>OOSAKI

   〜 同時刻。木連、東 舞歌の執務室 〜

「木連へようこそ、シュン提督。一日千秋の想いでお待ちしていましたわ」

そう言って、笑顔で右手を差し出してくる東中将。
だが、歓迎の挨拶にはさりげない棘が。
やはり、約束の時間より1時間程遅刻したのは拙かった様だ。
と言っても、これでも公式の到着予定日より三日程早いんだけどね。

「いや、申し訳ない。実はカヲリ君に急な用事が入ったらしくて………」

「お気になさらずに、提督も御忙しい身ですから。
 でも、アスカちゃんが………嗚呼、今頃、彼女はどうしているかしら? 雨に打たれながら、一人、涙していなければ良いのだけれど」

そう言いつつ、目元を拭うフリをする東中将。
アカン。完全にヘソを曲げられている。
仕方ない。此処は一つ、彼女の気に入りそうなネタを。
現在の最新情報を提供するとしよう。

「その点については大丈夫です。
 確かに、今チョッと放浪状態にありますが、既に手は打ってあります」

「……………呆れた。ネルフは、本当にアスカちゃんを放逐したの?」

「いえ、彼女の方が家出した恰好なんですが………」

「でも、その原因は、あの自称、世界を守る正義の味方達にあるんでしょう?」

ううっ、鋭い。流石、東中将。
とは言え、まさか仮にも父親が娘を出汁にするなんて………いや、そういうヤツだと知ってたけどさ。
だが、エヴァ機動の為に、これまで数多の実験データを提供してきたセカンドチルドレンを、アッサリ切り捨てるとは………
まあ、彼女に動かせるのは弐号機だけだから、アレとしては、もう拘る理由が無いんだろうが。
止めとばかりに葛城ミサトが………って、これも何時も通りか。
なんだ、良く考えたら、当然の帰結じゃないか。
単に、俺の理性がそれを認めなかっただけで。

「(コホン)兎に角、今、彼女を保護する為の作戦を準備中です。そんな訳で、俺はこれで」

機せず負う事になった心理的ダメージを押し隠しつつ、シュタと右手を上げて別れの挨拶をする。
何しろ、これから行なうのは、極めてデリケートな作戦。
ナカザトとサイトウの二人だけに任せてはおけないのだ。

「あら。此処まで話しておいて、それで御終いっていうのは無いんじゃない?」

だが、そんな俺の右肩を掴みつつ、耳元で囁く様にそう宣う東中将。
嗚呼、取り返しのつかない事を言ってしまったよ、ララア。



   〜 30分後。東 舞歌の私室 〜

かくて、命が惜しい俺は全面降伏。
これから展開される作戦の指揮は、東中将を交えて行なう事になった。
必要な機材。2015年へのホットラインを繋ぐ環境を、ハーリー君とトライデント中隊の子達に整えさせる。
初めて生で見る彼等に、大変ご満悦な東中将。
彼女曰く『小姓にして愛でたら面白そうな子達』との事。
何とか、それだけは止めさせるのが俺の責務だろう。
ともあれ、此処まで来たら腹を括るしか無い。
作戦を前に、卓袱台の前で胡座をかき、おもいっきり寛がせてもらう。
嗚呼、一杯の番茶で此処まで心が和むとは。それに、お茶請けの○らやの羊羹の美味いこと。魂の故郷に帰って来たかの様だ。

  ピコン

『上空班、準備完了』

『地上班A、準備完了』

『地上班B、準備完了』

そんなこんなでホットラインが繋がり、あらかじめ現地に配置した撮影要員からの連絡が。
次いで、現在のアスカちゃんのライブ映像が流れ出す。
ちなみに、上空班の鷹村二曹は、ステルス戦闘機から。
地上班の山本三曹と中原三曹の二人は、徒歩で通行人AとBを装い、コミュニケを通しての撮影である。

「あら、思ったより元気そうね。
 てっきり、コンビニのジュース棚の前に座り込んでいるものだと思っていたのに」

のほほんと番茶を啜りながら、そう宣う東中将。
そんな批評を受けた画面の中のアスカちゃんは、現在とある不動産会社の社員と交渉中。彼女の言う通り元気一杯だ。
『未成年者の方は保護者の承諾がないと』とアパート契約をやんわりと断ろうとしている相手に、
『保護者? そんな上等なものが居たら、こんな苦労してないわよ』とタンカを切っている様なんて、雄々しくさえある。
良いなあ、この覇気。シンジ君にも分けて欲しいくらいだ。

「ハーリー君、葛城ミサトの現在位置は?」

『あと10分程で目標と接触します』

「頃合だな。サイトウに、作戦名『泣いた赤鬼』をスタートする様に伝えてくれ」

その指示と共に、画面が薄暗くなり、BGMがホラー風味へと変わる。
そう。この辺の拘りを捨てたら、こんな事はやっていられない。
交渉に失敗し、人気の無い公園の中を、一人、とぼとぼと歩くアスカちゃん。
この辺、演出でそう見えるだけかも知れないが、そんな事は口にしないのが作法である。
と、そこへ、

