〜 再び7月31日。ダークネス秘密基地、トライデント中隊専用ブリーフィングルーム 〜

サラ「まあ、こんなもんかね」
ジル「ノー・プロブレム」
白鳥沢「良かった。13日、14日、15日も休みになってる」
リック「ちぇ、『好きにしろ』だなんて手抜きも良いトコだぜ。まあ、これでチーム(社会復帰後、彼が所属する予定の航空ショー団体)の夏合宿に参加出来るから良しとするか」

申請していた休暇スケジュールが概ね通り、ホクホク顔な者。



マナ「やったわ! 特別任務よ、待ちに待ってた檜舞台よ! それも、成功の暁には臨時ボーナスまで出るみたいよ!」
ムサシ「ああ。やったな、マナ」
ケイタ「(ハア〜)何と言うか、もうおもいっきり裏がありそうな話だよね」
シンゴ「おまけに肝心の任務内容がねえ。俺に回ってきたヤツもそうだったが、戦略的価値ゼロだろコレ、ハッキリ言って」
ムサシ「って、今からそんな事を言うなよ。そんなの、やってみけりゃ判らないだろうが」
マナ「そうよ。まずは信じなきゃダメ。でないと、何も始まらないわ」

降って沸いた幸運に期待に胸を膨らませる者。既に達観している者。



ユキミ「フリーマン准将、グラシス中将、海神外務次官。しかも、東木連首相とラズボーン侯爵夫人の邸宅では数日に渡っての滞在予定。
    最後に、あのミスマル大佐の御父上であるミスマル中将の下へ………ううっ、胃が痛い」

夏休み中に挨拶回りに行く事になった訪問先の、あまりの豪華ラインナップを前に神経性胃炎に悩む者。



ヴィヴィ「(グスッ)良かった。事前に渡英を願い出ていて本当に良かった」
カズヒロ「泣くなよヴィヴィ。此処は笑顔で喜ぶ所だろう」
ヒカル「そうだな。どうせ泣くなら、向こうに着いてからにするべきだ」

某美貌の大貴族様の御招待と、某女流漫画家からのコスミケへのお誘い。
偶然にも二つの虎口を脱していた事を知って、涙ぐむ者。
その辺の事情を知るが故に、少年の幸運を祝福する者。



シロウ「良し! まずは第一段階はクリア。この休み中に、アレが実用化可能なものだと証明し得るデータを集めるぞ、キリコ!」
キリコ「ああ。総てはそれからだ」
キョウシロウ「(フッ)故人曰く、『天は自らを助くる者を助く』『努力なくして勝利無し』と言ったところか。頑張れよ、お二人さん」
シロウ「ああ、キョウシロウもな」

新たなスキルを身に付けるべく、休み中、それぞれの分野へと研修に行く事にした、向上心旺盛な者。



ダイ「うわあああっ! 何故だ! なんで俺達は再訓練なんだ〜! 再審議を要求する!」
シノブ「畜生、やってられね〜ぜ!」
マサト「とゆ〜か、なんで俺までこの二人と同じ扱いなの!?」

夢破れて、抗議の声を上げる者。



ブリーフィングルームに、そんな悲喜交々な歓声が木霊する。
そう。本日只今をもって、彼等が過ごす夏休みの行動予定表が、シュン提督の独断と偏見によって此処に決定されたのだ。
ちなみに、その内の何人かは、その場で大首領室へと向かったが、そこには誰も居なかった。
そして、その後、八方手を尽くしたものの、彼等の上司であるダークネス大首領の行方は、ようとして知れなかった。
それもその筈、その日の彼は、此処とは違う場所へ。2015年どころか2199年ですらない、全く別の世界を心ならずも表敬訪問中だった。
また、漸く取れた貴重な夏期休暇を、丸々そちらの世界で過ごす事になったりするのだが、これはまた別の御話である。
ともあれ、こうして彼等の夏休みが幕を開けた。



ケース@ 山本サラ三曹の夏休み

「(ハア〜)やっぱ、現実ってのは厳しいもんだね」

コーヒーとサンドイッチのセットを前に溜息を付く。
これまで溜めていた給料を軍資金に単身渡米。
とある士官学校近くの安宿に泊まり込み、学生達が利用する学校前の食堂にて物色を始めて早三日目。
だが、その成果は芳しく無かった。正直言って、目の前に居る指揮官の卵達は、卵のまま終りそうな者ばかりだった。
同じガキっぽさでも、ミスマル大佐のそれとは全く違う。
単なる内面の幼さの露呈であり、その言動には何の意外性も無い。
良くも悪くも常に此方の意表を突く、あの天才のみが持つオーラが感じられないのだ。
おまけに、兵士としての錬度に至っては正に最低だった。
部隊内では中の下程度の白兵戦能力しか持たない自分でも、サシなら5秒もあれば一捻りに出来るだろう。

