>OOSAKI

   〜 24時間前。9月4日、ダークネス秘密基地 〜

「はい。たった今、第10使徒の出現を確認しました」

メインスクリーンに映し出されたサハクィエルの威容を前に、マイクを手した春待三尉が壇上で必死に声を張り上げ、場を仕切っている。

そう。今日は、ダークネス内部にて企画された一大イベントの。
過日行なわれた第10使徒戦対策会議の席上にて、ボナパルト大佐と艦長を中心に、
『次は多分アレだな』『はい。これまでのパワーアップの傾向からみて、まず間違いありません』
といった感じに検討された過程において、その副産物として生まれたトトカルチョの日である。

1時間程前に登録が打ち切られ、後は結果を待つばかり。
当然ながら、基本的に関係者全員が参加している。
例外は、正確な予測を立てるべく発表ギリギリまで粘った挙句、そのまま登録時間に遅刻して涙を飲んだ愚か者達と、
『自分は賭け事は嫌いであります』と真顔で宣まった、空気を読めない我が副官くらいのものである。

嗚呼、心が沸き立ってくる。正直、俺は数あるナデシコ風な行事の中でも、こういう能力の方向性に関係の無い。誰もが対等な立場で参加出来る催しが好きだ。
ましてや、コレは競馬やサッカー等とはモノが違う。
次の使徒戦に密接な関係を持った、ある情報をネタにしての賭け事。もう感情移入し捲くりである。

ちなみに、今回、春待三尉が司会者をやっているのは、マリアちゃんの出演は都合が付かなかった為、観測装置等の制御をしているハーリー君との連携を鑑みての抜擢である。
正直、苦肉の人事だったが、これはこれで悪くない。
基本的に生真面目な性格ゆえ、畑違いな役所でも必死に。
特に、営業用スマイルと丸判りなぎこちない笑みが実に初々しくて良い感じ………

「それでは、いよいよ発表です!」

  ドロロロロロロロロ………

とか何とか言ってる間に前振りの口上が終わり、溜めの演出としてBGMにドラムの連打が。
そして、ついに春待三尉の口から、

「第10使徒、サハクィエルの全幅は……………その全幅なんと25、374m!
 従って、正解は予想の最大値である20km以上となります。
 ちなみに、正解者は僅か2名。大穴です! 大穴が来ました!」

と、トトカルチョの結果が発表された。
それと同時に、会場に集まった参加者達が、激しいブーイングと共に一斉に手に持った予測券を投げ捨てる。

「よっしゃあ!」

「ビンゴ!」

そんな中、ハイタッチをして喜びあう班長と時田博士。
賭け事全般が下手の横好き以外の何者でもないコンビの癖に、今回は見事、正解を引き当てたらしい。

そう。今回の賭けの内容にして使徒のパワーアップポイト。
それは、第6使徒同様その身体の巨大化だった。
とまあ、此処までは此方の予測通り。実際、それ故のトトカルチョだった訳だが…………
本命はガギエルの557mを参考にしての500m以上から700m未満の数値。
対抗は今少し穿って、1q前後。2q以上は、配当がグッと上がる高倍率の万馬券ならぬ万予測券。
それが大半の参加者達の予想だった所へ、正に桁違いな数値の約25q。
しかも、それを当てちまう班長達。
一体、どんだけイノセントなんだよ。

「それではヒーローインタビューです。
 今回、見事使徒の全幅を的中させました、ウリバタケ様、時田様、コメントの方を宜しくお願いします」

「(フッ)なに、只の実力だよ。有象無象共とは胆力が違うのさ」

「(コホン)班長のそれは些か極論ですが、大筋ではその通りだと私も思います。
 そもそも賭け事と言う物は非日常の技。その土台からして建設的なものでは無い故、常に安全策をとっていれば良いというものではなく(中略)
 つまり、どれだけ相手にプレッシャーを掛けられるか? つまり、心の削りあいこそがその主眼となる訳でありまして………」

春待三尉にマイクを向けられ、チョッと増長しているっぽい班長と、何やら自説の博打論を滔々と語る時田博士。

にしても、この二人は判ってるんだろうか?
何せ、25qだぞ25q。その破壊力は、原作みたいに『第四芦ノ湖が………』なんてケチなものじゃすまない。
良くて関東平野完全蒸発。悪けりゃフォッサマグナが暴走して本州が分裂した挙句、日本列島沈没ものなんだぞ。
信じて良いのか、俺は? 予想したからには、ソレに対する打開策も用意してあるって。

…………いや、単に意外性を狙っただけなんだろうな、二人共。
実際、もう浮かれ捲くってて、この難局の打開策についてなんて欠片も考えて無いっぽいし。

仕方なく、いまだ興奮冷めやらぬ彼等の事は、そのテンションが通常レベルに下がるまで黙殺。
具体的な対抗策を練るべく、ポナパルト大佐と艦長を交えて即席会議にて協議を重ねる。

まず、当然ながら、例の『手で受け止める』作戦は却下だ。
何しろ今回は、原作とは問題の焦点が違う。
彼我の質量差が圧倒的なまでに大きな相手。仮に予め落下地点で待ち構えていたとしても、キャッチするのは絶対に無理である。

これについては、カヲリ君経由でアスカちゃんに情報をリークし、事前に手を打って貰った方が良いだろう。
正直、ネルフの行動に対して事前に干渉するのは本意では無いのだが、他に方法が無い。
何せ相手は、成功率一万分の一の作戦を実行に移す無謀指揮官。
どんなに理路整然と問題点を指摘した所で時間の無駄だろうし。
アスカちゃんの奮闘に期待するところ大である。
もっとも、彼女また苛烈な性格であり、『逃げる』という言葉が己の辞書から削除されているタイプの人間。
『出来れば、今回の使徒撃破は諦めて欲しい』と言うのが俺の偽らざる本音なのだが、これは全く期待出来そうもない。いや、困ったもんである。

次に、実質的な第10使徒の攻略法なのだが、相手の大きさが大きさだけに実に難しい。
勿論、単に使徒を倒すだけなら方法はいくらもある。
たとえば、一番簡単な方法は、グラビティ・ブラストによる殲滅だ。
実際、ロサ・カニーナに搭載されている程度の物でも、この世界の基準で考えれば必殺の破壊力がある。
広域放射で一気に薙ぎ払えば、如何に大質量を誇るサハクィエルといえどイチコロだろう。
だが、これは使用不可な。所謂、禁じ手な戦法だったりする。
何故なら、コアを完全消滅させてしまった場合、使徒の転生が不可能に。
そうなったら最後、カヲリ君にソッポを向かれた挙句、連鎖反応的に戦況が悪化する事になってしまうからだ。
従って、どれほど戦況が苦しくなろうとも、安易に伝家の宝刀を抜く訳にはいかない。

また、DFSによる撃墜も不可能に近い。
あの巨体では少々切り裂いたくらいじゃ小揺るぎもしそうにないし、
本物のDFSならばまだしも、簡易型のそれでは、あまり伸ばし過ぎると使徒のATフィールドの突破出来なくなってしまうからである。
ましてあの巨体では、少々切り裂いたくらいじゃ小揺るぎもしそうにない。

正直、思っていた以上に難問だった。
コアを破壊しなければ倒せない。だが、コアを消滅させてもいけない。
この二律背反を満たすのが基本方針であり、絶対に犯してはならないルール。
そう。あの巨体は、それ自体が戦略レベルで此方の打つ手を封じているのである。

そんなこんなで、会議が暗礁に乗り上げようとしていた時、

「ナニくだらね〜事で悩んでるんだよ。使徒のコアなら、あの目ン玉のトコに決まってんだろ」

隣の席の御剣君の制止を振り切り、状況を理解出来ていないコマッタちゃんが問題の焦点を無視した事を言い出した。

「あのな〜ヤマダ、それは敵の大きさをチャンと理解して言ってるのか?」

「も…勿論だぜ、提督。いかに巨大な敵だろうとも、正義…じゃなくて熱血は負けやしないぜ!」

『ヤマダ』の部分に頬をヒクつかせながらも、お約束なセリフを宣う芸名『大豪寺ガイ』。
予想通り、全く判っていない様だ。
だが、別の意味で、俺はチョッと感心していた。
何せ、あのヤマダが『ヤマダ』と呼ばれても自制し、しかも、セリフのTPOに(何せウチは悪の秘密結社)気を使っているのである。
これはもう、長足の進歩と言えよう。
俗に『立場が人間の器を作る』と言うが、例の師範代就任は確実にプラスに。それも、思わぬ副産物を生んでいる様だ。

「ふむ。暴論だが一理あるな」

と、その時、軍人モードのボナパルト大佐が、ヤマダの意見を支持。
その稚拙な案を大幅修正し、一つの策へと昇華して提示して来た。

その作戦を要約すれば、ダーク・ガンガーによる強襲偵察。
残念ながら、これを本来行なう筈のトライデント中隊の機体は、いずれも衛星軌道上での戦闘には耐えないもの。
また、相手が相手だけに、相対的な大きさは正に『(フッ)カトンボが』状態。その存在すら認識されない可能性が高い。
つまり、リアクションを引き出すには相応の攻撃力が。DFSと言う名のハチの針が必要な訳である。
当然、攻撃目標は、ベタだがあからさまに弱点っぽい目玉の部分。
これで『何らかの情報が引き出されれば良し。有効なダメージが与えられれば、なお良し』と言った所だろうか。

また、この作戦を実行するにあたり、大佐はカヲリ君の同行を求めてきた。
何でも、嫌な予感がするので、今回ばかりは事前にコアの位置を特定して置きたいんだそうだ。
これは、これまでウチが守ってきた使徒戦における暗黙のルールに些か外れる行為だが、気持は良く判る。
そんな訳で、早速カヲリ君に連絡を…………って、なんで緊急時用のホットラインが非通知なの!?



