>OOSAKI

   〜 同時刻、ダークネス秘密基地 〜

かくて、これまでの使徒戦では考えられなかった様な劣悪な戦闘条件にて、第八使徒戦の火蓋が切って落とされた。
何せ、メインスタッフ全員が、百華ちゃんの記憶修復作業の為、2199年に帰省中。
戦力半減どころか、母艦たるロサ・カニーナすら無い状態での参戦なのだ。
しかも、示し合わせた様なタイミングで、更なるアクシデントが。
艦長を始めとする地球在住組が、時折、音信不通に。
2015年で使徒戦をやっている関係から、春先から現在に至るまでに何度か、毎回約3〜4時間位その行方を晦ましている事が、地球政府にバレてしまったのだ。
調べたところ、主要クルーをマークしていた明日香のエージェントからのリークらしい。
大方、此方に揺さ振りを掛ける為なんだろうが、カグヤ君にはホンに振り回されっぱなしである。
そんな訳で、何とか目を逸らす為の人身御供として、終戦記念式典からこっち、ボナパルト大佐には、連合本部へ例の侵略戦争の中間報告に行って貰っている。
なんとなく、碇ゲンドウが委員会へ赤木リツコを差出したのと似た様なシュチエーションの様な気もするが、これは大佐自身が言い出した策。
自信があったのだろうし、実際、あまり心配もしていない。
きっと今頃は、あること無いことホラを吹きまくって、上手く煙に巻いてくれている事だろう。
何せ、出発する時は、ホテルオーナーモードだったし。

ともあれ、これまで作戦指揮を執っていた二人は不在。
そんな訳で、今回の使徒戦の段取りは、総て春町三尉に任せてある。
その指揮下にあるのは、何時も通りトライデント中隊のみ。
一応、ハーリー君とカヲリ君も参加しているが、基本的には撮影用スタッフ。
MAGIをシステム掌握してエヴァを手駒とするのも、連続ジャンプによる撹乱戦法も禁じ手である。
この状況でどう戦うのか? 連携の取れない中、ネルフの戦力をどう生かすのか?
ある意味、今こそ用兵家としての彼女の真価が問われる時と言っても過言ではあるまい。

『沈降速度20に固定。現在、深度80。各部問題なし。
 DF正常稼動中。視界ゼロ、これよりCTモニタに切り替えます』

とか何とか言ってる間にも、作戦は順調に進行中。
キビキビとした口調で口頭での状況説明をしつつ、オペレータ席にて、IFSによる各種制御を行なう春待三尉。
その声に続き、赤一色だったモニター画面が、微妙に流動する橙色の光に切り替わる。
ちなみに、彼女の乗った、このトライデントΓ改EX。
ウリバタケ班長と時田博士の合同作品の第二弾であり、先の第六使徒戦において、ガキエルの胃液に装甲部を全滅させられた万能潜水艦トライデントΓを改修し、
DF発生装置と各種耐熱耐圧を施してマグマ・ダイバーごっこを可能とした機体である。
無論、地中探査艇ならぬ火口強襲機に相応しく、その先端部がドリルになっている事は言うまでも無いだろう。
いわゆる、君と僕のお約束というヤツだ。

『深度900、目標深度に到達。
 深度1400付近。予定より深度100程深い地点にて使徒の幼生体を発見』

『了解。これより攻撃を開始します』

かくて、『熱いわね』や『プログレッシブナイフ、ロスト』といったイベントを省略し、
突入から僅か一分少々という巻きの入った展開にて戦闘開始。
捕獲しても意味がないので、いきなり殲滅に掛かるトライデントΓ改EX。
距離は500。溶岩という遮蔽物があるとはいえ、基本フレームを無視して無理やり設置された主砲には。
予備在庫としてネルガルの倉庫に眠っていたナデシコ副レーザー砲の大出力(?)の前には、何の障害にもならない。

  キュイン

当然の様に、使徒の額部に露出していたコアに命中させる浅利三曹。
そう。だからこそ、この機体はトライデントΓ改EXと名付けられたと言っても過言では無い。
この辺、スト○―トファ○ターUが、ダッシュ、ターボ、スーパー、Xと、往生際悪くス○Uであり続けた故事に通じるものがある。
兎に角、どんな機体だろうが『Γ』でありさえすれば良いのだ。

『コアの破壊を確認。……………第八使徒、なおも健在!』

戦果を確認するも決定打とはならず。擬態を捨て、甲羅を着けたエイの様な形状に。

『第八使徒、孵化! そのまま攻撃態勢に!』

半ば予想していた事とはいえ、つい声を荒げる春待三尉。
この辺はもう、未熟と言うより若さの発露と言うべきだろう。
にしても、あれで決まるとは思ってなかったが、まさかコアまで擬態するとは。ホンに第四以降の使徒達は裏技が多才だな。
まあ。だからこそ、N2を火口に大量投下して殲滅という、最も簡単で確実な策に二の足を踏まざるを得なかったんだが。

『作戦Aの失敗を確認。これより、作戦Bに移行』

一目散に緊急浮上を図るトライデントΓ改EX。
追いすがる第八使徒ことサンダルフォン。両者の機動力の差は圧倒的であり、その距離はアッという間に縮まってゆく。
そして、深度500付近にて、その顎が射程距離に。

心なしか、獲物を前に舌なめずりをする肉食獣の様な仕種を見せるサンダルフォン。
だがこれは、かの胎児の使徒のお株を奪う擬態。春待三尉の張った心理的トラップだった。

『今よ、冷却タンク射出!』

『了解!』

両者の距離がゼロとなり、サンダルフォンが喰いつこうとした瞬間を狙って、春待三尉が号令を。
それを受け、浅利三曹が、船体下部に設置されていたタンクを切り離し、その口の中へと放り込む。
事実上の零距離射撃ゆえ回避不能。原作通り、急速冷却による大ダメージを。
そして、動きが鈍ったその隙を狙って、

