時を紡ぐ者達 第8話

 蘭は瞬時に、飛針を取りだし放つ。

一瞬の内にはなたれる3本の飛針!

だが、北辰はそれを難なくかわす。

この動きから、飛び道具ではしとめられない、と考えた蘭は接近戦に切り換える。

彼は、腰に差していた打刀を抜く。

これを見て、北辰も錫杖をとりだす。

一瞬で、間合いを詰めると、錫杖を振りかぶった。

蘭は錫杖の流れをを打刀で受け止める。

しばし睨み合いが続く。

その後、両人は一旦離れた。

「やるな」

「そちらこそ」

二人の激闘は続く。

「はぁ!!」

「ふん!!」

室内に、打刀と錫杖がぶつかり合う音が鳴り響く。

無論、彼らは柔術をも駆使し、当れば一撃で致命傷になり得る技を繰り出す。

「やるではないか。まさかこれほどの猛者が地球に居るとは思わなかったぞ」

「そう言うあんたも中々やるじゃないか、北辰」

「・・・陰である我の名まで知っているとは。貴様、やはり只者でないな」

「知りたければ吐かせることだ」

「言ってくれる」

そして、再び両者が構えた瞬間、それは起きた。

バン!!

一発の銃声が鳴り響き、錫杖が砕ける。

「なに!」

「・・・・・・P1か」

蘭は誰の仕業かを瞬時に見抜く。

だが、千載一遇のチャンスであることは間違いなかった。

蘭は一気に間合いを詰め、突いた。

咄嗟に後に飛ぶ北辰。

しかしながら、蘭の突きから逃れることは出来ない。

「くっ!!」

「死ね!!」

避けきれない、そう確信した北辰はある行動をとった。

ブス!!

打刀が肉を突きぬける音がした。

打刀が突き刺さった先は、北辰の左腕であった。

「なっ!」

「ぐっ」

驚愕する蘭と、痛みに顔を歪める北辰。

北辰は腕を一本、犠牲にすることで直撃を防いだのだ。

北辰は蘭に対し、蹴りを繰り出す。

辛うじて、蘭はこれをかわすが、打刀を放してしまう。

北辰は、腕にささった打刀を投げ捨てた。

「くっ、やりよる。だが、次に会う時はこうはいかんぞ」

そう言って、北辰は姿を消した。

「俺はとしては二度と会いたくないな」

ぼやくように言う蘭。

「そうはいかないと思うけど」

どこからともなく現れたのは、香織だった。

「六連は?」

「すでに殲滅しました」

「そうか・・・」

しばし沈黙する蘭。

「奴をここで仕留めそこなったこと、後になって響くかもしれんな」

「・・・・・・」

「・・・状況は?」

「被害は軽傷3名のみ。G班とB班はすでに撤退しました。後は私達とP班だけです」

「爆薬の設置は?」

「すでに完了しています」

「分った。では、こちらも早く撤退するとしよう」

そう言って、蘭、香織、そして彼女の指揮するP班が撤収して数分後、この研究所は跡形もなく吹き飛んだ。

 数日後、アルビオン本社。

「二人ともご苦労さん。改めて礼を言うよ」

カイトは、会長室に報告に来た蘭と香織に頭を下げた。

「礼はいい。それより奴のことだ」

「北辰のことか・・・」

「そうだ。あの男は、危険過ぎる」

二人は黙り込んだ。

神出鬼没である北辰を捉えるのは至難の技であった。

それに加えあの戦闘能力。並の戦闘員ではまず歯が立たない。

「北辰対策は後日にしましょう。今は休息を取る方が重要です」

この香織の発言に、カイトと蘭は呆れたような顔をした。

「しかし」

だが、別のところから香織の援軍が現れた。

「私もそう思うわ」

麗香だった。

「疲れた頭でなに考えても良い考えなんて浮かばないわ。

 少なくとも、蘭と香織は休息を取るべきよ」

「・・・それもそうだな」

麗香の意見にカイトは頷き、3日程休養を取るように言った。

「それでは失礼します」

香織はさっさと会長室を後にした。

「良いのか?」

蘭はカイトに尋ねる。

「蘭も疲れているんだろう? 

