>OOSAKI

   〜 午後12時。ロサ・カニーナの提督室 〜

さて。いよいよ第7使徒戦の本番、アスカちゃん達のリターンマッチの始まる時刻。
それに合わせ、おもむろに全世界放送のスイッチを入れる。

『アスカ、今、ダークネスの放送が始まったわ』

『関係ないわ。様式美の権化の様なあの連中のことだもの、作戦中には行動を起さない筈。
 寧ろ、イザって時の保険が出来たとでも思えばイイのよ』

赤木リツコからの通信に、元気良くそう答えるアスカちゃん。
いや、なかなか穿った状況分析だこと。どこかの誰かさんもこれくらい察しが良ければ………って、チョと贅沢言い過ぎ?

『ナニ言ってるのよ、アスカ。そんな弱気な事じゃ、勝てるものも勝てなくなるわよ!』

『だから、イザって時よ!
 気に入らないなら、ファンサービスを兼ねて『コッチが華麗に勝利する所を見せ付けてやるわ!』
 とでも、アンタがタンカを切んなさいよ。折角の全世界放送なんだし』

『ファンサービスって、私は別に人気が欲しい訳じゃ……………
 ああっ! さてはアンタだったのね。『大変ですね、いい歳して、毎回あんな恥ずかしい恰好で戦わされて』って、文面のイタズラレターを送ってきたヤツは!』

『知るか〜!』

ううっ。本当に大変なんだね、ダメ姉のお守って。
涙で目が曇って、画面が良く見えないよ。
ちなみに、それを送ったのは俺でも無いぞ、葛城ミサト。
まあ、天の声だとでも思って、粛々と受け止めてくれ。

『でりゃ〜!』

そんなこんなのツカミのギャグの後、(良く考えると、打ち合わせも無しにああいう即席コントをやってくれるんだから、ある意味スゴイ)
葛城ミサトの操る初号機が、ソニックグレイブで攻撃開始。

   ガキッ

と、同時に、石化した状態から一気に復活し、四本の腕から生えた鍵爪で、それを受け止める第7使徒ことイスラフェル。

『こんのお〜』

『って、ナニ無駄に力比べなんてやってるのよ! 予定通り、一旦、引きなさい!』

ムキになった葛城ミサトを、後部座席からどやしつけるアスカちゃん。
そう。彼女は、初号機に乗った状態で指示を出しているのだ。
そして、零号機もまた、シンジ君とレイちゃんのダブルエントリー。
ナオからの報告によると、これが今回の作戦の要だったりする。
いやもう。あの状態から、なんとかユニゾン攻撃を可能にしてしまったんだから大したものである。

『くぬ〜っ!』

と、言っている間も尚、葛城ミサトは無駄な攻撃に固執。
それに業を煮やしたらしく、

『(チッ)仕方ないわね! 『引けない』って言うなら、弾き飛ばしてやるまでよ!』

そんな叫び声と同時に、ATフィールドの盾が出現。
二体のイスラフェルは、勢い良く打ち出されたそれに弾き飛ばされた。
無論、これは葛城ミサトがやった訳ではない。アスカちゃんが張ったものである。
だからと言って、彼女が特別な存在。使徒娘達の親戚だった訳では無い。
ATフィールドとは本来、誰もが持っている心の壁。
故に、命の実たるS2機関の代用品となるものが。
たとえ当人がシンクロ出来ていなくても、稼動状態のエヴァという触媒さえあれば、その使用は充分可能なのだ。

ついでに言えば、一度憶えてしまえば、わりと簡単な事らしい。
アスカちゃん曰く、『自転車を乗る時の感覚習得と似た様なもの』との事。なんとも物騒な話である。
まあ、実生活には関係ない技能だから別に良いけどさあ。

『カウントスタートと同時にATフィールドを展開。最初からフル稼働最大戦速でいくわよ!』

よろけたイスラフェルに通常兵装の弾幕が張られ、時間稼ぎがなされている隙を利用し、アスカちゃんが最後の作戦確認を。

『判ってる、62秒でケリをつけてやるわよ!』

『……………』

それまでの展開を忘れたかの様な、なんとも調子の良い返答に微妙な表情。
『ホントに判ってるのかしら』と言わんばかりの顔になったが、操縦しているのは葛城ミサト。
故に、アスカちゃんの困惑に関係なく、ユニゾン作戦はスタートした。

   ドス

まずは、電磁ネットを二体の間に展開させ、これを分断。
と同時に、電源がパージされ、例のユニゾンBGMが流れ出す。

   ガキッ、
        バキッ

左右に分かれたイスラフェルに向かって突撃。
左のショートアッパーで浮かせた所へ、右のサッカーボールキックを放つ初号機&零号機。
正直、ユニゾンと呼ぶには心がバラバラ過ぎる気もするが、タイミングだけはバッチリあっている。
堪らず、イスラフェルAとBはバラバラに逃げようとするが、その退路は、支援にきた陸自の戦車部隊&特殊兵装車輌部隊によって塞がれる。

   タッ
       バキッ
            ドス

足を止められたイスラフェルに向かって、ロンダート風の動きで間合いを詰めると、今度は後ろ回し蹴り。
怯んだ隙に懐に飛び込んで体重を乗せた肘を落とし、前屈みになった所を狙い済まして、渾身のジャンピング・ニーを。
これがクリーンヒットし、大ダメージにピヨるイスラフェル達。
その致命的な隙を逃さず、ジャンプする二機のエヴァ。
そして、伸身の前宙返り二回捻りを決めた後、

『『いっけえ〜っ!』』

『こんのお〜!』『決める』

四者三様の掛声を上げつつ、フィニッシュのダブルドロップキックを。
吹っ飛びながらコアに亀裂が入り、イスラフェル撃破……………と、なる筈だったのだが、今や使徒戦はそんな甘いものでは無くなっていた。
いや。何故なんだろうね、ホント。

『『『『なんてインチキ!』』』』

四人の罵声を受けつつ、立ち上がる四つの影。 そう。イスラフェル達は、コアの亀裂の入った所から更に分裂したのである。
いやはや。艦長や大佐から、その可能性を示唆されてはいたが、実際にやられると本当にインチキ臭いなコレ。

