〜 三日後。ネルフ本部、第三新東京市 〜

第三新東京市の上空に、巨大な球形の物体が浮かんでいる。
ゆっくりと。まるで風に吹くままに微速前進しているかの様なその姿は、遠目にはアドバルーンの様にも見える。
だが、その大きさがと色彩があり得ない。
直径約500m。表面が白と黒のゼブラ模様で埋め尽くされてた。現実感の欠如した堂々たる威容。
もしも、コレを宣伝として使う様な企業があったとしたら、広報担当者の正気を疑う所だろう。
まあ、ぶっちゃけ使徒なので、そんな心配は無用なのだが。

(コホン)さて。なんかもうエライ久しぶりの様な気がするが、今日は使徒戦の日。予定通り第12使徒レリエルの登場である。
そして、これは一つのターニングポイントでもあったりする。
今回はウチが先手を取る。そして、スーパー・ダーク・ガンガーは、いきなりアレに吸い込まれる事になっている。
そう、ヤマダの出番は今日でお終いなのだ。嗚呼、こんな嬉しい事は無い。

無論、その後釜であるカザマ君のデビューの準備も万端だ。それも、当初の予定以上に。
と言うのも、実は例の外宇宙からの侵略者との交戦状況を撮影した映像が政府筋にもたらした衝撃は絶大だったらしく、予想外のテコ入れが。
なんと、昨日付けで白百合とガンガーの封印が解かれ、コッチに送って貰える事になったのだ。

これはホンに嬉しい誤算だった。
そして、この幸運を生かさない手は無い。
そんな訳で、ついズルをして。名目上はチューリップからチューリップを繋ぐピストン輸送という形で。
その実、カヲリ君に頼んで早速お持ち帰りに。
そのまま緊急整備をし、こうして本日の使徒戦に間に合わせたという訳である。

(フッフッフッ)もはや勝ったも同然。しかも、今回は遠慮する必要がない。
おまけに、カザマ君にはチョッとした借りが。今日まで散々ワリ食わせちゃってる負い目もある。
そんな訳で、今回は彼女のストレス解消もかねて、新型機導入のお約束とも言うべき無双モードで。
俺TUEEEEEな形で、派手に圧勝して貰うつもりでいる。

ファイトプランも至って単純に。
虚数空間内のスーパー・ダーク・ガンガーから送られる内部情報を下に、フェザー・スマッシャーでコアを狙い撃ちにする予定だ。
赤木リツコの立てた『この世に存在する総てのN2爆弾を打ち込む作戦』の焼き直しと言うか、機体性能頼みの力押しなのだが、
原作とは前提条件からして違うので、あえて捻る必要も無い。
体長が二回りほど大きい事以外は変化無しと言うか、今回の使徒のパワーアップポイントがまだ判明していないのがネックと言えばネックだが、
ソッチは大佐と艦長がアレコレ考えていてくれるから、仮に裏目に出ても多分問題ない。
うん。細かい事は気にせずチャッチャとキメてしまおう。
何と言うか、今回はもう戦闘シーンはお腹一杯って感じだし。

『富士レーダーサイトより入電。第三新東京市上空に、謎の飛行物体出現。
 同物体は現在、時速10q前後のスピードにて、本部に向かって進行しています』

オペレーター席の青葉シゲルが、お約束の報告を。
それを受け、発令所の面々がメインモニターを。そこに映る、レリエルの異形を凝視する。緊張の瞬間だ。
そして、そうした空気を全く読まずに、

「(ハアハア)ごめ〜ん」

何時もどおり遅れて。葛城ミサトが、息を咳き切って入ってきた。

『遅いわよ………って、如何したのその目の下のクマは?』

『いやその。チョッち訓練に熱が入り過ぎちゃって、その………』

『またシミュレーターに篭っていたのね。
 まったく。普段の訓練はおざなりなクセに、こんな時だけ………』

『だからゴメンってば』

相も変らぬおちゃらけた態度で。
軽く合掌ポーズなど取って赤木リツコに謝ると、そのままコンソールの前に座る日向マコトに指示を。

『そんな事より、状況を教えて頂戴』

と、済崩しに誤魔化しに掛った

『15分程前に、イキナリ第三新東京市の上に出現しました。
 詳細は不明。形状等の映像情報はスクリーンに。パターンはオレンジです』

『オレンジ? それって、ど〜ゆうコト?』

『ATフィールドは未確認。よって、使徒か如何かはまだ不明ってことよ』

葛城ミサトの問いに、赤木リツコが表情を変えずに応える。

『それで、如何するの葛城作戦部長?』

『う〜ん。取り敢えず、幾らパターンオレンジって言われてもアレが使徒じゃないなんて、とても思えないし〜
 まして、このまま放っておいて、本部の直上まで来られちゃったらマズイわよね。
 最悪でも、その前に叩かないと。とゆ〜ワケで、早速エヴァ全機発進………』

『って、違うでしょ!』

色々考えてから言った様で、その実、何も考えていない葛城ミサトの発言に、アスカちゃんが突っ込みを。

『ねえ。チョッとマジで聞きたいんだけど、アンタってばアレを見てドウ思ったワケ、正味の話?』

そのまま、ジト目で睨め付けつつそう尋ねる。
そんな彼女の迫力に気圧されつつ、

『い…何時もどおり、前衛的過ぎるって言うか。人を小バカにした様なデザインだと………』

シドロモドロな口調で、更に墓穴を掘る葛城ミサト。
これで作戦部長なんだから、ホンに困ったモンである。
とは言え、今更コイツに多くを求めても虚しいだけだろう。

そして、近くにいる分だけ、俺以上にそれが良く判っているらしく、深々と溜息を一つ吐いた後、

『今回の使徒は、極めてゆっくりとした動きで此方に近付いてきている。
 ンでもって、今アンタが言った通り独創的な。およそ生物とは思えない形状をしている。
 以上、二点の特徴から何かを思い出さない?』