『ふんふんふんふ〜ん』

何処からともなくハミングが聞えてきた。
曲目はベートーベン第九番交響曲『歓喜の歌』。
彼女は足を止め、素早く周囲に目を配る。

『歌は良いねえ』

時を置かず、滑り台の上に声の主を発見。その顔が驚愕に染まって行く。
素晴らしい。見事なまでにホラー物のヒロインだ。
何せ、元が美少女。強張ったその表情も、実にポイントが高い。
その魅力を、余す事無く捉えている中原三曹もグットジョブだぞ。
流石、あんな辺境の地に居ながら、根性でアイドルオタクを続けている少年。
ブレイクすると良いねえ、君が贔屓の藤原○恵。

『歌は心を潤してくれる。リリンが産み出した文化の極みだよ。そうは感じないかい? 惣流=アスカ=ラングレー君』

『あ…あんた、何でアタシの名を!?』

自分の名を口にする怪人を前に、警戒心も顕に詰問するアスカちゃん。
だが、流石にその声は僅かに震えていた。
無理もない。いきなり目の前にあんなのが現れたら、誰だって驚く。
つ〜か、俺なら躊躇いなく引き金を引くね。

『かの東方の三賢者の一人、惣流=キョウコ=ツエッペリン博士の長女にして、
 セカンド・チルドレンでもある君の名を知らない者はいないさ。君は今少し、自分の立場を自覚した方が良い』

にしても、もうチョッとネタを選べなかったのかよ、サイトウ?
そりゃあ登場からの流れは任せるとは言ったけどさ。
嗚呼、カヲリ君に何て言おう。(泣)

『それで、結局アンタは何者よ!』

怪人の揶揄するような物言いに、アスカちゃんは更に詰問した。
いやはや、大した胆力だ。

『私の名はマッハ・バロン。正義の味方さ』

『はぁ!? あんたバカ!?』

お得意のセリフを口にしつつ呆れるアスカちゃんに、フフフッと無気味に笑いかけるサイトウ………じゃなくてマッハ・バロン。

『な…何が可笑しいのよぉ!?』

『いや、可愛いなって思っただけだよ、アスカ君』

そう言いつつ、今度はマスク越しにウィンクらしき事をして見せる。
一体、何がしたいんだよ、お前は。

『まあ良いわ。それで、目的は何なの?』

『正義に味方が、可憐な美少女の前に現れたんだ。成すべき事なんて決まってるだろう? 君の窮地を救いに来たんだよ』

『悪いけど、間に合ってるわ』

『つれないねえ』

気丈にも会話を続けるアスカちゃんの返答に、肩をすくめながら首を振るマッハ・バロン。
って、まさか!? TV版のカヲリ君張りな美少年キャラを演じているつもりなんか、ひょっとして?

「ガラスの様に繊細だね、君の心は。好意に値するよ」

「コ、コウイ?」

裏返った声で、鸚鵡返しに答えるアスカちゃん。
流石の彼女も、この辺が限界らしい。

「そこまでよ!」

そんな絶体絶命の窮地を救うべく、絶妙なタイミングで葛城ミサト登場。
嗚呼、かつてコレの姿が、これほど頼もしく見えた事があっただろうか? いや、あるまい。(反語)
のっけから不測の事態が連発したが結果オーライ。ネルフとアスカちゃんの間に生まれた亀裂の修復は、頑強な補強すらされる形で成功しそうだ。

「なんとも無粋な真似をするねえ」

最後のセリフを遮られたのが余程気に入らなかったらしく、不機嫌そうにミサトを睨みつけるマッハ・バロン。

「(カチャ)動かないで! 動くと撃つわよ」

だが、葛城ミサトとて負けては居ない。躊躇い無く懐の銃を引き抜き、マッハ・バロンに突きつける。
色々欠点だらけではあるが、このレスポンスの速さだけは特筆するものがある。
さあ、後は適当に戦って見せ、頃合を見て引くだけだ。

「マッハ・ブーメラン!」

幸い、その辺りの事は忘れていなかったらしく、マッハ・バロンの新兵器は、葛城ミサトのこめかみスレスレを飛来。
付け焼刃で身につけた技能にしては、中々良い仕事だ。

  ガ〜ン、ガ〜ン、ガ〜ン!

