漆黒の戦神赤き蛇の国へ
第3話 踊り・・・そして、宴会?











「へ〜、結構活気があるんだな。」

 アキト達が当麻の街へ着くと一座は無事に街の中へ入ることができた。
 最近では反乱もほとんど起こらなくなり、住民の反狗根国感情を抑えるために規制を多少甘くしたからだ。
 今一座のみんなは興行の準備をしていた、アキトは街へ着いてすぐ出発しようとしたのだが・・・。







「さて、そろそろ出発しようかな。」

 アキトが出発しようと志野に挨拶に行った。

「志野、出発しようと思うんだけど・・・。」

「え、アキトさんもう行かれるんですか?」

「ええ、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないし・・・。」

「迷惑なんてことはないんですけど・・・そうだ!!
 私達の興行を見ていってください。」

「え、でも俺お金持ってないから・・・」

「お金なんていいですよ。そうですねみんなもうすぐ興行の準備をしないといけないし、
 終わったあとも疲れていて夕食はいつも簡単なものになってしまうんですよ。
 だから今日の夕食をアキトさんが作ってほしいんですよ。
 そうしたら今日もここに泊まっていってもいいですし。
 それにみんなも夕食をアキトさんが作るって知ったらはりきると思いますし・・・どうですか?」


(う〜ん、どう思う?ディア、ブロス。)

(「別にいいんじゃないかな見ていっても、急がないといけないわけじゃないし・・・それにわたしも見てみたいし!」)

(『僕も、僕も!!』)

(分かった、じゃあそうしよう)

「あの〜、アキトさん、お嫌なら無理にとは言いませんが・・・。」
 

 アキトがディア達と心話し黙っていると、志野はアキトが悩んでいると思ったのか声をかけた。

「嫌じゃないよ、じゃあ今日まで泊まらしてもらうよ。」

「よかった!じゃあみんなに知らせてきます。
 興行は未申(ひつじさる、およそ午後三時半)を過ぎたころに始めますからそれまで街でも見に行っていてください。」

「いいのかい?俺も興行の準備手伝うよ。」

「いえ、準備を手伝ってもらったら演目などがばれてしまいますから・・・
 何もしらないほうが見ていて面白いでしょう。」

「それもそうだね、じゃあ俺は街を見に行ってくるから、始まる少し前には戻るよ。」

「ええ、遅れないでくださいね。」

「分かってるよ、それじゃあ。」

「はい、いってらっしゃい。」





 志野はアキトを見送ると一座のみんなのところへアキトの説明をするために向かった。

「あれ、座長、アキトはどうしたんだ?もう行っちまったのか?」

「違います、今日の興行をアキトさんに見てもらうことになりました。  
 そして今日の夕食はアキトさんに作ってもらうことになりましたから、みんなはりきっていきましょう!」

「お〜〜〜!本当か、座長!!」

「ええ、ほんとですよ。」

「やったぜー!」

「今日の晩飯が楽しみだな。」

「ああ、どんなのがでてくるかな。」


 一座の皆はとてもうれしそうだ、不満そうな顔をしている人なんて一人もいな・・・いた。珠洲だ。
 みんなが準備を始めると珠洲は志野に近づき尋ねた。


「志野、ほんとにいいの?」

「ええ、いいのよ。」

「でも、この街にはあいつがいるかもしれないんだよ。」

「分かってるわ、でもみんなを見て、とてもうれしそうよ。」

 事実だ、いつもがやる気がないというわけではないのだが、今の一座の皆はやる気が満ち溢れている。
 
「みんなの士気を高めてあげるのも座長の仕事よ、ね。」

「でも!!」

「………それにね、珠洲気づいてない?アキトさんかなり腕が立つわ。」

「え、そんな!」

「ほんとよ、うまく隠しているからはっきりとは分からないけど、多分私よりもかなり強い……。」

「………志野が言うならその通りなんだろうね、でもそんなやつがどうして!」

「分からないわ、でも、いくつか嘘をついているのは間違いないと思うの。」


 さすがに旅芸人一座の座長代理をしているだけあって、アキトの嘘などばればれだったようだ。


「じゃあなんであいつを引き止めるの?」

「言ったでしょ、アキトさんは相当腕が立つのよ、うまくすれば敵討ちに利用できるかもしれないわ。
 それに、少なくとも私たちに害意は持ってない、それは間違いないわ。」