   〜 5時間後。ロサ・カニーナ、提督室。〜

結局、カヲリ君との連絡が付いたのは約1時間後の事だった。
珍しく要領を得ない事を並べ立てながら平謝りする彼女の話を総合するに、葛城ミサトがまた何か仕出かして、向こうも大ピンチだったらしい。ホンに困ったモンである。
まあ、俺達には俺達の優先順位がある様に、彼女の方でも譲れぬものがある。
今回の様なケースは、いずれ起こるべくして起こった事。
それが早い段階で判っただけ儲け物とでも思う事にしよう。

そんなこんなで、やや興奮気味なカヲリ君を宥めつつ此方の事情を語り協力を依頼。
その後、取り敢えず、ネルフの方でも使徒を確認するのを待ってから発進する。

『お茶の間の皆さん、お待たせしました。
 悪の秘密結社ダークネス、今日は宇宙からの御挨拶です。ブイ!』

『大豪寺ガイ、出るぜ!』

『御剣 万葉、出ます!』

艦長の名乗り上げと同時に、急発進してゆくスーパー・ダ−ク・ガンガー。
今回は合体シーンは省略である。
いやだって、Aパートで出撃して敵の思わぬ作戦に引っ掛って一時撤退する時は大抵やらないでしょ?

『でやあ〜〜〜っ!』

と、俺が胸中で言い訳を並べ立てている間にもサハクィエルと接触。
約100mと自身の10倍以上の長さに伸ばしたDFSにて、使徒の目の部分を切り裂くスーパー・ダーク・ガンガー。
だが、悲しいかな、相手は意にも介していない。
何せ大きさが大きさなだけに、必殺の破壊力を持ったDFSも蟷螂の斧と化して有効なダメージとはならず、しかも、切り裂いた端から徐々に修復されて行くのだ。
あれでは、あのまま延々続けた所で意味が無い。いずれジリ貧となるだけだろう。

と、俺が胸中で中止の算段をしていた時、

『提督。申し訳ありませんが、大豪寺さんには今しばらく奮闘して貰える様にお伝え願えませんか? 少々気になる事があるってことね』

カヲリ君から続行を求める声が。
となれば、是非も無い。立派に大義名分が立つ。
そんな訳で、俺はこれを奇貨とし、大豪寺への今後の教訓とすべくヤツが飽きるまで。
いっそ泣きついてくるまで、好きなだけ攻撃を続行させる事にした。

  バシュ

あっ。流石に鬱陶しくなったらしくて、サハクィエルからATフィールドの弾丸が。
そのまま雨霰の如く打ち出され始めやがった。
と言っても、先の涙滴型のヤツとは違って小さな。一発一発の威力が低いもの。
大気圏を突破出来ずに消滅している程度の物だから問題ないか。
スーパー・ダーク・ガンガーの方も、いざとなったら御剣君が付いているから心配はいらんだろう。

  バシュ、バシュ、バシュ、バシュ………

その後も延々と続く攻防を眺めながら、ふと、ああやって敵の攻撃をかわして線を引いていくヤツが。
大昔。まだPCゲームの黎明期だった頃に、あんな感じの陣取りゲームがあったなと、懐古の念にかられる俺だった。



   〜 翌日。午後3時、再びロサ・カニーナの提督室。 〜

現在、大豪寺はイネスラボにて療養中。御剣君の手厚い看護を受けている。
と言っても、負傷した訳では無い。
あの後、最初の10時間辺りで動きが精彩を欠き始め、15時間を超える頃には目に見えて失速し、何発か被弾し始めたものの、
18時間を超え作戦上の理由から撤退を指示するまで。
結局最後まで、あのバカは音を上げずに戦い続け、帰ってきたと思ったら、ストップモーションでぶっ倒れやがったのである。

俺としては、当初の目算通り撤退要求をしろとまでは言わないまでも、せめて攻撃が無効である事に気付いて、此方に指示を求めるくらいの事はして欲しかったんだが………
チョッと高望みし過ぎだったのだろうか?

とは言え、大豪寺のヤった事も決して無駄だった訳では無い。
その奮闘によって、貴重な情報を得る事が出来た。

そう。あの後、カヲリ君からの報告によって、サハクィエルのコアは、その超巨体を維持する為36個に分割されて体全体に。
酸素を運ぶ赤血球の如く、体内を絶え間なく動き回っている事が判明したのである。

ハッキリ意ってコイツは実に厄介だ。
おまけに、マッハ・シューターから延々送られてきたデータを元に
(超巨体の代償からか、身を包むATフィールドとその身体がペラペラなまでに薄かった御蔭で、どうにかその内部をスキャン出来た)
その動きを洗ってみた所、これがまた、やたら早い上に不規則ときては、もう連続ジャンプでもやらない限り対処のし様がない。

そこで、DFでその身を守れるロサ・フェティダがスーパー・ダーク・ガンガーの土台に。
画面に『短距離ワープは輸送機の方でやっています』という感じの演出を盛り込む事で連続ジャンプに関する対外的なカモフラージュを。
と同時に、春待三尉が同乗する事で、最前線にて効率的なデータ取りを行ないつつ、コアの移動先を予測して御剣君に直接指示を。

視覚的には、輸送艦の背に乗ったスーパー・ダーク・ガンガーが、使徒の攻撃からギリギリ身を守れる程度のDFの強度を保ちつつ、
DFSを限界まで伸ばしてサハクィエルに向かって特攻という形になる事から、作戦名『ガッチャマンF』と名付けられた作戦が、艦長の原案の下に立案された。

う〜ん。出来れば、やっぱりジェット機でやりたかったな。
だが、流石のあの二人でも、昨日の今日で新トライデントシリーズとしてデッチ上げるには無理があったらしい。
ついでに言えば、彼等は現在、別件で多忙だったりする。
実は、大佐に指摘されるまで、俺も艦長も気付かなかった事が。
チョッとマヌケな話ではあるが、さる事情から、ついに我が艦は主砲の封印を解く事になった。
だもんだから、急遽必要になったその為の演出小道具を設置すべく、本番を目前にした今も、配下の整備員達を率いて忙しく働いていたりするのだ。
そう。一見、華やかに見えるダークネスではあるが、その舞台裏はこんなもの。
これが、TV業界というものの光と影なのである。

そんなこんなで開戦20分前。作戦準備が概ね整い、俺の方は手が空いた事もあって、今の内に新第三東京市の様子を確認しておく。
事前の根回しの甲斐あってか、賢明にもD−17(撤退命令)が発令されなかった御蔭で、
使徒襲来を前にしてのパニック等が起こる(何せ、一日足らずの間に国外に退去出来る人間の数なんて知れたものだし)事も無く、
市内は何時も通りの平穏を満喫していた。重畳な事だ。
次いで、この件の最大功労者が、今回の使徒戦を前に如何なる手を打ったかを確認すべく、MAGIの回線を通じて初号機の様子を確認する。

すると、既に初号機と零号機が発進しており、ガン○スターっぽく腕を組んで仁王立ちした初号機の周りで、
零号機が、コンテナから何本ものソニック・グレイブを取り出している所だった。
早速、エントリープラグ内の様子を伺うと、

『私、何やってるんだろう?』

『だあ〜、陰気臭い! 愚痴ってんじゃないわよ、レイ』

『だって、また脇役。
 主役は良いわね。葛城三佐なんてヒロイン役だから、目立つし出番も多いし。今回なんて、出世した上に碇君との絡みのシーンまで。私には、何も無いから』

『ああもう。偶に長文喋ったかと思ったら、そんなメタなセリフだし。
 つ〜か、使徒が射程内に入って来るまで、もう30分を切ってんのよ。いい加減、戦闘モードに入んなさい!」

『任務了解』

と、何か知らないけど、アスカちゃんに発破を掛けられ、パイロットの顔に。
どこか拗ねた様な。何気に普段より幼く見える仕種を止めて、TV版っぽいクールな表情となるレイちゃん。
もっとも、目の輝きがそれを裏切っていると言うか、そこはかとなく『次こそは主役に』と言わんばかりの執念すら感じられる。
何と言うか彼女、実に微妙な成長をしている様だ。

一方、アスカちゃんの方はと言えば、パイロットである葛城ミサトに加えて、なんとシンジ君までが初号機にエントリーしている。
その意図は? チョッと洗ってみるか。
ロストメモリーズ!…………………って、いらんトコまで見てしまった。ゴメンよ、シンジ君。

かくて、図らずもカヲリ君が挙動不審になっていた理由を知る事に。
だが、今はその辺はスルーして、目の前の使徒戦に集中する。
正直、アスカちゃんの立てた策は、かなり有効だ。
これなら、コッチのデータをリークすれば、36個のコアの内、半分くらいは任せても大丈夫だろう。