反撃とばかりに、三連バーストで発砲。
どう見ても威嚇射撃じゃないところがナイスだぞ、葛城ミサト。
これで、不自然さ無く、銃を恐れて引いた様に見える。

   ガツン

と、思って油断した俺を嘲笑うかの様に、帰って来たブーメランが、彼女の後頭部に直撃。堪らず昏倒する葛城ミサト。
倒した側のマッハ・バロンも、ブーメランを受け取ろうと上げた右手を所在無く遊ばせながら呆然としている。

   シ〜ン

痛い。とても痛い沈黙が、その場を支配した。

「って、あの馬鹿、固まってやがる。
 やっちまったは良いが、そこから先が思いつかないみたいだな」

「ええ。引っ込みがつかなくなって、オロオロしている所がチョッと萌えよね」

「お二人共。そういった御感想は、人としていかがなものかと思いますが………」

俺達の率直な感想に、ナカザトが苦虫をダース単位で潰した様な顔で苦言を呈してきた。
湯飲みを持つ手がプルプルと震えている所が、画面の中の怪人の右手とシンクロ中。
相変わらず、勝負度胸の無いヤツである。

「奥歯に物がつまった様な物言いは止めて、言いたい事はハッキリ言ったらどうだ、ナカザト」

「そうね。地球人から見たら過去の遺物の様な社会体制のこの国にだって、言論の自由位はチャンと保障されているわよ」

「言わせないで下さい。自分にだって情けくらいあります」

うわ。なんか無茶苦茶バカにされた気分。
だがまあ、確かにこのまま放って置く訳にもいかない。

「判った、判った。(ピコン)あ〜、此方オオサキ。コッチでも作戦の失敗を確認した。追加の救出人を手配するから、時間稼ぎを兼ねて、そのまま10時の方向に逃走しろ」

『嫌〜! 放して〜っ!』

かくて、俺の指示を受け、お姫様だっこに目標を抱えると、お得意の哄笑を上げつつ走り去るマッハ・バロン。
御免よアスカちゃん。とっても怖いだろうけど暫しの辛抱だ。

『(トゥルルル、トゥルルル)もしもし、ヤガミさんのお宅ですか?
 ……………そう怒るなよ。ミリアさんとの優雅な昼飯なんて何時でも出来るだろう? 
 ……………碌に休みが取れない? お前、そんなに仕事あったけ?
 ……………いや別に、裏方仕事だから忘れていた訳じゃなくて……………判った、俺が悪かったってば』

そんなこんなで数分後、漸く説得に成功。
とある屋根の上にて接敵する両人。

「チョッと待てそこの怪人! その少女をどうするつもり…………って、止れよオイ!」

だが、追い縋るナオの口上をスルーして、逃走を続けるマッハ・バロン。
そのまま、延々と追いかけっこが続く。
いや何せ、パワードスーツ付き。いかにナオでも、身体能力では一歩譲らざるを得ないのだ。

にしても、何をやってるんだサイトウは。
下手に目立っては、アスカちゃんの学園生活に支障がでるというのに。
何の為に、北斗じゃなくて渋るナオにやらせたと思ってるんだよ。
え〜い、仕方ない。

「(ピコン)こちらオオサキ。
 ターゲットは此方の意図を無視して暴走中。戦闘シーンは任せるから、嘘臭くならない様、手早くやってくれ」

『了解、手早く殺っちゃいます』

その、嬉々とした声音での返答がチョッと怖いぞナオ。
だがまあ、大丈夫だろう。ああ見えて、少女には優しいからな。
まちがっても、目の前で惨殺死体なんて作らない筈………だよね。

   シュル

と、俺が一抹の不安を感じている間に、ナオの右手からワイヤーが。
小さな分銅付きのそれが投げ付けられ、逃亡者の左足に絡みつく。

「終わりだ怪人!」

「違う! 私はマッハ・バロン、正義の味方だ!」

って、逃げ続けてた理由はそれかよ!
ああもう。半年ばかり苦楽を共にしたくらいで、シッカリとヤマダに病気をうつされやがって、このアホが〜!

い…いや、済んでしまった事をとやかく言っても仕方ない。
此処は一つ、アレはもう、そういう物体だと割り切るべきだろう。

「ふん!」

「とあ!」

とか何とか言ってるうちに、二人の戦いはクライマックスに。

既にワイヤーを断ち切ったマッハ・バロンと、ヤツが一時的に下ろしたアスカちゃんを背にする位置を確保したナオとが、空中にて激しく激突する。
交差する無数の突きや蹴り。
着地までに、互いに七連………いや、九連打は出しているか?
見事なものだ。たった一年(社会復帰後だって、それなりに修行を積んでいる)で、パワードスーツ付きとはいえナオと五分に渡り合える程の戦闘力を身に付けるとは。
惜しむらくは、それが意味が無いどころか有害な戦闘に浪費されているって事。
健全なる魂は健全な肉体に宿るって格言。やっぱアレは嘘だな。(苦笑)
ちなみに、この辺の愛に満ちた映像は山本三曹が撮っている。
そう。実は彼女、大佐→伊○長官→ナオと、最近、徐々に憧れる対象が自身の年齢に近付いてきているのだ。
このままいけば、本当の恋愛をする頃には、その御相手は、多分チョッと年上くらいな歳の差で済む事だろう。いや、実に目出度い。

