時は正に神話の時代。
女性だけの種族セイレーンが、月世界にある聖地シルバーミレニアムにて栄華を誇っていた頃の事。
その王宮にて、女王クイーンセレニティが、異界からの客人を相手に午後のお茶会を楽しんでいた。

「………という訳で、行く先々で、彼女達の親御さんの反感を買っちゃて。
　ホント。あの時は、ある意味、その後の最終決戦よりも大変でした」

「ホホホホッ。また、アキトさんたら冗談ばかり。
　確かに、親とは子の事を第一に考えるもの。とは言え、いくらなんでも、そこまで短絡的な筈がありませんわよ」

さて。暫くこの地から離れていた読者諸氏の為に、此処までの状況を掻い摘んで説明させて頂こう。
あの後、侵入者としてお尋ね者となってしまったテンカワ氏だったが、
その後すぐに、とある一件で、月の都の女王たる、クイーン・セレニティ殿の信頼を勝ち得え、
現在では、客人として王宮に招かれているのである。
まあ、この辺はもうテンプレートな展開ゆえ、敢えて詳細を語るまでもないだろう。
だが、一つだけ特筆すべき点が。
実は、此処シルバームレニアムでは、彼に恋心を抱く女性が一人も居なかったのだよ。

おや？　『前回も同じだろう』と思っている方達が居るようだね。
残念だが、それは『甘い』と言わざるを得ない解釈だよ。

ちょっと想像してみてくれたまえ。
ボソンジャンプが可能なテンカワ氏が、何故わざわざ人里離れた地でキャンプを張る事になったかを。

えっ、『神の目の側で生活した方が作業効率が良いから』だって？
だとしても、眠る時は、やわらかなベットの方が良くは無いかね？
補足するならば、アフラ大神官がシェラー大神官の求めに毎回応じた理由もまたコレなのだよ。
まあ、結果は告白すら出来なかった訳なのだが………

おっと、少々脱線が過ぎた様だね。
話の焦点を、現在のテンカワ氏に戻すとしよう。

まず、クィーンセレニティ殿。
彼女については、当然の結果だろう。
何しろ、彼女は一児の母であり、テンカワ氏の４０倍以上の年齢なのだから。
おまけに、鷹揚かつ真面目な性格な故、テンカワ氏の語る話の内容がとても信じられず、
結果、少々やんちゃな男の子として認識して、最初から異性として見ていないのだ。

そして、その脇を固めるセーラー戦士達。
彼女達は、テンカワ氏の話を真摯に受け止めていたが、それでも、彼に心を動かされる事は無かった。
そう。彼女達は、聖地シルバーミレニアムの守護神。女性である前に、一人の戦士だった。

「おろろ〜、それはまた酷い話でござるな」

「ああ。到底、判り合えそうに無い。悲しい事だね」

「綺麗な薔薇には棘があるものさ。
　あの蒼く輝く星もまた、例外では無いという所かな」

「だから何時も言っているのだ。
　平和維持の為には、もっと軍備に力を入れるべきだと」

まあ、ソレとは別に、

セーラーマーズが、るろうに剣心の緋村剣心氏。
セーラーマーキュリーが、封神演義の普賢真人氏。
セーラージュピターが、幽々白書の南野秀一こと妖狐蔵馬氏。
セーラーヴィーナスが、メルティランサーシリーズのメルビナ＝マクガーレン嬢。

に、各々ソックリと、スーパー緒○恵美大戦の様な陣容だった所為なのかの知れないが。

いや、現実問題として、これは正しい人選なのだろう。
全員が、冷静かつ聡明な指揮官であると同時に、戦士としての実力をも兼備。頼りがいのあるのは確かな事なのだから。
そういう意味では、数千年後の地球で広く知られている、彼女達の後輩にあたるセーラー戦士達の方が特異な存在と言えよう。

まあ、それはそれとして。これにより数年後、

本来ならば実現しない筈だった、地球との国交が開かれる事になった。

これは、決してテンカワ氏と無関係ではない。
人間のメンタリティとして、未知の事象には恐怖が生まれる。
それ故に、これまでは、異なる進化を遂げた地球人とのコンタクトに二の足が踏まれていたのだ。
だが、彼の来訪によって一定の情報が入った事で、今度は好奇心を刺激されたが故の事なのである。

そして、それを懸念する者達。セーラーヴィーナスを主軸とするタカ派によって、

本来は４人だったセーラー戦士が、３人増員される事となった。

これにも、テンカワ氏は大きく関わっている。
セーラー戦士が纏うセーラーユニット。
その作成には、エネルギーコアとなるティアラに、それぞれの惑星のパワーストーンを埋め込まなくてはならない。
そして、現在のシルバーミレニアムの科学力では、水星から木星までの航行が限界。
これが、これまで天王星、海王星、冥王星のセーラー戦士が誕生しなかった最大の理由だった。
だが、彼のボソンジャンプによって、その問題がアッサリ解決してしまったのである。
そうなれば、国防を憂慮する者達が、将来に向けて新たな戦士を増員させない方が不自然だろう。

ん？　この波動は………そうか、オオサキ殿が再びやってくれたか。
初期の目的は果たして貰ってある事だし、早速、テンカワ氏を転移させるとしよう。
丁度、お茶会が終って一人になった所。ある意味、ベストタイミングというものだ。
別れの挨拶をさせてやりたいのは山々だが、クイーンセレニティに干渉された場合、ジャンプが失敗する可能性がある。
彼には申し訳ないが、この辺は、客人の定めとして諦めて貰うしかない。

　　　シュッ

さて。次の修復先は…………デン共和国。それも滅亡の当日か！
となると、修復内容は当然アレだろうな。
早速、シレーナ嬢を…………おや？　彼女は何故、世界の相を抱いていないんだ？
いや、それ以前に、お腹が大きなまま。一体、どうなっているのだ、これは？

…………くっ、そうか。予想以上に因果律が狂っているのか。
仕方ない、此処は強攻策だ。早速テンカワ氏を送り出して、力技で彼女をケイローン殿の所まで送って貰うとしよう。
向こうに着きさえすれば、ケントウリ族である彼にビジョンという形で指示を出す事も可能。
きっと何とかなる筈だ。

それでは、頼むぞテンカワ氏。
流石の貴公も、未亡人、それも妊婦と相対するのは初の経験だろうが、なんとか頑張ってくれたまえ。