そんな訳で、俺はハーリー君に諸事情を話して再計算を指示。
彼女達に華を持たせる為に。また、更なるダイナミックな画を求めて、開戦の時刻を少々遅らせる事にした。



『お茶の間の皆さん、お待たせしました。
 悪の秘密結社ダークネス、必勝の策を携え推参です。ブイ!』

かくて、当初の予定より20分遅れで、お茶の間に艦長の名乗り上げが。
次いで、ネルフへの業務連絡として、

『え〜と。開戦に先立ちまして、親愛なるネルフの皆さんに、ダークネスよりお願いがあります。
 これよりお送りしますデータを見て貰えばお判り頂けると思いますが、今回の使徒の攻撃は、地球にとっても優しくないコマッタちゃんなものなんです。
 もうユリカはプンプンです。そもそも緑の地球は、いずれアキトの物に………』

『だあ〜、前置き長過ぎ!
 チャチャッと用件だけを言いなさい。コッチも作戦開始まで5分を切ってんだから』

そんな艦長の口上を遮って、アスカちゃんが巻きを入れて来る。
うんうん。D−17を阻止してくれた事といい、現実的なネルフ版サハクィエル撃破作戦を立ててくれたといい、ホンと色んな意味で有難い娘だ。

『判りました。では、単刀直入に言っちゃいます。
 此方よりターゲットデータを送りますので、攻撃はソコへ行なって下さい』

『チョッと待って……………OK。確かにコレが一番良い手みたいね。
 但し、あくまでソコを狙うだけ。間違ってソッチに当たっても責任は負いかねるわよ。何せ、メインでヤルのはミサトだし』

と送られて来たデータに目を通しながら、アスカちゃんが即決にて艦長の要請に応じてくれた。
注釈付きな所が泣かせてくれるが、これを彼女の責任とするのは些か筋違いだろう。

『って、ナニ言っちゃってるのよ、アスカ! そんなの駄目に決まってるじゃない!』

って、言ってる傍から、この馬鹿女は。

『あんたバカァ? じゃあ、どうしろって言うのよ。
 アタシ達の作戦だけじゃ勝てない事は、このデータを見れば一目瞭然でしょうが!』

『そんなのヤッて見なけりゃ判らないわ。
 とゆ〜か 私はイヤよ。アレの言いなりになるなんて!』

お得意の理不尽な駄々をコネ捲くる葛城ミサト。
当然、アスカちゃんもヒートアップ。結果、同レベルの罵り合いに発展してゆく。
嗚呼、聡明さこそ天と地程も差があるが、性格は良く似ているからなあ、この二人。
まして、葛城ミサトに関しては屈折した想いがあるもんだから、アスカちゃんの方もキレ易くなってるし。

かくて『こりゃアカン』と俺がネルフ側の参戦を断念しかけた時、

『ミサトさん!』

決して大きな声では無いのに聞く者の心に響く、シンジ君の鋭い一喝が。
そのまま、一時的に激昂状態から醒めた葛城ミサトの頬を掴んで強引に自分の方へ向かせると、正に体当たりと言った感じで説得を。

『ミサトさんにとって重用なのは、使徒の撃破ですか? それとも、ダークネスの撃破ですか?』

『そ、それは………』

『ミサトさんは、『お父さんの仇を討つ』って誓ったんでしょう?
 その為に必死に頑張って、今、此処に居るんでしょう?
 良いじゃないですか、面目の一つや二つ失ったって。それで仇を討つチャンスが与えられるのであれば。
 ミサトさんにとって本当に重要なのは何なのかって考えれば、それくらい何でもない事の筈ですよ』

その迫力に押され、葛城ミサトは既に陥落寸前である。
それに関しては実に有難いんだが………

誰なの、コレ?
TV版とは似ても似つかない、ス○ロボ版のバーニング・シンちゃんみたいな………
ってゆ〜か、どちらかと言えば寧ろ、古き良き時代の青春ドラマのヒロインみたいな子は。
いや。精神的にはかなり強くなってるし、今後も葛城ミサトに対する緩衝役を期待出来そうだし、計画成就の為には色んな意味でプラス要因なんだが………
このままだと、彼(?)は普通の男の子には戻れなくなるんじゃないだろうか?

と、俺が別件での心配をし始めた頃、

『もう判ったわよ!
 私の敵は使徒だけよ! 後はもう知った事じゃないわ! それでイイでしょ!』

と、葛城ミサトの開き直りが完了。かくて、初のダークネス&ネルフ連合軍による(これまでは、此方が勝手に手を貸しただけ)使徒迎撃体勢は整った。

『これより、作戦名『ガッチャマンF&魔弾の射手』を開始します。
 スーパー・ダーク・ガンガー及びロサ・フェティダは発進して下さい!』

『大豪寺ガイ、出るぜ!』

『御剣万葉、出ます!』

『畜生〜、本来こういうのはケイタの役所なのに』

『この後に及んでボヤかないの。もう賽は投げられてんだから。
 それでは、春待ユキミ&鈴置シンゴ、出ます!』

艦長の号令に従い、スーパー・ダーク・ガンガーとロサ・フェティダが発進。
そのまま、敵の攻撃レンジ内に入る前に、計画通りロサ・フェティダの上に仁王立ちとなり、200m級の長さとなったDFSを掲げ、その制御に全力を傾ける大豪寺。

  バシュ、バシュ、バシュ、バシュ………

レンジ内に入ると同時に、大豪寺の事を覚えていたらしいサハクィエルから手厚い歓迎が。
ATフィールドによる弾丸が、マシンガンの如く打ち出されて来た。
だが、手数に特化されたその攻撃では、ロサ・フェティダのDFを貫く事は出来ない。
そのまま、懐への特攻を許す事になり、

『ターゲット・ロックオン!』

『了解、ジャンプ!』

   シュッ

データ収集を終えて、コアの位置を特定した春待三尉から最初の指示が。
それに応じて、御剣君がジャンプ。出現予測位置に先回りを。
それによって、その高スピード故に回避出来ず、大豪寺の制御する超大型の刃へと自分から飛び込む事となり、

   ザシュ

『よっしゃあ! まずは一つ!』

計算通り、一刀両断される最初のコア。
これで、あと35個である。
そのまま、2個目、3個目と撃破した所で、これまた計算通りサハクィエルが向こうの射程内に入り、

『いっけ〜〜〜え! ホーミング・ショット!!』

ネルフ側の作戦『魔弾の射手』に従い、必殺技名を高らかに叫びつつ葛城ミサトの駆る初号機がソニック・グレイブを投擲。
一筋の紅き流星となったそれは、超音速で天空へと駆け上がり衛星軌道上へ。
その圧倒的な射撃距離を物ともせず。投擲段階で結構ズレていた軌道さえも、その名の如き自動追尾能力によって着弾位置を修正。
そんな作戦名を彷彿させる正確無比の一撃にて、見事サハクィエルのコアをジャストミートした。

さて。此処で第7使徒戦において提示されたスペックを元に『衛星軌道上まで届く訳ないじゃん』と思われる向きのあるだろうが、さにあらず。
この驚異のハイスペックには、チャンと理由があったりする。

その鍵は、初号機に同乗したシンジ君。
そう。嘗て、アスカちゃんが同乗してのタンデム・シンクロによって、初号機の運動性やATフィールドの応用性が飛躍的に上がった様に、
彼(?)が同乗する事で、初号機は更なる能力向上効果が得られたのである。
これをス○ロボ風に表現するのであれば、サブパイロットの追加による精神コマンド使い放題状態。

アスカちゃんが【集中】で機体の機動力を上げ、ATフィールドの技能レベルを肩代わりする形で、必殺攻撃の使用条件をクリアに。
シンジ君が【感応】で更に命中率をアップ。アスカちゃんのそれに加算する形でATフィールドの技能レベルも上げて、高度な必殺攻撃の使用条件をクリア。
その結果、武器の射程も大幅アップ。

とでも言った所だろうか?
更に、アスカちゃんにはオート機能(戦闘方法を代わりに考えてくれる)と指揮官技能が。
シンジ君には強化パーツのファンの花束(ステータス異常無効)と同じ効果もあるかも知れん。
正に至れり尽せり。メインパイロットがヘッポコでも、それを充分にカバー出来るサポート体制が整っているという訳である。

『よっしゃあ!』

『って、一々技名叫んだり喜んだりしてる暇があったらドンドン投げる!
 只でさえ、3個もアドバンテージを取られてるんだから!』

『へっ?』

『判んないの? 18個以上撃破して、連中の鼻を明かしてやるのよ。
そう、ヤルからには完璧な形で勝つの。その方がアンタだって気分イイでしょ』

と、俺がモノローグを入れている間にも、最初のヒットに浮かれていた葛城ミサトを叱咤しつつ、言葉巧みにより良い方向へと誘導するアスカちゃん。

『(ハッ)なるほどね。上等よ。レイ! 次のヤツ、急いで!』

『了解』

かくて、2投目以降は、初号機は余計なタメを作らずにホーミング・ショットを連発。
レイちゃん曰く、脇役の零号機のサポートを受け、椀子ソバの如く次々と手渡されるソニック・グレイブをポンポンと投擲し始めた。

