ナデシコ外伝 第5話

〜力集う日 前編〜

 

 

時代は動きます。

加速して

早く

速く

誰にも止められないほどに

速く

 

 

 

―ネルガル本社 会議室―

 

会議室に集まっているのは重役達と若い会長。

私はプロスペクター。

まあ、ペンネームみたいなものです。

いま、私はスキャパレリプロジェクトについての説明を受けている所です。

それにしても、重役達は嫌な顔をしていますね。

そんなに私のことが嫌いなのでしょうか?

会長は、薄笑いを浮かべていますね。

まあ、私はあまり嫌いじゃないんですけどね。

この若い会長、アカツキ・ナガレのことは・・・。

「と、まあこういう訳なんだよ。プロス君」

「いやはや、なんとも大胆なことを考えますな。

少しでも間違えばネルガルを潰しかねませんぞ」

簡単に言ってしまえば軍を騙して、実験のためと偽り戦艦の運用権を得る。

他にも同様の名目で兵器の運用をする。

しかる後、軍を出し抜いて火星へ行き“あれ”を手に入れる。

無茶としかいえませんな。

「もちろん、そうはならないように色々と手は打つさ。

これは、スキャパレリプロジェクトの一案にすぎないからね」

なるほど、駄目な時の代案も用意済みですか。

父君からの帝王学は健在のようですな。

「私の仕事はスカウトと経理となっていますが?」

「ああ、シークレットサービスから軍事アドバイザーとしてゴート・ホーリー君を参加させるから二人でがんばってみてよ」

こうして、アカツキ会長の軽い声に見送られ、私の一世一代の仕事が始まったのです。

 

―連合大学  進路指導室―

 

静かな校舎を打ち破るミスマル・ユリカの奇声が響いてくる。

「民間戦艦の艦長に私をですか〜」

さすがに驚いていますね。

ここからが、腕の見せ所です。

プロスペクターは、眼鏡を光らせながら力説する。

「そうです!

このたび、わが社ネルガルは戦艦、機動兵器の開発に乗り出しました。

しかし、どんな物にも試験というものが必要です。

使う人のニーズに合った物を作らなければ物は売れません。

 そこで、連合大学でも屈指の戦略家である貴女に新造戦艦のナデシコをお任せしたいのです」

「う〜ん?」

腕を組んで悩んでいますね当然でしょう。

いくら艦長に抜擢されるといっても民間、しかも士官候補生のエリートコースを蹴らなければならないのですから。

それにしても、隣に座っているアオイさんは存在感が薄いですな。

いやいや、バカにしている訳では無いですよ。

縁の下の力持ちは得てしてこういったタイプが多いのは事実です。

「どうしようかな〜。

よし!お受けしちゃいます」

「ユリカ、こういう事は、もっと慎重にきめたほうが・・・・」

「いいの!

ユリカもう決めたんだから!」

「はぁ〜〜〜〜〜!」

アオイさんが、ユリカさんの言葉に深いため息をついています。

これは、決まりですかね。

良い滑り出しです。

 

―極東地区 ネルガル元保養所“アマツシマ”―

 