 たおやかなそうな女性の志野、しかし彼女は見た目ほど優雅ではないようだ。


「………志野が言うならそれでいい。」

「ありがとう、珠洲。それじゃ私たちも興行の準備始めましょ、みんなばかりにやらせるわけにはいかないし。」


 志野はにこりと微笑むと興行の準備へと向かった。
 それゆえに珠洲の最後のつぶやきは聞こえなかったようだ。


「・・・志野、あいつを引き止めるのはほんとにそれだけなの・・・」


 その言葉は普段の無感情さが信じられないほど悲しみに満ちていた。










「さて、まずはどこを見に行こうかな。」

(「………アキト兄、まずは服をどうにかしたほうがいいんじゃない?」

(『うん、さっきからかなり目立ってるよ。』)


 そうなのだ、アキトは今ナデシコのコックの制服だ、戦闘服はDとの闘いでぼろぼろになってしまったので、
 遺跡を運ぶため、ブローディアに乗る前に着替えたのだ。
 さっきまでは旅芸人の人達の中にいたからあまり目立たなかったが、ここは街の中、かなり目立っている。


(そうだな〜、でもこのあたりはまだ物々交換みたいなんだよな、俺は交換するようなもの持ってないしな〜。)

(「そうだけど・・・。あ、そうだ!アキト兄、ラムダさんが私達実体化出来るって言ったよね、
  それやってみたいんだけど・・・」)

(あ〜、そうだったな、じゃあどこか目立たないところで試してみるか。)

(「『うん!!』」)



 アキトは街の大通りから横道にそれると、人気のないところを探した。

(よし!ここなら人がいないな、ディア!ブロス!出てきて・・・「アキト〜〜〜!」)

「うわっ!なんだよキョウ!!いきなり出てくるなよ!」

「それどころじゃないよ、アキト!あの志野って子、火魅子候補だよ!!」

「………何?」

「だ、か、ら!志野は火魅子の資質を持ってるんだよ!
 言ったでしょ、僕には火魅子の資質を持った女の子を探知する能力があるって!!」

「ほ、本当なのか。」

「ホントだよ!こんなことで嘘つくわけないじゃん!!」

「間違いじゃ・・・ないのか・・・。
 お前が言ったんだろ、耶麻台国は15年前に滅びたって!」

「そ、そうだけどさ・・・で、でも、間違いじゃないよ!絶対に。」


(どういうことだ?ラムダが手を貸してくれたのか?いや、あいつは外の世界にほとんど干渉出来ないといっていた。
 ということは、完全に偶然なのか・・・。
 いや、今はそんなことよりもこれからどうするかを考えたほうがいいな。)