しかし何だな。第7使徒戦で初披露された時も思ったが、かなり凶悪な技だなコレ。
何せ、中間距離限定な必殺技だったのが、今や超々遠距離までカバー出来るのだ。
条件さえ整えば。固定砲台となれる場所から、LRMで狙い撃ち(BYバトルテック)って感じで一方的な蹂躙すら可能だろう。

『(チッ)また逃しちまった!』

とか言っている間に、戦局に大きな変化が。
その総数を20以下にまで減らした所で、コアの動きに如実な変化が。
最高スピードこそ若干落ちたが、カーブやスライダーっぽい動きを。
ぶっちゃけ、フェイントを入れ出したのである。
結果、それまで全打席ストレート狙いな大豪寺のDFSは空を切る事に。

『落ち着けガイ! 此処で焦ったら、元も子も無くすぞ』

『その通りです、大豪寺さん。
 それと、DFSを動かせるレベルまで収束率を下げて。敵の攻撃を捌く時の要領で確実に当てていきましょう』

そんな御剣君と春待三尉の激励を受け、大豪寺の駆るスーパー・ダーク・ガンガーは、DFSを100m位にまで短くして自由に振れる様にした。
だが、長さが長さだけにそれでもなお一撃必中とは行かず、結果、命中率は5割台に落ち込む事に。
その間に、これまでに稼いだアドバンテージを。
撃破したコアの数の差を着実に詰めて行く、初号機inネルフチーム。
そう。フェイントが入りだした後も、ホーミング・ショットはお構い無しにヒットを連発。
一度だけ、葛城ミサトのミスであからさまに明後日の方向に飛んだもの以外は、今も百発百中なのである。

いや、この命中率は正に反則級だな。
おまけに、飛翔スピードもマッハ12と目茶苦茶速いし。
ぶっちゃけ、ウチのエースパイロット達が相手でも、ロングレンジから狙い撃ちにされたら厳しいものが。
特に、空気抵抗の関係から機体の最高スピードの落ちる大気圏内では、かなりヤバイかも知れん。

と、そんな事をつらつら考えている間にも戦局は悪化の一途を。
残り3個の所で、大豪寺が16個、葛城ミサトが17個と、ついに逆転される事に。

『よっしゃあ、捲くった!』

勝利を確信して勝鬨を上げる葛城ミサト。
正直、この時点で、俺もまた半ば負けを覚悟した。
だが、天は大豪寺を見捨ててはいなかった。
ホーミング・ショットの有効レンジから逃れる様に、残りのコアが左側の端に集中。
偶然にも、一瞬、すぐ目の前で一直線に並ぶ形に。
それの好機を逃す事無く、

『チャンスだ、ガイ!』

『おうとも。お遊びは此処までだ! 貰ったぜ、鷹翼飛翔撃!』

スーパーダークガンガーはロサ・フェティダの背から緊急発進。
マッハ・シューターのサポートによる爆発的な推進力によって、再びバラけ様としていた瞬間に肉迫。
一筋の剣閃を。否、稲妻の様な軌跡を描いて、三つのコアを一気に撃破した。
正に、ラスト5秒の逆転劇だった。

『ズ…ズッコ〜イ! キタナイわよ、そんなの! 御詫びして訂正しろ〜!』

葛城ミサトがナニやら負け惜しみっぽい事を叫んでいるが、もう後の祭りである。
そう。基本的に、実戦ではヤッたモン勝ち。
仮に、本当に悪質なルール違反だったとしても、それは第三者の倫理観によって捌かれる類のもの。
敗者には、何も語る資格が無いのだ。

と、そんな述懐をしていた時、

  シュッ

「それでは、客観的視点から私が糾弾してさしあげましょうか?」

転生の舞を終えたカヲリ君が、そんな事を言ってきた。

「おいおい。どういう意味かな、カヲリ君? まさか、葛城ミサト宜しく、まとめて撃破はズルイとかなんとか、イチャモン同然な事を言い出す気じゃないだろう?」

「勿論ですわ。私が問題としているのは、先の3個のアドバンテージの事。
 つまり、大豪寺さん達は、最初から有利な状態で戦っていた事になりますでしょう?
 これは些か不公平に値するのではないかしら。囲碁に例えるならば、黒番にコミ(先手が負う6目半のハンデ)を付けない様なものってことね」

なるほど。そういう観点から見るならば、確かに1個差でシンジ君達の勝ちと言えない事も無いな。
いや、コイツは盲点だった。

「まあ。敢えて明言する必要も無い事ですけれど。
 それよりも、最後の仕上げを終らせてしましょう」

胸中で反省したのを見越したかの様に、カヲリ君が展開に巻きを入れて来た。
それを受け、俺は艦長にGOサインを。
いよいよ、(多分)最初で最後の御披露目である。

『それでは、このままでは宇宙から見た地球の美観を損ねますので、今回は使徒の遺体をコッチで処分しちゃいます。
 良いですよね、ネルフの皆さん。まあ、駄目だって言ってもやっちゃうんですけど』

『ええ。構わないわ』

『って、ナニ勝手な事言っちゃてるのよ、アスカ!
 駄目に決まってるじゃない! アレは貴重なサンプルなのよ!』

『あんたバカァ? ど〜せ、今の地球には宇宙に出る様な余裕なんてないんだから意味無いでしょうが。
 ンな下らない事に拘って、わざわざ連中に喧嘩を売る様な真似しないでよね』

艦長の宣言を受け、先程までの息の合った連携が嘘だったかの様な口論を始めるアスカちゃんと葛城ミサト。
それをシンジ君が必死に宥めているが、今回はあまり上手くいっていない。
どうも、戦闘が終了した事で己を律する理由が無くなった為、どちらも感情を優先させている所為っぽい。
ホンに彼(?)にはご苦労様としか言いようが無い。

『それではハーリー君、グラビティブラストの発射準備を』

『了解。グラビティ・ブラスト、発射シーケンス立上げ』

そんなネルフサイドの喧騒を宣言通りに黙殺しつつ、艦長が命令を下し、それを受けて、ハーリー君が準備を整えてゆく。
TV向けの対外的な実力。春待三尉>ハーリー君の構図からすると些かおかしい配置だが、この辺はもう仕方ない。
そう。グラビティ・ブラストの出力計算となると、矢張り制御の担当は彼の方が望ましい。
無論、春待三尉でもやってやれない事は無いのだが、モノがモノだけに確実性が求められるのだ。
差し詰め、モチはモチ屋と言った所だろうか。

『相転移エンジン、出力120%。歪曲場、臨界点を突破』

とか言ってる間にも、大戦中は瞬間的にやっていた手順を、ハーリー君が口頭にて丁寧に説明してゆく。
その過程で、艦長の前にスコープ付きのライフルっぽい物が。
言うまでもないが、全てがハッタリである。
そう。『これが照準装置&発射ボタンです』と誤認させる為の演出なのだ。

『総員、対重力波防御』

『発射カウントダウン開始。5・4・3・2・1』

艦長の指示を受け、ブリッジ内の全員が例の白百合のサングラスを着用。(勿論、只の演出)
ハーリ君がカウントダウンを開始し、それがゼロになるのと同時に、

『グラビティ・ブラスト発射!』

縁日の射的でもやっているかの様な体勢の艦長がライフルの引き金を引き、それに合わせて、ハーリー君がグラビティブラストを広域斉射。
威力を犠牲にして射界が大きく広がったその攻撃が、サハクィエルを一撃にて宇宙の塵と変えた。正に計算通りである。

ちなみに、『どうして今回に限って、こんなアフターサービスをするのか?』と問われれば、実は前述で艦長が述べた事以外にも明確な理由があったりする。
ボナパルト大佐に指摘されるまで、つい気付かなかった事なのだが、今回の様にTV版とは異なる展開に。
ネルフ本部を射程内に(この場合は、攻撃の有効範囲ではなくアダムへの接触が図れる位置という意味)捉える事無く、
例のフリーフォールからのボディプレス攻撃を行なう前に、その撃破に成功した場合、使徒の遺体は衛星軌道上を漂い続ける事になる。
実はコレ、かなりマズイ。
そう、何しろ全幅25q。その下に位置する地表の日照権をおもいっきり侵害するのだ。

(コホン)こう言ってしまうと、まるで冗談交じりな馬鹿話の様だが、その実体はさにあらず。かなり深刻な問題だったりする。
実際、ハーリー君に試算して貰った所、その予想被害はシャレにならないものが。
中には、主要作物等が全滅しそうな所まであった程。
従って、そうなる前に何としても取り除いておかない訳にはいかないという訳なのだ。
何せほら、地球に優しい悪の秘密結社ってのがウチの基本理念だし。(苦笑)

『な…なんなのよ、あの無茶苦茶な破壊力は。つ〜か、私に寄越しなさいよ、ソレ!』

『って、喧嘩売ってんのアンタは!? 
 アレを欲しがる気持はアタシにも判らなくは無いけど、もう少し理性的にって言うか。
 せめて、実際に口にするのは前半部分だけにしておきなさいよ、今のセリフは。
 そもそも、日本ってのはそういう恥じらいの精神を尊ぶ文化じゃなかったの!?』

