない…。」

「来ます…12時方向より50機!…3時方向、6時方向より各30機!!」


「ちっ…まあいい、蹴散らしつつ先を急ぐ!!」

「駄目です!!…6時方向より20機…完全に囲まれました!!


…僅かな停滞…。

その間に敵は包囲を完了していたようだ。


…攻撃が無かったのは、ただ包囲を待っていただけなのだろう…。


最早、回避しようにもその場所すらない。

…しかも…無理な機動がたたり、空戦は既にあちこちガタが来ていた…。



「ここで終わりにしてたまるかぁああああっ!!」


…考えている暇は無かった。

アキトは全速で機体をひねらせ、狙いすら定めずにライフルを乱射する!


バラタタタタタタタ…!!

…ドォ…ドォドォォォオオン!!



…包囲網は余りに狭く、それ故に全く狙いを定めずとも敵機はバタバタと落ちていく…!

だが…衆寡敵せず!!


バァァァァァァ…!!


…何かの放出音がアキトの鼓膜に入ってきた!!


「…ミサイル…!?」

「同士討ち覚悟のようです!!…駄目だ…避けようにも場所が無い!!」


…バッタ数十機分のマイクロミサイルが、アキト目掛けて周囲全域から降り注ぐ!!

ハーリーの言った通り、既に味方への損害は覚悟したようだ…。


「冗談じゃない…ここで死んだら冗談抜きで犬死にだっ!!」

「…着弾まで後5秒!!」


…ゴオッ!!

アキトはとっさにスラスターを全開にし、前面にライフル乱射しつつ突撃した!!


「…南無三!!」
「前方のミサイル群誘爆しています。…爆風圏内…入ります!」



ゴォォォオオオオッ!!


アキトはハーリーを肩の上に乗せたまま、自らライフルで爆発させたミサイルの爆風に突っ込む!

そしてそのままそれを突破した!!


「…狙い通りなら…!」


…カッ!!…ドォォォォン!!


「…敵ミサイル郡、一気に誘爆していきます!!」

「当然だ…此方の被害は!?」


誘爆し続けるミサイル達の爆風圏内に、別な方角から誘導されてきたミサイルが次々と入り込み、

誘爆の連鎖が起きる!!


アキト自身は最初に自ら爆発させた分のみをわざと食らうと言う、肉を切らせて骨を絶つ戦法だ!


「前面装甲にミサイルの破片が多数着弾しています。」

「…咄嗟に顔は庇ったが…。」


「…胸部サブカメラが一部お釈迦ですね。…破片が刺さってます。」

「まあいい。…動けるからな!」



しかし、空戦フレームは確実に大きな打撃を受けていた。

…自ら爆発中のミサイルに突っ込んでいったのだから当然と言えば当然である。


…だが…ハーリーが無傷で無事なのは何故だろう…。

ま、考えても仕方ない事だけど。(笑)



…。


…アキトは上方に突撃していた。

今現在は敵の第一陣を突っ切った形になる。


だが…そこは敵側から見れば正に自軍の中心。

包囲網の真っ只中と言う状況は、更に悪化していたのである…。


「…上にはウゾウゾと…アリみたいな大群か…!」

「…先程突っ切った敵第一陣が、じわじわと迫っています。」


…ちっ

アキトは舌打ちをする。…余裕が無くなっているのかも知れない。


「機体の状況は…。」

「先程よりスラスター出力二十五%ダウン…いえ、スラスター自身が融解を始めてますね。」


「なっ!?」

「…出力自体は上がっています。…もうここ重力波の圏外なんですけどね…?」


「…いや、そうじゃなくて。」

「はい?」


…なんでそんな事が判る?…気になっていたが…何の機材も無いだろ?」

「ま、細かい事は良いじゃないですか。」


注:…良くないです。(爆)


「確かに、俺には関わり無い事だ。」

「…ま、テンカワさんならこれぐらい大丈夫じゃないですか…?」


…にやっ


アキトの顔にぞっとする様な笑いが浮かぶ。

伝説のテンカワスマイルとは別種の…こう…魂を鷲掴みされるような、嫌な笑い方だ。


「確かにな。…アマテラスの時はこんなもんじゃなかった…。」

「でしょ?」


「しかし…武器が足りないな。」

「じゃあ、もう一丁出します?」


「ああ、頼む。」


…えれっ


「はい。…不評だったから、今度は保護液無しです。

「…よし、これなら行けるか…?」


…まだあったんかい!!
…しかもまた口からかい!!
それ以前に
吐くみたいに出すな、気持ち悪い!!
…第一、貴様の腹はどう言う構造になってるんだ
ペンギン!!


