ナデシコ外伝 第一話

〜火星最後の日〜

 

 

 

楽しい時間、

「それは、誰もが知っている物語」

いつまでも遊んでいたい。

「少年少女が剣を持ち理不尽と戦う物語」

いつまでも続けばいなと思っていた夕焼け、

「テレビの中で本の中で何時か見た物語」

それでも、確実に夕闇はやってくる。

「誰もが笑う夢物語」

 

 

 

 

 

2195年 〜アステロイドベルト宙域〜

 

1772年、ティティウスという天文学者が太陽と惑星の距離を測る計算式を考え出した。

火星と木星の間には惑星があるに違いない。

しかし、火星と木星の間にあったのは小惑星の群れであった。

本来、惑星が有るべき場所に存在する小惑星の群れ、太古の昔に此処で何があったのか?

我らには知る術は無い。

そんな小惑星一つセレス、1801年に発見された直径800キロの小惑星はアステロイドベルト開発の中心地となり、多くのコロニーが作られ、住居型コロニーや宇宙船の生産拠点として栄えていた。

そして、物語はアステロイドベルトの惑星監視網の一つが見つけた物体から始まる。

 

〜資源採掘コロニー ラブリープリンセス〜

 

薄暗い扇型の部屋、モニターの光が静かにその到来を関知したのは鉱夫達が交代の為コロニーへ帰還しようとしていた時だった。

事故を防ぐ為に小惑星の間に敷設された無人レーダープロープの監視網に多数の接近物体が感知されたのだ。

「レーダーに反応!50以上の隕石群を感知しました、直撃コースです。」

航路情報を統括するステーションが多数の移動物体によって引き起こされる重力変動を記録しフライトプランの出ている鉱夫達に警告を送信する。

移動する物体が小惑星に衝突すれば公転軌道が変化し安全に航行できる宙域も変化する。

これは、船乗りの命を左右する情報であるので早期に正確な情報が求められる。

「ちくしょう、これで本星に帰るのが二ヶ月は延びちまう」

「128号コロニーの建造が、また遅れるなぁ」

「直撃コースに採掘航海予定の鉱夫に調査航海に変更するように要請を」

オペレーターの声が管制室の愚痴が、そこかしこで聞こえてくる。

「休みも消えるね宇宙開発の最前線基地とは言え同時開発してるコロニーが3基、ローテーションの半分が新規チャートの調査、調整に追われる事になるだろうからボクラの交代は無しだ」

髪を短く纏めた女性オペレーターが、睡眠時間が無くなるよぉとボヤキを入れる。

年に数度の定期便の発着以外、特に使われることのないモニターに一斉に灯がともる。

「本社の方から応援とか来ないかなぁ」

「今は移動の時期だからな、今期の移動で来る人員の増減は期待できない。大質量の物体は宇宙で作った方が手間が無いとはいえ今の時期は人数がギリギリだからなぁ」

 時期が悪かった。

 今は二年に一度の地球−火星間の距離が短くなるなる時期であるから人員の引き上げと交代の最中で実働している人員は少なかった。

 何年も家に帰ってない作業員、鉱夫はザラな職場環境、今から増員を本社に募っても人員の選出、船の到着と早くても半年以上は覚悟しなければいけない。

「あぁぁ、コレでボクラの帰還プランもおじゃんかぁ」

思えば、これが宇宙で平和に過ごせた最後の時であったのかもしれない。

「隕石群のアステロイドベルト最接近時間は?」

「大体、30時間後かな?」

 