『そんな一般論なんて気にしないわ。私は私よ』

『そこで開き直るな〜っ!』

なおもそんな掛け合い漫才をやっているアスカちゃん達の姿を暫し微笑ましげに眺めつつ、俺はエンディングの準備を始めた。



   〜 一時間後 転生の間 〜

そんなこんなで、あの後、レイちゃんまでが『私、もう駄目なのね』とか言って拗ね出して、シンジ君を困らせたりもしていた様だが、
俺達サイドではテンプレートな形で放送は終了。
今回の使徒娘も駄々を捏ねる事無く此方の申し出に応じてくれたので、恙無く転生作業に移る事が出来た。
出来れば、今後ともかくありたいものである。

「さあ、目覚めるが良い。神に祝福されし、天使の魂を受け継ぎし子よ!」

そんな事をつらつら考えつつ儀式の準備を整えた後、俺は徐にフラスコを指差した。
それに合わせ、カヲリ君が使徒の魂を解放つ。
彼女の手から飛び立った赤い光玉が、綾波レイのスペアボディに吸い込まれると同時に、中のLCLがゴボゴボと音を立て、次いでフラスコ内部が激しく発光。
そして、その輝きが収まった時、

「必殺! 超重圧拳!!」

そんな掛声と共に巨大フラスコを内部から、キュイ〜〜〜ンと言った感じの異音が。
と同時に、まるで発破解体をした高層ビルの如く、フラスコが縦に崩壊して行き、

「私の名前は空条ミオ! 将来の夢は、漆黒の戦神と真紅の羅刹を倒し、太陽系一の格闘家の称号を得る事!
 その為に、職種は学生を。木連側のチャンピオンたる影護 北斗さんの居る学校への転校を希望します」

細かい粒子と化してキラキラと舞い落ちるガラス片を浴びながら、
赤みがかった亜麻色の髪をツインテールにし、額の部分に『一撃必殺』と書かれた白地のハチマキをした。
14〜15歳位の如何にも格闘少女っと言った感じの娘が、どこかで見た様な構図にて元気良く自己紹介を決めてくれた。

………つまり、ラシィちゃんの同類なのか、この娘は。
まあ、使徒としての特性が彼女と同じ一点豪華主義な物なんで、何となく予測はしていたけど。
しかも、進学希望で北斗に喧嘩を売る気満々って………正に最悪じゃないか!
畜生。就職希望だったら、またアカツキに押し付け(ゴホン、ゴホン)じゃなくて、ネルガルに斡旋してやったのに。
いや、これは別に嫌がらせなんかじゃないぞ。うん。
風の噂で聞いた限りじゃ、生来の一途な性格と使徒娘特有のコーディネイター顔負けな物憶えの良さも相俟って、
既にラシィちゃんは、かの会社で頭角を現しているという話。
実際、こないだコッチに表敬訪問してきたエリナ女史やプロスさんだって、彼女は有能だって口を揃えて褒めていたし。
まあ、『その奇行に目を瞑れば』って注釈付きだけどさ。

「あの。何か問題でも?」

そんな、チョッっぴり現実逃避をしている間に不審を憶えたらしくミオちゃんから誰何の声が。

嗚呼、正直気が進まない。
とは言え、此処でコレを怠ると拙い事に。
何時ぞやの、ラシィちゃんの時と同じ。いや、それ以上の騒動を引き起こしそうな気がする。
仕方ない、覚悟を決めるとするか。

「(コホン)さて、空条ミオ君。君の歓迎会を始める前に、まずはこの部屋の掃除をして貰おうか。
 自分で汚した物は自分で片付ける。これが学生の基本だよ。
 それと、学校ではそのハチマキを外してくれ。何気に第一中学校の校則に違反するから。
 ついでに、その髪型も止めた方が良いな。わりと不幸属性になり易いって話だから。
 何でも、その昔、いきなり吸血鬼に噛まれた挙句に……………」

かくて俺は、使徒娘特有の経験を伴わない知識と現実との差を修正すべく、ミオちゃんに社会生活を送る上での最低限のルールを懇切丁寧にレクチャーした。
その甲斐あってか、彼女は素直に頷いてくれたのだが、

「って、一体ナニをやっているのかね、君は?」

「えっ? 『ナニ』って、ゴミを掃く為の準備だけど」

そう言いつつ、彼女は右手をブンブンと振り回している。
いや、確かに『元気ブンブンさあて、やるか〜』って感じの景気付けと取れなくもない動作なんだが。
何と言うか、妙に力が入り過ぎていると言うか、そこはかとなく剣呑な雰囲気が………

と、そんな嫌な予感から止めようとした瞬間、

「いっけえ〜! 重力落下拳!!」

タッチの差で、必殺技名の叫びも高らかに、振り回した右手の遠心力を付けての打ち下ろし気味な右ストレートが繰り出された。
と同時に、何故か地面が消失したかの様な感覚が。
そして、そのまま、俺の身体は真横に落っこちた。

「(トス)御無事ですか、提督」

と、途中でATフィールドを張ったカヲリ君が受け止めてくれなかったら、壁と言う名の地面に叩きつけられていた所。今のは一体?

「一体どういうつもりですの、ミオ?」

「えっ? 掃除だけど。ほら、ゴミはチャンと集まってるでしょ?」

カヲリ君の詰問に、あっけらかんとそう答えるミオちゃん。
そう言って指差した先には。部屋の右端には、細かいガラス片がうずたかく纏まっている。
いや、確かに効率的な方法と言えなくもないのだろうが………

「(ハア〜)だからと言って、室内の重力の方向を変える人がありますか。
 そもそも、今回の様に、部屋にある物総てを捨てても構わないケースなんて稀な事。
 ましてや、その場に居合わせた人間に類が及ぶ様な真似をするなんて論外ですわ。
 お掃除とは、貴女の思っている様な安易なものでは無いってことね」

色んな意味で疲弊しきった俺に代わって、カヲリ君が説教を。
その後ろ姿を頼もしく眺めながら溜息を一つ。

かくて、空の天使サハクィエルこと空条ミオの、いまだ常識が空っぽな人生が幕を開けた。
嗚呼、10分程前の。たわけた感想を抱いた自分を後ろから殴ってやりたい。
こんなの、ちっとも『恙無く』も『かくありたく』もないやい。




>SYSOP

   〜  同時刻。2199年のテニシアン島、アクア=マリンの別荘 〜

「ねえ、ケンちゃん。ハル君とラビスちゃんの様子はどうかしら?」

「この時間でしたら、ドクターYの所で(為にならない)情操教育を受けている頃ですが、それが何か?」

何時も通りのトリップを終えた後、それまでの報告を無視する形で。
自分の雇い主が聞いてきた唐突な問いに、胸中でのみ注釈を入れながら憮然とした顔でそう答える健二。
ちなみに、ドクターYとはヤマサキ博士の事。万一に備えての隠語である。
もっとも彼の博士の顔は、この業界においては知らなかったらモグリとさえ言えるメジャーなものであるだけに、
わざわざ呼び方を変えてみた所でイザとなったら全く意味が無い。
正味の話、クトゥルフ系の邪神が蘇るのを心配して海に土嚢を積むくらい虚しい行為だろう。
従って、かのコードネームは、単に悪名高き彼の名前を直接呼びたくない一心で、健二がデッチ上げた苦肉の策だったりするのだが、
これはもう蛇足の極み。どうでも良い話だろう。

「そもそも、その辺りの事でしたらMissマリンの方が良く御存知の筈ですよ。暇さえあれば、あの子達で遊んでいるんですし」

実際、体の良いオモチャだよな、アレは。と、胸中では件の少年少女達に同情を禁じ得ないが、それについて突っ込んだ言及はしない。
自分に出来る事と出来ない事を明確に区別する。それがプロの最低条件である。

「う〜ん。ケンちゃんの言いたい事も判らなくはないんだけど〜
 ほら、私の前だと猫を被っているって事もあるじゃない。
 たとえばほら、私の居ない所では
 『やれやれ、大人はすぐそれだ』とか『あたしゃ困っちまうよ』とか『全くだ。あのアマ、いつかヒデえ目に遭わせてやるぜ。イヤっていうほど、俺の背中を引っ掻かせてやる』
 とか言いながら、三人でダベってたりするんじゃないかと思って

「………あの子達に一体ナニを期待してるんですか?
 ついでにお聞きしますが、俺をどういう目でみてるんですか、貴女は?」

ジト目で見詰めつつ、そう問い返す健二。
無論、別に怒っている訳では無い。
ましてや、先の二人が超有名作品の主人公っぽいセリフだったのに対に、自分だけ脇役の。
それも、一巻の冒頭で出てきたっきりのY談モドキなのを気にしている訳でもない。
『あの子達の為にも、この辺で彼女の真意を聞き出しておかねばならない』と、思ったが故の詰問である。

だが、そんな色んな意味で必死の思いは空回り。
アクアは、まともに取り合う事無く、

「ああ、大丈夫。これでも、結構信用しているのよ。
 たとえその気になったとしても、実行に移す度胸なんてケンちゃんには無いって

と、色んな意味で大ダメージなセリフで健二の言及の矛先を潰した後、

「まあ、それはそれとして。話しを元に戻すわね。
 (コホン)ヤマサキさんの技量を疑っている訳じゃないけど、やっぱり畑違いな仕事。
 正直、このままやっても、あまり芳しい結果は得られないと思うの。
 それに、彼の本来の御仕事にも支障が出るしね。
 そこで、今後あの子達の教育は、その道のプロに。私のお友達にお願いしようと思うの」

