〜 一時間後、 再びロサ・カニーナ内 トライデント中隊専用ブリーフィングルーム  〜

ほら、やっぱり。(苦笑)
モニターに映る、装甲部分がチョッピリ融解した初号機と零号機を見詰めながら、胸中でそう呟く。
とは言え、今回の失敗は非難する気にはなれない。実際、あの二人は良くやった。

初弾を外したあの後、ラミエルからの追撃の加粒子砲を辛くも回避。
砲身の冷却が終るまで必死に逃げ回っている間に、展開を終えた戦車小隊と戦闘機小隊の波状攻撃が開始され、ラミエルは、再びライトニングプラズマモードを展開。
かくて、当初の予定通り、彼等はラミエルの注意を引くと同時に、ライトニングボルトが撃てない状況を作り出した。

それを見取ってか、『レーザー掃射が行われた瞬間を狙いましょう』と、シンジ君が進言。
それに応じ、葛城ミサトは、カウントダウン以後、発射タイミングを一拍遅らせて、それに合わせた。
と、普通は立場が逆なのだが、此方の注文通りの作戦行動が行われた。
だが、第二射もまた外れてしまった。
なんとラミエルは、使用不能な加粒子砲の代わりに、ガラス状の体組織を初号機側に濃密散布。
本体が見えなくなるくらい密集して展開させ、陽電子砲のエネルギーの大部分を拡散せる策に出たのだ。
そう。やはり初号機が。自分を倒しうる火力を持った相手の存在を知られたのは大失敗だったのである。

それでも、二人は諦めずに頑張った。
体組織が、ゆっくりと自由落下している事に着目し、ラミエルがライトニングプラズマ用の体組織を追加散布する瞬間を狙ったり、
レーザー掃射と体組織散布がほぼ同時に行われるタイミングを掴む為、少しでも射撃ポイントを近付けるべく、敢えて更に使徒側のエリアに踏み込んだり、
飛んでくるライトニングプラズマの流れ弾を、零号機が盾で防いだりと、『シンジ君のアイデア』で様々な試みがなされた。
しかし、その総てが徒労に終わり、つい先程、六発目を撃ち終えゲームセット。ヤシマ作戦は失敗に終ったのである。

ついでに、この話のエピローグも語っておこう。
六発目を発射した直後、『初号機、零号機、共に内部電源に切り変わりました』との報告がネルフ発令所からもたらされた。
それと同時に、二体共に残り時間のカウントがスタート。
そう。ハイパー○ンチの電力を使い切ってしまった以上、当然こうなるだ。
慌てて逃げ出す二体のエヴァ。だが、二人の不運は尚も続いた。
他の者より大型である所為か、時折、ライトニングプラズマに混ぜて撃ち放していたライトニングボルトの標的となり、
それをガードすべく、割って入ったロサフェティダもタッチの差で間に合わず、光の奔流の餌食に。
かくて現在、直撃を食らったのはコンマ数秒の事とはいえ装甲部分が融解。
エネルギー切れを起こした事もあって、二体仲良く、あの場にて白煙を上げているという訳でなのである。

    ピコン、ピコン、ピコン………

丁度、モノローグが終った所で、春待三尉から、作戦開始を求めるコールサインが。
(フッ)待ちに待ってた出番が来たぜ。

「これより、作戦名『イッパツマン』を開始する。行くぞ豪○九………じゃなくて浅利三曹!」

と言いつつ、彼の腕を引っ掴み、急ぎ足で格納庫へと向かう。

「ちょ…ちょっと待って下さい。一体何の………」

引き摺られつつも事情説明を求める浅利三曹。
だが、それには取りあってやらない。
考える隙は極力与えない。此処が今回の重要ポイントである。
折角、総ての御膳立てが整ったのだ。此処で彼に、『何故、事前に作戦説明をしなかったのか?』という矛盾点に気付かれては元も子も無い。

   プシュー

「準備は出来ているか?」

到着と同時に、班長達に確認の声をかける。

「勿論ですわ」

だが、返ってきたのは、カヲリ君の氷の様に冷たい声だった。

「や…やあ、カヲリ君。お早いお着きだね」

「ええ。幸い、思っていたよりは被害者が少なかったので。
 それに、イネス博士は単独でもジャンプが可能ですから。送迎は不要ってことね」

俺のありきたりな挨拶に、微笑みながらそう答える。
だが、彼女の標準装備とも言うべきその笑顔は、何時もの陽だまりの様に温かなものではなく、
先の大戦中に見慣れた、某同盟の娘達が浮べるアレにソックリなものだった。

「あの、やっぱり怒ってる?」

「嫌ですわ提督、怒ってなどいませんよ。ええ、勿論。当然でしょう。
 何しろ生死を共にする戦友ですもの。
 身を挺して庇うのは当然の事ですし、親密な会話も無い方が不自然というもの。
 それに、葛城さんも分別ある大人の女性。
 間違っても、13歳の少年など相手にする筈がありませんわ」

ううっ、言葉のナイフが痛いよカヲリ君。

「まあ、所詮は今回だけの事ですわ。
 それより、今は目の前の御仕事に専念しましょう」

俺が充分反省したのを見て取ったらしく、彼女はコロっと話題を転換。
普段通りの笑顔で、作戦の進行を促してきた。
この辺の切替えの速さは、エリナ女史に通じるものがある。
やはり、大会社の秘書というものは皆、かくあるべきものなのだろうか?