そして、小惑星群感知から28時間後、調査に出た宇宙船と小惑星の第一次接近で事態は急変する事となる。

「ちょっ・・・ちょっと待ってください!!返信を返信をヘリオス、応答してください」

その声を皮切りに次々と調査艇が連絡を絶っていく。

「カサブランカ通信途絶!!何者かの攻撃を受けたと思われます」

「レーダープロープε−Vからβ−Wまで沈黙しました」

事故に対するプランはマニュアル化されている人の生きるに向かない宇宙空間では対応の早さが命運を分ける。

「早く救援の船を出すんだ!!連合宇宙軍に連絡を」

オペレーターの報告を受けて、三十過ぎの宇宙作業服を着込んだ男が指示を出す。

複合企業体であるコロニー開発公社からの出向でしかない彼に今の事態は自分の手には負えない物であると考えざるをえない。

「探査監視衛星からの映像入ります」

映し出されたのは隕石群から四方へ向けて飛ぶ光。

探査監視衛星がカメラをズームし接近しつつある物体を明確に映し出す。

誰もが見守る中、虫に似た姿をしたソレは多数のミサイルを衛星に放ちノイズの中へ消え去った。

後に「蜥蜴戦争」と呼ばれる事となる戦争の敵性体情報第一号映像と呼ばれ。

あらゆるメディアで放映される映像が撮影された瞬間であった。

一瞬の空白。

大きく息を吸い込んだ彼は悪夢を振り払うように全館放送をONにする。

「連合軍に緊急連絡!直ちに所員は、避難を開始せよ」

その退避命令が、火星最後の日の始まりになるとは、この時は誰も予想していなかった。

いや、予想した者はいなかった訳ではない・・・。

ごくわずかでは、あったが・・・。

 

〜連合軍第四軍所属 アステロイド宙域駐留艦隊 第三分隊 旗艦セレスティア〜

 

「弾幕を切らすな飛び込まれるぞ!!」

「第四分隊、敵性体のダイレクトアタックにて行動不能!!白兵戦に突入しました」

「ちくしょう!!ディルフィニュウムの機動性じゃ追従しきれない」

艦橋の中は喧々囂々たる渦の中に沈んでいた。

「大規模すぎる」

連合軍の制服を着た、20代後半の男が苦々しげに呟く。

「マツヤマ艦長、第一分隊 旗艦マライアが大破しました」

「大隊長殿と連絡は?」

艦長の質問にヘッドフォンをずらし通信士が返答する。

「通信途絶、マライアは指揮能力を失ったと判断できます」

「セテスティア前進、マライアの後退を支援する。

発光弾用意!マライアに本艦の意図を打診せよ」

コロニー開発公社からの通報を受けて第一から第五まである分隊すべてに招集がかかり集結したのが72時間後、正体不明の敵と接敵したのが148時間後

そして、1時間で艦隊は壊滅しようとしていた。

「敵、小型機動兵器の数が1400機を超え増加、なおも数を増やしつつあります」

「弾幕を厚く、砲身の消耗は気にしなくていい思いっきりやれと砲手に伝えてやれ」

「アイサー」

100を超える隕石をベースにしたと思わしき機動空母、そこから湧き出てくる小型の機動兵器。

一分隊の戦力が戦艦1空母1突撃艦8巡洋艦14ミサイル艦2、艦載機42機で支えきれるはずがなく。

「第二と第三からの回答は?」

「退ける時期に退くべきであると快諾の返事が来ています。第一と第四は壊滅的な被害を受けています。損傷艦は捨てていくしか無いと判断されます」

けなしの戦力も今では半分しか残っていない。

「よし、では後は手段だ。やつらトカゲのシッポのように生えてくるからな」

切っても切っても湧いて出てくる。

本体に至っては元気いっぱい、本音はシッポを切るのが精一杯だ。

「戻ってきたディルフィニュウムの再出撃まで、後どのくらいかかる?」

「あと25分です。再出撃できる機体は帰還した半分も無いと報告が上がってきています」

「間に合わないな。

今出てない連中は待機だ」

男の周りにいくつかの艦の状況を示すウィンドウが開く。

出撃した艦載機で戻ってきたのが半分、帰ってきた機体もほとんどが中破から大破、応急処置程度で出撃可能な機体は無し。

戦力は数の二乗倍のランチェスターの法則で言えば壊滅していると判断して良い損耗度だ。

「無人機の開発した何て情報があれば、すぐ耳に入ってくるはずだ一体何処が」

何処か、連合に不満を持つ国が軍備を増強したならば、耳に入らないはずは無く。

不正に宇宙艦隊などが作られないように月、火星、アステロイドベルトには監視が置かれている。

実際、自分たちはアステロイドベルトを監視して方々に目を光らせていた。

ならば、この軍勢は一体何処から湧いて出たのか?