噛んで含める様な調子で、アスカちゃんは現状の説明を始めた。

『え…え〜と。ひょっとして第五使徒のコト?』

『ハイ正解。で、そん時、いきなり突っ込んだらドウなった?』

『加粒子砲で撃墜され………(ハッ)まさか! アレも砲撃タイプなの!?』

『って、ソレが判ンないから困ってるんでしょうが!
 サッサと兵装ビルを動かすなり、国連に爆撃機を依頼するなりしなさいよ』

『へっ?』

『だ〜か〜ら〜、敵の攻撃方法や防御方法を調べる為に、マズは牽制を………』

と、概ね話が伝わったタイミングを見計らい、

『あっ、もう必要なくなったみたいね』

   シュッ

『お茶の間の皆さん、お待たせしました。  この世に天と地がある限り、アキトが愛した地球を荒らす悪い子は、この御統ユリカが許しません。
 悪の秘密結社ダークネス、只今参上です。ブイ!』

第三新東京市の上空。微速前進中のレリエルと目と鼻の先の位置に、ロサ・カニーナ登場。
そう。アスカちゃんには悪いが、今回は相手の攻撃方法がシャレにならない。
原作では、単に初号機が飲み込まれただけっぽく見えるが、レリエルのアレは空間を削り取る無差別広範囲攻撃。
下手にポンポン使われては。運悪く、効果範囲に重要施設や避難区域が入っていたりしたら目も当てられない事になる。
それ故、なるべく使わせない形で。TV版の様にのっけから生贄を差し出し、そのままテンプレートな流れに持ち込むのがベストなのだ。

『それでは、これより攻撃を開始しちゃいます。
 まずはトライデント中隊出撃。フォーメーションAからの一斉攻撃をお願いします』

『おう、やってやるぜ!』

艦長の指示を受け、鷹村二曹の号令と共に戦闘機小隊の駆るYF11が発進。
縦列編隊のままレリエルに突撃し、その周辺空域を旋回。
反応が無いのを確認した後、射程距離ギリギリまで離脱すると同時に散開。
四機が二発ずつ。計八発のミサイルを撃ち込んだ。しかし、

『って、ガン無視かよ! ナメやがって!』

そう。困った事に、ミサイルが闇に飲み込まれただけで終了。レリエルはまったくの無反応なのだ。
これはアレか? やっぱり、それなりに破壊力のある攻撃じゃないと意味が無いのか?
おかしいな。原作じゃパレットライフルでも反応したから、コレで充分だと思ったんだが。

ともあれ、これじゃ何の意味も無い。
仕方なく、巻き添えを避けるべく戦闘機小隊を回収した後、スーパー・ダーク・ガンガー発進。

『敵の攻撃方法が判りませんので細心の注意を。
 接敵後は、常に短距離テレポート用のエネルギーをチャージした状態で交戦して下さい』

『おう、任せとけってんだ!』

と、これが最後なだけに色んな意味でテンパった。
艦長の指示を聞いているのが如何か疑わしいテンションのままカッ飛んで行く、大豪寺。
まあ良いか。どうせアレは、ヤツじゃなくて御剣君に出した指示だし。

『おりゃあああ!』

   パララララ!

掛け声も勇ましく、ラビットライフルを乱射しつつ突貫を。
しかし、いまだレリエルは無反応のまま。
ひょっとして、防御力が滅茶苦茶上がったのが、今回のパワーアップポイントなの?

『鷹翼右羽撃!』

と、俺が胸中でアレコレ模索している間に近接戦闘に突入。
100m位まで伸ばした右手の静御霊にて、下段から一気に。
本体っぽく見えるゼブラ柄の球体を真っ二つに切り上げる、スーパー・ダーク・ガンガー。

   ポコ、ポコ、ポコ………

此処で、予想外の事が勃発した。
予想されたリアクションと異なり、レリエルの本体は無反応のまま。
その代わりに、影であるゼブラ柄の球体がやや縮小したかと思ったら、その一部がポコンと膨れ上がり、次の瞬間には、なんと分裂。
まるでシャボン玉の様にポコポコと、1/30位のサイズの小さな分身を幾つも作り出したのである。

……………これはアレか? 『喰らったエネルギーをチャージして』とかいうタイプなのか?
ドウすればイイんだよ、こんなの。セオリー通り、弱点の物質を探している余裕なんて無いぞ、おい。

『鷹翼十字撃!』

この異常事態を前にしてもなお『そんなの関係ねえ』とばかりに、スーパー・ダーク・ガンガーは攻撃を。
既に数十体に達した分身に囲まれつつも、目一杯伸ばした荒御霊と静御霊を十文字に薙ぎ払い、まとめて数体を切り飛ばす。

   パシュ、パシュ、パシュ………

そんな気の抜ける破裂音を残して消え去る分身達。
どうやら、本体と違ってコッチには有効らしい………と、思ったら。

   ポコ、ポコ、ポコ………

消えた分だけ、本体より追加の分身が。
どうやら、幾らやっても無駄っぽい。

『ジャンプ!』

とか言ってる間に十重二十重に囲まれ、堪らず御剣君が短距離ジャンプで回避を。
しかし、所詮は多勢に無勢。他の分身達によって、あっという間に再び包囲される事に。
そんな物量作戦の前に、

『鷹翼十字撃!』 → 撃破された分身が復活し再包囲 → 『ジャンプ!』 → 他の分身によって再包囲………

という作業を延々と。無限ループに嵌まり込む大豪寺達。
そんな膠着状態が10分程も続いただろうか?
その流れの中に生まれたホンの僅かな隙。
所謂、集中力の切れた瞬間を狙われ、レリエル(分身)の影にズッポリと右足を取られ、
動きの止まった所を、あたかも獲物に襲い掛かるピラニアの様に次々と強襲される事に。
そして、群がった分身同士が重なり合う事で、その影の部分もまた相応の大きさに達し、

『ガ…ガイ君! 万葉ちゃん!』

そんなオペレーター役であるアマノ君のお約束な慟哭と共に、塵一つ残さずアッサリと。
巨大化した影の部分に飲み込まれて、スーパー・ダーク・ガンガーは虚数空間に消え去っていった。