『急速反転! トライデントΓ改EX、突貫!』

掛声も勇ましく、その先端を回転させつつ体当たりを敢行。
それにより、ドテッ腹に大穴を開けられるサンダルフォン。
そう。伊達にドリルを付けていた訳じゃ無かったのである。
正に、時田博士の面目躍如とも言うべき必殺機構だろう。
そんな彼も、本来なら埋もれたまま終った筈の天災………じゃなくて、天才なんだから、歴史ってヤツは奥が深い。
案外、平行世界とやらを見渡せば、ウリバタケ班長共々、違法改造とか公金使い込みとかで、
『貴方を犯人です!』とばかりに、逮捕されているケースの方が主流なんじゃないかと思う今日この頃である。

『ギシャ〜〜〜ッ』

だが、決まったかに見えたその攻撃も、運悪くコアには当らなかったらしく自己修復を開始。
と同時に、追撃を恐れてか、火口頂上部へ逃亡を図るサンダルフォン。

『(チッ)外したか。作戦Cに移行! 各小隊、手筈通り迎撃を!』

『『『OK、姐さん!』』』

春待三尉の指示を受け、既に包囲殲滅戦の準備を完了していたトライデント中隊が攻撃を開始。
上空から冷却材を散布して、サンダルフォンの頭を押さえに掛かる戦闘機小隊。
離れた位置に火口を囲む様に陣取り、遠距離からの支援砲撃に徹する、第一&第二戦車小隊。
そう。これまでは使徒の土俵だったマグマ内は、今やトライデントΓ改EXが止めを刺す為のフィールドとなっている。
このまま外に逃がす訳に行かないのだ。

だが、敵もさる者。その体型を、四肢を生やして亀っぽく変化。火口に踏ん張り、口から火砕流状の火炎放射を放つ。
散開こそしているものの、地形の問題から、回避行動を取るのが困難な戦車小隊。
これを、霧島三曹とストラスバーグ三曹がSSTOの盾で。
予備機を使用してのWトライデントβにて、ホバー全開で縦横無尽に跳ね回り、撒き散らされる使徒の攻撃をガードする。
正に怪獣大決戦。ガ○ラと戦う○衛隊のインスパイヤの様な戦闘に。
と、その時、戦いの均衡を破る者が。

   ガッシャン、ガッシャン、ガッシャン………

『ど〜け、どけどけどけどけ〜〜〜っ!!』

『って、せめても〜チョっと言葉を選べ〜〜〜っ!』

時速65qと、マ○ンガーZよりもやや早い速度で疾走しつつ、葛城ミサト&アスカちゃんIN初号機登場。
その右手には、既にATCを施されたスマッシュ・ホークが真紅の輝きを放っている。
くっ。完全に“止め”だけを狙って来やがったなコイツ。
ある意味、此方の注文通りなんだが、なんか口惜しいぞ。

『でや〜! 必殺、スカーレット・トマホーク!!』

と、俺が忸怩たる思いで見守る中、スマッシュ・ホークを大きく振り被りながら接敵すると、
葛城ミサトの駆る初号機は、そんな絶叫と共に、サンダルフォンを頭から胴体中部まで一気にカチ割った。
う〜ん、あのいかにも固そうな甲羅をものともしないとは。予想以上にイイ切れ味だぞ、ATC。
にしても、まさか本当に必殺技名を考えてくるなんて。お前はどこのヤマダ ジロウ………

   ドカ〜〜ン!

って、何故そこで爆発する!?

『くっ。やっぱり強度が足りなかったか』

『アスカのアホ〜!』

『アホはアンタでしょ! だから『武器はソニック・グレイブにしよう』って言ったじゃない、アタシは!』

『だってだって、折角の新兵器だから使ってみたかったんだも〜ん』

爆発の中心部に居たため派手に吹っ飛ばされたものの、ATフィールドでのガードが間に合ったらしく、何事も無かったかの様に口喧嘩を始めるアスカちゃんと葛城ミサト。

『だいたい、何で爆発なんてするのよ?』

『言ったでしょ、『ATCで外周部はもっても、中身のスマッシュ・ホークがもたない可能性が高い』って!。
 だから当った瞬間、ダムダム弾みたいに派手に砕け散ったのよ』

『それにしたって、派手にハジケ過ぎよ!』

『そんなの、あったりまえよ。かかった圧力がハンパじゃないもの』

なるほど、そういう事だったのか。
いや。図らずも説明ありがとうアスカちゃん。

さてと。後は………って、上半身がキレイに無くなってるぞ、おい。
まいったな。これじゃ、肝心のコアが消失………

『第八使徒、尚も健在!』

へっ?