止めとばかりに、そんな信じ難い事を宣まった。

  シ〜〜〜ン

かくて、健二の心は空となり無となった。
そのまま、一分が過ぎ、二分が過ぎ、三分が過ぎた頃、

「スゴ〜イ! 私、無我の境地って初めて見ちゃった!
 そんなの、宗教家達の妄想の産物って言うか。てっきり、お話の中だけの事だと思ってたのに、まさか、こんな身近にそれを体現している人が居たなんて。
 もう目から鱗って感じよ」

「今のは『頭が真っ白になった』って言うんです!
 いえ、そんな事よりも、居たんですか、貴女に友人が!?」

無体な事を言われたショックで漸く再起動。
ありえないとしか思えない話しに動揺しつつも、反射的に詰問する健二。
そんな彼に向かって、

「や〜ねえ、当り前でしょそんなの。私だって人間だもの。
 まあ、そんな訳だから、これから彼女を迎えに行ってくれないかしら? アクアのオ・ネ・ガ・イ

アクアはニッコリ微笑みながら、そんな色んな意味で実現困難な。
有態に言って『やりたくない』と絶叫したくなる様な無理難題を命じた。



   〜 翌日。ホシノ ルリの通う中学校。 〜

その日の放課後、ルリの携帯を偶然見てしまった事に端を発した一連の騒動以来、屈託した感情を持て余していたセガワ カズヒサは、
ルリの親友であり、その彼女が『チョッと用事がありまして』と早めに下校した事もあって、珍しく一人で帰宅しようとしていたイトウ アユミに意を決して声を掛けた。

「イトウさん、チョッと良いかな?」

「ん? ナニかなカズヒサ君?」

「実は、ホシノさんの事なんだけど………」

躊躇いつつも、カズヒサはルリと疎遠になってしまってからの三ヶ月間の思いの丈をぶつけた。
そう。いまだ彼は、ルリの事を諦めてはいなかった。
そして、一週間以上に渡る無断欠席より復帰した後、アユミの口から只の弟分だと聞かされたマキビ ハリなる人物の事も、いまだ疑っていた。
何故なら、ルリは復学後(?)も時折、物憂げな表情を見せる事があったからである。

「正直に言ってくれ。例のハーリー君ってのが9歳の子供ってのは、ヤッパリ嘘なんだろ?」

半ば確信をもって、カズヒサは最後にそう尋ねた。

そう。垣間見てしまったあのメールの内容は、『ホシノさんに彼氏が!?』との衝撃と共に、いまだ頭に焼き付いている。
当然ながら、それを分析した事もある。
その過程で知った事なのだが、その内容は、シェークスピアを始めとする数々の戯曲のセリフをもじったものが多く含まれていた。
キザな上に些かオリジナリティに欠けるが、相応の学識がなければ書けない物。
つまり、アレは絶対9歳の子供の文面ではない。

矢張り、自分の直感は正しくて、ホシノさんは騙されていて、その男の事なんかで一喜一憂している。
『そうでなければ良い』と思いつつも、無意識の内に、『そうであれば良い』と。
自分の出番が来る事を、自覚無く切望しての質問だった。

「(ハア〜)嘘じゃないわ。少なくとも、私が見た限りじゃ、彼は確かにそれ位の歳恰好の子供よ。
 間違っても、カズヒサ君が想像している様なイケメンホストっぽい年上の男じゃないわ」

そんな彼とは温度差も激しく、溜息混じりにそう宣うアユミ。
と同時に、昨夜のお泊り会(例のズル休み(第8話参照)以来、いまだ誤解が解けていないらしいミスマル叔父様に懇願され定期的に行なっている)の事を。
不定期に送られて来る、ルリが所属している名も無い劇団が配給しているらしい。
此処以外では聞いた事も無い様なマイナーなタイトルの作品なのに、何故かシャレにならない制作費が掛っていそうなSF映画を一緒に観た時の事を思い出す。

『相転移エンジン、出力120%。歪曲場、臨界点を突破』
『総員、対重力波防御』
『発射カウントダウン開始。5・4・3・2・1』
『グラビティ・ブラスト発射!』

そんなクライマックスシーンの一つ。
噂の少年がアップになっているシーンを見詰めながら、

『(フッ)やれやれ随分と調子に乗っている様ですね、ハーリー君。
 良いでしょう。次に会った時には、その天狗の鼻をへし折ってあげますよ』

『うわ〜、ルリってば燃えてるね〜
 やっぱ元『電子の妖精』としては、今のハーリーに焦りを覚えたりするの?』

『それは誤解ですよ、ラピス。私が、そんな道化染みた二つ名に未練があるとでも思っているのですか?』

『じゃあ、何で?』

『私は、ハーリー君に慢心して欲しくないだけ。これは元上司としての義務ですから。
 ええ。勿論、彼の恋人の事なんて。あの牛チチなショタ娘に、格の違いを教えてやろうだなんて気はコレっぽっちもありませんよ』

(ナニ、この動物園の虎の檻にでも放りこまれたかの様な感覚は?
 つ〜か、笑顔なのに目が笑ってないよ、ルリ。いくら巨乳コンプレックスだからってその反応は怖過ぎだよ、ルリ。
 何時もの天然の入った素直クールな娘に戻ってよ、ルリ)



と、一通りの回想が終った後、アユミは無茶苦茶さわやかに。
悟りを開いた者のみに許される、澄み切った笑顔を浮かべつつ、

「え〜と、カズヒサ君。やっぱ貴方、ラピスちゃんの言うとおり、ルリって娘の事を何も判っていないわ。
 少なくとも、私の知っている彼女は、間違っても、貴方の思っているようなか弱い少女なんかじゃない。
 目的の為には手段を選ない、勇ましくも狡猾な“何か”よ」

「な…何かって?」

「(フッ)それが判れば苦労はしないって。
 とゆ〜か、それを知りたいからこそ、私はあの娘の親友をやっているのかも知れないわ」

親友………そう、自分は最後までルリの親友なのだ。
図らずも、昨夜グラ付いた自信を回復させてくれたカズヒサにチョッとだけ感謝しつつ、
なおもグチグチと言い募ってくる彼の青春のパトスを、優しくかつ適当に嗜めるアユミだった。



   〜 同時刻。 ネルフ本部、整備班控室 〜

「しっかし何だな。(モグモグ)頼んだ俺等が言うのも何だけど(モグモグ)マジにあったんだな。
 ひょっとして、マ○みての影響? (モグモグ)純粋に日本人観光客をターゲットにしてんのかね、コレってば?」

新人故に遅めとなった夏休みを利用してパック旅行に。
そこから昨日帰ってきた後輩の斎藤のイタリア土産を頬張りながら、岩田ノリクニが何とはなしにそう呟いた。
確かに自分の注文通りの品なのだし、彼が真面目な性格なのは良く知っていたが、半ばギャグで言った事だけにチョッピリ白けた気分と言ったところだろうか。

(まっ、(バリバリ)最大の(ボリボリ)お得意さんらしいからのう。(バリバリ)客のニーズに(ボリボリ)合わせるんが(バリバリ)商売の(ボリボリ)基本やし)

これまたどうでも良さそうに、住吉ダイマルがそれに相槌を。
此方は特に感慨は無く、純粋に煎餅を食い散らかしていると言った感じだ。

「そんな訳ないだろ。つ〜か、食べるか喋るかドッチかにしろよ、二人共」

そんな休憩時間を利用してのオヤツタイムを満喫中の同僚達に、呆れ顔で突っ込む渡辺トオル。
だが、それがカチンと来たらしく、

「うっせ〜ぞ、この裏切りモンが。
 な〜にが乾燥ポルチーニ(イタリアの松茸とも言うべき茸)だ。何時からそんなブルジョワな舌になったんだよ、お前は」

(せやな。何せ高級食材、わしらのフィレンツェ煎餅とローマ饅頭を足したよりも値が張るで、多分。
 後輩相手にそないモンを土産に頼む様な輩に、恥云々を語られたくないで)

「チョッと待て! 『せっかくだからマ○みてネタで揃えよう』って言い出したのは、お前等だろうが!」

反論する岩田と住吉に、渡辺は『ソレを言ったらおしまいだ』的な突っ込み返しを。
そんな先輩達の休息風景を眺めながら、斎藤は、ふと旅行中の事を。その真の目的の部分を思い出す。



   〜 三日前。イタリア、のカフェテラス 〜

第三新東京の市長選に破れた後、10日程掛けて関係各所への敗戦の御詫びを兼ねた挨拶周りを終えた後、西園寺まりい議員は、休暇を取って単身イタリアに。
所謂、傷心旅行に出かけたとの噂を聞きつけ、居ても立っても居られなくなった斎藤は、自身もイタリアへ。
あの日の事を謝罪すべく、桃色髪の少女を頼ってその滞在先を調べ上げ、彼女の下へと向かった。
ウジウジと悩む事無く、こうして具体的な行動を取れている。
この点に関しては、自分でもチョッと自分を見直していたりする。