だが、残された俺達にとっては此処からが始まりだった。
さて困った。予定通りと言えば予定通りだし、それなりに迫力のある画が取れたのは良いんだが………あの分身は厄介だな。
カザマ君のウデを疑うワケじゃないんだが、狙撃ってのはどんな僅かなブレも許されない精密作業。
アレに邪魔されるとなると、正確にコアを打ち抜くのは至難の業だろう。
かと言って近距離戦は全くの論外。さっきの大豪寺の二の舞になるのがオチだし………
さて、ドウしたモンかね。




   〜 20分後。再び大首領室 〜

そんなこんなで時間は流れ、状況は刻々悪化して行った。
大豪寺達を飲み込んだ後、レリエルはその進攻を停止。
第三新東京市の外れに位置する空域にて、静かに鎮座している。
だが、困った事に、その分身達は問題なく。各々が各々のルートで進軍。
それぞれスピードにバラ付きが見られるものの、既に約半数の球体が、都市部に差し掛かる位置にまで近付いてきている。
おそらくは、数に任せての突撃狙い。どれか一つでもアダムに到達すれば………という腹なのだろう。
シンジ君の内面世界へのアプローチがメインだったTV版とは似ても似つかない、何とも積極的かつタクティカルな戦術だ。

そんな予想外の展開にもめげず、艦長と大佐は必勝の策を構築した。
だが、その作戦は人海戦術を必要とするもの。
実行するには、トライデント中隊の子達だけでは頭数が足りなかった。

そんな訳で、大佐はネルフを通して戦自に協力を依頼。
その巧みな交渉術を駆使して、毛利一佐率いる第61戦車部隊を借り出す事に成功した。

『(フ〜)やれやれ、とうとうあの連中と共闘する日がやって来やがったか。
 しかも、ワザワザ俺の部隊を名指しで御指名とはな。
 憶え目出度く恐悦至極………まあ、コッチにしてみればタダのアリガタ迷惑なんだが』

シガリロの紫煙を大きく吐きつつ、そう愚痴る毛利一佐。
どうも、今回の作戦があまりお気に召さないっぽい。

『いい加減、機嫌を直して下さいよ、一佐。
 丁度、新型機を導入したものの、運用マニュアルが無くて四苦八苦していた所なんですし。
 目の前でそのお手本を見せて貰えるんですから、寧ろ好都合じゃないですか』

副官の男が、宥めつつも正論を。
そう。実は、彼等の部隊には、いつぞやの技術公開(外伝参照)を元に作られた。
フレキシブルな関節部の動き等をオミットする事で搭乗者への負担を軽減した、量産型トライデントが配備されているのだ。
それによって、足りない頭数を補うと言うのが彼等をスカウトした最大の理由なのだが、

『バカヤロウ! その『お手本』とやらは、全員十代半ばのガキ共なんだぞ。
 お前には軍人としてのプライドは無いンか、エエッ?
 いや、この際、一万歩譲ってソレは許容してやっても良い。イッチャン問題なのは………』

と、此処で、何かに必死に耐える様に瞑目した後、己が乗る機体をビシッと指差しながら、

『ナンで俺の乗る隊長機が“こんなん”なんだよ!
 アレか? 俺は連中にチンドン屋か何かと思われているのかよ!』

『いえ。仕様書に添えられて送られてきましたメッセージによりますと、突撃の際には、是非とも『俺の歌を聞け〜!』と叫んで欲しいそうです』

『知るか〜〜っ!!』

ついには声を限りに絶叫する毛利一佐。
おかしいな? 何時もコンポでBGMを流しているから、きっと気に入って貰えると思っていたんだが。
あの班長と時田博士の力作。『フ○イアー・バ○キリー(ファ○ター・ガ○ォーク・モード)サウンドブースター装備』のレプリカを。
いったいナニがいけなかったのだろうか?

『A−15地区、第一班配置完了』『D−11地区、第二班配置完了』『F−27地区、第三班配置完了』……………

とか言ってる間に、それぞれの担当地区に散った部隊より到着の連絡が。概ね準備は整ったっぽい。
後は、地味に避難勧告を。残っている住民が居ないか如何かをチェックなどしつつ、微速前進中のレリエル(分身)達が、交戦予想地点に到着するのを待つばかりである。

そう。交戦は早すぎても遅すぎてもいけない。
と言うのも、分身達を引き付け誘導し、カザマ君が狙撃する為の花道を作り出すのが、今回の作戦の骨子だからである。
従って、レリエル本体から引き離した位置で、尚且つ、オトリ役が十全に逃げ回れるスペースがある場所で開戦しなくてはならない。
無論、助っ人を量産型トライデントが配備された部隊にしたのも、それに追従した理由によるもの。
兎に角、アレから逃げ回れるだけのスペックを持った機体でなければ話にならないからである。

コミニュケを操り格納庫の方を見れば、既に白百合に搭乗したカザマ君が、同席したカヲリ君を相手に雑談中………
否、よく見れば、カザマ君が一方的に何事か捲くし立てているだけ。
それも、カヲリ君の困惑顔からして、余り愉快な内容ではないっぽい。

う〜ん。ビジュアルを優先して、敢えてボソンジャンプからの強襲作戦に。
のっけから、カスタム機故のスペックを十全に引き出したフル・バースト。
チョコっとそれっぽいモノが出るだけなダーク・ガンガーのチャチなソレとは違う、
羽ばたく天使をイメージさせる攻防一体の光翼を靡かせつつ、フェザー・スマッシャーを打ち込む。
そんなウ○ング・ゼロっぽい画を期待しての配置だったのだが………
ナンか知らんがゴメンね、カヲリ君。も〜チョッとの辛抱だから頑張ってね。

さて。ヤマダ……じゃなくて、大豪寺の方はドウなっているかな?