『キシャ〜!』

そんな春待三尉の警告を合図にしたかの様に、下半身が。
サンダルフォンの尻尾の部分が、大きく跳躍。初号機に躍り掛かる。

『えい』

   プス

だが、それをソニック・グレイブが迎撃。
漸く戦場に到着した零号機が、襲い来る尻尾の先端部にカウンターを合わせ、一気に刺し貫いた。
そして、どうもそこにコアが在ったらしく、此処で漸く『パターン青消失』の報が。

『ダンケ、助かったわレイ。
 にしても、やるじゃない。アレの出鼻を捉えるなんて』

『タイミングは、碇君が教えてくれたから』

アスカちゃんの賞賛に、チョッと照れた様な声音でそう答えるレイちゃん。
勝利を称えあう美少女達。だが、此処でそんな良い雰囲気を台無しにする無粋な声が。

『って、ズッコイわよレイ〜!』

『そう、良かったわね』

『良かないわよ! 私の見せ場を返せ〜!』

そんな葛城ミサトの八つ当たりな絶叫を合図に、第八使徒戦は終了した。


『シベティ、シベティ、シンダラ、バシニ、ソワカ』

画面内に映し出される転生の舞を眺めながら一息付く。
だが、これはあくまで一段落に過ぎない。
この後も、ゴートに任せてきた百華ちゃんの精神世界維持の引継ぎが。
そして、多忙を理由に伸ばしに伸ばして来た、アクア=クリムゾンとの会談が待っている。
いや、先ずは目の前の。新たな使徒娘の出迎えの方が問題か。
いずれにせよ、こうも厄介な案件ばかりでは、今に俺、心労で倒れるんじゃ………

『久しぶりだなオオサキ殿』

と、内心で取りとめも無く愚痴っていた時、アークの上役が来訪。
ヤバイな、恥ずかしい所を見られちまった………ってあれ? 何だこの、『残念ですが手遅れでした』と患者に告知する時の医者みたいな雰囲気は?

常ならぬ様子のアークの上役に不審を覚えつつも、まずは型通りの挨拶を。
だが、普段からは考えられない様な態度でそれを遮ると、彼は沈痛な顔(?)で訃報を告げだした。

『すまないが、これから私が言う事を、激昂せずに最後まで良く聞いて欲しい。とても…とても大切な話なのだ』

お…おう。

『実は、心配を掛けまいと、これまで貴公には黙っていた事なのだが、
 貴公らが2015年に介入する事で他の平行次元に少なからず影響が生まれていてな。
 そこで私は、テンカワ氏に依頼して、その修復を行っていたのだが………」

ま…まさか、アキトが異郷の地で死んだとか言い出さないよな。

「勿論だ。彼は実に良くやってくれているよ。
 だが、どうにも影響の誤差が、使徒戦を追うごとに酷くなってきてな。
 そこで、その理由を探っていたのだが。たった今、此方の次元にて、新たな管理者クラスの存在が現れた為だと判明した」

管理者クラス?

『第四階梯以上の半精霊化した者の事だよ。
 無論、受肉した事によって、その能力に著しい制限を受けているカヲリ君ではない』

ふ〜ん。どっかから、使徒とは別口でそういうのが流れてきたのか?

『いいや。私の目の前にいる人物。
 ホモサピエンスにおいて250億分の1の確立で発生する特殊進化遺伝子が、同一個体に連続して発生した為に生まれた異能生存体。貴公の事だよ、オオサキ殿』

………………はい?

『おめでとう、地球人管理者名アーク。
 限定管理神役審査認定官■■■■■の名において、第二種目の進化促進終了者として認定する』

   ヤッター

『そこで喜んでどうするのかね! 私は皮肉で言っているのだよ!』

   デモ、サッキノニンテイハ、トリケセナインデショ?

『その通りだ。だからこそ恥じ入りたまえ!
 お前は、遥か古来よりアリシア人が営々と築き上げてきた次元管理者制度の歴史に、永久に消しえぬ汚点を残したのだぞ!』

   カテバ、カングン

『うが〜〜〜っ! よもや此処まで愚かな存在だったとは!』

良くは判らんが、アークのあまりの駄目っぷりに、ついに普段のダンディさを捨て、声を荒げて(?)喚きだしたアークの上役。

そんな彼に、俺は恐る恐る『治るんだろうな、コレ』と尋ねた。
自分でも、声が震えているのが判る。出来れば、聞きたくなんて無い。
だが、こればっかりは確認しない訳にはいかない。

『残念だが、もう私には手の施しようが無い。
 もはやリリスの放つアンチATフィールド程度では、貴公をLCL化するのは不可能だ』

返ってきた答えは、俺の予想通りのものだった。
最悪の予測は、最悪の事実へと代わった。
後は、覚悟を完了するだけだ。

『すまないオオサキ殿。私の監督不行き届きだ。
 この件は、直ちに私の上司に報告し、きっとなんとかして貰う………』

もう良いんだよ、アークの上役。

平謝りに謝ってきた愛すべき戦友を、なるべく優しい声でそう諭す。
彼の事だ。多分、自分の事を顧みずに八方手を尽くしてくれるだろう。
それに期待したくもあるが、それ以上に、俺としては、そんな迷惑を掛けたくない。
そう。自分のケツは自分で拭くものだ。

「さて、アーク。俺と一緒に、十万億土の彼方へバカンスとしゃれこもうか?」

  ヘッ?

必殺の意を込めて、思いつく限りの必殺技をイメージする。
『竜王牙斬』、『蛇王牙斬』と言った実在のものは勿論、『ペガ○ス流星拳』や『超○動閃光斬』といった架空のものも。
アキト最強の必殺技、『劫竜八襲牙陣』だって忘れちゃいけない。
ついでとばかりに、ゴッ○マーズやレ○パルドンといった恐怖の瞬殺ロボも投影する。
当然ながらSPが全く足りないが、それは生命力を削ってカバーする。

「喰らえ、アンリミテッド・フィニッシュアタック!(無限の必殺技)」

  ギャ〜〜〜ッ!