『レイ、ミサト、一時撤退。電源を確保して』

どうやら、TV版の様に背水の陣とはせずに幾許かの予備電力を残してあったらしく、ノロノロとした動きで後退する二体のエヴァ。
それを、戦自の面々が苛烈な弾幕を張って支援するが、二体のイスラフェルがATフィールドでそれを遮断し、
その真ん中の空白地帯で、残りの二体が鍵爪を伸ばし、その手を大きく振り上げる。
残念だが、此処までだな。

「(ピコン)アリサ君、スバル君、準備は良いか?」

アスカちゃんの作戦が失敗したと判断した俺は、今回の戦いにスポット参戦する二人に通信を入れた。
本来ならば、ユニゾン攻撃が失敗した時のみの参戦予定。
コンビプレイのお手本を見せる為に、ヤマダの代わりに来て貰ったのだが………
いや、言うまい。今回は相手が悪い。TV版なら間違いなく勝っていた勝負だった。
って、こんな感想、アスカちゃんが聞いたら『馬鹿にしないで! アタシはゲームをやってる訳じゃ無いわよ!』とか言って激怒しそうだけど。(苦笑)

『て…提督、マジでやんのかよ?』

震える声で、そう尋ねてくるスバル君。
やれやれ、何とも往生際の悪い事だ。

「当たり前だろう。伊達や酔狂で、そんな恰好として貰った訳じゃない」

『こんな恰好をしている時点で、酔狂以外の何物でもないと思いますけど』

嗚呼、アリサ君まで。
一体、何が気に入らないと言うんだろう? 実に良く似合っているというのに。

「悪いが、もう時間が無い。苦情は作戦が終ってからにしてくれ」

『それじゃ意味が無いんですけど………』

『しゃあねえ。腹括ろうぜ、アリサ。
 実際、あの嬢ちゃんは良くやった。このまま見殺しじゃ寝覚めが悪いだろ?』

『……………判りました』

何時の間にやら、何かを悟ったかの様な清々しい笑顔となったスバル君に諭され、消え入りそうな声で承諾するアリサ君。
う〜ん、イマイチ引っ掛るリアクションだが大事の前の小事。つ〜か、もう時間が無い。
取り急ぎ出撃命令を出す。

「艦長、発進してくれ」

『了解、ロサ・カニーナ発進します』

   シュッ

『お茶の間の皆さん、お待たせしました。
 先日、友人の結婚式に参加した所為か、アキト分の不足を痛切に感じている今日この頃。ダークネスの女幹部、御統ユリカ只今参上です。ブイ」

なんか珍しくテンション低いなあ。
艦長なのに、星野ルリ16歳バージョンみたいだ。
ってゆ〜か、今回は御題が悪かったな。自分で言って自分で落ち込んでるみたいだ。

   ドシュッ

それを尻目に、それぞれのパーソナルカラーに塗り分けられたノーマルエステを駆り、アリサ君とスバル君が緊急発進。
それぞれの得物のレプリカによって、今、正に二体のエヴァに振り下ろされようとしていたイスラフェル達の右手を貫き通し&切り飛ばした。

正にヒーローの。いや、この場合はヒロインの登場シーン。
それに合わせて、中の二人のバストショットに切り替え、

『弱きを助け強きを挫く、我らアキトの為に戦う悪の華………』

って、なぜそこで尻すぼみになるんだよスバル君。
いかんなあ。どんな名台詞も、照れがあっては心に響かないというのに。

『レッド・サレナ・マックスハート!』

『お…同じく、シルバー・サレナ・マックスハート』

そのまま、ヤケクソ気味に叫ぶスバル君と上擦った声で名乗り上げを決めるアリサ君。
共に、女幹部の証である百合ルック(当然、それぞれのパーソナルカラー)に身を包んでいるのだが………
残念ながら、こうして画面越しにそのアクションを見ると、これがもう艦長の様に着こなしているって感じじゃなくて、明らかに服に着られているといった雰囲気だった。
惜しいな、折角良く似合っているってのに、心の準備が出来ていなかった様だ。
畜生、ダイナミズムを優先して、ぶっつけ本番にしたのは失敗だったか。これは、今後の教訓としよう。

『……………今更って気もするけど、恥ずかしく無いの、ソレ?』

『判りきった事を聞かないで下さい!』

『つ〜か、此処は敢えてスルーするくらいの気遣いを見せろよ。危ねえ所を助けてやったんだから!』

アスカちゃんのツッコミに、逆切れ風にそう叫ぶアリサ君とスバル君。
だが、二人も歴戦の勇者。そんな動揺など瞬時に納めると、

『と…兎に角、後は俺達に任せて撤退しやがれ』

『その通りです。速やかに。決して後ろを振り返らずに。そのまま、今日の事なんて総て忘れて下さい!』

必死だなアリサ君。
だが、アスカちゃんに、そのセリフは逆効果だ。

『冗談やめて。アレはコッチの獲物よ。
 つ〜か、ソッチこそ此方の計画に協力しなさい。
 これで丁度四機。アンタ達なら、ぶっつけ本番でも出来るでしょう? このバカの動きに合わせてやって!」

葛城ミサトの後頭部を指差しながら、そう宣うアスカちゃん。
ああ、やっぱりこうなったか。
だがまあ、一応、攻略法を提示出来る様になった分だけ、何時ぞやの時より数段進歩している。
それに、今回は彼女に花を持たせるつもり………ってゆ〜か、そろそろネルフに勝って貰わんと色々困る事だし、此処は協力するとしよう。

取り急ぎ、秘匿回線でその旨を伝える。
艦長と大佐は二つ返事。この策を結構評価しているっぽい。
アリサ君は微妙な顔をしているが、スバル君は大いに乗り気だ。
どうも、先程のアレを『シンジに出来る事も出来ないの?』という挑発と受け取ったらしい。
かくて、4対1の多数決により、即席ユニットによるユニゾン攻撃4人バージョンが開始された。

『初号機とレッド、零号機とシルバーの組で、左右に二体づつ使徒を分断してから攻撃開始。
 コッチは内部電源がもう無いから、電源パージは出来ないわ。アンビリカルケーブルを意識して動いて頂戴』