『ケン、ゲキガンフレアだ!』

ま…まあ、心配なんてしていなかったが………
幾らヒマだからって、虚数空間内でまでゲキガンガー3を観るなよ、頼むから。
とゆ〜か、ロサ・カニーナからのエネルギー供給が途絶えたのに、よくそんな余剰電力が………

   プツン

と、言ってる側から省エネモードに入ったらしく、唐突に画面が消え、コックピット内の照明が薄暗いモノに。
ダーク・ガンガーの全てのエネルギーがゼロに近づいてゆく。
恐怖、孤独、虚感が大豪寺を包み込む。
そして、生きる為に残された僅かな時間が、彼に絶望を教える。

『畜生〜〜っ!! 丁度、ヤマ場のシーンだったのに!』

はい。お約束、お約束。もう放っておこう、こんなギネス馬鹿。
流石の御剣君も愛想を尽かしたらしく、量産型ガイアからのエネルギー供給をしてないみたいだし。

『もうイヤだ〜、俺は帰る!』

『そ…それなんだけどさ、ガイ。
 帰ったら、その………私を地球に連れて行ってくれないか?』

『ん? ナニ言ってるんだよ、万葉? 冬のコスミケは、まだ二ヶ月以上も先だぞ』

『そういうんじゃ。ヒカルの手伝いとかじゃなくて………ガイの家族に会っておきたいんだけど………ダメかな?』

『いや、別にイイけどよ………けど、それならそれで別のトコの方が良くないか? ウチの近所には名所なんてナンも無いし』

『だから、観光でもなくて………』

……………あれ? ひょっとして別の意図だったの?
ついに王手を掛けに。何気に、極限状態によるつり橋効果とかも狙ってたりするの?
しかも、ヤマダの方は全く理解してやがらないし。
何にしてもマズイ。これはアマノ君が黙っては………あれ、無反応なの?
ああ、そうか。視聴者には見せられない映像なんで、コレは俺の所にしか流していなかったっけ。
(フウ)ギリギリセーフ。彼女には悪いが、この事は作戦終了まで秘匿させて貰おう。
とゆ〜ワケで。後でチャンと見せてあげる為に、録画、録画っと。

『使徒、A,F、G、予定ゾーンに侵入』

『はい。それでは、作戦名『G13』を開始しちゃって下さい。

とか言ってる間に予定時刻に。艦長の号令の下、作戦が開始された。
ちなみに、作戦名の由来は、当然、あの男にあやかってのものだ。
何せほら、今回は狙撃がメインだし。

『(ハッ)やってやるぜ!』

『って、それは俺の決めゼリフだぞ、シンゴ』

『故人曰く『江南の橘、江北に移されて枳となる(場所や状況によって、同じ人間でも性質が変化するということ)』と言ったところか。
 まっ、これくらいは許容してやるんだな。お前さん、仮にもリーダーなんだし』

比較的高度を取っているレリエルの分身には戦闘機小隊が。
今回はロサ・フェティダの出番が無いので、鈴置二曹もYF11にて参戦。

『嘘ッ! 何でコッチの方がαやβより使い勝手が良いの!? 量産型なのに?』

『いや。別に普通だろ? 量産型なんだから』

『(フルフル)違う…違うんだよ、ムサシ。
 マナにとって、量産型ってのは、試作機のデータを元に問題点を改良したものじゃなくて、
 余剰機能をオミットしたデチューン機体………いや、もっとハッキリ言えば、GMとかM1みたいなヤラレ役の事を指しているんだよ』

地上では、乗りなれない機体(何せウチのトライデントはΓ以外は武装が無いし)戸惑いながらも、それぞれが戦自からの出向組を率いて。
ホバーと脚部マニュピレーターの併用による三次元的な機動のお手本を披露するトライデント改めガ○ォーク小隊。

『(パララララ)こちら零号機。ケーブル限界まで、あと800m。支援を求む』

『(パラララ)こちら伍号機。判った、次の交差点で互いの電源をスイッチしよう。
 僕は右斜めの国道に入るから、レイさんは左へそのまま左に進んで』

『(パラララ)任務了解』

シンジ君達が駆るエヴァもまた奮戦。
パレットライフルにて分身使徒の注意を引き付けつつ、ケーブルというハンデを戦術で巧みにカバーしている。

   キュイ〜〜〜ン

戦車小隊&指揮小隊の子達は、今回は小回りを優先してAT(アーマード・トルーパー)に搭乗。
その機動力を活かして、それぞれが複数の分身使徒を予定の場所に誘導中。
その中でも、良くも悪くも、最も多くの分身使徒を引き付けているのが郷谷三曹。
今も、マシンガンで気を引きつつ、ローラーダッシュを駆使して縦横無尽に。
あたかも往年の名ゲーム。熟練のゲーマーが操作するロー○ランナーの如く、巧みに逃げ回っている。
だが、チョッと巧み過ぎると言うか、そのやり口に問題が。

   シュッ

嗚呼、また一つ、高層ビルの上半分が消えちゃったよ。
有効なのは認めるけど、お願いだからその戦法は。乱立する高層ビルを、ブッシュ(姿を隠す物陰)を兼ねた盾代わりに使うのは止めれ。
破壊と違って創造は。ソレを立て直すのは骨なんだから。

そして、一番問題なのが、

『あははははっ。鬼さんコチラ、手の鳴る方へ』

   ドシュ

『って、あんたバカァ!? また一個ビルを引っ掛けたじゃない!』

『大丈夫! 私の翼は、この程度で折れたりはしないわ』

『モノを壊すなって言ってんのよ、アタシは!』

『仕方ないじゃない。三日前にシミュレーターに乗ったばっかで、実際に飛ぶのはこれがお初。
 ほとんどブッツケ本番当然って言うか、まだ習熟度が全然足りないんだから。
 所謂、不幸な事故ってヤツ? 形ある物は必ず壊れるし、万物は常に流転するのよ』

『事故じゃない! キッパリと人災よ!』

必死に手綱を握ろうとするアスカちゃんだったが、今回は明らかに分が悪かった。
ソレと言うのも、彼女に持たせた惣流博士印の新兵器の中でも、その目玉と言うべきブツが。
外部接続式エヴァ専用飛行ユニット『ジェット・スクランダー』が、葛城ミサトのツボに嵌り捲くった所為である。