「ようシュンさん。痴話喧嘩は終ったかい?」

と、そこへ、傷口に塩を塗りこむかの様なセリフを吐きつつ班長がやってきた。

「喧嘩ってのは、もうチョッと実力が均衡している人間同士でやるもんだよ。それより、例の物を出してくれ」

投げ込まれた爆弾をさり気無く回避しつつ先を促す。
そう。アキトじゃあるまいし、この程度のイジリに一々引っ掛ってなどいられない。

「OK。お〜し坊主、こっちに来な。これが、お前さんの乗る新しい機体だ」

「えっ? え〜と………大砲ですか?」

此処までは、俺とカヲリ君のギスギスした会話に呆然していたが、アレの登場と共に、別の意味で呆気に取られる浅利三曹。
ホンに流され易い子である。まあ、だからこその人選なのだが。

「チッ、チッ、チッ。コイツは、そんな汎用性に欠けるモンじゃない。
 超大口径砲戦車、その名も『弾丸ライナー』だ。
 全長15m。全重量650t。発射モード時の全幅は34m。
 電磁カタパルトによって、標準サイズのエステを、僅か0.5秒でマッハ7にまで加速させる、究極のブースターユニットだぜ!」

「………あの、この戦艦から直接発射するんじゃ駄目なんですか?」

絶好調な班長の説明に目を丸くしたままながらも、浅利三曹はそう尋ねた。
ある意味もっともな疑問だが、

「いや、君の言いたい事は判るが、それは出来ない相談だ。
 此処から発射した場合、その射出角は、地面への激突コースにならざるを得ないからな。
 いくらヤマダ………じゃなくて大豪寺でも、それをやったら流石に死ぬ………かも知れないし」

それには、前述の様な問題点があるのだ。
どちらかと言えば、作戦のコンセプト自体に無理があるのだが、そんな本音はオクビにも出さない。
後半部分にチョッとだけ漏れたかも知れないが、それは愛嬌というものだ。

「いや、だからって………」

「だあ〜っ! 一体ナニが気に入らないってんだ!
 ウィスカーE型に積まれているXLエンジンを四基積み込み、全力駆動時のパワーは、なんと3万2千馬力。
 どんな悪路でも、時速8kmのスピードで疾走するモンスターマシンなんだぞ、コイツは!」

「それじゃあ、自力で走った方がナンボか速いです」

「ったく、移動砲台のスペックとしては、これがいかに画期的なものなのかも判らないのかよ。これだから素人は困るんだ」

主観の相違から、何やらすれ違いっぱなしな口論を始める二人。
それを制止すると、俺は上官命令によって、浅利三曹を半強制的に搭乗させた。
そう。何だかんだで、戦闘開始から既に一時間を超えているのだ。
この辺でケリをつけなければ、お茶の間の視聴者がダレてしまう。
エンターティナーとしては、それだけは避けねばならない。

「発進!」

かくて、巻きを入れるため、勿体をつけた出撃シーンは全面カット。
パイロットの浅利三曹と、砲弾である大豪寺INダーク・ガンガーを乗せた弾丸ライナーは、超特大のパラシュートによって、ゆっくりと降下。
途中、加粒子砲の流れ弾を一発浴びそうになったが、此処は有効射程外。
ダーク・ガンガーのDFを前面展開させて軽がると防御し、無事、地上へと降り立った。
さてと、此処からが本番だ。

   ピコン

「俺だ。今、作戦名『イッパツマン』がスタートした。
 計画通り、15分以内に最初の殉職者を出してくれ」

俺は徐にコミニュケを入れると、春待三尉に向かって非情な命令を下した。
そう。今こそ明かそう、実はトライデント中隊の子達は全員捨て駒。
後腐れが無い様、残らず死んで貰う予定だったのだ。

えっ、外道だって?
おいおい、忘れて貰っては困るな。
ウチは悪の秘密結社だぜ。これくらいはやらんと恰好がつかんだろ?

「なあ、シュンさん。
 ひょっとして、今、ニヒルに笑っているつもりなのか?」

「駄目ですよ、ウリバタケさん。そんな事を口にしては。
 折角、提督が非情な悪の大首領らしいポーズを気取っているのに。水を差すのは感心しないってことね」

ううっ、みんなキライだ。現実のバカヤロー!
内心でそう吼えた後、涙を堪えつつ、俺は提督室へと戻った。
何せ、此処から先が今回の目玉だ。ナカザト一人に任せてはおけない。


『全隊、総力戦開始!』

俺が持場へ就くのとほぼ同時に、春待三尉の新たな指示が下された。
これまでよりも踏み込んだ、撃墜される危険性の高いエリアまで進軍し、苛烈な波状を攻撃を仕掛けるトライデント中隊。
ちなみに、リアリティを追求すべく、誰が最初の殉職者になるかは決めていない。
ワザとではなく、あくまでも実力と運が足りない者が脱落するように仕向けてある。

そして、これは完全な蛇足だが、班長の主催で、『誰が最初の一人か』とのトトカルチョも行われている。
無作為とはいえ、指揮しているのは春待君。当然ながら、本職では無い予備機を駆る子達が本命だ。
そんな訳で、俺は薬師カズヒロ一曹に賭けている。だって、彼が一番影響が少なそうなんだもん。
だが、画面内に映るその機体は、何故か一番後方で安全策に徹していたりする。いや、困ったもんだ。

「全隊、微速前進!」

更に包囲網を狭める様に指示する春待三尉。
その顔は、ハーリー君を前にしている時とは似ても似つかない厳しいものだった。
だが、それも当然だろう。
まだ使徒戦も序盤なので、犠牲は一人に留めるのが最低条件。しかも、制限時間付き。
そんな些か変則的な前提条件付きではあるが、彼女にしてみれば、現場指揮を任されての初陣なのだ。
気合が入らぬ筈が無い。

かくて、初殉職者決定レースは続く。
画面内にて、更に激しさを増してゆく砲撃戦。
それを見る限り、やはり大穴である戦車小隊Aチームはきそうもない。
塩沢リョウ三曹、山本サラ三曹、中原マサト三曹の三人は、キチンと役割分担が出来ており、上空の戦闘機小隊とも、三次元的に連携が取れている。
そして、本命だった予備兵力組もまた、望み薄の様だ。
自分達の未熟を良く理解しているらしく、後方支援に徹し、危険エリアに入ろうとしない。
という訳で、多分、戦車小隊Bチ−ムの誰かになるのだろうが、これがかなり問題だった。

