時を紡ぐ者達 第４話後編
蘭が格納庫に向っている最中、遂に無人兵器がドックに侵入した。
「敵機がドック内に侵入しました。数６０」
この報告にユリカは驚き、新しい命令を発した。
「ナデシコ緊急発進！ 全発進行程を無視してください。
それと、副提督は急いで下さい」
「了解」
そう言い、蘭はコミュニケを切った。
「敵機の内訳はバッタ３４、ジョロ２６。敵の先頭集団との接触まで後４０秒」
ナデシコの発進には最低でも五分。
はっきり言って、大ピンチだ。
蘭はこの後、やっと格納庫に到着し用意されたエステバリスに乗りこもうとした。
緊張した雰囲気に包まれた艦橋に、ルリの発進準備の進捗状況を報告する声が響く。
「ドック注水率３０％。核パルスエンジン出力５０％。発進準備完了まで後４分」
「エステバリスの発進準備は？」
「後９０秒ほど必要だそうです」
つまり、約５０秒間、ナデシコは無防備なまま攻撃にさらされることとなる。
「敵機、ナデシコを攻撃範囲に納めました」
ズズーン！
報告終了直後、ナデシコに衝撃が走った。
「左舷ディストーションブレードに」
ルリそう言いかけた時、先のものとは比較にならない衝撃が艦橋に走った。
ズドーン！
「被害報告！」
「ブリッジブロックに被弾。損傷度Ｂ。
それと先ほどのディストーションブレードへの被弾でディストーションフィールドの出力が１０％低下すると予想されます。」
「負傷者は？」
「住居ブロックでしたが、誰もいなかったために負傷者は０です。
ディストーションブレードは無人区画なので同じく負傷者は０です」
「エステバリスの発進準備は？」
「カタパルトデッキに乗るそうです」
『如月蘭、でるぞ』
蘭はそう報告した後、通信を切った。
「まったく、面倒なことになったな」
一人コクピットでぼやきながら、発進しようとした。
だが、丁度この時、バッタが後部デッキに取り付いた。
「！！ 後部デッキにバッタ３機が取りつきました！！」
「え！！」
そして、発進するためにゲートが開かれた瞬間、バッタがミサイルを発射した。
標的は蘭の乗るエステバリス。
「！！」
蘭は、咄嗟にライフルでミサイルを叩き落そうとした。
しかし、射ち漏らしが数発艦内に侵入し、爆発した。
格納庫にいた整備員が多数、爆発に巻き込まれ吹き飛んだ。
艦内に衝撃が走る。
「被害は！？」
「格納庫内部に被弾！！ 死傷者多数」
ウインドウには、まさに火炎地獄とも言っていい光景が映っていた。
「ダメージコントロールを急いで下さい！ 副提督は？」
「ダメージを負いましたが、戦闘は可能だそうです」
『・・・こ・ら、格納庫、艦・聞こえる・？』
雑音が酷いものの、格納庫から報告が来た。
「こちら艦橋です。被害状況は？」
ユリカが心配そうに尋ねた。
『ミサイルの直撃で、エステバリス二機が大破。今も延焼中だ！！
おまけに、ここに収納しているエステ用の弾薬が誘爆する危険がある！！
何人か、人手をくれ！！』
「わかりました。何人かそちらに送りますから、それまでなんとかもたせてください」
『速めにしてくれ』
「わかっています」
ウリバタケからの報告は深刻なものだった。
格納庫への直撃により、エステバリス用の弾薬が誘爆すればナデシコは大ダメージを負うことになる。
しかし、状況は非情であった。
蘭の陸戦エステは先ほどの爆発の影響で調子が悪かった。
そのおかげで上手く戦うことができず、ナデシコへの敵の接近を許したのである。
ズドーン！
ナデシコに再び、衝撃が走る。
「被害は？」
「機関部に被弾。損傷度Ａ。相転移エンジン出力３５％に低下。グラビティーブラスト使用不能です」
