【アキトの平行世界漫遊記I】




近年成立したばかりの新たな事業の基点となる、オーブンしたばかりの巨大な建物の中。
建築されて間もない事を教えるピカピカな壁や、如何にも高価そうな壷やブロンズ像に圧倒され、
キョロキョロと忙しなく辺りを見回す赤毛の美少年………じゃなくて少女と、
同じく高級感漂う場の空気に馴染めず、待合のソファーにチョコンと座った態勢のままソワソワ落ち着かない様子の真っ黒な服を着込んだ青年を前に、
キチンと切り揃えられた前髪の下に怜悧な美貌を讃えた少女が、何事か淡々とレクチャーを。

[――――これからは、国家ではなく民間が。資本主義の波が世界を席巻してゆくだろう。
 此処ローカイドの様な商業都市はその尖兵と言って良い。
 国家間の壁は低くなり続け、それに伴い、流通システムもまた抜本的な改変を迫れる事になる筈だ。
 それによって、経済格差は広がり続け、大資本が国家を凌駕する。
 今でさえ、赤字を抱えた小国は、自由都市の資本力無しには存続し得ない事態になっている。
 いずれ、専制君主制の根幹すら揺るがす新しい波がやってくる。つまり、ニューウェーブだ。
 貨幣のスムーズな流れこそが、これからの経済活動を支えてゆくのだ。すなわち借金とは」

「借金とは?」

「きたるべき世界経済に貢献するという事に他ならない」

「いや、サラちゃん。それは絶対違うから」

「これは異な事を。未来においては、資金とは銀行から借りるものと教えてくれたのはテンカワ殿の筈だが」

「確かに高利貸しとかから借りるよりはマシだけど………兎に角、絶対違うからそれは」

「(フッ)ナニ、借りてしまえばコッチのモノだ」

「…………そうだね。君なら、何があっても大丈夫だろうね、多分」

「で…でも、本当にイイの? 此処に居る人達、みんな凄くお金持ちみたいで、私達、とっても場違いみたいなんだけど」

「問題ない。銀行という業務形態の性質上、借金の申し込みに来た人物も少なからず居る筈。
 従って、私達だけが特別という訳ではない。もっと堂々としていたまえ、ファリス」

「そ…そうだね。良く見れば普通の服装の人も居るし。
 やっぱり恥ずかしいらしくて、鉢植えの影とかに隠れているけど」

「あっ、ホントだ。柱の影に居る人も………って、ナンで銃なんて持って………まさか?」

「ほう。君達は何故そんなに眼が良いのだろう? 私は、君達に指摘されるまで全く気がつかなかった。
 できれば今度、二人の動体視力と眼球運動について少々調べさせては貰えないだろうか?」

「いや、それは別にイイんだけど。サラちゃん、アレってもしかして………」

「ふむ。未来から来ただけあって、矢張りテンカワ殿は御存知だったか。
 そう。アレこそウワサのナニ。今、時代の最先端をひた走らんとする………」

   バ〜ン

「手を上げろ! 抵抗すれば命は無いぞ!」

「銀行強盗だ」

うん、流石はテンカワ氏。こういうお約束を決して外さない。
あまりにテンプレート過ぎて、心配する気が全く起きない辺りが、彼独特のクオリティだね。

さて。そんなゴタゴタが続いている間に、いつもの御挨拶を済ませておこうか。
久しぶりだね、親愛なる読者諸君。
こうした形でお会いするのは一体、何時以来の事だろう?
僅か一月チョッとの筈なのに、もう何年も経ったかの様に感じられる。
一日千秋という言葉が過不足無く当て嵌まる、長い長いブランク。
無事に再会する事が出来て、私としても嬉しい限りだよ。
それでは、早速、暫くこの地から離れていた貴公達の為に、此処までの状況を掻い摘んで説明させて頂こう。
まあ、そんな偉そうな事を言っても、今回は語るべき事などほとんど無いのだがね。(苦笑)

