時を紡ぐ者達 第6話

「カイトさん、お久しぶりです」

火星基地から、来た香織が挨拶した。

「ああ、久しぶりだね香織ちゃん」

「あっ、如月さんじゃないですか。元気にやってました?」

「ま、まあな」

蘭は、やや顔を引きつらせながら答えた。

「それにしても、また如月さんと仕事が出来るなんて、光栄です」

「彼と一緒に仕事をしたことがあるのか?」

「はい」

少し、嬉しそうに言う香織。

「俺としては、喜ばしいことではないんだけどな」

こそりと呟く蘭だった。

「で、カイトさん。私達の機体は?」

「ああ、蘭と香織ちゃんの専用機はもう用意してある」

カイトは、秘密ドックに収容されているユーチャリスUの中に二人を案内した。

そして、二人が案内された先には、白銀の機体と紫色の機体があった。

「これが?」

「そう、君達の専用機。『ホワイトサレナ』と『フリージア』」

「メタトロンを改造した物か?」

「そうよ」

後ろから声がした。

一同が振り返ってみると、そこには麗香の姿があった。

「『ホワイトサレナ』は近距離戦専門、『フリージア』長距離戦専門の機体よ」

「で、俺が乗るのが『ホワイトサレナ』。香織が乗るのが『フリージア』ってわけか」

「よく分ったわね」

「俺が接近戦、香織が狙撃が得意なのを考えれば自明の理だ」

そう言って、蘭は自分の愛機となる機体を見上げる。

形状はブラックサレナUよりやや太めであった。

基本武装はDFSにハンドガン×2。それに小型グラビティーブラストが搭載されている。

搭載されているグラビティーブラストは、射程を犠牲にした分、破壊力を高めており拡散モードでも戦艦の

ディストーションフィールドを余裕で貫ける。また大気圏内での連射が可能になっている。

防御の要であるディストーションフィールドも追加搭載された改良型相転移エンジンを二機のおかげでナデシコCの約三倍の強度を

誇っていた。

対照的にフリージアは、ブラックサレナUよりやや細めだった。

基本武装はマイクロブラックホール砲、電磁レールガン、グラビティーキャノンという物だった。

マイクロブラックホール砲は、ナナフシを超小型化したもので連射も可能になった。

射程は、ナデシコAのグラビティーブラストの約三倍と言う物だった。

電磁レールガンは、統和機構特製の特殊砲弾『穿』をもちいることで、その貫通力はグラビティーブラストを凌ぐ。

ただし、弾数が少ないことが難点ではあった。

そして、グラビティーキャノンはナデシコAのグラビティーブラストの二倍の射程と、大気圏内でも1分間に5発発射可能と言う

高い速射性を誇っていた。

この機体も小型相転移エンジンを追加搭載しており、防御力を著しく高めていた。

「この二機にブラックサレナUがあれば、一個軍を上回る力になるわ」

「その上、ユーチャリスUか。・・・軍との折衝は?」

「連中、こちらの自由行動を認めたわ。まぁナデシコがあっさり沈んだせいかも知れないけど」

軍はナデシコを過小評価していた。『どうせ役にはたたん』と。

史実においてはナデシコの能力を目のあたりにしてその考えを改めたのだが、現史においては

ナデシコがあっさり沈んだ為に、軍はユーチャリスUも同じような評価しかしていなかった。

「でも、こちらの実力を目のあたりにしたら」

香織が危惧を漏らす。

「大丈夫。手は打ってあるわ」

ニコリと笑った。子供がその笑顔を見たら泣いてしまうような、獰猛な笑顔だった。

蘭、香織、そしてカイトさえ引いていた。

(((何かあったのか?)))

