ナデシコ外伝 第7話

〜海の厄日〜

 

 

 

古代では神さまは、海から来ると言われ、

また、災いも海より来ると言われています。

では、遥か古代に海より来た私たち。

 

人は良いもの?

それとも悪いもの?

 

答えは人の胸の中・・・

 

 

―アマツシマ研究所  地下動力室―

 

暗い地下、基地の生命線と言える核融合炉が焼け付いている。

「やはり、出力不足かな?」

キタガワ所長が、やれやれといった感じで呟く。

「通常の核融合エンジンでは理想出力を出せそうにないね〜。」

オサフネ作製部長が軽い調子で合いの手をいれる。

しかし・・国営放送の手作りしよう系番組の着ぐるみは、どうにかならないのだろうか?

あなたとイネスさんの発表会は恐怖の対象でしたよ。

「やはり、“あれ”の完成を急がないとだめだね〜。」

「心配ない。

サンプルが、もう少しすれば届くはずだ。」

「それにしても・・・試作グラビティーブラストは、まずかったねぇ〜。」

「ああ・・・・あそこまで拡散するとは思わなかった。」

すまんな・・・カタオカ、ナカムラよ。

安らかに眠れ。

 

―アマツシマ研究所  オペレータールーム―

 

私は、パール・プラタナス。

ルリちゃんがオモイカネとの顔あわせで外出しているので、

今日は、ルリちゃんと通信で、お話する予定。

あっ繋がったようだ。

「ルリちゃん元気ですか?」

「はい、それなりに元気です。

あなたはどうですか?」

「キタガワおとうさんやダイスケお兄ちゃんたちが、よく遊んでくれるので元気です。

オモイカネはどうでした?」

「いい子みたいでした。」

「お友達になれそうですか?」

「ええ」

 

アマツシマ研究所の医務室は、騒がしかった。

面子を考えればしかたないけど・・・。

「なぜ?

ヒーローたる俺がこんな所に監禁されなきゃならないんだ〜〜〜!

「ガイ・・・うるさい。」

「医務長!

部屋変えを要求する!」

三つのベッドに枕を並べて仲良く寝ている、ヤマダ・ジロウ、ナカムラ・テルアキ、カタオカ・ダイスケが好き勝手に騒いでいる。

「今日は、本土から物資が届く日だっていうのに・・・ついてない。」

「ああ・・・正式採用版のエステバリスが届く予定だったな。」

「なに!

俺のゲキガンガーが届くのか?」

「エステバリスだ!

いいかげんにしろ!」

「馬鹿を言うな!

漢のメカといえばゲキガンガー以外に無い!!!」

よく通る澄んだ声が医務室に響く。

声の主は医務室長ニイミヤ・カオル。

「・・・いいかげんにしなさい。

眠らせるわよ。」

私は、笑顔を浮かべて優しく忠告する。

手に持った注射器がキラリと光った気がした。

 

あれ?

なぜ、顔を強張らせるの?

怒ってはいないのに?

まあ、いいか・・・・静かになったし。

静かになった僕らを他所に時間は流れていく。

 

―輸送タンカー 虹の彼方号―

 

「しっかしよぉ、エステを届けるのは解るけど・・・なんで俺たちが護衛しなけりゃならないんだ?」

甲板で青い空を眺めながらスバル・リョーコが、ぼやいている。

休日を潰されてご機嫌ナナメらしい。

クレーンに吊るされた海戦エステバリスのボディーをたたいている。

海戦エステバリスの形状はデルフィニュームに近い。

手にはボウガンのようなもの(電磁ニードルガン)が装備されている。

「ぼやかない!ぼやかない!おっしごとなんだから。」

アマノ・ヒカルは、待機モードの砲戦エステバリスにもたれかかり、何か書いているようだが、それを見せようとはしない。

「くっくっくっ、

青い空

ブルーな気持ちで

仰ぎ見る。

はっはっはっ・・・・」

一人、悦に入るマキ・イズミ・・・・船員たちから遠まきにされている。

「甲板長・・・あれは・・・。」

「見るな、聞くな!幻だ!