『攻撃タイミングをそちらに合わせつつ、初号機と零号機のアンビリカルケーブルが絡まない様に。
 そして、此方が誤ってそれを切断しない様にですか。少々、注文が多いですね』

『まったくだ。人使いの荒い嬢ちゃんだぜ』

『ああもう。兎に角ヤルのよ!』

そんな掛け合いをしつつも、息の合った。より正確に言えば、他の四人が葛城ミサトに合わせた動きで四体の使徒を二組に分断。
縮尺からして違うから、もはやユニゾンでも何でも無い気もするが、四機揃って同じ型の攻撃を繰り出し、
最後に、零号機と初号機がプログレッシブナイフで、アリサ君とスバル君が、それぞれの得物でコアを刺し貫いた。

結果は、一応成功だった。
過程には少々問題があったものの、最終的にはピッタリのタイミングで総ての攻撃がコアを貫いた。
問題はイスラフェルが尚も健在な事。今度は7体に分裂したのだ。(笑)

『げえ〜っ、いくら何でも反則だろ、こりゃあ〜!』

時間稼ぎに、群がるイスラフェルABCの四肢を赤雷で切り飛ばしながら、思わずそう洩らすスバル君。
俺としても、まさか此処まで金太郎飴じみた分裂を繰り返すとは思わなんだ。
まあ、奇数の7体となった所を見るに、この辺で打ち止めっぽいけど。

『それで、どうしますアスカさん?
 私とリョ…じゃなくてレッドが二体ずつ担当したとしても1機分攻め手が足りませんけど?』

同じくイスラフェルDEを蹴散らしながら、アリサ君がアスカちゃんに尋ねた。
二人共、ウンザリとはしているが、焦った様子は感じられない。
まあ、イザとなったら、バーストモードからの大規模破壊攻撃で一気に殲滅すれば済む事だしな。
もっとも、それだと使徒娘のモト(班長命名)の回収が難しくなりそうだから、出来れば避けたい所だ。

「ちょ、チョッと待って! どうやって一機で二体担当するのよ!?」

「手は二本ありますので」

問い返すアスカちゃんに、シレっとそう答えるアリサ君。

「……………とことん化け物なのね、アンタ等って。いっそ、そのロボットに8本手が付いていたら、一機でも倒せるんじゃないの?」

いや、流石にそれは無理だろ、サイズ的に。
それ以前に、そういうヤバイ発言は止めて欲しいな。
班長辺りが、喜んで真に受けかねないじゃないか。

    バキ、ボコ、ドス………

嗚呼、もうなんでも良いから、早く決定を下してくれアスカちゃん。
チョッと離れた戦場で、地味に袋叩きにあいつつも必死に時間稼ぎをしているレイちゃんとシンジ君が可哀想だから。

  ドサッ

そんな俺の心の声が聞えたのか、既にグロッキー状態の零号機を放り出し、主戦場に駆けつけるイスラフェルFG。
イスラフェルABCDEもまた、バックステップでアリサ君達から距離を取る。
そのまま、やや扇形な横並びに整列する。
はて? 一体、どういう、

   キュイ〜〜〜ン!!

と、思った瞬間、凄まじい轟音が響き、スピーカ越しに俺の耳を痛打。
そして、イスラフェル達の前の地面が砕け、見えない何かが初号機を襲った。
それを特大のATフィールドを張って防ぐアスカちゃん。
その必死な表情から見て、かなりの圧力が掛かっている様だ。

なるほど、超音波攻撃か。そういや、アレは音楽の天使だったな。
七体分身なのも、おそらくはそういう理由。これは、ABCじゃなくてドレミと数えるべきだった様だ。

にしても、コイツは拙いな。
今のは上手く吸収しきれた様だが、あんなのを何発も貰ったら多分もたない。
そして、避けようとすれば、後ろにいる戦自の支援部隊を犠牲にする事になる。
アスカちゃんには悪いが、この辺が潮時か。

『チャ〜ンス! シンジ、アレをやるわ! 使徒を拘束して!』

そう思った俺がアリサ君達にGOサインを出そうとした刹那、彼女はそう叫びながら予備の武器が用意してあるコンテナに向かって、初号機をダッシュさせた。

『無理だよ、そんなの。アレでの拘束は二体が精一杯………』

『その辺は、愛と勇気でカバーして!』

『ってゆ〜か、どんな策だか知らないけど、なんでシンジ君には教えてあって、作戦部長の私に黙っていたのよ!』

『だあ〜、文句は後で聞くから、今は黙ってヤル!』

口々に言い争いをしながら、作戦(?)を展開するアスカちゃん達。

『出番だぜ、アリサ』

『そのようですね。でも、せっかくだから、五体だけにしておきましょう』

スバル君に促され、アリサ君も機体をバーストモードに。
なるほど、そういう事か。
となると、問題はアスカちゃんの決め技。一体、ナニをやるつもりなのかな?

『ムーン・ストライク!』

まずはアリサ君が先陣を切り、緩い扇型に整列したまま戦略的撤退中の初号機に照準を定めようとしていたイスラフェル達の右端から五体に向かって、
直径50m程の巨大な円形の輪を。あの大戦の最中、ダリアの動きを封じた事もある必殺技を5連続で放った。
機体の出力と複数打ち出す関係から、内部への破壊のエネルギーの放出は無し。
その拘束力も、本来のものの1/10も無いが、超電磁○ールに捕らえられた鎧○士の如く、その動きは完璧に封じられている。

『いくよ、綾波さん!』

『ええ』

『『フィールド全開!』』

続いて、左端のイスラフェル達に肉薄した零号機から、ATフィールドが広域展開。
そして、その反対側からも同様にATフィールドが展開され、二体の使徒をサンドイッチ状に挟み込んだ。

なるほど。片方がレイちゃん、片方がシンジ君か。
にしても、ATフィールドってのは予想以上に汎用性が高い様だ。
自分の反対側からの斥力場展開なんて、DFじゃ出来ないぞ、多分。
そして、本命のアスカちゃんはと言えば、

『本当に、こんなんでイケるの?』

『良いから、それを投げる事に集中して!』

葛城ミサトと揉めつつも、コンテナからソニックグレイブを投槍に見立てて投擲する体制に。
それに伴い、初号機の右手を伝って、ATフィールドの紅い光が、それを包んでゆく。

『いけええ〜ッ!』

『どりゃあああ〜っ』

そして、二人の発した裂帛の掛声と共に、初号機がソニックグレイブを投擲………えっ? 槍が見えない? 
って、もうコアに風穴が空いているの? それも7体全部!?