アンタ等、ホントに軍人なのかい?
あまりのレベルの低さに、思わずそう言ってやりたくなる。
それによって激昂した連中が。たとえこの場に居る全員が襲い掛かって来たとしても、その時は逃げれば済む事だ。
あんなボンクラ共なんかに捕まる気はまるでしない。

期待外れ。
胸中でそう結論付け、今日にも此処を立ち、次の候補地に向かう決意を固める。
だが、運命の出会いは、そんな失望し諦めかけた時に訪れた。

「だ〜か〜ら、そんなの机上の空論だってば」

鼻で笑いつつ言下に切って捨て、周囲を煽って嘲笑を浴びせる。
だが、そんな仕打ちを受けながらも、相手の男は声を荒げる事無く自論を述べ続ける。
それがまた、周囲の嗜虐心を煽っているのだが、それに気付かずに………否、意にも介さずに。

さり気無く近くの席に移り、その話に耳を傾けてみる。
それは、周りの者達が机上の空論と決めつけるだけあって、一介の士官学校生の語るものでは無かった。
要約すれば現体制への痛烈な批判だったのだが、その内容が妙に具体的過ぎるのだ。
特に、軍部の腐敗を正す為のプランに至っては、明らかに『自分がトップだったら』という仮定のもとに、事細かに語られていた。

嘗てポナパルト大佐から受けた座学の一つ、近代戦略論に照らし合わせ、暫し胸中にて吟味してみる。
正直、確かに成功は難しい。システマチック過ぎて、冗長性がほとんど無い様に思う。
指揮官としての器も、まだまだ未熟。
ボナパルト大佐の様な、いかなる状況にも対応し得る老練さなど持ち様が無いし、
オオサキ提督の様に、チャランポランに見えても頼りになると言うか、『どんな状況に陥っても、必ず何とかしてくれる』と思わせるに足るカリスマの様なものも感じられない。
だが、その着眼点は素晴らしいし、何より、二人には無い若さがある。
今はまだ遠く及ばなくとも、より良い経験を積めば、その将来においては超える事さえも………

「あ…あの」

気付いた時には、もう彼に声を掛けていた所だった。
孤軍奮闘する、彼の味方をしたかったのだ。
だが、いまだ14歳の少女の言。それも、変装を兼ねてチョっぴり背伸びをした格好をしていた所為か、明らかに逆効果となってしまった。

「「「ギャハハハハハッ」」」

その場は、爆笑の渦に包まれた。
中には『浮いた話一つ聞かないと思ったら、お前、ロリコンだったのか』と露骨に野次る者までが。
だが、彼はその全て黙殺。
少し離れたテーブルまで自分を連れ出すと、それまでと同じ真摯な態度で。
だが、どこか嬉しそうに弾んだバリトンで、

「さて、御嬢さん。俺の名はシャピロ=キーツ。そこの士官学校の学生だ。
 講義を始める前に、俺が得た初めての理解者である貴女の御名前を聞かせて貰えないだろうか?」

「はい。私は………私はサラ。結城サラです」

一瞬、本名を名乗りそうになるも、どうにか立て直して、将来の名にて自己紹介を。
こうして、彼女のとって実質的には初恋が。夢の様な夏休みが幕を開けた。



ケースA 朝月キョウシロウ二曹の夏休み

「………………キェーィ!(バシッ)69997、チェストォ!(バシッ)69998」

今日も今日とて、木連の某所。剣技訓練用に設けられた森林公園にて、猿叫(この流派の独特の掛け声)が木霊する。

「………………キェーィ!(バシッ)69999、チェストォ!(バシッ)700000! ヨッシャア!」

だがその日の午後、唐突にそれは止み、代わって歓喜の声が響き渡った。
修行開始から早10日間。ついに彼は、課題であった7万本の立木打ち
(4間(約7.2m)離れた距離から走り掛かり、気合いと共に左右の袈裟を交互に打つ稽古法)を見事にやり遂げたのだ。
意識が遠退く。気が付けば、自分の身体は師によって抱き支えられていた。
どうやら、気が抜けた所為でブッ倒れ掛けていたらしい。

「不様を晒しおって、馬鹿者が。『常に残心を忘れるな』と教えただろう」

この10日間で、すっかり聞き慣れた師匠の叱責。
だが、今回ばかりはそれが、慈しみに満ちている気がした。
そう。確かに自分は、一つの壁を打ち破ったのだ。

事の起こりは10日前、申請が通り、木連式の武術を学ぶ機会を得たあの日………



   〜 10日前、剣術訓練用森林公園側にある詰所 〜

「オオサキ提督より話は聞いている。
 俺の名は月臣元一朗。これから貴様に地獄を見せる男だ」

「ハッ、宜しくお願いします!」

木連の制服に海○ジョー風の長髪。そして、サングラス越しでさえハッキリと判る鋭い眼光。
そんな独特の雰囲気を纏った己の師となる男を前に、事前に覚えておいた木連式の敬礼を。
だが、これは逆効果だったらしく、胡散臭げに一瞥される事に。
そして、そんな冷たい視線に動揺した朝月二曹の目の前に、一枚の書状が差し出された。