問題は、なんと言って謝れば良いかが見当も付かない事。それが問題だった。
だが、そんな悩みは、湖の見えるオープンカフェで、一人、物憂げな表情で。
初対面の折の。あの圧倒的なまでの覇気が感じられぬ西園寺議員の姿を見た瞬間に吹き飛んだ。

『マッハ・バロンの正体は私です』

彼女の姿に衝撃を受けた斎藤は、ツカツカとその前に歩き寄ると同時に、前置き無しにそう切り出した。

『知らぬ事とは言え、貴方の市長就任を阻んだ主原因を作る様な真似をしてしまいました。取り返しのつかない事です』

出たとこ勝負の体当たりだった。

『この銃弾によって、貴女の心に平穏が訪れる事を願います』

最後にそう言いつつ、斎藤は懐からS&W M42(アルミ合金製フレームのリボルバー)を取り出すと、西園寺議員の前に差し出した。

『……………ねえ、貴方知ってる?』

暫し呆気に取られた顔で繁々と斎藤を見詰める西園寺議員。
だが、1分程もしてからだろうか。合点がいったと言う顔になると、ニッコリと微笑みながら、

『日本と違ってね、この国の法律では、銃を向けられた時点で正当防衛が成立するって事を』

そう言いつつ、彼女は懐からワルサーP22(半自動拳銃。22LR使用銃にしては大型で重いが、反動が少なく集弾性も良い)を取り出した。

『ああ、勘違いしないでね。あの時、私を助けてくれた事には感謝しているわ。心からね。
 でも、ソレはソレ、コレはコレって言うか、そんな真似をした以上、貴方はこういうのを望んでいるんでしょ?
 だからね、これはあの日のお礼よ。色んな意味でね



   〜 再び、ネルフ本部の整備班控え室 〜

まさか、本当に撃たれるとは思って無かったよな〜
と、ヒ○ロ=ユイ式な謝罪が失敗に終った事を思い出し苦笑する。
そう、西園寺議員はもう大丈夫だ。あの日の覇気を取り戻した以上、何があったとしても負ける筈がない。
謝罪を受け入れては貰えなかったのは些か残念だが、初期の目的は果す事が出来た。まずは満足すべき結末だろう。
あの後、何発かクリーンヒットを貰ったものの、所詮は22口径。たいしたダメージじゃなかったし。

「俺達はマ○みてで揃えようって言っただけだぜ」

(せやな。別にジェラートとかでも良かった筈や)

「んな訳ないだろ! 普通のアイスを持ち帰るのだって、かなり骨だってのに」

「じゃシャープペン?」

(エアメールという手もあるのう)

「お前等なあ〜」

そんな先輩達の喧騒を眺めながら、チョッと誇らしい気分になる。
今回は逃げなかった事で、漸く一歩だけ。ほんの少しだけ、前に進めた様な気がする斎藤だった。



  〜 翌日。午後2時、某家電量販店 〜

その日、碇シンジは友人達と共に買物に来ていた。
物欲の少ない彼女にしては珍しい事であり、ましてや、単に『無いと困るから』という類の日用品以外の物を購入するのは、本当に稀な事である。
いや、新しく女の子らしい可愛らしい服の一つも買ってくる様に零夜から言われていたが、それはあくまで義務に過ぎない。
そう、目当ての品は別にあった。

「それじゃ頼むね、ケンスケ」

「おう。15分位で終るから、ソッチもチャチャと書いちゃってくれ」

家電に関する知識などほとんど無かったので、その手の事に詳しい友人に良い物を選んで貰い、それを購入後、とあるセッティングをして貰う事に。
その間に、ジュースの自販機の横にあった喫茶スペースを利用して、シンジは一枚の手紙を認め出した。
そして、それが中程まで書き終わった時、

「ヘロ〜ォ、シンジ。こんなトコでナニやってるの?」

シンジ達とは別口で出掛けていたアスカが、フラっとその場に現れた。

「アスカこそどうしたんだよ? たしかソッチも買物に出かけた筈だろ?」

「うん。皆は隣のデパートに居るわ」

「何でアスカだけ此処に?」

「いやその。途中でヒカリが、緑のワンピースの前で長考に入っちゃったんでね。
 向こうはカヲリ達に任せて、暇潰しがてらコッチに新作ゲームのチェックに来たのよ」

シンジの問い返しに、チョッとだけバツの悪そうにそう答えるアスカ。
そして、それを誤魔化す様に、

「って、ナニ書いてるの? チョッと見せて」

と、書きかけの手紙を掻っ攫い、抗議の声を上げるシンジをいなしつつ、その文面を読み上げ始めた。

「え〜と、何々。『前略、院長さんへ。そちらはお変わり無いでしょうか? 僕は元気でやっています。
 先日、日本でも再び使徒戦に参加する事になりましたが、首尾良く勝利を収める事が出来ました。
 また、その際の戦功が認められたらしく、特別ボーナスを頂きました。
 そんな訳で、少々懐が暖かですので、その御裾分けに、子供達が欲しがっていたデジタル放送に対応したTVを送らせて頂きます。
 友人のケンスケに頼んで、電気消費量の少ない物を選びました。
 また、彼に頼んで、内蔵のHDに(最近のTVはDVD機能もあるそうなんです)、今回の使徒戦の模様と先の中国での物とを入れておいて貰いましたので………』
 って、アッチでカメラがハンディPC片手に弄くってた、アンタの部屋に置くにしては妙に馬鹿デカイと思ったTVは、そいう事なワケ?」

「い…良いじゃないか、別に。
 あそこに置いてあったTVって、旧型だから今の放送は規格が合わなくて見れないし。
 ビデオもテープが大分痛んでてチラつくから、目が悪くなりそうだったし」

「まあね。世の為人の為っつうか、どこかのうわばみのソレに比べれば、ナンボかマシな給料の使い道だわ」

しどろもどろに答える動揺し捲くった姿をニヤニヤと眺めながらそう宣うアスカ。
彼女的には、本来ならばこの手の偽善チックな話は好きでは無いのだが、相手がシンジだとまた別の感想が胸に生まれてくる。
そう。彼女のそれには、自分の嫌いなニオイがしない。
おまけに、美味しいネタまで振ってくれているのだ。有難く頂かない手は無い。

「にしても、アンタって意外とナルシーだったのね。
 あらかじめ自分の活躍が映っているシーンを入れとくなんて」

「いやその。し…仕方ないじゃないか。あの子達が見たがっていたんだから!」

「そ〜ね。折角のファンだもの、大事にしないとね〜」

かくて、イイ感じのソフトが無かった事への不満などどこぞにうっちゃり、目の前で真っ赤になって反論している恰好のオモチャで遊び倒すアスカだった。



   〜 翌日。午後12時30分、第一中学校の校舎裏 〜

「「「ジャンケンポン! あいこでしょ!」」」

黄色い声を上げつつ、目の前で10人前後の女生徒達が、最後の品を巡って熱いジャンケンバトルを繰り広げている。
そう。ケンスケの露店は、ついに長年の夢だった新たな市場を開拓。
女生徒層をターゲットとした商品の開発に成功した。
物はと言えば、今のシンジと元の少年バージョンとの抱き合わせセット。
腐女子をターゲットに半ばシャレで作ったコレが、予想外なヒットを飛ばしたのだ。
特に、昨日の買物の際に撮った、婦人服売場にてアスカに絡まれて恥らう姿バージョンと、
雨に濡れ小さく震えながら土砂降りの空を見上げているバージョンは大人気だった。
ちなみに、同じく全身がびしょ濡れなアスカの、制服が肌に張り付きその見事なプロポーションが強調されているバージョンは、
充分な枚数を用意したにも関わらず販売開始3分で完売している。
顧客層については言うまでもないだろう。

「えっ? 『良い子は真似しちゃいけません』って、どういう意味なの、ナッピー?」

「この手のメモリーの復旧は、わりとグレーな行為って事さ」

売り子のウミの疑問に答えつつ、ニヒルな(と本人だけは思っている)笑顔を浮かべるケンスケだった。



   〜 三日後。2199年午後3時、火星の作業現場 〜

「そろそろ上がらせて貰うぞ」

チラッと時刻を確認した後、ゲンドウはカントクに一言断りを入れた。
この辺、ネルフの司令をやっていた頃には考えられなかった事。
ある意味、社会復帰しているとも言える。
もっとも、早退する理由は寧ろその対極なのだが。

「ん? もうそんな時間だべか」

何時も通りのニコニコ笑顔で、ゲンドウに応じるカントク。
そして、早退の許可を出すと共に、

「しっかし、月一でコッチに出張してくるアーメンさんのトコへ行きたいだなんて、ホントにキリスト教徒だったんやな、オマエ。
 十字を切ったトコなんて見た事なかったけん、気付かなかったでよ」

「人は信じるものがあるから生きていける」

そんなやり取りをした後、さも名案を思いついたとだばかりに、

「おお、そうだ。ついでにオラっちの分も。工事の無事を祈っといて欲しいだでよ」

と言いつつ、彼は懐の財布から高額紙幣を。
チョッとフンパツした御賽銭を差し出した。

「問題ない」

そんな他宗教のそれとゴッチャにしているカントクに敢えて突っ込む事なく、ゲンドウはそれを受け取った後、歩を進めた。
敢えて逆らわない。この金は、いずれ酒でも奢る形で返せば済む。