まずは、前回起こったアクシデントを思い出して頂きたい。

『あの、大丈夫ですか?』

いきなりのファリス嬢と接触。
実は、この時点で今回の修正点の修復は完了していたのだよ。
と言うのも。幾ら何でも“おかしい”と思い、再度調べてみたところ、これが大当たり。
あれは、私の失態だけではなく、テンカワ氏の特性も影響したが故の事。
具体的に言えば、転移の際に彼が起こした僅かな時空変動がバタフライ効果を。
これによって、今を去る事数ヶ月前の惨事、

本来はモノリス(仮)ごと楽園を砕く筈だった流星のスピードが僅かに鈍り、エイザード氏の魔力障壁がギリギリ間に合う事になった。

今思えば、あれはテンカワ氏と言えど如何にも出来なかった。
仮に、その場に居合わせ、飛竜翼斬等の迎撃が間に合ったとしても、僅かにその質量を削るのが精一杯だった事だろう。
それを僅かなトラブルで………楽園再建の為の出稼ぎに引っ越してきたばかりの。
それも、今や完全に女所帯となった魔術師の館に、見ず知らずの男を連れてきた事で、
二人揃ってダナティア嬢に散々叱られるという、彼等にとっては日常レベルのそれで回避出来たのだから僥倖以外の何物でもあるまい。

そして、それから先もまた、テンプレートな展開に。

恋愛感情ごときでは小揺るぎもしない、天上天下唯我独尊のプリンセス。“殿下”ダナティア=アリール=アンクルージュ嬢。
恋愛感情自体があるのか如何かすら疑わしい完璧超人。“鉄面皮”サラ=バーリン嬢。
身体は子供、頭脳も子供な、なんちゃって人妻。“お子さま”マリア=ド=パルマーシュ嬢。
テンカワ氏顔負けの天然ジゴロ。ただし、相手は同性のみ。“苦労性”ファリス=トリエ嬢。

と、四人が四人ともテンカワ氏の魔力に対抗し得る精神力(?)の持ち主だった御蔭で、彼特有のトラブルも最小限な。
ある意味、前回の遙照殿との生活と比べても遜色の無い平穏なものに。

取り分け、前回に引き続き、今回も己の理解者に恵まれ。
そのファリス嬢の、自分以外の人間の幸せに対してのみ発揮される積極性によって、屋台とはいえ念願のコックの職を得た事は、殊の外テンカワ氏を喜ばせ、
また、魚以外は御世辞にも新鮮とは言えないローカイドの生鮮食料の数々を美味な一皿へと昇華する彼の料理技術は、その地に住まう人々を喜ばせ、
それによってもたらされた富は、お嬢さん達がセッセと送り続けている“楽園”への仕送りの額を潤すに至った。

そう。涙ながらに自身の愛猫の行方を尋ねる依頼人に、何の躊躇いもなく
『残念ですが、彼女の身体は既に弦楽器の革になっています』
と答える様な“本業”よりも、よほど重宝され、かつ相応の利益を得ていたのである。
もっとも、その程度の金銭では焼け石に水であり、四人のお嬢さん達が口にする食事の質が多少上がった程度の効果しかもたらしてはいなかったりするのだが。

閑話休題。要するに、テンカワ氏の存在は、この地においては毒にも薬にもなっていないのだよ。極めて稀な事にね。
偶に起ったトラブルさえも“たかが”銀行強盗程度のもの。正に値千金な平穏だね。
あまり平穏過ぎて、ローマ法王の声が聞こえてきそうな程だよ。

「さて、テンカワ殿。  あらから既に18分が経過。私の予測では、そろそろ都市警備隊が異変に気付き、此方に向かっている頃合なのだが………
 貴方の持つ未来知識と経験とに照らし合わすに、この後、如何いった展開となると予測しますか?」