「それは、貴様の出向手続きに関して記してある契約書だ。
 コイツに署名した瞬間から、貴様は木連軍人の一人、朝月軍曹となる。
 つまり、その生殺与奪権は、俺に譲渡されるという訳だ」

なるほど。止めるならコレが最後のチャンス。故人曰く『人生の岐路』という訳か。
だが、是非も無い。此処で躊躇うようならば、そもそもこの様な無謀な事を企てたりはしない。
否、今日という日が来る事を一日千秋の思い出で待っていたのだから。
そう。とある機会から【グラップラー・シンジ 黎明編】(第四話参照)を見た日から、
彼は、木連武術の計算し尽くされた精緻さと、それに裏打ちされた圧倒的な強さに、ずっと憧れていたのだ。
叶う事なら、自分のその一端だけでも身に付けたい。そんな思いが高じて、今この瞬間というチャンスを掴んだ訳である。
当然ながら、勇んでサインする。

「うむ、確かに」

書類を確認し、それを丁寧に畳んで懐に収めると、月臣中佐は『着いて来い』とばかりに態度で促し、森林公園の中の一画へ。
予め用意してあったらしい、安物とおぼしき粗雑な作りの石灯籠の前へと、朝月二曹改め朝月軍曹を連れ出した。

「………かように、剣道三倍段と言ってな。剣術こそが武道の王道なのだ。
 無論、木連のそれは、地球に伝わる剣術。剣道などと言う儀礼に特化された御座敷剣法では無い。
 実戦に則して組み立てられた。組打は勿論、暗器の使用を前提としている技術すら伝わっているものだ。
 まあ、前者は兎も角。後者は余り俺の趣味では無いが、その存在は知っておくに若くは無いぞ。暗器使いと相対した時には有為の知識だ」

そのまま石灯籠を前に、木連流剣術に関するレクチャーを。
只、その内容は、要領を得ないとまではいかないものの、すぐにアチコチに話しの飛ぶ、お世辞にも判り易いとは言えないものだった。
月臣中佐自身も自分の説明下手には自覚があったらしく、最初の15分程で講義を切り上げると、実演による指導に変更。

「(コホン)一度しかやらんから良く見ておけよ」

咳払いなどしつつそう命じた後、唐突に持っていた日本刀を抜き放ち、肩で担ぐ様な格好に構えると、

「斬岩剣!」

気合一閃、目にも止らぬスピードで振り下ろし、石灯籠を真っ二つに叩き割った。
その硬度を感じさせない。まるで、斧で薪を割ったかの様な呆気なさだった。
もっとも、それはあくまで見た目から受けた印象のみの事。
左右に倒れた石灯篭の綺麗な切断面と、打ち下された剣から立ち上る一筋の煙とが、その破壊力の凄まじさを伝えていた。

「これぞ『二の太刀要らず』と歌われし、木連流剣術剛剣派が誇る技の粋よ」

暫しの残心の後、得意げにそう告げる月臣中佐。
だが、朝月軍曹には、それに応える余裕すらなかった。感動に打ち震えていたのだ。
これこそ正に、彼が欲しかったもの。百万言を費やしても得られぬ説得力を持った、強力かつ洗礼された美技だった。
この後、『どうだ。この技、学んでみるか?』との言葉に一も二も無く飛びつき、師匠の課した過酷な課題に取り組んだのは言うまでも無い事だろう。

そして今日、一つの試練を乗り越えたのだ。

「何を暢気に呆けている。
 此処まではまだ序の口。本当の地獄はこれからだぞ」

汗まみれの自分の身体を躊躇いも無く背負いながら告げれられた師匠の叱責に、回想シーンに浸っていた心が現世に帰り身が引き締まる。
と同時に、改めて確信する。矢張りこの人は、自分の求めていたホンモノだと。
そして、それ自体は決して間違いではなかったのだが………

「ぎゃああああ〜〜〜っ!」

その後、極度の疲労から抵抗力を失った身体で連れ込まれた近くの理髪店にて、そんな畏敬の念は木っ端微塵に砕け散った。
そう。先の厳しい罰則によって性根が叩き直され、生来の誠実さこそ取り戻したものの、只それだけの事。
ぶっちゃけて言えば、月臣中佐は、いまだ会心はしていなかった。
それ故、そこで待っていた修羅の門は、朝月軍曹が求めるものとは方向性がチト違うものだったのだ。



とまあ、そんな経緯を経て、例の契約書を盾にゴリ押しされ、武の道を志していた熱血少年は、何故か歌手としてデビューする事に。
しかも、木連で随一の人気を誇るトップアイドル、音無マリアとユニットを組む事が事後承諾にて決定された。
そして、その翌日には、