『銃身が焼きつくまで撃ち続けてやる!』

狙いは結構正確なのだが、射撃に集中しすぎて、すぐ棒立ち(?)になる阿間田シロー三曹。

   キュイ〜ン

高速モードを駆使しての、ヒットアンドウェイ。
否、殆ど自殺行為としか言い様の無い無謀な突撃を繰り返す郷谷キリコ三曹。

「あの、もう少し纏まって行動を。せめて、連携くらいはしましょうよ」

そんな二人に振り回される、部隊最年少な13歳のヴィヴィことヴィラント=ヴェラント三曹と、彼等のチームワークは、練習時に輪を掛けて最悪だった。

えっ? なんでその時点で注意しなかったかって?
そう言われても困る。だって、実はシミュレーションじゃ、Aチームよりも、ずっと強かったんだよ彼等ってば。
切り込み役の郷谷三曹。隊列が崩れた所を狙い撃ちにする阿間田三曹。黒子に徹して二人を支援するヴィヴィ三曹って感じでさあ。
だからつい、『これはこれで纏まったチーム』だと思っちゃったんだよ。
畜生、やっぱり大佐と艦長の言ってた通りか。後で謝っとかんといかんなあ。

「こら〜! その突っ込み癖は直しなさいって何時も言ってるでしょう!
 嗚呼、とか言ってる間にライトニングボルトの予備動作が!
 ヴィヴィはキリコのフォローに。シンゴ、ロサ・フェティダを射線に割り込ませて!」

「またですか。ったく、ドッチも折角の技能を無駄遣いしやがって」

「愚痴は言わない! 後でチャンとシメてやるから、今は我慢して!」

「了解」

   ドギュ〜〜ン!

かくて、春待三尉の制御のもと、前面を厚くしたDFによってBチームの盾となるロダ・フェティダ。
それと同時に赤木士長が弾幕を張り、その隙に緊急離脱。
そんな事が、既に二桁を越える回数繰り返されている。
その内、一度として射線上に居るのが『一台だけじゃ無い』のだからタチが悪い。
実は、保身の為に意図的にやってるんじゃないかと勘繰りたくなるくらい見事な連携(?)を見せる三人組だった。

   ガシュン、ガシュン

とか何とか言ってる間にタイムアップ。
落下時の衝撃でぬかるんだ場所から緊急発進し、射撃に有利なポイントを確保した弾丸ライナーが発射モードへと移行し始めた。
凄いな。つい先程マニュアルを渡したのばかりだというのに、彼はもう操作法を覚えたのか。
いいなあ若いってのは、物憶えが良くって。
仕方ない。今回は諦め………

  キュイン
          バキッ!

ようとした時、ラミエルのライトニングプラズマがYF11の一機を捉えた。
尾翼を失い、黒煙を上げるハーレイ二曹の機体。そして、

『悪い。後、頼むわ』

そう言い残し、彼は愛機と共にラミエルへと特攻。
レーザー砲発射器官の一つを巻き込んで爆炎と化した。

『リック〜〜〜!』

絶叫する浅利三曹。その悲痛な叫び声に心が痛む。

「提督、顔が笑っていますわよ」

そう言わんでくれ、カヲリ君。
いや。喜んでいるのは良い画が撮れたからであって、心は痛んでいるんだよ、本当に。
そりゃあ、この瞬間を演出したのも俺なんだけどさあ。

『泣くな馬鹿者!』

涙する浅利三曹を、大豪寺が一喝。
うんうん。他は兎も角、こういうケースなら期待出来る人材。生放送でも問題あるまい。
二画面表示で二人のバストショットを映しつつ、そのやりとりをそのまま流す。

『漢と生まれたからには、『カッコ良く生きるか? カッコ良く死ぬか?』の二つに一つ。
 そして、アイツは後者を選んだだけの事だ。哀しむべき事なんて何も無い!』

『じゃあ、なんで大豪寺さんは泣いてるんですか』

『俺は泣いてなどいない!』

と、漢泣きに滂沱の涙流しつつ、そう言い切る大豪寺。
いや流石。この所、葛城ミサトに御株を奪われぱなっしな感じだったが、こうして比べてみれば、やはり格が違う。
改めて確信したぞ。この手の我侭を言わせたら、やはりお前がNO1だ。(笑)

『弾丸ライナー、(グスッ)発射シーケンス完了!』

意を決し、浅利三曹は再び操縦桿を握った。
この間、完全な二人芝居。他の所は一切映さないのが味噌だ。
いやだって、目的はもう果したもんだから、トライデント中隊の他の子達は既に撤収準備に入ってるし、
ブリッジクルーに至っては、御剣君以外は全員、目の前の茶番に白けきってるんだもん。

『外すなよ。アイツがその身と引き換えに作ったチャンスだ』

『はい!』

溢れる涙を振り払いつつそう叫んだ後、浅利三曹は、必殺の気合を込め引き金を引いた。

   ブィ〜〜〜ン!

狙い違わず、両手でDFSの小太刀を掲げた超音速の弾丸機動兵器は、YF11の墜落跡へ。
レーザーが発射出来なくなったその部分を貫き、そのままラミエルのドテッ腹に風穴を開けた。

『弾丸鷹嘴撃!』

次の瞬間、おそらくは発射の瞬間に叫んだのであろう技名が、ドップラー効果で響き渡る。
そして、どこまでも………レーダーの範囲内からも飛び出してゆくダーク・カンガー。

「って、チョッと待て。どこまで行くつもりなんだよ、お前。
 まだ、ラストの決めポーズが残ってるだろうが」

と、ヤツが飛びつきそうな話を振って呼び止めてみたが返事が無い。
妙だな。本来ならあり得ない事だ。

『提督。なんかガイの奴、気絶しているみたいです』

俺の疑問に答える様に、そう報告を入れてくる御剣君。
って、それこそあり得ない………いや、彼等ならやるかも知れん。
取り急ぎ、コミニュケで開発責任者達に確認をとる。

   ピコン

「班長、時田博士、これは一体どうなっているんだ?」

『いや、『どうなっている』って聞かれてもよ〜
 なあ時田さん、お前、なんか心当たりがあるか?』

『私にも皆目見当がつきません。
 おかしいですね。加速時の圧力も、本来は20Gの所を、安全策を取って15Gに抑えたんですが………』

15Gってアンタ。幾らなんでも、そりゃ無茶だろ。
某フライトゲームなんて、加速が10Gを越えた時点で即死判定が下るレベルだって言うのに。

「………アレの仕様書には、そんな事書いてなかった筈なんだが?」

ジト目でそう尋ねる俺。だが、二人はまったく堪える事無く、

『そう言えば、書き忘れていた様な気もするような?
 いや、なんせアレは久々のヒット作なもんで、製作にはつい力が入ったからな〜
 そういう、ど〜でも良い所までは手が回らなかったかもしれん』