手応えあり。当然だな、俺の総てを掛けた攻撃だ。

  シュッ

「提督、なんて馬鹿な真似を!」

いよいよ、天使が迎えに来てくれた………いや、アレはカヲリ君か。
(フッ)本当に度し難いな、俺は。あれだけ悪事を重ねておいて、図々しくも天に召されるつもりだったとは。

静かに瞼を閉じると、幾つもの情景が甦ってくる。これが走馬灯というものなのだろうか?
思い出すのは遥かな昔。我が生涯の伴侶と決めた『   』と出会った頃。
そうだな。思えば俺は、ごく当たり前の。大した器でもない、どこにでも居る一軍人だったのに。
それが何故、あんなフザケた。太陽系の未来を左右する計画など始めたのだろう?
アキト達の尽力によって、仮初とはいえ平和がもたらされた。
後は、アイツが帰ってきさえすれば、誰も泣かなくていい時代が。笑顔で明日を語れる日が来ると信じていた。
その想いは、今もこの胸にある。だが、やはり俺なんかでは、こんな大事を上手くやれる筈が無かったんだろうなあ。
嗚呼、総てが遠くなってゆく。

「すまないなカヲリ君、今度の眠りは永く―――――」







オ チ コ ボ レ の 世 迷 言







長い間、ご愛読ありがとう御座いました。現在、鋭意製作中の次回作にご期待下さい







【衝撃の新作予告!?】



>?

「それで、私は『見ているのですか、シュン提督。夢の続きを』とでも言えば良いのかしら?」

『何も、そんな冷たい態度を取らなくても良いだろうに』

倒れた戦友の名誉を守るべく、私は冷笑を浮かべつつ突き放した口調でそう呟いたカヲリ嬢を諭しに掛かった。
無論、身内の恥も。あの馬鹿が、オオサキ殿に憑依している間に、彼の霊格を勝手に底上げし続け、
ついには、私の付与しておいた擬似霊格の補助無しに第四階梯の力を振るえる、擬似精神体となってしまった事も伝える。
そう。これは、常識以前の問題。禁則事項に明記されていない為、私の一存で処罰を決定する訳にはいかないが、それだけに他に類を見ない重大な反則。
無限とも思える永い歴史を誇る次元管理者認定制度にあってなお、空前絶後の椿事なのだよ。

だが、そんなアークの所業は頭から無視。
何故か彼女の怒りは、オオサキ殿個人に向かっているらしく、

「前後の事情は理解しました。
 ですが、だからと言って、あの半ば自殺行為とも取れる暴挙は許せません。過去最大の憤慨に値しますわ」

『いや。私としては、オオサキ殿の心情も察してやって欲しいのだが』

「いいえ。この計画が始まった時から、提督のお命は、もう提督お一人のものじゃないんですのよ。もっと御自分の御立場を自覚して欲しいってことね」

その剣幕に押されながらも、なんとか宥めつつ、私は本来の仕事を行う。
アークの地球人への干渉権を封じると共に、(流石に手酷いダメージを負っていた為、簡単に)その身柄を拘束。
そして、カヲリ嬢に、オオサキ殿が復活するまでの事後処理を依頼する。
ついでに、せめてものサービスとして、新たな使徒娘の転生作業を代行しておく。

すまないオオサキ殿。目覚めたら、また改めてカヲリ嬢に怒られてくれ。



>SYSOP

   〜 5時間後、某温泉旅館の宴会場 〜

男は暗殺者だった。 その腕は超一流。これまで数多のターゲットを葬ってきたし、一度として任務をしくじった事はなかった。
だが、雇い主の評価は、さほど高くはなかった。
もっとも、それは当然の事。暗殺者を名乗るには、男は無駄な感情が多すぎた。

「いや〜、しっかしオメエ等ホントに瓜二つだな。実は生き別れの兄弟なんじゃないんか?」

(何時も思うんやが、ど〜してオマエは、そういうややこしい事を、躊躇いもなくサラっと訊けるんや? このご時世、今のはシャレにならへんで)

偶然にも隣の席となった、ネルフの名物整備員三人組に絡まれても、目立つ事を恐れるよりも素直に楽しいと感じてしまう。
否。そもそも、『祝、二勝目! ネルフ御一行様+α祝勝会』と書かれた横断幕が張られた会場に。
自由参加のこの宴会に『面白そうだから』という理由だけで参加した時点で、もう駄目駄目だろう。

しかめっ面でツンツン髪の男をどやしつける双子の兄(仮)と、それを宥める、最近、彼等三人とつるんでいる所をよく見かける新人の姿を肴に、地酒を喉に流し込む。
美味い。勝利の美酒。しがない暗殺者には勿体ない味だ。これを本来味わうべきは………

「ネルフの威信にかけて。いえ、私のプライドに掛けて負けやしないわよ」

「上等よ。急性アルコール中毒で死んでも知らないかんね」

「(フッ)それはコッチのセリフよ。誰に喧嘩を売ったか教えてあげるわ。
 一番、葛城ミサト。エビちゅの1ガロンサーバー、イッキいきます!」

「猪口才な。ならばコッチは日本酒。一升瓶ダブルの連続イッキだ!」

上座にて、25〜6歳くらいの、この大人数が入れる大宴会場を好意で手配してくれたらしいマーベリック社の社員と。
一人芝居でもしているかと錯覚するくらいソックリな声色をした金髪の美女と、人類の限界を超てるとしか思えない飲み比べをしている我等が作戦部長の痴態を眺めながら、
ふと、お人好しな眼鏡の同僚の事を思い出す。
もし、謹慎中のアイツがこの場に居たら、アレを止めるだろうか?
それとも、何時もの様に、何故か憧憬の眼差しで見詰めるのだろうか?