「合言葉〜は、アフロと軍曹。アフロ(アフロ)軍曹(軍曹)3・2・1・ファイアー!」

周囲で踊り狂う、カエルの小隊+SD夏○ちゃん&冬○君。
計七人組のバックダンスの支援を受けつつ、いきなりのオンステージ。
昨日の今日で頭に叩き込んだ歌詞をやけっぱちに。魂からのシャウトで歌い放つキョウシロウ。
もう、お判りだろう。当然ながら、今の彼のヘアスタイルは、見事なまでにアフロだった。

「(ポン)御疲れ様。初舞台とは思えない見事な出来だったんだね」

終了後、マリアに肩を叩かれつつ先程までの熱唱を絶賛されたが、勿論嬉しくなんてない。
零れた涙を乱雑に拭いて隠した後、意を決し、この10日ですっかり手に馴染んだ愛用の木刀を携え、控え室の裏手にある小さな空き地へ。
そこに生えていた大木を相手に、一心不乱に立木打ちを。

「キェーィ!(バシッ)チェストォ!(バシッ)」

そう。師匠の言った通り、確かに此処は地獄だった。
何しろ、つい昨日までは辛くて仕方が無かった稽古が、安らぎすら感じられる………否、いっそ心の支えとさえ言える程だった。

「キェーィ!(バシッ)チェストォ!(バシッ)」

こうして、彼の地獄の夏休みは、その幕を開けた。
頑張れ、負けるな、朝月軍曹。残り研修期間は、あと二十日。あと二十日もあるのだ。



ケースB 鈴置シンゴ二曹&ジリオラ=ワークマン士長の夏休み

「ベントラ、ベントラ、スペースピープル………ベントラ、ベントラ、スペースピープル………」

とある任務を帯びて向かった先で、見てはイケナイものを。
某高層ビルの屋上にて輪になってマイムマイムっぽい妖しい踊りを披露しつつ、某有名UFO召還呪文を唱えている妖し過ぎる集団を目撃してしまい、思わず絶句する。
正直、関わり合いになりたくない。
だが、後には引けない。より正確には、引く事が許されていない。
そんな自分の弱々な立場が泣けてくるが、そこはグッと堪えて我慢する。

「此方シンゴ。これより作戦名『エイリアン・アブダクション』を開始する」

今回組んだ任務の相棒。ワークマン士長に通信機越しにそう告げた後、機体の光学迷彩を解除して一気に彼等の居るビルの上空へ。

『ロサ・フェティダ、キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』
『ダークネス降臨!』『ユキミタンに拉致されてぇ………(;´Д`)ハァハァ』『なら、オレはハーリー君に………(;´Д`)ハァハァ』
『筋金入りキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』『キモチ、超ワカル。でも、もちつけオマエ等』

目標は何だか訳の判らない事を叫んでいる様だが、そんな戯言はさり気なく無視しつつ、お仕事を。
牛を攫うグ○イのUFOっぽく、AWA(使徒戦をライブで観賞する会)のメンバー達を牽引ビームにてSFっぽく拉致。
格納庫内へと御招待した所で、催眠ガスを噴出して安らかに眠って頂いた。

「此方シンゴ。目標の捕獲を完了。
 で、こいつ等どうする? いっそドクターのラボにでも放り込んでキャトル・ミューティレーションして貰おうか?」

『気持ちは判るが、落ち着けシンゴ。
 今、周辺地域の安全確保と第一発見者候補の選定を完了した。予定通り、此方へ。例のポイントへと運んでくれ』

「(ハア〜)了解」

冗談混じりな。混じっていない部分は100%本気の提案を却下され、つい溜息を一つ。
その後、シンゴは各種ステルス機能を再びONにし、ロサ・フェティダをマッハ2程のスピードでゆっくりとアメリカへ。
かの地の曰く付きの場所。所謂UFO出現ポイントへと向かわせた。

そこで、ワークマン士長の選んだ人畜無害そうなヤツに意図的に発見させた後、
驚愕する彼の目の前に、それっぽく中の連中を放り出せば任務完了である。
異国の地にパスポート無しで置き去りにする格好なので、これが一般人ならばかなり困った事になるのが、そこはそれ、相手はAWAのメンバー。
金と暇なら腐るほど持っている連中なので、これは寧ろ格好の娯楽とさえ言えよう。

もう、お判り頂けた事だろう。
彼等の任務は、売名行為も兼ねた、俗に言う所のファンサービスなのである。



   〜 数時間後、某ボクシング会場 〜

   カン! カン! カン!

『此処でレフリーが両手を交差して試合をストップ!
 やりましりた! 新チャンピオン誕生〜! その名はヤッター=ラ=ケルナグール!
 これで彼は、IBFに加えてWBAのベルトも奪取。ヘビー級統一王座への階梯を、また一段、力強く駆け上がりました!』

  パチ、パチ、パチ、パチ!