『ええ。それに、まさかあの程度の事で気絶するなんて思ってませんでしたし………意外と華奢だったんですね、あの人』

こ…コイツ等は。

『ダーク・ガンガー、大気圏を突破。それと同時に、第三宇宙速度に』

  キラッ

と、俺が呆れている間に、大豪寺は夜空のお星様となった。
(フッ)事此処に至った以上、やるべき事は一つだな。
モニター越しではあるが、使命を終えた勇者に向かって、最後の挨拶を送るとしよう。

「さらば。さらば、誇り高き戦士よ。君の事は忘れないよ」

『って、遠い目をして何を言ってるんですか提督! 早く迎えを出して下さい!』

ちっ、誤魔化されてはくれなかったか。
アマノ君は無理としても、御剣君ならこれでイケると思ったのに。
………まあ良いか、もう暫くヤマダがパイロットでも。
実際、今回はアイツでなければ、こう上手くはいかなかっただろうし。

「あ〜、カヲリ君。そんな訳で、帰りがけにでもアレを拾ってきてくれ」

「(クスッ)了解ですわ」

   シュッ

『シベティ、シベティ、シンダラ、バシニ、ソワカ』

おや? 今回はジャンプとほぼ同時か。
結構、結構。今回は、随分と物分りの良いタイプらしい。
もっとも、単に前回が酷すぎただけとも言えるんだけど。

とまあ、そんな事をつらつら考えつつ、俺はエンディングの準備を始めた。



   〜 一時間後 転生の間 〜

そんなこんなで、今回は恙無く事が進み、テンプレートな形で放送は終了。
今回の侵略活動は、殉職者を悼んで自粛ということになった。
実を言うと、こうした口実を作るのも狙いの一つだったりする。
そう。何度も言う様だが、悪の秘密結社は舐められたら御終い。
間違っても、『パラレルワールドとはいえ過去の世界。未来への影響を考えれば、極力死人は出したくない』という裏面の事情を知られる訳にはいかないのだ。

これに対応する為、本来ならば、使徒戦の後にはもう一つの戦いが。
毎回、交渉という名のオチョクリが入る筈だった。
だが、その担当者であるエリナ女史が、活発になってきた明日香の暗躍への対応に忙しくて、降板せざるを得なくなってしまったのだ。

そんな訳で、現在、後腐れの無い侵略活動を鋭意模索中ではあるが、正直、どれも今一つパッとしない。
だからと言って、まさか何もしない訳にもいかない。いや、困ったもんである。
まあ良い。サイトウの仕事も一段落したことだし、本気でネタに詰ったら、ナオに怪人のコスチュームを着せて、幼稚園のバスジャックでもやらせる事にしよう。

「さあ、目覚めるが良い。神に祝福されし、天使の魂を受け継ぎし子よ!」

儀式の準備を終えると同時に、胸中の難題を棚上げすると、俺は徐にフラスコを指差した。
それに合わせ、カヲリ君が使徒の魂を解放つ。
彼女の手から飛び立った赤い光玉が、綾波レイのスペアボディに吸い込まれると同時に、中のLCLがゴボゴボと音を立て、次いでフラスコ内部が激しく発光。
そして、その輝きが収まった時、

「とう!(ガチャ〜ン)」

巨大フラスコを内部から粉砕し、長い黒髪を無造作にポニーテールに纏めた小柄な少女が、飛散するガラス片と共に、俺達の前に頭からダイブ。

「私の名前は雷鳴ラシィです! 就職希望で、職種は肉体労働系を志望です!」

そのまま前回り受身の要領で立ち上がると、彼女は元気良く自己紹介を決めてくれた。

「そうか。それじゃあそのフラスコの修繕費は、君の初任給から天引きって事で良いかな?」

取り敢えず、冗談めかしてそう言ってみる。
なんと言うか、兎に角、今の良くない流れを止めるのが先決だ。
だが彼女は、俺の必死な思いに頓着する事無く、

「判りました! 36回ローンでお願いします!」

「いやその。そういう風に真面目に受け取られても困るって言うか………
 元気が良いのは結構なんだが、もう少し肩の力を抜いた方が良くないかね?」

「大丈夫です! 私、こう見えても体力には自身があるんですよ。
 見て下さいコレ。綺麗に砕けているでしょう?」

って、その一言を言う為に叩き割ったんかい!
ああもう、素体になっているのが、全使徒中最も特化された身体(?)のラミエルだから、一点豪華主義な性格になるだろうとは思っていたが、ここまで酷かったなんて。
これじゃあ、少女版ヤマダじゃないか!

「なあ。ひょっとして、彼女達に渡している俗世の情報って、毎回、酷く偏っているんじゃないかい?」

「あら、心外ですわね。この私が、そんな事をする筈がありませんでしょう。
 仮にその気になったとしても、各々の性格に合わせて情報を再構築するなんて手間暇の掛かる悪戯、きっと途中で挫折していますわよ。
 程好く意地悪なジョークは、提督の専売特許ってことね」

俺の愚痴に、すまし顔でそう答えるカヲリ君。
最近、どこか某同盟の娘達に似てきている彼女だった。
これは、女性として成長してきたと言うべきなんだろうか? それとも悪習に染まったと言うべきか? 正直、悩む所である。
いずれにせよ、今はこの空回り系な少女を何とかする事の方が先決だ。
現実逃避は、この辺にしておこう。

「さて。それじゃあ、就職説明会の方へ行くとしようか」

「はい! 宜しく御願いします!」

取り敢えず、彼女はヤマダに接触させてはならない。
そして、絶対にゲキガンガー3を見せてはいけない。
そう胸に堅く誓いつつ、俺はラシィ君を促し、誕生パーティの会場へと向かった。

(ハア〜)どうにかして、前回のアレと、足して二で割れないもんだろうか? 