おまえも医務室に行きたいのか?」

そんな感じらしい。

 

操舵室にて、50代ほどの船長と30代ほどの男が話している。

「迷惑をかけます。

私たちのために寄り道させてしまって!」

「なに!

気にせんでください本社の要請ですから文句は本社のほうにいいますよ。」

ソナーの反応を見ていた機関員が異常を見つける。

「ん?

あれはなんだ?」

望遠レンズに水柱が写る。

どんと円を書くように波が広がっていく。

「くるっ!!」

衝撃に500メートル級のタンカーが振動する。

「なんだ?

攻撃・・・・!」

船長の声に答えるように船員から次ぎ次と報告がはいる。

「船底が切り裂かれました!

敵は二種類いるようです!!」

「識別反応、青!

木星トカゲです!」

「なんだ、あの新型は!」

アメンボのように水の上を滑ってくる機影が、モニターに写る。

ソナーには、ミズカマキリのような機体が感知される。

「そう簡単にはいかせてくれないか・・・。」

さきほど、船長と話していた30ほどの男、イシハラ・ミツルが仕切る。

「本時刻より、本船をスキャパレリプロジェクトの保護対象として規定する。

よろしいですか?」

「ああ、しかたがない私には戦闘指揮はできないからな。」

船長の了承をとる。

形式というものは大事だ、たとえ非常時だとしても・・・。

「以後!敵新型をアメンボ、ミズカマキリと呼称!

連合軍に通達!」

操舵室にウィンドウが開いて、勝気そうな女性が写る。

「さっさと発進させろ、こんな時に出ないでなんのためのパイロットだ!」

「もう、リョーコってば、せっかちなんだから。」

「敵は、すぐそこまで来ているんだぞ!

ぐずぐずしてられるかってんだ!」

「海戦エステバリスを海に降ろせ!

砲戦エステバリスは砲撃支援をせよ!」

クレーンが動いて海戦エステバリスを海へ降ろす。

「よお〜し いっくぜ〜〜〜トカゲども!」

「もう、リョーコちゃんてば、意外に熱血なんだから。」

海戦エステバリスは、脚部の超電磁推進システムを使って突き進んでいく。

砲戦エステバリスが、180ミリキャノンでそれを支援する。

機体保持の爪で甲板がへこんでいるようだが許容範囲内だろう。

「薄いから穴あいてるんだろうな〜。」

飛び魚のように水面を跳ねながら進む海戦エステバリスを見ながら呟く。

「気にすることはない!必要経費で落とす。」

アカツキ会長には泣いてもらおう。

「海戦エステバリス!探査プロープの配置状況はどうだ?」

「ぬかりね〜よ!

まかせたんなら黙って見てろってんだ。」

役に立ってもらうぞ。

戦争は、もう始まっているのだから。

イシハラは笑みを浮かべていた。

酷く好戦的な笑いを・・・・

機動兵器を運用するに当たって、重要なものは二つ。

一つは、多数の機動兵器の意思を統一するための指揮拠点。

一つは、機動兵器を運用するための母艦が必要だ。

そのどちらかを潰せば、いくら数が多くともしょせん烏合の衆、基本性能で勝るエステバリスの敵ではない。

やがて・・・大きな反応が探査プロープから届けられる。

「見つけた。」

海底200メートルに戦艦クラスの反応あり。

素早くそのデーターを海戦エステバリスに送る。

「よ〜し!まかせとけ!!」

海戦エステバリスが、ミズカマキリの高周波ブレード攻撃をかわし、細い足をニードルガンで打ち抜きながら戦艦を目指す。

戦艦は魚雷を撃って迎撃してくる。

「へっ!そんなもんに当たるかよって!」

螺旋の軌道で魚雷を回避し、避けきれない物はニードルガンで撃ち落とす。

海戦エステバリスは戦艦に近づいてニードルガンを打ち込むがディストーションフィールドに阻まれ致命傷を与えられない。

「ちっくしょぉぉ!