「は〜い。お料理の追加をお持ちしました」

そう言いながら、これまたマーベリック社の女性社員が。
ウエーブの掛かった長い黒髪、派手な衣装に縦ロール、小柄で三つ編みポニーと、それぞれタイプがまったく違うが、いずれも美女&美少女な女性達が宴会場に現れた。
その姿に、自分が酷く浮かれていた事を自覚。まるで、冷水をブッかけられたかの様に酔いが冷めていく。
そう。彼女達の立ち振る舞いを見れば、男には判るのだ
三人が三人共、正面から戦ったら、自分では絶対に勝てない相手だと。

改めて再確認する。第三新東京市は最前線なのだと。
数々の信じ難い功績を残しながらも、その年齢、容姿、性別までもが一切不明。
その事から『顔の無いエージェント』と呼ばれた、かの特殊部隊アルテミスのエースですら消息を断ったのも、今となっては無理もない事だと思える。

「んしょ。(ドスン)ビールも到着で〜す」

まあ。北斗やナオと言った超人や、目の前に信じられない量のビールケースを運んできた少女の姿を見れば、ド素人にだって此処が人外魔境だと判るのだろうが。

「あ…あの。何故マーベリック社の方が此処の給仕なんかを?」

「はい。なにぶん、例の資産凍結関係で臨時休館になっていた所を無理にお願いしたので、仲居さんの数が足りなくて。
 お料理の方も、実は我が社の専属コックが作っているんですよ」

「そ…そうなんですか」

黒髪の美女を前に、緊張してかドモリながら話す双子の兄(仮)。どうも、彼女に一目惚れしたらしい。
もっとも、その前途は超多難。ぶっちゃけ、彼の手に負える様な相手とは思えない。

「(フッ)なんだかねえ」

シリアス入っていた筈なのに、何時の間にやらそんな事を考えている自分に苦笑する。
だが、そんな己のメンタリティーを、男自身は結構気に入っていた。

「(ヒューヒュー)兄ちゃん、何時の間にそんな美人を引っ掛けたんだよ。スミにおけないなあ」

脱線ついでに、双子の兄(仮)こと渡辺の恋路の援護射撃をすべく、彼の弟を装って場を盛上げに行く。
『周りの三人が敵に回らなければ、思い出くらいは作れるかな?』とか
『ついでに、彼女のコネで余った料理を折詰めに。マコトのヤツへの差し入れも用意して貰おうかな?』なんて、そんな甘い目算を胸中で立てながら。

男の名は青葉シゲル。何度も言う様だが、こう見えても超一流の暗殺者である。



   〜 同時刻。2199年、ブンドル伯爵の居城 〜

「今回の結果を、どう見るかねレオナルド?」

いかにも品の良いナイスミドル。
ディカプリオ=フォン=ブンドル伯爵は、徐に息子にそう尋ねた。

「私達の勝利ですよ、父上。
 しかも、無用に勝ち過ぎはしなかった。実に理想的かと」

対面のテーブル越しに、紅茶を嗜みながら、彼の息子たる金髪の美少年がそう答えた。
求める回答に合致したらしく、ブンドル伯爵が鷹揚に頷く。
見詰め合い、互いの胸の内を読み合う二人の美丈夫。
良く言えば、古き良き王朝時代の優雅な雰囲気が。
悪く言えば、腐女子が見たら失神ものの耽美な空間が、そこには在った。
そして、幾許かの時が流れ、

「惚れたかね?」

予測されるゼーレの報復をいかに封じるか? 
今後の経営戦略を、どう展開させるか?
そういった重要事項を総て省き、ブンドル伯爵は息子にそう尋ねた。

「勿論ですよ、父上。彼女に出会って、心奪われぬ者がおりましょうか」

自身の父親が事の本質を正しく理解していると知り、興奮からやや饒舌となる。
そう。実の所、その一点こそが重用なのだ。

「出来るのかね? お前が手折ろうとしている薔薇の刺は、猛毒すら孕んでいるやも知れんのだぞ」

「無論、承知しております。
 ですが父上、薔薇は刺があってこその薔薇。その美しさの本質を、否定すべきでは無いのでは?」

言外に『任せて欲しい』と請合う、金髪の少年。
だが、ブンドル伯爵は、ゆっくりとその頭を振りつつ、

「やれやれ、お前には些か失望したな。勇気と無謀、用心と臆病を履き違えてはいかんよ」

機が熟すのを待てと言うことか。
父親の助言に、自分が焦っていた事を自覚する。
確かに、彼女はいまだ14歳。御する自信は少なからずあるが、
だからと言って、2年もの間、あの危険な少女にフリーハンドを与えるのは好ましくない。

「判りました。彼女が正式にマーベリック社の秘書となる日を待ちましょう」

そう。総ての問題は、カヲリを花嫁とする事で解決するのだ。
ブンドル財団とマーベリック社。この二つが手を組めば、ゼーレですら敵ではない。
その事は、あの一瞬、総ての事象をその掌の上に乗せて見せた、彼女の艶姿が証明している。

「嗚呼、二年後が待ち遠しいよ、愛しき人」

夢見る様にそう呟く、野望に燃える美しき美の探究者。
今はまだ、挫折というものを知らぬ身。
後世、自戒として爵位を捨て去り、それを糧に悪の美学を完成させる男。
レオナルド=メディチ=ブンドルの在りし日の姿だった。



   〜 同時刻。地球発火星行きの輸送船乗務員室内 〜

「いや〜、ごくろうさんだっただなあゲンドウ。おまんの御蔭で助かっただよ」

何時も通りのニコニコ笑顔で、カントクは隣の席に座る部下を労った。
そう。此処数日の釈明会談にて、彼はその辣腕をいかんなく発揮し、総ての罪をカントクに擦り付けようとしていた勢力を完膚なきまでに叩き潰してくれたのだ。
無論、これまでだって頼りになる男だとは思っていたのだが、これによって信頼感が大幅アップといったところだろうか。

