機動戦艦ナデシコ異聞
「アクアフレームだけに流されて……」




ピッ ……ファイル『C−179』表示……

武装軍隊『木星蜥蜴』と呼称される存在による火星襲撃より半年が過ぎた地球。
木星方向より襲来した謎の軍隊の存在は地球連合軍と、その上層部に少なくない衝撃をもたらした。
火星地表に複数建設された居住区画『コロニー』よ呼ばれる地球でいうところの街に相当するそれらが、木星蜥蜴の襲撃によりほぼ全滅と言って良い被害を受けたと予想される。
火星守備部隊の宇宙艦隊と木星蜥蜴の宇宙艦隊との闘いは、火星守備艦隊を遙かに凌ぐ技術と武装を有する木星蜥蜴艦隊の一方的勝利で終わった。
唯一火星守備艦隊の旗艦に搭乗する艦隊司令官フクベ・ジン提督の執念とも言える果敢な攻撃により、木星と影の空母と思しき戦艦一隻を撃破し、残存艦隊をとりまとめて地球圏に帰還する。

ピッ ……ファイル『N−01』表示……

木星蜥蜴による火星襲撃以前に地球のネルガル本社に送られた新造戦艦のパーツの組立を開始。
完成まで約半年程度の期間が予想される。
同時に新造戦艦に配備及び今後の木星蜥蜴との戦闘における主兵器として期待される人型汎用機動兵器の実験データ収集を目的とした実験部隊が3部隊発足される。
重力下での運用を想定した『ランナー』。
無重力(0G)下での運用を想定した『アストロノーツ』。
水中での運用を想定した『スイマー』。
以上3部隊によるデータ収集を現在遂行中である。




「絶対に部隊名を考えた奴って、ボケてるよな」
実験中の人型汎用機動兵器のアサルトピットの中で一人呟く。
狭苦しいアサルトピットの内部は特別照明などは取り付けられてはいないが、スクリーンに映し出される映像が光源となって灯りを提供している。
「まあそうボヤくなって。部隊名が何であれ実験を繰り返すだけでお給料が貰えるってんなら、そう悪いもんじゃないだろ?」
通信機から聞こえてくる声が俺の声に反応して返してくる。
給料が貰えても、実験用の期待などいつ爆発するかも分からないというのに、呑気に構えていられるのはシャクに障る。
「なら代わってやろうか? 俺としてはそこでそうやって実験データを眺めてるだけで給料を貰えるお前さんの方がよっぽど悪くない生活をしてると思うぞ?」
嫌味をたっぷりと含めてそう言い返す。
「ならここで数字やアルファベットの羅列と格闘してみるか?」
「俺が悪かった」
勝てない口喧嘩に持ち込んだ俺が馬鹿だったってことだな…。

ピピピピッ

「ん? アクアスラスターの出力が落ちてるぞ?」
突然鳴り出した警告音を聞き、素早くモニターに機体の状況を表示させてチェックする。
口にした言葉道理にアクアスラスター…つまり、この俺の乗っている人型汎用機動兵器の推進器の出力が低下しており、母艦との距離を比較すると…迎えに来て貰わないと自力での帰還は難しそうだな。
「どうした? こっちの数字は特に変化してないが?」
「そっちはどうか知らないが、アクアスラスターの出力が落ちてる。海流に流されないようにするので精一杯で母艦まで自力で戻るのは無理みたいだ…迎えに来てくれ」
「………おかしいな、こっちの計測機器は異常を認めてないんだがな。もしかするとアクアフレームとリンクさせてる計測機器も異常があるのかもな…」
物騒な事を無線機の向こうで宣っている。
「おいおい、そんな無責任な事を言ってる場合かよ。 やっぱり無茶なんだよ…試作機としての稼働データさえまだ十分収集出来てないってのに、いきなり局地戦に対応した追加フレームの試作と同時テストなんて…」
「気持ちは分かるけどな、こっちは上から言われたことにはハイハイ頷いてるしか出来ない平技術者にテストパイロットなんだ、今さらだと思わないか?」
「わかってるけどな、こうして状況が悪くなる一方だと愚痴を垂れるくらいいいだろ」
そう…人型汎用機動兵器の試作機の稼働テスト、そしてその機体用の追加フレーム…局地戦に特化した運用を目的としたこれまでにない画期的なシステムの開発…と言えば聞こえは良いが、無理無茶無謀…の現場泣かせの本社命令。
こうして俺が海の中で試作機の運用テストをしている訳だが…。
「やばいな…」
「…どうした? 何か異常が増えたか?」
「異常というか…アクアスラスターの出力が下がったことで、海流に流されないようには出来ても深度が下がってやがる…現在の深度200…やばいな、機体自体の耐久力は問題ないが、アクアフレームの耐圧設計はまだ不完全なんだろ?」
そう、元々宇宙や重力下、はたまた水中での活動を視野に入れられているこの人型機動兵器の耐久力というのはかなりのモノを持っている。
しかし追加フレームに関しては、これから実験データを収集して完成度を高めていくのだ。
つまり簡単に言うと、それほど深い水深での実験をまだ想定していない段階の現状だと…水圧に関してはどこまで耐えられるか未知数なのだ。
「完成時の運用方法として深海での機動戦及び海底探査にも耐えられるように…とあるが、現状だと水深500…いや、下手したら400も持たないかも知れないな」
心配していたことが的中した。
「毎秒50センチメートルの沈降を確認…現在深度220だから……後6分で予想限界深度だ。母艦による機体の回収はどのくらいかかりそうだ?」
「およそ2分強と言ったところだ。甲板に引っ掛けて浮上して海上で収容しよう」
「了解。フレームが少し嫌な音をさせてるからな、早いところ頼むぜ」
そう…今こうして会話している最中に、アクアフレームがギシギシと軋む音がはっきりと振動と共に伝わってくる。
こうした事故は実験には付き物であり、またこれですでに3回目でもある。
「これが重力波エネルギー供給システムっていう使い勝手が良いのか悪いのか判断しにくいシステム様々だな…死人が出てないのは…」
「そうだな…この母艦に搭載された重力波発生装置の有効範囲が2キロ以内っていう実戦では到底お話にならないような代物でも、こういう事故の時には駆けつけるのには便利で助かる。貴重な実験機を失うという事態を回避出来る」
「おいおい、俺はどうなっても構わないってか?」
「テストパイロットは他にもいるからな」
端から聞いてると険悪そのものという会話だが、実際俺達はこの会話を楽しんでいたりする。
事故の最中にこうした会話でモチベーションが維持出来るというのは、俺達は貴重な人材かもしれないとか思ったり思わなかったりする。