『見えたか?』

『いいえ。投擲の瞬間と、7体目を貫いて飛び去る所がチラっと見えたくらいです』

『俺もそんなトコだ。結構やっかいな技だな』

えっと。アリサ君、スバル君、それってどういう………

   ピコン

『説明しましょう!
 先程、お茶の間の良い子達が、出来の悪い特撮か何かかと誤解したかもしれない映像が映ったけど、あれは現実に起こった事なの。
 それじゃ、問題の今回の決まり手。
 ATフィールドでコーティングされた事によって付与された特性について私の見解を語るわね。
 まず、投擲されたソニックグレイブだけど、これは秒速約4q程のスビードで約3秒間飛翔した後、海岸から約12q程先の海上で消失。
 原因は、空気抵抗による摩擦熱での融解。ついでに、ソニックブームもかなり派手に撒き散らしていたわ。
 あれは、チョッとした爆弾くらいの破壊力があったわね。市街地上空でなくて、本当にラッキーだったわ」

秒速約4qって………マッハ12!
嘘だろ、おい!? 大気圏中で出せるスピードじゃないぞ、それ!

「何故そんな事になったのか?
 これが、例の決まり手と密接に関係しているわ。
 観測されたデータから算出した数値によると、投擲された瞬間から爆発するまでの約3秒間。
 ソニックグレイブは、空気抵抗を全く受けておらず、しかも、重力の影響下からも切り離されていたの。
 つまり、減速要素が一切無し。だからこその、超スピードというわけね。
 そして、ATフィールドのコーティングが切れた3秒後、いきなり過酷な環境下に放り出された結果………ボ〜ン!」

爆発のジェスチャーを取りながら、尚も絶好調で説明を続けるイネス女史。
畜生、なんか知らんが、話術が無駄にスキルアップしてやがる。
一瞬、本当にソレ系の番組のお姉さんに見えちまったぜ。
って、いまや本当に一本番組を持ってるんだけどさ。(泣笑)

「ATフィールドによるコーティング。
 チョッと長いから、今後は略してATC(エーティーコート)と呼ばして貰うけど、これの効能は各種抵抗力の遮断だけじゃないの。
 その最大の効能は、投擲者の意思の反映にあるのよ。
 はい、このイメージ映像を見て頂戴」

と言いつつ指差す先には、ディフォルメされたイスラフェル達。
上空から見たアングルで、緩い扇状に並んでいる所が映し出されていた。

『通常、投擲された槍というものは、放物線上の軌道で飛ぶものなんだけど、
 このATCを施されたソニックグレイブは、重力による縦の軌道変化は無しに、緩やかに横にスライド。
 ぶっちゃけて言えば、扇状に並んだ使徒達の左端から、7つのコアを繋ぐ微妙に歪なスライスラインを超高速で貫いたの。
 現状では、まだ状況証拠しか無いんだけど、これは明らかに投擲者のイメージ通りの軌道を飛んだとしか思えないわ』

その説明に合わせて、ソニックグレイブが7つのコアを次々に貫くシーンが、ゆっくりと再現される。

なるほど、超高速で打ち出されるホーミングミサイルみたいな技ってことか。
最大射程が短いから遠距離攻撃は無理だし、投擲モーションがやたら大きいから、近距離では出す前に潰されるだろうが、中間距離では正に必殺技だな。
ウチのエースパイロット達ですら、アレの回避はかなり困難だろう。
考え無しに突っ込むヤマダ辺りなら、まず間違いなく直撃を貰う事になる。
もっとも、それでも平気で生き残るのがヤマダクオリティなんだけど。(苦笑)
しかし、なんとゆ〜か。こりゃあ、今のアスカちゃんがシンクロ可能だった日には、俺達ってイラナイ子になっていたかも知れんな。
あはははははっ………………惣流=キョウコ=ツエッペリン、お前は自分の娘に一体ナニをしやがった! 畜生、帰り次第、徹底的に問い詰めてやる! 

『そこで、私のATフィールドに関する現時点での仮説なんだけど…………』

   プチ

苛立ち紛れに、ヤバイ部分に突入し始めたイネス女史の説明を打ち切る。
画面には『暫くお待ちください』の文字。ついに初黒星の放送事故である。
正直、これだけはやりたくなかったのだが、あのまま喋らしておく訳にもいかない。
その辺の事まで語った日には、エヴァの暗部が白日の下に晒されかねないのだ。
って、こんな基本的な事が彼女に判らない筈が無いのに、どうしてあんな真似をするんかな?
『イネス女史だから』としか答え様が無い所が怖いな。

   ピコン

『ちょっと提督! 良い所だったのに、何で止めちゃうのよ!』

「小首を傾げて、ゆっくりと考えて下さい。きっと自分の過ちに気付く筈です!」



   〜  20分後、転生の間 〜 

色々と計算違いが起こった今回の使徒戦だったが、結果から言えば概ね成功。
あの第7使徒みたいな非常識な相手と戦わされるのは、正規の軍人にとっては悪夢でしかないだろうし、
それに真っ向から戦い、ウチの助力を得たとはいえ、見事に勝利をもぎ取ったネルフの手腕は相対的に上がった筈だ。
今後は、某作戦部長のお目付け役として、アスカちゃんも作戦部に加わる予定だし、当座の所は、ネルフの指揮権が奪われる心配は無くなったと見て良いだろう。
第七使徒の魂も、また然り。 これまでの7倍近くもコアを削られた(だって、ダメージを受けた箇所が7倍)故、
一時は回収が危ぶまれたが、カヲリ君の話では、特に問題はなかったらしい。実に喜ばしい限りである。
そんな訳で、晴々とした気分で転生の儀式を始める。