「木星か」

ヤツラの進行してきた方向にある星を睨み付ける。

まるで、そこに敵がいるのだと言うように。

「艦長、機関室のサリナ副官から通信です」

オペレーターの声が途切れぬ中、ウィンドウが開きハイスクールの頃から見慣れた顔が現れる。

「状況は?」

「最悪、過負荷でジェネレーターが溶けそうよ。フライホイール付近に一発喰らってるのも痛いわね。稼働率が下がってるわ」

元々、技術畑に居た彼女を引き抜いたのは艦隊の稼働率を上げる為に船に詳しい人材が欲しかったからでもある。

「どのくらい保つ?」

「一時間くらいね。今、船外機動服を着た整備員が液体酸素もって冷やしに行ったから騙し騙しなら三時間」

マツヤマは少し考える仕草をした後

「推進器の手動操作を頼めるか?」

「何をする気?」

「逃げるなら全員で逃げたい。マグネットボムで人工的な磁気嵐を作り出す。

通信とレーダーが死んでいる隙をついて逃げる」

レーダーや通信が死んでいる状態では安全装置が働きコンピュターは嵐が収まるまで船を動かすことをしない。

だが、人間ならば光学観測と手動で動かすことができる。

「賭よ?アイツラが今までの観測データーから動く可能性は?そもそも磁気嵐でも動ける可能性は?」

「低いと見ている。電子艦の妨害電波での効果が見られる以上、全く効果が無いということは無いはずだ。頼むよ委員長」

マツヤマは片目をつぶり戯けたようにお願いの仕草をする。

サリナはソレに溜息一つ、やれやれとばかりに首を振る。

「後で何か奢りなさいよ」

「あー副長ずるーい」

「私らも苦労するんだから何か奢ってもらわないと不公平だー」

副長とのやりとりに周りのオペレーターや整備員が騒ぎ出す。

十数ヶ月、数年単位での共同生活を強いられる艦隊では家族的な人間関係が形成されやすい。辺境勤務で船に籠もりきりな生活を続ければ尚のことだ。

「えぇい、一品だけだぞ!!それ以上は自己負担だ他の分隊と同調が取れ次第、作戦開始だ。作戦に遅れた奴には奢らない」

『らじゃー』

こんな時ばかり息がぴったりと合うクルーを見て溜息をつきながら指示を出す。

「他の分隊、艦長に連絡を取れ。我々に残された時間は少ないぞ」

さて、急ぐとしよう。

 

〜宇宙軍ディモス基地〜

 

アステロイドベルトでの敵性体発見の第一報から16日が経過しようとしていた。

耳の早い者は、この異変を察知し当事者たる軍は火星に戦力を集中させていた。

火星から23,459 km 離れた第二衛星作られた基地には宇宙軍第四艦隊の総力が集まっていた。

月が、そうであるように火星の衛星であるディモスとフォボスは宇宙港と軍基地を併せ持った星であるがディモスは直径12.6q、フォボスは直径22.2 kmと太陽系の衛星のなかで、 最も小さいものの一つである。

軍の艦隊が集まっている為、民間の宇宙港は活動ができなくなっていた。

50を超えているであろう老提督と壮年の参謀が報告書を間に挟み向かい合っていた。

「ウワジマ提督、ネルガルから正式な抗議の文書が届いています」

参謀のヨシカゲからの報告を聞きながら苦笑いをこぼす。

「港を閉鎖するのであれば理由を説明しろと言ってきているのだろう」

「その通りです。

ディモスを第四軍、フォボスを第一軍が使用し当社の船舶の航行を差し止める理由を説明し、それができないのであれば航行を認められたしと」

「フォボスで出撃準備中の第一軍のフクベ提督にも同じような文章が行っているのであろうが・・・説明できる訳がない正体不明の敵が火星に迫ってきているなどと」

「一部報道機関か報道船を飛ばして情報を得ようとしていますが?」

高速化された情報網によりニュースになりつつある情報を指して早めに公式見解を出しておいた方が良いのでは無いかと問いかける参謀に答える。

「地球本部を無視して見解はだせん。

 今は悪戯に混乱を招くような事は言えん雄弁は金であり沈黙は銀だ」

「雄弁に語る舌を持たぬならば黙れということですか」

話を変える合図のように帽子を手に取ってかぶる。

「艦隊の出撃準備はどうか?」

「三時間後には補給を終え出撃が可能であります」

老提督は一つ頷き覚悟を決める。

「行こう、成すべき事を成す」

「イェッサー」

 

