あの日望んだのは世界の終わり

 

そう、全ての命の終わり

 

  アイツを奪ったこの世界に然るべき報いを・・・

 

この憎悪はもう誰に求められない

 

 

・・・誰にも止めさせはしない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果て無きの果てに・・・

 

第六話『奔流

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1人自転車を走らす・・・

 何処にでもいるような14〜15歳くらいの普通の少年に見えているはずだ

 

 

「まぁ、あのヴィジョンのとおりでなくても乗り込めば奴らも食いついてくるだろう・・・」

 

わんっ

 

 

 オレの独り言を肯定するかのような幼い鳴き声・・・

 自転車のかごにポツリと座っているのはまだ小さな子犬だ

 

 

「・・・・・・・・・」

 

わんっ

 

 

 わけもなくはしゃぐ子犬・・・

 

 

「・・・・・何をやってるんだオレは?」

 

 

 少年・・・テンカワ・アキトは自転車を止めると小さなため息を1つ吐いた

 

 

 

 

 

 ほんの暇つぶしだった・・・

 

 憂さ晴らしか何かだろう

 フリーター風の奴等3人ほどがエアガンを撃って遊んでいた

 標的にされていたのはまだ小さな子犬だった

 

 タイミングを計るために時間をつぶしていたオレは暇を持て余していた

 そいつらは格好の暇つぶしだった・・・ただそれだけだ

 なのに・・・

 

 

わんっ

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 何故か懐かれてしまった・・・

 

 もちろんオレはそのまま立ち去るつもりだった

 別に暇だっただけでこいつを助けたかったわけじゃないからな・・・

 

 

わんっ

 

 

 忘れようとしても忘れられない・・・心の奥にある何かが頭をかすめる

 

 

 

 

 

      (この子犬飼ってもいいよねっ♪)

 

 

(お兄ちゃんっ、この子の名前どうしよっか?)         

 

 

   (えぇ〜、なんでお兄ちゃんの方にばっかり懐くの〜?)

 

 

 

 

(・・・・お兄ちゃんっ♪)

     

 

 

 

 

 

 目を閉じれば嫌でもハッキリと聞こえてくるその声・・・

 もう今は胸の中にしかいない、小さな小さな・・・何より大切だった少女

 

 あの小さな、だけど眩しく光り輝いていた瞳も・・・

 小さな、だけどよく動くあの手も・・・

 もう永遠に失われてしまった

 

 そして、次々と浮かび上がる大切だった人達の顔・・・

 その中には、ほのかな想いを抱いていたあの人の顔もあった

 いつも子供たちに囲まれて微笑んでいたあの人・・・

 

 あの頃、確かにオレは失ったもの・・・幼い日に失った家族を手に入れたと思っていた

 決して暮らしは楽とは言えなかったが・・・たくさんの弟・妹達とあの人と・・・・

 そして何よりアイツがいた・・・

 

 

「ふっ、もうすぐだ・・・・

 もうすぐお前達を奪ったこの世界にその報いを受けさせてやる・・・」

 

わんっ

 

 

 おかしな犬だ・・・お前もオレの復讐を望んでいると言うのか?

 

 

「そうだな、どうせ全ての命は遠からず終わりの時を迎えるが・・・・

 それまでオレがお前を飼ってやろう」

 

 

 1人と1匹はまた、それまでと同じようにまた道を進みだした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブオォォォォンンンン

 

 

 1台の車がオレの自転車を抜き去りざまにスーツケース落としていく・・・

 測ったようにオレの顔面をめがけて飛んでくる

 

 

「ふん、世界は違えども未来の情報はそれなりに価値があるというわけか・・・」

 

 

 時間はあの女に付けていた見張りからの連絡を基にしたおおよそのものでしかない筈だが・・・

 それともこの世界でもこうなることが決まっていたということか?

 

 車から降りてオレの方に走り寄る1人の女・・・

 以前感じた胸のざわめきが再び・・・よりいっそう激しくオレを襲う

 

 

「済みませんっ、済みませんっ!!