「それじゃあ、志野が火魅子の資質を持っていたとして・・・これからどうする?」

「え!どうするって、志野に話して協力してもらおうよ。」

「だが、志野は知っているのか?火魅子の資質を持っていることを?」

「う〜〜ん、多分知らないと思うよ。星華と藤那以外の3人は外部には知られないように副王の伊雅(いが)にも秘密
 にして、養子にだされてたから・・・。」

「それなら俺がいきなり志野には火魅子の資質があるんだ!って言って信じると思うか?
 俺の正気を疑われるぞ。」

「う〜ん・・・それならさ、アキトを神の遣いってことにしようよ!」

「神の遣い〜〜〜!なんだよそれ!」

「だからさ、アキトを神の遣いってことにすれば信じてもらえるでしょ。」

「・・・その前に、俺が神の遣いだってことが信じてもらえないだろうが!」

「大丈夫だよ、天魔鏡を見せれば!天魔鏡は耶麻台国の神器なんだから!!」

「・・・志野が天魔鏡のことを耶麻台国の神器だって知ってるのか?」

「・・・・・・・・・え?」

「それに知ってたとしても、俺が拾ったり盗んだりしたものだと思われたら終わりだろ。」

「ううっ・・・で、でも僕が言うよ!天魔鏡は耶麻台国の神器でアキトは神の遣いだって!」

「お前の言葉を志野が信じると思うのか?」

「ひどいな〜、僕は天魔鏡の精なんだよ、耶麻台王家の人間は僕を見たらひれ伏すんだから!」

「でも志野は耶麻台王家の人間だって知らないんだろ、それじゃあお前のことも知らないと思うぞ。」

「・・・じゃあどうするんだよ〜〜。」


 キョウは完全に打ちのめされ、沈み込んだ。今までは興奮して飛び回っていたのに、今は地面に落ちて潰れ、
 泣きながらアキトに訴えている。相当ショックだったらしい。


(う〜〜ん、どうするかな?どうすればいいと思う、ディア、ブロス?」

(「アキト兄〜〜、あれだけ反論してたのに自分のアイディアは無いの〜〜。」)

(『そうだよ、キョウが可哀想だよ〜。』)

(そうは言ってもな、キョウの考えは穴だらけだったぞ。)

(「たしかにそうだったけどさ〜・・・まあいっか。
  これからだけどさ、最初の予定通り藤那さんに会いに行ったらどうかな?」)

(なんでだ?)

(「アキト兄を神の遣いにするかは置いといて、藤那さんが自分が王族だって知ってるなら、
  キョウのことを知ってるんじゃない?
  それならキョウが志野さんのことを教えて、藤那さんが志野さんに言えば、信じて貰えるんじゃないかな。」)

(・・・そうだな、それがよさそうだ。)



 アキトはディア達と相談すると、その事をキョウに伝えた。
 キョウはそれを聞くと目を丸くして、アキトを見ていた。


「す、凄いよアキト!よくそんなこと思いついたね、アキトって、天才?」

「今のは俺の考えじゃないさ、この二人が考えたんだ。」

「この二人???誰のことさ?」

「ちょっと待ってろ。」

(『アキト兄、僕達のことばらしていいの?』)

(いいさ、ばれてこまることはないし。それより実体化できるか?)

(「う〜ん、なんとなくだけどやり方は分かるよ、ちょっと待って。」)


 ディア達はそう言うと、黙った。そしてしばらくすると、アキトの目の前に急に光が生まれ、その光が人の形を二つ作っていく。


「な、何!アキトこれなんなの!!」

「黙って見てろ、もうすぐ終わるから!」

「う、うん。」

 アキトとキョウが見守る中、段々光が集束していき、そして消えた。
 その後に残っていたのは・・・ディアとブロスだった。

「ア、アキト、この二人誰なの?」

「この二人はディアとブロス。俺の家族だ。 
 普段はこの指輪の中にいるんだが、出てこようと思えば、出てくることができる。
 俺とは心が繋がっていて、いつでも話しができるんだ。」

「初めまして、ディアちゃんで〜す。」

「ブロスだよ。」

 アキトは自分の両手にある指輪を見せながら、二人について説明し、二人は自己紹介した。

「あ、よろしく、僕は天魔鏡の精のキョウ。
 ・・・アキトこの二人も精霊なの?」

「違うんだが、まあ、そんな感じだと思っていてくれ。」

「じゃあ、さっきアキトが言ったのは、この二人が考えたの?」

「ああ、そうだ。いつも俺を助けてくれる、頼もしいやつらだよ。」

「へへ〜、アキト兄、そんなに誉めないでよ。」

「照れちゃうよ〜。」


 そう言いつつも、ディア達の顔はとてもうれしそうだ。


「本当のことだよ。さて、とりあえずこれからは阿祖山へ向かうでいいんだよな。」

「うん、それでいいと思うよ。
 でもとりあえず志野達にはこれからの予定を聞いておこうよ、また会えるように。」

「アキト兄、そろそろ時間だよ。」

「おっと、もうか、それじゃあ俺はも戻るから、お前達も戻ってくれ。」

「「「は〜い(分かったよ)。」」」

 そう言うとディアとブロスは指輪へ、キョウは鏡へと戻っていった。
 アキトは3人が戻ったのを確認すると、志野達の所へ戻っていく。
 ・・・一座の興行を見るために(えっ