〜連合軍第四軍 旗艦ダンシングクイーン〜

 

「アステロイド宙域駐留艦隊旗艦セレスティアからの最後の通信では磁気嵐を人工的に起こして火星宙域まで撤退すると通信が送られてきたのが一週間前、彼らは数日中には火星に帰還するものと思われます。」

セレスティアから送られたコンバットデーターを見ながら作戦会議が続く。

「セレスティア艦隊を呼び戻すべきです。勝手に戦域を離れた判断は軍規に抵触すると思われます」

「しかし、現状では彼らと連絡を取る手段が無い火星まで下がらせて補給を受ける艦長の判断は妥当ではないか?」

参謀の一人が資料を手に今後の作戦についての議題に脱線しかけた話を戻す。

「セレスティアの話より今は目の前の敵に対しての対策を修正を検討すべきだ」

当初、アステロイドベルトで偵察と不審惑星の発見する任務についていたアステロイドベルト駐留艦隊のみで敵を殲滅する予定であったが、敵の数に押され艦隊は壊滅的な打撃を受けた第四分隊の艦長が戦線の離脱を提案、ありったけの地雷をばらまきながら脱出を試みていた資源開発コロニーの脱出艦と共に後退、戦術兵装MBにて磁気嵐をおこし敵進路付近にあった小惑星β−46を破壊、火星まで撤退する。

推定、敵戦力は隕石を改装したと思われる機動空母200隻、艦載機は最低でも6000を超えると予想される。

臆病者め、と撤退した彼らに対する雑言を吐く参謀もいるが、敵戦力が予想よりも一桁多い。

「彼らは多くの損傷艦と民間船をかかえ、手動の航路制御で撤退している確実にランデブーポイントへ来れる可能性は低い。

ならば、重力に捕まえられる分だけ方向制御が楽な火星を目指すのは仕方のない事なのだろう。

敵は数が多く強力だ」

ウワジマ提督は、言葉を切り幕僚を見回す。

「諸君、これはケチなテロの類では無い。

 戦争が始まる。

 全艦、錨を上げよ」

連合宇宙軍第四軍「火星第一次会戦」は、こうして始まった。

 

〜火星 ユートピアコロニー宇宙港〜

 
宇宙港は混乱を極めていた。
「私たち、これからどうなるの」
「本当に無事に逃げられるのか!」
 子供の手を引いてシャトルに乗ろうとする親子、不満をカウンターの自動オペレートシステムにぶつけている大人気ない者もいる。
みんな、怖かったのだと思う。
 だから、こんな時でも冷静な彼女 イネス・フレサンジュは、やはり徒者ではないと思った。
「火星に残る? 本気ですかイネスさん」
「ええもちろん本気よ、キタガワ君」
「なぜですか? 説明してください」
その声に待ってましたとイネスさん、すごく嬉しそうな顔してホワイトボードを取り出した。
「説明しましょう。
 数時間前、連合軍火星防衛艦隊が謎の敵と遭遇、これと戦闘になりました。しかし、謎のバリアーを張った敵に連合艦隊は手も足もでません。
 この報告を受けたネルガルは素早く研究成果と研究員を逃がすためのチャーター機を用意しました。
まるで、連合が負けるのが初めから分かっていたかのような素早さで」
「それなら、なおさら急がないと」
僕は焦った声でイネスさんに脱出をうながす。
「キタガワくんも分かっているんでしょ。彼らの使っている武器がなんなのか」
それは、冷徹な研究者の口調、真実を告げる容赦のない言葉。
「ディストーションフィールドとグラビティーブラスト・・・」
映像を見た時にすぐ気がついた。
 なぜなら、それは自分たちが研究している物だから、人類の技術を超えた技術 オーバーテクノロジー。
「最悪の場合、遺跡の正当な持ち主。それとも敵? 彼らが誰かと戦争していたのは間違いないようだし」
「急ぎましょう。 ・・・ここはもたない・・・」
苦しげにうめく。自分が、なにをしようとしているのか分かっているから。
「私は、そんな声をだす気はないわ。それにネルガルも信用できない・・・テンカワ博士のこと、忘れたの?」
「そ、それは・・・」
なにも言えなかった。
「ふふふ、貴方は貴方の道を進みなさい。 私は私の道を行くわ」
そう言って、彼女は一枚のディスクを差し出してきた。
「これは、いったい?」
「基本設計図、キタガワ君にあげるわ、私が持っていても仕方なさそうだし」
悪戯に成功したような微笑を浮かべてイネスさんは、人ごみの中に消えていった。
 