『何故、私の邪魔をするのかね?
 このままネルフに留まれば、その少女は不幸になるというのに』

『知るか、そんな事! 単に、お前には任せておけんだけだ!』

完璧に本音だなナオ。
だがまあ、図らずもヒーローっぽいセリフになった。
此処は、彼をそこまで追い詰めたサイトウを………褒めたくないなあ。だって、おもいっきり図に乗りそうなんだもん。

『それでは、アスカ君の身柄は、君に預けるとしよう。彼女の騎士としてその身を守りたまえ』

『はい?』

『(フッ)謙遜は無用だよ。この私と引き分ける程の手練。ネルフのボンクラ風情に後れは取るまいて』

『いや、そうじゃなくて………』

『では、さらばだアスカ君。(フハハハハハッ)マッハ・ウイィ〜〜〜ング!』

かくて、一方的に捲し立てた後、哄笑を響かせつつ、マッハ・バロンはお空の彼方へと飛び去っていった。
呆然と、それを見送るナオとアスカちゃん。

『(コホン)そのなんだ。野良犬でも噛まれたと思ってサッサと忘れちまいな』

『え…ええ』

『立てるかい?』

『ゴメン、腰抜けちゃってて無理みたい』

その後、同病相哀れむといった感じに、二人は打ち解けてゆく。
前後の状況を考えれば、まあ悪くない結末である。
って、ひょっとしてコレを狙っていた? 
いや、買被り過ぎだろう。実際、元がネルフとアスカちゃんの関係改善の為の計画。ナオが信頼を勝ち得てもあまり意味が無いし。

その後、取り合えず、ナオはアスカちゃんを背負って自宅へ。
帰りを待っていたミリアさんに事情を話し、昼食のペペロンチーノとミネストローネを温め直し三人で食べる。

その席上、ミリアさんはとんでも無い事を。
彼女自身は他意など無いのだろうが、この後の計画遂行の上で密接な関わりを持つ事柄について切り出してきた。
曰く、『アスカちゃんさえ良かったら、此処で暮さない?』と。
突然の申し出に困惑するアスカちゃん。その隣で、

『嫌だ』

ボソリと、そう呟くナオ。その次の瞬間、火がついたかの様な勢いで手足をバタつかせ、

『イヤじゃん、イヤじゃん。俺は、ミリアと二人きりがイイじゃん!』

「ぬう、あれはダダっ子ダンス。まさかナオが、あの伝説の舞踏を修得していようとは」

「知っているの、シュン提督」

【ダダっ子ダンス】
我侭な子供が癇癪を起してダダを捏ねる様を、舞踏の領域にまで昇華させたもの。
そのステップのバリエーションは無限であり、踊り手の性格が、もっとも良く現れるダンスと呼ばれている。
創始者は、かの有名な浦島太郎の子孫にしてムー帝国の王子でもあるウラシマ・まりんとされているが真偽の程は定かではない。
余談だが、地団駄を踏むと呼ばれる行為は、このダンスの初心者が無様なステップを踏む様を『地をダンダンと踏んでいる様だ』
と馬鹿にして言ったのが訛ったものである。

民明書房館『跳躍英雄列伝』より

   バキッ

「こんな馬鹿な事をやっている場合ですか!」

「そうか? 俺的には、別に構わないと思うんだが。もう終った事だし」

そう言いながら、ナカザトが打っ壊しやがったクリップボードの破片を拾い集める。
畜生、高かったのにコレ。

「何を言ってるんです提督! 今はヤガミ特務大尉の見るに耐えない………」

と、叫ぶものの、目の前の光景に驚愕し言葉を失うナカザト。
無理もない。何せ、ホンの数分前まで、恥も外聞も無く同居を嫌がっていた癖に、
今や臆面も無くアスカちゃんの足元に縋り付いて『お願いだから此処に居て』と懇願しているんだからな。
流石、ミリアさんが白と言えば黒でも白の男。
俺としても、此処まで節操が無いとは思わなかったぞ。

しかし、まさかこんな展開になろうとはな。
だがまあ、悪い手では無い。幾つかネックがあるが、アスカちゃんの安全性を最優先に考えるなら、これが最善手かも知れん。
うん。後はもう、ミリアさんに任せるとしよう。
メンタルな事は、鈍感な俺より彼女の方がずっと上手く対応出来るだろうし、メンタルで無い部分は、それを取ったら只のコメディアンなヤツが対処するだろうし。

「さて、問題は此処からね」

と、番茶を淹れ直しながら、そう宣う東中将。
その身からは 何故か気遣わしげな雰囲気が発せられている。
はて? 俺的には、既に一段落着いたと思うんだが?