軍との折衝は真澄だけで行うはずだったのだが、本部からの全権委任を受け、真澄の仕事が増えたために

麗香も手伝うことになったのだ。

どうやら、その時なにかあったらしい。

だが、その内容が彼女の口から語られることはなかった。

「それと、ネルガルの事なんだけど」

「ネルガルが?」

「ナデシコ沈没の責任を取らされて、アカツキ・ナガレが会長を解任されたわ」

「本当か?」 

「ええ。エリナ・キンジョウ・ウォンも左遷され、ネルガルは社長派が実権を握ったみたい」

「・・・と言う事は、ネルガルとは手を結べなくなるな」

「そうなるわ。こちらとしては、社長派の排除と、ネルガルの買収工作を行うつもり。

 これは真澄も了承してる」

「そちらの方は、二人に任せる。

 それより、二人ともこの機体になれるのにどの位かかる?」

カイトは、蘭と香織の方を向き尋ねた。

「2,3週間くらいは必要になるな」

「私もその位の時間は必要です」

二人は少し考える素振りを見せた後に答えた。

「では、ユーチャリスUの発進は一ヶ月後としよう」

「「「了解」」」

こうして、各人は一ヶ月後の出航に向けて入念な準備を行うことになる。

 その頃、統和機構本部。

「・・・そうか。で、後任は?」

アトラスは保安部部長に尋ねた。

『後任は、長官の推薦通り、マリノフスキー委員が委員長に昇格しました』

「旧委員長派は?」

『猛反発しています。下手をするとクーデターの可能性もあります』

「君のことだ、手は打ってあるのだろう?」

『はい』

「分っているだろうが容赦は要らん。連中が抵抗した場合は殺害も許可する。

 何としても、あの機構の癌細胞どもを一掃しろ」

『承知しました』

そして、通信が切れる。

アトラスは室内にいる白いワンピースを着た女性に顔を向け尋ねた。

「・・・今回の件、あなたの仕業なのか?」

「何のことでしょう?」

微笑みながら問い返す女性。

アトラスは鋭い視線で彼女を見つめながら、断言するように言った。

「ナデシコ沈没の件だ。

 我々の監視をすり抜け、他の世界に介入することができるのはあなただけだ」

「あら、そう断言できますか?」

心外とばかりの表情で言う女性。

「できる」

この断言に女性は少し傷ついたような素振りを見せたが、アトラスの表情が変わらなかった。

「ふぅ。人を疑うのは良くありませんよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

黙ったまま睨み合う二人。

長い沈黙を破ったのは、女性の方だった。

「もし、私が干渉した犯人だとしましょう。あなたは、私をどうすると言うのですか?」

「・・・・・・」 

「抹殺は勿論、拘束も不可能なのはあなたも知っているでしょうに」

「・・・本当に、出来ないとでも思っているのか?」

「さあ、どうでしょう」

「・・・・・・」

「大体、私に危害を加える理由はありませんよ。

 今回の一件を使って、あなたは内部の敵対勢力を一掃に成功し機構内部での覇権を確立。

 そして『EOP』反対派を押さえることに成功したじゃありませんか。

 少なくとも、今回の一件はあなたにとって損ではなかったと思いますが?」

彼女の言った通り、アトラスはナデシコ沈没を予想できなかった委員会の政敵達を職務怠惰を言う理由で更迭した。

しかし、彼女の発言にはアトラスにとって看破しえないことが含まれていた。

「・・・『EOP』の事を知っているのか?」

アトラスは、やや狼狽した。

「『End・Of・Project』(エンド・オブ・プロジェクト)略して『EOP』。

 統和機構が10年前から推し進めているこの計画の技術は、私が供与した技術が多く使われています。

 おかげで貴方達があの『実験』を行った5年前、すぐに気付きました。

 あなた達が、何をしようとしているのかをね」

「・・・だから妨害するのか?」

「まさか、そんなことはしませんよ」

一旦そこで言葉を切った。そして、 

「ただ、覚えておいた方がいいですよ。

 所詮、人は神にはなれません。そして分を過ぎた力を持てば、己が身を滅ぼすことを」

「・・・・・・」

「それでは、ごきげんよう」

その女性は軽く会釈した後、光と共に消えていった。

「・・・確かに、この計画は神を冒涜するものかもしれないな」

ため息をつきながら呟くアトラス。

「だが中止することは出来ない。我々の宿願をかなえる為には」

そう言うと、アトラスは技術部部長に連絡を取った。

「部長。計画はどこまで進行している?」

『再構築システムの開発には成功しましたが、出力系統に問題が』

「出力系統に?」

『はい。これを解消できればほぼ完成します』

「・・・追加予算をだす。何としてでも解消しろ」

『分りました』

「それと、新型の演算装置は?」

『申し訳ございませんが、こちらはまだ完成にはまだまだ時間がかかります。

 何せ、データの量だけでも相当な物でして』

「・・・分った。そちらの追加予算もだす」

『本当ですか?』

「無論だ。

 ただし、ここまで予算、人材、そして時間を使うんだ。

 それなりの物を完成させろ。もし失敗作だったら相応の罰を受けてもらうぞ」

『はい』

「それでは、期待している」

アトラスはそう言うなり、通信を切る。

彼の計画は5%ほど当初の予定から遅れてはいた。

だが、それは些細なものでしかなかった。彼にとっては。

「・・・後は『実験』を行う世界の選定か」

悲劇の歯車が回り出す。

 

 

 

後書き

お久しぶり、earthです。

またまた駄文ですが、時を紡ぐ者達第6話をお送りしました。

アトラスが話しをしていた女性、分りましたか?

さて、『EOP』の正式名称『エンド・オブ・プロジェクト』。

この元ネタ分かる人いるかなぁ?

まぁ、同じなのは名前だけですが・・・。

もっとも、この話での『EOP』も元ネタでの『EOP』も

外道な計画であることは同じですが。

統和機構が推し進めているこの計画、下手をしたら山崎の実験より外道でしょう。

彼らはそれを自覚していますが、中止しません。

そんな彼らとカイトがどういう関係になっていくかは考え中です。

ちなみにただ今、BA−2さんの許可をもらって、逃亡者を登場させる『外伝』を構想中(笑)。

それではこの拙作を読んで下さってありがとうございました。

できたら感想送ってください。お願いします。

それと、感想を送ってくれた方々、そしてネタ使用を許可してくださったBA−2さん、ありがとうございました。

でもウイルスメールは送らないでください。(何通か来てた)

それでは、第7話でお会いしましょう。

 

 

代理人の感想

ウイルスメール……最近は日に十通近くくる事もあるんですよねぇ(溜息)。

 

それはさておき、アカツキ解任エリナ左遷ですか。

スキャパレリプロジェクトも中止かな、こりゃ。

 

この後どういう流れを辿るのか、実に興味深いですね〜。