「補助エンジンは？」
「核パルスエンジン出力６５％に低下。辛うじて発進可能なレベルです」
「発進準備は？」
「後、一分ほどで終了します」
しかし、それ以上の攻撃は無かった。
「敵無人兵器全滅しました」
『終わったぞ』
蘭から通信が入る。
「副提督、格納庫は今、ミサイルの直撃で炎上中なので着艦は不可能です」
『・・・では、機体を放棄することになるが良いのか？』
「構いません」
『了解した』
蘭は機体を放棄した後、ナデシコに乗りこんだ。
「艦長、ナデシコ発進準備終了しました」
「ナデシコ、発進！！」
ユリカが命令を下したが、いつまでたっても発進しなかった。
「どうしたの？」
ユリカはルリに尋ねた。
「・・・ドックのゲートが開きません！！」
「えーーー！！」
これには他のクルーも驚いた。
「どうして！？」
「どうやら、先ほどの戦闘でドックの中枢コンピュータが破壊され、機能不全に陥った模様です」
「大変です！ 敵の第二陣が侵入しようとしています！！」
メグミが、最悪の事態を告げる。
「もう一度出る」
蘭は急いで、外に乗り捨てたエステバリスに向った。
「復旧できる？」
「無理です。コンピュータその物が破壊されています」
報告は絶望的なものだった。
「・・・」
さすがのユリカも打つ手無しだった。
事態はさらなる悪化を続ける。
ドカーーーン！！
大音響と共に、ナデシコの照明が消える。
「何！ 何が起こったの！？」
「わかりません！ オモイカネ、オモイカネ！？」
ルリがオモイカネに呼びかけるが、応答は無かった。
そう、この爆発は格納庫で弾薬が誘爆し始めたことの証明だった。
この爆発で格納庫の要員はほぼ、全滅。
この大爆発は、ナデシコの電気系統をずたずたに破壊した。
全ての照明がおち、艦内は大混乱に陥った。
こうなると、実戦経験のない素人は弱い。
ひたすら右往左往するだけで、的確な対処が出来ない。
といっても、電気系統が破壊されてしまった以上、出来ることは多くないことも確かだった。
消火機構は機能しない、隔壁を降ろすことも出来なければ、艦橋からの指示も出来ない。
被害は拡大の一途を続ける。
この大爆発によって、ナデシコの船体に一部亀裂が発生し、そこから浸水が始まった。
水面下のブロックは次々に浸水していき、そこにいた要員は次々に飲みこまれる。
要員たちは悲鳴を、怒号を挙げ、自分の運命を呪いながら力尽きていった。
艦が傾斜をはじめた時、ついに多くのクルーが持ち場を離れ我先に脱出しようと、上を目指した。
助けを求める同僚を見捨て、押し退けていくと言う、まさに修羅場と言っても良い状況が繰り広げられていた。
だが停電し、方向を見失った状況で迅速に脱出する事は難しく、多くの人間が死んでいった。
機動戦艦ナデシコ、沈没。
乗組員８７名死亡。５４名重軽傷。
歴史の歯車が大きく狂い出した瞬間だった。
後書き
お久しぶり、earthです。
ナデシコいきなり沈没です。
主人公最強主義＆逆行物でナデシコ沈めてしまったのは不味いかな？
さて、初戦でいきなり撃沈されたナデシコ。
この事態をうけ、計画の大幅な修正を強いられるカイト。
歴史は序盤から大幅に変わっていくことでしょう。
ちなみにナデシコはいずれ復活させるつもりです。
それでは、この拙作を最後まで読んでくださってありがとうございました。
第５話でまたお会いしましょう。
代理人の感想
ほぉ・・・・（感嘆）。
これはこれは、中々期待させてくれますね。
しかし、格納庫全滅と言うことはウリピーもお亡くなりですか・・・合掌。