反則じゃねえのか?

それは!」

リョーコは悪態をつきながら近寄ってくるミズカマキリの攻撃をかわし、反撃する。

 

「イシハラさん、どうするの?

このままじゃ押し切られるよ〜

どうするの?」

アメンボの迎撃をするヒカルの声に余裕がなくなってきている。

「心配ない、

とりあえず、そのコンテナを海に放り込んでくれ。」

戦艦の位置が分かった以上こちらが止まっている理由は無い。

「中身は何なの?」

「火薬とチャフだ」

簡易の爆雷ってヤツだ使えるモノは有効活用しなくてはならない。

 

「そ〜れ、それっと!」

砲戦エステバリスがコンテナを海に放りこんでいる様子は、なかなかシュールなものがある。

迎撃しながらだからむしろ蹴落とすだが・・・。

「そういえば、イズミちゃん何してるんだろう。」

あとは、天に運を任せるとするか。

 

くそう、海戦エステバリスの残弾が乏しくなってきやがった。

「おい!どうするんだよ!

きりがない。」

『リョーコ、コンテナ落とすから敵さんの魚雷を迎撃してね〜』

コンテナの中身のデーターが海戦エステバリスに送られる。

「へっ!そういうことか、まかしとけってんだ!」

リョーコは、推進器を全開にして、次々と落ちてくるコンテナに向かってくるミズカマキリと魚雷を迎撃するため動き出した。

 

時限爆弾の仕掛けられたコンテナが破裂するとコンテナに詰められていた撹乱物質がばらまかれる。

闇雲に攻撃し始めるミズカマキリと戦艦、それを嘲笑うようにコンテナは戦艦を囲むように落ちていく。

戦艦の後ろに落ちる緑のコンテナを見ながらリョーコはにやりと笑う。

「センサーばっかりにたよってるからだ!」

戦艦の背後に落ちた緑のコンテナが開き、中から砲戦エステバリスが現れる。

「くっくっくっ

フルウエポンアタック(ぼそ)

くっくっくっ」

イズミの砲戦エステバリスからミサイルラックが開き、何十本もの魚雷と180ミリ・パイルキャノンを戦艦と周りに落ちたコンテナに向かって放つ。

いかにディストーションフィールド装備の戦艦といえ。

砲戦エステバリスの集中砲火と火薬コンテナの爆圧に耐えられる訳がない。

イズミ、リョーコの両名を巻き込みつつ爆発した。

 

水面に上がった巨大な水柱を見てヒカルが呟く。

「うわ〜い!

おっきな水中花火!」

のん気なものだ。

イシハラは、浮かんでこれない砲戦エステバリスの回収の手はずを考えていた。

どうしようか?

 

―アマツシマ研究所 格納庫―

 

格納庫には、いろいろなタイプのエステバリスが並べられ、フレームがむき出しのものや部品段階のものが多く見受けられる。

「すごいでしょう。」

メルヴィル・ミヤビは、新人のシズカ嬢を案内中だ。

「ええ、それはわかるのですけど、あちらの方たちは何をしているのでしょうか?」

「え?」

シズカの指し示す方を見てみると、ウリバタケたちが何かしているようだ。

「ふっふっふっ・・・そんなメカで、俺のリリーちゃんに勝てると思っているのか?」

「僕のスペンサーくんのスペックは、リリーちゃんに負けてません。」

「己の未熟さを悔やめ!」

ボール型のロボットとマネキンの様な人型ロボットが向かい合ってスパークを散らしている。

続いて聞こえてくる、爆竹のような破裂音と激しい煙・・・。

「傍で見てる分には楽しいよ。」

「そんな問題ですか?これは・・・。」

「大丈夫!