ピピピピッ

「げっ!? アクアスラスター完全停止…沈降毎秒1メートルに加速…現在深度250。残り150秒で予想限界深度…やばいな……」
「水圧でアクアスラスターがやられたのかも知れないな…。接触まで後60秒…問題ない」
数字的な時間としては十分間に合うことで危機感が少し遠のいた。
それにしても…耐圧設計が不十分だというのは実験機だから仕方ないとしても、水中での活動を目的として開発された追加フレームの推進器の水圧強度があまりにも低すぎるというのは反則だろう。
「そもそも、水圧を軽減するのに不向きな人型ってのが…水中での、しかも深海での活動を視野にってのが無茶なんだ」
「確かにな、水圧を均等に拡散出来るデザインとはほど遠い形だからな。そもそも、木星蜥蜴ってのは宇宙と地上でしか活動してないんだ…この水中での運用なんてのは、これまでの深海探査船クラスの装備で十分だろう」
「実験機ということを差し引いても、3度目の事故…そして水中での最低限の活動は深度さえ気を付ければ現行の試作機でも可能だからな。深海に拘る必要性が無かったら、そろそろ上の方も見きりつけるんじゃないか?」
「可能性は大きいな。それに…結局は地上と宇宙がメインでの決戦場になるだろうからな。これ以上の実験ははっきり言えば予算の無駄でしかないな」
「はやく中止になってくれ…っと、お迎えが到着したみたいだ」

ゴウン…

機体が何かの上に降着した振動と音が伝わってくる。
「よし、甲板に引っ掛けた。浮上するから、バランスだけ気を付けて落ちないようにしろよ」
「了解…早いところ太陽を拝ませてくれ」

…こうして無事に事なきを得た訳だ。




「ハザマ・ナギ君…君に辞令が降りたよ」
「辞令…ですか?」
事故から数日経ったある日、俺は実験用母艦の艦長室に呼ばれていきなりこう言われた訳だが。
「そう辞令だ。『人型汎用機動兵器テストパイロット「ハザマ・ナギ」。○月○日○○○○時をもって試作機エステバリスと共に連合軍次期主力兵器選考トライアルに出向し、連合軍次期主力兵器の座を獲得すべし』とある」
「エステ…バリス? 実験機の名前が決まったんですか…」
「実験機ではない…試作機だよ。つまり、重力下での運用実験データの収集が上手くいったようでね、陸戦型を基本とした人型汎用機動兵器エステバリスとして試作機を完成させたのだよ」
「つまり…水中運用のデータは後回しですか?」
「……水中運用は現実的ではないという本社の決定が下ってね…本日付けで中止になった」
「なるほど…」
つまり…実験機のテストパイロットはもう必要ないって訳だ。
連合軍の次期主力兵器選考トライアル…俺一人って訳じゃないだろうけど、疲れそうだな…。
「辞令了解しました。 それでは…失礼します」
「うむ。トライアル…がんばってくれたまえ」
辞令を受け取り、型通りの挨拶をして艦長室を後にする。
これで海ともおさらばかと思うと、喜びで大きな声で叫びたくなる。
先のことは先のこととして、とりあえずは…街に戻って一息つくとしよう…。




ピッ ……ファイル『N−02』表示……

重力下での人型汎用機動兵器の運用データ収集は特に問題なく課程を修了。
無重力(0G)下での運用データに関しては、まだ微調整と幾つかの課程を残してはいるが順調。
水中での運用データの収集は、事故の多発と現実的な戦略価値を見当した結果、必要性が低いことから中止、アクアフレームに関しては実用性無しと判断され破棄となる。
以上のデータから重力下での運用を目的とした陸戦型を基本とした人型汎用機動兵器エステバリスの試作機を開発。
連合軍の次期主力兵器選考トライアルに参加を表明…

ピッ ……端末切断……システム…オフ……




おわり

−−あとがき−−

はじめまして、D_Write(ディライトと読みます)です。
思いつきでなんとなく書いたものですが…書いた本人もよく分かっていません(汗
話しもメチャクチャ短いです。
なにより…ナデシコの設定とか身近にちゃんとしたモノが無いのでかなり適当です(爆)
きっと非難ゴーゴーだと思いますが、投稿しちゃいました(汗
なんか続きそうな終わり型をしてますが、多分続きません(笑)
続きが気になる人、多分いないでしょうがいましたら応援メール下さい(爆)
それでは、また何か書きました時にお会いしましょう…。

 

 

代理人の感想

続き物にしないんですか〜?(笑)

勿体無いな〜。

面白そうなのにな〜。

結構逝けそうな設定だと思うんだけどな〜。(ん?)

 

 

 

・・・続き物にしないんですか〜?(笑)