   〜 20分後 日々平穏、ロサ・カニーナ支店 〜

「………という訳で、彼女は熱烈に就職を希望している。だが、だからと言って、整備班にはやらん!」

「何故だ〜! 横暴だ! 職件乱用だ!」

「畜生! 鬼かアンタは!」

「提督、俺は貴方を見損ないました!」

俺の前口上に、某組織によるブーイングの嵐となるパーティ会場。
だが、これだけは……これだけは言っておかねばならない。
だって、そうだろう。相手は、見た目は13〜14歳位の少女なんだぜ。
そりゃあ、チョッと特殊能力を持っていて強いから、降りかかる火の粉は払えるだろうけど、
あの某組織の中核である整備班の中に放り込むなんて、出来る筈がないだろ?
これはもう、人としての倫理の問題だ。
正直な話、俺的視点から見れば、レイナ君だってかなり危ない。
彼女がもし18歳以下だったなら、有無を言わさず辞めさせている所だ。

「シャ〜ラップ! 
 まだ自我がまだ未発達な少女を、お前等なんかに任せられる訳が無いだろうが!
 胸に手を当ててよく考えろ。そして、想像(イマジン)するんだ。
 お前等、これまでの使徒娘達に何をした? 新人の娘に何をするつもりだった?
 そして、もしも彼女達の一人がグレたりしたらどうなると思う?
 もう判るな? そう。文字通りの意味で、殺戮の天使が誕生する事になるんだぞ!」

あらん限りの気合を込め、必死の熱弁を振るう。
その熱意が伝わったのか、沈静化してゆく某組織の面々のブーイング。
どうやら、流石に思い当たる節があったらしい。

転生したばかりのカヲリ君に、ネコ耳モードを強要しての撮影会。
アニタ君を模したフィギアの無断作成。
万年寝太郎娘が包まっていた寝袋の所有権を賭けてのジャンケン大会。
エトセトラ、エトセトラ………

嗚呼、瞳を閉じれば、走馬灯の如く鮮明に思い出される過去の悪行の数々よ。
ともあれ、一応は納得してくれた様で重畳だ。
まあ、しなかったとしても、某同盟の力を借りてでも強制的にさせるだけなんだけどね。

「それでは紹介しよう。彼女が俺達の新しい仲間だ」

   ピラリ

「初めまして、雷鳴ラシィです!
 年齢制限に引っかかるそうなので、皆さんの職場には就職出来ませんが、どうか宜しくお願いします!」

垂れ幕が払われると同時に、事前に俺が言い含めておいた、労働基準法を意識しての建前の理由を口にしつつ、元気一杯挨拶するラシィ君。
ピョコピョコと揺れるポニーが、尻尾を振る子犬を連想させる、なんともほのぼのした仕草である。
これに対し、某組織が御約束の歓声を上げる。

「おおっ、ロリ系の元気っ娘か!  それも、ミルクちゃんとはまた別の。そう、ゴスロリの似合うあの娘とは対極の動物的な……ケモノ耳が似合うタイプだ!」

だが、そこから先が若干違った。
そう。彼女は、カスミ君とは別の意味で、物事をハッキリと語る娘だった。

「違います! 私の設定年齢は17歳で、ロリーじゃありません!
 コンパクト&ハイパワーなのがセールスポイント! ちっちゃいってことは便利なんです!」

また、そのリアクションに気を良くして、更に調子に乗ったヤツ等が、

「否! 断じて否! 彼女はブルマ、これで決まりだ!」

「いや、ブルマ駄目だ。
 アレは巨乳! 動く度に揺れる胸が無いと似合わない」

と、更に不躾な事を口にしても、

「何を言ってるんです! 胸なんて只の飾りです! エロい人には、それが判らないんです!」

と、自ら同レベルなツッコミまで入れてしまう、別の意味でも整備班に入れなくて正解な資質を持った娘だった。
かくて、10年来の友人の様な調子で盛り上がるラシィ君達。
それを横目で見詰めながら、我知らず溜息を漏らす。

かくて、雷の如く無駄にエネルギッシュな娘、雷鳴ラシィ君の人生が幕を開けた訳なんだが………
さて、就職先はどこにしたもんかねえ?



   〜 同時刻 第五使徒戦跡地 〜

ロサ・カニーナが、雷鳴ラシィの誕生パーティにて盛り上がっていたその頃、

   キキキ〜〜〜ッ

「(チッ)此処までか。なら、後は自力で行くだけよ!」

蒼ざめた顔をしたリツコが、月明かりだけが頼りの山道へと、自らの足で走り出していた。
使徒戦の終結と同時に指揮車を現場へ向かわせ、途中、車での進入が不可能となったが故の疾走である。
無論、初号機と零号機が中破程度で済んだ事は、モニターで確認していた。
発令所からの報告で、パイロット達の生命活動に異常が無い事も判っていた。
だが、それでも走らずには居られなかった。
もっとも彼女らしからぬ、ロジックでない感情故に。
とはいえ、現実問題として、運動らしい運動などした事の無い女性が、真夜中の山道を走れるのか?

  キャ〜〜ッ!(ゴロゴロゴロ………ドサッ)

答えは、やはりノーだった。
かくて彼女は、山道を派手に転倒して気絶。
数時間後、ミサト達を迎えに来た救護班によって救助された。

本来それを使用する筈だった人物の変わりに、看護士達の担いだタンカに乗せられるリツコ。
それに付き添いながら、『ゴメン。こんな時、どんな顔をしたら良いか判らないの』と複雑な顔で宣う親友に、
『笑えばいいでしょ』と、不貞腐れ気味に答える彼女だった。



その翌日。リツコは、冬月の命令で半強制的に検査入院させられ、病院のベットの上で無聊を囲っていた。
やらなければならない事は無数にあり、それを放り出してきただけに、その後の技術部の惨状に思いを馳せ、どんどん欝になる。
そして、そんな彼女に追い討ちをかける様に、午後の面会時間には、彼女の親友が見舞いに来訪。
場所こそ違えど、何時も通りの騒がしい空気と共に、予想通りのネガティブな近況を語ってくれた。

「つ〜わけで、泣いてたわよマヤちゃん。
 あの新人の………えっと、メガネの娘。
 彼女もクールな外見をしてる癖に、『こんな所、辞めてやる!』とか騒いで大変だったんだから」

「あのねえ、彼女はマヤの同期。
 それも、メルキオールの主任オペレーターで、万一の際には、発令所の補充要員となる人材よ。
 仮にも作戦部長の貴女が、名前も覚えていないというのは拙いでしょ」