   ピンポ〜ン

それから小一時間後。
ミリアさんに叱られたナオが、半ベソで己の職務に戻っていったのと入れ違いに、東提督の懸念材料がヤガミ家を訪れた。

「あらまあ。本当に命知らずなのね、この人って」

締りの無い顔で玄関口に出たミリアさんにコナをかけている加持リョウジを、興味深げに眺める東提督。
聡明な彼女の事。先程までのナオとミリアさんとのやりとりから、自分の心配は杞憂と察したらしい。
いや、これは俺が説明不足だったと言うべきか。

「大丈夫なのでしょうか、彼女は。
 正直申しまして、自分には、ナオ特務大尉が不在のこの状況で、あの様な危険な男を招き入れるなど自殺行為としか思えないのですが」

心配そうに、お茶の間にてコーヒーとクッキーの給仕など始めたミリアさんを見詰めるナカザト。
碌に面識さえ無い東中将と違って、わりと何度も本人に会っているというのに愚鈍な事である。
(フッ)彼女はなあ、ホントは怖い人なんだぞ。
この後の展開を考えると、あんな自己中男でも、憐れみさえ覚えてしまうくらいになあ。

『アスカも日本に来てから、歳相応の表情が出来るようになったかな』

と言ってる間にも、アスカちゃんを交え、交渉前の世間話が始まっていた。
しみじみとそんな事を語る加持リョウジに、ミリアさんが尋ねる。

『心配ですか?』

『まあ、妹みたいなものですから』

その返答に目を細めるも、ミリアさんは論評はしなかった。
おそらくは、内心で、加持リョウジのアスカちゃんに対する位置付けを推し量っているのだろう。
そして、それから数分のやりとりの後、彼がアスカちゃんの返還を求めた時、

『お断りします』

そのジャッジが下された。

『アスカちゃんと出会ったばかりの私が言うものなんですが、彼女が家出した経過を聞いただけでも、彼女の置かれた立場が極めて特殊なものだという事は判ります。
 13歳にして、大きな責任を背負っている事も判ります。
 ですが………いえ、だからこそ、貴方は何故それを支えてあげようとしないのですか?
 強がっていても、アスカちゃんは本来、傷付き易い娘。兄を名乗る貴方なら、当然それに気付いていた筈ですよ』

『いや、参ったなぁ。俺としては、アスカがネルフに無くてはならない存在だと………』

『やはり、判っていないようですね』

おどけながら翻意を促そうとする加持リョウジの繰言をピシャリと切り捨てると、ミリアさんは尚も淡々と語る。

『例えば、貴方が自分の所に引き取ると言うのならばまだしも、
 アスカちゃんをネルフに連れ戻し、これまで通りの生活をさせたのでは、何の解決にもならないでしょう?
 そんな事をすれば、彼女の心が歪んでしまいます』

『(ハハッ)こりゃ手厳しい』

厳しくなるのは、寧ろこの後だよ。
思わず、胸中でそうツッコミを入れる。

『まっ、確かにその通りなんですが、俺はしがないサラリーマンでしてね。雇い主の意向に逆らう訳には、ちょっといかないなぁ』

『では、どうします?』

『ごめん、ミリアさん。私、やっぱり帰る』

話がきな臭くなってきた事を察し、帰還を申し出るアスカちゃん。
うんうん。良い娘だねえ、君は。
でもね、もうとっくに手遅れ。絶対に怒らせちゃいけない相手を怒らせたんだよ、その男は。

「いってらっしゃい」

その後、アスカちゃんに何事か耳打ちすると、ミリアさんは笑顔で二人を送りだした。
そして、その後ろ姿が見えなくなると、茶の間へと戻り、

   トゥルルル、トゥルルル

「はい、こちらオオサキ」

『ミリアです。御忙しいところをすみませんが、アスカちゃんの好物など判りましたら、教えて頂けませんか?』

「それならハンバーグです」

『そうですか。有難う御座いました』

(フゥ)やっぱりこうなったか。だから彼女は怖いんだ。

「あの、チョッと良いですか提督?」

ミリアさんからの電話を切った所で、ナカザトが恐る恐る話し掛けてきた。

「なんだ?」

「今のは、どういった暗号なんですか?」

(ハア〜)まったく、この馬鹿タレは。
せめて、『いってらっしゃい』の所で気付けよ、頼むから。

「色々と気苦労を背負い込んでいるアスカちゃんの為に、夕飯は彼女の好物を作ってあげたいってことよ」

「作ってどうするのですか? 正直申し上げて、彼女の所に差し入れをするのは難しいと思うのですが?」

「………大丈夫なのこの子?」

ほとんど正解同然のヒントを出したにも関わらず、尚もピントのズレた事をさえずるナカザトに、呆れ顔でそう尋ねてくる東中将。
いや、貴女は悪くない。只、アプローチの仕方が拙かっただけ。
そう。頭コチコチのコイツにものを教える時は、もっと直接的に言わなくてはならないのだ。

「よ〜するに、夕飯までにはナオに迎えに行かせるってことだよ」

「(ポン)おお、なるほど。
 それなら、先程、アスカちゃんをアッサリと送り出したの事も頷けますな。
 考えてみれば、いきなり彼女に危害が加えられる可能性は低いですし」