『おっしゃあ! コレコレ、この感覚! もう痺れちゃう! 
 風を切って羽撃く紅の翼! この大空は私のモノよ!』

そう。初号機は今、空を飛んでいるのだ。
しかも、当初の設計では考慮されていなかった予想外な副次要素が。
エヴァの巨体を高速飛行させる為に、通常の航空機とは真逆のアプローチ。
機体の軽量化を諦め、圧倒的な大排気量にモノを言わせた158万馬力のスクラムジェットによって、頑丈な重いモノを無理やり飛ばすという設計コンセプトなだけに、
その基盤となる巨大な翼の強度はハンパではない。
それ故、その頑強さとスピードに任せて、擦れ違い様に高層ビルを真っ二つするくらいは朝飯前だったりするのだ。
とゆ〜か、今見た感じでは、ATフィールドを併用すれば、元祖スーパーロボット宜しく体当たり攻撃すら可能だろう。

と、これだけでも充分由々しき事態なのだが、今一つ、もっとマズイ事が。
それは、エヴァの表皮感覚もまたダイレクトに操縦者に伝わっているという点。
つまり、擬似的にとは言え、大空を飛ぶ感覚を生身のままダイレクトに味わえるのだ。
御蔭で、葛城ミサトは何時も以上にアレな状態。
ランニング・ハイならぬフライング・ハイな、もう手の付け様も無い状態に。

『嗚呼! やっぱスーパーロボット乗りとなったからには、コレが。
 新兵器、必殺技、そして、空を飛ぶ。この三大要素は絶対外せないわよね。
 そう。私の初号機は、今、初めて主人公メカとして完成したのよ!』

『だ…ダメだコイツ。早く何とかしないと』

いや、まったくだ。嗚呼、ナンでこんな事になってしまったんだか。
やっぱり、幾らテコ入れが必要な時期に来ていたとはいえ、アレに新兵器を与えたのは失策だったかも………

いや、此処は逆に考えるんだ。
ああやって、考えるんじゃなくて感じるモードに入っているからこそ、比較的妥当な作戦行動を。
あの葛城ミサトが、ブ〜タレる事なく素直にオトリをやっているんだと。
うん。そう思えば、差し引きは充分黒字じゃないか。

と、俺が自分を誤魔化している間にも、作戦は(街への被害に目を瞑れば)順調に展開。
総ての分身使徒が誘導され、その進行方向が微妙に左右のに分かれ、白百合が出現する予定の狙撃ポイントから、レリエルの本体までのエリアがクリアに。
ついでに言えば、不幸な事故によって高層ビルの上半分が幾つも無くなったもんだから、当初の予定以上にガラ空きになってゆく。

だが、それに気を良くした。
俺が油断したのを見計らった様なタイミングで、更なるアクシデントが勃発。
突如、放送中の画面にノイズが。そのまま、外部よりシステムの一部が乗っ取られ、

『ガンガンガガ〜ン、ビクトリー、ガンガンガガ〜ン、戦え〜』

そんな音量MAXなBGMと共に、ドコからともなく謎の機動兵器が。
ある意味、ヤマダよりもっと馬鹿な漢が現れた。

『如何した、ガイ!? 本物の地獄は、こんなモノじゃなかったぜ!』

と、画面狭しとアップになりつつ、主人公を叱咤する海燕ジョー………じゃなくて、ゲキガンガーの某ワンシーンをノリノリで演じる月臣中佐。
そんな彼が駆る機体は、これまたドコかで見た様な。
ズングリした戦闘機っぽい形状の真っ黒ボディに、たなびく二つのテールダンパー………って、ブラックサレナじゃんか、アレ!
いや、よく見れば細部のディテールは結構違うんだが、エステを内包していると思しきあの追加装甲は間違いなく同じ系譜のモノ。
畜生、一体ナニがドウなってやがるんだ!?

『とうっ!』

そんな困惑する俺を尻目に、月臣中佐は更に訳の判らない事を。
掛け声も勇ましく、ブースターユニットを全力全開したブラックサレナ特有の超スピードにて、レリエルの本体に。
ゼブラの球体ではなく、その影に。ディラックの海の方に突進。
そのまま、まるで飛込競技の選手がプールに飛び込むかの様な躊躇いの無い自然さで、漆黒の波間に。
ザブンと虚数空間の彼方へ消えていった。

……………ど〜するんだよ、おい。
御剣君が付いているダーク・ガンガーと違って、イザとなったらジャンプで帰ってくるっていう手も使えないし。
まさかとは思うが、コレってえらく捻った自殺なの、ひょっとして?

『掴まれ、ガイ!』

『(ガシッ!)すまん! 助かったぜ、ゲンイチロウ』

『(フッ)気にするな、お前らしくもない』

嘘だろ!? ピンポイントで。まるで狙ったみたいに、ダーク・ガンガーのすぐ側に出るなんて。
御都合主義が過ぎるぞ、幾らなんでも。
とゆ〜か、何で虚数空間内の。それも、二機を客観的視点から見た映像が見れるの? 
コッチの操作では機体内部の。パイロット席付近の映像しか見れないっていうのに。

『それより、このまま一気に行くぞ!』

『おうよ。延々閉じ込められていてムシャクシャしてたんだ。この怒りは、使徒に直接ぶつけてやるぜ!』

お〜い。ドコに逝くんだ、オマエ等。
ひょっとして、原作の初号機張りに内部から破壊する気か? 幾ら何でも、それは無茶………

『跳躍!』

   シュッ

って、更にボソンジャンプまでやるのかよ!
いや、良く考えれば、月臣中佐もB級ジャンパーだから、
アレがブラックサレナと同じモノだとすれば、マジンとかと同じ要領で短距離ジャンプが出来たとしても、おかしくは無いんだろうけど………
何だろう? 上手く言葉には出来ないが、根本的にナニかが間違っている気がする。

『跳躍!』『跳躍!』『跳躍』………

そんな俺が懊悩をあざ笑うかの様に、理不尽な展開は更に続いた。
あからさまにB級ジャンパーの限界を越えた頻度で、月臣中佐は連続ジャンプを敢行。
その度に、上下左右の概念が無い筈の虚数空間内にも関わらず、順調に目標に急接近。
そして、何十度目かのジャンプにて、ついにはレリエルのコアを射程距離内に捉え、

『よっしゃあ、往くぜ! タイミングを間違えんなよ、万葉!』

大豪寺は、この超展開を前に完全に取り残されていた。
『私、イラナイ子なの?』と言わんばかりな顔で呆然としていた御剣君に、そんな無茶フリを。

『……………えっ?』

『って、まだ判んね〜のかよ! 新必殺技に決まってんだろ、こういう時は!』

いや、フツーに判らんて。
何故か知らんが、見ててイヤになるくらいツーカーな。
既に、お前の魂兄弟(ソウルブラザー)と化しているっぽい月臣中佐じゃあるまいし。

『つ〜ワケで、往くぜ! 万葉! ゲンイチロウ! 『ダブル・ガンガー・ディメンション』だ!』

『うむ!』

『えっ?…………ああ、うん!』

って、そんだけで通じるのかよ!
凄いよ! 凄過ぎるよ、御剣君!