それに適当な相槌を打ちつつ、僅かながら安堵するリツコ。
そう。怖いのは、不測の事象が起こる事であり、ミサトの話では、総てが想定の範囲内。
ならば、リカバーする方法は無数にある。
その手の技能には、彼女は絶対の自信を持っていた。

「それで、今回の敗戦についてのお咎めはどうなったの?」

かくて、一通り話を聞き終えた後、リツコは一番肝心な部分について尋ねた。

「ナニそれ?」

不思議そうににそう聞き返すミサト。
あっけらかんとしたその笑顔に絶句する。
まあ、何時も通りの馬鹿話が出来るくらいだから大した事はなかったのだろうとは思っていたのだが………
なんとなく、昔見た映画『遠すぎた橋 〜マーケット・ガーデン作戦〜』の内容を思い出す。

そう言えば、あれのモデルになった無謀極まりない作戦を決行したモントゴメリー大将も、結局、何の責任も取らなかったわね。
と、胸中で呟きつつ嘆息するリツコだった。

「ああ大丈夫! 戦自との仲は拗れてないから。
 制御装置の幾つかがチョっちイッちゃっただけで、ちゃんと陽電子砲も返却出来たしね。
 いやアン時は、逃げる為にチョッとでも身を軽くしようとして捨ててちゃったんだけど、それで正解だったわ。
 それに、途中で日向君が逃げた事にも怒っていなかったっていうか、寧ろ、彼の不幸な事故に同情さえしてくれていたし」

浮かない顔のリツコに、十八番の曲解をして、勢い込んでそんな事を宣うミサト。
何時も通りのその姿に呆れつつも、リツコは、一部聞き捨てならない情報について尋ねた。

「不幸な事故? 彼に何かあったの?」

「いや、それがね。  向こうの整備班の所から上手く逃げ出した所までは、チョっち意外って言うか、まあ良かったんだけど、
 ウチに帰ってくる途中で、潜入していたテロリストと、例の北斗君の遠縁の娘との戦闘に巻き込まれちゃったらしくて………
 その。別に大怪我とかした訳じゃないんだけど、その時のショックで脱出した前後の記憶が曖昧になってて、
 無理に思い出そうとすると、こんな感じに手が震えるのよ、プルプルって」

と言いつつ、リツコの前で両手を小刻みに振って見せるミサト。

「いや〜、よっぽど怖い目にあったんでしょうね。
 おまけに彼、軍人にしては線が細いっていうか、実戦向きな人間じゃないし」

そりゃあ、貴女に比べれば誰だって。
ウンウンと頷きつつ、そんな事をもっともらしく宣うミサトに、胸中でそう毒づく。
と同時に、そんな彼女に好意を持っている風なマコトに、二重の意味で同情する。
とは言え、総ては他人事に過ぎない。
そう割り切ると、ミサトが退室した後、リツコは総てを忘れて昼下がりの惰眠を堪能した。
彼女にとっては、一秒分の砂粒が、同じ重さの砂金よりも価値を持つ一時だった。



   〜 午後4時 マーベリック社、第二応接室 〜

「まったく、貴女は何を考えているのよ!」

第五使徒戦から一夜明けての放課後。
カヲリは、ラナをマーベリック社に呼び出し、彼女にしては珍しく、声を荒げての御説教をしていた。

「確かに、あの狭い通路内で、襲ってきた60名中55名を無傷で捕獲したのは賞賛に値しますわ。
 残りの五名も、トリガーと一緒に人差し指を切断されただけ。前提条件を考えれば、及第点と言って良いでしょう。
 でも何故? よりによって、通りすがりの日向さんの両腕を切り飛ばしたんですの、貴女は?
 幸い、命に別状が無かったから良い様なもの………」

その内容は、昨日の戦闘の事だった。
そう。数字的に見るならば、ラナは、北斗の依頼を完璧に果したと言って良い。
だが、その中の一人。唯一の重傷患者が、エヴァワールドの準レギュラーで、ミサトの御守役の一端を担う重要人物だったのだ。
カヲリにしてみれば、小言の一つも言いたくなるのも無理からぬ事だろう。

「切断面が比較的綺麗で、執刀医がイネス博士だったからこそ、あの短時間でも完璧な縫合が出来ましたけれど、
 そうでなければどうなっていたことか………って、聞いてるんですの、ラナ!?」

「だって〜、出会い頭だったから〜、加減が上手くいかなかったの〜」

半分眠りながらも、己の能力の特性を盾に抗弁するラナ。

「それに〜、縛る感じって〜、髪の毛が沢山いるし〜 ハゲるの嫌だし〜」

「それは判りますわ。でも、だからと言って………」

既に御気付きの方も多い事だろうが、念の為に説明させて頂こう。
日暮ラナの能力は、己の髪を光の鞭へと変える事。
ぶっちゃけて言えば、彼女の頭髪は、一本一本が20m以上伸び、嘗ての武器と同種の働きをするのである。
そして、0089号が彼女を指して『羽虫でも見るかの様に感情の籠もらぬ目』と評したのも無理からぬこと。
実際、彼女は他人に頓着しない。彼の存在など、その程度の認識なのだ。
あのまま死んでいたとしても………否、北斗の命令が無ければ、隣りでクラスメイトが惨殺されたとしても気にしない。
彼女が自発的に誰かを守ろうとするとしたら、それは、自分のエサ係であるケンスケの危機。
それも、死亡する危険性が出た時くらいのものだろう。

そう。彼女自身、理解しているのだ。
自分の性格と能力が、現代社会に適応しない、極めて異端なものであるという事を。

「起きなさいラナ! まだ話は終っていなくってよ!」

「(スゥ〜、スゥ〜)」

だから、彼女は今日も眠り続ける。平和の素晴らしさを噛締めながら。



その頃、その丁度真上の階にある第一応接室では、

「君は、これをどう思うかね?」

会長であるグラシス=ファー=ハーテッドが、来客の前で、先の使徒戦のダイジェスト版を上映していた。
ちなみに、これは彼自身が鋭意製作したもの。所謂、60の手習いで覚えた技能によって、ある一つの方向性を持って編集されたものである。