「お、ちょうど始まるところだったんだな。よかった。」

 アキトが戻ると、既にたくさんの客が集まり、今か今かと始まるのを心待ちにしていた。
 興行といっても、そのための舞台があるわけではなく、芸を披露するのも、何も無い地面の上だ。
 集まった人達がぐるりと輪になり取り囲んだ人垣の中央が一座の芸人にとってのステージだった。


「さあ、皆さん長らくお待たせしました。これより開演いたします。」


 一座の若者の一人が開演を告げると、見物人から盛んに拍手や歓声が上がった。
 この時代では娯楽は少なく、時折やってくる旅芸人達は、街の人達にとって数少ない娯楽の一つだったのだ。








「さぁて、次なる演目は当一座の花形、踊り子志野が演ずる遊羅の舞いでございま〜す!」

 いくつかの出し物が終わり、志野の出番がきた。
 志野は紗(うすぎぬ)一枚の艶やかな姿で現れ、まるで滑るような優雅な所作で人垣の中を進んでいく。
 この一座の芸はどれもレベルが高く、観客は皆興奮し、
 その中でも花形だというとても美しい踊り子に期待の目をよせていた。
 

 
 志野の踊りが始まる。
 最初は志野が一人で踊っていたが、後から黒ずくめで不気味な面を着けた六人の人間がでてきた。
 その六人は皆、手に武器を持ち、たちまちのうちに志野を取り囲んだ。
 すると、奥から二本の武器が投げ込まれた。それは中央に柄があり、切っ先が前後に二つあるという奇妙な形の剣だった。
 志野がその剣を掴むと、次の瞬間黒ずくめの六人が一斉に襲い掛かってきた。
 志野は受けにまわり、六人のたくみな攻撃を紙一重で避けていく。
 しかし、完全には避けきれず紗が少しずつ切り裂かれていく、それは六人の剣が真剣だということを意味し、
 それに気づいた観客の口から押さえた悲鳴が上がった。
 踊り子と襲撃者の剣が何度もぶつかり合い、その度に甲高い金属音が響き、火花が飛び散る。
 志野の体から原型を残さぬほど切り裂かれた紗がはらりと落ちた。
 志野は胸と腰に小さな布切れをつけているだけだ。
 その時、志野が反撃にうつった。
 襲撃者はいきなりの逆襲に驚き後退する。
 志野はその隙を見逃さず、鋭い踏み込みで一人に近づき、剣を腹に叩きつけた。 
 志野の剣は刃が潰してあるようで、倒れた黒ずくめからは血が流れていなかった。
 志野は残りの5人の間を凄まじい速さで舞い、倒していく。
 その様子は闘いの女神のように美しく力強かった。
 最後の一人が倒れると、志野は剣をおろし、観客に優雅に一礼し、最後ににっこりと微笑むと退場していく。 
 志野の姿が見えなくなると、観客は一斉に拍手し、口笛や歓声や賞賛の声があがった。



「凄い!」

(「ほんと!志野さんてほんとに凄いね。」)

(ああ、志野の剣の技量には凄まじいものがある、俺なんかよりはるかに上だ。」)

(『アキト兄より?』)

(ああ、単純に剣の腕だけならな。)






 
 その後もいろいろな出し物があった、珠洲の人形使いや、織部の相撲など・・・
 彼女らのは、若い男性に人気の高いものだったのだが、ここでは何も触れないでおこう。
 

 一座の演目は全て終了し、客達は皆帰っていく。
 アキトは志野に会うため天幕へと向かった。


「志野、凄かっ・・・うわっ。」

 アキトが天幕へと入っていくと、志野はまだ踊ったときの姿のままだった。
 アキトは顔を真っ赤にし、あわてて反対をむく。

「し、志野!な、なにか着たほうがいいんじゃないか。」

「あ、アキトさん。あら、ごめんなさい。・・・もういいですよ。」


 志野は踊りの後は集中力を欠くことが多く、今も言われるまでほとんど裸だということをわすれていたようだ。
 アキトがゆっくりと後ろを向くと、志野は麻の上着を纏っていた。