「…細かい事は放って置いてください。」



























…ナレーターに突っ込むなぁっ!!(怒)



















…。


さて、そうこうしている内にもアキトは敵圏内を突っ切っていく…。


…慣れてきたのだろうか…?

次第に機体の動きが洗練されていく…。


そしてそれに伴いアキトの全身のナノマシンは異常に活性化し…、

全身の古傷が浮かび上がる…ある意味痛々しい姿となっていた。


「クックック…遅い遅い!…無人兵器だけで俺を止められると思うな!!」

「…テンカワさん、右舷より一斉射撃が!」


「判ってる!!」


…ガガガガガガガガガガガガガ!!

…一直線に動くアキトの機体に照準を合わせていたバッタの一団がまとめて爆散した!!


「凄い…段々と動きが良くなっていく…?」

「…ふん!…この程度、北辰達に比べれば…!」


…その時…未だに爆炎を上げ続ける敵艦から、一隻の脱出艇が放出された。

その脱出艇…非武装のシャトルには、寿司づめになって人が乗り込んでいる…。


「…まさか…ルリさん達もあれに!?」

「可能性はあるな。…行って見るか!」


…そして、アキト達はそれに近づく。だが…それは…、


…ヴォゥン!!


…最早、味方の被害を考慮から外した無人兵器達には格好の的となる行動であった!!


「…止まれ!…その中にホシノ・ルリはいるか!?」

『い、居ない…居ないから離してくれ!!』


…突然船体を掴まれ、慌てた操縦士らしい男がアキトに命乞いを始める。

だが…彼らは気づかなかったが、バッタのミサイルは容赦なく"彼ら"に降り注ぎ…、


「…嘘はついていまいな!?」

『本当だ…神に誓っても』


…ドゴォォォォォオオオオオオン!!


…全てを…飲み込んだ…。



…。



…それは…悲劇的というより、滑稽ですらあったかも知れない。


アキト・ラズリが見たメインカメラの最後の映像…それは被弾し、燃え盛る艦内で蠢く人らしき物。

そして…足掻き続けた挙句、第2撃で無残に吹き飛ばされる名も知らぬ者たちの姿だった…。



(ムザンニ、シンデイク…リフジンニ…ウバワレル…ドコカデ…ドコカデミタヨウナ?)



…。


…カッ

そんな風に彼が感じた瞬間…アキト自身もミサイルをまともに食らい、吹き飛ばされた…。

だが、その時…脳裏に何かが写りだす。…それも凄い勢いで…。


(これは…ははっ…走馬灯…か!?)


…細切れのように、脳内を駆け巡る記憶の渦…。

現在から…次第に過去へと、記憶は移り変わる。


(…これは…ああ…ラピス達と最初に出会った時の…。)


…一説によると走馬灯とは危機的状況下で、

過去の記憶に打開策を探そうとする体の働きなのだと言う。


(ルリ…それにヒスイ…ああ、あの山の中…そう。化け物みたいなバッタが居たな…。)


…それ故近い記憶から猛スピードで検索し、最終的に生まれたその瞬間まで遡る。

だが…もしそこまで遡れたと言う事は…つまり、打開策が無かったと言う事。


(ラビス姉さん…ああ、これは…父さん…母さんが居た…頃の…。)


…つまり…アキト・ラズリに最早打つ手は…無い。


…。


爆発に翻弄され、木の葉のように舞うエステバリスの中で…アキトは走馬灯を見る…。


(…ここは…何処だ?
 
『お前の名前は…アキトだ。…テンカワアキト。…さあ、役場に届け出を出して来ようか。』
   …父さんの声?…ここは…もしかしたら…。)



…そして…遂に遡れる最初のイメージに辿り着いた時…。



……ズキィッ!!