太平洋に浮かぶ直径10キロの無人島、それがネルガルから与えられた研究施設だ。

僕の名前はキタガワ、スキャパレリプロジェクト兵器開発主任ってところ。

つまり、この施設の所長ってことになる。

ちなみに研究所の外周に試作ディストーションブレードを44本ほど立てて実験中だ。

外から見れば花のように見えるだろう。

しかし、僕らは怪しい放射線で動くスーパーロボットは研究していない。

「パールちゃん。

ディストーションフィールドの実験状況はどうなってる?」

『第一、六、九、十五、十六、二十一ブレードが変換効率60パーセント強度70で、第二〜第五ブレードは45パーセントの47、その他は50パーセントの62だよ』

この子は、パール・プラタナス、朱金の目を持つマシンチャイルド。

目が弱く言葉が不自由なため黒いバイザーとIFS対応言語補助腹話術人形『通訳君一号』をつけている。

先行試作型オモイカネ“ヒトコトノヌシ”のオペレーターをしてもらっている。

「おい、キタガワ!」

「ダイスケか、どうした?」

エステバリス実験場からテストパイロットのカタオカから通信がはいる。

「なんで、有線なんだ?」

「それはな、重力ビーム照射装置を改良しているから応急処置だよ。」

ここは、アマツシマ研究所の中央制御室、戦艦に搭載されるシステムの試作運用をしているから自然と戦艦の艦橋に近い形になる。

しかし、当研究所では人が溶けるような決戦兵器は開発していない。

「我慢してくれ、もう少し軽量化しないと艦載機として使うには問題があるんだ。」

試作エステバリスは、状態探査センサーを増設したため頭巾をかぶっているようにみえる。

それに加えて、試作兵装を詰め込んだコンテナを背負っていることからベンケイフレームとか呼ばれている。

これを元に現在、陸戦、砲戦、重装フレームを開発中。

今、ラボの方で空戦、0G戦フレームの開発試作機クロウフレームを製作中だ。

まぁ、ネーミング的には軽やかに飛んでくれたらいいな程度のモノだけど。

そんなことを考えていると10分料理系テレビ番組のオープニングに流れるような陽気で単純なメロディが聞こえてきた。

『みなさん、こんにちは、イネス・サンフレジュの相転移講座の時間です。

第23回は、ボース粒子と炉心の関係を・・・・・・』

イネス講師の録音が今日も聞こえてる。

IFSを使ってヒトコトノヌシに話かける。

「なあ?あのスクリーンセーバーどうにかならないのか?」

『そんなこと言われても、自己診断中はスクリーンセーバーが流れるように設定されていますから。』

「しかし、ナデシコのデーターをインストールすると強制的にスクリーンセーバーとして設定される。

へたなウイルスよりたちが悪い。」

あの圧縮を解ける解析力と容量はオモイカネクラスしかなかったとは言え不覚!

やられましたよ、イネスさん。

そうまでして、見せたかったんですね?きかせたかったんですね?

・・・・自分の研究を確実に残したかったのだろうが機密ナッシングですね。

パールちゃんはコントロールパネルの下からノートを取り出し授業を受け始める。

「パールちゃん、ほどほどにね。」

『分かった。』

「ははははは・・・・・・はあ」

『疲れてるなら、寝たほうがいいよ。』

「いあ、身内ばかりとは言え機密を考えろって、エリナさんに7時間ほど説教くらってさ」

ふらふらと歩き制御室を出て行った。

「休憩してくる」

 

おつかれー。

 

―日本 某アパート―

 

ナカムラ・テルアキ 24歳 パイロット

軍でデルフィニュウムを操縦していたが月敗退後退役、予備役にまわる。

「ガイ・・・。実家に帰れ。」

人の部屋に居座る友人に声をかける。

ヤマダと呼ぶことは、もうあきらめた。

「なんでだ?同じ軍を抜けた者どうしいいじゃねえか。」

「なら、そのゲキガンマラソンをやめてくれ。」

いつもなら一緒に見ているのだろうが、今はそんな気分にはなれない。

「なに言ってやがる。

これは漢のバイブルだぞ。」

「・・・・・・・・・」

とりあえず、殴って黙らせよう。

 

平日の昼間、金属で何か軟らかいモノを殴る鈍い打撃音。

平和な町並みにミステリーが生まれそうな午後である。

 

穏やかな町並み、何十年と変わらない木造家屋の町並みは寂れた空気と共に安心感をかもし出している。

私はトレードマークのチョビ髭と赤いベストを調えます。

交渉前の身だしなみは重要です。

あっ申し遅れました。

私、ネルガルのプロスペクターと申します。

「ここですね。」

わたしは古びたアパートの扉をノックします。

「は〜い。どちらさまですか?」

意外にも晴れ晴れとした表情の男性が出てきました。

手にもっている凹んだフライパンは、なんでしょう?

おかしいですね?

月での戦いで、戦友を亡くして落ち込んでいると聞いたのですが?

「私は、ネルガルの物でプロスペクターといいます。」

「プロスペクター・・・? 本名ですか?」

「いえいえ、ペンネームみたいなものです。」

ガイと一緒か・・・・で、お話はなんですか?

セールスはお断りですよ。」

「いえいえ、貴方が軍を辞められたと聞きまして、能力というものは使われてこそ光るもの!