「え〜と・・・その・・・あ、志野凄かったよ!君の踊りは!!
 それにみんなの芸も凄かった。あんなに凄いのは始めてみたよ!」

「ありがとうございます、アキトさん。喜んでもらえてなによりです。」

「あんなに素晴らしい出し物を見せてもらったんだから、今日の夕食は腕によりをかけて作るよ!」

「よろしくお願いしますね、みんな楽しみにしてますから。」

「ああ、任せてよ!」


 アキトはそう言うと志野から離れていく、志野も後片付けを手伝いにみんなの所へと向かう。
 すると、料理をしにいくアキトに一人近づく、少女がいた・・・珠洲だ。


「どうしたんだい、珠洲ちゃん、俺になにか用かい?」

「助平。」

「・・・え?」

「志野の裸を見て、凄く喜んでたでしょ。だから助平。」

「あ、あのね、珠洲ちゃん・・・」

「ちゃんはいらない。」

「分かったよ、珠洲ちゃん。
 俺はね志野の裸を見たから、踊りが素晴らしかったって言ったんじゃないよ。
 志野の踊りは、一つ一つに志野の踊りが好きだ、という気持ちが込められていた。
 だから素晴らしいと思ったんだよ。」

 
 そうなのだ、志野が行く先々で人気をとっているのは、ただきれいだからではない。
 きれいなだけの踊り子はいくらでもいるし、きわどい格好というなら、最初から裸で踊る踊り子もいる。
 彼女が全身全霊を傾けて舞い踊るからこそ、絶大な人気を得ることができるのだ。
 それに、彼女の両親は耶麻台国の宮廷雅楽団だった。
 それで幼いころから、歌や踊りをたっぷり教えられたため、
 彼女の踊りは旅の芸人一座に似合わず本格的なのも理由の一つだろう。
 と言っても、彼女は養子で、彼女は本当の両親を知らないのだが。


「・・・それならいい。」


 珠洲はアキトの話を聞くと、すぐに去っていく。
 珠洲は志野がさっきの踊りをするのを嫌う、志野の裸を男に見られのが嫌だからだ。
 だから、志野の裸を見て喜んでいると思ったアキトをけなしたかったのだ。
 しかし、アキトはそうではなかった。ただ純粋に志野の踊りを見て感動していたのだ。
 珠洲も旅芸人一座のはしくれ、アキトが嘘を言っていないのは、見れば分かる。
 分かるからこそ、何も言わずに去っていくしかなかったのだ。


〜珠洲

 私は孤児だった。
 私の両親は人形を操って闘う、耶麻台国の人形使いで、二人とも故国復興の戦いの中で死に、
 一人になった私は自分の特殊技能を活かして旅芸人の一座に加わった。
 私はその中で、志野と出会って、数少ない女同士ということで、年長の志野は私の面倒を見てくれた。
 すぐに私は、志野を姉のように慕うようになった。
 その後、いくつかの芸人一座を渡り歩いたけど、私達はいつも一緒だった。
 私にとって志野は・・・世界で一番大事な人。








 その後、アキトは料理を作り、一座の皆は興行の後片付けをしていた。
 後片付けといっても、明日にも興行があるので、その準備もしなくてはならないので、皆の仕事が済むころには、
 日はもう沈みかけ、アキトの料理もほぼ完成していた。


「あ〜〜、疲れた!アキト、飯できたか?」


 織部がアキトのところへやってくる、アキトは振り向き微笑みながら答えた。


「あ、織部さん、もうすぐできますから、出来たら運びますよ、むこうで待っていてください。」

「お、もうすぐ出来てるのか。今日はなんだ?」

「今日は鍋ですよ、色んな食材が手に入りましたから、数種類の鍋を作りました。」

「鍋か、いいね〜。
 運ぶの手伝おうか?」

「いや、いいですよ。織部さん、昼間はあんな相撲をして疲れてるんですから、休んでいてください。」

 アキトは昼間のことを思い出したのか、顔を赤くして言う。
 そう、彼女の出し物は「相撲」だった。
 即席の土俵に見物人から一人をあげ、その人と相撲をとる。
 織部は最初は全身を覆う衣装を着ているが、彼女が負けると、彼女の衣装を一枚脱がすことができる。
 逆に彼女が勝つと、何がしかの寄付を施すのだ。
 相撲取りといっても、彼女は太ってなく、やや大柄で筋肉質の体は均整が取れていて美しかったので、
 彼女に挑む客は後を絶たなかった。
 彼女が本気を出せば決して負けないのだが、彼女が全力を出すことはまず無く、勝ったり負けたりして、
 上手く胸覆いとまわしだけにするのだ。
 ここまでくれば客はもう少しだと思い、最後まで挑戦してくるので、多少寄付の額を吊り上げる。
 その先は彼女の気分次第らしい。