「いや、凄なあのオッサンは。ボクシングのルールで戦うんなら、ウチの大佐とだってタメを張れるかもしれん」

勝ち名乗りを受け誇らしげに高々と手をあげる新チャンピオンに、回りの観客達同様、心からの賞賛を込めた拍手を送りながら、思わず感嘆の声を洩らす、鈴置二曹。
任務終了後と同時に与えられた休暇を満喫すべく街をブラブラしていた折、ダフ屋の口上に乗せられ何となく入った会場だったが、これは一見の価値が。
立ち見で100ドルもしたが、値段に見合うだけのものがあった様だ。

三々五々会場を去ってゆく観客達に混じって歩きながら、試合の余韻に浸る。
悪くない。久しぶりに良い気分だ。
音痴の烙印を押されている所為でめっきり御無沙汰だったが、知らず鼻歌で得意(と本人は思っている)の浪花節が口から零れる。
だが、そんな鈴置二曹の上機嫌も長くは続かなかった。

「おや、ジル。どうしたんだよ、こんな所で会うなんて。
 お前さん、確かこの機に里帰りするんじゃなかったのか?………って、誰だよその子は?」

偶然に見かけた同僚に声を掛けると、彼女の後ろには何故か、見知らぬ7〜8歳くらいの少年の姿があった。
これが、あの悪夢の始まりだった。

「預かった。名はジークフリード=フォン=ブラウン」

「そりゃまた、由緒正しそうな御名前で。………って、そんな事より誰から? いや、それ以前に何故?」

「ガルーダと名乗る20代半ばとおぼしき年恰好の男に。
 理由は、断ろうとした時にはもう、この子を置いて姿を消していたからだ」

「いや、俺が言いたいのはそういう事じゃなくて。
 ほら。今んトコ、俺達は天下の御尋ね者だし。此処は、休暇で訪れただけの場所。
 とても幼子を預かるなんて事が出来る様な身の上じゃないだろう?
 『放って置けない』って気持は判らなくもないが、その子は警察にでも届けた方が良いって」

相変わらず端的なワークマン士長の返答に閉口しつつも、周りの目とジーク少年に配慮して、鈴置二曹は小声でそう説得を。
だが、彼女の方はそうしたTPOに拘らず、

「残念だがそれは出来ない。何故なら、ジークもまた追われる身の上だからだ」

「はい?」

予想外の言葉に、思わず呆けたリアクションを取る鈴置二曹。
そして、その間の抜けた返答を合図にしたかの様なタイミングで、

   ガガガガガッ
             チュイン、チュイン、

響き渡るトミーガン(トンプソンM1短機関銃)の銃声。
素早く左右に散開した後、その場を離脱しながら遮蔽物のあるポイントにて再結集を。
この辺の呼吸は、弛まぬ訓練によって身に染み付いている。
足手纏いを抱えているワークマン士長の動きにも澱みが無い。
女だてらに部隊随一の筋力を誇る彼女にしてみれば、20sにも満たないジークの体重など無いも同然だった。

「畜生! いきなり街中で撃ってくるかよ、普通!
 とゆ〜か、銃声がしたってのに、警察は何をやってるんだ!」

「多分、一般人が入ってこれない様に、この辺一帯の通行を封鎖しているのだと推測する」

「……………そのココロは?」

「此処、ニューヨーク市ブロンクス区の警察には、追手と同一組織の息が掛かっている」

「嗚呼、やっぱりソレかい!」

と、命懸けの掛け合い漫才を披露しつつ、彼等はジーク少年を庇いつつ連れだって逃亡を。
かくて鈴置二曹は、恙無くこの騒動に巻き込まれる事となった。

「くっそ〜、何が哀しくて休暇中までドンパチやらなきゃならないんだよ」

「兵士は何時か、どこかの戦場で野垂れ死ぬものだ。ノー・プロブレム」

「お前さんの勝手な持論に俺を巻き込まんでくれ。
 自慢じゃないが、俺は畳の上で。それも可愛い孫達に囲まれての大往生って決めてるんだ!」

「ふむ。どうやら見解の相違がある様だな」

ちなみに、この逃走劇は延々10日間に渡って続き、その途中で、ブロンクスの狼と呼ばれる金髪の少年がリーダーを勤める不良グループに匿って貰ったり、
ジークが狙われていた原因は、彼の下げていたペンダントに真田博士の残した研究レポートを記したマイクロチップが隠してあった所為だったという衝撃の事実が明らかになったり、
ガルーダのやった息子と他所様の少女を囮に使う様な真似をしたその所業に腹を立てたカンナという女性が、ボコボコにぶん殴った後、ジークの親権を彼から取り上げたり、
その手続きが済んだ途端、ナイスバディな妙齢の美女の姿だったその女性が、何故かジークと同世代位のツルペタ体型な少女の姿に若返ったり、
と言った、非常識に慣れた彼等ですら難渋した珍道中が続くのだが、これはまた別の御話である。