「さあ、目覚めるが良い。神に祝福されし、天使の魂を受け継ぎし子よ!」

この時の為だけに用意した神官服の裾を靡かせつつ、俺は徐にフラスコを指差し、それに合わせて、カヲリ君が使徒の魂を解放つ。
彼女の手から飛び立った紅い光玉が、用意された受肉用の器に吸い込まれる。
それと同時に、中のLCLがゴボゴボと音を立て、次いでフラスコ内部が激しく発光。
そして、その輝きが収まった時、

「(ポロン)初めまして提督、カヲリ。それじゃ、この出会いを祝して一曲歌いましょうか♪」

ふわふわの茶色の髪に、つぶらな琥珀色の瞳をした、15〜16歳位の愛らしい少女が、小さなクラシックギターを弾きながら俺達の前に現れた。

「ハッピバスデー、トゥ、ユー、ハッピバスデー、トゥ、ユー、ハッピバスデー、ディア………あれ? これって、自分で歌うとチョッとマヌケだよね♪」

う〜ん、ボケてくれるなあ。
正直、そろそろ男の子で『俺の歌を聴け〜!』とか叫ぶ類の少年とか、
ピンク色のロングヘアで星型の髪留をした(此処ポイントね)お嬢さんが来ると思っていたんだが、これはこれで良い感じだ。
何より、悪しきインフレ現象が断たれた事が素晴らしい。

「私、音無マリア♪ まずはミカン箱から始めようと思っている歌手志望の少女だよ♪」

ますますもって素晴らしい。
勉強嫌いの癖に、いきなり海洋生物の博士号という肩書きを欲し、
何故かと尋ねれば、『海の姉妹達と戯れる為の便宜上の理由に都合が良さそうだからよ』と宣まった、良識部分をナマコに依存している某少女なんかとは心掛けが違う。

「あの、やっぱり許可とか取らないとダメですか?」

嗚呼、俺、今、チョッと感動しちゃったよ。
ギターを弾かなくて喋れるんだ、彼女。しかも、此方に対する気遣いまでしてくれるなんて。
こうなると、果然肩入れしたくなるから不思議だ。

「心配は無用だ。早速、これから君のデビューの為の会場を押さえよう」

上目遣いに此方を見詰めていたマリアちゃんの肩をポンと叩きつつ、俺は全面的なバックアップを約束した。
だが、何故か彼女は、おもいっきり不安そうな顔をしながら、

「あ…あの。私、A○嬢にだけはなりたく無いんだけど………」

「さて、マリアちゃん。デビューの前に、相互理解を深めるべく、チョッと腹を割って話し合おうか?」

再び、その肩をポンと叩いた後、俺は彼女の誤解を解くべく、小一時間ばかり熱弁を振るった。



    〜 二時間後、2199年では午前10時の某特設ホール 〜

呆れた事に、木連にはコンサート会場という物が存在しなかった為、急遽、表向きの旗艦であるロサ・キネンシスの駐留に貸して貰ってある某格納庫に、
某組織主導の下に仮設の会場を組んで貰った。
流石と言うか何と言うか、素人が組んだとは思えない良い出来である。
だが、生憎、肝心の観客動員数はイマイチだった。
なんと、こうしたイベント自体が木連には存在しなかった所為か、ナデシコクルー以外は、サクラとして呼んだ関係者とその縁者しか来てくれなかったのだ。
マリアちゃんは『取り返しのつかない事にならなくて良かったんだね♪』とか言って寧ろ安心していたし、
班長達も楽しそうに設営していたから初期の目的は果しているのだが、興行的には完璧に失敗である。
確かに、これで儲けるつもりなんてサラサラ無かったのだが、この展開は頂けない。
こんな事では木連は何時かダメになってしまう。何とか啓蒙運動を起さなくては。
この間の遊楽街の体たらくもあって、思わず胸にそう誓う、俺だった。

かくて、マリアちゃんのファーストコンサートが幕を開けた。
だが、これがいきなりスベってしまった。

「夢が明日を呼んでいる〜、魂の叫びさレッツ・ゴー・パッション!」

必勝を機しての、ナナコさんのコスプレをさせてのゲキガンガー3のOPだったのだが、
ヤマダのイメージが強い所為か某組織にはウケず、意中である木連サイドからも白い目が。
そう。俺の授けた策は、完全に裏目に出てしまったのだ。
それでも、メゲる事無く、フルコーラス歌い切るマリアちゃん。
根性だけは、もうプロ顔負けである。

ううっ。ゴメンよ、『まだ、持ち歌も無いのにそんなの無理だよ♪』っていう君の主張の方が正しかったみたいだね。
セカンド・コンサートは開けないかもしんない。
この際だから、2199年は諦めて、2015年で再出発しようね。
コッチなら、すぐにでも番組を持たせてあげるから。それも、全世界放送のヤツを。

一旦、幕間に引っ込んだ彼女に向かって胸中でそう謝罪する。
だが、再び彼女が………否、彼女達が舞台に立った時、事態は一変した。

「ごめんね素直じゃなく〜て、夢の中なら言え〜る」

美少女戦士の初期メンバーのコスプレで、それぞれが、ギター、ベース、ドラムを担当するミニバンド。
それは、2〜3歳ほど若返った姿をした、マリアちゃんの三人組だった。
此処で、某組織の面々が反応。木連組も、驚いてはいるが悪い反応では無い。
そして、『ムー○ライト伝説』を歌い終えると、

『お空に響けピリ〜カピラララ〜 飛んで走って回っちゃえ』

今度は、5人組になっての『おジャ○女カーニバル』
おジャ魔○達のコスプレで、頭身と年齢がそれにマッチしたものに変わっている。
正直、これはかなりウケた。
何時の世も、この辺は確実な需要を誇っている様だ。

『一難去ってまた一難〜、ぶっちゃけありえない』

駄目押しとばかりに、2人組みとなっての『DANZEN! ふたりはプ○キュア』
頭身が、ほぼ元に戻り、14歳前後の外見に。
ちなみに、彼女の衣装を提供しているのはラピスちゃん。
従って、この手の物ならナンボでもあるのだ。(笑)

『夜空を駆けるラブ・ハート、燃えるお〜もいを乗〜せて』

今度は、一人に戻っての『突撃ラ○ハート』
だが、聴衆の反応は、最初のそれとは大違い。
今や会場は、割れんばかり大喝采………って、何時の間にこんなに観客が増えたんだよ!