…アキトは…突然激しい痛みを頭部に覚え…自らの意識を手放した…。



























「…ちょっ、テンカワさん!?
  …まさかホントに死んじゃった訳じゃないですよね?
   …ルリさんたちはどうするんです!?」

(るり…ルリ…?…俺の大事な家族。…大事な…カゾクノ…ナマエ…。)


























…その一言で…『彼』は目覚めた。


「あ、気が付いたんですね!…敵は僕が追っ払っておきましたから!」

「…ああ、確か…ハーリー君だね?」


「ええ。…あれ、名乗りましたっけ?」

「ああ、ナデシコ関係のクルー…名前ぐらいは覚えているさ。」


それだけ言うと…アキトは現状をチェックする。


「…装甲はほぼ全壊。…熱で強化プラスチックが溶けたんだな。」

「ライフルは両方お釈迦です。…因みにもう次はありませんよ。」


「ククッ…肝心なところで力が足りないのは相変わらずか。」

『…今回はそうとも限りませんよ、マスター。』


…アキトが自嘲気味に笑った時…黒い機体がアキト達の目の前に現れた。


「…プラスか。」

『はい。…この日が来るのを100年間…お待ち申し上げておりました。』


それは…重火器を満載したブラックサレナ。

…かつて、黒い王子様が駆った漆黒の鎧。…その真の姿がそこにはあった…。


「…以前…北辰と戦って惨敗した時よりも重武装だな。…当たるのか…?」

『問題ありませんマスター…100年の時間をかけてチューンナップしております。』


「…そうか。…それなら行くぞ…ルリちゃんを助けないとな。」

『…了解。…タゲテス!…こちらに来なさい!!』


…ガツッ


ボロボロの空戦フレームが崩れ落ちる。

…だが…翼を広げ、ゆっくりと漆黒の機体に収まる『タゲテス』には、

傷など…何処にも存在していなかったと言う…。


「では、行こうか。…プラス!」

『はい。…ですが私はユーチャリスの本体よりサポートのみを行います。』


「では…タゲテス!」

『YES…ブラックサレナ・オリジナル…起動シマス…。』


…そして…復讐者の鎧の瞳に凶暴な…赤い光が宿った。


…そして…機体の中の"彼"は…傷跡の浮き出た片目を黒く変質させ、

もう片方の金色の瞳と共に…唯…虚空を見続けるのであった…。


…その姿に生命への執着は余り感じられなかった。

今の彼にとって…自分の命はゲームのチップぐらいの価値しか無いのかも知れない。


しかし…戦闘をギャンブルのように考えたとして…勝って得られる物は何だというのか?

…唯一つ言えるのは…この後の戦いも避けられない…と言う事実だけであった…。



続く


::::後書き::::

…尻切れトンボですが…今回はここまで!(ヲイ)

BA−2です、世紀を超えて87話、如何でしたか…?


さて…過去編から随分経ちますが…遂にプラス復活です。

…知らない方も多いでしょうが、これは100年前にダッシュがユーチャリスを離れる際、置いていったサブシステムにアキトが別な名前を付けた物です。

…ダッシュを男性人格っぽく設定しているので、必然的に女性的な人格を持つに至りました。


…ま、プラスに関しては、今まで全く出ていなかった訳では無いんですけどね…。


さて…アキト君に異常発生です。…バレバレですけど。

次も戦闘シーンでしょうか…?


…まあ…こんな駄文ですけど、見捨てないで応援していただければ嬉しいです。

では!

 

代理人の感想

ふと思った事・・・・・コクピット内部のアキトが自家発電するのはいいとして、

生まれたエネルギーをどうやって機体に伝えているんでしょう?

普通に考えると、エステの構造上アンテナで重力波を受ける以外に方法は無い訳ですが

ひょっとしてこのアサルトピットにはコクピットそのものにエネルギーを吸収する機構があるんでしょうか?

まぁ、ナノメタルシステムは重力を自在に操れるようなので

エネルギーを重力波として発振する事くらい造作もないんでしょうが。