いや〜もったいない。

そこで、わが社の新プロジェクトのパイロットをお願いできないかと思いまして、はい。」

「う〜ん。

まあ仕事は探さないといけないことは確かだからいいか!

受けますよその仕事。」

「いや!

話が早くていい、ではこの契約書にサインを。」

「あっ・・・待ってください。

一緒に軍を抜けたパイロットの友人がいるんです。

そいつも一緒でいいですか?」

「ええ、IFSを持つ人は貴重ですから・・・。」

ナカムラさんにアマツシマ研究所のパンフレットを渡します。

パンフレットを手に部屋へ戻っていくナカムラさん。

『おい、ガイ起きろ』

ボクッと枕か布団でも殴りつけたような音

『テメェ、自分が何をしたか判って・・・』

『わかった、わかった。まぁコレを読んでみろ』

ペラペラと紙をめくる音が暫くの間続きます。

「すげ〜、すげ〜よ! ロボット、バリアー、研究所、ここは理想郷だ!」

「落ち着け、わかったから!・・・・。」

ガン!・・・と金属音が響きます。

静かになった。

後にこの事を少し後悔します。

遅いですけどね。

 

―極東地区 “アマツシマ研究所”―

 

私、プロスペクターは二人の研修生を連れて、スキャパレリプロジェクトの研究所にやってきました。

「ここが、みなさんの研修所となるアマツシマ研究所です。」

「変な形ですね。」

とホシノ・ルリさん、まいったものです。

「おお〜、あれがディストーションブレードというやつか。

早く改造したいぜ。」

とウリバタケさん、困った人です。

花びらの様に研究所を包むディストーションブレードを越えると入り口の前でキタガワ所長と養女のパール・プラタナスさんが出迎えてくれました。

 

「プロスさん久しぶりです。」

「キタガワさん、パールさんもお元気そうでなによりです。

どうですか、研究のほうは?」

「ボチボチといった所でしょうか、なかなか難しくて・・・。」

そんなことを話しているとウリバタケさんが加わってきます。

「そんなことより、早くこいつを弄らせてくれ。

か〜!仕様書を見ただけでも燃えるぜ!」

「そうですね! では、こちらへ・・・・・。」

技術者同士、意見が弾むのでしょうか?

二人とも楽しそうに研究所に入って行きます。

微笑ましいものです。

ちなみにこの感想は5分後に吹っ飛びます。

 

「おや?

ルリさん、どうしたのですか?」

不思議な者を見る目でパールさんを見つめています。

しかたないのかもしれませんね。

人間開発センターでもマシンチャイルドはルリさん一人でしたから興味を持つのは当然でしょう。

『こんにちは、わたしはパール。

あなたは?』

「私はルリ、ホシノ・ルリです。」

『よろしく。』

そう言うとキタガワさんを追って中に入って行きました。

ルリさんは、その後ろ姿をじっと見つめています。

「プロスさん、なぜ私が選ばれたのですか?

あの子がいるのに・・・・。」

「それはですね。

 バイザーと手に付けていた人形を見ていれば分かると思いますが、パールさんは目と喋ることに少し障害がありまして、戦艦のオペレーターとしては不適格と判断されましたので、ルリさんが選ばれたしだいです。」

「そうですか」

疑問は無くなったと言う風に答えを返すルリさんですが、そのポーカーフェィスの中にほんの僅かな安堵を見つけられます。

本来なら、同じ年頃の子供達と一緒に泥だらけになって遊んでいるでしょうに。

ルリさん、パールさんと仲良くなってくれれば良いのですが・・・。

どおおおおん、空気を揺らすと言うべきでしょうかそんな音が響いてきます。

簡単に言えば、遠くで爆音が聞こえてきます。

実験所の方でしょうか?

きっと、気のせいでしょう。

ああ、土煙が目にしみますねぇ。

わたしは、涙で滲んだ目を拭いながら子供たちの幸せに思いをはせます。

 

 

 

 

予告

ナデシコ外伝 第6話

〜力 集う日 後編〜

 

研究所に迫る木星蜥蜴の群れ

連合軍の抵抗も虚しく

その進行は止められない。

「やつらめ、ここに気づいたな!」

迎撃に出られるパイロットはわずか二人!

ガイはこのピンチに間に合うことができるのか?

研究所に隠された切り札とは?

次回へ急げ!