「問題ない」

これまた何時も通りのセリフで応えるゲンドウ。
だが、今回は彼的にも必死だった。
とある理由から、早急に地球から退避する必要があったのだ。
だからこそ、彼は表世界で目立つのを覚悟の上で、アレコレと責任回避に終始する連中を、完膚なきまでに叩き潰したのだった。
まあ、カントクへの助力という感情とて、まったくのゼロという訳でもないのだが。

「んじゃ、オラっちはチョッくら機長に挨拶してくるでよ」

言葉少なに。ゲンドウが不快と感じないレベルでの世間話を一頻りした後、カントクはそう言って席を立った。
その後ろ姿を見送った後、輸送機ゆえの簡素な椅子に身体を預けつつ、お得意のポースを取りながら、地球訪問中の事を回想する。

そう。今回の地球来訪の目的は、ほぼ達成された。
ハネ満を直撃させ、対面の兄ちゃんを飛ばし(箱下、持ち点をマイナスにする事)たら、彼の右手までが宙に舞ったり、
胡散臭いデブが近付いてきて、此方を引っ掛けようとしてきたので、逆に引っ掛け、有り金を総て巻き上げてやったら、屠殺される豚みたいな感じに黒服に連行されていったり、
『総ての牌を見通せる』とかいうふれ込みの動物名で呼ばれる少年代打ちに、その豪運だけで圧勝し、格の違いを見せ付けてやったり、
そんなイベントを幾つかこなしていたら、なんだかんだの末に地下8階から順々に勝ち上がるという少年漫画の様な戦いに強制参加させられたりもした。

実の所、此処までは良い。何しろ、その危険と正比例して雪達磨式に儲かったのだから。
問題はその後。総て戦いに勝利し『全てはシナリオ通りだ』と嘯いて見せたら、主催者らしい、やたらと甘い菓子を食べ捲くる剃髪の老人に、えらく気に入られた事だ。
ハッキリ言って、アレはヤバイ。数多の修羅場を眉一つ動かさず踏み越えてきたゲンドウをして、戦慄を覚えざるを得ない。下半身がガクガク震えだす程に危険な相手だった。

それ故、一刻も早く火星に帰らなくてはならない。 良くも悪くも、あそこは人員管理が完璧になされている。老人の手の者が潜りこんでくる可能性は、ほぼ皆無だろう。
そして何より、本来あの地こそが、ゲンドウが戦うべき戦場なのだ。

「問題ない」

今一度、ゲンドウがお得意のセリフを口にすると、まるでそれを合図にしたかの様なタイミングにて、輸送機は地球から旅立った。



   〜 翌日。再び2015年の芍薬102号室 〜

「う〜っ、頭痛い。昨日は飲みすぎたわね」

第八使徒戦が終了した翌日。そんな14歳にあるまじき愚痴を零しながら、アスカは起床した。
某あかい悪魔の如く、リビングデッドの様な動きでノロノロと移動し、冷蔵庫から牛乳を。
ふと見上げれば、壁に掛けられた時計の針は、既に午前10時を回っている。
でも、大丈夫。幸運にも、ナオさんは出張中だし、ミリアさんも学校の宿直で昨日から不在。不摂生を叱られる心配は無い。
その代償は、一抹の寂寥感。まあ、妥当なものと言ったところか。
両隣の隣人も留守だ。103号室から105号室の住人は、修学旅行中で帰るのは夜中。
101号室の零夜とその客人も、一時、実家の方に帰郷しているらしい。
レイとシンジは、ミサトのお守り役に残してきた。
多分、まだ向こうの旅館でウダウダやっているのだろう。ご苦労さんな事だ。
本当に静かだ。まるで、日頃の喧騒が嘘だったかの様に。

   バタン!

だが、そんな静寂と彼女の感傷とを破る形で、この家の主が突然の帰宅。
普段の飄々とした雰囲気とは似ても似つかぬ切羽詰った仕草で辺りをキョロキョロと見回した後、

「アスカちゃん!」

「は…はい」

「暫くの間、俺は行方を晦ますが心配は無用だ。つ〜か、絶対に探さないでくれ。
 それと、これから一風変わった女の子が此処に来るかも知れないが、彼女の言う事はすべて嘘。事実無根だ。
 俺が愛しているのはお前だけ。君の口から、ミリアにそう伝えておいて欲しい。お願いだ!」

「わ…判りました」

呆気にとられたアスカが反射的に頷くのと同時に、まるで瞬間移動の様な速さで走り去るナオ。
そして、それから5分もたった後だろうか。彼女が精神的再建を果たすのを待っていたかの様なタイミングで、

   バタン!

「ナオ様〜!」

大胆なスリットの入った紺地のチャイナ服を来た美女が。
ナオの言うところの一風変わった女の子らしき人物が、先程とまったく同じ構図で飛び込んできた。

「あっ。貴女、アスカちゃんよね。ねえねえ、ナオ様を知らない?」

そう言つつ、覗き込むように顔を近付けてくる謎の美女。
チョッとベビーフェイスなので、そこだけを見ると、まあ似合っていない事もないのだが、
成熟したそのボディラインを見た後だけに、無理してブリッ子を続けているデビューしてン年目の女性タレントの様なアンバランスさが先にたってしまう。
いや。この際、そんな事は問題じゃない。
コイツは危険だ! 鍛え抜かれた戦士としてのカンが、盛んにそう告げている。