〜火星 衛星軌道上〜
 
機体にはJAPAN ALL SPACE LINEと書かれた民間の惑星間航行用宇宙船と護衛船、合わせて130機が、惑星軌道上を回り、出発の時を待っていた。
「くそっこのままでは、何時までもは待てないぞ」
ネルガルセキュリティサービスの護衛船シセロの操縦室で、パイロットのカタオカは苛立ちと焦りを愚痴として吐き出す。
謎の敵になすすべも無くやられていく連合軍、弱いというしかない。
「下にはまだ離陸待ちのシャトルが40はあるんだぞ! 全部あがってくるまで持つのかよ」
 敵の手の届くところに自分もいる。
まず、最初に考えたのは、自分と一緒に編隊を組んでいる宇宙船、まだ地上で発射を待つシャトルと仲間のパイロットのことだった。
現在は、惑星軌道上を回りながらシャトルで上がってくる乗員を回収しているところだ。
「頼むぞ、あと少しもってくれよ」
祈るように呟きながらモニターに目を走らせる。
「前方に高速移動物体、ミヤビ!来るぞ」
メイン操縦席に座っている、メルヴィルがIFSを輝かせ回避行動を開始する。
「機動兵器!もうこんな所まで入りこんできたのか」
虫のようなフォルムをした機動兵器が、こちらに向けてバルカンを撃ってくる。
「はっバッタ野郎が!」
ミヤビは、バッタに似たそれに罵声を飛ばしながら左舷バルカンで応射、急旋回して攻撃を回避する。
この名称は、敵性体一号映像が広まるにつれ公式名称となりつつある。
「アサルトアンカー、三番から六番射出」
螺旋の動きをしながら、敵機動兵器群を突っ切る。
船の右舷から放たれたアンカーはバッタに命中しワイヤーが間にいた他のバッタを跳ね飛ばす。
「アンカー切断、接敵、左舷に三機!!」
「左舷、ファランクス徹甲弾の再装填完了」
跳ね飛ばされ制御を失ったバッタは火星の重力に捕らわれて落ちていきアンカーの直撃を喰らったバッタはアンカーに仕掛けられた炸薬と共に破裂して落ちていく。
左舷に取り付いて来ようとした三機は鞭のように跳ね上がったワイヤーに衝突してバランスを崩し、腹にセシロのバルカンを受けて爆散。
「ミヤビ!2〜3機、取り付いてきた。後ろを取られたぞ!」
「はっはっは、その十倍もってこいってんだ」
「それ、本当に来そうだから止めろ」
素早く敵を振り下ろす手段を考える。
「カタオカ!何分もつ」
制御用のIFSに力をいれながら、カタオカがこたえる。
「10分は持たせてみせる」
「上等!」
シャトルは火星の曲面をなぞるような軌道をとる。
「スイング・バイか!」
「火星の重力に引っ張ってもらって一気に加速する」
「星が秒速30qで動いてるから出来る裏技だな」
カタオカは、どこか疲れた顔で返事をする。
「そのとおり」
得意満面でミヤビは、こたえた。
「敵が、わんさか居る所を突っ切っていくのかよ」
「ぼやくな、ぼやくな、入射角計算間違えるなよ、焦げたくないから」
星に引っ張ってもらうには星に近づかなくていけないが近づきすぎれば星に落ちる。
上がってきた星にワザワザ落ちるのは実に間抜け。
「オーライ」
 
