漆黒の海に一筋の光が走った。それは流星なのだろうか?いや、

それは自らの体を太陽の光に反射させながら高速で動いている一機の機動兵器だった。


「うおおお!」


機動兵器のコックピットで叫ぶのは漆黒のパイロットスーツを着たテンカワ・アキトだ。




なんてスペックだ!ブラックサレナとは比べものにならない!




「!!、チッ!」




目の前に現れた巨大な隕石群をスラスターを最大まで吹かせ、

急激な旋回で避けると装備していたレールガンで正確に打ち落とした。




「ふう・・・・」



『お見事ですね。』



テンカワ・アキトが一息つくと同時に作業服を着た男がウィンドウに現れた。



「ああ・・・・、良い機体だな。これで、まだ実験機か・・・・」



乗っている機体を誉めると作業服の男が嬉しそうに答えた。



『ありがとうございます。なんせ我々の自信作ですから。

と言ってもまだまだ実験機としての意味合いがかなり強いですがね。

DFSやフェザー、バーストモードなどは付いていませんしね。

と言うのも、これ等はまだまだ完成には程遠いんですよ。

それでも、ここまでのスペックを出せるのは

相転移エンジンの小型化が大きいですな。』


「ネルガルもよく成功したな。」


「いえ・・・それについては、どうやらネルガルではないらしのです」


作業服の男の表情は困惑的だ。


「ネルガルではない?」


『ええ、どうやら上層部はクリムゾンとの技術交換によって、

小型相転移エンジンのノウハウを手に入れたようです。

敵対企業が何故でしょうね?』


クリムゾンの名前が作業服の男の口から発せられると


テンカワ・アキトのバイザーで隠している表情が険しくなった。


「そうか・・・・・・・、プロト・ブローディア、今から帰還する。」


『了解、帰還場所の指示はこちらから出します。だから、ジャンプはしないで下さいよ、唯でさえ非公式なんですから。』

作業服の男は、軽い口調でテンカワ・アキトに指示を出すと、ウィンドウを閉じた。






ブローディアか・・・・・・・一体、俺は何を守ればいいんだ・・・・・・・・













機動戦艦ナデシコ

〜夜叉と戦神〜








火星の後継者の反乱から、はや三ヶ月が過ぎようとしていた。

ナデシコメンバーも、そのままナデシコに残る者と、

自身の生活に戻っていった者と二通りだった。

そして、遺跡から救出されたミスマル・ユリカも順調に回復をしていた。




そんな中、ネルガル会長アカツキ・ナガレはあいも変わらず判子押しに明け暮れ。



「ハァ〜、判子押しも楽じゃないよね。これじゃあ、元大関スケコマシの名が泣いちゃうよ。」




そして、愚っていた。




「ハッハッハッハッ!、それが会長の役割というものですからな、はい。」



応接間のソファーに座って、番茶を啜っていたプロスペクターは笑いながら諭していた。



「じゃあ、プロスくん。変わりに判子押しをしないかい?」


「フム。そうですな、会長職を譲って頂けるのなら・・・・・・・・・









と、まあ、それはお茶目な冗談ですが。

会長は仕事を溜めすぎですな。

私のように計画性を持って仕事に取り組みませんと。

ほら、この様に。


プロスは冗談交じりに返事をし、懐から見せたのは分刻みでびっしりとスケジュールが書かれた手帳だった。



「へぇ〜、プロスくんも中々の野心家だね。

そう切り返すとは思わなかったよ。しっ、しかし、その手帳凄いね。」


アカツキはプロスの手帳を驚きの表情で眺めながら呟いた。



「はい、何事も計画性を持てば余裕は生まれるものです。」


「ズズ、ふう。ところで、プロスくん。統合軍の一部が連合宇宙軍と手を組んだのは本当かい?」


アカツキは、一口お茶を啜り一息吐くと、話題を切り替えた。



「その事ですか。ええ、確かに、事実です。

統合平和維持軍司令の高野中将がミスマル総司令に対して独自に会談を申し込んだようです。」