「誰なの、アンタ?」

不信感も顕に、相手の素性を問いただすアスカ。
だが、謎の美女は、気した風でもなく、やって来た時と同じ上機嫌な調子で、

「は〜い! 私はナオ様の心の恋人、王 百華で〜す♪」

嘘だ。これはもう、ナオさんに念を押されるまでもない。
此処まで嘘臭い話なんて、ミサトですら滅多にしない。

「ナオ様と初めての出会い。あれはそう、………」

困惑するアスカを他所に、うっとりとした表情で、唐突に思い出話しに入る百華。
ピースランドで、ナオと対峙した時の衝撃。
相手の実力が自分より上だと気が付いた時の困惑。
アキトと北斗の戦いに巻き込まれ、最後に全員吹き飛ばされた時、怪我をしてい自分を、ナオが、身を挺して守ってくれた事などが、彼女の視点から東陶と語られ、

「その時、ファーストキッスを奪われちゃいました。てへ♪」

いや。仮にそれが事実だったとしても、成熟した女性にそんな事を言い出されても。
思わず砂でも吐きそうな甘々な話に辟易しつつも、胸中でそう突っ込むアスカ。
敢えて口には出さない。出せば、ややこしい事になるのが判り切っているから。
だが、その表情を曲解したらしく、『あっ、信じてないな』と言いつつ、百華は証拠の品を提示する。
そこには、中学生位の頃と思しき彼女と、背中が傷だらけなナオのキスシーンが写っていた。

「ほら、ホントの事でしょ♪」

そう言いつつ、百華は微笑みながらペロリと舌を出して見せる。

「…………」

何とも言えない表情で絶句するアスカ。
正直、この位の歳の頃にやったら、さぞ可愛らしかっただろうとは思うが、今やられてもチョッと困ってしまう。
とゆ〜か、これで今少し色気が込められた日には、別の意味にしか受け取れまい。

「これは、いわゆる事故チューって言うんじゃ………」

取り敢えず、一応、そう言ってみる。
通常なら、クリティカルとなる所への突っ込みだ。

「ほら、ナオ様ってば照れ屋だから。事故って形にしたかったのよ、きっと」

(駄目。更には自己チューだわ、この人)

予想通り、まるで聞く耳を持っていないっぽい百華に、匙を投げるアスカだった。



その頃、噂の男と言えば、

「畜生、なんでこんな事になったんだか」

愚痴りながら、とある路地裏にて休憩中。
溜息混じりに、天敵復活までの軌跡を振り返っていた。

そう。今、考えてみてば、あの時は兎に角必死だった。
怪しさ大爆発な、ゴート制御によるインナースペースダイブとやらを行なった時など、正に藁にも縋る思いだった。
バックにドキュメンタリー映画『時の流れに』を流しつつ、その場面に合わせた面子にて行なわれる、原典版の記憶麻雀。
最初に卓に座った優華部隊の面々がまったくツモれず、ノーテンを繰り返す姿に絶望しかけ、
救いを求めて『何でもするから百華ちゃんを助けてくれ』と、ガラにもなく神に祈ったりもした。
自分の番が来て、配牌でいきなりイーシャンテンだった時には、本気で感謝したものだ。
だが、その後も軽い手が来てアガリ捲くっている内に、なんとなく思った。『何かがおかしい』と。
『カン』これは、自分の様な職業の者にとっては、生命線とも言うべきものである。
とは言え、掛っているのは百華ちゃんの未来。
たとえどの様な結果が待っていようと、『此処で降りる』という選択肢は存在しない。
そんなこんなで迎えた、南二局、最後の親番。その配牌を見て絶句する。
『ピースランドでのファーストキッス一色』しかも『天和(配られた時点で既に和りという役満)』のダブル役満だったのだ。
『なんじゃあこりゃあ〜!』という己の悲鳴と共に、辺りは光に包まれてゆく。
そして、自分が意識を取り戻すのを狙いすましたかの様なタイミングで、『ナオ様〜!』とばかりに、立派に成長した大人バージョンの百華ちゃんが飛び込んできたという訳である。

その後の事は、あまり良く覚えていない。兎に角、逃げるだけで精一杯だったのだ。
取り敢えず、彼女の記憶は完璧に戻っている。これはまず間違いないだろう。
自分の元上司に頼んで交通封鎖をしたり、関係各所に、あること無いことデマを流したりといった悪質な手口が、それを教えてくれている。
御蔭で誰も助けてくれないし、木連を脱出するにも、もう散々な苦労を強いられた。
そして、今現在に至る。(完)

「兄貴♪」

と、益体も無い回想シーンを終了した瞬間、背後から耳慣れない声音で耳慣れないセリフが。

「誰だ、お前?」

不信感も顕に、背後に現れた謎の少年の素性を問いただすナオ。
だが、彼は気した風でもなく、嬉しそうに自己紹介を。

「は〜い! 俺は兄貴の弟で、ヤガミ イマリで〜す♪」

「んな訳あるか〜! 俺に弟なんて………」

『居る筈ないだろ!』と続けようとした所で、ハタと気付く。コイツはまさか!?

「あっ、判ってくれたみたいッスね。嬉しいなあ♪」

そんな上機嫌のまま、彼はナオの知りたくは無いが確認しない訳にもいかない事実を語る。

「まあ。正確に言うならば、第三期精神増幅型被験者ナンバー001。兄貴達の後輩に当たるブーステッドマンッス」

「それで、クリムゾンが俺に何の用だ」

周囲を警戒しつつ、そう尋ねるナオ。
状況は良く判らないが、先程の言には重要なヒントがあった。
無論、それがフェイクという可能性もある。
だが、褐色の肌をした少年。イマリの態度からして、己の能力を示唆する内容を喋ったのは、それだけ自信があるからこそだろう。
そう。十中八九、彼は俗に言う所の超能力者とみて間違い無い。
思わず笑い出したくなる。
非現実的も良い所。まったくもって、ふざけた話だ。
まあ、アキトや北斗に比べれば、ナンボかマシなんだろうが。