嗚呼、これが萌えの力か、ヤック・デカルチャー!
『人数が増える度に頭身が減るから役に立たないんだよね♪』とか言っていたマリアちゃんの特殊能力に、こんな凄い使い方があったなんて!

イケル、イケルぞ! 彼女の力を持ってすれば、この国の腐った体制を改革出来るかもしれない。
さあ転ぶが良い、木連の頑固な硬派共!

「ケロ、ケロ、ケロ、いざ進め〜、地球侵略せ〜よ」

ゴメン、それだけはチョッとヤメテ。シャレになんないから。
今度は着ぐるみ。例のカエルの小隊+SD夏○ちゃん&冬○君の七人組の格好で『ケ○っとマーチ』を歌う
マリアちゃんに、胸中でそう絶叫する俺だった。



>SYSOP

   〜 2時間後。某中華街、紅洲宴歳館、泰山 〜

創業200余年。この街の老舗中の老舗店。
その店長であり、常連客からは、ちびっこ店長と呼ばれ親しまれる謎の中国人、13代目跋さんの振るう中華鍋は、今日も、ありとあらゆる食材を唐辛子まみれにしている。
そう。此処は、知る人ぞ知る辛党のメッカなのだ。

そんな店の常連客の一人に、一人のシスターが居た。
誰にでも優しく且つ誠実であり、また、信心深い事で知られる彼女だったが、何故か心許せる友に恵まれないらしく、何時も一人で食事を取っていた。
それを心配した他の常連客達が、入れ替わり立ち代り話し掛けるのだが、何故か、最後には誰もが青い顔をして去ってゆく。

このままではイケナイ。 だが、これは自分が口を挟んで良い問題では無い。
自分はこの店の店主であり、彼女はお客様。決して友達にはなれない。
そんなジレンマを抱え、跋さんは、その小さな胸を日々痛めていた。
だが、それも今では過去の話だ。 そう。一ヶ月ほど前、彼女にも、ついに友達と呼べそうな者が表れたのだ。

「もう三ヶ月ですよ、三ヶ月!   一体、何時まで私は、出撃の度に格納庫でボーとして居なければいけないんですか!
 おまけに、アッチの世界に旅立ったままちっとも返ってこないヤマダさんに代わって、
 新兵達の指導を引き継いでいるのに、誰もその事を評価してくれないし、その新兵達からして、
 私を見る目にチョッと憐れみが入っていたりするし!」

その友人が。イツキと呼ばれる女性が、今日も何やらブチブチと愚痴っている。
それを親身になって聞き、時に窘めるシスター。
本当に良く出来た人だと跋さんは思う。
チョッとだけ、イツキという女性に腹が立つが、彼女が店に訪れる様になって以来、シスターは目に見えて明るくなった。
それに、二人を包む雰囲気。それは、とても優しいものの様な気がする。

意識を中華鍋の方に戻す。
彼女達の為に、今日も心を込めて最高のマーボーを作る。
それが、跋さんが二人にしてあげられる唯一の事だった。



「嗚呼、先輩! 私は何か、貴女のお気に触る事でもしたのでしょうか?
 私は只、貴女のお役に立ちたいだけで、世間で言われている様な下心なんて………時々しか抱かないのに!」

嗚呼、素晴らしい。
目の前の女性が演じる狂態に思わず笑みが零れそうになり、シスターは、それを必死に押し留める。
何しろ彼女は、自分が愛する至高の料理、マーボーの良き理解者であり、しかも、途切れる事無く延々と我が身の不幸を訴えてくれる愛すべき隣人なのだ。
その機嫌を損ねるのは得策ではない。
そう。これ程の愉悦がこの世にあるとは、つい1ヶ月程前までは想像すら出来なかった事。
今ならば、心からの感謝の祈りを、父なる神に捧げられそうな程だ。
そんな踊る心をひた隠しにしつつ、表面上は、告解を受ける聖職者の厳粛さを演じておく。
そうすれば、目の前の女性は、まだまだ自分を楽しませてくれる事だろう。

ちなみに、彼女の名はシスター=言峰。
何故か、ありえない筈の血筋に。某神父と某女魔術師の遠い子孫として生を受けた難儀な女性である。



   〜  同時刻、木連に仮設されたとある保健室 〜

午後からのシュン提督の執務に合わせ、いつもの様に、特設金庫から書類を取り出しに行くナカザト。
管理人たるフィリスとは既に顔馴染であり、指紋等を始めとする各種確認作業も、受けるべき側である彼の方で半ば強制して行って貰っている様な間柄である。
だが、この日はやや展開が違った。
確認作業の一環という名目の元、保健室付きの医師でもある彼女の手によって、とある心理テストが行われたのである。

「第19問、理想の女性は?」

「えっと……………強いて挙げるなら、義体工学の母と呼ばれるメモリー=ジーン博士でしょうか。
 幼き日に彼女の伝記を読んだ時の感動は、今もって忘れられないものがあります」

(即答出来ない。つまり、普段は意識した事が無い。しかも、悩んだ挙句に28歳の若さで非業の死を遂げた偉人を選ぶ辺り、女性に対して過度の幻想を抱く傾向が見られる)

「第20問、嫌いな上司は?」

「オオサキ提督」 

(即答。それも条件反射的なもの。つまり、普段から常に意識しているという事)

「って、何を言わせるんですかフィリスさん。今のは絶対、正規の物じゃなくて、貴女が即興で作った問題でしょう?」

「あら、バレちゃった?  でもね、こういう抜き打ちな問題の方が、実は重用だったりするのよ」

そう言って、一頻りクスクスと笑った後、

「はい、心理テストはこれで御終い。
 結果は文句無しの合格。貴方の精神状態は極めて健全よ」

フィリスは合格した事を告げつつ、ナカザトに特殊金庫の鍵を渡した。

「はっ、有難う御座います」

弾んだ声で、それに応えるナカザト。
朴念仁として知られる彼だが、美女との会話は、やはり心楽しいものの様だ。
そんな彼を笑顔で見送った後、

(総評。今の所はシロ。ただし、今後の展開によっては可能性あり。早急に、適当な相手とくっつけておいた方が良いと思われる)