と、感嘆する暇もあらばこそ、本当に件の必殺技が炸裂。
それまでは、テールダンパーに掴まり水上スキー宜しく引っ張られる形だったスーパー・ダーク・ガンガーが、満を持して復活。
待機モードだったマッハ・シューターの小型相転移エンジンに火が灯り、そのままフルバーストの超加速に。
ブラックサレナもまた、ブースターユニットをフルスロットルに。弾かれた様に再加速して、それに併走。

『『『ダブル・ガンガー・ディメンション!!』』』

そんな掛け声も高らかに、ダブル・ゲキ○ンフレアっぽい技を決めてくれた。

   バキッ

ディストーションフィールドによるダブルアタックによって、レリエルのコアにヒビが入る。
と同時に、ボソンの光が辺りを包み込み、

『吹っ飛べ〜〜〜っ!』

   シュッ

そんな大豪寺の命に従う様に、何処へともなく消え去るレリエルのコア。
な…なるへそ。そういう技なワケね。
そう言えば、虚数空間内では本来のパワーは発揮できないっぽいって事を、イネス女史から示唆されていた様な。
いや、アイツがソコまで考えていたなんて。正直、チョッと見直した。

『しまった〜〜〜っ! 吹っ飛ばす事に集中し過ぎて、ドコに飛ばしたんだか判んね〜〜っ!!』

『そ…そう言えば、俺も跳躍先の事など考えていなかった様な………』

『わ、私も………』

『って、ど〜するんだよ、おい!』

前言撤回。やっぱ、何も考えていやがらねえ。

   シュッ

と言ってる間に、レルエルのコアがジャンプアウト。
事実上のランダムジャンプだったにも関わらず、ワリと近場に。第三新東京市の上空に出現した。
う〜ん、運が良いんだか悪いんだか。
見失わないかったのは幸運かもしれないが、ど〜せなら『カベの中にいる』っぽい事になれば、それで止めを刺せていた気も………

と、そんな事をつらつら考えている間に、主導権はウチからネルフへと移行。
流石に大ダメージだったらしく、フラフラとした動きで分身の元へ。
その影が作り出す虚数空間内に逃げ込もうとしていたレリエルの前に、シンジ君の駆る伍号機が回り込み、

『ストリング・バインド』

ATC(ATフィールド・コーティング)で強化した投げ縄状の単分子ワイヤーを投げ付け、カウボーイ宜しく捕縛に掛る。

『チェーン・バインド』

それに呼応して、レイちゃんの駆る零号機も新兵器を披露。マグナムスチール製の鎖を投げ付ける。
ATCで強化されたそれは、緩慢な動きながらも確実にレリエルのコアに撒き付き、その拘束力を強化。
その不自然な動きからして、どうもホーミング・ショット宜しく操作系の力も働いているっぽい。

『(ギシギシ)新兵器。ロボット物の華とも言うべき桧舞台。でも、あからさまに脇役の技』

『(ギシギシ)し…仕方ないでしょ。アレを装備出来るのは初号機だけだったんだから』

『(ギシギシ)でもズルイ。待遇改善を要求するわ』

そんなこんなで、シンジ君が足を止め、レイちゃんが拘束し、完全に死に体と化したレリエルのコアに向かって飛翔する。
上空から突進すると共に、背中にマウントされた特設ウエポンラックより、幅広で肉厚な長剣『アクティブソード』を取り出す初号機。

ちなみにコレ、惣流博士が引いた図面を元に作られたエヴァ専用武装の目玉であり、
本来なら実現不可能(第十一話参照)なそれを、本物の刀剣同様複合合金製にする事で。
それも、軟性チタンとマグナムスチールをベースに、ダマスカス鋼やオリハルコンといったレアメタルを、予算を頭から無視して、ふんだんかつ“適当に”混ぜ込んだ物を鍛えた。
もはや二度と作る事は適わない。ぶっちゃけ、只の偶然の産物である。

しかも、40m級のエヴァの縮尺からしても矢鱈と巨大だったり、猛烈に重かったり、更には刃が付いていなかったりと、
実の所、剣としては明らかに失敗作だったりする。

しかし、そうした欠点を補って余りある長所が。
ウリバタケ班長の試算によれば、ATCを纏わせれば、アキトや北斗の操る本家DFSと打ち合う事さえ可能な。
この時代の物としては、完全に規格外な強度を誇っているのだ。

つまり、ナニが言いたいのかと言えば、

『おっしゃあ! いっけええええ〜〜〜〜〜っ!!』

気合一閃、スクラムジェットをフルスロットルに。更に加速しつつレリエルに肉薄。
そう。刃が無いのであれば気合で。凄い速さで無理矢理ぶったぎれば良いのだ。
その無茶に耐え得るだけの強度が、アクティブソードには有るのだから。

だが、そんな俺の思惑を超えて。初号機には、まだ先があった。
更なる加速を得るべく、ATフィールドを纏いつつ重力を制御。
我が身をホーミング・ショットのソニック・グレイブとしての、スバル君やアリサ君ですら視認困難(第九話参照)な超加速状態に。

   ドシュッ

一瞬にして、縦一文字に真っ二つとなるレリエルのコア。
それにやや遅れて、

  ドッカン、ドッカン、ドッカン

その直線状にあった高層ビルが、三つ程、景気良く倒壊。
そして、その瓦礫の中から、音速の壁を越え虚空に消えた初号機の姿が。

『し…疾風迅雷切り(ガクッ)』

まるで大豪寺の如く、根性だけで最後の大見得を切った後、ガックリと失神する葛城ミサト。
無理もない。超音速でビルにブチ当たったんだもんな〜
とゆ〜か、街中で使う様な技じゃない事くらい気付きそうなモンなんだが。
コレに懲りて、少しはモノを考える様になってくれると良いんだが………まっ、無理だろうけど。