おまけに、無用なイザコザを起して自分が傷付いたり捕まったりしたら、かえって面倒な事になるしな。
とまあこんな風に、数多の修羅場を乗り切ってきた事もあって、実は彼女、自分に出来る事と出来ない事が冷静かつ的確に判断できる人だったりする。
だが、そんな事は、ほんの余技に過ぎない。
本当に怖いのは、その聖母の如き優しさにある。
何しろ、ナオなんかのお守をする為に、碌に事情説明さえしなかったにも関わらず、2015年なんて異次元に住む事を承諾してくれたような女性なのだ。

そんなミリアさんを怒らせた相手に、情けなぞ掛けてやる余地は無い。
ナオならずとも、彼女の事を良く知る人間なら、誰でもそう思う事だろう。何の疑問も持たずに。
そう。この世に大義名分ほど怖いものは無いのだ。
なんせ俺自身、もうナオが何をやっても止める気になれないし。



   〜 二時間後。再び、東 舞歌の私室 〜

撮影班の仕事は終わり、此処からは、ハーリー君によるハッキング映像。
ネルフに到着後、監視カメラに映ったアスカちゃんの活躍は見物だった。
まさか、お説教をする為に司令室に呼び出したであろう冬月コウゾウ向かって、出会い頭に、自分に使徒戦を指揮させろと直談判しようとは。
いや。確かに、協力を求める際に此方の事情はある程度は話したし、向こうの戦力を底上げする為に手を貸してやってくれとは言ったんだが………
何ともダイナミックな手段を選ぶ娘である。

当然ながら、それをやんわりと断る冬月コウゾウ。
だが、そんな事は想定済み。彼女には、この無茶極まりない話を通す為の、とっておきの手土産があった。
そう。ネルフが喉から手が出そうなくらい欲している技術。ATフィールドのノウハウが。

『私をエヴァに乗せなさい。そうすれば、ハッタリじゃない事を証明してあげるわよ』

『初号機にシンクロ出来るつもり?』

アスカちゃんの主張を鼻で笑う様に、そう言う赤木リツコ。
だが、このセリフは逆手に取られる事に。

『出来る訳ないじゃない。
 だから、ミサトも同乗させて。何なら、零号機でのファーストチルドレンとのタンデムでも良いわよ』

『………貴女、何を知っているの?』

『それは見てのお楽しみよ。それで、やるの? それともやらないの?』

この後、疑心暗鬼に駆られたらしく、赤木リツコは渋々実験を承諾した。
いや、中々上手い駆け引きをするなあ。
特に、タンデム搭乗にする理由を、どちらにも取れる言いかたにした辺りが心憎い。

『実験スタート』

『主電源、接続完了。起動用システム作動開始』

かくて、名誉の負傷(?)を治療中の葛城ミサトを除く何時も通り主要スタッフが見守る中シンクロ実験開始され、 シンクロ率71.52%にてEVA零号機は起動に成功した。

『やはり、異物が混じっている分、シンクロ率が落ちているわね』

『へえ〜、って事はファーストのシンクロ率って最低でも80以上なんだ。やるじゃないのアンタ』

赤木リツコの洩らしたセリフを聞きつけ、良い子良い子とばかりに、操縦席に座るレイちゃんの頭を撫でるアスカちゃん。
思っていた以上に、この娘には余裕が生まれているらしい。
ちなみに、コレに対するレイちゃんの方はノーリアクション。
この辺の情緒は、まだまだ発展途上の様だ。

『判っているの? これは『貴女はシンクロしていない』という事を示しているのよ』

『構わないわよ。『零号機にシンクロ出来ない』なんて、最初から判っていた事だもの』

そんな余裕の態度が気に食わないのか、赤木リツコが厳しい口調で断定する。
だが、そんな言葉も、カウンター気味に返され沈黙。
そうこうしている間に、零号機は仮設演習場へと到着。

『続いて、ATフィールド展開実験開始。良いわね、アスカ?』

『OK、それじゃ行くわよ。フィールド全開!』

『パターンレッド、ATフィールドの展開を………確認!?』

そして、フィールド展開実験も成功した。
だが、アスカちゃんがチョッとイタズラ心を起した所為で、実験場は騒然とする事に。

「………アスカ、一体どういうつもりなの」

零号機の頭上に天使の輪の如く展開された、小さなATフィールドの盾を睨みつけながら、額に青筋を浮べつつ詰問する赤木リツコ。
まあ無理もないわな。これまで散々苦労して得られなかったデータが、こんな形で得られる事になろうとは思っていなかっただろうかならな。

「どういうつもりもナニも、チャンと展開してるでしょ?
 ほら、サッサとデータを取りなさいよ。コレって結構疲れるんだから」

そう宣うと、アスカちゃんは欠伸をして見せた。
いや、実に挑発的だ。御蔭で、俺にもその意図が見えてきた。
彼女は、ネルフの面々を発奮させる為、ワザと喧嘩を売っている。
と同時に、警戒心を喚起しかねない高い技術を、オブラートに包んで渡している。
そう。彼女のやっている事は、ATフィールドの盾状展開がDFの前面展開とするならば、一点に収束させるDFSの理論に近い技。
展開する意味こそ限り無くゼロに近いとはいえ、通常展開の10倍近い強度を誇る絶対防壁なのだ。