すぐに慣れるから。」

「慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、慣れちゃだめだ、」

シズカ嬢が頭を抱えてうずくまっている。

嫌な思い出にヒットしたのかな?

 

「類がっ 友を呼んでいる〜。

いつかは 染まるのさ

れっつご〜 ぱっしょん!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁっぁ」

 

「おお、素人とは思えぬ見事なスタートダッシュ」

走るシズカ嬢の後には、リリーちゃんVSスペンサーくんのはずれ賭け券が、紙ふぶきとなって舞っていた。

 

その喧騒の中、整備コンピューターからデーターをコピーしている整備員がいた。

「おや?

どうなさいました?」

びくり!

と肩を震わせると飛びのくように後ろを振り返る。

プロスペクターは、あくまでも穏やかに問い詰める。

「いけませんね〜。

 データーの持ち出し、及びコピーは部長か所長の許可がいると社内規定に定められているはずなのですが?」

彼は懐に手をいれ、

 

とん、と軽くモノを叩く音が一つ。

 

切り札を切ることなく首筋の一撃に倒れ付す。

「やれやれ、」

 

輸送タンカー、虹の彼方号が到着して1時間、整備班と開発班の熾烈な争いが続いています。

「馬鹿野郎、これは、エステの修理にいるんだよ!」

「ずるいぞ!共通パーツは半々の約束だろ!」

電子部品のコンテナを巡って、じゃんけん、あっち向いてホイ!などの勝負が繰り広げられています。

 

「やられた〜   班長!

仇を討ってください!」

「まかせろ!

必ず、重力制御盤を手に入れてみせる!」

こんな感じの取り合いが至る所で生じています。

子供ですか? あなた達は?

 

「何してるんですか?

ミヤビさん?」

リフト車に乗って所在なさげにしているミヤビさんを見つけました。

「ん?ルリちゃん、この船で帰って来たんだ!

搬入の手伝いしてんの。

でも〜どこ運べばいいか決まってないから動けないんだよね〜。

どうしよっか?」

 

馬鹿ばっか

 

夕暮れ

全てが赤く染まる、黄昏の時、

「ここは、エステバリスの墓場さ・・・。」

キタガワは、ここをそう呼んでいる。

「下手に人の形をしている分、捨てられた凄惨さをかんじます。」

イシハラは、ここをそう表現した。

ここから生み出される兵器の最初の墓場

ここは、かつてこの島が産廃処理場であった名残をもっとも残している場所、エステバリスのフレームや実験でボロボロになった機体、製造の過程で不良品と判定された部品や試作武器が無造作に積み上げられている。

 

「それにしても、ずいぶん苦労したみたいだね。」

「ええ、やつらも何を運んでいたか気づいたみたいでした。」

「馬鹿なのは人ばかり・・・か」

クスリとわらいながらキタガワは続けて言う。

「あれが・・・オリジナルか・・・」

「ええ、火星の極冠遺跡から発掘されたオリジナルです。」

「これで研究も進む・・・資料だけではどうしようもない部分があるからな・・・。」

「ネルガルの重役たちが苦い顔をしていました。」

「重役だけかな?」

 

医務室・・・・ここからはエステバリスの墓場が良く見える。

医務室のベッドからナカムラは、ふと窓のそとを覗く。

キタガワとイシハラが、そこにいた。

「あいつは・・・・たしか軍で見かけたことが・・・・。」

 

 

 

予告 ナデシコ 第8話

〜騒がしい日 前編〜

 

また、おバカな事件がアマツシマを襲います。

工事中に発見された地下へと続く謎の穴!!

 

調査隊が結成されることになりました。

この島に隠された過去

発見される地下道

地下道にはいったい何が隠れているのでしょう。

「ヒーローの活躍する時がきた!

いくぞ、正義は我にあり。」

『なんだ・・・あれは、

うわああああああ・・・ブチ

「通信、途絶えました。」