『シベティ、シベティ、シンダラ、バシニ、ソワカ』

と言ってる間に、カヲリ君による転生の舞が。
かくて、都市部にこれまでで最も甚大な被害が出たものの、第12使徒戦も無事終了。
俺はエンディングの準備を始めた。

『(ピコン)あの〜、私の出番はどうなったんでしょうか?』

ゴメンね。残念だけど、今回も無しなんだよカザマ君。素直に諦めてね。




   〜 一時間後、転生の間 〜

ナンかエラく久しぶりな様な気もするが、放送はテンプレートな形で無事終了。
新たな使徒娘を呼び出すべく、転生の儀式の準備を進める。

「ふ〜ん。こんな風になっていたのね」

なお、今回はスペシャルゲストを。東提督を、この場にお呼びしている。

正直、好奇の目が結構キツイ。
もっとも、彼女を相手に“それだけ”で済むのであれば充分恩の字なのだが。
実際、例の月臣中佐の暴走も、のらりくらりと。言葉巧みに『知らぬ存ぜぬ』で通されてしまったし。
まったく、何を企んでいるのやら。

とは言え、東提督の同席は、転生するレリエルのたっての希望。それを叶えない訳にもいかない。
此処は黙ってスピーディに。アクシデントが起こる前にチャッチャと終らせるに限る。

「さあ、目覚めるが良い。神に祝福されし、天使の魂を受け継ぎし子よ!」

そんな訳で、胸中の難題を一時棚上げしつつ、儀式の準備を終えると同時に、俺は徐にフラスコを指差した。
それに合わせ、カヲリ君が使徒の魂を解放つ。
彼女の手から飛び立った赤い光玉が、綾波レイのスペアボディに吸い込まれると同時に、中のLCLがゴボゴボと音を立て、次いでフラスコ内部が激しく発光。
そして、その輝きが収まった時、これまでの事例からは有り得ないくらい静かに、転生したレリエルが。
三十歳前後の成熟した美貌を称えた妙齢の美女が現れた。全裸で。

一瞬、思考が停止する。
これが、これまで同様にミドルティーンな。せめてアニタ君くらいの年恰好だったらなら、もっと余裕を持って。
『そんな格好じゃ風邪を引くぜ、お嬢ちゃん』と、軽く流すくらいの事は出来たのだろうが、これはシャレにならない。
断言しよう。これで反応しなかったら、ホ○かロ○コンのドチラかだと。
それくらい、肉感的かつ妖艶過ぎる艶姿だった。

「ガラティア=ナイトメア」

「はい?」

“つい”馬鹿みたいに問い返した俺に『妾の名じゃ』とだけ告げて。
それきり、最早興味は無いとばかりに、コッチを黙殺しつつ、

「さて。其方が木連の代表、東提督とお見受けしたが、如何?」

「ええ、そうよ」

と、呼び出した意中の相手に。
東提督との個人的な話を始めた。

「早速じゃが、耳寄りな。双方にとって有益な話があるのじゃが」

「と、その前に。貴女の話を伺う前に、その格好を如何にかして貰えるかしら?」

「ふむ。(ヒラリ)これで良いかの?」

東提督の求めに応じて、ガラリア………さんは虚空に影を。
レリエルの虚数空間を作り出すと、ソコに手を突っ込み一枚の黒い布状の物を取り出し、それを身に纏う。
と同時に、纏ったそれは、彼女の身体の重要部分にピッタリと張り付いて行き、そのまま飾り気の無い。
それでいて、彼女の美貌を損なう事の無い。その抜ける様に白い肌を十全に引き立てる得る、オーダーメイドのドレスと化した。

「それが、貴女の特殊能力なの?」

「うむ。そして、お主に売りたいモノの一端っと言った所かの。
 今のはその『でもんすとれーしょん』とかいうヤツじゃ」

「なるほど。でも、オススメはそのファッションセンスってワケじゃないわよね?」

「無論じゃ。ソッチの方も自信が無くもないが、その手の事を始めようにも、生憎、妾は手元不如意での。
 カヲリに頼めば金子を融通してくれようが、そういう無心も好かん。
 そこでじゃ、元手が無くても可能な。それでいて、お主が気に入りそうな隙間事業を始める事にした」

「まあ素敵。是非とも、その詳細を聞かせ貰えるかしら?」

こうして、二人の女傑の輝きの前に、俺は完全に背景と化した。
(フッ)泣くもんか。




   〜 翌日、ナデシコ荘の提督執務室 〜

今日も今日とて、俺は書類仕事に追われている。
前日の使徒娘の誕生会で飲みすぎたらしく、酷い二日酔い状態。
ゲップをすれば、口からアルコール臭が漂っていくのが自分でも判る。
おまけに、何時もならそれを咎めつつもフォローしてくれる者も、今日は居ない。
本日より、ナカザトは三日間の完全休暇に入っているのだ。

そんなワケで、俺のヤル気は限りなくゼロに近かった。
しかし、ヤらないワケにはいかない。
これで仕事が滞った日には、あの馬鹿はそれを気にして。
現在進行形で人生の一大転機にあるクセに、それをガン無視して休日出勤してきかねないからだ。
そんなこんなのプレッシャーを背負いつつ、眠い目を擦りながらペッタンペッタン判子を押す。
盲印じゃないよ、ホントだよ。

と、俺が俺自身にも誰に対してなのか良く判らない釈明をしていた時、

   バタン

突如、ノックも無しにドアが開き、西沢のオッちゃんがやって来た。
妙だな? 俺の記憶が確かなら、その手の礼儀を重んじる木連人の中でも、この人は特に煩型なタイプだった筈なんだが。