と、此処で状況に変化が。
懐中時計で時間を確認しつつ、サラ嬢が淡々とそんな質問を。

「えっ? え〜と。普通はその前に逃げるんだけど………」

「なるほど。ですが、いまだ金庫の鍵と格闘中のあの様子では無理そうですね。
 それでは、このまま包囲された場合のケースは如何なりますか?」

「そりゃ、人質を取って立て篭って………その際、最低限の人数以外は解放して監視をし易くするのがセオリーなんだけど………無理だよね、多分」

「ええ。持久戦を狙うのであれば、貴方の言った通りにするのが上策なのでしょうが、既に興奮状態にある彼等にそこまでの判断能力を求めても無駄でしょう。
 つまり、この場に居る人間は総て危険に。また、交渉材料として“撃たれる”可能性が高い事になる。
 しかし、だからと言って強攻策は取り辛い。10対3のこの状況では、総ての人間を守りつつ彼等全員を無力化するのは極めて難しい」

「そ…そうだね」

「という訳で、チョッと行ってきます」

「えっ? えっ?」

と、言うが速いか、困惑するテンカワ氏とファリス嬢を尻目に。
銃を向け『動くな!』と叫ぶ銀行強盗の恫喝も黙殺しつつ、トコトコと金庫の前のリーダーと思しき人物の下へ。
そして、そのまま徐に。まるで、道中で難儀しているお年寄りに声を掛けるかの様な調子で、

「だいぶ苦戦なさっている様ですね。微力ですがお手伝いしましょうか?」

サラ嬢はそんな事を宣まった。
そして、その1分43秒後、

「うおおお〜〜〜っ! やった〜〜金だ〜〜っ!!」

彼等が難渋していた難攻不落の砦は、あっさり陥落した。

「いや〜、イイ腕してるなアンタ。
 どうだ、俺達と組まね〜か? 一緒に、無敵の銀行強盗を目指そうぜ!」

肩をポンポン叩きながら、上機嫌でサラ嬢を勧誘するリーダーと思しき男。
その戯言に取り合う事無く、

「いえ、折角ですが遠慮しておきます。
 (コホン)さて、お約束通り、これで人質を無傷で解放してくれますね?」

「おう、金さえ頂ければもう用はね〜や」

かくて、サラ嬢の活躍によって(銀行の頭取の立場以外は)総て丸く収まりかけた。事実、普通ならこれで一件落着だったろう。
しかし、これはテンカワ氏が関わった事件。そうは問屋が卸す筈もなく、彼女が『それを聞いて安心しました』と言い終える前に、それは起った。

「お願いです、この子だけは!」

「うるせぇ! ギャアギャア泣きやがって、やかましい喧しいんだよ、このガキが!」

丸太の様な腕にイレズミをした男が赤子を抱えた母親に乱暴を。
見かねた隣に居た老紳士が止めようとするも、逆に『邪魔だ』とばかりに突き飛ばされる。

「困りましたね」

ボソリとそう呟くサラ嬢。
それを非難と受け取ったらしく、リーダーと思しき男がチョッとバツの悪そうな顔をしつつも、
『な…なんだよ。ナンか文句あんのか』と開き直る。
しかし、これは的外れな言動。彼女の言は全く別の意味だった。

「ああいう事をされると、普段は温厚なウチの相方達がキレる」

此処から先は、もう語るまでも無いだろう。
金を得た事で気が緩み、しかも、その注目がサラ嬢に集まっていた銀行強盗達10人。
一人頭5人。それも、隙だらけの名も無きモブキャラなど、怒りに燃える。
いわゆる、スイッチの入った状態のテンカワ氏とファリス嬢の敵ではなかった。
銃を構えるどころか反応する事すら許さぬ、一方的な。正に瞬殺だった。

そんなこんなで月日は流れ、本編である『まち○いだらけの一週間』も恙無く。
警察の台帳に『帝国の皇女殿下』『レジン国の男爵夫人』『ベルツ=レクサの騎士』『法学・理学博士』の横に『コック』の名が記載された事以外は、
ほぼ原作準拠の解決を迎えて数日が経過した頃、その人物はやってきた。