現在のナカザトの心理状態をそう結論付けたフィリスは、『自作の』心理テストの用紙を畳みながら、改めて、最近噂の仮想敵への対策を模索し始めた。



   〜 同時刻。2015年では午後7時、防衛庁のとある一室 〜

   カッ、カッ、カッ

「流れちゃいましたね〜、指揮権委譲の話」

「仕方ないさ。ネルフの所に、タイムリーにカードが入っちまったからな。
 つ〜か、鰯水さんじゃないけど、私だって嫌だよ。あんなふざけた兵器を獅子王中将に預けるなんて。何をしでかすか判ったもんじゃない」

「もう、今は西園寺防衛大臣でしょ。あの人が今の地位に就任して何期目だと思ってるの?」

「それを言ったら、私達だって似た様なものだろう?」

夕食にとった特上寿司を摘みながら、まったりと今回の使徒戦後の動向について語る議員達。
そう。生き馬の目を抜く政界にあって尚、此処の党員は、極めて例外的に磐石な結束力を誇っているのだ。
というのも、

「しかし、まさかあの頃の生徒会メンバーが勢揃いするとは思わなかったよな」

「そのセリフだって、何回目だと思ってるのよ。今日び、水戸黄門だってやらないわよ、こんなベタな状況説明」

   カッ、カッ、カッ

「そう言えば、あの人、また入院したんだよな」

「ああ。小夜子さん、今回の話が流れた腹癒せに、例のネタを生徒会長にリークしたらしくて。後はもう、何時も通りのパターンだよ」

「変わらないねえ、あの二人も。結婚して、もう30年近くも経つって言うのに」

「「「あははははっ」」」

   カッ、カッ、カッ………バタン!

「何を弛んでいるの、貴方達!」

突如来訪し一喝。和やかだった室内の空気を、一気に氷点下まで凍りつかせる美貌の熟女。その正体は、

「苦労して根回しした、防衛の主権を取り戻す為の話が流れたというのに、それを悔むどころか喜ぶだなんて!
 嗚呼、情けない! まったく、この国の防衛庁は、何時からこんなに軟弱になったの!」

彼等にとって、恐怖の代名詞の、

「良いでしょう! 今後、此処の指揮は、療養中の夫に代わって、この西園寺まりいが執ります!」

「「「うわ〜っ、鬼嫁付きの防衛庁だあ〜!」」」



   〜 同時刻。芍薬の中庭 〜

   ジュ〜、ジュ〜、ジュ〜

その日の夕食は、今回の勝利を祝ってのチョッとしたバーベキューパーティだった。
炭火に炙られた網の上の具材達が良い感じ焼けている。
その内の肉を重点的に摘みながら、アスカは、集まったメンバーを前に物思う。

ナオさん。あの後、勝利を祝うべく、急遽この設備を整えたらしい。
しかも、総て自作との事。本当に奥の深い人だと思う。色んな意味で。

ミリアさん。得意そうに炭火焼きの薀蓄を語っているナオさんの隣りで優しげに微笑んでいる。
どう見ても彼女の方が年下なのに、まるで彼のママの様な雰囲気だ。
いや、それを言ったら、自分も彼女の娘みたいなもの。
実際、あの人には、周りに居る人間を子供にする何かがあると思う。これを母性と言うのだろうか?

シンジとレイ。正直、結構良いコンビになると思う。
カヲリを巡っての微妙な対立関係にあるらしいが、それほど仲は悪くないらしい。
今も、ぶきっちょなレイの為に、彼女が崩してしまったタマネギをシンジが纏め、小皿に移している所だ。
問題は、どうやってアイツを、正式にコチラ側に引き込むかだ。
バックに北斗先生が居る以上、無理強いは論外。
今回みたいな強引な出撃は、初回特典とでも思った方が良いだろう。

その北斗先生。コレについては、あまり考えたくない。
シンジを無理矢理ネルフに引っ張っていった日の翌日。
出会い頭にギロリと睨まれた時の事を思い出すと、今もって寒気がする。
その時点で身に染みて理解した。彼は正に、存在自体が理不尽の結晶なのだと。
もっとも、そんな常識外れな彼の指導の御蔭で、今回の作戦が成立したのだが。
カブキはアナザーな縄跳びの………(コホン)ことわざなんてどうでも良い。
正直、ミサトと合わせて、あんな怪獣の面倒をみている零夜には、ご苦労様としか言い様が無い。
ある意味、第三新東京市の平和は彼女が守っていると言っても過言では無いと思う。

ヒカリ、カヲリ、マユミの三人も此処に居る。
彼女達との他愛無いお喋りが、平和が戻ってきた事を実感させてくれる。
あと、呼びもせんのに、ジャージとカメラも何故か居て、欠食児童の様な勢いでガッついている。まあ、良いけど。

加持さんとマコトは、招待はしたが来なかった。
加持さんは、急な出張だと言っていた。残念だが、仕事では仕方ない。
マコトの方は入院加療中。
何でも、あの戦いが終了した直後、『か…改造は嫌だ』とか意味不明なことを呟きながらぶっ倒れたらしい。
きっと、ついに初勝利を得た事で気が抜けたのだろう。
正直『大げさだな〜』とは思うが、自分の仕事は果した後の事。特に非難する気は無い。

最後にミサト。これはチョッと言い表し難い。
と言うのも、あの使徒戦の最後の一撃。あれは、アスカにとっても意外な結果だったのだ。
実は、本来あの技は、イメージした軌道を飛ばすのがやっとのもので、7体総てを、修復が始まる0.635秒以内に貫けるかどうか微妙なスピード。
しかも、シンジと行なった練習では、成功率が40%弱と、正に、いちかばちかの攻撃だったのである。