プロスも先程とはうって変わって表情を引き締めた。



「やっぱり噂は本当だったんだ。でも、いがみ合っていた二つの勢力が何故だい?」


「どうやら、あの反乱で大量に造反者をだしてしまった統合軍の各派閥内で、

唯一造反者を出さなかった平和維持軍が、勢力拡大に乗り出したようです。

ですが、酷いものですな、新地球連合とは名ばかりで

統合軍と連合宇宙軍はいがみ合い、統合軍内部では派閥争いですか。」


プロスの声にも呆れの色が、ありありとでていた。


「そんなものじゃないかな。軍の腐敗なんて昔から相変わらずだよ。

例え、木連の連中が入って新地球連合を名乗ってもね。

それで、会談の内容分かる?」


「はい、平和維持軍の優秀な逸材を艦長候補生として招き、ナデシコで訓練航行を行なうようです。

あれですな、お手々繋いで仲良しな所を世間の皆様にアピールしたいのですな。」


「ふう、ご大層な事だね。んっ?」


アカツキの目の前に『着信』の表示が出ているウィンドウが現れた。


「はいは〜い、僕だよ。やあ、エリナ君、久しぶり。テンカワくんとの生活はどう?」


『かっ、会長・・・・』


画面に映るエリナの顔は真っ赤に染まった。どうやら照れているようだ。


「で、どうしたんだい?」


『コホン。会長、社長派の連中が月で何か不穏な動きをしているようなのですが。』


咳きを一つ吐き、エリナは表情を引き締めた。


「ありゃ、最近、地球で見ないと思ってたらそんなトコにいたの。

プロスくん何か知ってる?」


「いえ・・・・、ウチのSSも企業間の情勢が激変した為に各地を飛び回ってますからな。

月や火星などは現在は手薄ですな。なんせ人手不足で・・・・・」


プロスはハンカチで額を拭いつつ、現在のSSの状況を説明した。


「そうだったね。先月、クリムゾン会長のロバート老が急死して、

今、クリムゾン・グループは、後継者争いで真っ二つに分かれているしね。」


「はい、それにクリムゾンは、先の火星の後継者の反乱に関わった事が公けになりまして。

ネルガルが巻き返すには持ってこいの状況でして。ハイ。」


「ハッハッハ、という訳で月や火星はスッカリ忘れてたみたい。」


『ハァ〜、ではどうしますか?』


こめかみを押さえつつエリナは、訊ねた。


「ん〜、どうしようかな・・・・・・・・・

確か、テンカワくんは月にいるよね?」


『ええ、実験機のテストを行なっています。

まだ後継者の残党が、だいぶ残っていますし。』


「だったら、ただ飯食らいのテンカワくんに動くよう言っておいて。

後継者の動いていない今、暇でしょ。ああ、それと、キミの判断で処理は任せるからって。」


『会長!、そんな言い方はないと思います!』


ウィンドウのエリナは、鬼の形相でアカツキに迫った。


「おや?、気に食わないようだね。」


『当たり前です!、返答によっては「返答によってはどうするんだい?」


アカツキは飄々とした雰囲気を一変させ、鋭さの増した目で睨みつけるとエリナの言葉を遮った。


「エリナくん、キミは何か勘違いしていないかい?

僕はボランティアで、テンカワくんを支援してるんじゃないよ。」


『ですが・・・・・・会長はアキトくんを。』


「確かに、テンカワくんの事は親友だと思っているよ。

だけどね、親友ってだけでユーチャリス、ブラックサレナってシロモノを与えたつもりはないよ。

ようは、ビジネスなんだよ。

此方にとっては多少、危ない橋を渡ってでも欲しい実戦データ。

あちらは、復讐する為の力。

これは、ギブアンドテイクなんだよ。

だから、もし、テンカワくんにこれ以上の利益が生まれないと言うなら・・・・・・』


アカツキの言葉と雰囲気で、会長室は一瞬にして緊張感に包まれた。

エリナとプロスは、会長室の緊張感に呑まれつつも同時に訊ねた。


「『・・・・・・生まれないなら?』」











「即座に切り捨てるよ。」




『・・・・・・・ふざけないで!