「やあ。久しぶりだね、ファリス」

本来の予定より5冊分程早く、フレイ=アルフォイ少佐登場。
そう。これは、本来ならあり得ない事なのだよ。

その経緯をチョッと確認してみた所、お嬢さん達が楽園の再建を宣言した日。
その決意表明式に出席する為、信頼する己の副官に総てを託して魔術師組合本部へ赴いた事を咎められ。
平たく言えば、航海中の平穏な時の一時とはいえ、自分の艦をほったらかしにして逐電したペナルティとして、とある商業漁船の護衛を仰せつかり、
その道程において、此処ローカイドに一時寄航したらしいのだが……………これは少々困った状況だ。

と言うのも、あれからまだ日が浅い事もあってか、少々、かの少佐らしからぬ言動が随所に。
再開の握手に始まり、ベッタリと。今もワザとらしく肩など組んで親密さをアピールしてみたり、
自己紹介の際に、“元“婚約者の元の部分を意図的に外して強調してみたりと、
普段は標準装備している、彼独特の人を食った様な余裕の態度が鳴りを潜めているのだよ。

総合的にみるに、どうやらかなり焦っている御様子。
ひょっとしたら、今回“だけ”は安牌のテンカワ氏をライバル視しているのかも。
更には、親愛からのものとはいえ、愛する人と自分以外のキスシーンを。
回収される事のないフラグとはいえ、恋愛イベントにおいて、彼女の師匠に先を越された事も、まだ根に持っているのかも知れない。
もっとも、そんな露骨なモーションですら意中の相手に全く通じていない辺り、思わず涙を誘われるものが………

「二バイ! 二バイ! ジンセイ二バイ!」

と、私が存在しない目元を拭っていた時、少佐の飼っているオウムが何時もの囀りを。

「こら、止めないかミカン!」

「艦長ハ女ギライ! 昼アンドン、ノ、ダンショクカ!」

   ス〜〜〜

その鳴き声が発せられるや否や、テンカワ氏がさりげなく。
完璧に気配を殺しつつ、その心だけでなく物理的にも少佐と距離を取った。

とは言え、これを偏見と非難するのは些か酷だろう。
そう。こういったケースにおいて、出生に秘密を抱えた曰く付きの者達に対し、主人公達が大した蟠り無く接する事が出来るのは、その人物との間に友誼が。
信頼が。最悪でも、予備知識があるからでしかない。
それが無い場合は。ブッツケ本番で、これまで会った事の無いタイプの人間の前に立つのは、矢張り怖いのだよ。
ましてや、実害を受ける可能性のあるケースともあれば尚更だろうね。

「あ…あの。大丈夫ですよ、アキトさん。フレイは男色家ですけど良い人ですから』

嗚呼、ファリス嬢。フォローするつもりで止めを刺して如何するのかね?
とゆ〜か、この期に及んで。少佐の事を、いまだに男色家だと思っているのかね?
相手が君でなければ、その真意を確認せずにはいられない所だよ。

とまあ、そんなこんなで日も暮れて、その日の夜。
お客様をお迎えした事もあって、お嬢さん達の懐事情からすれば精一杯の贅沢を。
岩ガニのグラタン。甲羅を器に使ったワイルドな外見でありながら、テンカワ氏の技量によって繊細かつ美味な一皿に仕上げられたそれに舌鼓を打った後、
頃合を見計らい、少佐は別方面からのアプローチを。

「サラ君、チョッと良いかね?」

自身の行動が空回りに終った原因を探るべく、お嬢さん中で最も理知的に見える(彼はファリス嬢以外とはあまり面識が無い)サラ嬢に客観的な意見を求めた。

「そのなんだ。テンカワ君とか言ったっけ。彼の事をドウ思うね?」

「それは、私見で宜しいですか?」

「勿論」

「では、僭越ながら。
 私にとっては、正に理想的な男性ですね。唯一欠点を上げるとすれば、予想よりも身持ちが固かった事でしょうか」

「身持ちが固い?」

「はい。実は先日、この熱い思いを打ち明けるべく、ひょっこりプロポーズなどしてみたのですが、アッサリ断わられてしまいました」

「ほほう………」

と、此処で少佐は長考に。
頭を振って。熱くなりがちな思考を冷ましつつ、沈思黙考を。
残念な事に、自分とサラ嬢との会話の間に横たわる、致命的なまでの擦違いには気付いていない様だね。