「これに、碇君が乗ってるんですよね」

生唾を飲み込みつつ確認するマユミ。
その瞳の先には、献身的に、文字通り我が身を盾として、必死に初号機を守る零号機の姿が映っていた。
正直言って、打ちのめされる思いだった。
ある一つの理由によってシンジを毛嫌いしていた彼女だったが、目の前の映像は、凝り固まったその評価を打ち砕くだけのインパクトを持っていた。
認めたくはないが格好良かった。まるで、少女漫画に出てくる王子様の様に。そして、

「葛城さんを守る為に。(ニヤリ)」

ヒロインがお姉さまでさえなければ、彼は好意に値する男の子だった。

「そういう事じゃよ。
 まあ、『少年は年上の女性に憧れるもの』と、言った所かのう。(ニヤリ)」

良く似た邪悪な笑顔で微笑みあう二人。もう、言葉は要らなかった。
かくて、社員各々が己の趣味に邁進し、今日の味方が明日の敵となる事さえ珍しくないこのマーベリック社にあって、
全使徒戦終了後まで破られなかった唯一の同盟が此処に成立した。



   〜 午後6時 ダークネス秘密基地、トライデント中隊用宿舎 〜

自室にて、浅利ケイタは、一人静かだった。
目の前には、所狭しと並べられた戦闘機のプラモデル。
だが、これは彼の趣味という訳では無い。
同室の。戦死したリック………リブロック=ハーレイ三尉(二階級特進)の私物だった。
女性隊員が個室で男性隊員が相部屋。その事自体に文句は無い。
此処の風潮を考えれば当然だとさえ思う。
それでも、自分が入院している間に、ベッド以外の場所が総て占有されていたのには閉口したのを昨日の事の様に思い出す。

『つ〜ワケで、右から、ジェニファーちゃん、リンダちゃん、マゼンダちゃん、レッドバロン………』

『いや、そんな紹介をされても困るんだけど。
 とゆ〜か、なんで真ん中の赤い複葉機だけ男名なの?』

『知らないのか? これが、かの有名な『赤は三倍』の元祖なんだぜ』

馬鹿丸出しだと思っていた日々の会話。それが酷く懐かしい。
枯れた筈の涙が、再び零れ出す程に。

   コン、コン、

「お〜いケイタ。そろそろ時間だぞ」

「判った、すぐ行く」

取り急ぎ涙を拭いて、声を掛けてきたムサシの後を追う。
そう。この悲しみは、最後ではなく最初に過ぎない。
自分達は兵士。明日は、目の前の親友が………そして、自分が死ぬかの知れないのだ。
だからこそ、今日を大切に生きよう。胸中でそう誓うケイタだった。

「それでは紹介しよう。彼が俺達の新しい仲間だ」

   ピラッ

かくて、新たな決意を胸に、補充隊員の歓迎会会場たる日々平穏ロサ・カニーナ支店に到着したケイタだったが、
オオサキ提督の司会で紹介されたその人物を前に、そんなものは吹き飛んでしまった。

「初めまして、リチャード=ハーレイです。戦闘機をこよなく愛すナイスガイで………」

「誰がだ〜!」

新入隊員(?)の挨拶を遮り、その首根っこを引っ掴んで詰問するケイタ。
そう。その正体は、死んだ筈のリックだったのである。

「(プッ)」

「(クスクス)」

「ギャハハハハッ」

その姿に、思わず失笑する他の隊員達。
事此処に至り、ケイタは自分が嵌められた事を悟った。

さて。もはや不要とは思うが、此処で少々補足説明をさせて貰おう。
作戦名『イッパツマン』。
この名の由来は、タイムボカンシリーズの一つ、『逆転イッパツマン』の主人公、豪速九が、
シリーズの前半までは、サイキックウエーブによって、ヒーロたるイッパツマンのアンドロイドを操っていた事にちなんで付けられたものである。
その目的はズバリ、件の作品同様、視聴者をミスリードすること。
第30話『シリーズ初!悪が勝つ』において、隠玉四郎の撃ったダイヤモンド弾丸によってイッパツマンが爆発。
それまでの話数で、ヒロインの放夢ランの視点から、いかにも豪=イッパツマンである様に印象付けていた事と合わせ、
彼が死んだのだと錯覚させたストーリを演じる事にある。

具体的に言えば、無人機に改装された専用機を、ハーリー君がシステム掌握によって統括し、各々のパイロットが遠隔操作。
いずれは全機が爆発し、隊員達は全員、死んだフリして社会復帰する予定という寸法なのだ。

そして、これを実行するには、見る者に疑問の余地を与えぬインパクトある映像が必須となる。
そこで、視聴者の分身役として。イッパツマンで言えば放夢ラン役に選ばれたのが、彼、浅利ケイタという訳なのだ。

なお、第四使徒戦においてボナパルト大佐がYF10の使用を主張した理由は、あれはタイミングが命の策だった為である。
また、これは全くの蛇足であるが、シリーズ後半のイッパツマンの正体は、超硬質フォームラバー製のイッパツマンスーツを着込み生身で参戦した豪であり、
もう一人の超能力者、星ハルカのサポートによって、それまで以上に超人的な能力を発揮するという形になるのだが、本作戦において、それに類する事は計画されていない。

「つ〜わけで、今後、俺の名前は、リブロック=ハーレイ改めリチャード=ハーレイ。
 まあ、これまで通り、リックって呼んでくれや。
 んでもって、『生き別れの双子の弟で孤児院マクスウェル出身の苦学生。将来の夢はパイロットで、某アクロバットチームの監督さんにコネがある』
 って、設定で社会復帰する事になってたんだが………このまま俺が抜けると、戦闘機小隊の陣容が薄くなっちまうだろ?
 そんな訳で、もう暫くの間、ヒカルのスタント役として参戦するんで宜しくな」

かくて、新生トライデント中隊のメンバーが、今、此処に勢揃いした。

「畜生! こんな所、もう辞めてやる〜!」

出来もしない事を口走る、ちょっぴり情緒不安定なケイタだった。




『次回予告』

迫り来る使徒に対し、抵抗を試みる人々はネルフだけでは無かった。
だが、その民間の開発した巨大人型兵器は公使運転中に制御不能に陥る予定だった。
機動を始めたジェットアローンへと向かうロサ・カニーナ。
はたして辻褄合わせは出来るのか?