〜火星 静止軌道上 セレスティア艦橋〜
 
艦隊戦における防御の概念は変わらない。
打ち落とすか避けるの二択である。
打ち落とすのの代表が、対空レーザー、対空ミサイルによる防御。
避ける方法は艦自体を動かして避ける機動防御、敵ミサイルの狙いをつける機構に干渉するジャミング、レーザーなどに対しては電磁的な干渉を行い曲げるという方法がある。
「電磁バリアー出力全開、敵の物理攻撃に対してはパターンB機動防御!!
オールウエポンフリー全弾発射、全て使い切れ」
セレスティアと旗下の艦、全てから数十発の対艦ミサイルと大口径レーザーが放たれる。
「敵、インパルスレーザー!!ミサイルきます」
黒曜石のような外皮を持つ、敵母艦の前面に配置された数十隻の駆逐艦から無数のレーザーとミサイルが放たれる。
電磁干渉がセレスティアの周囲でおこり干渉波のスパークと共に直進してきたレーザーがぐにゃりと曲がりる。
「干渉負荷、ブルーからイエロー……突破されます!!」
しかし、何本かは曲げきれずに艦をかすめて通り過ぎていく。
「被弾!!D区画防御隔壁 第二層まで損傷」
「敵の損害は?」
光学系観測機がモニターに敵のようすを映し出す。
魚雷に引火したのか…爆発をおこしている敵艦がいくつか確認できる。
「基本は変わらない。敵が使ってる防壁は曲げるタイプね」
「電磁バリアー特有の干渉波、感なし。
ミサイルの電子機器に異常は感知されてません」
副官とオペレーターの報告に眉をひそめる
「重力波か」
「まず、間違いないわ敵戦艦の使った主砲に感知された重力振に電子的な干渉なしに攻撃を曲げる防壁」
サリナは目を細め、観測データーを睨み付ける。
「重力干渉技術が、こちらの一段も二段も上か」
「20万トンクラスの船を浮かせることは出来ても防壁を張れるほどの制御技術が無い。
武器に使おうとして砲身ごと船が潰れた例も少なくないわ。
アンバランスなのよねぇ…まるで正しい開発をせずに完成品を先に手にれたみたい」
彼女は、ぼやくが現実は余裕を与えてくれない。
「敵、機動兵器!!数30機っ来ます!!」
バッタに似た3メートルほどの黄色い機体が蟻、もしくは蜘蛛に似た機体を抱えて突撃してくる。
「対空放火っ近づけるなっ」
対空レーザーが敵機のフィールドに干渉されて曲がる。
「なんてデタラメあの大きさでバリアーを張れるっての」
バッタが空間を埋め尽くすような勢いで総数、数百に及ぶマイクロミサイルを放ってくる。
地震のような震動が艦を揺らす。
「敵機、艦内に進入!!」
マイクロミサイルで微少に傷の入った傷口から、ねじ込むように蜘蛛型の機体が進入してくる。
「白兵戦用意!!」
 
〜JASL宇宙船、客席〜
 
キタガワ・シンゴは、窓の外を埋め尽くすようにいる虫型の機械たちを見つめる。
「キタガワさん、心配しなくても宇宙船の操縦士の腕は一流の人たちです。無事に脱出できます」
「プロスペクター所長・・・。 いえ、そう言う事ではなくて・・・」
「自分達だけ逃げ延びるのが心くるしい、ということですか」
「はい」
しかたがない、というような表情でプロスはいう。
「逃げる事は卑怯ではありません。死ぬと判っていてなにもしない方が今まで私達を生かしてくれたもの達への冒涜です。 ・・・今は生き残りましょう・・・全ては、それからです」
そう言ったプロスさんの目には、強い光があった。
「そうですね」
その時、あたりが騒がしくなった。
「見ろ!外を」
外では、チューリップと呼ばれた敵と連合の旗艦が、もつれ合いながら落ちていく。
「落ちていく。」
ユートピアコロニーを目指して。
「ユートピアコロニーへ!」
そして、ユートピアコロニーが光に包まれる。
その瞬間!
宇宙船は加速し、ユートピアコロニーが、火星が遠くなっていく。
流れ落ちる涙から、自分は故郷を無くしたんだなと理解した。
 
 
 
 
次回予告!!
 
 
イネス・フレサンジュの残したディスクには、一隻の戦艦の設計図があった。
 
そして、ついに発動される ― NERGAL ND−001 建造計画 ―
 
彼は決断する。
 
「僕は、償うために生き残ったんだな・・・。」
 
 
ナデシコ外伝 第二話
 
〜始動の日〜