「そうか?悪いな、じゃあ向こうで待ってるぜ。」







 アキトが料理を運んでいくと、一座の皆は酒を飲み、おおいに騒いでいた。
 皆、昼間が大成功だったため浮かれているのだろう。

「あ、アキトさん、料理できたんですか?」

「ああ、今日は鍋にしたんだけど・・・・・凄いね。」

 アキトは周りを見回しながら、思ったことを口にする。
 それに志野は微笑みながら答えた。

「ふふふ、みんな昼間が大成功だったから浮かれてるんですよ。」

「今日はそんなに儲かったのかい?」

「ええ、いつもの倍近い稼ぎがあったんですよ。」

「そうか、それならこれも仕方ないね。」

「ええ、でも明日も興行があるんだから、ほどほどにしな「お〜い、座長〜、アキト〜!
 二人ともこっちに来いよ!!」いと・・・あら、織部姉さんだわ。」


 織部に呼ばれ、アキトと志野が向かうと、そこでは織部と珠洲と他に数名の座員が酒を飲んでいた。

「こら!珠洲お酒なんか飲んで。」

 志野が珠洲に注意するが、珠洲は構わずお椀に口をつけ、一気に飲み干す。
 すると、珠洲は志野に顔を向け、にっと笑った。

「平気」

「もう、なにが平気よ。織部姉さんも、子供に酒なんか飲ませて!」

「そうだよ、珠洲ちゃん。駄目だよ、子供のうちからお酒飲んじゃ。」

「あんたに言われたくない、それに「ちゃん」はいらない。」

「まあまあ、いいじゃねえか。今日は儲かったんだから、少しくらい。
 それなら、座長とアキトが一緒に飲もうぜ。そしたら、珠洲を誘わないから。」

「ちょっ、ちょっと織部、それは止めたほうが・・・」

 珠洲が織部の腕をつつき、やめるようにうながした。 
 しかし、織部はそれを無視し、二人を誘う。

「なあ、いいだろ。飲もうぜ。」

「仕方ないわねえ・・・、少しだけですよ。
 ・・・アキトさんはどうします?」

「俺は酒に弱いけど、少しだけなら、いいですよ。」

「よし決まりだな!」

 そう言うと、織部は二つお椀を取り出し、酒を注いでいく。

「織部、やめたほうがいいって、ねえ。」

 珠洲がまた織部の腕をつかみ、やめさせようとするが・・・

「こら、珠洲!酒がこぼれるだろ。」

 注ぎ終えると、織部は二人にお椀を渡し、二人は一気に飲み干した。

「へ〜、結構おいしいですね。」

「だろ、もっと飲むかい?」

「ええ、いただきます。」

「どんどん飲みな。座長はどうだい。」

「もう一杯だけですよ。」

 そう言いながら、志野がお椀を差し出す。それを見た珠洲がこそこそと移動を開始した。

「珠洲、どこに行くの!」

「え、ちょっと用があるんで・・・し、志野は気にしないで。」

「いいからそこに座ってなさい!」

「は、はい!」

 珠洲はしぶしぶと座りなおす、その顔には絶望感が浮かんでいた。
 志野は手にしたお椀を口に運び、またもや一息で飲み干した。

「お〜、見事、見事。」

「なんにも知らないで、いい気なもんだね。」

「え、珠洲ちゃんどうしたんだい?」

「今に分かるよ。」

 アキトと珠洲が話をしていると、志野は織部にお椀を差し出した。

「おわわり。」

「な、なんだ、座長飲めるんじゃないか、全然飲めないと思ってたぞ。」

 そう言いつつ、志野のお椀に酒を注ぐ、志野はそれも一気に飲み干した。

「おかわり」

「ええ!」

 織部は心から驚いた、お椀になみなみと注いだ酒を三度も一気飲みして、さらに四杯目をねだるとは!
 織部の背後で珠洲がこそこそと逃げ出そうとしていた。
 それに気づいたアキトが声をかける。