ケースC 紫堂ヒカル一曹&薬師寺カズヒロの夏休み

その日、三白眼の小柄な少年とマントを着たガッシリした体型の少年を従えた妙齢の美女が、
何時も通りの白衣姿で、とあるイベント会場の東館を闊歩していた。
だが、普段は自信に満ち満ちた美貌を称えたその顔は、今日は何故か曇りがちだった。

「(ハア〜)話には聞いていたけど、本当にゴミゴミした所なのね」

「いえ。俺達はアマノ中尉から渡されたチケットで、サークル参加と言う特別待遇にてコスミケが開催される前に入っています。
 今はまだ、一般参加者は入場していない時間帯ですので、これでも空いている方かと」

「やれやれ。本気で倫理体系の狂った場所なのね、此処って。
 まあ良いわ。それじゃ予定通り、カズヒロ君と私は、手分けしてアマノ嬢に頼まれた本の買出しに行くから、ヒカル君は担当ブースの設営をお願いね」

「「了解」」

自分の指示に従い、西館1階地区と東館4〜6地区の方へ。
各々の担当のブースへと向かって小走りに駆けて行く少年達の後ろ姿を見送りながら、イネスは再び溜息を吐く。
正直、気に入らなかった。
アマノ嬢の言いなりになるしかない自分の立場が。そして、そんな自分の我侭に、彼等を巻き込んでしまっているという事実が。

そう。イネスとて、好きで愛弟子達をアシとして貸し出している訳では無い。
本音を言えば嫌で仕方が無い事。この間の召集が、本業では無く、同人誌なる物の製作の為だと知った時には、久しぶりにマジギレした程だ。
だが、瀕死の状態だった薬師一曹が持ち帰った件の本の原本を読んだ事により、その情熱のベクトルは逆方向に向かわざるを得なかった。

『ときめき☆クッキング特別版』
既存の月刊誌では『規制に引っ掛る』とかいう愚かしい理由でボツになったネームを有効活用。
とあるエピソードを基に原作のアナザーストーリーとして再編集された物語を綴った、この素晴らしい本を世に出す為であれば、自分は鬼にも蛇にもなるだろう。
実際、作者である眼鏡の悪魔っ娘に魂を売った様なものだし。(泣)
そんな訳で今現在、その代償として、地獄の代名詞と呼ばれしコスミケ会場を流離うという苦役に就いている訳なのが………

「(一冊目ゲット)あら」

「(三冊目ゲット)まあ」

「(七冊目ゲット)な…なんて事なの!」

指定されたサークルから各々の本を購入して行くうちに、そうした負の感情は綺麗に消え去り、
心からの賞賛と、この素晴らしい作品達を手に入れられた喜びとがイネスの内面世界を満たしていった。
そう。天国への門戸は、この時、彼女の為に開かれていたのだ。



   〜 三時間後。西館1階地区、少女漫画系ブース 〜

「(パサッ)うん。地の文の使い方にやや難があるけど、心理描写は秀逸だったわ。80点っと」

「……………随分と嬉しそうですね、ドクター」

此処に来た直後とは似ても似つかない己の師の態度に、無表情ながらも戸惑いの色を浮かべる紫堂一曹。
だが、イネスはそんな事には頓着せず、

「ええ。私、同人誌という物を誤解していたみたいだわ。矢張り、食わず嫌いは駄目よね」

そう言いつつ、次の本に手を伸ばす。
売り子としてはあまり褒められた態度では無いが、それが紫堂一曹には有り難かった。
何故なら、彼女が此処に来た本来の目的たる『ときめき☆クッキング特別編』の布教が全くの空振りに。
販売開始から二時間を経過した今なお三冊しか売れていないという事実を前にしてもに、ドクターが臍を曲げずにいてくれるのだから。

ふと。彼女が読み終わった本の表紙を見て『なるほど。アマノ中尉の言っていた懐柔策の本命というのはコレだったのか』と納得する。
そう。実は彼女が購入してきた同人誌は、総てイネス本人への貢物。
先の大戦の内幕を赤裸々に描いた小説&漫画で、漆黒の戦神×フレサンジュ博士を扱った、少々主流からはズレたマイナージャンルの本なのだ。

「う〜ん。これはチョッとアキト君がヘタレ過ぎかなあ。
 何より、北斗君との戦闘パートまでにグニャグニャなのは頂けないわね。でも、日常パートは神展開だから………おまけして70点」

ちなみに、漏れ聞く本の評価を聞限りでは、彼女的には、カップリング指定にアキトの名前が先に来ている(基本的には、そちらが攻役)物がツボだったりする様だ。
無論、だからと言ってイネス×アキトが駄目な訳ではなく、一般的には英雄として知られている筈の漆黒の戦神の扱いが、何故か黄アキト以下だったりする、
偶然にも、結構真実に近い姿で描写された物とて かなり捨て難いものがあるらしいのだが………