そう。此処から先は、彼の様な人間が知る必要の無い事。
関わらせる切欠を作る様な真似をするのは、マイナスにしかならない。

「神の家にようこそ。今日はどういった御用件で?」

「懺悔がしたい」

施設の一室を借りての臨時の教会に入ると同時に、にこやかに出迎えた神父に向かって、ゲンドウは用件を切り出し、そのまま告解室に。

「神の慈しみを信頼して、貴方の罪を告白して下さい」

待つこと暫し。互いの顔が見えない様に板張りのされたそのスペースの向こう側から聞えてきた声は、予定通り目当ての人物、シスター言峰のものだった。
『問題ない』と胸中で呟いた後、

「私は、妻を救う為に許されざる大罪を犯した」

と、符丁のセリフを。
そして、僅かに空いている隙間から、札束の入った分厚い封筒を差し出す。
そう。薄い板張りの壁の向こうに居るのは、以前地球で荒稼ぎをしていた時、ヤバイ会長のツテで知り合った腕利きの情報屋なのだ。

ちなみに、符丁の内容を指定したのは、当然ながらゲンドウの方である。
無論、万一に備えての事なのだが、これがどこまでカモフラージュなのかは、本人にさえ判断がつかない。
彼はどこまでも不器用な男だった。

「父と子と聖霊の御名によって、貴方の罪を許します。アーメン」

壁の向こうで一頻りの祈りが捧げられた後、隙間より一枚の封書が。
開けてみると、そこには免罪符の代わりに小さなSDVDが入っていた。

はやる心を押さえつつ、用意してきたハンディPC(予め地球で購入したもの。IFS対応機種なので操作は簡単)にて、その内容を手早く確認する。
読み進めるに、どうやら第10使徒戦が終了した直後らしい。
問題ない。死海文書に記されていたスケジュール通りである。

次に、ネルフ側の関係者達の近況が。
この辺は、さして興味がないので適当に流し読む。
そう。ゲンドウにとって重要なのは、寧ろダークネスのメンバーの方。
最後に逆転する為の切欠を掴み得る情報だけだった。
だが、綾波レイの名前が出てきた時には、流石に手が止まった。
正直、読むのが辛かった。この少女が、自分の罪の象徴であるが故に。

男だったらシンジ、女だったらレイと名付けよう。
妻に向かってそう語った日の事が思い起こされる。
あの時、ユイに迎合して男の子の名前も考えたのだが、ゲンドウ自身はそれを望んではいなかった。
正直言って、彼女の愛情が自分以外の男に注がれる事など想像するだけで………
無論、シンジに罪などない事は判っていたのだが、ユイの胸に抱かれるその姿を見るにつけ、いったい何度、理不尽極まりない怒りを憶えた事か。
実を言うと、補完計画を始めた直後に彼を手放したのも、
ユイを一時的に失った事で不安定になった自分が、精神的にだけではなく直接的に息子を傷つけてしましそうだったので、それを回避しようとして行なった部分があったりする。

だが、『せめて女の子が産まれていれば』と思っていた夢の体現者であるレイもまた、ゲンドウの苛立ちを誘うものでしかなかった。
ネルフに居た頃は一瞬の邂逅を。
そして永遠に一つになる事を望んでいたのでさして気になら無かったが、ユイと同じ顔した存在が他にも居る事は何かを冒涜された様な気がしてくる。
おまけに、その特異な出生に対する負い目もあって、今となっては、どうにも顔を会わせ辛い。
まあ、向こうは向こうで、自分が去った後はそれなりに幸福になった様なので、このまま自分とは関係の無い人生を歩んで欲しいものだと思う。
実に身勝手な話だと自覚はしているが、それがゲンドウの偽らざる本音だった。

そんなチョッっぴり凹んだ気分で読み進めると、次に出てきたのはシンジの名前だった。
しかも、自分の知らない。死海文書に記されていない使徒との戦闘中に謎の怪光線を浴び、その所為で重大な後遺症を背負ったとの事。
正直、息子に関しては色々と微妙な想いがあるが、それでも。否、だからこそ気にならない筈がない。
常ならぬ不安を覚えつつ、その後遺症についての記述の部分をクリックすると、



これは完全に想定外だった。
震える手で確認する。間違い無い、DNAレベルでの完全な女性化だった。
つまり、息子は今や娘になってしまったという訳である。
普通の男親なら漢泣きに泣く局面だろう。
だが、良くも悪くも、ゲンドウは普通ではない。

元々シンジは、顔立ちこそユイにも自分にも似ていなかったが、それでも確に血統を感じる物が。
全体的なイメージこそ違うが、根っ子の部分は良く似ている。
例えるならば、材料は同じ卵でも、ゲンドウとユイが目玉焼きならば、シンジはその2個から作ったオムレツと言った所だろうか。

いや、そんな事はどうでも良い。
問題なのは今のシンジだ。
可愛い女の子であり、しかも、実の子でありながらユイに似ていない。(ココ重要)
彼にとっては正に理想的なメタモルフォーゼだった。

「(フッ)良くやったな、シンジ」

何時ものポーズで。
だが、かつての彼を知る者ならば我が目を疑う様な穏やかな雰囲気を発しつつ、今や娘となってしまった我が子の偉業(?)を賞賛する。
かくて、碇親子の10年に渡る確執は、父親サイドにおいては完全に解決した。




次回予告

MAGI、それはネルフ本部を全てを掌握するトリプルスーパーコンピューターシステムである。
何の変哲もない日常下の技術一課による定期検診。
引き続き行われるシミュレーションプラグの稼働実験。
だがその時、事件は起こった。
次々と犯されてゆく地下施設、セントラルドグマ。
ついに自爆決議が迫られるネルフ。

次回「妖精、侵入」

もう止められる者はいない




あとがき

   チャララララ〜〜〜ラ、チャ!

さわやかなゲームの起動音が、プライベートルームの中をこだまする。
バン○レストのユーザであるプレイヤー達が、今日も(ある意味)天使のような無垢な笑顔で、オープニングデモをスキップしてゆく。
フラグ立てのチャンスは見逃さないように、強化パーツを持ったボスキャラは逃がさない様に、ゆっくりとプレイするのがこのゲームのたしなみ。
もちろん、全滅プレイで資金稼ぎなどといった、はしたないプレーヤーなど存在していようはずもない。
スー○ーロボット大戦シリーズ。
1991年4月20日に発売された第一作は、もとはゲーム○ーイのためにつくられたという、伝統あるシミュレーションRPGである。
第二次スパロボ以降の面影を未だに残している定番のシステムの下、数多のクロスストーリを絡めて、
マ○ンガーZから比較的最近のロボットアニメまでの一貫教育を受けられるスーパーロボットフリークの園。
時代は移り変わり、ハードウェアがゲーム○ーイからニン○ンドーDS Liteにまで改まった平成の今日でも、
周回プレイを重ねれば筋金入りのスパロボオタクが箱入りで誕生するという仕組みが未だに残っている貴重なゲームである。



………作品と全然関係の無い唐突なネタで済みません。
漸く第12話が完成した所為か、マイルールでお預けにしていた某ゲームの事で頭が一杯なでぶりんです。
今回もまた二ヶ月近くも間を開けてしまい申し訳ありません。
嗚呼、まだ12話。本気で己の遅筆を過小評価し過ぎていた様です。
正直申しまして、時折、後はもうプロットだけをそのまま投稿して『………という物語だったったんじゃよ』として打ち切るという危険な誘惑に駆られたりしています。

しかも、次は鬼門中の鬼門、ルリが主役の御話です。
正直、怖いです。と言うのも、私的視点では彼女は弱点の存在しないキャラだからです。
そう。何せアキトと他のクルー達の命を天秤に掛けた時、躊躇い無くアキトを選ぶ人なので、足枷のつけ様が無いんです。
私は、一体どうしたら良いんでしょう。(泣)

ですが、逆に言えば、この御話を乗り切れば折り返し地点。オーバー・ザ・トップを果たす事が。
その辺に希望を見出しつつ頑張りますので、どうか見捨てないでやって下さい。(ペコリ)

それでは、もったいなくも御感想を下さる皆様に感謝すると共に、再びお目にかかれる日が来る事を祈りつつ。

PS:真に勝手ではありますが、現在、ネタ出しの為にス○ロボ中ですので、次は三ヶ月位掛かってしまいそうです。
   重ね重ね申し訳ありません。(土下座)




【アキトの平行世界漫遊記G】

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

とりあえずこの駄目親父の魂に哀れみを(キリエ・エレイゾン)。

今のツンデレ一歩手前のシンジを見たら萌え転がるかもしれない。

・・・外ン道の中の人って時々初号機並に暴走するから、その様子が想像できてしまいそうなのがなんともはや。

 

※疑う人は「月詠」というアニメの第八話の次回予告を御覧下さい。

 

>さわやかなゲームの起動音が、プライベートルームの中をこだまする以下略

ひょっとして感想をつけている誰かさんのことなんだろうか。

それはそれとして楽しんでくださいねー。今回はある意味サルファ以上の傑作です。

ちなみに私、現在Wは6周目(爆死)。

 

>ガッチャマンF

わからねーよ、普通w