自分の事は棚に上げつつ、そんな事をグルグルと考える。
だが、返って来た答えは、最悪の予想すらぶっちぎりで超えるものだった。

「やだなあ、元ッスよ元。  今はチャンと更正して、愛と正義の為に戦う、兄貴の忠実な部下ッス」

「……………はい?」

「ほら、俺ってば実はアレが最初の御仕事だったし、あ〜ゆ〜能力を持っていたのも、俺自身の責任じゃ無いでしょ?
 そんな訳で、『情状酌量の余地あり』って事で、百華の姉御の預かりになったんッス。
 ぶっちゃけて言えば、『取り敢えず保護観察処分。今後の働きを見て処遇を決定』ってところッスかね」

困惑するナオを他所に、前後の事情を知らない者には良く判らない状況説明を続けるイマリ。
実の所、あまり頭の回転は宜しくないらしい。

さて。此処で、あまりにも原作とかけ離れてしまった彼の性格について少々説明させて頂こう。
ますは、彼の初任務。オオサキ提督の襲撃の場面を思い出して欲しい。

『やあ。そろそろ俺の出番ッスかね♪』

『(バキッ)邪魔です!』

もうお判りだろう。
そう。頭を激しく強打する事によって発生する蜘蛛膜下出血………もとい、性格の反転。
通称『カカロット症候群』は、誰の身にも起こり得る可能性を持った奇病なのである。

「という訳で、さっき百華の姉御に連絡を入れといたッスから、詳しい事は、姉御に聞いて欲しいッス」

「って、どこが忠実だ〜! お前は…お前は間違いなく俺の敵だ〜!」

と、ナオが絶叫している間に、百華到着。

「ナオ様〜♪」

「兄貴〜♪」

「ううっ。もうヤダこんな生活」

かくて、再び逃亡を強いられるナオ。
無論、実力で二人を排除する事は簡単である。(病み上がりの為、二人共その能力が。特にイマリは著しくダウンしている)
だが、それが出来れば苦労はしない。
アキト程ではないが、彼もまた、自分を慕ってくる人間を無碍に扱える人間では無いのだ。
或いは、これまでやたらと幸福だった反動が、ついにやって来たのかも知れない。
いずれにせよ、彼の受難は、まだ始まったばかりである。

「ミリア〜!」

はいはい。取り敢えず、強く生きようね。




次回予告

ミサトの敵は使徒だけでは無かった。
ネルフを快く思わない人々が第三新東京市の全ての電源を止める。
閉鎖され近代設備の何も動かないネルフ本部に使徒が迫る。
ひたすら地下を彷徨い続ける3人の少女達(?)は、はたして使徒迎撃に間に合うのか?

次回「騒がしい闇の中で」

必然足りえない偶然は無い




あとがき

北○鮮がミサイル飛ばして、すべて〜が終る日を、心待ちに、してる様な、気分は何だろう?
多分、6月26日から7月9日まで、毎日、朝晩二時間づつ残業(?)して作った血と汗と涙の在庫日計表が、
担当係官の目には全く触れる事無く無造作にシュレッダーへと消えた時の様な感じでしょうか?
そんな訳で、此処最近の様々な訃報もあって、チョッぴり鬱なでぶりんです。
予告よりも更に長く。二ヶ月以上も間を開けてしまい申し訳ありません。

なんかもう毎回言っている様な気もしますが、今回は最大の難産でした。
前回は特盛アスカ丼状態で、『どうやって御したら良いんだ?』と本気で悩んだものでしたが、今回、元の幕の内形式に戻してみて痛感しました。
アスカって、攻撃している時はキャラが立つんですが、守勢に回ると目茶苦茶弱いです。
思わず、『アンタは雲のジュ○ザか!』と叫びたくなるくらいに。
なんだかんだ言いつつも、感情的なブレが少なく客観性を失わないシュン提督という強固なキャラクターの有難味を再確認する想いです。

そんな彼も、今回全貌を顕にしたアークの陰謀によって、ついにリタイヤ。
今は只、ゆっくりと休んでくれる事を切に願います。
何せ、彼の戦いは、まだ始まったばかりなのですから。
あっ。別に、打ち切りフラグって訳ではありませんよ。
例の予告編もあくまでネタです。どうか信じて下さい。(ペコリ)

それと、今回漸くシゲルとサイトウについて触れる事が出来てホッとしております。
特に、サイトウの話は、ジョブチェンジさせる前から考えていたもの。
そう。考え無しに馬鹿をやっている様に見えても、彼は決してメティちゃんを忘れた訳ではないのです。
極論するならば、今のサイトウは劣化黒アキト。道化を演じているPrince Of Darkneesと言ったところでしょうか。
本当の意味でその魂が救われるのは最終話直前。某美貌の熟女と今回登場した3人組が絡む、とある事件を経た後となる予定です。

それでは、もったいなくも御感想をくださる皆様に感謝すると共に、再びお目にかかれる日が来る事を祈りつつ。

PS:今回、新たな使徒娘が紹介されていないのは意図的なものです。
   諸般の事情でアークの上役が現場から離れている為、偽予告をもってオマケに代えさせて頂いたのと同様、明確な理由のある事。
   そう。実は次回への伏線。二匹目の泥鰌を狙ってます。




 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

いやぁ、あいも変わらず読んでて頭の痛くなるような話で(褒め言葉)。

まぁなんだ、皆それぞれに強く生きてくれ(爆)。

 

>百獣の王、ヒマワリの『ヒナタ』さん

植物なのに百獣の王なのかっ!?

 

>そう。木連のヒマワリは肉食なのだ。

・・・・・なるほど(爆)