「アスカ、真面目にやりなさい。これは遊びじゃないのよ!」

激昂し、声を荒げる赤木リツコ。
だが、これこそアスカちゃんの注文通りのリアクションだ。

「へえ〜、リツコは、コレをアタシがやってる事だって信じるんだ?」

「当たり前でしょ。ふざけるのも、いい加減して!」

かくて、言質は取られた。
何せ、アスカちゃんはシンクロしていないのだ。
その気になれば、彼女の力では無いと突っぱねる事も出来ただろう。
だが、赤木リツコ自身が発した先程のセリフによって、それは不可能に。
アスカちゃんによる人類初のATフィールド展開成功という功績を、認めざるを得なくなった訳である。

その後、苛立つ赤木リツコを宥めるべく、ごく普通の盾展開を。
次いで、チョッとだけ応用を見せた所で、実験は終了。
今を去ること約2ヶ月半前。第三使徒戦にて予測された、初号機の暴走にて入手する筈だったATフィールドのノウハウは、こうして無事(?)MAGIに記録された。



『貴女、何を知っているの?』

『さあね。それより、約束通り………』

『私の質問に答えなさい!』

実験終了後、詰問を再開する赤木リツコ。その剣幕をおどけて避けながら、

『生憎と、それは出来ない相談ね。 
 何せほら、アタシってば、セカンドチルドレンとしての権限のほとんどを剥奪されちゃったでしょ。
 御蔭で、エヴァに搭乗していた時の事を勝手に喋ると、処罰の対象になっちゃうのよ』

アスカちゃんは、予め用意していたであろう筋書きを披露した。

『これは命令よ』

『ふ〜ん。リツコってば、そういう事を言うんだ。なら、より上位者の命令が優先される事くらい判るでしょ?』

『……………そうね。悪かったわ』

赤木リツコ、沈黙。
何しろ、査問会での決定だからな。
総司令代理の冬月コウゾウといえど、そう簡単には覆せない。
そして、既にATフィールドのノウハウが手に入った以上、覆すメリットは、赤木リツコ個人の知識欲とささやかな裏面事情だけなのだ。
只でさえ増長しているドイツ支部司令に、これ以上カードを渡す様な真似、彼女としても、おいそれと頼めはしないだろう。

えっ? ウチに捕らえられている間に、スパイに仕立て上げられた容疑?
ナンセンスだな。拘束されていた時間が短すぎるし、そうした魔女狩りが起きるのを防ぐ為に、
使徒戦時の割り込み通信の折、毎回MAGIの最深部までハッキングして、此方の技術力を誇示している。
つまり、スパイなんて潜り込ませる理由がウチには無いとアピールしているのだ。
もっとも、実際には約一名。常勤で某正義の味方が潜り込んでいたりするのだが、これをスパイと呼ぶのはチョッと無理があるだろう。
何せ、それが目的じゃないもんだから、有益な情報を送ってきたためしが無いし。(笑)

『ねえ、アスカ。そのペンダント、どうしたの?』

数十秒の沈黙の後、赤木リツコは、質問の矛先を変えてきた。
って、拙いな。アレはアスカちゃんにとって心の支え………

『へへ〜ん、良いでしょう。
 こないだの査問を乗り切った自分への、チョッとした御褒美よ』

『そう。悪いんだけど、もっと良く見せてくれないかしら?』

『良いわよ。(チャラ)明日までには返してね』

こりゃ驚いた。アッサリとペンダントを渡しちゃったよ。

『どういうつもり?』

不審げな顔で、そう尋ねる赤木リツコ。
俺としても是非とも理由を聞きたい所だ。

『よ〜するに、ソレがアヤシイって思ったんでしょ?』

『……………まあ、そうなんだけど。それが判っていて渡してくれるの?』

『さっきはああ言ったけど、アタシは別に、リツコに含む所がある訳じゃないからね。
 質問に答えられない分の大サービスよ。その代り、チョッとでもキズ付けたら只じゃおかないからね』

『(クスッ)OK。明日、鑑定書付きでお返しするわ』

なるほど。此処であえて調べさせれば、只のペンダントとしか思われんわな。
しかも、それを和解の為の小道具に使うとは。
なんかもう、TV版の彼女とは比べものにならないくらい狡猾化しているな。
明らかに、あのマッドな母親の悪影響。いや、困ったもんだ。

その後、紆余曲折をへて、次の使徒戦においてオブザーバーとして参加と、ヤガミ家への下宿が正式に認められた。
交渉が終った直後、嬉しそうにミリアさんにその旨を伝えるアスカちゃん。
彼女自身は自覚していないだろうが、これによって、ネルフは崩壊への最大の危機を免れた。