「ねえ。さっきからチョッと気になってたんだけど、妙に私達の事を携帯カメラで撮影していく人が多いと思わない?」

と、気を散らした隙に、再び本を読み終わったイネスが、彼女に気付かれては拙い点に関わる疑問を。
全力で誤魔化しに掛かる。

「それは、ドクターが美人だからです」

「やあねえ、ヒカル君たら冗談ばっかり。そういうキャラじゃないでしょ、君は」

と言いつつも、彼女もまた女性。
見え透いたおべんちゃらとはいえ容姿を賞賛されて悪い気はしなかったらしく、イネスは上機嫌で再び読書に没頭し始めた。

そんな己の師の姿に、鉄面皮に守られ顔には欠片も出ていないものの、胸中では盛大に安堵の溜息を吐く、紫堂一曹。
そう。本がほとんど売れていないにも関わらず、やたらと写真に撮られる原因を、彼は薄々察していた。
おそらくは、東館の壁サークル『煌』で売られているアマノ先生の新作。
予定していたシンジ総受本が上手く纏らなくて、もう落ちる寸前まで煮詰まっていた頃、
突如、何か良くないモノが降りてきたらしくて、そのまま碌にシンキングタイムも挿まずに描き上げた、あの18禁創作系本の影響だろう。
その内容はと言えば、女性と見紛うばかりの美貌を誇る主人公アイネス博士(♂)が、
三白眼で感情の起伏が感じられない能面顔だったり、グルグル眼鏡で脆弱な体型だったりと、その容姿にコンプレックスを抱えた患者を治療して美少年に。
その上で治療費と称して……………嗚呼、これ以上は思い出したくない。(泣)
まあ、どうせ住む世界が違うことだし、気にしなければ済む問題………だと思う。

いずれにせよ、ドクターとアマノ中尉との間での決定的な破局をさける為。
男の身でBL系の本を買いに行かされたカズヒロや、件の腐った本の売り子をさせられている愛君といった犠牲者達の苦労に応える為にも、
これは絶対に隠し通さなければならない秘密なのだ。

「それにしても凄い所ね、コスミケって。
 明日も、より良い作品を探す為に個人的に来てみようかしら?
 一般参加とかいう入場法なら、こんな風に売り子をしなくても良いんだから、かなりの数を見て回れる筈………………」

「お止めになった方が良いですよ、ドクター。
 明日のコスミケは、某組織の面々の様な輩の巣窟となりますので」

「なんで? どうしてそんな事になるのよ?」

「コスミケが三日に渡って開かれるのは、売られる本のジャンルを、日付によって、ある程度の纏める為だからです」

嘘も方便とばかりに、誇張の入った情報を提示して牽制しつつ、翻意を促す紫堂一曹。
そう。今日の好結果は、あくまでもアマノ中尉によって演出されたものしかない。
間違っても、イネスにコスミケの実体を。漆黒の戦神物の主流派を見せてはいけないのだ。
特に明日の東館や新館は拙い。潔癖症の気があるドクターには、到底許容出来ないものがあるだろう。
ましてや、北斗×アキト物やルリ×アキト物といったカップリングの18禁本を見られた日には、それこそ太陽系の危機に直結しかねない。

「明日はコスミケ最終日。その手のいかがわしい本が主流となる日です。
 従って、ドクターが御求めになる様な本の入手は困難かと」

遠回しな様で露骨な説得を繰り返す。
そんな切実かつ孤独な彼の戦いは、その日の五時まで延々と続いた。



ケースD リチャード=ハーレイの夏休み

その日、Hawk T1A(ホーク)を手足の如く操りながら、リックは心地良い緊張感の中に居た。
眼下に広がるだだっ広い滑走路には、整備士達に混じって、これから同僚となるパイロット達が自分の飛行技術を値踏みするべく、此方に熱い視線を送っている。
実際には豆粒大なので判別不能だが、そうに決まっている。

だが、彼の意中の相手は唯一人だった。
奇しくも改名後の自分と同名な、30歳前後の高慢ちきな雰囲気を纏った男。
イギリスの某伯爵家の当主であり、このチームのオーナー様でもある、リチャード=フォン=レイストン。
コイツの度肝を抜いてやる為に、リックは到着そうそう操縦桿を握ったのだ。

(さ〜て。一丁、やりますか)

通信機からのゴーサインに、胸中でそう呟きつつ気合を入れ、課題である自由演技を開始する。
まずはバーティカル・クライム・ロールで高度を稼いでから、軽く宙返り飛行を。小さな旋回半径で、幾つもの円を描いてみせる。
続いて、バレルロール(横回転と機首上げを同時に行い、その名の通り樽の内側をなぞる様に螺旋を描く技)を決めた後、そのままストンと錐揉み急降下。
そして、激突寸前まで粘ってから急上昇。

この辺は、まあ基本だろう。
この手の見せ技は実戦ではあまり役立たないので、まだ左程練習はしていないのだが、それでも凡百のパイロットに負ける気はしない。
ついでに、悪戯心からぶっつけ本番のものも。
此処に来るまでの列車内にて暇潰しに読んだ雑誌に載っていた解説通り、機首を90度に持ち上げた状態で水平飛行&大減速。
その姿が鎌首をもたげた蛇っぽく見える事からコブラ飛行(プガチョフズ・コブラ)と名付けれた曲技も披露する。
これも、まあまあイメージ通りに出来た。
正直、『一体何の役に立つのか?』と理解に苦しむのだが、きっとこれは考えたら負けな事なのだろう。

