ナデシコ外伝 第8話

〜騒がしい日 前編〜

 

 

過去が、あるから今があり

今が、あるから未来は作られます。

 

未来は、今から遠い霧の中、

過去は、今から遠く霞んで消えていきます。

 

時に未来は過去になり、

時に過去は蘇る。

 

改竄された過去、忘れられた過去

正しい過去など無く、確かな未来など無い。

 

不確かな今に私達は立っている。

 

 

 

―アマツシマ第三工事現場―

 

アマツシマ研究所は、土木作業の真っ最中!

昼夜を問わず騒音の巣になっています。

夜くらいは静かに寝たいのですが・・・。

ガガガガガガガガと重機がコンクリートを削り、鉄骨を突き立てます。

アチラこちらから作業員の喧騒が響いてきます。

「陸戦エステ! セメン持って来い!」

「こっちに空戦エステ、入ってくれ。」

「おい!ボルトが足りねえぞ!」

活気と言うかヤケクソと言うかそんな空気さえ伝わってきそうです。

「あっ!キタガワ所長!

順調そうだね〜〜増築工事!」

「ミヤビか、・・・そうだね。エステの使い方を考え直さないとね〜。」

キタガワが、第四次エステバリス工場増設計画と書かれた書類から目をはずし、現場に目を向けると、スコップやツルハシを装備したエステが土木工事をしている。

「開発部長・・・泣いてたよ。」

そりゃ、泣くだろう。

「プロスさんは喜んでたね。

販売層が広がったと言ってたかな?」

土建屋にでも売り込む気かな?

エステの装備した赤や黄色の原色で色づけされたスコップやツルハシは、子供のおもちゃのように見える。

「ねえ?

あの、ふざけたオプションは、誰が作ったの?」

キタガワは、無言で一点を指し示す。

 

ナカムラの乗る砲戦エステが、抗議の声を上げている。

「ウリバタケさん!

なんで、180ミリキャノンの代わりにクレーンアームがついてるんですか〜〜〜〜〜。」

「あん?

1tそこそこしかない陸戦や空戦に4〜5tあるものを吊り上げられねえだろう?」

「そう言ったことじゃな〜〜〜い!」

 

地面を派手に掘削している、陸戦エステからカタオカが、不満の声をあげる。

「ウリバタケさ〜〜〜ん、このイミディエット・スコップ使いにくい!」

「どんな、硬い岩盤でも豆腐のように掘れるぞ!」

ウリバタケさん・・・・あれは、掘るというか・・・むしろ砕く、です。

「ハカセ!!

ドリル、ドリルは無いのか!」

「ヤマダ、お前にはまだ早い。」

「ちが〜〜〜う!

俺の真の名は、ダイコウジ・ガイだぁ〜〜〜!」

そう言いながらイミディエット・スコップを地面に突き立てます。

 

ぼこ!っとダンボールの空箱をつぶしたような音が響きます。

 

「「「え?」」」

 

ヤマダくんの一撃は地面を掘削し打ち抜き、半径5メートルの物を巻き込みながら穴の中に落ちていく。

「工期が、工期がああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

物凄く焦った現場監督の声が聞こえる。

他に心配すべきことがあるだろう?

今日は本社からエリナ嬢とアカツキ会長が御忍びで来ているんだぞ!

 

それも違うか・・・。

 

―アマツシマ研究所   地下???―

 

「へぇ〜。

これは、なかなか興味深いね。」

アカツキとプロスさんが、砲戦エステのクレーンゴンドラに乗り、ヤマダが打ち抜いた穴の中に入って辺りを観まわす。

「ええ、ネルガルがアカツキ重工と呼ばれていた時代の建造物ですね。」

周りを見渡すと、古い型の人型作業機械が一列に並び静かに佇んでいる。

まるで、古代の遺跡のように見える。

「バビロンプロジェクトその、残り香というやつですか・・・。」

「百九十年前の一大プロジェクト、解体の手間と老朽化を考慮して、そのまま埋められた。

そんな所がな?」

「あの時代は、1年経てば老朽機でしたから」

「今は技術の袋小路に入り込んでるから全然進まないんだけどね。」

「頭の痛い話です。」

「調査が必要だね。」

「どちらにしろ、このままにはしておけませんしね。」

 

―アマツシマ研究所 作戦会議室―

 

「と、言う訳で!

調査隊を結成して謎に包まれた施設を調査します。」

キタガワ所長がホワイトボードを指しながら作戦概要を説明しています。

ときどき、周囲をうかがいながらビクビクしているのは何故でしょう?

「おおそれこそ正に正義の味方の仕事!」

「ヤマダくん、君留守番。」

「なぜだ、ハカセ!