そう。実を言うと、幼少時のトラウマからか、サラ嬢の男性観は少々歪んでいるのだよ。
ちなみに、その理想の男性像はあとくされのないロクデナシ。
ある意味、普通の男性恐怖症よりもなお業が深いと言えよう。実に困ったものだね。

「ん? その帳面は?」

答えの出ない自問自答の果てに。
ふと目に止ったそれに興味を持ち、少佐は誰何の声を。
それを受け、『ああ、これですか』とばかりにポンと手渡す、サラ嬢。
その表紙には『ファリスとテンカワ殿の愛の軌跡観察日記、その13』と記されていた。

「……………こんなモノが、あと12冊もあるのかね?」

「はい。ちなみに、此方に1冊目から12冊目までの内容を簡潔に纏めたダイジェスト版が」

「(ハッハッハッ)いや、それは何とも好都合な。是非とも、それを読ませてくれないか?」

仮初の笑顔を浮かべつつ。
額に浮かぶ井型を必死に押し隠しながら、少佐はそれを手に取った。
そして、夜半までにその一部始終を読破し終えた後、一つの決意を固めるに至った。




「アキト君、キミに決闘を申し込む!」

「……………何故?」

「そんな事は、自分の胸にでも尋ねてみるんだな。
 (ビシュ)兎に角、勝負だアキト君。答えは聞いていない!」

翌朝、朝食の準備をしていたテンカワ氏に愛剣を突き付けながら。
普段のワザと崩したセオリー無視のトリッキーなそれではなく、基本通りのオーソドックスな構えを取りつつ啖呵を切る、アルフォイ少佐。
もはや“らしくない”通り越して、完全に自分を見失っている様だね。

さて、如何したものか?
仮に二人が戦ったところで、特に実害は無い言うか。少佐とテンカワ氏では勝負にならないので別に構わないのだが………
このまま、それが結果として出るのを見るのも面白くない気が。

ん? この波動は………そうか、オオサキ殿が再びやってくれたか。
丁度良い、このまま強制転移させる事にしよう。

    シュッ

良し。これで残す転移もあと5回だし、少佐の面目も潰れずに済んだ。善哉、善哉。
少々話を先取りし過ぎだったというか、既に告白してしまった様なものだが、大した影響は無いと思って間違いないだろう。
最終的には。どんな汚い手段を使ったのかは知らないが、本編でのエピローグを見る限りでは、無事にファリス嬢をゲット。
少なくとも、自分の故郷であるアジェンダ島に連れ帰る事に成功していた様だし。

とは言っても、それを非難する気は毛頭無いよ。
何せ、世界を滅ぼすとのウワサのある某伝説の剣を持つ彼の女性を嫁(?)にした代償は、決し軽いモノではなかっただろうからね。



さて。次の修復先は……………おやおや。困ったな、既に手遅れだった様だ。
とは言え、決してリカバー不能という程の失態ではない。
要は、些細な手違いからポッキリ折れてしまった、幼き日の某主人公の心を継ぎ直して、二度と曲がらぬ様、頑強に補強すれば済む事。
そして、そういう“熱血な展開”に関しては、テンカワ氏は少なからぬ適性がある故、きっと上手くやってくれる事だろう。

そんな訳で私は、とある路地裏にて声を殺してすすり泣く。
ひょんな事から本編より10年近くも早く己の出生の秘密を知ってしまい、
しかも、そんな父親の“お忍び”でのご乱行の数々を目撃してしまった所為で、己の夢を。
何度と無く思い描き憧れていた勇者像を、木っ端微塵に破壊され。
更には、そんなグウタラ親父の血を引く自分の将来にも絶望した、とある美少年の前に彼を転移させた。

それじゃ、後は宜しく頼んだよテンカワ氏。
未来ある幼き日の勇者を、本来あるべき正道へと導いてやってくれたまえ。

……………まあ、一部のお姉さま達には“ずっと、あのままだったら良かったのに”と嘆かれる事になったりもするだろうが、『ソレはソレ、コレはコレ』だよ。