最後に、現役時代の得意技を披露。
トップスピードに乗せた状態からの急降下による、スライダーの様な高速の縦滑りを。
その瞬間にもエンジンを吹かし続け、空気抵抗の受け方だけで減速と再加速を調節し、やや変則な木の葉落し決めた。
一見地味だが、見る者が見れば、極めて困難な高等技だと判る筈。そういう技だ。
実際、第五使徒戦においてラッキーパンチを喰らってリタイヤするまで、
リックは、この技を武器に猪武者のシノブを抑え戦闘機小隊のフォワード(この場合は、最も敵に近付き囮を勤める者の事)務めていたのだから。

「それで、得点の方は幾つ位ですか?」

かくて、リックは意気揚々とオーナにそう尋ねた。
手応えはバッチリ。演技を終えて機体から降りると同時に、もうすぐ同僚となる者達から、歓声と共にハイタッチ代わりにバシバシ叩かれる手荒い歓迎を受けた程だ。
流石、同じジェット機乗り。最早、言葉は要らない。
彼等とは、今すぐにでも上手くやっていけるだろう。

だが、コイツは違う。絶対にソリが合いそうにない。
何しろ、折角おやっさん(監督の事)が、自分の年齢に関するナイスなフォローを入れつつ、チームの皆に紹介してくれていた時、
いきなりフラっとやって来たと思ったら、人の顔を見るなり『十年早い』と言って門前払いにしようとしやがったのだ。
頭コチコチ。コイツに比べれば、嘗ての上司(?)である桃色髪のオーナの我侭の方が遥かに好感を持てる程だ。
もっとも、ソイツも過去形で語る事になるのだろうが。
コイツの目が節穴でもない限り、自分を手放す筈が………

「得点? 笑わせるな。評価にすら値せん」

前言撤回。コイツの目は節穴だ。

「つまり不合格。お帰りはアチラって事かい?」

「そうだ」

「……………OK。ごきげんよう、伯爵閣下」

そう言い捨てて、おやっさんや仲間になれたかもしれない者達の制止を振り切り、そのまま勢いだけで秘密基地へ帰還。
到着と同時に自室のベットに潜り込み、半日ばかり不貞寝を決め込んだ。
だが、生来の性格からか、そういうネガティブモードがどうにも肌に合わず、

「畜生! 絶対見返してやるぞ、あの似非紳士! もう、グウの音も出ない様にしてやるぜ!」

リックは、シュミレーターによる自主トレを。
これまでは、おかしな癖が付くのを恐れてやらなかった事。
今まで購入したその手の雑誌に乗っていたテールスライドやスパイラルダイブといった曲芸を、片っ端から練習し始めた。
良くも悪くも、彼は飛行機にだけは半端な事が出来ない男だった。

リチャード=フォン=レイストンとリチャード=ハーレイ。
後に、航空機王と天駆ける馬鹿と呼ばれるコンビの、これがファーストコンタクトだった。



ケースF セクハラトリオの夏休み

とある理由から再訓練組となった彼等は、あれ以来、懐かしの無人島型訓練施設『レッド・ノア』にて修行中。
今日も今日とて、

(さあ。今日もビシビシしごいてやるけんのう。元々ワシは、コッチの方が。ヒヨッコ共に試練を与えるんが本職。任しとかんかい)

「な…なあ、シノブ。教官殿ったら、またなんかヤバめな事を言ってるみたいだぜ」

「馬鹿! しっかりしろよ、マサト!
 アレは只のウサギだ! 教官だなんて認めたら、イロイロ終っちまうぞ、人として!」

「その通りだ! いくぜシノブ! 今日こそはアレを丸焼きに。自分が被捕食者だって事を思い知らせてやるぞ!」

「おう! やってやるぜ!」

といった感じに、今日も今日とて、某番組の効果で、一般的にも一躍有名人(?)となった東の達人『白カブト』を相手に、白兵戦の実地訓練を行なっていた。

ちなみに、この三人。サバイバル技能は、ほとんどゼロ。
(訓練生時代は『海水から真水を作る』『木を擦って火を起す』『釣り竿や筏を自作する』といった知恵と知識を持った紫堂一曹が居たので、それでも何とかなった)
環境には適応出来でも、肝心の生きてゆく為の糧を得る術が無かったりするのだが、そこはそれ救済策が。
コーチ料として白カブトに支払われたニンジン一年分(約1t)が納められたコンテナが島にあるので、彼の御情けによって、どうにか食い繋ぐ事だけは出来ていたりする。
そう。彼等は色んな意味で、限界へとチャレンジしていたのだ。




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