だが、あの瞬間。初号機であの技を放った時には、外す気が全くしなかった。 それくらい明確にイメージが固まったのだ。
おそらくは、シンジの倍以上のシンクロ率による恩恵だろう。
特に、あれだけの投擲威力を得られた理由は、それに間違い無いと思う。
となれば、自分の相方はミサトで決まりだろう。
レイとのダブルエントリーと違って、何故かシンクロ率がほとんど低下しない事だし。

兵士としてはどうしようもないが、コレを上手く使いこなせれば、強力な戦力になる。
姉だなんて思いたくは無いが、相棒としては結構魅力的。
心中、なんとも複雑なアスカだった。



   ジュ〜、ジュ〜、ジュ〜

その日の夕食は、今回の勝利を祝ってのチョッとしたバーベキューパーティだった。
炭火に炙られた網の上の具材達が良い感じ焼けている。
その内の肉を重点的に摘む。やっぱ肉。零夜の作る食事にはコレが少々足りないと思う。
まあ、そんな事を言ったら、また御説教を食らうので口には出さないが。
エビちゅの味もまた格別。正に勝利の美酒である。
そんな中、ミサトは、上機嫌でアスカに話し掛けた。

「しっかし、最後に使ったアレ、チョッち良い感じよね〜
 此処は一丁、ダークネスのロボットに対抗して、必殺技名でも付けようかしら?」

「イヤよ! ど〜せ、碌でもない名前を付けるにきまってるんだから」

「まあまあ、そう言わずに♪」

相変わらず『アレはダメ!』『コレもダメ!』と、アスカは生意気な口をきく。正直、可愛くないと思う。
だが、初勝利と共に心が広くなったのか『まあイイや』とばかりに棚上げし、必殺技名の摸索に入る。
暫しの沈思黙考。そして、

「ん〜、そうねえ『ガエ・ボルグ(とてつもなく大きくて重い銛状の槍。敵に投げつけると穂先が30もの小さな刃になって飛び散るという魔力を秘めている)』なんてどう?」

それに対し、アスカは更に顔を歪め、

「絶対イヤ。何が哀しくて、息子と親友を撃ち抜いた挙句、自分自身のの命を奪うこととなった魔槍の名前なんて付けるのよ。縁起でもない」

「んじゃ、『ゲイ・○ルク(刺し穿つ死棘)』ってことで」

「それじゃ設定がアレンジされただけでしょ!」

「デ○バウンド」

「それは女○転生! ってゆ〜か、いい加減クーフーリンから離れなさいよ!」

キャンキャンと喚くアスカの姿を眺めながら、ふと物思う。
相変わらず、彼女が何を考えているのかは良く判らない。
その言動も、最近ではチョっち謎めいてきていて、リツコなどは、その原因を知ろうと躍起になているらいしい。
だが、ミサト自身は、大して気にしていない。
アスカが敵じゃないという確信が、彼女にはあるからだ。

『本当に、こんなんでイケるの?』

『良いから、それを投げる事に集中して!』

あの時、アスカの見ていたものが自分にも見えた。
それと同時に、自分に優るとも劣らぬ、熱い情熱が伝わってきたのだ。

今もこの手に残っている、使徒を撃破した紅い槍の感触。
あの一撃を放った一瞬だけは、彼女と心が重なった様な気がするミサトだった。




次回予告

孵化直前の使徒が眠る浅間山火口。
ミサトは速やかに『A−17』発令を要求する。
一方、全てにおいて優先された状況下で王百華の治療を試みるナデシコスタッフ。
神官仕様のゴートが少女の深層意識へ挑む!!
愛と萌え心の極限状態!!
シュン提督がそこで見たものは!?

次回「メンタルダイバー」

変わらぬ愛などあるのか。




あとがき

世の為、人の為、鳥坂一族の野望を打ち砕く、惣流=アスカ=ラングレー!
このATフィールドの輝きを恐れぬのなら、かかってこい!

………すみません。最早こうした小ネタを入れないと、あとがきが始められなくなってしまった、小心者のでぶりんです。
どうにも駄目なんですよね。一度始めてしまうと、もうやらないと手抜きの様な気がしてしまって。(苦笑)

ともあれ、今回は前回の予告通り、アスカが主役のお話です。
次回、彼女には修学旅行に行って貰わなくてはならない関係から、前回の分と合わせ、予定の3倍活躍して貰いました。
書いている間、やはり、『押すか押さないか?』の選択を迫られた時、躊躇い無く『押す』タイプの人間こそが主人公向きな性格なのだと痛感する想いでした。
正直、彼女が主人公の方があきらかに書き易かったです。

ですが、その弊害もまた絶大でした。
御蔭で、典型的な『押さない』方を選ぶタイプのシュン提督とシンジの二大主人公達が良い様に翻弄される事になり、ルリを隔離していた意味の大部分が消失。
初期プロットも、大幅な変更を余儀なくされる結果となってしまいました。
特に、今回立てる予定だった重要なフラグが完全に消失したのが痛いです。(泣)

このままではいけません。なんとかアスカにも足枷を付けないと。
そうだ! 普段は普通の女の子より多少強い程度なんだから、通学中の暴漢に襲われた所をシンジに救われる形に。
そして、そのままLASに持ち込めば、彼女も少しは大人しくなってくれる筈………

   シュッ

えっ? こら何をするヤメロ▲×◎◆▽*●□

PS:7月の税制度変更準備の為、また二ヶ月くらい間が空いてしまいそうです。決して不幸な事故にあったのでは無いってことね。
   それでは、もったいなくも御感想をくださる皆様に感謝すると共に、再びお目にかかれる日が来る事を祈りつつ。ごきげんよう。




【アキトの平行世界漫遊記D】

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

なんか微妙に前回の分の鬱憤を晴らしているような(笑)>アスカ大活躍!

まぁ、作者の人も仰ってるようにこのままではワンマンショーになりかねないのでどこかで掣肘は必要でしょう。

・・・・このさい舞歌さんあたりを呼んでくるしかないか!?

 

>辛い時こそ不敵に笑え

あれですか、キョウコ女史には伊吹一族の血が流れてたりするんですか(爆)。

そうだとすると「心に棚を作れ!」とか「人呼んで惣流・アスカ・ラングレー!」とか名乗りをあげちゃったりするんですか?