俺の正義の魂はこんなにも燃え上がっているというのに!」

「「「「「だからだ!」」」」」

自滅して遭難するのが目に見えています。

「メンバーを発表します。

隊長     アカツキ・ナガレ

副隊長    カタオカ・ダイスケ

荷物運搬   ナカムラ・テルアキ

オペレーター ホシノ・ルリ

パール・プラタナス

ナビゲーター リリーちゃん

以上!」

「「「えっ!」」」

 

「あれを使うんですか?」

「正気ですか!!」

「我々の命綱をマネキンに握らせ“がん”

「馬鹿言っちゃいけねえ。

俺が丹精こめて作ったリリーちゃんは完璧さ!」

チッチッチと一指し指を揺らしながら自信たっぷりに言うウリバタケさん。

血に濡れたスパナが全ての説得力を奪っています。

カタオカさん、大丈夫でしょうか?

 

―アカツキ重工 施設通路―

 

カツーン、カツーン

暗い通路に灯るのは、懐中電灯の明かりだけ。

結局、カタオカさんは医務室行き、付いてはいけませんでした。

「この通路は、どこまで伸びているんだろう?」

「さて?

当時の資料はもう残っていないからね〜。」

響くのは靴音とアカツキさん、ナカムラさんの話し声だけ。

ちょっとホラーです。

「しかし、バビロンプロジェクトってどんな計画だったんだ?」

「説明しましょう。」

リリーちゃんからよく聞き慣れた声が響きます。

 

―アマツシマ通信管制室―

 

「ヒトコトノヌシ!

リリーちゃんの通信回線を取り戻すんだ!」

「だめ。

オモイカネシステムから直接コマンドが出てる。」

ルリの言葉にキタガワは、眉をよせる。

「基礎プログラムにまで、手だししてたのか!

あの説明お・・・・ねえさん!」

 

おそるべし!

 

どこまでも続く闇の回廊、その語られぬ歴史・・・。

闇の中を2人は歩みます。

ただ、黙々と・・・・。

「二十世紀初頭、温暖化による海面上昇と老朽化した湾岸施設の再興のために湾岸全体の堤防、港、テーマパークをそなえた新造計画が持ち上がり、当時の政府は・・・・・・。」

足を進めながら延々と説明を続けるリリーちゃん。

先に進む足取りは自然と重くなり、隊員の焦燥は目にあまる物があった。

「やっぱり、連れて来るんじゃなかった・・・。」

「考えたら負けだよ。

疲れてるのは君だけじゃないんだから・・・。」

「違うな、憑かれてるのさ!」

「「は〜〜〜ぁ」」

 

五時間後

 

「戻る時間を考えるとそろそろ、マッピングを終了して研究所に戻るべきだ。」

アカツキさんが、そう宣言しました。

「そうだな。

湾岸の整備通路とも繋がっているみたいだし、どれだけの規模なのやら。」

「当時、同時に作業に入っていたのが61社・・・・・。

全部の通路が繋がってたら見当もつかないね。」

「出入り口にコンクリート流し込んで潰すのが1番じゃないかな?」

アカツキさんたちが撤収準備をしている時、それは起こりました。

 

カラ〜ン、と空き缶でも蹴飛ばしたかのような音が響きます。

 

初めに見つけたのはナカムラさん。

「ん?

何か動いたような?」

「ねずみか、何かじゃないのかい?」

「いや・・・・もっと大きな物が・・・。」

ブウウゥゥンンンとブラウン管のテレビがついた時のような音がします。

一列に並んだ作業機械たちの目に赤い光が灯ります。

 

「うわああああぁぁぁ」

 

―アマツシマ通信管制室―

 

管制室に悲鳴が響きます。

『なんだ・・・あれは、

うわああああああ・・・ブチ

「通信、途絶えました。」

通信室に沈黙が落ちる。

「どうした!

応答せよ、アカツキ、ナカムラ!!!」

「リリーちゃん、リリーちゃんはどうなった〜〜〜。」

ウリバタケさんが通信機に向かって叫んでいます。

焦るキタガワさんの後ろでエリナさんが、腕を組んで真剣に何かを考えています。

私には、あまり関係無いですけどね。

「ヒーローの活躍する時がきた!

いくぞ、正義は我にあり。」

ヤマダさん、うるさいです。

苛ついているエリナさんとキタガワさんによってヤマダさんが殲滅されます。

 

ヤマダさんが復活するまでの二時間のあいだ

救出隊を派遣する準備が始まりました。

 

「どうなるのかしら?」

 

 

−アキツシマ研究所−

 

今日は、ホシノ・ルリです。

私は今いるところは、仮設司令室になっているテントです。

外は、暗くなり星空が見え始めたので、投光器をいくつも設置し、バビロンプロジェクト地下通路の本道への突入穴を開く作業が続けられています。

「ルリちゃん!作業の進行はどうなっている?」

「本道への突入穴は、70パーセント、突入装備の準備は完了しています。」

陣頭指揮をしているキタガワ所長は、白いはちまきに白衣を着ています。

なんだか、違和感だらけって感じです。

 