 ユーチャリスU発進まで、後2週間はあるから大丈夫だ」

「それじゃあ、失礼する」

そう言って、蘭も会長室から退出した。その後、ポツリとカイトは呟いた。

「・・・北辰の登場か」

「史実より、大幅に早い登場ね。

 すでに歴史は修復が不能なまでに変動しているようだわ」

「この戦争、下手をすると史実より長く、厳しい戦いになるかもしれないな」

「・・・・・・」

「麗香ちゃん、現時点で和平が可能だと思うか?」

「まず不可能だわ。連合軍は今の負けっぱなしのまま終戦を迎えたくはないだろうし、

 過去の暗部をさらけ出すことになる。

 何より自分達の面子を重んじる連中が素直に和平を行うとは思えない」

「政治工作をしてもか?」 

「仮に政治工作に成功しても木連側が応じなければ、和平は流れるわ」

「木連の様子は?」 

「今のところ史実通りだけど、安心は出来ないわ」

「何かしら変動が起こると?」 

「絶対とは言えないけど、その可能性は小さくはないのよ」

「・・・もし彼らが和平を受け入れるとしたらどんな状況だと思う?」 

「まぁ、連中が戦争継続能力を失うか、和平派が実権を握るか、または」

「第三勢力が台頭するか、だな」

「その通り」

「・・・火星は第三勢力になり得るだろうか?」

「成り得ると思うわ。春日井さんからの報告では、火星の生産力は開戦前を上回っているようだし、

 科学技術も遺跡の技術を取りこむことで地球、木星両陣営より進んでいるそうよ」

「軍事力は?」 

「今のところ統和機構の部隊が主力だけど、後半年以内に火星独自の宇宙戦力を持てるって」

[チューリップは?」

「ダミー信号を使っているから、無人兵器の活動は停止状態。それに加え、独自にチューリップの機能を停止させる

 作業を行っているらしいわ。現時点では地球より火星の方が平和でしょうね」

「そうか」

その後、カイトは考え込んだ。

(俺にとってベストの状況は、第三勢力の台頭と、和平派が木連の実権を握ることが両立することだ。

 だが、後者は中々難しい。今回は熱血クーデターが起こるとは限らないし・・・)

第三勢力の台頭は、パワーバランスに大きな影響を与える。

上手く利用すれば、この変動は戦争終結をもたらす可能性がある。

何故なら火星が台頭すれば戦争に疲弊している両陣営は、その事態に対応する必要がある。

その時、木連が和平派によって支配されていれば、火星を仲介役にして和平が実現する可能性が出てくるのだ。

「木連の和平派と接触は可能だろうか?」

「まさか・・・」

「俺自ら木連に乗りこむつもりだ」

「危険過ぎない?」

「虎穴に入らずんば、虎子を得ずだ。

 和平交渉は無理でも、人脈を確保しておけば十分だ。

 だが、その為にはある程度の力を誇示しておく必要があるな」

「力の誇示に、ユーチャリスUを使うと?」

「・・・力なき正義は無力なんだ。

 和平派の人間と交渉するにしても、こちらがなにかしら大きな力を持っていることを認識させる必要がある」

「でもそれは危険を危険を伴うわ」 

「危険を恐れていては、何もできない。

 ハイリスクだが、見返りも大きい。試してみる価値はあると思う」

「準備は何時から始めるつもり?」

「春日井さんにも協力してもらって、遅くともユーチャリスUの発進予定日までには準備を開始したい」

「そう、ならこちらで連絡をとってみるわ」

「頼む」

麗香は、春日井と協議を行うために会長室を後にする。

「北辰、草壁、山崎。

 この三人は、戦後のためにも排除しておかなければならないな」

だがこの後、彼は自嘲するように呟いた。

「俺も、草壁の同類か。いやそれ以下かもしれんな。

 少なくとも奴は人類の未来の為に動いていた。

 それに比べ、俺は個人的な理由の為に世界を変えようとしている。

 ・・・俺は間違いなく、地獄に堕ちるだろうな」

その時、彼が顔に浮かべた笑みは、紛れもなく亡者のそれであった。

後書き

こんにちは、earthです。

時を紡ぐ者達第8話、どうでしたか?

格闘シーンはあまり得意ではないので深く突っ込まないで下さい。

今後の予定としては、台詞にあったとおり、地球で活躍した後、カイトに木連に潜入してもらい

木連の高官と接触してもらうつもりです。

さて、それで和平の展望が見えてくるのか、それとも番狂わせがあるのかは考え中です。

駄文ですが、最後までよんで下さってありがとうございました。

それでは第9話でお会いしましょう。

 

 

代理人の感想

ん〜、「史実より大幅に早い」と言いきるのはどうでしょう。

アキト達が知らないだけで、この時期から木連の人間が潜入していた可能性はあるわけですし、

していたとするならそれが北辰達である可能性も決して低くはないかと。