「まずは一安心ってところかしら?」

「ええ」

東中将の確認に頷きながら、今回のジョブチェンジの一部始終を反芻し悦に入る。
もはや彼女は、完全に此方の手を離れたと言って良いだろう。
計画成功への確かな手応えを感じる俺だった。



   〜 数時間後 とある廃材置場となっている封鎖通路 〜

「という訳で、祝杯を上げるべく、俺達は用意して貰った臨時の宿泊施設をコッソリと脱け出し、先程チラっと窓から見えた繁華街へと向かっています」

「何も、素直に東提督に許可を取れば済む事でしょうに。
 と言いますか、一体、誰に向かって喋っているんです、提督?」

ハッハッハッ。相変わらず、雅を解せんヤツめ。
仕方ない。一つ、レクチャーしてやるとするか。

「判ってないなあ。こういうのは、隠れてやるから面白いんだよ」

「はあ。ですが、提督のお部屋にはハウスバーが備え付けられたじゃないですか。
 なんだかんだ言っても、提督、あまりアルコールに強くないんですし、あれで充分だと思うのですが?」

   ピシッ

その時、時が止まった。

「な…何て事を言うんだ、お前は! 
 畜生! 折角、今日まで必死にひた隠しにしてきたのに! ナカザト、お前は今、俺の全存在を否定したぞ!」

「そんな大げさな」

「何が大げさだ! 先輩が眼鏡を外したらそれはもう先輩じゃないし、レンたんだって、ニーソックスだからこそレンたんなんだぞ!」

嗚呼、自分で言ってて落ち込んできた。
唯一のチャームポイントを失った今、これから俺は、どうやって自分のキャラクターを確立すれば良いんだ?
一応、2199年サイドじゃ主人公なのに。

だが、そんな俺の苦悩も知らんと、ナカザトはのほほんと太平楽な馬鹿面を下げている。
これは荒療治が必要だな。

「危ない!(ドン)」

「って、何をするんです、提督!」

「かくて、オオサキ隊長の機転により、一行はヘビの群れの襲撃から難を逃れた。
 まるでこの通路自体が、我々探検隊の行く手を阻むように広がっている。
 しかし、この通路を抜けねば、理想郷(酒場)へは辿り着けぬのであった」

「何を言ってるんです。どう見ても、只のコードじゃないですか!」

と言いつつ、廃材から伸びているそれを指差すナカザト。
だが、そんなの知った事じゃない。手近にあった梱包材の廃棄置場らしき場所から、

「だがしかし、我々人類を嘲笑うかの様に、この後も多くの試練が襲い掛かってくるのであった。
 崖の上から発泡スチロールで出来た落石が隊員を飲み込む! これは自然災害が? それとも、この地に住む原住民の罠か?」
 

「って、ゴミを散らかすのは止めて下さい提督!」

とまあ、こんな感じで、川口○探検隊風に教育的指導を行う。と、その時、

   シャッ

「止まりんしゃい!」

何故か本当に原住民が………じゃなくて、優華部隊による追っ手が掛かった。
だが、こうしたアクシデントさえも作品の糧としてこそ、真の名監督。(参考資料:仮面ラ○ダーを作った男達)
逆らう事なく、これもネタにする。

「更には妊娠三ヶ月の眼鏡っ娘が、薙刀を振り回して切りかかってくる! 胎教に良くないぞ」

「大きな御世話ばい」

「そんな事より、お部屋にお戻り下さい提督。
 貴方が此処に来るのは、公式には21日の事。今、人目に付くの拙いんです」

なるほど、各務君の独断か。
固いなあ。地球なら兎も角、此処ならまず判りっこないのに。
とゆ〜か、この通路の存在をほのめかしてくれたのは、君の上司だし。
その熱い期待に応えなかったら悪いじゃないか。

   ドカ〜ン

「そして、ついには新婚ニ年目の娘が仕掛けたっぽい謎の爆発に巻き込まれる隊員までが!
 しかし、私はたとえ一人になったとして真実に近付いてみせる!
 いけ、オオサキ探検隊! 負けるな、オオサキ探検隊!」

「って、ナニまとめに掛かってるとね」

かくて俺は、『自分に構わず先に行ってください』と叫んだような気がするナカザトの心意気に応えるべく、
さりげなくチョッとだけ身体能力を強化し、尚も苛烈さを増す優華部隊−3名の追撃を振り払いに掛かった。

「(チャンチャンチャンチャン)オオサキ シュンが〜、洞窟に入〜る、カメラさんと、照明さんの、後から入〜る」

「提督〜!」

さよならナカザト、お前の死は無駄にはしないよ。



『6月18日 今日も木連はゲキガン晴れ』
   木連の酒場は、綺麗なネーチャンや愉快なショーを売物にしている店は一軒も無く、
   活気に満ちている様に見えたのは、ヤマダの親戚の様な連中が、
   それぞれど〜でも良いとしか思えない事で激論を戦わせた挙句、
   酔った勢いに任せて喧嘩を始めているからでした。ああ、全て遠き理想郷。




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