次回「人の造りし物の後始末」

かつてこの星には、キノコ頭の悪魔が蠢いていた。




あとがき

こちらが実質的後編にあたる第六話です。
漸く、作戦名『ヤットデタマン』と作戦名『イッパツマン』の全貌を明らかにする事が出来て、正直ホッとしております。
そして、真に申し訳ありませんが、此方の方でも幾つか言い訳をさて下さいませ。

>『ラクスさま、ああラクスさま、ラクスさま 争いを呼ぶ、無慈悲な女神』

すみません。またアンチSEEDネタを使ってしまいました。
ですが、私、本当にかの作品のファンです。
実の所、
【ザフトサイド】
野望に燃える若き指導者、ギルバート=デュランダル議長。(当然、主人公)
その議長に取り入り、(本当にあるのかどうかは怪しいが)理想を実現すべく奮戦するラクス=クライン。(勿論メインヒロイン)
奇跡的に生き残ったものの植物状態となってしまったアイシャの治療費を稼ぐ為、今日もラクスの我儘に振り回される役を甘んじて務める、アンドリュー=バルトフェルド。
面倒臭い役所を総て押し付けられながらも、愛する歌を心の支えに健気に頑張る、ラクスの影武者ミーア=キャンベル。(裏ヒロイン)
訓練学校時代に徹底的に己を鍛え、原典の三倍は強くなったが、その代償に脳内に自分だけの妹が出来てしまた、新エースパイロット、シン=アスカ。
そのシンの御守役に任命されながらも、原典以上に好き勝手に生きるSEEDのトリックスター、アスラン=ザラ。
毎回イの一番に撃墜されるが何事も無かったかの様に生還する、西川君………じゃなくてハイネ=ヴェステンフルス。
些細な事からハイネに弱みを握られており、毎回、父親のコネでグフを調達。そのストレスを敵にぶつける困っちゃんな、レイ=ザ=バレル。
そんな四人の濃さに押され、只の背景キャラと化す、ホーク姉妹。
まったく命令を聞こうとしないモビルスーツ部隊に日々頭を悩ませるミネルバの艦長、タリア=グラディス。
前大戦以後、退職金でミリアリアと共に中華料理屋(当然、焼飯専門店)を開いていたが、
戦友の窮状を知り、悩んだ末に契約金と店の権利書を残して再び戦場へと戻ってゆく漢、ディアッカ=エルスマン。
そんな戦友の心意気に応えるべく、今日も必死にミネルバの尻拭いに奔走する、若き隊長、イザーク=ジュール。

【地球軍サイド】
キラの反対を押し切ってユウナと結婚。当然、カカア天下となるカガリ=ユラ=アスハ。
そんなカガリの尻に敷かれながらも、漢として鍛えられ、持ち前の調子の良さも相俟って、徐々に領主の風格を身に付けてゆく、ユウナ=ロマ=セイラン。
総ての悪巧みが空回りし、悪い所ばかりがクローズアップされ、ついにはユウナにまで見下されるところまで堕ちる、ロード=ジブリール。
「雨にも負けず、風にも負けず、福○嫁の気紛れにも負けずに幾星霜。オーブよ、私達は帰ってきた!」
と叫びつつ、オーブ軍の新エースとしてドムに乗って参戦を果す、アサギ、マユラ、ジュリの三人娘。

【民間人サイド】
嘗ての常連客のコネで報道カメラマンとなり、知り合いには『ディアッカ? フッてやったわよあんなヤツ』と言いつつ、
折に触れ、おいていかれてしまった夜の事を思い出し、一人涙するツンデレな、ミリアリア=ハウ。
貧乏しながらも、三人仲良く逞しく生きていたが、ある日、いきなり兵役に駆り出されるオクレ兄さん。
小さな焼肉店を必死に守りつつその帰りを待つ、アウル=ニーダとステラ=ルーシェ。
ラクスに捨てられはしたものの、憑き物が落ちたかの様に物語の中盤までは平和な生活を送るキラ=ヤマトとその他脇役の皆さん。

だが、ついに議長と袂を分つ事を決意したラクスより、彼の元にスーパーフ○ーダム
(ストライクの間違いにあらず。その性能も、差し替えられる以前の暴虐なもの)が届けれ、アークエンジェルが再発進する事に。

という作品を、書こうとしたものの実力不足で挫折したくらい愛しています。

>なんと、ついに死亡者が出ます!

すみません。私の技量不足ゆえ、少々判り難かったですね。0089号の事です。
つまり、今後の彼は100%、『良いんですよ、貴女となら』の日向マコトとなります。

>、『エス○ガルーダ』や『怒○領蜂 大往生』といった、あまり人間がやるもんじゃない

すみません。実は私、件のゲームをやった事がありません。
でも、ゼビ○スとかスターソ○ジャーとかRータ○プとかダ○イアスとかサ○ダーフォースとかを例に上げても、
現在では、もう何の事かさえ判らない可能性が高いと思い、此方を使わせて頂きました。
ううっ。既に私は、シューティングゲームなんてとても出来ない身体。歳は取りたくないものです。

>ある意味、シンジの更正と同時に彼女自身も更正しつつあるのかな、と読んでて思いました。

すみません代理人様。そこまでは考えていませんでした。
単に、厳しく躾ける様にオオサキ提督から依頼されているので、それらしく振る舞わせただけなんです。
そんな訳で、泥縄な話で申し訳ありませんが、無い知恵を絞り一寸それらしいエピローグを考えてみようと思っております。

それでは、再びお目にかかれる日が来る事を祈りつつ。




【アキトの平行世界漫遊記B】



感想代理人プロフィール

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代理人の感想

なるほどなるほど。でもその方が幸せだよなぁ(笑)。>マコト

 

>だが、それでも敢えて言わせて頂こう。
>成功率11.3%を『確実』と言い切れるのは、後にも先にも葛城ミサト唯一人だと。

不覚にも失笑。

そーだよなぁ、ガガガですら「確実」なんてことは言わなかったしw

ところで、なんで大河の上官が獅子王なんでしょ?