私は、エステバリス・ハンガーを写したウインドウ・モニターに目をむけます。

体育館の様な場所にエステバリスが並べられて、あちらこちらに工作機械や作りかけのパーツの散乱する研究所で一番散らかっている所です。

そんな所に用意された突入用の装備を見上げて、カタオカさんが文句を言っています。

「なんで? ビルドフレームなんですか?」

その質問にウリバタケさんは、したり顔で説明を始めました。

「いいか、よ〜く聞け。

まず、地下道に入る関係上、問題になるのがエネルギーの確保だ。

研究所の重力波ウエーブが、どこまで届くか分からないからには、単独で行動できる機体を用意しなくちゃならねえ。

その点、こいつは重機動フレーム(砲戦フレーム)を基本に組み立てているからバッテリーだけで長時間の作動が可能だ。」

「それなら、別に重機動フレームでいいじゃないですか?」

ウリバタケさんは、「わかってねえなあ〜」と呟いて、説明を続けます。

「いいか? これからお前等が行く所は、地下の密閉空間だ。

そんな所で砲撃戦なんかしてみろ、生き埋めになって二重遭難するのがオチだ。

それなら、長時間作動可能で、速乾コンクリートガンや接着銃、イミディエットスコップ、イミディエットドリルを装備したビルドフレームが適任って寸法さ。」

「じゃあ、肩に付いている赤いライトは何ですか?」

「ああ、赤外線ライトだ。 探検物の基本装備だろ?」

そう言うウリバタケさんの言葉に頭をかかえていると・・・。

遠くの方からウリバタケを呼ぶ声が響いてきます。

「班長〜〜〜。索敵センサーの最終調整しますからこっちに来てくださ〜〜〜い。」

「おっと、じゃあな!

パイロットは休めるうちに休んでおけよ。」

カタオカさんは、ひらひらと手を振って歩いていくウリバタケさんに「あの時のスパナは痛かったです」、と呟いて恨みがましい視線を向けていました。

 

 

―バビロンプロジェクト生産区間―

 

とうの昔に廃棄された生産装置が、息を吹き返し次々とパーツを吐き出してます。

「これは、なかなか壮観だね〜。

そう思わないかい? ナカムラ君」

「壮観と言うか、何と言おうか・・・・・これは、一大事と言うんじゃないか?」

アカツキと僕は、通気ダクトからバッタのような物が作られているのを見ながら話している。

アカツキは、何てことない事のように言っているが、ただでさえ多い木星トカゲ達がさらに増えるのは、容認できることではない。

ここは、絶対に潰さなくてはならない。

「アカツキ、研究所の目と鼻の先にこんな物があったら、おちおち眠っていられなくなるな。」

「そうかい? エステバリスの良い練習相手になるかもよ。」

二人とも冗談まじりに言っているが、目は笑っていない。

「どうする?」

「捨てたものとは言え、うちの機械を勝手に使われるのはおもしろくないね。」

「一区間先にアクアリアクターの発電室がある。 そこを吹き飛ばすのがベストかな。」

ナカムラは、落盤で閉じ込められた時のための爆薬をチェックしながら言う。

その爆薬は何処にあったって?

僕たちには仲間がいた、彼・・・・いや彼女の部品もとい遺品が僕らの切り札だ。

リリーちゃん、ウリバタケさんに後で殺されないように気をつけよう。

それは、兎も角として今となっては僕らの命綱となった今までの間で製作したマップを開いて策をねる。

「ルートは4番通路から8番通路を抜ける道が近道かな、おや? 途中に補助のガソリン発電室もある派手にいけそうだねぇ。」

耳に付けたイヤホンに電子音声で警告を告げる声がする。

『後方300メートル アンノウン接近』

ウリバタケさんが趣味で用意してくれた小型レーダー(探検の基本と言っていた。)が何者かの接近を告げる。

「やばい!  奴ら後ろからきやがった!」

無人兵器どもは、ジャミングやセンサーの撹乱にめっぽう弱い。

索敵の不備からくる優先順位の混乱、ウリバタケさんの用意してくれたチャフ入りの煙幕弾が有効に働いている。

「煙幕は後いくつ残ってる?」

「24個、フルマラソンできるくらいはあるさ」

通気ダクトの網を蹴破って、僕とアカツキは外に飛び出す。

「ボクは体育会系じゃないからフルマラソンはしたくないねぇ」

煙幕をばら撒いておけば奴等には追跡できない。

「東側の通路には、手動で閉められるシャッターがあるはずだ」

アカツキの言葉に従い、東側の通路に向かい僕らは走りだした。

さあ、反撃開始だ!

 

 

予告 ナデシコ 第9話

〜騒がしい日 後編〜

 

地下から湧き出てくる百九十年前の作業機械!

人の制御を離れた機械は何を思うのか?

「エステバリスを作業機械ごときで止められるものか!」

「凄い数です・・・百・・いや二百はいます。

今、ヤマダさんが突撃していきました。」

今と昔・・・その邂逅・・・

「零G戦フレーム!」

「まて!それは・・まだ、完璧じゃない!」

長い夜の結末は?