「おや。貴方が此処に来るなんて珍しい………」

と、取り合えず適当に挨拶など。
しかし、彼はそんなもの黙殺しつつ、

「単刀直入にお聞きします。月臣中佐と天津少尉は何処ですか?」

出会い頭に、そんな訳の判らない事を言い出した。

「いや、いきなりそんな事を言われても困るってゆ〜か。
 月臣中佐については、寧ろ俺の方が聞きたいくらいだし、天津君に至っては、今や画面の向こう側の存在だし………」

「惚けるのはお止め下さい。あの襲撃事件が提督の差し金である事は、もう判っているのです」

「あ…あの襲撃って?」

西沢さんの剣幕に困惑しつつも、事の仔細を尋ねてみる。
すると、如何にも『何を言ってるんだ、コイツは?』と言わんばかりなジト目で此方を見詰めつつ、彼は一枚のSDVDを差し出してきた。
早速、手元のマイPCにてそれを確認してみる。

すると、木連が誇るもう一人の歌姫たる天津君のコンサートの一部始終。
マリアちゃんとは客層の異なる、40代から50代を中心とした。
如何にも頑固親父といった感じの連中がごった返す、どこかの格闘技場を流用したと思しき特設会場(何せ木連には正規のコンサート会場という物が存在しない)
にて行われているそれを適当に編集したっぽいダイジェスト映像が。
そして、それがオオトリに。彼女の代表曲でもあるデビュー曲に差し掛かった時、無粋にもその場に乱入する者が。

    シュッ

劇場版のそれを彷彿させる唐突さで、会場の上空にブラックサレナがジャンプアウト。
ザワめく会場。客層もあってか、恐怖の悲鳴ではなく敵愾心による罵声が渦巻く。
そんな、誰もがそのインパクト抜群の登場シーンに釘付けになっていた瞬間を狙って、

『京子、来い!』

と、何処から紛れ込んだのか、天津君の立つステージ上に月臣中佐が登場。
そのまま、群がる有象無象のオッちゃん達を蹴散らしつつ、若い二人は手に手を取って愛の逃避行を。
アクション映画張りに、ブラックサレナから降りてきたワイヤーに掴まり、そのまま大空へ旅立っていった。

「なるほど。天津君も、とうとうスクリーンにデビューするんですね。判ります」

「違います!」

(チッ)流石に誤魔化されてはくれなかったか。
にしても、何でコレの首謀者が俺ってコトになってんだ?
どう見ても、月臣中佐の単独犯………じゃないな。ああやってジャンプしている所をみるに、遠隔操縦ではありえない。
これで、ほぼ確定したな。少なくとも月臣中佐以外にももう一人、あのブラックサレナを操ってるヤツが居る。
おそらくは、主にジャンプ制御を担当するサブ・パイロット。
それも、その距離と精度から鑑みるにB級じゃなくてA級ジャンパーっぽい。

ん? ひょとして、それが根拠なのか、俺が黒幕って説は?

「どうやら、お判り頂けた様ですね。
 そう。ああいった事が出来るのは、行方不明中の漆黒の戦神を除けば、現在、太陽系に4人だけ。
 そして、その4人が4人とも提督の指揮下にある以上、答えは一つです」

此方の胸中を見透かした様に、西沢さんがそう断定してきた。
なるほど。状況証拠のみとはいえ、それなりに筋は通っている。俺を疑うのも無理ないだろう。
しかし、知らんもんは知らんとしか言い様がない。

「いや、キッパリと濡れ衣だってば。
 ほら、例の『真実は何時も一つ』ってヤツも、実は只の幻想って言うか。
 それこそ神様クラスの認識力を持ってないと成立しない話らしいぞ、ゲーデルの不完全性定理的に」

と、言葉のジャブを放ちつつ、誤解を解く隙を伺う。
しかし、それを許さずとばかりに、西沢さんは切り札を切ってきた。

「(コホン)判りました。今少し、腹を割ったお話をしましょう。
 極端な事を言えば、月臣中佐の暴挙自体は左程問題では無いんですよ。少なくとも私的には。
 元々夫婦ですからね。天津少尉の支持者達は反対するでしょうが、そこはそれ男女の仲。あのままヨリを戻したとしても構わないとさえ思っています。
 ですが、木連の経済を預かる身としては、こういった物を受け取る訳にはいきません」

そう言いつつ差し出された二通の書状。
それは、月臣中佐の退役届と天津君の引退宣言書だった。

「月臣中佐は木連の明日を担うべき有為の人材であり、また、天津少尉は木連の光を担う人材です。
 取り分け、後者の不在は経済的に大打撃なのです。公演の予定は待ってはくれません。今、この瞬間にも、莫大な損失を招いているのですよ!」

嗚呼、ナンかもう月臣中佐については、ほんの“ついで”と言うか。
『木連の明日を担うべき〜』云々の部分が、如何にもリップサービスっぽく聞こえるのは何故だろう?
いや、事の実行犯に同情なんてしている場合じゃない。
どうやって、この場を切り抜けたもんか………

えっ? 『何の法的拘束力も無い。ある意味、只の言い掛かり。正面から論破するのは簡単だろう?』って。
無理言うなよ。その程度のアドバンテージで、俺が彼に勝てるワケがないじゃないか。

「不幸な擦れ違いによって袂を別つ事となった一組の男女の為に、一計を案じられた。
 些か乱暴なモノではありますが、月臣中佐に必勝の策を授けられた提督の義侠心には感服致します。
 私も、これがあの二人だけの問題であったなら、先程の映像にあった有無を言わせぬ状況を作り出したその知略に対し、最大級の賛辞を禁じえなかったしょう。
 ですが、経済とは、そうした“ろまんちしずむ”など入り込む余地の無い非情なもので………」

もう止めて、俺のライフはとっくにゼロよ。

「って、聞いているのですか、提督!」

「はい〜っ」

そんなこんなで、この理不尽な説教は、小一時間後に鳴った西沢さんの携帯より望外の朗報がもたらされるまで。
ナンか知らんが、ガラティアさんが立ち上げた新事業とやらの効果で、
長年の懸案だった問題が片付きそうだという報告を受けた彼が、飛ぶ様にその現場へ赴くまで延々と続いた。
ううっ。もうヤダ、こんな生活。




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