 ・・・怪我とかありませんでしたか?」

 

「・・・ない」

 

 

 俺は苦もなく受け止めたスーツケースをそっけない返事とともにその女に渡した

 女は少し重そうにそれを受け取る

 

 

 オレの手が無意識のうちに伸びていく・・・

 女の首元へ向かって・・・

 

 黒い感情の奔流が微かな理性を押し流していくのをぼんやりと感じながら・・・

 

 

 オサエラレナイ・・・

 

 

 ・・・・・・

 

 

「・・・あの、ぶしつけな質問ですが・・・何処かでお会いした事ありませんか?」

 

 

 ハッとして手を引っこめる

 口惜しさとじれったさに歯軋りする

 

 

 激しい憎悪は日増しに募る・・・

 血の涙を流し、歯が砕けるほどに噛み締めながら、この世界全てを呪ったあの日・・・

 あの時から、もはや人間をまともな視点から見ることは出来ない

 あらゆるものに負の面しか見出すことが出来ない自分・・・

 それが至極自然なことのように思える

 

 あの日以来、オレにとって憎悪とはもっとも身近でもっとも親しい・・・

 そう、憎悪こそが今のオレの存在理由なのだろう

 

 その憎悪を最も激しく覚える存在・・・

 それはオレに幾つかのシーンを思い出させる・・・・

 

 

「あのぉ・・・どうかしましたか?」

 

 

 思考の渦に囚われていたオレに、再度女が話しかけてくる

 

 

「なんでもない・・・・人違いだろう・・・」

 

 

 今こいつを失うわけにはいかないからな

 だが、全てが終わったときは・・・

 

 

「そうですか?」

 

「ユリカ、急がないと遅刻するよ!!」

 

 

 車から男が出てきて声をかける

 今までのヴィジョンには無かった男だ・・・

 まぁ、確かに目立たない感じではあるがな

 

 

 気の弱そうな、いかにも”いい人です”という感じの顔が多少オレをイラつかせる

 いざという時に役に立たないタイプだ

 優しさなんてものは何の力にもならない・・・

 そう、あの頃のオレのように・・・

 

 

「解ったよジュン君!!

 では、ご協力感謝します!!」

 

 

 車が遠のくとともに胸のざわめきも消えていく

 

 

「そうか、まだ求めているのか?

 まぁ無理も無い・・・・・」

 

 

 いったん言葉を切る・・・

 突然、笑いがこみ上げてくる

 

 

「くっくっく・・・だがな、お前が再びあの女を抱きしめることは決してない

 ・・・このオレがいる限りな」

 

 

 そう、失ったものは決して帰らない

 いや・・・オレがそれを許さない

 オレの失ったものはもう帰ってこないのだから・・・

 

 

「なぁ、お前と同じ顔のオレが・・・お前と同じこの手であの女を殺したら・・・・

 この手で絞め殺したなら・・・お前はどんな顔をするんだ?

 あの女の悲鳴を聞いてお前はどうするんだ?」

 

 

 ふっ・・・答えは決まっている、どうも出来やしない・・・

 そうだ、お前は全てのことから逃げ出したんだからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


【あとがき】

こんにちわ、間隔があいてしまいましたね

相変わらずアキト君救いようが無い・・・

ま、とりあえず苦情は来ていないのでこのまま続くでしょう

 

今回は何故か犬を飼うことになってしまいました(汗)

名前はどうしよう・・・

 

六話からようやく再構成に入るということで、Ben様の書き方に習ってみたのですが・・・

読みやすくなったかわりに、なんだかマネっこのようになってしまった気がするのは私だけでしょうか?

 

次はルリと会うお話です

それを過ぎたら火星まで一気に話を進めて行きたいなぁ・・・

そうしないとヒロイン様(多分)のイネスさん登場できないデスよ

 

ではでは

 

 

代理人の感想

う〜む、やはり面倒臭くても読みにくくても自分なりの表現を用いるのがベターだったかと。

もちろんベストは「読みやすい自分なりの表現」ですが(笑)。

 

しっかしまぁ・・・・ダークですな(爆)