「あれ、珠洲ちゃん、どこへ行くんだい?」

「し!静かにして」

「待ぁてえ!珠洲!」

「だってえ。」

「だってじゃない!珠洲も少しは付き合いなさい!」

 志野の豹変ぶりにアキトと織部は目を丸くする。
 
「し、志野はどうしたんですか?」

「わ、分かんねー、座長と飲むのはこれが初めてだから・・・」

「初めて?あんなに飲めるのに、飲もうとしなかったんですか?」

「いや、俺がこの一座に入ったのは少し前なんだが、飲む機会は何度もあったはずなんだが・・・」


「ほら、珠洲も飲みなさい!」

 珠洲はなんとか逃れようとするが、志野はかまわず珠洲の口に徳利を突っ込んだ。

「ほぉら、お飲み!珠洲!」

 ごくり、ごくりと喉が鳴る。しかし、既にほとんど飲んでいたため、すぐに徳利は空になった。

「ぷっは〜〜!」

 珠洲は思い切り息を吐き出した。
 織部とアキトはあまりの展開についていけず、呆然としていた。

「ほら、アキトさんも飲んでください。」

「い、いや、俺はもう・・・」

「私の酒が飲めないんですか!」

「え、え〜と・・・飲みます。」

「よろしい、じゃあこれを一気に。」

 そう言うと、志野は新しい徳利を引き寄せ、アキトに渡した。

「こ、これを一気ですか!?」

「そうですよ、ほら。」

「で、でも、これはきついですよ。」

「それじゃあ私も飲みますから、アキトさんも飲んでください。」

 志野はさらに新しい徳利を引き寄せると、それを一気に飲んでいく。

「ごく、ごく、ごく・・・は〜〜っ、おいしいぃっ!
 ほら、アキトさんも飲んで飲んで。
 珠洲ちゃんも織部姉さんもぱ〜〜っといきなさいよ、くっくくく。」

 アキトは徳利を持ったまま呆然とし、織部は思いっきり情けない顔をして、珠洲に尋ねた。

「ひょっとして、酒乱?」

 珠洲は諦めきった顔で小さく頷いた。 
 こうなったら志野は誰にも止められない、志野は一座の皆と宴会をした。
 アキトの料理も酒宴の盛り上げに輪をかけた。
 明日の興行のことが少し頭に浮かんだ人もいたが、酒を飲んでるうちにすっぱりと忘れ、  
 その宴会は夜を徹して行われたという。













あとがき&キャラコメ

 かいるろっどです。
 読んでいただきありがとうございました。

アキト「き、気持ちが悪い。」

 おやおや、災難でしたね。
 でも、あなたの体内にはナノマシンがあるんだから、アルコールを分解してくれるでしょう。

アキト「それはそうだが、分解するまでの間は苦しいことには代わりが無いんだよ。」

 それもそうですね。

アキト「ところで、この話はどうして遅れたんだ。」

 ぎくっ、そ、それはですね、学校の研修に行って、その後、レポートやらなんやらで書く時間が無くて・・・

アキト「それだけじゃないだろ。」

 そ、それから、レポートに行き詰ったとき、気晴らしにスターオーシャン3を初めからやっていたので・・・

アキト「ほほ〜、つまりゲームをしていて、書けなかったと。」

 で、でもレポートに時間がかかったのは事実で!

アキト「やかましい!星になって読者にわびて来い!!」


 う、うわ〜〜〜〜〜〜!


アキト「ふ〜、作者もいなくなったところで、そろそろ終了します。
    次話も読んでやってください。」



 


 

代理人の感想

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

 

こちらに来てからしばらくアキト達(とキョウ)は志野と一緒にいたわけで。

アキトが初めてキョウを呼び出したのは当然志野と出会った後ですね。

そのときはおくびにも出さなかったのに今更火魅子候補だなんだといわれても・・・・。

この展開を素直に解釈するとしたら、

「信用できるのかこの鏡の精?」ってことになるんですが(苦笑)。