アキトくんは必死になって戦ってきたのよ!

それを利益がなくなったら切り捨てるだなんて・・・・・・』


エリナの目には、薄らと涙が溜まっていた。


「ハァ〜、エリナくん。キミは一体なに?」


『なっ、何って・・・・』


「テンカワくんの恋人?、それともネルガル月支部にいる宇宙開発部長?

もし、テンカワくんの恋人として言ってるのなら、幾らでも僕を非難するといいよ。

だけどね、それがネルガル宇宙開発部長としての発言だったら・・・・・・・

すぐさま辞表をだして、ネルガルから去ってくれない。」


アカツキの言葉に辺りは静まり返った。


ウィンドウのエリナの表情もまた凍り付いていた。







『・・・・・・・申し訳ありません。すぐ、アキトくんに伝えます。』



うつむいたエリナは小さな声で喋ると、すぐウィンドウを切った。


「ふう〜、嫌われたかな?」


「はい、そうでしょうな。」


「プロスくんも言うねぇ〜。」


アカツキの苦笑を聞くと、プロスはおもむろにソファーから立ち上がり一礼すると歩き出した。


「では、会長。私もナデシコBに乗り込む時間ですので。」


「そう、頼むね。」


会長室の扉を開けたプロスが立ち止まると、アカツキに背を向けたまま、口を開いた。


「・・・・・・会長」


「んっ?」


「先ほどのお言葉、会長らしくありませんな。

・・・・・・・・失礼します。」


プロスは、そのまま振り返らずに出て行った。










「僕らしく・・・・か。」


部屋を出て行くプロスの背中をジッと見詰めていたアカツキは、

小さく呟くと自分のデスクの引き出しから一枚の写真を取り出した。

それは初代ナデシコクルー全員を写した写真だった。

真ん中にホシノ・ルリを置き左右にテンカワ・アキト、ミスマル・ユリカ。

その周りにナデシコクルーが集まっている。

みんな、どこか楽しそうに、そして幸せそうな笑顔で写っていた。


「フフ、確かに、僕らしくないかもしれない・・・・・・

だけど・・・・・これが最後のチャンスなんだ。ネルガルを、もう一度、返り咲かせる為にはね。

その為に・・・僕は・・・僕は鬼にもなるよ・・・・・・」



アカツキは眺めていた写真を裏返しにすると、大切に引き出しにしまう。

それが決意の証であるように・・・・・・・







幾つもの超高層ビルが立ち並ぶ空間に、ひときわ大きくそびえ立ったクリムゾングループの本社ビル。

それは夕日に照らされ、クリムゾンの名に相応し程に紅く、まさに鮮血で染められたようだった。

そんな本社ビル内の一室、そこは周囲のビル群を見下ろす程の高さだった。

室内の広い空間にデスクが一つ置いてあり、そこには麗しい女性が座っており、その横には初老の男が控えていた。


「お久しぶりです、プロフェッサー。」


鮮血のような紅いスーツを身に纏った金髪の女性は、


サウンドオンリーのウィンドウに話しかけた。


『やあ〜、専務。お元気そうでなによりだよ。』


「そちらに送った三機はいかかです?」


『そうだね、あの三人が言うには良いみたいだよ。まだ、実戦はしてないけどね。』


「三人?、ああ、パイロットのバトルドール達の事ですか。」


『そうだよ。僕的には闘人形って呼んで欲しいけどね。

で、そんな話をしに連絡したんじゃないしょ?』


「ご理解が早くて助かります。実戦を兼ねて

連合宇宙軍と統合平和維持軍の首脳会談襲撃をお願いしたいのです。

火星の後継者の仕業として。」


『襲撃を?、そりゃあ今のクリムゾンの立場じゃ随分、過激なお願いなんじゃないの?』


プロフェッサーと呼ばれた男の声には苦笑の音が混じっていた。


「確かにそうでしょうね。ですが、連合宇宙軍と平和維持軍が繋がりを持ち始め、

更に、その平和維持軍が統合軍内部で実権を握ろうと動き出しています。

ですから、このまま見過ごせば、再びネルガルの台頭を許す事になるのです。」


