復讐の彼方へ

 

CHAPTER 9

「再会・3」

 

ドドンパQ

 

 

 地球をなんとか無事にくぐり抜けたナデシコは今月基地にいた。目的は燃料および物資の補給と偽装のために極力減らしていたパイロットの供給。月基地ではとりあえず一名が搭乗することになっていた。

 

 アキトは格納庫でヤマダジロウとともに賭け将棋をやっていた。アキトはパイロット、保安部、コックの三職をやっていたがコック以外の仕事はほとんど待機なので寝こそはしないが遊ぶ時間は結構あった。

「いいかげんにしろよ、ガイ」

 アキトはガイに言った。その視線は将棋盤よりも缶コーヒーの下に置いた三千円分の図書券に向かっている。

「いや、待て。もうちょっとだ、もうちょっと。いま逆転の必殺技が思いつきそうなんだ」

「いや、逆転といっても後一手でおまえの負けだぞ」

「ふふふ、しかし野球は九回から、ゲキガンガーは残り五分から盛り上がるだろ」

 ガイはかなり説得力のないことを言った。

「早くしろよー」

 アキトはハッチのほうを見た、新しいエステバリスが搬入されている。だが、そのエステは整備班が遠隔操作しているものではなく、パイロットが乗っているようだった。

(古いタイプの人間だな)

 アキトはその様子を見ながらそう思った、本当のプロは着任しないうちから相手に道具を預けない。だがそういう人間が減ってしまったというのもまた現状だ。

 アキトの考えは正しかったらしい。艦長達が集まりだしている、そしてあの男も。プロスはこちらの雰囲気に気づき、軽くこちらを向いた、アキトはそれに対して軽く手を振った。

「おい、その飛車動かしたらぶっ殺すぞ」

 アキトはドスの利いた声でガイに言った。

「なんのことだか」

 ガイはなんとかばれないように取り繕った。

 アキトは将棋盤に向きなおすと相手の手を待つために煙草に火をつけた。

 

 

 イツキ・カザマはコックピットの中で息を落ち着かせていた。いつでも無断をしてはならない、仕事の道具は愛着を持てなどあの男に教えてもらったさまざまな格言を彼女は実行していた。

(あの人は今どこにいるのだろうか?)

 イツキがこのナデシコに乗った理由は「あの人」のためだった。あの人はまだ火星で生きている。それが彼女の希望であり、確信であった。

 エステバリスを定位置に置く。艦長らしき人物がわざわざ迎えにきているようだ。この艦はかなり変わっていると聞いていたが本当のことらしい。

(悪いけど私の目的は火星だけなの、すべてはあの人のために)

 イツキはコックピットを開き、ワイヤーを伝って下に下りていった。

「本日ナデシコに着任となりました、イツキ・カザマです」

 イツキは敬礼をしながら言った。

 目の前の艦長もかたちだけの敬礼をした、どうやら本当に軽いらしい。民間とはこういうものなのかもしれない。

 

「じゃあ、いまパイロットの仲間に業務の説明をしてもらいましょう、おーい、アキトー、ちょっと来てー」

 艦長はこちらに背を向けながらタバコをふかしている男を呼んだ。

(アキト?でもあの説得力のある後ろ姿は……)

 イツキは思った、似ていると。

「自分はいま別の仕事中です、ヤマダにやらせてください」

 アキトはいらいらしていた。遅さとハイテンションさに。煙草の灰を缶に落とした。

「おい、ガイ。いいかげんにしろよ、仕事だ」

「いや、待て。もうすぐゲキガンフレアーが…」

「あきらめろ!」

 アキトはガイの腕をつかむと立ち上がった、そして後ろを振り向いた。

 タバコが口から落ちた、おそらく新しく配属されたパイロット、彼女をアキトは知っていた。

「イツキ…?」

 呟いた、あのころよりもだいぶ大人の女性になっている。

「アキト、アキトでしょう」

 そう言うとイツキはアキトに抱きついた。だが、あまりに勢いがついていたためにアキトは壁に直撃し、後頭部と首に衝撃が走った。

「グラボッテ!」

 アキトは口から泡をふいて倒れた。

「正義は勝つんだ」

 ガイは呟く、負けずにすんだのだ。

 

 

「くそー、ひどい目に会ったなあ」

 アキトは包帯がかなり生々しい首をさすりながら部屋に戻ってきた。記憶がこんがらがっている、あれは本当にイツキだったのだろうか。いや、だがもう疲れた。そう思ったアキトはベッドに倒れこんだ。

「痛い」

 アキトはなにかがベッドにいるのに気づいた。骨と骨がぶつかりあってかなり痛かった。体が反応しないということはアキトが心を許している人間、そんな人間など数えられるぐらいしかいない。

「なにすんのよ」

 そこにいたのはイツキだった。ベッドに寝ていたらしい。

「なにやってんだ、お前」

「いまさら、そんなこと聞く間柄じゃないでしょう」

「そりゃそうだが、なんでこの艦に乗ってるんだよ」

「あなたがまだ火星にいると思って…」

「どっからその情報仕入れた?」

「あなたが教えてくれたハッキング」

「やるなあ、ネルガルの最高機密をやっちまうとは」

 アキトはイツキを抱きしめた。

「いいか?」

「いいわよ」

 二人はベッドに倒れこんだ。

 彼らの出会いは4年前、火星ユートピアコロニー、セントラルパーク。モニュメントの下だった。

 

 

 作者の叫び

 なんか最近調子いいね!

 

 

 

代理人の感想

イツキ・・・・ユリカと同レベルだな、これじゃ(苦笑)。