『僕は経営者じゃないから、よくわかんないんだけど何故、ネルガルがでてくるの?』


「もし、連合宇宙軍と親密な関係の平和維持軍が、統合軍内部の実権を握った場合、

おのずと連合宇宙軍と太いパイプを持つネルガルの商品が統合軍内部に出回る事になります。」


『なるほど、それで会談を潰して欲しい訳だ。』


「ええ、ですが、この襲撃がクリムゾンの仕業と疑われるのは非常に不味いのです。」


『・・・・・まあ、当然だろうね。でもだからって、ワザワザ火星の後継者の仕業に見せる必要があるの?』


「両軍の司令と幹部連中の抹殺と、それに火星の後継者を滅ぼす大義を両軍が得る事は、

私の派閥にとって、一石二鳥なのです。だって火星の後継者は、ゴミ捨て場の目障りな粗大ゴミと変わりませんもの。

ですから、火星の後継者の仕業にして欲しいのです。」


『ふ〜ん。でも、僕はまだ一応火星の後継者のメンバーなんだけどなぁ。

だから、彼等を裏切るようなマネはしたくないなぁ。』


「フフフ、ご冗談を。プロフェッサーはそのような事、気にもしないでしょう?

では、データを後ほど転送いたしますので。」


『ハハハ、参ったなぁ、まあ良いけどね。

それと襲撃の件はOKだよ、面白そうだし。それじゃあ、御機嫌よう、アクア専務。』


「お願いしますよ、プロフェッサー・ヤマサキ。」



ウィンドウが消え、静かになった室内。

窓を見れば既に日は落ち、辺りは闇とビル群が放つ光に支配されていた。

スッと椅子から立ち上がったアクアは、窓際まで行くとジッと外を眺めていた。


「何をお考えですか?、お嬢様。」


「・・・爺、お姉さまの状況は?」


「はい?、ええっと、火星の後継者残党の補給支援を、本格的に開始したようです。」


問いかけに、問いかけで返され焦った爺は、額に浮かんだ汗をハンカチで拭いつつ答えた。


「そう、予想通りね。そろそろ始まるわ、お姉さまの道化芝居がね。

精々、幕が降りるまで、束の間のクリムゾン代表者気分を楽しんでいて。

お姉さまは会長の椅子を狙っているようだけど・・・・・・・残念ながら座れないわ。







だって、最後に座るのはこのわ・た・し、ウフフフ♪」


アクアは、野望に彩られた瞳で、窓の外を眺めながら楽しそうに笑った。



企業の経営者たちは、それぞれの転換期に自身の野望に身を委ねる。

それは、戦争とはまた違う、もう一つの戦い・・・・・・










後書き


どうも道雪です。夜叉と戦神の第六話をお送りします。


今回で十回目の投稿です。遂に私も二桁ですか・・・・・・

感慨深げです。


という訳で、今回から劇場版その後です。


クリムゾン、ネルガルと烈辰とアキトそれにヤマサキ博士(+3)が中心になっていきます。


ナデシコや軍関係者の方々は、また別のお話で語らせて下さい。


それでは最後に感想をくれる方、本当に有難う御座います。


もちろんご意見、ご批判もです。自分にとって、とても勉強になりますし。


これからもこれらを参考にして、より良い作品を創りたいと思っております


のでお気軽に一言、言っていただければこれ幸いです。


では・・・・・・・



【設定について】


これは『夜叉と戦神』内の設定なのですが「統合平和維持軍」についてです。


私の設定で「統合平和維持軍」は『統合軍』内部の派閥の一部になっています。


各派閥については前身の「地球連合軍」の各方面軍がそのまま派閥になっています。


これによって統合軍の正式名称は「地球連合統合軍」になっております。


ただ平和維持を抜かしただけな安直な名前ですが(苦笑)



管理人の感想

道雪さんからの投稿です。

ブローディアっすか?

しかも、DFSまで出してきて(苦笑)

ここまで強化されると、相手役を探すのが大変ですよ〜

やはり強化版烈辰の登場ですかね?(笑)

 

 

アクア、随分吹っ切れてますねぇ